説明

反応性ポリシロキサンの製造方法

【課題】溶剤に可溶なケイ素化合物の縮合体(以降、反応性ポリシロキサンと呼ぶ)の製造方法において、アルカリ触媒による加水分解縮合の後の中和工程で、中和に用いたときにゲル化が起き難く、安定な反応性ポリシロキサンを得ることのできる、硝酸以外の安全な酸を用いる製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも2種類のケイ素化合物をアルカリ性で共加水分解縮合した後、酸で中和する方法において、中和工程で有機酸を用いる製造方法、さらに好ましくは、5以下のpKaを有するカルボン酸で、中和後の中和液の液性がpH値で7より小さく2以上である反応性ポリシロキサンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性官能基を有し、溶剤に可溶なポリシロキサンの製造方法に関し、さらに詳しくは、従来の製造方法では反応中あるいは反応直後にゲル化しやすかった反応性ポリシロキサンを、ゲル化を起こさずに高濃度で製造できる製造方法に関する。本発明の製造方法で得られる反応性ポリシロキサンは、例えば硬化性組成物の少なくとも一部として、耐熱性に優れる硬化被膜等を与えることができるものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、本発明のケイ素化合物(A),(B)と一部重複する原料をアルカリ性条件で共加水分解縮合してケイ素化合物(C)を得る製造方法において、加水分解縮合の後で、酸によって中和する工程を用いてもよいことの記載があり、酸の列記の中にカルボン酸も含まれている。しかし、好ましい酸としては硫酸および硝酸であり、その理由として、酸の種類によっては、オキセタニル基への付加反応が起こって、オキセタニル基の安定性に悪影響を及ぼすことが示唆されていたが、加水分解縮合の後で塩基性物質を中和する工程において、用いる酸の種類によってゲル化のしやすさに差があるという課題については何の記載も示唆もなかった。
【0003】
また、特許文献2には、本発明のケイ素化合物(A),(B)と一部重複する原料をアルカリ性条件で共加水分解縮合してケイ素化合物(C1)を得る製造方法において、加水分解縮合の後で、酸によって中和する工程を用いてもよいことの記載があり、酸の列記の中にカルボン酸も含まれている。しかし、好ましい酸としては硝酸であり、その理由としては、酸の種類によっては、メタクリロイル基及びアクリロイル基への付加反応が起きてメタクリロイル基及びアクリロイル基の安定性に悪影響を及ぼす可能性が示唆されていたが、加水分解縮合の後で塩基性物質を中和する工程において、用いる酸の種類によってゲル化のしやすさに差があるという課題については何の記載も示唆もなかった。
【0004】
さらに、 特許文献1、2共に、第5工程として、水洗により酸および塩を除いても良いことの記載があり、分離が不十分の場合は不純物が増えて、得られたケイ素化合物が不安定になることが開示されていた。特許文献1、2の発明において、アルカリ性条件で加水分解をした後での中和は必須の工程ではなく、中和を行なった場合でも、中和に用いられた例えば硝酸および硝酸塩が残留してもよかった。しかし、硝酸は揮発性の高い強酸であって、危険性や装置の腐食の原因となる上に、酸化性も有するために、有機物と共存させると酸化物やニトロ化物、硝酸エステルなどの爆発の危険性を含む物質が生成する可能性があったため、大規模な工業的製造を行なう場合には問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009/090916号国際公開パンフレット
【特許文献2】WO2009/131038号国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反応性基を有し、溶剤に可溶なケイ素化合物の縮合体(以降、反応性ポリシロキサンと呼ぶ)の製造方法として、少なくとも2種類のケイ素化合物をアルカリ性条件で共加水分解縮合した後、酸で中和する方法が知られており、好ましい酸として硝酸が知られていたが、揮発性で酸化性もある硝酸は危険性を伴うため、より安全な酸を用いる方法が求められていた。本発明の課題は、アルカリ触媒による加水分解縮合の後の中和工程において、中和に用いたときにゲル化が起き難く、安定な反応性ポリシロキサンを得ることのできる、硝酸以外の安全な酸を用いる製造方法を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、少なくとも2種類のケイ素化合物をアルカリ性条件下で共加水分解縮合した後に、有機酸、好ましくは特定のpKa値を有する有機多塩基酸を用いて中和を行なう製造方法を用いた場合に、ゲル化が起き難く、良好な反応性ポリシロキサンが得られる事を見出して本願発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、安全で取り扱い易い有機酸を用いて、ゲル化を起こすことなく安定な、反応性ポリシロキサンを得ることができる。本発明の製造方法は工業的に大規模な製造を安全に実施することが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の反応性ポリシロキサン(C)の製造方法は、下記一般式(1)で示されるケイ素化合物(A)と、下記一般式(2)で示されるケイ素化合物(B)とを、アルカリ性条件下で加水分解共重縮合させたのち、有機酸によって中和することを必須とする製造方法である。
【化1】

