説明

反射防止膜の形成方法、反射防止膜の形成装置、反射防止膜および光学部品

【課題】曲面を有する基材であっても、容易に反射防止膜を形成することができる反射防止膜の形成方法および反射防止膜の形成装置を提供すること、また、これら方法および装置を用いて形成された反射防止膜、このような反射防止膜を備えた光学部品を提供すること。
【解決手段】 本発明の反射防止膜の形成方法は、曲面を有する基材の曲面上に成形型を用いて、表面に所定のパターンの微細な凹凸を有する反射防止膜を形成する方法であって、成形型は、シリコーン樹脂で構成され、かつ、形成すべき反射防止膜の表面形状に対応したパターンの微細な凹凸が形成されており、曲面上に、樹脂を供給する工程と、曲面上に供給した樹脂に、成形型を圧接する工程と、樹脂を固化させ、固化物を得る工程と、固化物から前記成形型を剥離する工程とを有することを特徴とする。凹凸のピッチおよびその高低差のいずれもが、可視光の波長未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜の形成方法、反射防止膜の形成装置、反射防止膜および光学部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、光学部品の表面での光の反射を防止するため、光学部品の表面に反射防止膜を設けることが行われている。
この反射防止膜を形成する方法として、例えば、基材の表面に酸化物を蒸着する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、このような方法では、大がかりな設備が必要である上に成膜に時間がかかるため、成膜コストが高いという問題がある。
【0003】
一方、反射防止を実現するもう1つの方法として、Motheye(モスアイ、蛾の目)と呼ばれる微細な構造(モスアイ構造)が有効であることが知られている。モスアイの呼称は、1970年前後に自然科学者の間で蛾(moth)の目(eye)が光を反射しない性質に着目し、蛾の目の表面を電子顕微鏡で観察したところ高さ200nm程度の円錐状の突起が、200nm程度の間隔で敷き詰められていることがわかったことに由来する。この構造が光の反射防止に寄与しており、波長の40%程度の高さの構造体が必要であることが明らかにされている。この構造は、照射光の入射角度に依存せず、比較的幅広い波長にわたって反射防止効果を有する。
【0004】
このようなモスアイ構造の形成は、一般に、モスアイ構造に対応した形状を表面に有する平板状の金型を作製し、該金型から膜等に転写することにより行われる。このため、転写に関しては大がかりな設備も特に必要なく、容易に反射防止膜を形成できるという利点がある。
しかし、前述したような金型は、平板に対して表面形状を転写するには適しているが、曲面を有する基材上に反射防止膜を設ける場合、表面形状を十分に転写するのが困難であるといった問題がある。また、曲面に対応した形状の金型を作製することも考えられるが、このような曲面に対応した形状の金型を作製するのは困難で、また、コストも高くなるといった問題があった。また、各光学部品によって表面の曲率が異なり、それぞれに対応した金型を作製しなければならないため、さらにコストがかかるといった問題があった。特に、このような硬い金型を用いた場合、形成した反射防止膜を金型から剥離するのが容易ではなく、無理に剥離しようとすると、反射防止膜に転写された微細形状が破損する場合があった。
【0005】
【特許文献1】特開平1−97902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、曲面を有する基材であっても、容易に反射防止膜を形成することができる反射防止膜の形成方法および反射防止膜の形成装置を提供すること、また、これら方法および装置を用いて形成された反射防止膜および該反射防止膜を備えた光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の反射防止膜の形成方法は、曲面を有する基材の前記曲面上に成形型を用いて、表面に所定のパターンの微細な凹凸を有する反射防止膜を形成する方法であって、
前記成形型は、シリコーン樹脂で構成され、かつ、形成すべき前記反射防止膜の表面形状に対応したパターンの微細な凹凸が形成されており、
前記曲面上に、樹脂を供給する工程と、
前記曲面上に供給した前記樹脂に、前記成形型を圧接する工程と、
前記樹脂を固化させ、固化物を得る工程と、
前記固化物から前記成形型を剥離する工程とを有することを特徴とする。
