説明

反射防止薄膜積層体および光学表示装置

【課題】本発明の目的は、可視光領域の広い範囲にわたって反射率を充分に低くすることができ、撥水性、指紋拭き取り性、耐食性、耐候性および密着性に優れた反射防止薄膜積層体およびその反射防止薄膜積層体を前面に備えた光学表示装置を提供することにある。また、この反射防止薄膜積層体を光学物品の光学機能性フィルタとして用いることにある。
【解決手段】少なくとも基材上に、高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層とを交互に積層してなる導電性多層膜を形成して、その最外層に防汚性機能と同時に防食性機能を備える防汚防食層を設けてなることを特徴とする反射防止薄膜積層体およびこの積層体を前面に備えた光学表示装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の反射率が低く、透過率が高く、視認性に優れ、表面の汚れを容易に拭き取り可能であり、かつ耐食性の高い反射防止薄膜積層体に関し、この反射防止薄膜積層体は光学機能性フィルタや光学表示装置の前面に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
CRT、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の光学表示装置においては、外光の表示画面上への写り込みによって画像を認識しづらくなるという問題がある。光学表示装置は、最近では屋内だけでなく屋外にも持ち出される機会が増加し、表示画面上への外光の写り込みは一層深刻な問題になっている。光学表示装置のみならず、窓ガラス、眼鏡、ゴーグル等の光学物品においても同様に、外光の写り込みは視認性を悪化させてしまうという問題がある。このように、光学表示装置および光学物品においては、外光の写り込みを低減し、視認性を上げることが要求されている。そこで、外光の写り込みを低減するために、可視光領域の光に対して反射率の低い反射防止薄膜積層体を光学表示装置または光学物品の前面に設けることが行われる。
【0003】
また、反射防止薄膜積層体に導電性を持たせることにより、電磁波シールド性能を付与できる。例えば、電磁波シールド性を付与した反射防止薄膜積層体をPDPの画像表示部の前面に設けることにより、PDP内部から発生する不要電磁波をシールドすることができる。また、電磁波シールド性を付与した反射防止薄膜積層体を、無線LANを用いた施設の窓ガラスに貼ることにより、建物の外から侵入してくる電磁波をシールドし、通信の混線を防止することができる。
【0004】
このような反射防止薄膜積層体としては、高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層とが、高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層との組み合わせを繰り返し単位として1回以上6回以下繰り返して積層され、さらにその上に高屈折率透明薄膜層が積層された積層構造を有するものが知られている。
【0005】
しかしながら、この反射防止積層体は、高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層との組み合わせ回数が3回以上であるため、厚膜になって透明性が低下し、また、成膜工程が増えるため、生産性が悪くなる。一方、高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層との組み合わせ回数を減らすと、可視光領域の低波長側および高波長側の光に対する反射率が高くなり、反射率が充分に低くなる光の波長の範囲が狭くなってしまう。
【0006】
金属薄膜層に銀を使用すると可視光領域で高い透過率を有する反射防止薄膜積層体を得ることができる。一方で、銀は耐食性能に劣り、経時で凝集、マイグレーション等を引き起こして欠陥となり得る。凝集、マイグレーション等の発生の原因は、大気中の酸素、硫黄、ハロゲン、アルカリ等に起因しているが、特に、高温高湿環境や、海辺の湿気った塩素雰囲気の環境など、凝集、マイグレーション等の発生因子が複数存在すると発生頻度は単独の因子が存在する場合に比べて高くなる傾向がある。
【0007】
銀薄膜の劣化を抑制する方法としては、銀に他の金属を添加する方法、銀薄膜層に隣接した保護層を設ける方法がある。銀に他の金属を添加する方法に関しては、元素周期律表上で銀に近い元素の材料が凝集、マイグレーション等の発生の抑止効果が大きい。銀薄膜層に隣接した保護層を設ける方法に関しては、保護膜の材料自体が外界からの侵入物質に対して耐性を持つ、あるいは侵入物質を吸着するような材料が用いられる。銀に他の金属を添加する、および/あるいは銀薄膜層に隣接した保護層を設けることで凝集、マイグレ
ーション等が発生し始める時間を延長し、かつ発生頻度を低減することが可能である。
【0008】
一方、CRT、液晶表示装置、PDP等の光学表示装置の信頼性要求は年々高くなっているため、光学フィルタに対する信頼性の向上は必須の課題である。銀に他の金属を添加する方法、銀薄膜層に隣接した保護層を設ける方法以外に防食剤による銀の凝集、マイグレーション等の発生を抑止する方法がある。防食剤は銀の劣化を抑止するのに効果的である。加えて、市販の多種多様な材料が入手可能であり、使用方法も広く選べるため利便性が高い。銀に他の金属を添加する方法、銀薄膜層に隣接した保護層を設ける方法と組み合わせることで更なる銀劣化抑止の相乗効果が得られる。
【0009】