〔一般式(1)において、R0はメタクリロイル基、アクリロイル基、オキセタニル基の中から選択される少なくとも一つを有する有機基であり、R0は同一であっても異なっても良く、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を有する有機基であり、R1は同一であっても異なっても良く、X1は加水分解性基であり、X1は同一であっても異なっても良く、nは0又は1である。〕

SiY14 (2)
〔一般式(2)において、Y1はシロキサン結合生成基であり、Y1は同一であっても異なっても良い。〕
以下、反応性ポリシロキサン(C)を形成する原料化合物から説明する。
【0010】
1−1.ケイ素化合物(A)
本発明におけるケイ素化合物(A)は、上記一般式(1)で表される化合物である。このケイ素化合物(A)は、1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
ケイ素化合物(A)は、メタクリロイル基、アクリロイル基、オキセタニル基の中から選択される少なくとも一つを有する有機基を備え、反応性ポリシロキサン(C)に硬化性を付与するための成分である。メタクリロイル基とアクリロイル基を総称して(メタ)アクリロイル基と呼んでも良い。
【0012】
一般式(1)におけるR0がメタクリロイル基又はアクリロイル基を有する有機基であるときは、炭素数は20以下が好ましく、さらに好ましくは4〜9である。R0の炭素数が20以下の場合、ケイ素化合物(A)及びケイ素化合物(B)を加水分解共重縮合させることにより得られる反応性ポリシロキサン(C)に、良好且つ安定したラジカル硬化性を付与することができる。
【0013】
一般式(1)におけるR0がオキセタニル基を有する有機基であるときは、炭素数は20以下が好ましく、さらに好ましくは4〜9である。R0の炭素数が20以下の場合、ケイ素化合物(A)及びケイ素化合物(B)を加水分解共重縮合させることにより得られる反応性ポリシロキサン(C)に、良好且つ安定したカチオン硬化性を付与することができる。
【0014】
一般式(1)におけるR0がメタクリロイル基又はアクリロイル基を有する有機基であるときは、下記一般式(3)で表される構造を有する有機基は、上記一般式(1)におけるR0として好ましいものである。
【化2】


一般式(3)において、R2は水素原子又はメチル基であり、好ましくはメチル基である。さらに、一般式(3)におけるR3の炭素数が大きすぎると、得られる反応性ポリシロキサン(C)を含有する組成物を用いて得られる硬化物の表面硬度が低下する場合があるので、R3は好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基であり、さらに好ましくは工業的に入手が容易なプロピレン基(トリメチレン基)である。
【0015】
一般式(1)におけるR0がオキセタニル基を有する有機基であるときは、下記一般式(4)で表される構造を有する有機基は、上記一般式(1)におけるR0として好ましいものである。
【化3】


上記一般式(4)における、R4またはR5の炭素数が大きすぎると、得られる有機ケイ素化合物(C)において無機部分の割合が高いものになりにくく、得られる硬化物の表面硬度が十分でない場合があるので、式(4)中、好ましくはR4は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、さらに好ましくはエチル基である。また、R5は好ましくは炭素数2〜6のアルキレン基であり、さらに好ましくは直鎖状のアルキレン基であり、特に好ましくは工業的に入手の容易なプロピレン基(トリメチレン基)である。
【0016】
上記一般式(1)におけるR1は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を有する有機基であれば、特に限定されない。R1は同一であっても異なっても良い。
【0017】
一般式(1)におけるX1は加水分解性基であり、加水分解性を有する基であれば、特に限定されない。複数存在するX1は同一であっても異なっても良い。
1としては、具体的には、水素原子、アルコキシ基、シクロアルコキシ基及びアリールオキシ基及びアリールアルコキシ基等が挙げられる。
【0018】
上記アルコキシ基は、好ましくは、炭素数1〜6のアルコキシ基であり、その例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基及びn−ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
上記シクロアルコキシ基は、好ましくは、炭素数3〜8のシクロアルコキシ基であり、その具体例としては、シクロペンチルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基は、好ましくは、炭素数6〜10のアリールオキシ基であり、その例としては、フェニルオキシ基、o−トルイルオキシ基、m−トルイルオキシ基、p−トルイルオキシ基及びナフチルオキシ基等が挙げられる。
また、上記アリールアルコキシ基は、好ましくは、炭素数7〜12のアラルキルオキシ基であり、その例としては、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
これらのうち、加水分解性が良好であることから、上記一般式(1)のX1は、アルコキシ基が好ましく、炭素数1〜3のアルコキシ基であることがさらに好ましい。また、原料入手が容易であり安価であること、並びに加水分解反応が制御しやすいことから、メトキシ基がより好ましい。
【0019】
上記一般式(1)おけるnは、0又は1である。nが0である場合のケイ素化合物(A)は、加水分解性基を3個有しており、「Tモノマー」とも呼ばれる。また、nが1である場合のケイ素化合物(A)は、加水分解性基を2個有しており、「Dモノマー」とも呼ばれる。TモノマーとDモノマーの仕込み比率は、反応性ポリシロキサンの用途によって、適宜、選択される。
