説明

反射防止フィルム及びその製造方法、並びに紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液

【課題】 最表面に低屈折率層を備えた反射防止フィルム及びその製造方法、並びに、極性溶媒に対し親和性を示さない基材フィルムに直接接して低屈折率層を形成することができ、また、塗液の多様な使用形態を可能にする紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を提供すること。
【解決手段】 紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ無極性溶媒に親和するモノマー及び/又はそのオリゴマーと、中空シリカ微粒子の表面に脂肪族炭化水素基が導入され、無極性溶媒に親和するように改質された変性中空シリカ微粒子1と、重合開始剤とを含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物を無極性溶媒に溶解又は分散させて形成する。この塗液を基材フィルム8に直接、又は機能層を介して被着させ、塗液層から溶媒を蒸発させた後、紫外線硬化性樹脂材料組成物層を硬化させ、低屈折率層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最表面に低屈折率層を備えた反射防止フィルム及びその製造方法、並びにその低屈折率層を形成する材料として好適な紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)、プラズマ表示装置(PDP)、エレクトロルミネッセンス表示装置(ELD)、および陰極管表示装置(CRT)などの画像表示装置が、広く用いられている。これらの画像表示装置では、多くの場合、画像表示部の使用者側最表面に、データを表示する光以外の光が表示画面で反射されて使用者の視覚に届くのを防止するための、反射防止層が設けられている。反射防止層は、外光の映り込みを防止して画面を見やすくしたり、コンストラストを上げて表示画質を向上させたりする効果を有する。
【0003】
表示画面に反射防止層を設ける方法として、透明基材フィルムの表面に反射防止層が設けられた反射防止フィルムを貼り合わせる方法が一般的である。反射防止フィルムの構成としては、透明基材フィルム上に、その透明基材フィルムよりも屈折率が小さい低屈折率層を設けたものや、透明基材フィルム上にその透明基材フィルムよりも屈折率が大きい高屈折率層を設け、さらにその上に透明基材フィルムよりも屈折率が小さい低屈折率層を設けたものがある。
【0004】
基材フィルムとしては、機械特性、透明性、および耐熱性などに優れた特性を有することから、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、およびシクロオレフィンポリマー(COP)フィルムなどが用いられる。一方、反射防止層を形成する材料としては、塗布法などによって簡易に樹脂材料層を形成できる有機系樹脂材料組成物が好ましい。この際、樹脂として熱硬化性樹脂を用いると、樹脂材料層を硬化させるのに加熱が必要になる。しかし、基材が薄いフィルムである場合には、加熱によって基材の変形などが起こるので、加熱は望ましくない。従って、反射防止層を構成する樹脂としては、通常、硬化させるのに加熱が不要な紫外線硬化性樹脂が用いられる。
【0005】
これらの反射防止層において、低屈折率層の屈折率が小さいほど、また、高屈折率層の屈折率が大きいほど、反射率が小さくなるので、低屈折率層の屈折率は小さいほどよい。そこで、低屈折率層の屈折率をより小さくする構成として、低屈折率層を構成するバインダー樹脂中にその樹脂よりも屈折率の小さい微粒子を分散させた樹脂組成物が提案されている。この場合、微粒子の添加量を変えることにより低屈折率層の屈折率を容易に変更できる利点がある。しかし、一般に、微粒子をバインダー樹脂中に均一に分散させることは容易ではないので、透明性に優れ、かつ反射防止性能に優れた低屈折率層を得るには、工夫が必要である。
【0006】
例えば、後述の特許文献1には、透明基材フィルム上に、直接或いは他の層を介して、少なくとも1層は、超微粒子を含む樹脂組成物からなる、屈折率の制御された樹脂層が形成されており、最表面に形成された層は、その層が直接接する下層よりも低屈折率であり、前記樹脂組成物はカルボキシル基含有(メタ)アクリレートをバインダー樹脂成分の一部乃至全部として含有することを特徴とする、超微粒子含有反射防止フィルムが提案されている。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートのいずれかを意味するものとする。
【0007】
特許文献1によると、カルボキシル基含有(メタ)アクリレートは、超微粒子を分散性よく含有することができる。また、カルボキシル基を有するためと推定されるが、各種プラスチック基材に対する密着性が良好であり、耐摩耗性に優れたバインダー樹脂を形成できる。複数のアクリロイル基を有するカルボキシル基含有(メタ)アクリレートを用いれば、ヒドロキシ基および3個以上のアクリロイル基を有する多官能アクリレートと混合しても、アクリロイル基密度が低下することがない。この結果、得られる超微粒子含有反射防止フィルムは、透明性が優れており、ヘイズ値が小さく、反射率が低い。また、鉛筆硬度、耐摩耗性などのハード性能や、層間の密着性にも優れている。なお、樹脂材料組成物の粘度を調整するなどの目的で、溶剤を適宜用いる。その溶剤としては、芳香族炭化水素類、エステル類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、およびエーテルエステル類などを用いることができ、これらの混合溶媒を用いてもよい。超微粒子がシリカ微粒子である実施例では、エタノールとトルエンの混合溶媒が用いられている。
【0008】
また、後述の特許文献2には、光透過性基材上に、少なくとも屈折率が1.45以下の低屈折率層が設けられてなる反射防止積層体であって、
前記低屈折率層が、電離放射線硬化型樹脂組成物と、外殻層を有し、内部が多孔質ま たは空洞であるシリカ微粒子とを含んでなり、
前記シリカ微粒子の一部もしくは全部は、その表面の少なくとも一部が、電離放射線 硬化性基を有するシランカップリング剤によって処理されてなる、
反射防止積層体が提案されている。
【0009】
この際、前記電離放射線硬化性基が、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基であるのがよく、また、前記シリカ微粒子が、表面に導入されたシランカップリング剤の電離放射線硬化性基を介して、前記電離放射線硬化型樹脂組成物と、直接および/または遊離シランカップリング剤の電離放射線硬化性基を介して、化学反応により共有結合を形成することで、前記反射防止積層体が形成されているのがよいとされている。
【0010】
特許文献2には、次のように説明されている。
【0011】
前記内部が多孔質または空洞であるシリカ微粒子は、空気で占められた空隙を有しているので、屈折率が小さい。このため、シリカ微粒子の添加によって、塗膜の屈折率を効果的に低下させることができる。しかも、前記シリカ微粒子の表面の少なくとも一部に、電離放射線硬化性基を有するシランカップリング剤が導入されているので、バインダー成分との親和性が向上し、塗工液や塗膜中へのシリカ微粒子の均一分散が可能となる。また、塗膜の硬化に際し、シランカップリング剤の電離放射線硬化性基は、バインダー成分の前記電離放射線硬化性基と直接、および/または遊離シランカップリング剤の電離放射線硬化性基を介して重合し、共有結合によって一体化するため、樹脂組成物に対するシリカ微粒子の量を非常に多くした場合でも、硬化膜の硬度および強度の著しい低下を避けることができ、屈折率が低くかつ機械強度に優れる低屈折率層を実現できる。
【0012】
上記低屈折率層を形成する固形成分を溶解分散させるために用いる溶剤は、特に制限されず、種々の有機溶剤、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、あるいはこれらの混合物を用いることができる。ただし、ケトン系溶剤を用いて塗工液を調製すると、基材表面に容易に薄く均一に塗布することができ、かつ、塗工後において溶剤の蒸発速度が適度で乾燥むらを起こし難いので、均一な薄さの大面積塗膜を容易に得ることができるので好ましい。
【0013】
また、後述の特許文献3には、光透過性の基材フィルムの少なくとも一面側に、直接あるいは他の層を介して、表面の算術平均粗さRaが1nm以上、2nm未満の低屈折率層が形成され、該積層体としてのヘイズが0.4以下である反射防止フィルムであって、
該低屈折率層には、中空シリカ微粒子或いは多孔質シリカ微粒子が含まれ、
該低屈折率層を形成するための樹脂組成物には、親水性有機溶剤が50%以上の比率 の有機溶剤、バインダー樹脂、中空シリカ微粒子或いは多孔質シリカ微粒子が含まれて いる
ことを特徴とする反射防止フィルムが提案されている。
【0014】
特許文献3には、次のように説明されている。
【0015】
親水性有機溶剤が50%以上の比率の有機溶剤が含有されている塗布組成物を用いると、低屈折率層の透明性が優れる理由は、恐らく、該有機溶剤が多孔質シリカ微粒子や中空シリカ微粒子の表面に存在するヒドロキシ基との親和性がよく、該有機溶剤が多孔質シリカ微粒子や中空シリカ微粒子の分散性を向上させ、その結果、塗膜の表面に多孔質シリカ微粒子や中空シリカ微粒子の凹凸が形成されにくくなるためである。
【0016】
親水性有機溶剤としてはメタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールが使用でき、特に1−ブタノールが好ましい。1−ブタノールを用いた場合、他の親水性有機溶剤を用いる場合に比べて塗膜の乾燥時間が長くなるため、塗膜の形成がゆっくりと行われ、レベリング効果によって、多孔質シリカ微粒子や中空シリカ微粒子が塗膜中でより均一に分散するため、塗膜表面が滑らかになる。親水性有機溶剤以外の有機溶剤であって、有機溶剤のうちの50%未満含有してもよい有機溶剤としては、ケトン類、エステル類、エーテル類、グリコール類、グリコールエーテル類、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0017】
さて、上述した高屈折率層と低屈折率層のように異なる層を複数層形成する場合、塗布や硬化処理などを各層ごとに行うのが一般的である。この場合、生産性が悪く、コスト高になりやすいことや、層間の密着性が低下し、耐擦傷性が悪化しやすいことなどの問題がある。
【0018】
そこで、後述の特許文献4には、透明支持体上に、溶剤と溶質とを含有する塗布液の少なくとも2種を用いて、少なくとも2層の塗布層を同時に塗布形成する工程と、該少なくとも2層の塗布層中の溶剤を乾燥する工程とを有し、少なくとも2層の光学層(例えば、低屈折率層と高屈折率層)を同時に形成できる光学フィルムの製造方法が提案されている。
【0019】
特許文献4には、次のように説明されている。
【0020】
この光学フィルムの製造方法では、複数の塗布液を同時に塗布し、乾燥させる際に、各層の溶質成分が互いに混合することなく、光学干渉しうる程度に層間の界面が十分に薄く形成される。このような層構造は、例えば、有機溶剤系溶液と水溶液のように、ただ単純に溶け合わない塗布液同士を重ねて塗布しても、必ずしも実現できない。上記層構造を実現するには、同時塗布した際に隣り合う層間で以下の関係の何れかを満たすことが必要である。
【0021】
まず、第一態様としては、2層を分離する点から、隣り合う層のうち、支持体側に配置される層(下層)の溶質が、表面側に配置される層(上層)の溶剤に不溶または難溶である関係にすることが好ましい。この時、2層を分離する点では、上層の溶質と下層の溶剤との関係も同様であることが好ましいが、そのようにすると、上層が均一な層とならず、海島状に形成される。これは、下層の溶剤が上層を通過して蒸発する際に、下層の溶剤と上層の溶質とが親和できないため、上層の溶質が凝集し、界面の形状が層構造から球状構造に変化するためであると考えられる。さらに、各層の溶質がともに相手層の溶剤に不溶であると、層界面で互いの溶質が相分離して析出し、もはや均一な層界面が形成されない。従って、更に好ましい態様として、上層の溶質は下層の溶剤に易溶である関係にすることが好ましい。
