説明

反射防止フィルムの製造方法

【課題】低屈折率層に2回の熱履歴が加わることがなく、視感度反射率、ヘイズ値、カール性等の悪化を避けられる反射防止フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】透明基材フィルムの一方面に低屈折率層を設け、他方面に熱硬化機能層を設けた反射防止フィルムの製造方法において、透明基材フィルムの一方面に、電離放射線硬化型樹脂とアルコキシシランとを含有させ有機溶剤で希釈した低屈折率層用の塗布液を塗布する工程A−1と、この塗布膜を乾燥させる工程A−2と、この乾燥膜に電離放射線を照射して電離放射線硬化型樹脂のみを硬化させた半硬化膜を作成する工程A−3と、透明基材フィルムの他方面に熱硬化機能層用の塗布液を塗布する工程B−1と、この塗布膜と半硬化膜とを同時に加熱して、熱硬化機能層と低屈折率層とを同時に作成する工程B−2とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネル等に適用される反射防止フィルムに関し、さらに低屈折率層と熱硬化機能層を電離放射線照射工程と加熱工程で作成する反射防止フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶ディスプレイパネル(LDP)等の電子画像表示装置(電子ディスプレイ)は、テレビやモニター用途として著しい進歩を遂げ、広く普及している。これら電子画像表示装置は、大型化に伴い、外光の映り込みによる視認性の低下が問題となっている。また、プラズマディスプレイは発光にプラズマ放電を利用していることから、広い周波数領域にわたる電磁波が輻射されることが問題となっている。
【0003】
これらの問題を解決するために、プラズマディスプレイ用フィルターには、外光の映り込みを低減して視認性を向上させるために、反射防止機能を備えた反射防止フィルムや、プラズマディスプレイの発光体から発せられる電磁波や近赤外線を遮蔽するための電磁波遮蔽材や近赤外線遮蔽材が用いられている。プラズマディスプレイ用フィルターに用いられる上記機能材は、コストダウンの面から、最表面の反射防止フィルムにおいて、その基材の低屈折率層とは反対の裏面に電磁波遮蔽層や近赤外線遮蔽層を積層することにより、1枚のフィルムで、反射防止性能と電磁波遮蔽性能又は近赤外線遮蔽性能とを兼ね備えた機能性フィルムが提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
また、近年プラズマディスプレイは、プラズマディスプレイ全体の更なる薄型化、軽量化、生産性向上、コストダウン等を達成するため、光学フィルターに従来支持体として使用してきた強化ガラスを使用せず、各種機能フィルムを積層した積層フィルムを直接プラズマディスプレイに貼りつけるフィルムタイプの光学フィルターを用いたプラズマディスプレイが主流となってきている。フィルムタイプの光学フィルターにおいて、反射防止フィルムは最表面にくるため、高い耐擦傷性が要求される。そのため、従来の反射防止フィルムに用いられてきた電離放射線硬化型樹脂の電離放射線硬化に、アルコキシシランのゾルゲル反応を追加し、硬度、耐擦傷性に優れる反射防止フィルムの開発がなされている(例えば特許文献3参照)。
【0005】
このような反射防止フィルムは下記に示す方法で作成される。すなわち、透明基材フィルムの一方面に、低屈折率層用の塗布液を塗布し塗布膜Aを作成する(工程a−1)。次いで、工程a−1で作成した塗布膜Aに含まれる有機溶剤を乾燥させ、乾燥膜を作成する(工程a−2)。次いで、工程a−2で作成した乾燥膜に電離放射線を照射し、乾燥膜中に含まれる電離放射線硬化型樹脂を硬化させ半硬化膜を作成する(工程a−3)。次いで、工程a−3で作成した半硬化膜を120〜180℃で加熱し、半硬化膜に含まれるアルコキシシランを硬化して低屈折率層を作成する(工程a−4)。次に、透明基材フィルムの低屈折率層を作成した面とは反対の他方面に熱硬化機能層用の塗布液を塗布し、塗布膜Bを作成する(工程b−1)。最後に、工程b−1で作成した塗布膜Bを120〜180℃で加熱し、塗布膜Bを硬化して、熱硬化機能層を作成する(工程b−2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−84400号公報
【特許文献2】特開2009−51010号公報