【0020】
上記Tモノマーとしては、2−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−エチル−3−((3−(トリメトキシシリル)プロポキシ)メチル)オキセタン、3−エチル−3−((3−(トリメエキシシリル)プロポキシ)メチル)オキセタン、3−メチル−3−((3−(トリメトキシシリル)プロポキシ)メチル)オキセタン等が挙げられる。
【0021】
また、得られる反応性ポリシロキサン(C)の有機溶剤への溶解性を向上させるためには、nは1であるDモノマーを用いることが好ましく、一方では無機部分が多い方が耐熱性や表面硬度を高めるためには有利である。無機部分の割合をより大きくするためには、nが0であるTモノマーを用いることが好ましい。
実用的には、反応性ポリシロキサン(C)における無機部分の割合と有機溶剤への溶解性とのバランスから、nが0のケイ素化合物(Tモノマー)と、nが1のケイ素化合物(Dモノマー)とを併用することができる。これらの化合物を併用する場合、nが0のケイ素化合物(Tモノマー)の使用量、及び、nが1のケイ素化合物(Dモノマー)の使用量の割合は、得られる反応性ポリシロキサン(C)を用いる用途により、適宜、選択される。本発明において好ましいnの平均値はn=0〜0.5、さらに好ましくはn=0〜0.3の範囲となるものである。
【0022】
1−2.ケイ素化合物(B)
本発明におけるケイ素化合物(B)は、上記一般式(2)で表される化合物である。
このケイ素化合物(B)は、1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このケイ素化合物(B)は、シロキサン結合生成基であるY1を4個有するもの(Qモノマー)であり、本発明の硬化性組成物に含有される反応性ポリシロキサン(C)の無機部分の割合を大きくするための成分である。このケイ素化合物(B)が有するシロキサン結合生成基は、ケイ素化合物(A)の加水分解性基との反応により、シロキサン結合を生成する。
【0023】
上記一般式(2)におけるシロキサン結合生成基Y1は、水酸基又は加水分解性基を意味する。また、複数存在するY1は、互いに同一であっても異なっていても良い。
加水分解性基としては、加水分解性を有する基であれば良く、具体的には、水素原子、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアルコキシ基等が挙げられる。
【0024】
上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基及びn−ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
上記シクロアルコキシ基としては、シクロペンチルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基としては、フェニルオキシ基、o−トルイルオキシ基、m−トルイルオキシ基、p−トルイルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
また、上記アリールアルコキシ基としては、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
これらの加水分解性基のうち、加水分解性が良好であることからアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜3のアルコキシ基がよりさらに好ましい。
【0025】
上記ケイ素化合物(B)としては、以下に例示される。
(i)シロキサン結合生成基Y1の4個が、互いに同一又は異なって、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基又はアリールアルコキシ基であるケイ素化合物
(ii)シロキサン結合生成基Y1の1個がアルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基又はアリールアルコキシ基であり、3個が、互いに同一又は異なって、水酸基又は水素原子であるケイ素化合物
(iii)シロキサン結合生成基Y1の2個が、互いに同一又は異なって、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基又はアリールアルコキシ基であり、2個が、互いに同一又は異なって、水酸基又は水素原子であるケイ素化合物
(iv)シロキサン結合生成基Y1の3個が、互いに同一又は異なって、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基又はアリールアルコキシ基であり、1個が、水酸基又は水素原子であるケイ素化合物
(v)シロキサン結合生成基Y1の4個が、互いに同一又は異なって、水酸基又は水素原子であるケイ素化合物
【0026】
上記態様(i)のケイ素化合物としては、テトラメトキシシランSi(OCH34、テトラエトキシシランSi(OCH54、テトラプロポキシシランSi(OC374、テトラブトキシシランSi(OC494、トリエトキシメトキシシラン、トリプロポキシメトキシシラン、トリメトキシエトキシシラン、トリメトキシプロポキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン、ジメトキシジプロポキシシラン等が挙げられる。アルコキシ基を形成する炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよいが、分岐したものは立体障害が起きやすくなるので、直鎖状の炭化水素基であることが好ましい。
【0027】