【0022】
第二態様としては、上層と下層の各成分は混合しても速やかに相分離するような塗布液組成とすることが好ましい。この場合塗布後互いの成分が拡散すると、塗布界面近傍で直ちに相分離しそれ以上の拡散が抑制される。さらに、相分離した微小液滴は元の層と合一する可能性も高く、均一な液−液界面を維持することが可能である。第三態様は、ある程度溶剤の蒸発が進んだときに第二態様の関係が満たされる態様である。この場合、塗布直後は混合が起こったとしても、その後、速やかに相分離が起こり、実質上良好な界面が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
特許文献1や特許文献3のように、低屈折率層を形成するための樹脂材料組成物が、表面処理されていないシリカ微粒子を含有している場合には、樹脂材料組成物の粘度を調整するなどの目的で添加する溶媒として、エタノールや1−ブタノールなどのアルコール類、またはアルコール類と他の溶媒との混合溶媒などの、親水性溶媒が好ましい。これは、シリカ微粒子の表面に存在するヒドロキシ基と親水性溶媒の親和性がよいからである。
【0024】
特許文献2のように、樹脂材料組成物に含有されるシリカ微粒子の表面が、シランカップリング剤などによる処理で改質されている場合には、シリカ微粒子表面の性質は、表面処理によって導入された基の性質に強く影響される。特許文献2のように、シランカップリング剤によって導入される基が、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基である場合には、これらの基が多少の極性を有しているので、樹脂材料組成物の粘度を調整するなどの目的で添加する溶媒としても、多少の極性を有する溶媒、例えば、ケトン類、エステル類、アルコール類、エーテル類、およびハロゲン化炭化水素類などが好ましい。
【0025】
以上のように、低屈折率層を形成するためのシリカ微粒子含有樹脂材料組成物を溶媒に溶解または分散させた塗液では、従来、溶媒として多かれ少なかれ極性を有する極性溶媒が用いられてきた。しかし、基材フィルムが極性溶媒に対し親和性を示さないフィルムである場合には、極性溶媒を用いた塗液を用いて、フィルム上に密着性のよい低屈折率層を形成することはできない。
【0026】
また、極性溶媒を用いた塗液では、塗液の使用形態が制限される場合がある。例えば、高屈折率層の上に低屈折率層を形成する場合、2つの層の主たる溶質がいずれも(メタ)アクリル系樹脂モノマーであると、これらの層を形成するための塗液も、極性の似通った溶媒、例えばケトン類を用いて調製することが多い。この場合、2つの層を形成する2種の塗液は容易に混ざりあってしまうので、2種の塗液を同時に塗布することはできない。従って、特許文献4に提案されている光学フィルムの製造方法のように、2つの塗液層を同時に塗布するには、2種の塗液の混合が抑制されるように、それぞれの塗液を調製する溶媒として、適切な溶媒を使い分けることが必要になる。
【0027】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、最表面に低屈折率層を備えた反射防止フィルム及びその製造方法、並びに、極性溶媒に対し親和性を示さない基材フィルムに接して低屈折率層を形成することができ、また、塗液の多様な使用形態を可能にする紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
即ち、本発明は、
2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ無極性溶媒に親和するモノマー及び /又はそのオリゴマーと、
中空シリカ微粒子の表面に脂肪族炭化水素基が導入され、無極性溶媒に親和するよう に改質された変性中空シリカ微粒子と、
重合開始剤と
を含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物が、
無極性溶媒又は実質的に無極性である混合溶媒
に溶解又は分散している、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液に係わる。なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及びメタクリロイル基のいずれかを意味するものとする。また、実質的に無極性である混合溶媒とは、製造工程などの都合で無極性溶媒以外の溶媒が含まれるとしても、その割合はわずかであり、溶媒としての性質が、本発明との関わりにおいて無極性溶媒と実質的に同等であるとみなされる混合溶媒を意味する。また、混乱を避けるため、硬化処理前のモノマー及び/又はオリゴマーを含む組成物を樹脂材料組成物と呼び、硬化処理後の重合体を樹脂組成物と呼ぶことにする。
【0029】
また、基材フィルムの最表面に、前記基材フィルムに直接、又は機能層を介して低屈折率層が設けられており、前記低屈折率層が、
前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液から形成され、
前記の、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ無極性溶媒に親和するモノ マー及び/又はそのオリゴマーと、前記の、中空シリカ微粒子の表面に脂肪族炭化水素 基が導入され、無極性溶媒に親和するように改質された変性中空シリカ微粒子と、前記 の重合開始剤とを含有する
樹脂材料組成物層が硬化してなる層である、反射防止フィルムに係わるものである。
【0030】
また、
2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ無極性溶媒に親和するモノマー及び /又はそのオリゴマーと、中空シリカ微粒子の表面に脂肪族炭化水素基が導入され、無 極性溶媒に親和するように改質された変性中空シリカ微粒子と、重合開始剤とを含有す る紫外線硬化性樹脂材料組成物を、無極性溶媒又は実質的に無極性である混合溶媒に溶 解又は分散させ、基材フィルムよりも屈折率が小さい低屈折率層を形成するための紫外 線硬化性樹脂材料組成物を含有する塗液(以下、低屈折率層塗液と呼ぶ。)を調製する 工程と、
前記低屈折率層塗液の層を、前記基材フィルムに直接又は機能層を介して被着させる 工程と、
前記低屈折率層塗液の層から前記無極性溶媒又は前記実質的に無極性である混合溶媒 を蒸発させる工程と、
得られた紫外線硬化性樹脂材料組成物層を硬化させ、前記基材フィルムの最表面に低 屈折率層を形成する工程と
を有する、反射防止フィルムの製造方法に係わるものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液によれば、塗液を調製する際に、前記無極性溶媒又は前記実質的に無極性である混合溶媒、例えば、脂肪族炭化水素溶媒または脂環族炭化水素を用いる。この塗液を用いると、極性溶媒に対し親和性を示さない基材フィルムに接して、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液層を形成することができる。また、下部に未硬化の(メタ)アクリル系樹脂モノマーなどを含む層があっても、この材料が前記無極性溶媒に親和しないものであれば、この材料に大きく影響されることなく、また、この材料に大きな影響を与えることなく、下部層の上に紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液層を形成することができるので、下部層との同時塗布や時間差塗布など、塗液の多様な使用形態が可能になる。また、前記塗液では、上記目的に適合するように、表面に脂肪族炭化水素基が導入され、無極性溶媒に親和するように改質された前記変性中空シリカ微粒子と、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ無極性溶媒に親和するモノマー及び/又はそのオリゴマーを用いる。従って、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液層を確実に形成することができる
【0032】
本発明の反射防止フィルムは、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液の層から形成された樹脂材料組成物層が硬化してなる前記低屈折率層が、基材フィルムの最表面に、前記基材フィルムに直接、又は機能層を介して設けられている。従って、極性溶媒に対し親和性を示さない基材フィルムに接して、密着性のよい低屈折率層を形成することができる。また、前記機能層を形成するための材料との多様な使用形態で、前記機能層に積層して前記低屈折率層を形成することができる。
【0033】
本発明の反射防止フィルムの製造方法は、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を用いるので、極性溶媒に対し親和性を示さない基材フィルムに接して、本発明の反射防止フィルムを確実に形成することができる。また、また、下部に未硬化の(メタ)アクリル系樹脂モノマーなどを含む層があっても、この材料が前記無極性溶媒に親和しないものであれば、この材料に大きく影響されることなく、また、この材料に大きな影響を与えることなく、下部層の上に紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液層を形成することができるので、塗液の多様な使用形態が可能になる。
【0034】
また、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液は、プラスチック成形物や塗装物の表面など、反射防止フィルムを適用し難い箇所に低屈折率層を形成するのにも、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく反射防止フィルム10の構造を示す部分断面図(a)、および、変性中空シリカ微粒子の表面の構造を示す拡大断面図(b)と(c)である。
【図2】同、シランカップリング剤を用いて中空シリカ微粒子の表面を改質する際の反応過程を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態2に基づく反射防止フィルム20の構造を示す部分断面図(a)、および、時間差塗布法の要点を示す概略図(b)である。
【図4】本発明の実施例1で得られたODTMS変性中空シリカ微粒子のヘキサンゾルを、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した観察像である。
【図5】本発明の実施例1−1〜1−3および比較例1−1、1−2で得られた、粉末状の中空シリカ微粒子の赤外(IR)吸収スペクトルである。
【図6】本発明の実施例1−2で得られたヘキサンゾルにおける、OTMS変性中空シリカ微粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2−1、2−2および比較例2−1、2−2で得られた、粉末状の変性中空シリカ微粒子のIR吸収スペクトルである。
【図8】本発明の実施例3−1で得られた反射防止フィルムの反射率を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例4−1で得られた、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した観察像(a)、および、異なる深さ方向位置A〜Cにおける元素分析の結果を示すグラフ(b)である。
【図10】同、反射防止フィルムの断面のSEM観察像(a)、および、その反射率を示すグラフ(b)である。
【図11】本発明の実施例4−2で得られた、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの断面をSEMで観察した観察像(a)、および、異なる深さ方向位置AおよびBにおける元素分析の結果を示すグラフ(b)である。