反射防止薄膜積層体の表面に防汚機能を付与することによって外界からの水分、油分、汗等の銀を劣化させる起因物質を弾き、且つ、表面の拭き取り性能を向上することができる。特に、水分、汗は銀を凝集、マイグレーションさせる塩化物、硫化物を含んでいるため防汚性能の付与は信頼性の観点から好ましい。加えて、防汚機能の付与によって表面の滑り性が増大するためテープピール試験のような密着性評価、及び擦過試験のような機械強度評価に対して有利に働く。
【0010】
銀薄膜層へ防食機能を付与する工程としては、反射防止薄膜積層体の表面に防汚層を設ける前、あるいは後の2通りがある。後者の場合、防汚剤の撥水、撥油機能のため防食剤が銀薄膜層まで浸透せず、銀薄膜層の劣化抑止のための防食機能を発現させることができない。一方、前者の場合、防食剤が反射防止薄膜積層体の基材近くにまで到達し、各層の界面に過剰に防食剤が入り込む。結果として界面の密着力が低下し、防汚機能のみ付与し、且つ防食機能は付与しない反射防止薄膜積層体に比べて膜が剥がれ易くなることが確認されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の技術的背景を考慮してなされたものであって、可視光領域の広い範囲にわたって反射率を充分に低くすることができ、撥水性、指紋拭き取り性、耐食性、耐候性および密着性に優れた反射防止薄膜積層体およびその反射防止薄膜積層体を前面に備えた光学表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、すなわち、請求項1に係る発明は、少なくとも基材上に、高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層とを交互に積層してなる導電性多層膜を形成して、その最外層に防汚性機能と同時に防食性機能を備える防汚防食層を設けてなることを特徴とする反射防止薄膜積層体である。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記金属薄膜層が銀又は銀を含む合金であることを特徴とする請求項1記載の反射防止薄膜積層体である。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記導電性多層膜と防汚防食層との間に低屈折率透明薄膜層を設けてなることを特徴とする請求項1又は2記載の反射防止薄膜積層体である。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射防止薄膜積層体を光学機能性フィルターとして用いることを特徴とする反射防止薄膜積層体である。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射防止薄膜積層体を光学表示装置の前面に設けたことを特徴とする光学表示装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、可視光領域の広い範囲にわたって反射率を充分に低くすることができ、撥水性、指紋拭き取り性、耐食性、耐候性および密着性に優れた反射防止薄膜積層体を提供することができる。
【0018】
本発明の反射防止薄膜積層体を、CRT、液晶表示装置、PDP等の光学表示装置の前面に用いた光学表示装置を提供することができる。また、本発明の反射防止薄膜積層体は窓ガラス、眼鏡、ゴーグル等の光学物品に設けられる光学機能性フィルタとしても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の反射防止薄膜積層体の一例を示す断面図である。この反射防止薄膜積層体300は、透明基材2と、透明基材2上に設けられたハードコート層3と、ハードコート層3上に設けられたプライマー層4と、プライマー層4上に設けられた高屈折率透明薄膜層5と、高屈折率透明薄膜層5上に設けられた保護層6と、保護層6上に設けられた金属薄膜層7と、金属薄膜層7上に設けられた保護層8と、保護層8上に設けられた高屈折率透明薄膜層9と、高屈折率透明薄膜層9上に設けられた低屈折率透明薄膜層10と、低屈折率透明薄膜層10上に設けられた機能性薄膜層11と、透明基材2の他方の面に設けられた粘着層1とを有して概略構成されるものである。
【0020】
(基材)
透明基材2としては、透明性を有する無機化合物成形物または有機化合物成形物が挙げられる。本発明における透明性とは、可視光領域の波長の光が透過すればよいことを意味する。成形物の形状としては、表面が平滑であれば特に限定されず、板状、ロール状等が挙げられる。また、透明基材2は、透明性を有する無機化合物成形物または有機化合物成形物の積層体であってもよい。
【0021】
透明性を有する無機化合物成形物としては、例えば、ソーダライムガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、無アルカリガラス、鉛ガラス等が挙げられる。
【0022】
透明性を有する有機化合物成形物としては、プラスチックが挙げられる。プラスチックとしては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリウレタン、ポリエチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
【0023】
透明基材2の厚さは、目的の用途に応じて適宜選択され、通常25〜300μmである。有機化合物成形物には、公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤等が含有されていてもよい。
【0024】
(ハードコート層)
ハードコート層3は、鉛筆等による引っ掻き傷、スチールウールによる擦り傷等の機械的外傷から透明基材2表面または透明基材2上に形成された各層を防護する層である。ハードコート層3を形成する材料としては、透明性、適度な硬度および機械的強度を有するものであればよく、アクリル系樹脂、有機シリコン系樹脂、ポリシロキサン等の樹脂材料が挙げられる。