これにより、従来用いられてきた金型では反射防止膜の形成が困難であった曲面を有する基材であっても、容易かつ確実に反射防止膜を形成することができる。
【0008】
本発明の反射防止膜の形成方法では、流体の圧力を用いて、前記成形型を前記樹脂に圧接することが好ましい。
これにより、成形型全体に均一に圧力を加えることができる。その結果、均一な形状の反射防止膜を得ることができる。
本発明の反射防止膜の形成方法では、前記流体は、気体であることが好ましい。
これにより、より適度な圧力を成形型全体に加えることができ、過剰な圧力による凹凸の変形をより効果的に防止することができる。
【0009】
本発明の反射防止膜の形成方法では、可撓性を有する材料で構成され、前記流体が収納された袋状の圧接体を用いて、圧接することが好ましい。
これにより、成形型全体に均一に圧力を加えることができる。その結果、均一な形状の反射防止膜を得ることができる。
本発明の反射防止膜の形成方法では、前記凹凸のピッチおよびその高低差のいずれもが、可視光の波長未満であることが好ましい。
従来の方法では、曲面上にこのような微細な凹凸パターンを有する反射防止膜を形成するのは困難であったが、本発明では、このような微細な凹凸パターンであっても、より容易かつ確実に形成することができる。
【0010】
本発明の反射防止膜の形成方法では、前記成形型は、第1のシリコーン樹脂で構成され、かつ、一方の面に、形成すべき前記反射防止膜の表面形状に対応したパターンの凹凸を有する第1の層と、
前記第1の層の他方の面側に配され、前記第1のシリコーン樹脂よりも重量平均分子量の低い第2のシリコーン樹脂で構成された第2の層とを有することが好ましい。
これにより、成形型全体としての柔軟性は保持しつつ、確実に成形型の形状を樹脂に転写することができる。また、反射防止膜から剥離する際に、成形型の凹凸の型くずれや、破損等を防止することができる。
【0011】
本発明の反射防止膜の形成方法では、前記第1のシリコーン樹脂の分子量と前記第2のシリコーン樹脂の重量平均分子量との差は、300,000〜700,000であることが好ましい。
これにより、成形型全体としての柔軟性を十分に保持しつつ、より確実に成形型の形状を樹脂に転写することができる。また、反射防止膜から剥離する際に、凹凸の型くずれや破損等をより確実に防止することができる。また、反射防止膜から成形型をより容易に剥離することができる。
【0012】
本発明の反射防止膜の形成方法では、前記第1のシリコーン樹脂の重量平均分子量が、600,000以上であることが好ましい。
これにより、より確実に成形型の表面形状を転写することができる。
本発明の反射防止膜の形成方法では、前記第1の層の厚さが、0.5〜5.0mmであることが好ましい。
これにより、成形型全体としての柔軟性を十分に保持しつつ、より確実に成形型の形状を樹脂に転写することができる。
【0013】
本発明の反射防止膜の形成方法では、前記第2のシリコーン樹脂の重量平均分子量が、300,000〜350,000であることが好ましい。
これにより、成形型に、より適度な柔軟性を付与することができ、曲面への追従性が向上する。また、反射防止膜から剥離する際に、転写された微細形状を破壊することなく、より容易に剥離することができる。
【0014】
本発明の反射防止膜の形成方法では、前記第2の層の厚さが、1.0〜10.0mmであることが好ましい。
これにより、成形型に、より適度な柔軟性を付与することができ、曲面への追従性が向上する。また、反射防止膜から剥離する際に、転写された微細形状を破壊することなく、より容易に剥離することができる。
【0015】
本発明の反射防止膜の形成装置は、本発明の反射防止膜の形成方法に適用されることを特徴とする。
これにより、従来用いられてきた金型では反射防止膜の形成が困難であった曲面を有する基材であっても、容易かつ確実に反射防止膜を形成することができる。
本発明の反射防止膜の形成装置は、曲面を有する基材上に反射防止膜を形成する形成装置であって、
シリコーン樹脂で構成された成形型を、前記曲面上に供給された樹脂に、圧接させる圧接手段を備えることを特徴とする。
これにより、従来用いられてきた金型では反射防止膜の形成が困難であった曲面を有する基材であっても、容易かつ確実に反射防止膜を形成することができる。
【0016】
本発明の反射防止膜の形成装置では、前記圧接手段は、少なくとも、前記成形型と接する側の面が、可撓性を有するシート材で構成され、内部に流体が充填された圧接室を備えていることが好ましい。