【図12】同、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの反射率を示すグラフである。
【図13】ヘキサン、空気、および実施例4−2で得られた反射防止フィルムを、それぞれ、GC−MSで分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図14】本発明の比較例4−1で得られた、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの断面をSEMで観察した観察像(a)、および、異なる深さ方向位置AおよびBにおける元素分析の結果を示すグラフ(b)である。
【図15】本発明の比較例4−1および4−2で得られた反射防止フィルムを、それぞれ、GC−MSで分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図16】本発明の比較例4−2で得られた、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの断面をSEMで観察した観察像(a)、および、異なる深さ方向位置AおよびBにおける元素分析の結果を示すグラフ(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液において、前記無極性溶媒が脂肪族炭化水素溶媒及び/又は脂環族炭化水素溶媒であるのがよい。
【0037】
また、前記脂肪族炭化水素基がC=C結合を有しているか、及び/又は、前記変性中空シリカ微粒子の前記表面に、前記脂肪族炭化水素基に加えて、前記モノマー及び/又は前記そのオリゴマーと重合し得る重合性基が導入されているかであるのがよい。
【0038】
この際、前記重合性基が(メタ)アクリロイル基又はビニル基であるのがよい。また、前記脂肪族炭化水素基及び/又は前記重合性基が、シランカップリング剤残基の有機基として、シランカップリング反応によって前記中空シリカ微粒子の表面に導入されているのがよい。
【0039】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物における、前記モノマー及び/又は前記そのオリゴマーの配合率が70〜30質量%であり、前記変性中空シリカ微粒子の配合率が30〜70質量%であり、前記重合開始剤の配合率が0.1〜10.0質量%であるのがよい。
【0040】
本発明の反射防止フィルムにおいて、無極性溶媒に親和性を示さない基材フィルムの表面に直接接して、前記低屈折率層が設けられているのがよい。
【0041】
また、前記基材フィルムよりも屈折率が大きい高屈折率層が前記機能層として設けられ、この高屈折率層に接して前記低屈折率層が設けられているのがよい。この際、前記高屈折率層が、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ極性溶媒に親和するモノマー及び/又はそのオリゴマーと、重合開始剤とを含有する樹脂材料組成物層が硬化してなる層であるのがよい。
【0042】
本発明の反射防止フィルムの製造方法において、少なくとも下記の3つの工程;
前記基材フィルムよりも屈折率が大きい高屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹 脂材料組成物を含有する塗液(以下、高屈折率層塗液と呼ぶ。)を調製する工程と、
前記高屈折率層塗液の層を前記基材フィルムに被着させる工程と、
前記高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物の層を硬化させる工程と
によって、前記機能層として前記高屈折率層を形成し、この高屈折率層に接して前記低屈折率層を形成するのがよい。
【0043】
この際、
極性溶媒を用いて前記高屈折率層塗液を形成する工程と、
この高屈折率層塗液の層と前記低屈折率層塗液の層とを、同時に前記基材フィルムに 被着させる工程と、
前記高屈折率層塗液の層および前記低屈折率層塗液の層から、それぞれの溶媒を蒸発 させる工程と、
前記高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物層と、前記低屈折率層を形成するた めの樹脂材料組成物層とを、同時に硬化させる工程と
を有するのがよい。
【0044】
或いは、
溶媒を用いないで前記高屈折率層塗液を形成する工程と、
この高屈折率層塗液の層と前記低屈折率層塗液の層とを、同時に前記基材フィルムに 被着させる工程と、
前記低屈折率層塗液の層から前記無極性溶媒又は前記実質的に無極性である混合溶媒 を蒸発させる工程と、
前記高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物層と、前記低屈折率層を形成するた めの樹脂材料組成物層とを、同時に硬化させる工程と
を有するのがよい。
【0045】
或いはまた、
極性溶媒を用いて前記高屈折率層塗液を形成する工程と、
この高屈折率層塗液の層を前記基材フィルムに被着させる工程と、
前記高屈折率層塗液層の被着工程から時間遅れを設け、前記高屈折率層塗液層から前 記極性溶媒の少なくとも一部を蒸発させた後、この高屈折率層塗液層上に前記低屈折率 層塗液の層を被着させる工程と、
前記高屈折率層塗液の層および前記低屈折率層塗液の層から、それぞれの溶媒を蒸発 させる工程と、
前記高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物層と、前記低屈折率層を形成するた めの樹脂材料組成物層とを、同時に硬化させる工程と
を有するのがよい。
【0046】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態に基づく紫外線硬化性樹脂材料組成物及び反射防止フィルムについてより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0047】
[実施の形態1]
実施の形態1では、請求項1〜6に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液、請求項7、8に記載した反射防止フィルム、および請求項11に記載した反射防止フィルムの製造方法の例について説明する。
【0048】
図1(a)は、本発明の実施の形態1に基づく反射防止フィルム10の構造を示す部分断面図である。反射防止フィルム10では、透明基材フィルム8に直接接して、基材フィルム8より屈折率が小さい低屈折率層6が設けられ、反射防止フィルムとして構成されている。低屈折率層6は、(メタ)アクリル系樹脂組成物5中に変性中空シリカ微粒子1(または11)が均一に分散した構造を有し、屈折率が小さい。反射防止層は単層構成であるが、低屈折率層6の屈折率が小さいので、十分高い反射防止性能を有する。反射防止フィルム10は、多層構成のものに比べて構成が簡易であるため、生産性やコストパフォーマンスに優れている。
【0049】
反射防止フィルム10を作製するには、まず、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ無極性溶媒に親和するモノマー及び/又はそのオリゴマーと、中空シリカ微粒子2の表面に脂肪族炭化水素基が導入され、無極性溶媒に親和するように改質された変性中空シリカ微粒子1(または11)と、重合開始剤とを含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物を、無極性溶媒又は実質的に無極性である混合溶媒に溶解または分散させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製する。
【0050】
次に、塗布法、印刷法、または浸積法などによって、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液の層を基材フィルム8に被着させた後、所定の温度にて塗液層から溶媒を蒸発させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物の層を形成する。次に、この層に紫外線を照射して硬化させ、基材フィルム8に接する低屈折率層6を形成する。
【0051】
本実施の形態の最も大きな特徴は、この紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製する際に、無極性溶媒又は実質的に無極性である混合溶媒、例えば、脂肪族炭化水素溶媒または脂環族炭化水素を用いることであり、それに適合する変性中空シリカ微粒子1(または11)、および、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーを用いることにある。この塗液を用いると、極性溶媒に対し親和性を全く示さない基材フィルムに接して、密着性のよい低屈折率層を形成することができる。
【0052】
これを実現するために、低屈折率層6を形成する、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーとして、無極性溶媒に親和するもの、例えば、1,9−ビス(アクリロイルオキシ)ノナン(別名1,9−ノナンジオールジアクリレート)や、1,4−ビス(アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン(別名1,4−シクロヘキサンジメタノールジアクリレート)など、長鎖のアルキレン基骨格を有するビス((メタ)アクリロイルオキシ)アルカンやトリス((メタ)アクリロイルオキシ)アルカンなどを用いる。モノマーが2個の(メタ)アクリロイル基を含有すると、高分子鎖間に架橋構造を形成できるので、重合によって形成される樹脂組成物5の機械的強度および硬度が向上する。樹脂組成物5の機械的強度および硬度をさらに向上させる必要がある場合には、3個以上の(メタ)アクリロイル基を含有するモノマー及び/又はそのオリゴマーを用いるのがよい。
【0053】
また、低屈折率層6の屈折率を低下させる中空シリカ微粒子として、表面に脂肪族炭化水素基を有する基3が導入され、表面が無極性溶媒に親和するように改質された変性中空シリカ微粒子1(または11)を用いる。
【0054】
図1(b)は、変性中空シリカ微粒子1の表面の構造を示す拡大断面図である。表面処理されていない中空シリカ微粒子2は、表面にヒドロキシ基−OHをもち、無極性溶媒には親和しにくい。これに対し変性中空シリカ微粒子1では、例えば、ヒドロキシ基−OHとの縮合反応などによって、脂肪族炭化水素基を有する基3が中空シリカ微粒子2の表面に導入されている。この結果、変性中空シリカ微粒子1の表面は、無極性溶媒に親和するように改質されている。
【0055】
図1(c)は、変性中空シリカ微粒子11の表面の構造を示す拡大断面図である。変性中空シリカ微粒子11が変性中空シリカ微粒子1と異なる点は、脂肪族炭化水素基を有する基3に加えて、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーと重合し得る重合性基を有する基4が、表面に導入されていることである。この場合、塗液層が硬化する工程で重合性基を有する基4が周囲のモノマー及び/又はオリゴマーと重合し、変性中空シリカ微粒子11を含んで全体が一体化するので、塗膜の強度や可撓性が向上する。この重合性基としては、(メタ)アクリロイル基またはビニル基などがよい。なお、脂肪族炭化水素基がC=C結合を有している場合には、これが重合性基として機能して同様の効果が得られるので、別途重合性基を導入する必要はない。
【0056】
紫外線硬化性樹脂材料組成物における、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーの配合率が70〜30質量%であり、変性中空シリカ微粒子1(または11)の配合率が30〜70質量%であり、重合開始剤の配合率が0.1〜10.0質量%であるのがよい。基材中空シリカ微粒子2の屈折率は1.1〜1.4であるのがよい。変性中空シリカ微粒子1(または11)の配合率が30質量%よりも少ないと、十分な反射特性が得られない。一方、70質量%よりも多いと耐擦傷性などの機械特性が劣化する。