【0025】
アクリル系樹脂としては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ−(メタ)アクリロイルオキシプロピオネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2.2.1]ヘプタン、ポリ1,2−ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10−デカンジオール(メタ)アクリレート、3,8−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.10]デカン、水素添加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、1,4−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、エポキシ変成ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
有機シリコン系樹脂としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラペンタエトキシシラン、テトラペンタイソプロキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0027】
ハードコート層3は、これら樹脂材料を透明基材2上に成膜し、熱硬化、紫外線硬化、または電離放射線硬化法によって硬化させることによって形成される。ハードコート層3の厚さは、物理膜厚で0.5μm以上、好ましくは3〜20μm、より好ましくは3〜6μmである。
【0028】
ハードコート層3に、平均粒子径が0.01〜3μmの透明微粒子を分散させて、アンチグレアと呼ばれる処理を施してもよい。ハードコート層3中の微粒子により表面が微細な凹凸状になって光の拡散性が向上し、光の反射をより低減できる。
【0029】
ハードコート層3は、表面処理が施されていることが好ましい。表面処理を施すことにより、隣接する層との密着性を向上させることができる。ハードコート層3の表面処理としては、例えば、コロナ処理法、蒸着処理法、電子ビーム処理法、高周波放電プラズマ処理法、スパッタリング処理法、イオンビーム処理法、大気圧グロー放電プラズマ処理法、アルカリ処理法、酸処理法等が挙げられる。
【0030】
(プライマー層)
プライマー層4は、ハードコート層3と導電性多層膜100との間の密着性を向上させる層である。プライマー層4の材料としては、例えば、シリコン、ニッケル、クロム、錫、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、ジルコニウム、パラジウム等の金属;これら金属の2種類以上からなる合金;これらの酸化物、弗化物、硫化物、窒化物等が挙げ
られる。酸化物、弗化物、硫化物、窒化物の化学組成は、密着性が向上するならば、化学量論的な組成と一致しなくてもよい。
【0031】
プライマー層4の厚さは、透明基材2の透明性を損なわない程度であればよく、好ましくは物理膜厚で0.1〜10nmである。
プライマー層4は、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、化学蒸着(CVD)法等の従来公知の方法で形成できる。
【0032】
(導電性多層膜)
本発明における反射防止薄膜積層体300は、導電性多層膜100に、電磁波シールド性、赤外線カット性を付与するものであり、高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層とが1層ずつ交互に設けられ、高屈折率透明薄膜層の数がn+1であり、金属薄膜層の数がnである(ただし、nは1以上の整数である)。図示例の導電性多層膜100はn=1の例である。導電性多層膜100は、透明基材2側から順に、高屈折率透明薄膜層5、保護層6、金属薄膜層7、保護層8および高屈折率透明薄膜層9から構成される。
【0033】
高屈折率透明薄膜層5、9は、波長550nmの光の屈折率が1.7以上であり、かつ波長550nmの光の消衰係数が0.5以下である層である。
【0034】
高屈折率透明薄膜層5、9の材料としては、インジウム、錫、チタン、シリコン、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、マグネシウム、ビスマス、セリウム、クロム、タンタル、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、アンチモン、ネオジウム、ランタン、トリウム、ハフニウム等の金属;これらの金属の酸化物、弗化物、硫化物、窒化物;酸化物、弗化物、硫化物、窒化物の混合物等が挙げられる。酸化物、弗化物、硫化物、窒化物の化学組成は、透明性を保持した化学組成であれば、化学量論的な組成と一致しなくてもよい。
【0035】
高屈折率透明薄膜層5と高屈折率透明薄膜層9とは、必ずしも同一の材料でなくてもよく、目的に合わせて適宜選択される。高屈折率透明薄膜層5、9は、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、CVD法、湿式塗工法等の従来公知の方法で形成できる。
【0036】
金属薄膜層7は、波長550nmの光の屈折率が1.0以下、消衰係数が10.0以下であることが好ましい。金属薄膜層7の材料としては例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、パラジウム等の金属;これら金属の2種類以上を含んだ合金;これらの金属の酸化物、弗化物、硫化物、窒化物;酸化物、弗化物、硫化物、窒化物の混合物等が挙げられる。これらのうち、銀、銀を含む合金、銀を含む混合物が好適である。銀は、波長550nmの光の屈折率が0.055と小さく、一方、消衰係数は3.32と大きい。屈折率に対する消衰係数の比が他の金属に比べて大きいため金属性が高い、つまり導電性が高い。