これにより、樹脂が曲面に供給された場合であっても、成形体が樹脂全体を均一に圧接するため、得られる反射防止膜の表面形状を均一なものとすることができる。
本発明の反射防止膜は、本発明の方法により形成されたことを特徴とする。
これにより、高い反射防止効果を有する反射防止膜を提供することができる。
本発明の反射防止膜は、本発明の形成装置を用いて形成されたことを特徴とする。
これにより、高い反射防止効果を有する反射防止膜を提供することができる。
【0017】
本発明の反射防止膜は、曲面を有する基材の前記曲面上に設けられ、表面に所定のパターンの微細な凹凸を有する、主として樹脂で構成された反射防止膜であって、
前記凹凸のピッチおよびその高低差のいずれもが、可視光の波長未満であることを特徴とする。
これにより、高い反射防止効果を有する反射防止膜を提供することができる。
本発明の光学部品は、本発明の反射防止膜を備えることを特徴とする。
これにより、高い反射防止効果を有する光学部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の反射防止膜の形成方法、反射防止膜の形成装置、反射防止膜および光学部品の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
[反射防止膜]
まず、本発明の反射防止膜について説明する。
図1は、本発明の反射防止膜が設けられた光学部品を模式的に示す縦断面図、図2は、本発明の反射防止膜の表面形状を示す部分縦断面図である。
【0019】
図1に示すように、光学部品10(本発明の光学部品)は、一方の面に曲面11を備えた透明基材1と、曲面11上に設けられた反射防止膜2とを有している。
反射防止膜2の表面には、図2に示すように、微細な凹凸21が所定のパターンで形成されている。
この所定のパターンで形成された凹凸21は、いわゆる、モスアイ構造を構成している。このモスアイ構造は、微細な凹凸21により、光学部品10の外側の反射防止膜2の屈折率から基材1の屈折率まで漸次変化する領域となり、極めて低反射率の反射防止構造である。また、照射光の入射角度に依存せず、比較的幅広い波長にわたって反射防止効果を有している。
【0020】
本発明では、凹凸21が、後述するように、シリコーン樹脂で構成された成形型3を用いて形成されるため、型くずれ等がなく、反射防止膜2全面にわたって均一に形成されている。
図2中Pで示す凹凸21のピッチ、すなわち、隣接する凹凸21の最も高い頂部(最も低い底部)の距離は、可視光の波長未満となっている。
【0021】
また、図2中Hに示す凹凸21の高低差、すなわち、凹凸21の最も高い頂部と最も低い底部との高低差も、前述した凹凸21のピッチと同様に、可視光の波長未満となっている。
より具体的には、凹凸21のピッチおよびその高低差は、100〜400nm程度であるのが好ましく、150〜250nm程度であるのがより好ましい。これにより、より高い反射防止効果が得られる。
【0022】
反射防止膜2は、樹脂で構成されている。
反射防止膜2を構成する樹脂としては、例えば、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等の硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられ、いずれのものも用いることができる。
反射防止膜2の厚さ、すなわち、凹凸21の最も高い頂部から基材1と接する面までの距離は、特に限定はされないが0.1mm以下であるのが好ましい。これにより、光学部品10の特性を阻害することなく、優れた反射防止効果を発揮する。
【0023】
基材1を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、ガラス、樹脂等いずれのものも用いることができる。特に、基材1を構成する材料として、反射防止膜2と同じ種類の材料を用いた場合、基材1と反射防止膜2の密着性が向上し、反射防止膜2の剥離等を効果的に防止することができる。また、各々の屈折率に関しても基材1に対して反射防止膜2の材料は同等以下のものであれば、より反射防止効果が得られることができる。
【0024】
[反射防止膜の形成方法]
次に、本発明の反射防止膜の形成方法について、添付図面を参照しつつ説明する。
図3、図4は、本発明の反射防止膜の形成方法を示した図である。なお、以下の説明では、図中、上側を「上方」、下側を「下方」という。