【0057】
重合開始剤としては、公知の材料を適宜選択して用いるのがよい。前記重合開始剤の配合率は、固形分の0.1〜10質量%であるのがよい。配合率が0.1質量%よりも少ないと、光硬化性が不足し、実質的に工業生産に適さない。一方、配合率が10質量%よりも多いと、照射光量が少ない場合に、低屈折率層6に臭気が残ることがある。
【0058】
基材フィルム8は、とくに限定されるものではないが、極性溶媒に対し親和性を示さない基材フィルムであると、本発明の特徴が最もよく発揮されるので好ましい。その他、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂フィルムや、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルムや、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂フィルムなどであるのがよい。これらの樹脂からなる基材フィルムは、耐擦傷性、透明性、および耐熱性などに優れている。
【0059】
図2は、シランカップリング剤を用いて変性中空シリカ微粒子1を作製する際の、反応過程を示す説明図である。まず、シランカップリング剤R1Si(OR2)3は、加水分解により有機トリシラノールR1Si(OH)3に変化する。有機トリシラノールR1Si(OH)3の一部は互いに縮合してオリゴマーに変化する。次に、有機トリシラノールのモノマーまたはオリゴマーが、ヒドロキシ基間の脱水縮合反応によって、中空シリカ微粒子2の表面にあるヒドロキシ基−OH基と縮合する。この結果、連結基として−O−Si−結合が形成され、連結基を介して有機基−R1が中空シリカ微粒子2の表面に導入される。
【0060】
シランカップリング剤の一般式を下記に示す。
シランカップリング剤の一般式:
【化1】

【0061】
図2に示したシランカップリング剤は、上記の一般式においてR2=R3=R4である場合である。有機基−R1が脂肪族炭化水素基であれば、上記の反応で脂肪族炭化水素基を中空シリカ微粒子2の表面に導入することができる。例えば、オクタデシルトリメトキシシラン(ODTMS)やオクチルトリメトキシシラン(OTMS)を用いると、オクタデシル基やオクチル基を導入することができる。また、有機基−R1が重合性基を有する基であれば、重合性基を中空シリカ微粒子2の表面に導入することができる。例えば、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(ATMS)やビニルトリメトキシシラン(VTMS)を用いると、アクリロイルオキシ基やビニル基を導入することができる。
【0062】
[実施の形態2]
実施の形態2では、請求項9、10に記載した反射防止フィルムの例、および請求項112〜15に記載した反射防止フィルムの製造方法の例について説明する。
【0063】
図3(a)は、実施の形態2に基づく反射防止フィルム20の構造を示す部分断面図である。反射防止フィルム20では、基材フィルム8の上に、基材フィルム8よりも屈折率が大きい高屈折率層7が前記機能層として形成され、この高屈折率層7に接して低屈折率層6が形成され、2層からなる反射防止層が設けられている。2層構成の反射防止層は、特開昭59−50401号公報などに示されているものと同様のものである。低屈折率層6および高屈折率層7の厚さは、それぞれ、例えば、100nmおよび7μmである。
【0064】
この際、高屈折率層7が、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ極性溶媒に親和するモノマー及び/又はそのオリゴマーと、重合開始剤とを含有する樹脂材料組成物層が硬化してなる層であるのがよい。
【0065】
高屈折率層7を形成するには、少なくとも下記の3つの工程、
基材フィルムよりも屈折率が大きい高屈折率層7を形成するための紫外線硬化性樹脂 材料組成物を含有する塗液(以下、高屈折率層塗液と呼ぶ。)を調製する工程と、
高屈折率層塗液を基材フィルム8に被着させる工程と、
高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物の層を硬化させる工程と
を行う。
【0066】
従来の方法で反射防止フィルム20を作製するには、まず、高屈折率層7を形成する紫外線硬化性樹脂材料組成物を適度な極性をもつ極性溶媒に溶解または分散させ、高屈折率層塗液を調製する。次に、塗布法、印刷法、または浸積法などによって塗液を基材フィルム8の上に塗布した後、所定の温度で極性溶媒を蒸発させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物の層を形成する。次に、この層に紫外線を照射して硬化させ、基材フィルム8に接して高屈折率層7を形成する。この後、実施の形態1における反射防止フィルム10の作製と同様にして、高屈折率層7の上に低屈折率層6を積層して形成する。
【0067】
高屈折率層7を形成する紫外線硬化性樹脂材料組成物としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(屈折率=1.49)や、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(屈折率=1.50)など、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有するアクリル系モノマーと、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどの光重合開始剤を含有するものがよい。この他に、平坦性を向上させるレベリング剤を含んでいてもよい。この樹脂材料組成物をシクロヘキサノンなどの溶媒に溶解させて用いる。
【0068】
既述したように、高屈折率層と低屈折率層のように異なる層を積層して形成する場合、塗布や硬化処理などを各層ごとに行う方法は、生産性が悪く、コスト高になりやすいことや、層間の密着性が低下し、耐擦傷性が悪化しやすいことなどの問題がある。そこで、特許文献4には、少なくとも2層の塗液層を同時に塗布形成する工程と、少なくとも2層の塗布層中の溶媒を蒸発させる工程とを有し、少なくとも2層の光学層を同時に形成する光学フィルムの製造方法が提案されている。本発明に基づく低屈折率層6を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物を含有する塗液(以下、低屈折率層塗液と呼ぶ。)は無極性溶媒を溶媒とする塗液であるので、極性溶媒を溶媒とする高屈折率層塗液と混ざりにくい。従って、特許文献4に提案されている同時塗布法によって高屈折率層7と低屈折率層6とを同時に形成するのにも適している。
【0069】
その方法は、例えば、
極性溶媒を用いて高屈折率層塗液を形成する工程と、
この高屈折率層塗液と低屈折率層塗液とを同時に透明基材フィルム8に被着させる工 程と、
高屈折率層塗液層および低屈折率層塗液層からそれぞれの溶媒を蒸発させる工程と、
高屈折率層7を形成するための樹脂材料組成物層と、低屈折率層6を形成するための樹脂材料組成物層とを同時に硬化させる工程と
を有するのがよい。
【0070】
しかしながら、同時塗布法では、下層の溶媒が蒸発するには、必ず上層中を通過しなければならず、これが同時塗布法を適用できる塗液を著しく狭める原因となっている。また、膜質低下の原因になる可能性もある。この問題を避けるために、本実施の形態では、下記の2つの方法を提案する。
【0071】
1つは、同時塗布法ではあるが、溶媒を含有させずに高屈折率層塗液を形成する方法である。その後、
高屈折率層塗液と低屈折率層塗液とを同時に基材フィルム8に被着させる工程と、
上部の低屈折率層塗液の層から無極性溶媒を蒸発させる工程と、
高屈折率層7を形成するための樹脂材料組成物層と、低屈折率層6を形成するための 樹脂材料組成物層とを同時に硬化させる工程と
を行う。この方法では、高屈折率層塗液が溶媒を含有していないため、下層(高屈折率層塗液)の溶媒が上層(低屈折率層塗液)中を通過して蒸発するということがない。従って、下層の溶媒が上層中を通過して蒸発することが原因で、適用できる対象が著しく狭められたり、膜質が低下したりするということがない。
【0072】
ただし、このためには、高屈折率層7を形成する、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーとして、液体であるもの、すなわち、いわゆる無溶剤型の(メタ)アクリル系紫外線硬化性樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーであって、かつ、無極性溶媒に親和しにくいもの、例えば、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレートなどを用いる必要がある。
【0073】
他の1つは、極性溶媒を含有させて高屈折率層塗液を形成するものの、
高屈折率層塗液を基材フィルム8に被着させる工程と、
高屈折率層塗液の層から極性溶媒の少なくとも一部を蒸発させるための時間遅れを設 けた後、低屈折率層塗液の層を高屈折率層塗液層上に被着させる工程と
を行う。その後、
高屈折率層塗液の層および低屈折率層塗液の層からそれぞれの溶媒を蒸発させる工程 と、
前記高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物層と、前記低屈折率層を形成するた めの樹脂材料組成物層とを同時に硬化させる工程と
を行う時間差塗布法である。
【0074】
時間差塗布法では、高屈折率層塗液の層から極性溶媒の少なくとも一部を蒸発させるための時間遅れを設けているので、上層(低屈折率層塗液)中を通過して蒸発する下層(高屈折率層塗液)の溶媒量が減少する。従って、下層の溶媒が上層中を通過して蒸発することが原因で、適用できる塗液が著しく狭められたり、膜質が低下したりするということが、特許文献4に提案されている同時塗布法より少ない。
【0075】
この場合、高屈折率層塗液を構成する極性溶媒は、高屈折率層塗液と低屈折率層塗液とが均一に混ざってしまわない程度の適度な大きさの極性を有するものがよい。また、高屈折率層塗液を構成する極性溶媒が低屈折率層塗液中を通過して蒸発できるためには、この極性溶媒が低屈折率層塗液を構成する無極性溶媒に適度に溶解する必要があるので、この極性溶媒が著しく大きな極性をもつことは好ましくない。従って、高屈折率層塗液を構成する極性溶媒は、例えば、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、t−ブチルアルコールなどの、ケトン類、エステル類、エーテル類、およびアルコール類などがよい。高屈折率層塗液を構成する紫外線硬化性樹脂は、モノマー1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を含有し、かつ、無極性溶媒に難溶であって、しかも極性溶媒に可溶であるものがよい。市販品では、例えば、紫外線硬化型多官能ウレタンアクリレートオリゴマーからなるKAYARAD DPHA−40H(商品名;日本化薬(株)製)やUV−1700B(商品名;日本合成化学(株)製)などが挙げられる。重合開始剤、レベリング剤は、公知の材料を適宜選択できる。
【0076】
図3(b)は、実施の形態2に基づく時間差塗布法の要点を示す概略図である。図3(b)に示す装置では、高屈折率層塗液層22を基材フィルム8に被着させる下層塗布部21と、低屈折率層塗液層24を高屈折率層塗液層22に被着させる上層塗布部23とが、所定の間隔を設けて配置されている。透明基材フィルム8は、下層塗布部21と上層塗布部23とを順次走行するように構成されており、透明基材フィルム8が各部を走行している間に、高屈折率層塗液層22と低屈折率層塗液層24とが、順次、生産性よく形成される。高屈折率層塗液層22と低屈折率層塗液層24とが形成される時間差は、下層塗布部21と上層塗布部23とを配置する間隔と、その間を走行する透明基材フィルム8の走行速度とによって、所望の時間差に設定される。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0078】