【特許文献3】特開2003−26732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記方法で製造されていた反射防止フィルムは次のような問題を有していた。すなわち、上記の製造方法では電離放射線照射工程と加熱工程を経て低屈折率層を完全に作成した後に、その裏面に別途加熱工程を経て熱硬化機能層を作成している。このため、低屈折率層に2回の熱履歴が加わり、視感度反射率の悪化、ヘイズ値の悪化、カール性の悪化などが発生してしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、その目的とするところは、視感度反射率、ヘイズ値、及びカール性等の悪化を避けられる反射防止フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのための手段として、本発明は次の手段を採る。
(1)透明基材フィルムの一方面に、電離放射線硬化型樹脂とアルコキシシランとを含む組成物を硬化させてなる屈折率1.50以下の低屈折率層を設け、該低屈折率層が設けられた側とは反対の他方面に、熱硬化性樹脂を含む熱硬化機能層を設けた反射防止フィルムの製造方法において、次の工程
前記透明基材フィルムの一方面に、電離放射線硬化型樹脂とアルコキシシランとを含有させ有機溶剤で希釈した低屈折率層用の塗布液を塗布する工程(A−1)と、
前記工程(A−1)で作成した一方の塗布膜に含まれる前記有機溶剤を乾燥させる工程(A−2)と、
前記工程(A−2)で作成した乾燥膜に電離放射線を照射し、該乾燥膜中に含まれる電離放射線硬化型樹脂を硬化させ半硬化膜を作成する工程(A−3)と、
前記透明基材フィルムの他方面に熱硬化性樹脂を含む熱硬化機能層用の塗布液を塗布する工程(B−1)と、
前記工程(B−1)で作成した他方の塗布膜と前記半硬化膜とを同時に加熱して、前記他方の塗布膜と前記半硬化膜に含まれるアルコキシシランとを硬化し、前記熱硬化機能層と前記低屈折率層とを同時に作成する工程(B−2)と、
からなることを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
(2)前記熱硬化機能層が、電磁波遮蔽層または近赤外線遮蔽層であることを特徴とする、(1)に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工程Aにおいて低屈折率層を完全に形成することなく電離放射線の照射のみによって半硬化膜状態としておいた後、工程Bにおいて塗布膜Bと同時に半硬化膜も熱硬化している。すなわち、加熱工程が1つ少なく、低屈折率層に2回の熱履歴が加わることがない。これにより、視感度反射率、ヘイズ値、及びカール性等の悪化を防止しつつ、物理的強度に優れた反射防止フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。先ず、反射防止フィルムについて説明する。反射防止フィルムは、テレビやモニター等の電子画像表示装置(電子ディスプレイ)におけるプラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶ディスプレイパネル(LDP)に適用されるものであって、透明基材フィルムと、該透明基材フィルムの一方面に形成された低屈折率層と、透明基材フィルムの他方面に形成された熱硬化機能層とから成る。
【0012】
<透明基材フィルム>
反射防止フィルムに用いられる透明基材フィルムは、透明性を有している限り特に制限されない。そのような透明基材フィルムを形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルフォンなどである。これらのうち、ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが成形の容易性及び、コストの点で好ましい。
【0013】
透明基材フィルムの厚みは、好ましくは25〜400μm、さらに好ましくは50〜200μmである。透明基材フィルムの厚みが25μmより薄い場合や400μmより厚い場合には、反射防止フィルムの製造時及び使用時における取り扱い性が低下して好ましくない。なお、透明基材フィルムには、各種の添加剤が含有されていてもよい。そのような添加剤として例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、難燃剤などである。
【0014】
<低屈折率層>