まず、曲面11を有する透明基材1を用意する。
【0025】
次に、図3(a)に示すように、曲面11上に未硬化の紫外線硬化性樹脂2’(以下、単に樹脂2’ともいう)を供給する。
次に、成形型3を用意する。
この成形型3は、シリコーン樹脂で構成され、前述した反射防止膜2の微細な凹凸21のパターンに対応した凹凸311が形成されている。なお、成形型3については、後に詳述する。
【0026】
次に、図3(b)に示すように、成形型3を、成形型3の凹凸パターンと樹脂2’が向かい合うように設置する。
次に、図3(c)に示すように、成形型3を樹脂2’に圧接する。これにより、成形型3の凹凸パターンが、樹脂2’に転写される。このとき、成形型3は、従来用いられてきた金型と比較して、柔軟性(可撓性)を有しているため、曲面11の形状に追従することができる。その結果、確実に、成形型3の表面形状を転写することができ、曲面11の表面に均一な凹凸21を有する反射防止膜2を形成することができる。
【0027】
このように成形型3を樹脂2’に圧接する方法としては、例えば、後に詳述する、流体の圧力を用いて行うのが好ましい。これにより、成形型3全体に均一に圧力を加えることができる。
次に、図3(d)に示すように、透明基材1の下方より、紫外線を照射し、樹脂2’を硬化させる。これにより、樹脂層2”(固化物)が形成される。
【0028】
次に、図4(e)に示すように、成形型3を樹脂層2”から剥離する。
この際、柔軟性を有する成形型3を用いているため、転写された微細な凹凸形状を破損させることなく、容易に剥離することができる。また、反射防止膜2も型くずれ等することなく、繰り返し使用することができる。
以上のようにして、図4(f)に示すような反射防止膜2(光学部品10)が得られる。
【0029】
以上説明したように、本発明の反射防止膜の形成方法は、シリコーン樹脂で構成され、かつ、形成すべき反射防止膜の表面形状に対応したパターンの微細な凹凸が形成された成形型を用いて、反射防止膜を形成する点に特徴を有している。これにより、従来用いられてきた金型では反射防止膜の形成が困難であった、曲面を有する基材であっても、容易かつ確実に反射防止膜を形成することができる。
【0030】
また、本発明によれば、優れた反射防止効果を有する反射防止膜を安価に形成することができる。
また、特に、本発明の方法によれば、均一な凹凸パターンのモスアイ構造を容易に形成することができる。
なお、上記説明では、樹脂として、紫外線硬化性樹脂を用いた場合について説明したが、これに限定されず、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を用いてもよい。
【0031】
[反射防止膜の形成装置]
次に、本発明の反射防止膜の形成装置について説明する。
図5は、本発明の反射防止膜の形成装置の概略を示した縦断面図、図6は、本発明の反射防止膜の形成装置を用いて成形型を樹脂に圧接した際の部分断面図である。なお、以下の説明では、図中、上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」という。
【0032】
図5に示すように、反射防止膜の形成装置20(以下単に形成装置20ともいう)は、透明基材1を設置する設置台201と、成形型3と、成形型3が設置された圧接手段202と、設置台201に固定され、かつ、圧接手段202を支持する支持台203とを有している。
設置台201は、樹脂2’に対して、紫外線を照射する紫外線照射手段211が設けられている。
【0033】
圧接手段202は、可撓性を有するシート材222で構成され、内部に空気が充填された袋状の圧接室(圧接体)232と、シート材222を保持するシート材保持部242と、駆動部212とを有している。
駆動部212は、図示せぬ駆動手段により上下に駆動し、圧接手段202全体が上下に移動するよう構成されている。
【0034】
本実施形態の形成装置20は、曲面11の表面に樹脂2’が供給された透明基材1を設置台201に設置した状態で、圧接手段202を下方に移動することにより、成形型3を樹脂2’に圧接するよう構成されている。
このように、圧接手段202によって、成形型3を樹脂2’に圧接させると、図6に示すように、圧接室223がゆがむ。圧接室223は、内部に充填された空気の圧力により、もとの形状に戻ろうとする。このとき、圧接室223内の空気がシート材222を押す力、すなわち、空気圧は、圧接室223内では、どこにおいても一定であるため、シート材222が成形型3を押す力も成形型3のどの部位においても一定となる。これにより、樹脂2’が曲面に供給された場合であっても、成形型3が樹脂2’全体を均一に圧接するため、得られる反射防止膜2の表面形状を均一なものとすることができる。