表面処理されていないシリカ微粒子は、ヘキサンなどの無極性溶媒や極性の小さい溶媒中では凝集しやすい。シリカ微粒子を凝集させずに無極性溶媒や低極性溶媒中に良好に分散させるには、シリカ微粒子の表面を親油性にする改質処理が必須である。実施例1では、中空シリカ微粒子の表面をシランカップリング剤によって改質した例について説明する(実施の形態1および図2参照。)。この、シランカップリング剤によって表面が親油性に改質された変性中空シリカ微粒子は、実施の形態1および2で説明した低屈折率層6に添加する変性中空シリカ微粒子1として好適である。
【0079】
[実施例1−1]
下記のようにして、表面未処理の中空シリカ微粒子の表面処理を行った。
(1)まず、下記の順序で材料を配合した。
エタノール:10.75g
オクタデシルトリメトキシシラン(ODTMS):0.56g
水:1g
表面未処理の中空シリカ微粒子(平均粒子径50nm)のゾル(固形分20質量%) :1.25g
28質量%アンモニア水:1.5g
【0080】
混合後の分散液は半透明であった。上記ODTMSとしてシグマ アルドリッチ ジャパン(株)製のものを用いた。また、上記ゾルとしてスルーリア1110(商品名;日揮触媒化成(株)製)を用いた。スルーリア1110は、表面未処理の中空シリカ微粒子(平均粒子径50nm)を、固形分の濃度20質量%で2−プロパノール(IPA)に分散させたゾルである。
【0081】
(2)室温にて1.5時間、超音波を照射しながら攪拌した。攪拌終了時には、分散液はゲル化(白濁)していた。この間に、中空シリカ微粒子の表面のヒドロキシル基とODTMSとが反応し、表面がODTMS残基によって改質された変性中空シリカ微粒子(以下、ODTMS変性中空シリカ微粒子と略記する。)が生成したと考えられる。
【0082】
(3)分散液から遠心分離によって液体状の成分の大部分を除去し、含水ケーキ状の固形物を取り出した。
(4)上記固形物にヘキサンを添加し、室温にて1時間、超音波を照射しながら攪拌した。
(5)孔径0.2μmのフィルターを用いて、フィルターを通過しない固形分をろ別した。
(6)フィルターを通過した、ODTMS変性中空シリカ微粒子をヘキサンに分散させたゾル(以下、ヘキサンゾルと略記する。)を保存した。得られたヘキサンゾルは、目視による概観で半透明であった。
【0083】
図4は、実施例1−1で得られたODTMS変性中空シリカ微粒子のヘキサンゾルを、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した観察像である。これから、ODTMS変性中空シリカ微粒子はヘキサン中で良好な分散状態にあることがわかる。
【0084】
図5は、溶媒を蒸発させて粉末状にしたODTMS変性中空シリカ微粒子の、IR(赤外)吸収スペクトルである。このスペクトルには、メチル基またはメチレン基の存在を示す3000cm-1付近の吸収ピークがあり、ODTMS残基が中空シリカ微粒子の表面に結合していることがわかる。粉末状のODTMS変性中空シリカ微粒子の熱分析を、500℃にて30分間行ったところ、質量の減少率は44.4%であった。この質量の減少は、表面に結合していたODTMS残基が熱分解されて除去されたことによると考えられる。
【0085】
[比較例1−1]
スルーリア1110から溶媒を蒸発させて粉末状にした、表面未処理の中空シリカ微粒子を、ヘキサン中に添加し、超音波を照射しながら攪拌した。目視による概観では、中空シリカ微粒子は沈降し、表面処理を施していない中空シリカ微粒子をヘキサン中に分散させることはできなかった。
【0086】
図5に、溶媒を蒸発させて粉末状にした、表面未処理の中空シリカ微粒子のIR吸収スペクトルを示す。このスペクトルには、メチル基またはメチレン基の存在を示す3000cm-1付近の吸収ピークがなく、中空シリカ微粒子の表面に結合しているアルキル基等がないことがわかる。粉末状にした表面未処理中空シリカ微粒子の熱分析を、500℃にて30分間行ったところ、質量の減少率は13.1%であった。この質量の減少は、表面に吸着されていた水分の脱離や、ヒドロキシル基の脱水反応によって水が失われたことによると考えられる。
【0087】
[比較例1−2]
スルーリア06SN(商品名;日揮触媒化成製、平均粒子径50nmの中空シリカ微粒子の表面をビニル変性した微粒子のIPAゾル(固形分20質量%))から溶媒を蒸発させ、粉末状にしたビニル変性中空シリカ微粒子を、ヘキサン中に添加し、超音波を照射しながら攪拌した。目視による概観では、中空シリカ微粒子は沈降し、このビニル変性中空シリカ微粒子をヘキサン中に分散させることはできなかった。
【0088】
図5に、粉末状ビニル変性中空シリカ微粒子のIR吸収スペクトルを示す。このスペクトルにはメチル基またはメチレン基の存在を示す3000cm-1付近の吸収ピークがなく、中空シリカ微粒子の表面に結合しているアルキル基やアルキレン基等ないことがわかる。
【0089】
[比較例1−3]
28質量%アンモニア水の量を、実施例1−1で用いた量の1/5に変更した。これ以外は実施例1−1と同様にして、中空シリカ微粒子の表面処理を行った。目視による概観では、中空シリカ微粒子は沈降し、比較例1−3で得られたODTMS変性中空シリカ微粒子をヘキサン中に分散させることはできなかった。これは、実施例1−1に比べてアンモニア水の量が少なかったため、シリカ微粒子の表面に結合できたODTMS残基の量が少なく、シリカ微粒子の表面を十分に親油性に変えることができなかったためであると考えられる。
【0090】
[比較例1−4]
実施例1−1で用いたODTMSの代わりに、オレイン酸を用いた。これ以外は実施例1−1と同様にして、中空シリカ微粒子の表面処理を行った。目視による概観では、中空シリカ微粒子は沈降し、比較例1−4で表面処理した中空シリカ微粒子をヘキサン中に分散させることはできなかった。これは、シリカ微粒子の表面が負に帯電しているために、オレイン酸のカルボキシラート基−COO-がシリカ微粒子の表面に吸着されなかったためであると考えられる。なお、シリカ微粒子では、反応場のpHが2以上になると表面電位が負になる。
【0091】
[実施例1−2]
実施例1−1で用いたODTMS0.56gの代わりに、オクチルトリメトキシシラン(OTMS、シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製)0.56gを用いた。これ以外は実施例1−1と同様にして、中空シリカ微粒子の表面処理を行った。得られたヘキサンゾルは、目視による概観で半透明であった。この例では、中空シリカ微粒子の表面のヒドロキシル基とOTMSとが反応し、表面がOTMS残基によって改質された変性中空シリカ微粒子(以下、OTMS変性中空シリカ微粒子と略記する。)が生成したと考えられる。
【0092】
図6は、実施例1−2で得られたヘキサンゾルにおけるOTMS変性中空シリカ微粒子の粒度分布を示すグラフである。この粒度分布は、SALD−7000(島津製作所製)を用いて測定した。図6から、OTMS変性中空シリカ微粒子は、ヘキサン中で一次粒子が良好に分散した状態にあることがわかる。
【0093】
図5に、溶媒を蒸発させて粉末状にしたOTMS変性中空シリカ微粒子の、IR吸収スペクトルを示す。このスペクトルには、メチル基またはメチレン基の存在を示す3000cm-1付近の吸収ピークがあり、OTMS残基が中空シリカ微粒子の表面に結合していることがわかる。粉末状のOTMS変性中空シリカ微粒子の熱分析を、500℃にて30分間行ったところ、質量の減少率は36.6%であった。この質量の減少は、表面に結合していたOTMS残基が熱分解されて除去されたことによると考えられる。
【0094】
[比較例1−5]
OTMSの添加量を、実施例1−2で用いた量の1/10に変更した。これ以外は実施例1−2と同様にして、中空シリカ微粒子の表面処理を行った。目視による概観では、中空シリカ微粒子は沈降し、比較例1−5で得られたOTMS変性中空シリカ微粒子をヘキサン中に分散させることはできなかった。これは、実施例1−2に比べてOTMSの添加量が少なかったため、シリカ微粒子の表面に結合できたOTMS残基の量が少なく、シリカ微粒子の表面を十分に親油性に変えることができなかったためであると考えられる。
【0095】
[実施例1−3]
実施例1−2で用いたスルーリア1110 0.56gの代わりに、スルーリア4110(商品名;日揮触媒化成(株)製) 0.56gを用いた。スルーリア4110は、平均粒子径が60nmの表面未処理の中空シリカ微粒子を、固形分の濃度20質量%で2−プロパノール(IPA)に分散させたゾルである。これ以外は実施例1−2と同様にして、中空シリカ微粒子の表面処理を行った。得られたヘキサンゾルは、目視による概観で半透明であった。溶媒を蒸発させて粉末状にしたOTMS変性中空シリカ微粒子の熱分析を、500℃にて30分間行ったところ、質量の減少率は38.2%であった。従って、実施例1−2とほぼ同等量のOTMS残基が中空シリカ微粒子に結合しているものと考えられる。
【0096】
表1に、実施例1−1〜1−3および比較例1−1〜1−5の表面処理に用いた反応液組成、および得られた中空シリカ微粒子の特性を示す。
【表1】

【0097】
【表2】

【実施例2】
【0098】
実施例2では、紫外線硬化性樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマーとの親和性や膜強度の向上のために、実施例1−2および実施例1−3で作製したOTMS変性中空シリカ微粒子の表面に、さらに、重合性基含有シランカップリング材料による表面処理を施し、脂肪族炭化水素基と重合性基とを有する変性中空シリカ微粒子11(図1(c)参照。)を作製した例について説明する。この、重合性基が表面に結合した中空シリカ微粒子は、低屈折率層6に添加する中空シリカ微粒子11として好適である。
【0099】
[実施例2−1]
下記のようにして、OTMS変性中空シリカ微粒子の表面処理を行った。
(1)まず、下記の順序で材料を配合した。
実施例1−2で作製したOTMS変性中空シリカ微粒子のゾル:5g
IPA:7g
3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(ATMS):0.53g
水:1g
酢酸:0.131g(全てを添加した後のpH=5.3)
【0100】
混合後の分散液は半透明であった。上記ゾルは、実施例1−2で作製したOTMS変性中空シリカ微粒子のヘキサンゾルに、ヘキサン:IPA=1:1の質量比でIPAを添加し、固形分の濃度を5質量%に調製したゾルである。ATMSとしては、KBM5103(商品名;信越化学工業(株)製)を用いた。
【0101】
(2)室温にて1.5時間、超音波を照射しながら攪拌した。攪拌終了時には、分散液はゲル化(白濁)していた。この間に、シリカ微粒子表面のヒドロキシル基とATMSとが反応して、表面にATMS残基が導入され、表面にOTMS残基とATMS残基とが結合した中空シリカ微粒子(以下、OTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子と略記する。)が生成したと考えられる。
(3)分散液から遠心分離によって液体状の成分の大部分を除去し、含水ケーキ状の固形物を取り出した。
(4)上記固形物にヘキサンを添加し、室温にて1時間、超音波を照射しながら攪拌した。
(5)孔径0.2μmのフィルターを用いて、フィルターを通過しない固形分をろ別した。
(6)フィルターを通過した、OTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子のヘキサンゾルを保存した。得られたゾルは、目視による概観で半透明であった。
【0102】
図7に、ヘキサンゾルから溶媒を蒸発させて粉末状にした、OTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子の、IR吸収スペクトルを示す。このスペクトルには、メチル基またはメチレン基の存在を示す3000cm-1付近の吸収ピークがあるので、初め中空シリカ微粒子の表面に結合したOTMS残基が残存していることがわかる。さらに、C=C結合の存在を示す1400cm-1付近の吸収ピークがあるので、新たにATMS残基が中空シリカ微粒子表面に結合したことがわかる。すなわち、OTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子が作製できたことがわかる。