低屈折率層は、ディスプレイの画像表示に影響を与える蛍光灯などの外光の反射や映り込みを防止する層である。低屈折率層の屈折率は少なくとも1.50以下であり、好ましくは1.20〜1.50、より好ましくは1.25〜1.45である。屈折率が1.50を超える場合には、低屈折率層が十分な反射防止性能を発現することができなくなる。低屈屈折率層は、電離放射線硬化型樹脂と、アルコキシシランと、重合開始剤とを含む。
【0015】
電離放射線硬化型樹脂は、電離放射線を照射することにより硬化反応を生じる樹脂であれば、その種類は特に制限されない。そのような樹脂として、例えば単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、重合性二重結合を持つ含フッ素有機化合物の単体若しくは混合物、又は重合体などである。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの双方を含む総称を意味する。電離放射線硬化に用いる電離放射線は、紫外線又は電子線である。
【0016】
アルコキシシランは、熱により硬化反応を生じるものであればその種類は特に制限されない。そのようなアルコキシシランとして、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシランなどである。
【0017】
重合開始剤は、電離放射線による重合開始能を有するものであれば、その種類は限定されない。そのような開始剤として、例えばアセトフェノン系重合開始剤、ベンゾイン系重合開始剤、ベンゾフェノン系重合開始剤、チオキサントン系重合開始剤などである。
【0018】
低屈折率層の組成物である電離放射線硬化型樹脂とアルコキシシランの組成比は、電離放射線樹脂100質量部に対して、アルコキシシランが25〜400質量部とすることが好ましい。アルコキシシランの割合が400質量部を超える場合には、下記で述べる半硬化膜の形成が不十分でありフィルムを巻き取れなくなる。25質量部未満の場合には、ゾルゲル反応による物理的強度の向上が期待できない。低屈折率層は、電離放射線硬化型樹脂とアルコキシシランとを含有させ有機溶剤で希釈した塗布液を透明基材フィルムの一方の面に塗布し、乾燥と硬化を経て作成される。低屈折率層用の塗布液には、さらに平均粒子径が10〜100nmの中空シリカ微粒子を含有させても良い。重合開始剤の含有量は、電離放射線樹脂の固形分に対し、0.1〜20質量%とすることが好ましい。重合開始剤の含有量が0.1質量%未満の場合には電離放射線硬化型樹脂の重合硬化が不十分となり、20質量%を越える場合には重合硬化後の皮膜の屈折率が上昇する。
【0019】
低屈折率層用の塗布液に用いる有機溶剤は、上記電離放射線樹脂や上記アルコキシシランと反応せず、かつ、加熱等により容易に蒸散させることができるものであれば特に制限されない。そのような有機溶剤として、例えばメタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類や、ケトン類、芳香族炭化水素類、アミド類、エステル類、エーテル類などである。これらの有機溶剤は、必要に応じて2種類以上を併用しても良い。
【0020】
<熱硬化機能層>
熱硬化機能層は、プラズマディスプレイの発光体から発せられる電磁波又は近赤外線を遮蔽する層である。したがって、本発明の反射防止フィルムにおいて、熱硬化機能層とは、電磁波遮蔽層又は近赤外線遮蔽層である。熱硬化機能層は、熱硬化機能層用の塗布液を透明基材フィルムの他方面(半硬化膜が設けられた面とは反対側の面)に塗布し、これを硬化して作成される。
【0021】
電磁波遮蔽層は、プラズマディスプレイから出る電磁波を遮断する機能を有するものである。電磁波遮蔽層は、熱硬化性のバインダー樹脂に金属粒子と分散剤とを含有させ有機溶剤で希釈した塗布液を塗布し、これを硬化して作成される。ここでのバインダー樹脂は、透明性を有していれば特に限定されない。そのようなバインダー樹脂として、例えばアクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アセタール樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、酢酸ビニルエマルジョン、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ニトロセルロース樹脂、天然樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂及びそれらの共重合樹脂などである。