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、反射防止膜を形成すべき基材の形状によらず、均一な形状の凹凸パターンを有する反射防止膜を、容易かつ確実に形成することができる。すなわち、本発明によれば、多品種少量生産に好適に適用でき、コスト的にも有利である。
なお、前述した実施形態では、圧接室内に空気が充填されているものとして説明したが、流体であればいかなるものであってもよく、空気以外の気体や液体等であってもよい。例えば、比較的破損しやすい基材上に反射防止膜を形成する場合には、比較的小さく、適度な圧力が加えられる気体を用いるのが好ましい。また、反射防止膜の材料として比較的強固なものを用いる場合、大きな圧力を加えることが可能な液体を用いるのが好ましい。
【0036】
また、前述した実施形態では、圧接手段に成形型を設置するものとして説明したが、これに限定されず、設置されていなくてもよい。
また、前述した実施形態では、紫外線照射手段が設けられた構成について説明したが、これに限定されない。例えば、反射防止膜の構成材料として熱硬化性樹脂を用いた場合、加熱手段が設けられていてもよい。
【0037】
[成形型3]
次に、本発明の反射防止膜の形成に用いられる成形型について説明する。
本発明の反射防止膜の形成に用いられる成形型は、シリコーン樹脂で構成されたものであれば、いかなる構成のものであってもよいが、例えば、以下に説明するような、分子量の異なるシリコーン樹脂で構成された2層以上の積層体であるのが好ましい。
【0038】
図7は、本発明の反射防止膜の形成に用いる成形型の一例を示す縦断面図、図8は、成形型の製造方法を示す図である。
図7に示すように、成形型3は、第1のシリコーン樹脂で構成され、一方の面に反射防止膜2の表面形状に対応したパターンの凹凸311が形成された第1の層31と、第1の層31の他方の面側に配され、第1のシリコーン樹脂よりも重量平均分子量の低い第2のシリコーン樹脂で構成された第2の層32とを有している。
【0039】
このように、比較的硬い第1のシリコーン樹脂で構成されている第1の層31と、第1のシリコーン樹脂よりも重量平均分子量が低い第2のシリコーン樹脂、すなわち、比較的柔らかい第2のシリコーン樹脂で構成されている第2の層32とを組み合わせることにより、成形型3全体としての柔軟性は保持しつつ、確実に成形型3の形状を樹脂2’に転写することができる。また、反射防止膜2から剥離する際に、成形型3の凹凸311の型くずれや、破損等を防止することができる。その結果、繰り返し使用することができる。
【0040】
ここで、シリコーン樹脂とは、有機ケイ素ポリマーの1つである、シリコーン(ポリオルガノシロキサン)ゴムである。ポリシロキサンは、ケイ素−酸素結合が繰り返す高分子鎖構造を有しており、このケイ素−酸素結合が極低温から高温まで、幅広い温度域で柔軟性を保つことができる。
シリコーン樹脂の種類としては室温硬化型(触媒付加、水分等によって硬化するタイプ)、紫外線硬化型、電子線硬化型、無溶剤型等いずれのものでも用いることができる。このようなシリコーン樹脂は、成形型の材料として用いた場合、剥離する際には変形して容易に剥離することができ、剥離した後には形状がすぐに復元されるため、成形型の材料として好適に用いることができる。
【0041】
第1のシリコーン樹脂、第2のシリコーン樹脂は、前述した種類のうち、いずれものもの用いてもよいが、互いに同じ種類のものを用いるのが好ましい。これにより、第1の層31と第2の層32との密着性がより高いものとなる。その結果、成形型3の耐久性を向上させることができる。
第1のシリコーン樹脂の重量平均分子量は、第2のシリコーン樹脂の重量平均分子量よりも高いのものであれば、特に限定されないが、60,0000以上であるのが好ましく、600,000〜1,000,000であるのがより好ましい。これにより、より確実に成形型3の表面形状を転写することができる。また、反射防止膜2から剥離する際に、反射防止膜2に転写した形状の破損等をより確実に防止し、また、成形型の凹凸311の型くずれや破損等をより確実に防止することができる。これに対し、第1のシリコーン樹脂の重量平均分子量が低すぎると、第1の層31の厚さや第2の層32の厚さ等によっては、第1の層31に十分な硬度を付与することができず、反射防止膜2から成形型3を剥離する際に、凹凸311のパターンの型くずれや破損等を十分に防止するのが困難となる場合がある。一方、第1のシリコーン樹脂の重量平均分子量が高すぎると、第1の層31の厚さや第2の層32の厚さ等によっては、成形型3全体としての柔軟性が十分に得られず、反射防止膜2から成形型3を容易に剥離するのが困難となる場合がある。