【0037】
銀の薄膜は、酸素、硫黄、ハロゲン、アルカリ等によって劣化しやすく、結果として凝集、マイグレーション等を発生する。一方、銀に他の金属元素を含有させると銀の化学的安定性が向上することが知られている。銀に含有させる金属元素としては、例えば、金、銅、白金、錫、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ネオジウム、パラジウム、亜鉛、インジウム、ゲルマニウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、レニウム、ロジウム、イットリウム、ハフニウム等が挙げられる。これら金属元素は、2種類以上を銀に含有させてもよい。これらの金属元素を銀に含有させる場合、その含有量は、金属薄膜層7または反射防止薄膜積層体300の光学性能を悪化させずに、耐食性に寄与する程度であればよく、0.1原子%〜20原子%程度である。
【0038】
金属薄膜層7は、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビーム
アシスト法、CVD法、湿式塗工法等の従来公知の方法により形成できる。スパッタリング法を用いる場合は、直流電源にて成膜が可能であり、大きな成膜速度が得られるため生産性に優れる。
【0039】
保護層6、8は、金属薄膜層7を腐食から保護するための層である。保護層6、8の材料としては、例えば、亜鉛、シリコン、ニッケル、クロム、金、白金、アルミニウム、マグネシウム、ニオブ、ルテニウム、レニウム、ロジウム、アンチモン、チタン、パラジウム、ビスマス、錫等の金属;これらの金属の2種類以上を含有した合金;これらの金属の酸化物、弗化物、硫化物、窒化物が挙げられる。
【0040】
金属薄膜層7の両面に保護層を設ける場合、これらの保護層は、同じ材料、同じ成膜方法および同じ膜厚でなくてもよい。また、保護層を設ける位置は、図示例のように高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層との間に限定はされず、透明基材と防汚層の間に設けられていればよい。さらに、金属薄膜層7に耐食性に優れた材料を使用した場合は保護層を設けなくても構わない。
【0041】
なお、導電性多層膜は、図示例のような、保護層を除いた3層構造(n=1)の導電性多層膜100に限定はされず、高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層とが交互に設けられ、かつ最上層および最下層が高屈折率透明薄膜層であるものであれば、3層の高屈折率透明薄膜層と2層の金属薄膜層とが交互に設けられた5層構造(n=2)のもの、または7層以上(nが3以上)のものであってもよい。
【0042】
(低屈折率透明薄膜層)
低屈折率透明薄膜層6は、波長550nmの光の屈折率が1.7未満であり、かつ波長550nmの光の消衰係数が0.5以下である層である。
【0043】
低屈折率透明薄膜層10の材料としては例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化チタン、弗化マグネシウム、弗化バリウム、弗化カルシウム、弗化セリウム、弗化ハフニウム、弗化ランタン、弗化ナトリウム、弗化アルミニウム、弗化鉛、弗化ストロンチウム、弗化イッテリビウム等が挙げられる。低屈折率透明薄膜層10は、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、CVD法、湿式塗工法等の方法で形成できる。
【0044】
低屈折率透明薄膜層10を設けることにより、反射率が充分に低くなる光の波長の範囲を380〜780nmの広い範囲にわたって拡大することができる。
【0045】
(機能性薄膜層)
機能性薄膜層11は、防汚性および防食性の両機能を持つ層である。機能性薄膜層11には防汚剤および防食剤を同時に成膜することで防汚性および防食性の両機能を付与する。
【0046】
防汚性の付与によって、反射防止薄膜積層体1の表面についた水滴、指紋等の拭き取りを容易にし、かつ表面への衝撃による擦り傷等の外傷を防止する。防汚剤としては、撥水性、撥油性および低摩擦性を有するものとして反応性官能基と結合している珪素原子を有するフッ素含有珪素化合物が挙げられる。
【0047】
反応性官能基としては、加水分解性基、ハロゲン原子等が挙げられる。加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基;アリロキシ基、イソプロペノキシ基等のアルケニルオキシ基;アセトキシ基、プロピオニ
ルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、シクロペンタノキシム基、シクロヘキサノキシム基等のケトオキシム基;N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のアミノ基;N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、N−メチルベンズアミド基等のアミド基;N,N−ジメチルアミノオキシ基、N,N−ジエチルアミノオキシ基等のアミノオキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらのうち、メトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基が好適である。
【0048】