【0103】
また、粉末状のOTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子の熱分析を、500℃にて30分間行ったところ、質量の減少率は24.8%であった。この質量の減少は、表面に結合していたOTMS残基およびATMS残基が熱分解されて除去されたことによると考えられる。
【0104】
[実施例2−2]
実施例2−1で用いたATMS0.56gの代わりに、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)0.56gを用いた。これ以外は実施例2−1と同様にして、中空シリカ微粒子の表面処理を行った。得られたゾルは、目視による概観で半透明であった。VTMSとしては、KBM1003(商品名;信越化学工業(株)製)を用いた。
【0105】
図7に、ヘキサンゾルから溶媒を蒸発させて粉末状にしたOTMS・VTMS変性中空シリカ微粒子の、IR吸収スペクトルを示す。このスペクトルには、実施例2−1と同様、メチル基またはメチレン基の存在を示す3000cm-1付近の吸収ピークと、C=C結合の存在を示す1400cm-1付近の吸収ピークとがあるので、OTMS・VTMS変性中空シリカ微粒子が作製できたことがわかる。
【0106】
[比較例2−1]
実施例2−1で用いたIPA7gの代わりに、ヘキサン7gを用いた。これ以外は実施例2−1と同様にして、中空シリカ微粒子の表面処理を行った。得られたゾルは、目視による概観で半透明であり、中空シリカ微粒子は分散していた。
【0107】
図7に、ヘキサンゾルから溶媒を蒸発させて粉末状にした変性中空シリカ微粒子の、IR吸収スペクトルを示す。このスペクトルには、メチル基またはメチレン基の存在を示す3000cm-1付近の吸収ピークがあるが、実施例2−1と異なり、C=C結合の存在を示す1400cm-1付近の吸収ピークがない。従って、ATMS残基はシリカ微粒子にほとんど結合していないものと考えられる。これは、反応液にヘキサンが多く含まれていたため、加水分解に用いられるべき水が反応液から相分離を起こしてしまい、シランカップリング反応が十分に進まなかったためであると考えられる。なお、反応液中の水が相分離を起こしていることは、目視による観察によって確認された。
【0108】
[比較例2−2]
実施例2−1で用いたIPA7gの代わりに、ヘキサン7gを用いた。これ以外は実施例2−2と同様にして、中空シリカ微粒子の表面処理を行った。得られたゾルは、目視による概観で半透明であり、中空シリカ微粒子は分散していた。
【0109】
図7に、ヘキサンゾルから溶媒を蒸発させて粉末状にした変性中空シリカ微粒子の、IR吸収スペクトルを示す。このスペクトルには、メチル基またはメチレン基の存在を示す3000cm-1付近の吸収ピークがあるが、実施例2−2と異なり、C=C結合の存在を示す1400cm-1付近の吸収ピークがない。従って、VTMS残基はシリカ微粒子にほとんど結合していないものと考えられる。これは、比較例2−1と同様、反応液にヘキサンが多く含まれていたため、加水分解に用いられるべき水が反応液から相分離を起こしてしまい、シランカップリング反応が十分に進まなかったためであると考えられる。なお、反応液中の水が相分離を起こしていることは、目視による観察によって確認された。
【0110】
上記の例から、OTMS変性中空シリカ微粒子を、OTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子またはOTMS・VTMS変性中空シリカ微粒子に変化させるには、反応液の構成が非常に重要である。ヘキサン中で分散を示すOTMS変性品である点のみから考えると、分散状態を維持したままの反応を行えるように、反応液はヘキサンが好ましい。その一方で、本反応では加水分解用の水の添加が必須となるが、ヘキサンのみでは水が不溶であるために相溶性のあるものが反応液に含まれていることも必須となる。ここではIPAがその役目を果たす(OTMS変性中空シリカ微粒子粉末に対して、t−ブチルアルコール、メチルエチルケトン、エタノール、IPAでの分散性をテストした結果、いずれも不良であったが、IPAが最もましであった。)。すなわち、反応液に必要となる構成材料は、
(1)分散状態の維持を示すヘキサンが必要
(2)加水分解用の水が反応液に溶けるために相溶剤IPAが必要
となる。ヘキサンとIPAの混合比も最適範囲があり、実施例2−1、2−2に示しているように、ヘキサン:IPA=9.25:2.5では反応が有効に進み、その一方で比較例2−1、2−2に示しているように、ヘキサン:IPA=9.25:2.5では反応が進まない。
【0111】
[実施例2−3]
実施例1−2で作製したOTMS変性中空シリカ微粒子(粒子径50nm)のヘキサンゾルの代わりに、実施例1−3で作製したOTMS変性中空シリカ微粒子(粒子径60nm)のヘキサンゾルを用いた。これ以外は実施例2−1と同様にして、OTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子のヘキサンゾルを作製した。得られたヘキサンゾルの概観は目視にて半透明であった。
【0112】
ヘキサンゾルから溶媒を蒸発させて得られたOTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子の熱分析を、500℃にて30分間行ったところ、質量の変化率は24.1%であった。これから、実施例2−1とほぼ同等量のOTMS残基とATMS残基とが結合しているものと考えられる。
【0113】
表2に、実施例2−1〜2−3および比較例2−1、2−2の表面処理に用いた反応液組成、および得られた変性中空シリカ微粒子の特性を示す。
【表3】

【実施例3】
【0114】
実施例2−3および実施例1−1〜1−3で作製した変性中空シリカ微粒子を用いて、実施の形態1で説明した、低屈折率層6からなる単層の反射防止層を有する反射防止フィルム10を作製し、その光学特性(反射率、ヘイズ、全光線透過率)および機械特性を評価した。
【0115】
[実施例3−1]
まず、実施例2−3で作製したOTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子の10質量%ヘキサンゾルを用いて、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製した。紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液中の各成分の配合量は、下記の通りである。
【0116】
<紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液>
1,9−ビス(アクリロイルオキシ)ノナン 0.045g
OTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子の10質量%ヘキサンゾル 0.5g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 0.005g
ヘキサン 7.45g
この塗液は1.25質量%の固形分を含有し、その固形分における変性シリカ微粒子含有率は50質量%である。
【0117】
1,9−ビス(アクリロイルオキシ)ノナンは、無極性溶媒に親和する紫外線硬化性樹脂モノマーであり、ライトアクリレート 1,9−NDA(商品名;共栄社化学(株)製)を用いた。1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンは光重合開始剤であり、IRGACURE 184(商品名;チバ・ジャパン(株)製)を用いた。ヘキサンは無極性溶媒である。
【0118】
次に、下記の順序でTAC基材フィルム上に低屈折率層を形成した。
(1)TAC基材フィルム上にバーコーターを用いて紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液を塗布した。
(2)オーブン内で80℃にて90秒間加熱処理して溶媒を蒸発させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物層を形成した。
(3)N2パージ中、積算光量300mJで紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂材料組成物層を硬化させ、低屈折率層6形成した。
【0119】
図8は、TAC基板に低屈折率層が形成された、反射防止フィルムの反射率を示すグラフである。図中の点線は、低屈折率層を形成していないTAC基板の反射率である。図8から、低屈折率層が反射防止性能を有することが明らかである。低屈折率層が形成されたTAC基板の最低反射率は1.4%であり、ヘイズが1%以下、全光線透過率が90%以上と他の光学特性も良好であった。また、機械特性も綿棒こすり良と良好あった。諸特性を下記に示す。
【0120】
<光学特性>
最低反射率:1.4%
ヘイズ:0.7%
全光線透過率:93.5%
<機械特性>
綿棒こすり:良
【0121】
[実施例3−2]
実施例3−1で用いたOTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子の代わりに、実施例1−1で作製したODTMS変性中空シリカ微粒子を用いた。これ以外は実施例3−1と同様にして、低屈折率層を形成した。
【0122】
実施例3−2で作製した低屈折率層は、ヘイズが2.6%と大きく、綿棒こすりが不良であり、実施例3−1で作製した低屈折率層に比べて、光学特性および機械特性が劣っていた。諸特性を下記に示す。
【0123】
<光学特性>
最低反射率:1.5%
ヘイズ:2.6%
全光線透過率:92.9%
<機械特性>
綿棒こすり:不良
【0124】
[実施例3−3]
実施例3−1で用いたOTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子の代わりに、実施例1−2で作製したOTMS変性中空シリカ微粒子を用いた。これ以外は実施例3−1と同様にして低屈折率層を形成した。
【0125】
実施例3−3で作製した低屈折率層は、最低反射率が1.7%と落ちきらず、綿棒こすりが不良であり、実施例3−1で作製した低屈折率層に比べて、光学特性および機械特性が劣っていた。諸特性を下記に示す。
【0126】
<光学特性>
最低反射率:1.7%
ヘイズ:0.6%
全光線透過率:92.2%
<機械特性>
綿棒こすり:不良
【0127】
[実施例3−4]
実施例3−1で用いたOTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子の代わりに、実施例1−3で作製したOTMS変性中空シリカ微粒子を用いた。これ以外は実施例3−1と同様にして低屈折率層を形成した。
【0128】
実施例3−4で作製した低屈折率層は、実施例3−1で作製した低屈折率層に比べて、最低反射率および全光線透過率は優っていたが、綿棒こすりが不良で機械特性が劣っていた。諸特性を下記に示す。
【0129】
<光学特性>
最低反射率:1.3%
ヘイズ:0.8%
全光線透過率:94.4%
<機械特性>
綿棒こすり:不良
【0130】
表3に、実施例3−1〜3−4の塗液の組成と、反射防止フィルムの特性を示す。
【表4】

【実施例4】
【0131】
実施の形態2で説明した、高屈折率層7(下層)と低屈折率層6(上層)とからなる2層構成の反射防止層を有する反射防止フィルム20を作製した。この際、同時塗布法、時間差塗布法、および逐次形成法で反射防止層を形成し、その光学特性(反射率、ヘイズ、全光線透過率)および機械特性を評価した。低屈折率層6は、実施例3で最も優れた性能の低屈折率層が得られたOTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子を用いて作製した。
【0132】
[実施例4−1]