【0042】
第1のシリコーン樹脂の引張強度は、280kg/cm以上であるのが好ましく、280〜450kg/cmであるのがより好ましい。これにより、反射防止膜2から剥離する際に、反射防止膜2に転写した形状の破損等をより確実に防止し、また、成形型3の凹凸311の型くずれや破損等をより確実に防止することができる。
図中Aで示す第1の層31の厚さ、すなわち、第1の層31と第2の層32との界面から凹凸311の縁部までの距離は、凹凸311の深さ以上であれば、特に限定されないが、0.5〜5.0mmであるのが好ましく、0.5〜2.0mmであるのがより好ましい。これにより、成形型3全体としての柔軟性を十分に保持しつつ、反射防止膜2から剥離する際に、凹凸311の型くずれや破損等をより確実に防止することができる。
【0043】
第2の層32を構成する第2のシリコーン樹脂の重量平均分子量は、前述した第1のシリコーン樹脂の重量平均分子量よりも小さければ、特に限定されないが、300,000〜350,000であるのが好ましい。これにより、成形型3に、より適度な柔軟性を付与することができ、曲面への追従性が向上する。また、反射防止膜2から剥離する際に、転写された微細形状を破壊することなく、より容易に剥離することができる。これに対し、第2のシリコーン樹脂の重量平均分子量が低すぎると、第1の層31の厚さや第1のシリコーン樹脂の重量平均分子量等によっては、成形型3としての形状を十分に維持するのが困難となる場合がある。一方、第2のシリコーン樹脂の重量平均分子量が高すぎると、第1の層31の厚さや第2の層32の厚さ等によっては、成形型3として十分な柔軟性が得られず、反射防止膜2から成形型3を容易に剥離することができなくなる場合がある。
【0044】
第1のシリコーン樹脂と第2のシリコーン樹脂との重量平均分子量の差は、300,000〜700,000であるのが好ましい。これにより、成形型3全体としての柔軟性を十分に保持しつつ、より確実に成形型3の形状を樹脂2’に転写することができる。また、反射防止膜2から剥離する際に、凹凸311の型くずれや破損等をより確実に防止することができる。また、反射防止膜2から成形型3をより容易に剥離することができる。
【0045】
第2の層32の厚さは、特に限定されるものではないが、1.0〜10.0mmであるのが好ましく、1.0〜5.0mmであるのがより好ましい。これにより、成形型3に、より適度な柔軟性を付与することができ、曲面への追従性が向上する。また、反射防止膜2から剥離する際に、転写された微細形状を破壊することなく、より容易に剥離することができる。これに対し、第2の層32の厚さが薄すぎると、第1の層31の厚さや第2の層32の厚さ等によっては、成形型3として十分な柔軟性が得られず、反射防止膜2から成形型3を容易に剥離することができなくなる場合がある。
【0046】
前述した第1の層31と第2の層32との厚さの比は、特に限定されるものではないが、1:2〜1:10であるのが好ましく、1:5〜1:10であるのがより好ましい。第1の層31の厚さと第2の層32の厚さがこのような関係を満足することにより、成形型3全体としての柔軟性を十分に保持しつつ、より確実に成形型3の形状を樹脂2’に転写することができる。また、反射防止膜2から剥離する際に、凹凸311の型くずれや破損等をより確実に防止することができる。また、反射防止膜2から成形型3をより容易に剥離することができる。
【0047】
なお、前述した実施形態では、成形型3が、シリコーン樹脂の重量平均分子量の異なる第1の層31と第2の層32とで構成されたものとして説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、第1の層31と第2の層32との間に、第3の層があってもよい。第3の層を構成するする材料としては、特に限定されないが、シリコーン樹脂を用いるのが好ましい。このような場合、第3の層を構成するシリコーン樹脂としては、第1のシリコーン樹脂と第2のシリコーン樹脂との中間的な重量平均分子量を有するものを用いるのが好ましい。これにより、例えば、加熱時等の温度変化の際に、第1の層31を構成する第1のシリコーン樹脂と第2の層32を構成する第2のシリコーン樹脂の熱膨張係数の違いによって生じる成形型3の歪み等を緩和することができる。また、成形型3は、シリコーン樹脂の重量平均分子量が次第に変化していくよう構成されたものであってもよい。