防汚剤の撥水性能は、防汚剤の分子鎖中にパーフルオロアルキレン基、パーフルオロ(ポリ)オキシアルキレン基等を有することによって発現する。分子鎖の構造の大半がこれらの基で占められているため、確実に水が弾かれる。
【0049】
珪素原子を有するフッ素含有珪素化合物が分子構造中にエーテル結合を含んでいる場合、化合物がエーテル結合部分で屈曲性を持ち、結果として分子鎖の形態の自由度が大きくなる。様々な形態をもったフッ素含有珪素化合物が表面を覆うため、膜が緻密になり撥水性、指紋等の拭き取り性等の防汚性能が向上する。
【0050】
防食性の付与は金属薄膜層の腐食による劣化を抑止するために行う。JIS Z0103−2004は腐食を「金属がそれをとり囲む環境物質によって、化学的または電気化学的に浸食されるか若しくは材質的に劣化する現象。」と定義している。更に、耐食性を「金属が腐食に耐える性質。」、防食を「金属が腐食するのを防止すること。」としている。従って、本発明に使用する防食剤としては金属を防食する性能を有するものであれば如何なる材料でも構わない。
【0051】
防食剤としては、アミン類およびその誘導体、ピロール環を有する物、トリアゾール環を有する物、ピラゾール環を有する物、チアゾール環を有する物、イミダゾール環を有する物、インダゾール環を有する物、銅キレート化合物類、チオ尿素類、メルカプト基を有する物、ナフタレン系の少なくとも一種またはこれらの混合物から選ばれることが望ましい。
【0052】
アミン類およびその誘導体としては、エチルアミン、ラウリルアミン、トリ−n−ブチルアミン、O−トルイジン、ジフェニルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2N−ジメチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、アセトアミド、アクリルアミド、ベンズアミド、p−エトキシクリソイジン、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジシクロヘキシルアンモニウムサリシレート、モノエタノールアミンベンゾエート、ジシクロヘキシルアンモニウムベンゾエート、ジイソプロピルアンモニウムベンゾエート、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、シクロヘキシルアミンカーバメイト、ニトロナフタレンアンモニウムナイトライト、シクロヘキシルアミンベンゾエート、ジシクロヘキシルアンモニウムシクロヘキサンカルボキシレート、シクロヘキシルアミンシクロヘキサンカルボキシレート、ジシクロヘキシルアンモニウムアクリレート、シクロヘキシルアミンアクリレート等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0053】
ピロール環を有する物としては、N−ブチル−2,5−ジメチルピロール,N−フェニル−2,5ジメチルピロール、N−フェニル−3−ホルミル−2,5−ジメチルピロール,N−フェニル−3,4−ジホルミル−2,5−ジメチルピロール等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0054】
トリアゾール環を有する物としては、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3−ヒドロキシ−1,2,4−トリアゾール、3−メチル−1,2,4−トリアゾール、1−メチル−1,2,4−トリアゾール、1−メチル−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、4−メチル−1,2,3−トリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、4,5,6,7−テトラハイドロトリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メチル−1,2,4−トリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ3’5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0055】
ピラゾール環を有する物としては、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾロン、ピラゾリジン、ピラゾリドン、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−ヒドロキシピラゾール、4−アミノピラゾール等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0056】
チアゾール環を有する物としては、チアゾール、チアゾリン、チアゾロン、チアゾリジン、チアゾリドン、イソチアゾール、ベンゾチアゾール、2−N,N−ジエチルチオベンゾチアゾール、P−ジメチルアミノベンザルロダニン、2−メルカプトベンゾチアゾール等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0057】
イミダゾール環を有する物としては、イミダゾール、ヒスチジン、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5ジヒドロキシメチルイミダゾール、4−フォルミルイミダゾール、2−メチル−4−フォルミルイミダゾール、2−フェニル−4−フォルミルイミダゾール、4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−エチル−4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−4−フォルミルイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0058】