実施例4−1では、同時塗布法によって高屈折率層(下層)と低屈折率層(上層)とを形成した。
【0133】
まず、実施例2−3で作製したOTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子(平均粒子径60nm)の10質量%ヘキサンゾルを用いて、低屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製した。塗液中の各成分の配合量は、下記の通りである。
【0134】
<低屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液>
1,9−ビス(アクリロイルオキシ)ノナン 0.045g
OTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子の10質量%ヘキサンゾル 0.5g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 0.005g
ヘキサン 1.07g
IPA 0.38g
この塗液は5質量%の固形分を含有し、その固形分における変性シリカ微粒子含有率は50質量%である。
【0135】
また、高屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液として、下記の通り、溶媒を含まない塗液を調製した。
【0136】
<高屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液>
エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート 1.9g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 0.1g
なお、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレートとして、A−TMPT−3EO(商品名;新中村化学工業(株)製)を用いた。
【0137】
次に、下記の順序で基材フィルム上に高屈折率層(下層)と低屈折率層(上層)とを積層して形成した。
(1)基材フィルム上に、高屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液を下層に、低屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液を上層に、コーターにて同時塗布した。
(2)オーブン内で80℃にて90秒間加熱処理して溶媒を蒸発させ、低屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物層を形成した。
(3)N2パージ中、積算光量300mJで紫外線を照射して、各紫外線硬化性樹脂材料組成物層を硬化させ、高屈折率層(下層)と低屈折率層(上層)とを形成した。を形成した。
【0138】
同時2層塗布の条件は、次の通りである。
塗布部−透明基材フィルム間ギャップ長:100μm
透明基材フィルム走行速度:0.5m/min
なお、基材フィルムとして、ダイアホイルO300E100(商品名;三菱化学ポリエステルフィルム(株)製)を用いた。
【0139】
図9は、実施例4−1で得られた、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した観察像(a)、および、異なる深さ方向位置A,B,Cにおける元素分析の結果を示すグラフ(b)である。図9から、中空シリカ微粒子は最表面のみに局在していることがわかる。すなわち、この2層構成の反射防止層は、同時塗布法で作製されたものでありながら、高屈折率層塗液と低屈折率層塗液との混合が抑えられ、良好に層分離していることがわかる。
【0140】
図10は、実施例4−1で得られた反射防止フィルムの断面をSEMで観察した観察像(a)、および、反射率を示すグラフ(b)である。図中の点線は、反射防止層を形成していないPET基材フィルムの反射率である。図10から、反射防止層が反射防止性能を有することが明らかである。反射防止層が形成されたPET基板の最低反射率は2%である。
【0141】
[実施例4−2]
実施例4−2では、時間差塗布法によって高屈折率層(下層)と低屈折率層(上層)とを形成した。
【0142】
まず、実施例2−3で作製したOTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子(平均粒子径60nm)の10質量%ヘキサンゾルを用いて、低屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製した。塗液中の各成分の配合量は下記の通りである。全量は異なるが、各成分の配合比は実施例4−1と同じである。
【0143】
<低屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液>
1,9−ビス(アクリロイルオキシ)ノナン 5.4g
OTMS・ATMS変性中空シリカ微粒子のヘキサン10質量%ゾル 60g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 0.6g
ヘキサン 128.4g
IPA 45.6g
【0144】
次に、高屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液を、下記の通り調製した。
【0145】
<高屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液>
KAYARAD DPHA−40H 228g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 12g
KP323(レベリング剤) 0.12g
メチルエチルケトン(MEK) 160g
この塗液は60質量%の固形分を含有し、溶媒量が少なく抑えられている。KAYARAD DPHA−40H(商品名;日本化薬(株)製)は、紫外線硬化性硬化型多官能ウレタンアクリレートオリゴマーの市販品である。
【0146】
次に、下記の順序でPET基材フィルム上に高屈折率層(下層)と低屈折率層(上層)とを積層して形成した。
(1)基材フィルム上に、高屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液をコーターにて塗布した。
(2)上記の塗布から20秒間後に、低屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液をコーターにて、紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液の上に塗布した。
(3)オーブン内で80℃にて60秒間加熱処理して溶媒を蒸発させ、各紫外線硬化性樹脂材料組成物層を形成した。
(4)N2パージ中、積算光量300mJで紫外線を照射して、各紫外線硬化性樹脂材料組成物層を硬化させ、高屈折率層(下層)と低屈折率層(上層)とを形成した。
【0147】
時間差2層塗布の条件は、次の通りである。
塗布部−透明基材フィルム間ギャップ長:
下層塗布部40μm、上層塗布部100μm
透明基材フィルム走行速度:1m/min
なお、基材フィルムとして、実施例4−1で用いたものと同じPETフィルムを用いた。
【0148】
図11は、実施例4−2で得られた、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの断面をSEMで観察した観察像(a)、および、異なる深さ方向位置A,B,Cにおける元素分析の結果を示すグラフ(b)である。図11から、中空シリカ微粒子は最表面のみに局在していることがわかる。すなわち、時間差塗布法で作製された、この2層構成の反射防止層は、高屈折率層塗液と低屈折率層塗液との混合が抑えられ、層分離している。ただし、高屈折率層と低屈折率層との界面は明瞭に観察されず、また、低屈折率層中の中空シリカ微粒子の底部の高さは一定ではない。従って、界面において高屈折率層塗液と低屈折率層塗液との混合が多少起こっていると推測される。これは、低屈折率層と高屈折率層との密着性を向上させる上では好ましい。
【0149】
図12は、実施例4−2で得られた、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの反射率を示すグラフである。図中の点線は、反射防止層を形成していないPET基材フィルムの反射率である。図12から、反射防止層が反射防止性能を有することが明らかである。反射防止層が形成されたPET基板の最低反射率は1.2%である。その他の諸特性は下記の通りである。
【0150】
<光学特性>
ヘイズ:0.9%
全光線透過率:93.8%
<機械特性>
硬度特性:鉛筆試験 750g荷重にて2H以上
耐擦傷性:SW試験(200g/cm2の荷重を加えながらスチールウールを10往復 させた場合の低屈折率層の傷の有無) 不良(表面に傷が生じた。)
綿棒こすり:良
密着特性:クロスハッチ試験 良
【0151】
図13(a)〜(c)は、ヘキサン、空気、および実施例4−2で得られた反射防止フィルムを、それぞれ、GC−MS(ガスクロマトグラフィ−質量分析法)で分析した結果を示すクロマトグラムである。これらから、この反射防止フィルムには、0.7ppb程度の微量のヘキサンが含まれていることがわかった。
【0152】
[実施例4−3]
実施例4−3では、逐次形成法によって高屈折率層(下層)と低屈折率層(上層)とを形成した。
【0153】
高屈折率層および低屈折率層を形成するための各紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液は、実施例4−2と同じものを用いた。また、基材フィルムも、実施例4−1および4−2で用いたものと同じPETフィルムを用いた。
【0154】
下記の順序で基材フィルム上に高屈折率層(下層)と低屈折率層(上層)とを積層して形成した。
(1)基材フィルム上に、高屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液をコーターにて塗布した。
(2)オーブン内で80℃にて60秒間加熱処理して溶媒を蒸発させ、高屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物層を形成した。
(3))N2パージ中、積算光量300mJで紫外線を照射して、紫外線硬化性樹脂材料組成物層を硬化させ、高屈折率層を形成した。
(4)高屈折率層上に、低屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液をバーコーターによる手塗りで塗布した。
(5)オーブン内で80℃にて90秒間加熱処理して溶媒を蒸発させ、低屈折率層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物層を形成した。
(6)N2パージ中、積算光量300mJで紫外線を照射して、紫外線硬化性樹脂材料組成物層を硬化させ、低屈折率層を形成した。
【0155】
図14は、実施例4−3で得られた、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの断面をSEMで観察した観察像(a)、および、異なる深さ方向位置A,B,Cにおける元素分析の結果を示すグラフ(b)である。図14から、中空シリカ微粒子は最表面のみに局在していることがわかる。しかも、この、逐次形成法で作製された2層構成の反射防止層では、高屈折率層と低屈折率層との界面が明瞭に観察され、また、低屈折率層中の中空シリカ微粒子の底部の高さは一定に揃っている。すなわち、高屈折率層と低屈折率層とは完全に独立した2層であり、界面での融合は見られない。これは、高屈折率層と低屈折率層との密着性を向上させる上では不利である。
【0156】
実施例4−3で得られた反射防止フィルムの最低反射率は1.3%であり、反射防止性能を有している。その他の特性は下記の通りである。
【0157】
<光学特性>
ヘイズ:1.3%
全光線透過率:90.3%
<機械特性>
硬度特性:鉛筆試験 750g荷重にて2H以上
耐擦傷性:SW試験 不良