【0048】
[成形型3の製造]
つぎに、成形型3の製造方法について説明する。
図8は、本発明の成形型の製造方法を模式的に示す図である。
まず、図8(a)に示すように、マスター原盤5を用意する。このマスター原盤5には、前述した凹凸311に対応した形状の凹凸51が所定パターンで形成されている。
【0049】
そして、このマスター原盤5を、型取りトレイ6の内部に、例えば凹凸51が鉛直上方に開放するように設置する。
次に、図8(b)に示すように、マスター原盤5上に、未硬化の第1のシリコーン樹脂29を供給する。
なお、シリコーン樹脂を供給するときに空気を巻き込んで気泡が入る場合がある。この場合、シリコーン樹脂の上面部は開放状態にあるため、所定時間放置してシリコーン樹脂の自重により気泡を追い出すか、真空脱泡することが好ましい。
【0050】
次に、この第1のシリコーン樹脂29を仮硬化させる。
例えば触媒付加による室温硬化の場合、仮硬化の時間は2〜5時間程度であるのが好ましい。
次に、図8(c)に示すように仮硬化した第1のシリコーン樹脂29上に、未硬化の第2のシリコーン樹脂39を供給する。
【0051】
次に、全体を硬化(本硬化)させる。
触媒付加による室温硬化の場合、本硬化の時間は12〜24時間程度であるのが好ましい。この硬化方法は使用するシリコーン樹脂の種類によって変わり、たとえば熱硬化型樹脂の場合は、加熱温度と加熱時間を仮硬化と本硬化で変えることで第1、第2シリコーンを固化させ一体ものとさせることができる。
【0052】
その後、固化した成形型3を、マスター原盤5から剥離する。反射防止膜2は容易に変形するので、マスター原盤5から剥離する際も容易に剥離することができる。
これにより、図7に示すような成形型3が得られる。
以上、本発明の反射防止膜の形成方法、反射防止膜の形成装置、反射防止膜および光学部品について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0053】
例えば、本発明の反射防止膜の形成方法では、必要に応じて、任意の目的の工程を追加することもできる。
また、本発明の反射防止膜の形成装置では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
また、前述した実施形態では、反射防止膜を形成する基材として、透明な基材を用いた場合について説明したが、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の反射防止膜が設けられた光学部品を模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の反射防止膜の表面形状を示す部分縦断面図である。
【図3】本発明の反射防止膜の形成方法を示した図である。
【図4】本発明の反射防止膜の形成方法を示した図である。
【図5】本本発明の反射防止膜の形成装置の概略を示した縦断面図である。
【図6】本発明の反射防止膜の形成装置を用いて成形型を樹脂に圧接した際の部分断面図である。
【図7】本発明の反射防止膜の形成に用いる成形型の一例を示す縦断面図である。
【図8】成形型の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1……透明基材 10……光学部品11……曲面 2……反射防止膜 21……凹凸 2’……樹脂 2”……樹脂層 29……第1のシリコーン樹脂 3……成形型 31……第1の層 32……第2の層 311……凹凸 39……第2のシリコーン樹脂 5……マスター原盤 51……凹凸 6……型取りトレイ 20……反射防止膜の形成装置 201……設置台 202……圧接手段 203……支持台 211……紫外線照射手段 212……駆動部 222……シート材 232……圧接室 242……シート材保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面を有する基材の前記曲面上に成形型を用いて、表面に所定のパターンの微細な凹凸を有する反射防止膜を形成する方法であって、
前記成形型は、シリコーン樹脂で構成され、かつ、形成すべき前記反射防止膜の表面形状に対応したパターンの微細な凹凸が形成されており、