インダゾール環を有する物としては、4−クロロインダゾール、4−ニトロインダゾール、5−ニトロインダゾール、4−クロロ−5−ニトロインダゾール等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0059】
銅キレート化合物類としては、アセチルアセトン銅、エチレンジアミン銅、フタロシアニン銅、エチレンジアミンテトラアセテート銅、ヒドロキシキノリン銅等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0060】
チオ尿素類としては、チオ尿素、グアニルチオ尿素等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0061】
メルカプト基を有する物としては、すでに上記に記載した材料も加えれば、メルカプト酢酸、チオフェノール、1,2‐エタンジオール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1−メチル−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2−メルカプトベン
ゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、グリコールジメルカプトアセテート、3‐メルカプトプロピルトリメトキシシラン等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0062】
ナフタレン系としては、チオナリド等が挙げられる。
【0063】
防汚防食層は、前述の防汚性材料、防食性材料を原料として、蒸着法(共蒸着法)、CVD法、プラズマ重合法等の真空ドライプロセスにより成膜することができる。具体的には、防汚性材料、防食性材料の混合液の混合ガスを対象物上に堆積させる方法、それぞれ原料となるガスを導入し、反応させながら対象物上に堆積させる方法などがある。
【0064】
このように、1つの層で防汚防食性の機能を持たせる際に、防汚剤と防食剤を同時に成膜することにより、密着性に優れ、層間剥離が生じないものとすることができる。
【0065】
(粘着層)
粘着層1は、可視光領域の波長の光を透過し、かつ粘着性を有するものであればよい。粘着層1は、光学的性能の観点から、波長500〜600nmの光の屈折率が1.45〜
1.7であり、消衰係数がほぼ0であることが好ましい。粘着層1の材料としては、例えば、アクリル系接着剤、シリコン系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリビニルブチラール接着剤(PVA)、エチレン−酢酸ビニル系接着剤(EVA)、ポリビニルエーテル、飽和無定形ポリエステル、メラミン樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を説明する。
【0067】
[実施例1]
透明基材2である、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(以下、TACフィルムと記す)上に、紫外線硬化型アクリル系樹脂(共栄社化学(株)製、商品名:PE−3A)をウェットコーティングによって成膜し、物理膜厚5μmのハードコート層3を形成した。ハードコート層3上に、SiOxをスパッタリング法により堆積させ、物理膜厚3nmのプライマー層4を形成した。プライマー層4上に、酸化インジウム中に酸化錫10重量%を含有する透明導電酸化物材料(ITO)をスパッタリング法により堆積させ、物理膜厚27nmの高屈折率透明薄膜層5を形成した。高屈折率透明薄膜層5上に、ニクロムをスパッタリング法により堆積させ、物理膜厚0.8nmの保護層6を形成した。保護層6上に、銀中に金1.5原子%および銅0.5原子%を含有する合金をスパッタリング法により堆積させ、物理膜厚9nmの金属薄膜層7を形成した。金属薄膜層7上に、ニクロムをスパッタリング法により堆積させ、物理膜厚0.8nmの保護層8を形成した。保護層8上に、酸化インジウム中に酸化錫10重量%を含有するITOをスパッタリング法により堆積させ、物理膜厚20nmの高屈折率透明薄膜層9を形成した。次いで、高屈折率透明薄膜層9上に、SiO2の低屈折率透明薄膜層10をスパッタリング法により堆積し、物理膜厚で40nm形成した。
【0068】
さらに、低屈折率透明薄膜層10の上に防汚防食層としての機能性薄膜層11を以下のように形成した。
【0069】
図2のような構造の基板回転機構を有する蒸着装置を用い、防汚剤は真空槽の中に設置し、防食剤は流量制御機器16を通じて真空槽に導入した。防汚剤にはフッ素含有珪素化合物(信越化学工業(株)製、商品名:KP801M)を使用した。防食剤には2‐ヘプタデシルイミダゾールをメタノールの溶媒に溶解した溶液を使用し、30℃に加熱保持した。真空槽12内を1.0E−3Paまで排気したところで防汚剤を加熱し、同時に真空
槽12と流量制御機器16の間に繋がるガス弁17を開放して、防汚剤と防食剤を透明基材20上に同時に堆積させて機能性薄膜層11を形成した。防食剤は流量制御機器16を使って流量を調整することで防汚効果および防食効果が十分発揮され、かつ反射防止薄膜積層体の膜界面が劣化しないようにした。蒸着中、回転機構付き基板ホルダー19は一定回転数で回転させた。
【0070】
TACフィルムの他方の面に、アクリル系接着剤を塗布して粘着層1を形成し、反射防止薄膜積層体300を得た。
【0071】
[実施例2]
機能性薄膜層11以外は実施例1と同様にして、防汚防食層としての機能性薄膜層11を形成前の反射防止薄膜積層体を作製した。
【0072】