綿棒こすり:良
密着特性:クロスハッチ試験 不良
【0158】
図15は、この反射防止フィルムをGC−MSで分析した結果を示すクロマトグラムである。これから、この反射防止フィルムには、1ppb程度の微量のヘキサンが含まれていることがわかった。
【0159】
[比較例4−1]
比較例4−1では、逐次形成法によって高屈折率層(下層)と低屈折率層(上層)とを形成した。高屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液、および基材フィルムは、実施例4−3と同じである。実施例4−3と比較するために、低屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物塗液として、従来の、シリカ微粒子とケトン類溶媒を用いた塗液を用いた。この塗液の組成は下記の通りである。
【0160】
<低屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液>
1,9−ビス(アクリロイルオキシ)ノナン 5.4g
ビニル変性中空シリカ微粒子(平均粒子径50nm)の20質量%IPAゾル
30g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 0.6g
メチルイソブチルケトン(溶媒) 204g
この塗液は5質量%の固形分を含有し、その固形分における変性シリカ微粒子含有率は50質量%である。ビニル変性中空シリカ微粒子の20質量%IPAゾルとしては、スルーリア06SN(商品名;日揮触媒化成製)を用いた。
【0161】
反射防止フィルムの作製手順は実施例4−3と同様である。図16は、比較例4−1で得られた、2層からなる反射防止層を有する反射防止フィルムの断面をSEMで観察した観察像(a)、および、異なる深さ方向位置A,B,Cにおける元素分析の結果を示すグラフ(b)である。図16から、中空シリカ微粒子は最表面のみに局在していることがわかる。しかも、この2層構成の反射防止層は、実施例4−3と同様に逐次形成法で作製さているので、高屈折率層と低屈折率層との界面が明瞭に観察され、また、低屈折率層中の中空シリカ微粒子の底部の高さは一定に揃っている。すなわち、高屈折率層と低屈折率層とは完全に独立した2層であり、高屈折率層と低屈折率層との密着性を向上させる上では不利である。
【0162】
比較例4−1で得られた反射防止フィルムの特性は下記の通りである。
<機械特性>
硬度特性:鉛筆試験 750g荷重にて2H未満
耐擦傷性:SW試験 不良
綿棒こすり:良
密着特性:クロスハッチ試験 不良
初期密着性:碁盤目試験 不良
【0163】
図15は、この反射防止フィルムをGC−MSで分析した結果を示すクロマトグラムである。ヘキサンは検出されなかった。
【0164】
表4に、実施例4−1〜4−3および比較例4−1の塗布方法および反射防止フィルムの特性を示す。
【表5】

【0165】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の反射防止フィルムは、液晶テレビや有機ELテレビ、パソコン、携帯ゲーム機などの各種ディスプレイの反射防止フィルムとして好適に使用できる。また、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物は、プラスチック成形物や塗装物の表面に反射防止層を形成するのに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0167】
1…変性中空シリカ微粒子、2…中空シリカ微粒子、3…脂肪族炭化水素基を有する基、
4…重合性基を有する基、5…樹脂組成物、6…低屈折率層、7…高屈折率層、
8…透明基材フィルム、10…反射防止フィルム、11…変性中空シリカ微粒子、
20…反射防止フィルム、21…下層塗布部、22…高屈折率層塗液層、
23…上層塗布部、24…低屈折率層塗液層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0168】
【特許文献1】特開平8−244178号公報(請求項1、第2−5及び10頁)
【特許文献2】特開2005−99778号公報(請求項1、3及び10、第6−8、10、14及び15頁、図1)
【特許文献3】特開2005−283611号公報(請求項1、第3−7頁)
【特許文献4】特開2007−293302号公報(請求項1−4、第5−10、17、18及び28−31頁、図1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ無極性溶媒に親和するモノマー及び /又はそのオリゴマーと、
中空シリカ微粒子の表面に脂肪族炭化水素基が導入され、無極性溶媒に親和するよう に改質された変性中空シリカ微粒子と、
重合開始剤と
を含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物が、
無極性溶媒又は実質的に無極性である混合溶媒
に溶解又は分散している、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液。
【請求項2】
前記無極性溶媒が脂肪族炭化水素溶媒及び/又は脂環族炭化水素溶媒である、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液。
【請求項3】
前記脂肪族炭化水素基がC=C結合を有しているか、及び/又は、前記変性中空シリカ微粒子の前記表面に、前記脂肪族炭化水素基に加えて、前記モノマー及び/又は前記そのオリゴマーと重合し得る重合性基が導入されている、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液。
【請求項4】
前記重合性基が(メタ)アクリロイル基又はビニル基である、請求項3に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液。
【請求項5】
前記脂肪族炭化水素基及び/又は前記重合性基が、シランカップリング剤残基の有機基として導入されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液。
【請求項6】
前記紫外線硬化性樹脂材料組成物における、前記モノマー及び/又は前記そのオリゴマーの配合率が70〜30質量%であり、前記変性中空シリカ微粒子の配合率が30〜70質量%であり、前記重合開始剤の配合率が0.1〜10.0質量%である、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液。
【請求項7】
基材フィルムの最表面に、前記基材フィルムに直接、又は機能層を介して低屈折率層が設けられており、前記低屈折率層が、
請求項1〜6のいずれか1項に記載した前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液から 形成され、
前記の、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ無極性溶媒に親和するモノ マー及び/又はそのオリゴマーと、前記の、中空シリカ微粒子の表面に脂肪族炭化水素 基が導入され、無極性溶媒に親和するように改質された変性中空シリカ微粒子と、前記 の重合開始剤とを含有する
樹脂材料組成物層が硬化してなる層である、反射防止フィルム。
【請求項8】
無極性溶媒に親和性を示さない基材フィルムの表面に直接接して、前記低屈折率層が設けられている、請求項7に記載した反射防止フィルム。
【請求項9】
前記基材フィルムよりも屈折率が大きい高屈折率層が前記機能層として設けられ、この高屈折率層に接して前記低屈折率層が設けられている、請求項7に記載した反射防止フィルム。
【請求項10】
前記高屈折率層が、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ極性溶媒に親和するモノマー及び/又はそのオリゴマーと、重合開始剤とを含有する樹脂材料組成物層が硬化してなる層である、請求項9に記載した反射防止フィルム。
【請求項11】
2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ無極性溶媒に親和するモノマー及び /又はそのオリゴマーと、中空シリカ微粒子の表面に脂肪族炭化水素基が導入され、無 極性溶媒に親和するように改質された変性中空シリカ微粒子と、重合開始剤とを含有す る紫外線硬化性樹脂材料組成物を、無極性溶媒又は実質的に無極性である混合溶媒に溶 解又は分散させ、基材フィルムよりも屈折率が小さい低屈折率層を形成するための紫外 線硬化性樹脂材料組成物を含有する塗液(以下、低屈折率層塗液と呼ぶ。)を調製する 工程と、
前記低屈折率層塗液の層を、前記基材フィルムに直接又は機能層を介して被着させる 工程と、
前記低屈折率層塗液の層から前記無極性溶媒又は前記実質的に無極性である混合溶媒 を蒸発させる工程と、
得られた紫外線硬化性樹脂材料組成物層を硬化させ、前記基材フィルムの最表面に低 屈折率層を形成する工程と
を有する、反射防止フィルムの製造方法。
【請求項12】
少なくとも下記の3つの工程;
前記基材フィルムよりも屈折率が大きい高屈折率層を形成するための紫外線硬化性樹 脂材料組成物を含有する塗液(以下、高屈折率層塗液と呼ぶ。)を調製する工程と、
前記高屈折率層塗液の層を前記基材フィルムに被着させる工程と、
前記高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物の層を硬化させる工程と
によって、前記機能層として前記高屈折率層を形成し、この高屈折率層に接して前記低屈折率層を形成する、請求項11に記載した反射防止フィルムの製造方法。
【請求項13】
極性溶媒を用いて前記高屈折率層塗液を形成する工程と、
この高屈折率層塗液の層と前記低屈折率層塗液の層とを、同時に前記基材フィルムに 被着させる工程と、
前記高屈折率層塗液の層および前記低屈折率層塗液の層から、それぞれの溶媒を蒸発 させる工程と、
前記高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物層と、前記低屈折率層を形成するた めの樹脂材料組成物層とを、同時に硬化させる工程と
を有する、請求項12に記載した反射防止フィルムの製造方法。
【請求項14】
溶媒を用いないで前記高屈折率層塗液を形成する工程と、
この高屈折率層塗液の層と前記低屈折率層塗液の層とを、同時に前記基材フィルムに 被着させる工程と、
前記低屈折率層塗液の層から前記無極性溶媒又は前記実質的に無極性である混合溶媒 を蒸発させる工程と、
前記高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物層と、前記低屈折率層を形成するた めの樹脂材料組成物層とを、同時に硬化させる工程と
を有する、請求項12に記載した反射防止フィルムの製造方法。
【請求項15】
極性溶媒を用いて前記高屈折率層塗液を形成する工程と、
この高屈折率層塗液の層を前記基材フィルムに被着させる工程と、
前記高屈折率層塗液層の被着工程から時間遅れを設け、前記高屈折率層塗液層から前 記極性溶媒の少なくとも一部を蒸発させた後、この高屈折率層塗液層上に前記低屈折率 層塗液の層を被着させる工程と、
前記高屈折率層塗液の層および前記低屈折率層塗液の層から、それぞれの溶媒を蒸発 させる工程と、
前記高屈折率層を形成するための樹脂材料組成物層と、前記低屈折率層を形成するた めの樹脂材料組成物層とを、同時に硬化させる工程と
を有する、請求項12に記載した反射防止フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図12】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−122005(P2011−122005A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278484(P2009−278484)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】