上記態様(ii)のケイ素化合物としては、H3SiOCH3、H3SiOC25、H3SiOC37、(HO)3SiOCH3、(HO)3SiOC25、(HO)3SiOC37等が挙げられる。
上記態様(iii)のケイ素化合物としては、H2Si(OCH32、H2Si(OC252、H2Si(OC372、(HO)2Si(OCH32、(HO)2Si(OC252、(HO)2Si(OC372等が挙げられる。
【0028】
上記態様(iv)のケイ素化合物としては、HSi(OCH33、HSi(OC253、HSi(OC373、HOSi(OCH33、HOSi(OC253、HOSi(OC373等が挙げられる。
また、上記態様(v)のケイ素化合物としては、HSi(OH)3、H2Si(OH)2、H3Si(OH)、SiH4、Si(OH)4等が挙げられる。
【0029】
上記ケイ素化合物(B)としては、製造後における反応性ポリシロキサン(C)の安定性の観点から、上記態様(i)の化合物が含まれることが好ましく、中でも、炭素数が3以下のアルコキシ基を有するアルコキシシラン化合物がさらに好ましい。より好ましくは、テトラ−n−プロポキシシラン、トリメトキシ−n−プロポキシシラン、ジメトキシジ−n−プロポキシシラン、メトキシトリ−n−プロポキシシラン等のn−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物である。
【0030】
上記ケイ素化合物(B)として、n−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物を用いることにより、製造後の安定性及び保存安定性に特に優れる反応性ポリシロキサン(C)を得ることができ、この反応性ポリシロキサン(C)を含有する硬化性組成物により、耐傷性及び基材に対する密着性に優れた硬化膜(硬化物)を効率よく形成することができる。なお、n−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物に含まれるn−プロポキシ基の数は、通常、1〜4、好ましくは2〜4である。
【0031】
上記ケイ素化合物(B)がn−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物を含有する場合、n−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物の含有量は、上記効果が確実に得られることから、好ましくはケイ素化合物(B)の内の50〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%である。上記ケイ素化合物(B)が、n−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物と、他の化合物とからなる場合、他の化合物は、特に限定されない。
また、本発明においては、n−プロポキシ基の数が互いに異なるアルコキシシラン化合物の2種以上をケイ素化合物(B)として用いることが特に好ましい。この場合、n−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物の全体において、n−プロポキシ基含有アルコキシシラン化合物1分子あたり、Si原子に結合するn−プロポキシ基の数の平均が、好ましくは1.2〜3.8、さらに好ましくは1.5〜3.6、より好ましくは1.8〜3.4である。
【0032】
上記のn−プロポキシ基含有アルコキシシラン化合物は、上記一般式(2)で表されるケイ素化合物(B)であり且つn−プロポキシ基を有さない化合物(以下、「前駆体(b)」という。)を、1−プロパノール中でアルコール交換反応させることによっても得ることができ、この反応により得られた組成物をそのまま用いることができる。
なお、上記前駆体(b)は、上記のように、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。本発明において、上記前駆体(b)は、好ましくは、テトラメトキシシラン及び/又はテトラエトキシシランである。
【0033】
上記アルコール交換反応により得られたケイ素化合物は、上記1−プロパノール由来のn−プロポキシ基を備える。なお、上記アルコール交換反応において用いる前駆体(b)が1種のみの場合であっても、通常、2種以上のn−プロポキシ基含有アルコキシシラン化合物が形成される。反応生成物は、例えば、互いにn−プロポキシ基の数が異なるn−プロポキシ基含有アルコキシシラン化合物である。
【0034】
上記アルコール交換反応により、前駆体(b)が有するシロキサン結合生成基の少なくとも一部がn−プロポキシ基に交換されて、n−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物が形成されると、この化合物を含むケイ素化合物(B)と、ケイ素化合物(A)との反応性(共縮重合)のバランスが良くなる。即ち、加水分解共重縮合工程(後述する第1工程)においてケイ素化合物(A)と均一で円滑な共重縮合反応が進行する。
上記1−プロパノールの使用量は、前駆体(b)が有するシロキサン結合生成基1当量に対して、好ましくは0.1〜10当量、よりさらに好ましくは0.5〜6当量である。
なお、アルコール交換反応に際しては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の他のアルコールを併用してもよい。
【0035】
上記アルコール交換反応における反応温度は、好ましくは0℃〜100℃、さらに好ましくは10℃〜60℃、より好ましくは15℃〜30℃である。
また、反応時間は5分〜30時間であり、好ましくは10分〜24時間、さらに好ましくは15分〜24時間である。
【0036】