前記曲面上に、樹脂を供給する工程と、
前記曲面上に供給した前記樹脂に、前記成形型を圧接する工程と、
前記樹脂を固化させ、固化物を得る工程と、
前記固化物から前記成形型を剥離する工程とを有することを特徴とする反射防止膜の形成方法。
【請求項2】
流体の圧力を用いて、前記成形型を前記樹脂に圧接する請求項1に記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項3】
前記流体は、気体である請求項2に記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項4】
可撓性を有する材料で構成され、前記流体が収納された袋状の圧接体を用いて、圧接する請求項2または3に記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項5】
前記凹凸のピッチおよびその高低差のいずれもが、可視光の波長未満である請求項1ないし4のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項6】
前記成形型は、第1のシリコーン樹脂で構成され、かつ、一方の面に、形成すべき前記反射防止膜の表面形状に対応したパターンの凹凸を有する第1の層と、
前記第1の層の他方の面側に配され、前記第1のシリコーン樹脂よりも重量平均分子量の低い第2のシリコーン樹脂で構成された第2の層とを有する請求項1ないし5のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項7】
前記第1のシリコーン樹脂の分子量と前記第2のシリコーン樹脂の重量平均分子量との差は、300,000〜700,000である請求項1ないし6のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項8】
前記第1のシリコーン樹脂の重量平均分子量が、600,000以上である請求項1ないし7のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項9】
前記第1の層の厚さが、0.5〜5.0mmである請求項1ないし8のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項10】
前記第2のシリコーン樹脂の重量平均分子量が、300,000〜350,000である請求項1ないし9のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項11】
前記第2の層の厚さが、1.0〜10.0mmである請求項1ないし10のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の反射防止膜の形成方法に適用されることを特徴とする反射防止膜の形成装置。
【請求項13】
曲面を有する基材上に反射防止膜を形成する形成装置であって、
シリコーン樹脂で構成された成形型を、前記曲面上に供給された樹脂に、圧接させる圧接手段を備えることを特徴とする反射防止膜の形成装置。
【請求項14】
前記圧接手段は、少なくとも、前記成形型と接する側の面が、可撓性を有するシート材で構成され、内部に流体が充填された圧接室を備えている請求項13に記載の反射防止膜の形成装置。
【請求項15】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法により形成されたことを特徴とする反射防止膜。
【請求項16】
請求項12ないし14のいずれかに記載の形成装置を用いて形成されたことを特徴とする反射防止膜。
【請求項17】
曲面を有する基材の前記曲面上に設けられ、表面に所定のパターンの微細な凹凸を有する、主として樹脂で構成された反射防止膜であって、
前記凹凸のピッチおよびその高低差のいずれもが、可視光の波長未満であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項18】
請求項15ないし17のいずれかに記載の反射防止膜を備えることを特徴とする光学部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−39450(P2006−39450A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222992(P2004−222992)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】