図3のような構造の基板回転機構を有するCVD装置を用いて防汚剤および防食剤を成膜した。防汚剤にはフッ素含有珪素化合物(信越化学工業(株)製、商品名:KP801M)を使用した。防食剤には2‐ヘプタデシルイミダゾールをメタノールの溶媒に溶解した溶液を使用した。まず、真空槽12を1.0E−4Paまで排気した後、防汚剤および予め30℃に加熱保持しておいた防食剤のガスをそれぞれの流量制御機器16を用いて真空槽12内に導入した。導入時の圧力は2.0Paに調整した。防汚剤と防食剤の分圧は防汚効果および防食効果が十分発揮され、かつ反射防止薄膜積層体の膜界面が劣化しない条件に調整した。RF電源22を用いて励起周波数13.56MHzの高周波電力を防汚剤成膜用および防食剤成膜用のそれぞれの電極24に印可してグロー放電を同時発生させ、低屈折率透明薄膜層10の上に防汚剤および防食剤を成膜した。成膜中、回転機構付き基板ホルダー19は一定回転数で回転させた。
【0073】
TACフィルムの他方の面に、アクリル系接着剤を塗布して粘着層8を形成し、反射防止薄膜積層体300を得た。
【0074】
[実施例3]
各層の物理膜厚と高屈折率透明薄膜層の材料をインジウム中にセリウム10原子%を含有する透明導電酸化物材料(ICO)に変更した以外は、実施例1と同様にして、機能性薄膜層を形成する前の下記の反射防止薄膜積層体を作製した。
【0075】
TACフィルム(80μm)/ハードコート(5μm)/SiOx(3nm)/ICO(25nm)/NiCr(0.8nm)/銀合金(9nm)/NiCr(0.8nm)/ICO(19nm)/SiO2(48nm)。
【0076】
さらに、低屈折率透明薄膜層10の上に防汚防食層としての機能性薄膜層11を以下のように形成した。
【0077】
図4のような構造のロール・ツー・ロール方式のCVD装置を用いた。防食剤にはベンゾイミダゾールをエタノールの溶媒に溶解した溶液を、防汚剤にはフッ素含有珪素化合物(信越化学工業(株)製、商品名:KP801M)を使用した。まず、真空槽12を1.0E−4Paまで排気した後、防汚剤および予め30℃に加熱保持しておいた防食剤の混合ガスを流量制御機器27を用いて真空槽12内に導入した。導入時の圧力は2.0Paに調整した。防汚剤と防食剤の分圧は防汚効果および防食効果が十分発揮され、かつ反射防止薄膜積層体の膜界面が劣化しない条件に調整した。RF電源22を用いて励起周波数13.56MHzの高周波電力を電極24に印可してグロー放電を発生させ、低屈折率透明薄膜層10の上に防汚剤および防食剤を成膜した。
【0078】
TACフィルムの他方の面に、アクリル系接着剤を塗布して粘着層1を形成し、反射防止薄膜積層体300を得た。
【0079】
[比較例1]
図2の装置を用いて機能性薄膜層11を形成するにあたり、防汚剤のみを使用し、防食剤は使用しない以外は実施例1と同様な反射防止薄膜積層体300を作製した。
【0080】
[比較例2]
図2の装置を用いて機能性薄膜層11を形成するにあたり、最初に防食剤を成膜し、防食剤の成膜が終了した後に続いて防汚剤を成膜した以外は実施例1と同様な反射防止薄膜積層体300を作製した。
【0081】
[比較例3]
図3の装置を用いて機能性薄膜層11を形成するにあたり、防汚剤のみを使用し、防食剤は使用しない以外は実施例2と同様な反射防止薄膜積層体300を作製した。
【0082】
[比較例4]
図3の装置を用いて機能性薄膜層11を形成するにあたり、最初に防食剤を成膜し、防食剤の成膜が終了した後に続いて防汚剤を成膜した以外は実施例2と同様な反射防止薄膜積層体300を作製した。
【0083】
[比較例5]
図4の装置を用いて機能性薄膜層11を形成するにあたり、防汚剤のみを使用し、防食剤は使用しない以外は実施例3と同様な反射防止薄膜積層体300を作製した。
【0084】
[比較例6]
図4の装置を用いて機能性薄膜層11を形成するにあたり、最初に防食剤を成膜し、防食剤の成膜が終了した後に続いて防汚剤を成膜した以外は実施例3と同様な反射防止薄膜積層体300を作製した。
【0085】
実施例1、2および比較例1〜6で得られた反射防止薄膜積層体300について以下の評価を行った。
【0086】
(1)5重量%NaCl水溶液浸漬試験
200mm×200mmのサンプルを、200mm×200mmの石英ガラス基板上に粘着層1側が石英ガラス基板側になるように貼り合わせ、5重量%のNaCl水溶液に24時間浸漬した。浸漬後の反射防止薄膜積層体300を経時で観察し、金属薄膜層7の銀の凝集点を目視で数えた。サンプルの浸漬中はNaCl水溶液の温度は20℃に保持した。その結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(2)耐湿熱性試験
200mm×200mmのサンプルを、200mm×200mmの石英ガラス基板上に粘着層1側が石英ガラス基板側になるように貼り合わせ、65℃−95%RHの恒温恒湿槽内に入れた。1000時間までの耐湿熱試験を実施して、反射防止薄膜積層体300の経時変化を観察し、金属薄膜層7の銀の凝集点を目視で数えた。その結果を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
(3)純水による接触角測定
協和界面化学(株)製、接触角計CA−Xを用いて反射防止薄膜積層体300の機能性薄膜層11側の純水による接触角を測定した。その結果を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
(4)クロスカットテープピール試験
反射防止薄膜積層体300の機能性薄膜層11側表面の10mm×10mm部分に1mm×1mmの桝目状の切れ目を100個作り、桝目部分にセロハンテープを貼り付ける。次いでセロハンテープを引き剥がしたとき剥がれずに残っている桝の数を数えた。その結果を表4に示す。表4中、100/100は桝が一つも剥がれなかったことを示す。