上記アルコール交換反応における反応系のpHは、特に限定されず、アルカリ性、中性及び酸性のいずれでもよいが、ケイ素化合物(A)及びケイ素化合物(B)の反応を、アルカリ性条件により進行させることから、同じ反応系を利用することができ、アルカリ性条件下で行うことが好ましい。
上記アルコール交換反応をアルカリ性条件下で進める場合、反応液のpHは7を超える値である。その場合、反応液のpHは、好ましくは8以上であり13以下である。さらに好ましくはpHが9以上であり12以下である。
【0037】
1−3.反応性ポリシロキサン(C)の製造工程
本発明の反応性ポリシロキサン(C)の製造方法は、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物(A)と、上記一般式(2)で表されるケイ素化合物を共加水分解・縮合する工程(以下、「第1工程」という。)を含む。この第1工程はアルカリ性条件であることが必須であり、ケイ素化合物(A)とケイ素化合物(B)の他に、水と、反応液をアルカリ性とするための塩基性物質が用いられる。
本発明は、第1工程の後、さらに、第1工程で得られた反応液を、有機酸により中和する工程を必須とする、これを第2工程と呼ぶ。
【0038】
本発明では、第1工程、第2工程の他に、以下の工程を含むことができる。
(第3工程)第2工程で得られた中和液から揮発性成分を除去して濃縮液を得る工程。
(第4工程)第3工程で得られた濃縮液と、洗浄用有機溶剤とを、混合および接触させて、少なくとも反応性ポリシロキサン(C)を洗浄用有機溶剤に溶解して有機溶液を得る工程。
(第5工程)第4工程で得られた有機溶液を水により洗浄した後、反応性ポリシロキサン(C)を含む有機溶液を得る工程。
(第6工程)第5工程で得られた有機溶液から揮発性成分を除去する工程。
本発明の反応性ポリシロキサン(C)の製造方法は、第1工程、第2工程を必須とし、その他にすくなくとも第5工程を含むことが好ましい。
【0039】
1−3−1.第1工程
第1工程は、ケイ素化合物(A)とケイ素化合物(B)とを、上記のように、特定の割合で使用してアルカリ性条件において加水分解・縮合させる工程である。
反応に使用されるケイ素化合物(A)1モルに対するケイ素化合物(B)の割合の下限は、0.3モルであり、好ましくは0.4モル、さらに好ましくは0.5モル、より好ましくは0.9モルである。また、反応に使用されるケイ素化合物(A)1モルに対するケイ素化合物(B)の割合の上限は、3.3モルであり、好ましくは2.8モル、さらに好ましくは2.6モル、より好ましくは2.5モルである。
上記ケイ素化合物(A)の使用割合が上記範囲にあると、得られる反応性ポリシロキサン(C)を含有する組成物が硬化するときの体積収縮が抑制される。なお、上記ケイ素化合物(A)の使用割合が0.9モル以上である場合には、体積収縮の抑制効果のみならず、反応性ポリシロキサン(C)を含有する組成物を基材上で硬化させたときに、硬化物と基材との優れた密着性を得ることができる。ケイ素化合物(A)が(メタ)アクリル基を有するときはさらに密着性が高くなるので好ましい。
【0040】
上記第1工程において、ケイ素化合物(A)の使用割合が少なすぎると、得られる反応性ポリシロキサン(C)において無機部分の割合が低くなり、ケイ素化合物(C)を含有する組成物を用いて得られた硬化物が表面硬度や耐熱性の不十分なものとなる。一方、ケイ素化合物(A)の使用割合が多すぎると、反応性ポリシロキサン(C)の製造中に増粘またはゲル化して製造ができなかったり、得られた反応性ポリシロキサン(C)が増粘またはゲル化しやすく保存安定性の悪いものになったりする。
【0041】
第1工程において用いられる水は、原料ケイ素化合物(ケイ素化合物(B)および加水分解性基を有する場合のケイ素化合物(A))に含まれる加水分解性基を加水分解するために必要な成分である。使用される水の量は、上記加水分解性基1モルに対して、好ましくは0.5〜10モル、さらに好ましくは1〜5モルである。
水の使用量が少なすぎると、反応が不十分となる場合がある。水の使用量が多すぎると、反応後に水を除去する工程が長くなり経済的ではない。
【0042】
第1工程における反応条件は、反応系をアルカリ性にすることであり、即ち、pHは7を超えることが必須であり、好ましくはpH8以上、さらに好ましくはpH9以上である。なお、上限は、通常、pH13である。反応系を上記pHとすることにより、保存安定性に優れた有機ケイ素化合物を高い収率で製造することができる。
第1工程における反応条件が、酸性条件下(pH7未満)である場合には、加水分解・縮合させて得られる有機ケイ素化合物は、保存安定性に劣るものとなり、保存中にゲル化することもある。
また、中性条件下(pH7付近)では、加水分解・縮合反応が進行しにくく、有機ケイ素化合物を収率よく得ることができない。
なお、pH13を超える条件で製造する場合には、pH8〜pH13の場合と同様、有機ケイ素化合物を高収率で得ることができるが、その条件とするための塩基性物質の使用量が多くなるため、経済的ではなく、また反応終了後に反応液を中和するためのコストもアップする。
【0043】
第1工程において、反応系をアルカリ性にするために用いられる塩基性物質は、ケイ素化合物(A)とケイ素化合物(B)との加水分解・縮合反応を円滑に進行させるための反応触媒として作用する。上記塩基性物質の例としては、アンモニア、有機アミン類、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、コリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらのうち、触媒活性の良好な第4級窒素原子を有するアンモニウム化合物が好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウムがさらに好ましい。