【0022】
電磁波を遮蔽するための金属粒子は、導電性を有するものであれば特に限定されない。そのような金属微粒子として、例えばニッケル、銅、金、銀、アルミニウム、クロム、プラチナ、パラジウム、タングステン、モリブデン、及びこれら2種以上の合金、あるいはこれら金属の化合物などである。
【0023】
分散剤は、金属粒子の良好な助分散性、二次凝集の防止性能を有するものであれば特に限定されない。そのような分散剤として、例えばヒドロキシプロピルセルロース等の繊維素系高分子、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子などである。
【0024】
近赤外線遮蔽層は、プラズマディスプレイから出る近赤外線を遮蔽する機能を有するものであれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。近赤外線遮蔽層は、熱硬化性のバインダー樹脂に近赤外線遮蔽剤を含有させて有機溶剤で希釈した塗布液を塗布し、これを硬化して作成される。ここでのバインダー樹脂も、透明性を有していれば特に限定されない。そのようなバインダー樹脂として、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などであり、近赤外線吸収剤の分散性、透明性、耐久性の観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0025】
近赤外線遮蔽剤は、近赤外領域に吸収を有する色素であるならば、特に限定されない。そのような色素として、例えばポリメチン系、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、ジチオール金属錯塩系、ナフトキノン系、アントロキノン系、トリフェニルメタン系、アミニウム系、ジインモニウム系などである。これらの近赤外線遮蔽剤は、必要に応じて2種以上を併用しても良い。
【0026】
<製造方法>
次に、製造方法について説明する。本発明の反射防止フィルムの製造方法は、以下の工程順に沿って製造される。
工程A−1:透明基材フィルムの一方面に低屈折率層用の塗布液を塗布し、塗布膜Aを作成する。なお、塗布膜Aが本発明の「一方の塗布膜」に相当する。
工程A−2:工程A−1で作成した塗布膜Aに含まれる有機溶剤を乾燥させ、乾燥膜を作成する。
工程A−3:工程A−2で作成した乾燥膜に電離放射線を照射し、乾燥膜中に含まれる電離放射線硬化型樹脂を硬化させ半硬化膜を作成する。なお、工程A中には加熱工程はない。半硬化膜とは、電離放射線硬化型樹脂は硬化しているが、加熱していないためアルコキシシランが硬化していない膜状態を意味する。
工程B−1:透明基材フィルムの他方面に熱硬化機能層用の塗布液を塗布し、塗布膜Bを作成する。なお、塗布膜Bが本発明の「他方の塗布膜」に相当する。
工程B−2:工程B−1で作成した塗布膜Bをと半硬化膜とを同時に加熱し、塗布膜Bと共に半硬化膜に含まれるアルコキシシランを硬化して、熱硬化機能層と低屈折率層とを同時に作成する。
【0027】
工程A−1及び工程B−1において、低屈折率層用の塗布液を塗布する方法は特に制限されない。そのような塗布方法として、例えばリバースロールコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、リバースコート、グラビアコートなどの塗布法を用いることができる。工程A−3において電離放射線に紫外線を用いる場合、紫外線照射装置により窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて、紫外線を出力10〜400mJ/cmで照射することができる。電離放射線に電子線を用いる場合、電子線の加速電圧は50〜250kVで照射することができる。
【0028】
工程B−2において、塗布膜Bの硬化と半硬化膜に含まれるアルコキシシランの硬化に必要な熱は特に制限されない。このような熱として、例えばスチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターあるいは遠赤外線ヒーターなどを用いて加温された空気、不活性ガスを塗膜に吹きあてることにより与えられる熱などである。半硬化膜に含まれるアルコキシシランの硬化に必要な熱硬化温度は、透明基材フィルムの変形温度以下であり、通常、20℃〜300℃程度である。