【0093】
【表4】

【0094】
5重量%NaCl水溶液浸漬試験に関しては、機能性薄膜層11に防汚剤と防食剤を使用した実施例1〜3、および比較例2、4、6は金属薄膜層7の銀の凝集が発生しなかった。一方、防汚剤のみを使用し、防食剤を使用しなかった比較例1、3、5は金属薄膜層7の銀の凝集が発生し、銀が腐食した。
【0095】
耐湿熱試験に関しては、実施例1〜3、および比較例2、4、6は1000時間を経過しても金属薄膜層7の銀の凝集は確認されなかった。一方、比較例1、3、5は240時間経過時点で銀の凝集が確認された。さらに、240時間以降も銀の凝集個数は増え続けた。
【0096】
NaCl水溶液浸漬試験および耐湿熱試験に対して実施例1〜3、および比較例2、4、6が良好な結果を示した理由は、防汚剤による疎水性の付与により銀の凝集起因であるNaCl水溶液や水分が機能性薄膜層11で弾かれ、金属薄膜層7まで到達するのを抑止したこと、加えて、防食剤による耐食性の付与により銀の腐食を防止する作用が有効に働いたことによるためであると推測される。
【0097】
純水による接触角測定に関しては、実施例および比較例のいずれも100°を超えており、良好な結果を示した。防汚剤と防食剤の両方を使用した実施例1〜3、および比較例2、4、6は、防汚剤のみを使用し、防食剤を使用しなかった比較例1、3、5と比較して接触角が小さい傾向にあった。理由は、防食剤が防汚剤による疎水性能の発現に干渉していることが推測される。
【0098】
クロスカットテープピール試験に関しては、実施例1〜3、および比較例1、3、5は比較例2、4、6より良好な結果を示した。比較例2、4、6は防食剤を成膜した後に防汚剤を成膜したが、防汚剤と防食剤の成膜工程を分けたため防食剤の成分が反射防止薄膜積層体の各層界面に過剰に浸透して界面の密着性を劣化させたものと推測される。一方、実施例1〜3は防汚剤と防食剤を同時に成膜することで、防食剤は金属薄膜層の銀合金薄膜まで浸透するが銀合金薄膜層から基材までの各界面には到達せず、更に防汚剤の機能発現を妨げることがなかったと推測される。比較例1、3、5は機能性薄膜層11の機能が防汚性のみであるため密着性が良好であった。
【0099】
上記の結果より、可視光領域の広い範囲にわたって反射率を充分に低くすることができ、撥水性、指紋拭き取り性、耐食性、耐候性および密着性に優れた反射防止薄膜積層体を提供することができる。
【0100】
本発明の反射防止薄膜積層体を、CRT、液晶表示装置、PDP等の光学表示装置の前
面に用いた光学表示装置を提供することができる。また、本発明の反射防止薄膜積層体は窓ガラス、眼鏡、ゴーグル等の光学物品に設けられる光学機能性フィルタとしても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の反射防止薄膜積層体の構成の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の反射防止薄膜積層体の実施例1および比較例1、2の作製に使用した蒸着装置の概略図である。
【図3】本発明の反射防止薄膜積層体の実施例2および比較例3、4の作製に使用したCVD装置の概略図である。
【図4】本発明の反射防止薄膜積層体の実施例3および比較例5、6の作製に使用したロール・ツー・ロール方式のCVD装置の概略図である。
【符号の説明】
【0102】
1・・・粘着層
2・・・透明基材
3・・・ハードコート層
4・・・プライマー層
5・・・高屈折率透明薄膜層
6・・・保護層
7・・・金属薄膜層
8・・・保護層
9・・・高屈折率透明薄膜層
10・・・低屈折率透明薄膜層
11・・・機能性薄膜層
12・・・真空槽
13・・・材料設置用ボート
14・・・防汚剤
15a・・・防食剤の導入口
15b・・・防汚剤の導入口
16・・・流量制御機器
17・・・ガス弁
18・・・ガスシャワーヘッド
19・・・回転機構付き基板ホルダー
20・・・透明基材
21・・・排気口
22・・・RF電源
23・・・整合器
24・・・電極
25・・・ローラー
26・・・透明フィルム基材
27・・・防汚剤および防食剤の混合ガスの流量制御機器
100・・・導電性多層膜
200・・・導電性反射防止積層体
300・・・反射防止薄膜積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材上に、高屈折率透明薄膜層と金属薄膜層とを交互に積層してなる導電性多層膜を形成して、その最外層に防汚性機能と同時に防食性機能を備える防汚防食層を設けてなることを特徴とする反射防止薄膜積層体。
【請求項2】
前記金属薄膜層が銀又は銀を含む合金であることを特徴とする請求項1記載の反射防止薄膜積層体。
【請求項3】
前記導電性多層膜と防汚防食層との間に低屈折率透明薄膜層を設けてなることを特徴とする請求項1又は2記載の反射防止薄膜積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射防止薄膜積層体を光学機能性フィルターとして用いることを特徴とする反射防止薄膜積層体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射防止薄膜積層体を光学表示装置の前面に設けたことを特徴とする光学表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−187780(P2007−187780A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4550(P2006−4550)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】