【0044】
第1工程における塩基性物質の使用量は、反応系を、上記好ましいpHに調整するために、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)の合計モル数を100モルとして、1〜20モルであることが好ましい。塩基性物質の量が少なすぎると加水分解・縮合反応の進行が遅く、反応時間が長くなる場合もある。塩基性物質の使用量が多すぎても、反応効率の向上効果は顕著でなく、経済的ではない。
【0045】
第1工程において、反応溶媒として有機溶剤が使用されることが好ましい。反応溶媒として好適な有機溶剤の例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素;リグロイン等が挙げられる。有機溶剤は、1種単独で用いてよいし、2種類以上が併用されてもよい。アルコール類は、原料ケイ素化合物および生成物の溶解性が良好であり、好ましい有機溶剤である。
【0046】
第1工程における反応温度は、高分子量成分等の副生を抑制することができるとともに、ゲル化しにくく、後述する数平均分子量を有する反応性ポリシロキサン(C)を得ることができるので、好ましくは0℃〜120℃、さらに好ましくは10℃〜100℃、より好ましくは40℃〜80℃である。 また、第1工程における反応時間は、好ましくは1〜30時間、さらに好ましくは4〜24時間である。
【0047】
第1工程の加水分解・縮合反応において、ケイ素化合物(A)の加水分解性基およびケイ素化合物(B)におけるシロキサン結合生成基の大部分が、シロキサン結合に転化され、シロキサン結合を有するポリシロキサンが生成する。
【0048】
1−3−2.第2工程
第2工程は、第1工程で得られた、反応性ポリシロキサン(C)を含む反応液を、有機酸により中和する工程である。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、ハロゲノ酢酸、シアノ酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、乳酸、ビルビン酸、アクリル酸等の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、ハロゲノ安息香酸、シアノ安息香酸、ケイ皮酸等の芳香族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、フマール酸、マレイン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸等の脂肪族多塩基酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メリト酸等の芳香族多塩基酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸等が挙げられる。
【0049】
有機酸の使用量は、反応性ポリシロキサン(C)を含む反応液の組成に応じて、適宜、選択される。
第1工程の塩基性物質として、好ましくは強塩基である水酸化テトラメチルアンモニウムが用いられたときに、pKaの大きな弱酸で中和した場合には、酸塩基の等量混合液のpHはアルカリ側になってしまう。通常、中和とは、狭義には酸と塩基とを等量反応させることや、pHを7にすること等を意味するが、本発明においては酸と塩基とを必ずしも等量でなく混ぜ合わせて、液性をいったんpH=7よりも酸性側に変化させることを言う。
一方、第1工程の塩基性物質が水酸化テトラメチルアンモニウムである場合、トリクロロ酢酸やシュウ酸等のpKaの小さな強酸で中和する場合は、塩基性物質1当量に対して、1当量より少ない量でも中和可能である。具体的には塩基性物質1当量に対して0.4〜4当量、さらに好ましくは0.6〜3.0当量を加え、中和後の液性がpH値で7より小さく2以上、好ましくは7より小さく3以上、さらに好ましくは6.5以下3.5以上になることが良い。
【0050】
第2工程で用いる有機酸としては、より少ない量で中和後の液性をpH7より小さくできるという点で、pKaが5以下の有機酸、さらに好ましくは3.3以下、より好ましくは2以下の有機酸が好ましい。なお、多塩基酸においては複数のpKaが定義されるが、最も小さい値を持つpKa値がより有効であるから、最も小さいpKaの値が5以下が好ましく、さらに好ましくは3.3以下、より好ましくは2以下である。有機酸のうちで有機スルホン酸はpKaの小さいものが多く、その意味では好ましいが、実際にはカルボン酸の方がゲル化を抑える効果が大きい。
【0051】
また、分子内にハロゲノ基を有する有機酸は、ハロゲノ基の電子吸引効果により、炭素置換体よりもpKaが小さくなる傾向があるが、半導体用途ではハロゲン原子が残留すると電気性能に悪影響を与えたり、腐食の原因になったりするので、必ずしも好ましいものではない。好ましいのは上記の範囲のpKa値を有する有機カルボン酸であり、さらには多塩基酸である有機カルボン酸であり、より好ましいのは最も小さい値のpKaが3.3より小さい多塩基酸である有機カルボン酸である。具体的には分子内にハロゲン原子を含まないシュウ酸またはクエン酸が最も好ましい有機カルボン酸として例示できる。
【0052】
第2工程において、有機酸は溶液として用いることは、中和反応を速やかに均一に進行させやすいから好ましい。溶液の溶媒として、水や有機溶剤が系に追加されることになるが、水を追加すると、中和によってpHが7よりも大きく酸性に傾いたときに、残留していた加水分解性基が加水分解して活性のシラノールに変化する恐れがある。溶媒が不活性な有機溶剤であればこのような恐れはないので、非水系の有機溶剤のほうが好ましい。さらに好ましくは溶剤が有機酸を良く溶かし、加水分解性基とアルコリシス反応を起こしても悪影響のない、炭素数1〜5のアルコールである。アルコールには不純物として水分が含まれていることが多いが、本発明においては水分が300質量ppm以下のものが好ましい。