【0029】
さらに、工程B―2において電磁波遮蔽層を作成する場合は、その加熱温度は60℃〜200℃とすることが好ましい。60℃に満たない場合、工程B―1で作成した塗布膜Bに含まれる分散剤が十分に焼成されず、金属粒子の融着が起こり難くなる。また、工程B―2において近赤外線遮蔽層を作成する場合も、その加熱温度は60℃〜200℃とすることが好ましい。60℃に満たない場合、工程B―1で作成される塗布膜Bに含まれる有機溶媒が十分に蒸発せず、色素劣化の原因となる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。以下の試験では、各実施例や比較例の光学的特性(視感度反射率及びヘイズ値)や物理的特性(耐擦傷性及びカール性)を測定し評価した。各項目の測定方法は、次の通りである。
【0031】
(I)光学的特性
(I−1)視感度反射率
測定面の裏面反射を除くため、裏面をサンドペーパーで粗し、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計〔日本分光(株)製、商品名:U−best560〕により、光の波長380〜780nmの5°、−5°正反射スペクトルを測定した。得られる380〜780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JIS Z8701で規定されているXYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値Yを視感度反射率とした。
【0032】
(I−2)ヘイズ値
ヘイズメーター〔日本電色工業(株)製、NDH2000〕を使用し、光学特性としてのヘイズ値(%)を測定した。
【0033】
(II)物理的特性
(II−1)耐擦傷性の評価
(株)本光製作所製の消しゴム摩耗試験機の先端に、#0000のスチールウールを固定し、2.5N(250gf)の荷重及び1N(100gf)の荷重をかけて、低屈折率層表面上を10回往復摩擦した後の表面の傷を目視で観察し、以下のA〜Eの6段階で評価した。
A:傷なし、A’:傷1〜3本、B:傷4〜10本、C:傷11〜20本、D:傷21〜30本、E:傷31本以上
【0034】
(II−2)カール性
10cm×10cmのサイズにサンプルを作成し、サンプルを水平面に置いた際の4隅のカール高さを測定し、下記の基準により判定する。
○:カール高さが20mm未満
△:カール高さが20mm以上50mm未満
×:カール高さが50mm以上
【0035】
(低屈折率層用の塗布液の調整)
低屈折率層用の塗布液は、電離放射線硬樹脂と、アルコキシシランと、重合開始剤と、有機溶剤(5%希釈液)とを表1に示す組成のように混合し、低屈折率層用の塗布液A〜Kを得た。なお、塗布液A〜Kにおいて、電離放射線硬樹脂としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)や、1,10−ビスアクリロイルオキシ−1,1,10,10−テトラヒドロパーフルオロデカン(16FDA)や、ポリフッ素ビニリデン誘導体を使用した。アルコキシシランには、テトラエトキシシランやテトライソプロポキシシランを使用した。重合開始剤としては、チバスペシャルティケミカルズ(株)製のイルガキュア907(I−907)、イルガキュア369(I−369)、ダロキュア1173(D−1173)、イルガキュアOXE02(I−OXE02)を使用した。有機溶剤には、イソプロピルアルコール(IPA)を使用した。なお、塗布液Dには、平均粒子径が60nmの中空シリカ微粒子を添加した。
【0036】
【表1】

【0037】
(熱硬化機能層用の塗布液の調整)
電磁波遮蔽層用の塗布液Xには、銀微粒子からなる導電ペースト(太陽インキ製造社製、商品名;AF5100)を用いた。
一方、近赤外線遮蔽層用の塗布液Yは、近赤外線吸収色素としてジイモニウム塩化合物(日本カーリット(株)製、製品名「CIR‐1085F」)5.0質量部、及び含フッ素フタロシアニン化合物((株)日本触媒製、製品名「IR‐10A」)2.0質量部、バインダー樹脂としてアクリル系樹脂(三菱レイヨン(株)製、製品名「ダイヤナールBR‐80」)100質量部、有機溶剤としてメチルエチルケトン450質量部及びトルエン450質量部を混合攪拌して溶解して調製した。
【0038】
(製造方法)