【0053】
1−3−3.第3工程
第3工程は、第2工程で得られた中和液から揮発性成分を除去して濃縮液を得る工程である。この工程では、常圧(大気圧)または減圧の条件における蒸留が行われる。第3工程において除去される揮発性成分としては、第1工程の反応溶媒として使用された有機溶剤が主である。反応溶媒として、例えば、メタノールのように水と混和する有機溶剤が使用された場合には、後述する水による洗浄(第5工程)に支障があるため、通常、この第3工程が実施される。
なお、第1工程における反応溶媒が、アルコール等の水と混和する有機溶剤であったとしても、中和液の水による洗浄に適した有機溶剤を多量に追加することで反応性ポリシロキサン(C)の洗浄を行うことが可能な場合には、この第3工程及び第4工程を省略することができる。
また、第1工程における反応溶媒が、水と混和しないものであり、中和液の水による洗浄に適した有機溶剤である場合、および、上記反応溶媒が、アルコール等の水と混和する溶媒であったとしても、中和液の水による洗浄に適した有機溶剤を多量に追加することで反応性ポリシロキサン(C)の洗浄を行うことが可能な場合には、第3工程および第4工程を省略することができる。
【0054】
1−3−4.第4工程
第4工程は、第3工程で得られた濃縮液と、洗浄用有機溶剤とを、混合および接触させて、少なくとも反応性ポリシロキサン(C)を洗浄用有機溶剤に溶解して有機溶液を得る工程である。洗浄用有機溶剤としては、反応性ポリシロキサン(C)を溶解し、水と混和しない化合物を使用する。水と混和しないとは、水と洗浄用有機溶剤とを十分混合した後、静置すると、水層及び有機層に分離することを意味する。
好ましい洗浄用有機溶剤としては、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;トルエン等の芳香族炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。
上記洗浄用有機溶剤は、第1工程において用いられた反応溶媒と同一であってよいし、異なってもよい。
【0055】
1−3−5.第5工程
第5工程は、第4工程で得られた有機溶液を水により洗浄した後、反応性ポリシロキサン(C)を含む有機溶液を得る工程である。なお、この有機溶液は、第3工程および第4工程が省略された場合、第2工程で得られた液を意味する。この第5工程によって、第1工程において使用された塩基性物質および第2工程において使用された酸ならびにそれらの塩は、水層に移行するので、有機層から実質的に除くことができる。
【0056】
なお、上記第5工程は、水と有機溶液とを混合および接触させる工程、ならびに、水層と有機層(反応性ポリシロキサン(C)を含む層)とを分離し、有機層(有機溶液)を回収する工程を含む。これらの工程において、水と有機溶液との混合および接触が不十分であったり、水層と有機層との分離が不十分であったりすると、得られる反応性ポリシロキサン(C)は、不純物を多く含むものとなったり安定性の劣るものになったりする。
第5工程における、水と有機溶液とを混合および接触させる工程の温度は、特に制限されないが、好ましくは0℃〜70℃、さらに好ましくは10℃〜60℃である。また、水層と有機層とを分離する工程の温度もまた、特に限定されないが、好ましくは0℃〜70℃、さらに好ましくは10℃〜60℃である。2つの工程における処理温度を40℃〜60℃程度とすることは、水層及び有機層の分離時間の短縮効果があるため、好ましい。
【0057】
1−3−6.第6工程
第6工程は、第5工程で得られた有機溶液から揮発性成分を除去する工程である。この工程では、常圧(大気圧)または減圧の条件における蒸留が行われる。第6工程において除去される揮発性成分としては、第4工程で用いた洗浄用有機溶剤であるが、他に揮発性成分が含まれていれば、この工程において、すべて同時に除去される。
以上の工程によって、本発明の反応性ポリシロキサン(C)は単離される。
なお、この反応性ポリシロキサン(C)が有機溶剤に溶解されてなる溶液とする場合には、上記第4工程で用いた洗浄用有機溶剤を、そのまま反応性ポリシロキサン(C)の溶媒として使用することができ、第6工程は省略することができる。
【0058】
本発明の製造方法において、第1工程により得られた反応性ポリシロキサン(C)は、その後の各工程における処理中または処理後において、変質又は変性することなく、安定である。
【0059】
本発明の製造方法において、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)の縮合率は、92%以上とすることができ、さらに好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である。シロキサン結合生成基(加水分解性基を含む)は実質的に全てが縮合されていることが最も好ましいが、縮合率の上限は、通常、99.9%である。
【0060】
上記のような、QモノマーとTモノマーとを含む共重縮合反応においては、両者を均一に反応させることは難しく、ゲルが生じやすい。このため、トリメチルアルコキシシランやヘキサメチルジシロキサン等の、ケイ素原子1個あたりのシロキサン結合生成基を1つのみ有するケイ素化合物(「Mモノマー」とも呼ばれる)を、末端封止剤として作用させることでゲル化を回避する方法が知られている。