工程A−1: ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方面に低屈折率層用の塗布液A〜Kをグラビアコーターを用いて塗布し、塗布膜Aを作成した。
工程A−2:工程A−1で作成した塗布膜Aに含まれる有機溶剤を80℃で30秒間乾燥させ、乾燥膜を作成した。
工程A−3:工程A−2で作成した乾燥膜に紫外線を出力200mJ/cmで照射し、乾燥膜中に含まれるジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを硬化させ半硬化膜を作成した。
工程B−1:透明基材フィルムの他方面に熱硬化機能層用の塗布液X,Yをスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、グラビアコート等によって格子状に塗布し、塗布膜Bを作成した。
工程B−2:工程B−1で作成した塗布膜Bと工程A−3で作成した半硬化膜とを電気加熱熱風を用いて同時に加熱し、塗布膜B、及び半硬化膜に含まれるテトラエトキシシランを硬化して、熱硬化機能層及び低屈折率層を同時に作成した反射防止フィルム(実施例1〜19)を得た。
【0039】
比較例として、実施例の工程A−3において、低屈折率層用の塗布液に含まれる電離放射線硬化型樹脂を電離放射線によって硬化させると共に、加熱してアルコキシシランも硬化させた以外、すなわち工程A−3において低屈折率層を形成した以外は、実施例と同様に反射防止フィルム(比較例1〜6)を作成した。なお、比較例1は実施例1に対応し、比較例2は実施例8に対応し、比較例3は実施例14に対応し、比較例4は実施例17に対応し、比較例5は実施例18に対応し、比較例6は実施例19に対応する。実施例1〜19及び比較例1〜6における各工程の条件を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
上記実施例1〜19及び比較例1〜6について、上記測定方法に基づき各種特性を測定した結果を表3に示す。
【表3】

【0042】
表3の結果より、実施例1〜19の反射防止フィルムは、低屈折率層に1回の熱履歴しか加わっていないことから、視感度反射率、ヘイズ値、耐擦傷性、カール性で良好な結果が得られた。一方、比較例1〜6の反射防止フィルムは、低屈折率層に2回の熱履歴が加わったことでフィルムが白化してしまい、視感度反射率を測定不能であった。また、低屈折率層に2回の熱履歴が加わりフィルムが劣化したことから、ヘイズ値、耐擦傷性、カール性が悪化していることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの一方面に、電離放射線硬化型樹脂とアルコキシシランとを含む組成物を硬化させてなる屈折率1.50以下の低屈折率層を設け、該低屈折率層が設けられた側とは反対の他方面に、熱硬化性樹脂を含む熱硬化機能層を設けた反射防止フィルムの製造方法において、次の工程
前記透明基材フィルムの一方面に、電離放射線硬化型樹脂とアルコキシシランとを含有させ有機溶剤で希釈した低屈折率層用の塗布液を塗布する工程(A−1)と、
前記工程(A−1)で作成した一方の塗布膜に含まれる前記有機溶剤を乾燥させる工程(A−2)と、
前記工程(A−2)で作成した乾燥膜に電離放射線を照射し、該乾燥膜中に含まれる電離放射線硬化型樹脂を硬化させ半硬化膜を作成する工程(A−3)と、
前記透明基材フィルムの他方面に熱硬化性樹脂を含む熱硬化機能層用の塗布液を塗布する工程(B−1)と、
前記工程(B−1)で作成した他方の塗布膜と前記半硬化膜とを同時に加熱して、前記他方の塗布膜と前記半硬化膜に含まれるアルコキシシランとを硬化し、前記熱硬化機能層と前記低屈折率層とを同時に作成する工程(B−2)と、
からなることを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記熱硬化機能層が、電磁波遮蔽層または近赤外線遮蔽層であることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。



【公開番号】特開2011−248298(P2011−248298A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124316(P2010−124316)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】