しかしながら、Mモノマーを併用することで、ゲル化は回避できても、得られる有機ケイ素化合物の硬化物の表面硬度や耐熱性といった無機的性質はMモノマーの添加量に応じて低下する傾向にある。本発明では、無機的性質を下げない程度の低い割合でMモノマーを併用することは可能である。具体的には、第1工程の際に、Mモノマーの使用量を、ケイ素化合物(A)及びケイ素化合物(B)の合計モル数100モルに対して、10モル以下とすることができる。
【0061】
1−4.反応性ポリシロキサン(C)
本発明の反応性ポリシロキサン(C)が、シロキサン結合生成基(加水分解性基を含む)を有する場合には、その残存割合は、1H NMR(核磁気共鳴スペクトル)チャートから算出することができる。なお、「加水分解性基の全てが実質的に縮合されている」ことは、例えば、得られた反応性ポリシロキサン(C)の1H NMRチャートにおいてシロキサン結合生成基に基づくピークがほとんど観察されないことにより確認することができる。
【0062】
例えば、反応性ポリシロキサン(C)の製造に用いられるケイ素化合物(A)が、上記一般式(1)におけるnが0である化合物(加水分解性基を3個有するTモノマー)である場合には、ケイ素化合物(B)(シロキサン結合生成基を4個有するQモノマー)との加水分解・縮合反応の結果、得られる反応性ポリシロキサン(C)は、構成単位としてシルセスキオキサン単位およびシリケート単位を有する化合物となる。
上記の場合、反応性ポリシロキサン(C)は、部分的にラダー(はしご)状、かご状またはランダム状の構造をとることができる。
本発明の反応性ポリシロキサン(C)は、(メタ)アクロイル基を有する場合はラジカル重合性を、オキセタニル基を有する場合はカチオン重合性を備える。反応性ポリシロキサン(C)を少なくとも一部含んだ組成物を重合硬化させることにより、表面硬度が大きく耐熱性に優れた硬化膜を与えることができる。
【0063】
本発明の反応性ポリシロキサン(C)の数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析による標準ポリスチレン換算で、好ましくは1,000〜30,000、さらに好ましくは1,000〜20,000、より好ましくは2,000〜10.000である。
【0064】
本発明において、好ましい反応性ポリシロキサン(C)は、上記一般式(1)においてR0が上記一般式(3)または(4)で表される有機基であり、nが0であり、且つ、少なくとも1個、好ましくは2個、さらに好ましくは3個のXがOR基(Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基およびアリール基から選ばれた炭化水素基である。)であるケイ素化合物(A)と、上記一般式(2)において少なくとも1個、好ましくは2個、さらに好ましくは3個、より好ましくは4個のYがOR基(Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基およびアリール基から選ばれた炭化水素基である。)であるケイ素化合物(B)とを、アルカリ性条件下、加水分解・縮合した後有機カルボン酸で中和して得られた化合物である。そして、この反応性ポリシロキサン(C)に含まれる、製造原料であるケイ素化合物(A)および(B)に由来する残存OR基の割合は、縮合反応前のこれらの化合物に含まれるOR基の合計量に対して、好ましくは0〜8質量%、さらに好ましくは0.1〜6%であり、より好ましくは0.5〜5%である。上記反応性ポリシロキサン(C)によると、保存安定性に優れ、上記有機溶剤に対する溶解性が高いことで作業性に優れ、硬化性組成物としたときに得られる硬化物の硬度、耐摩耗性等にも優れる。
【0065】
<反応性ポリシロキサン組成物>
本発明の反応性ポリシロキサン(C)は、他の成分を含有して組成物としてもよい。他の成分としては、重合性不飽和化合物、ラジカル重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、有機ポリマー、フィラー、金属粒子、顔料、重合開始剤、増感剤、有機溶剤等が挙げられる。
【0066】
上記重合性不飽和化合物としては、例えば、本発明の硬化性組成物から形成される硬化物の硬度、機械的強度、耐薬品性及び密着性等の物性を調整すること、基材への密着性に優れた硬化膜を得ること、硬化性組成物の粘度及び硬化性等を調整すること等を目的として、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物(以下、「(メタ)アクリレート化合物」という。)等が好ましく用いられる。
【0067】
上記(メタ)アクリレート化合物としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
上記ラジカル重合禁止剤としては、ハイドロキノンやハイドロキノンモノメチルエーテル等のフェノール系化合物が挙げられる。
上記酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールや、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール等のイオウ系二次酸化防止剤、リン系二次酸化防止剤等が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
上記ラジカル重合禁止剤及び酸化防止剤を用いることにより、反応性ポリシロキサン組成物の保存安定性、熱安定性等を向上させることができる。
上記反応性ポリシロキサン組成物が、ラジカル重合禁止剤を含有する場合、このラジカル重合禁止剤の含有量は、上記反応性ポリシロキサン1,000,000質量部に対して、好ましくは1〜10,000質量部、さらに好ましくは10〜2,000質量部、より好ましくは100〜500質量部である。
上記反応性ポリシロキサン組成物が、酸化防止剤を含有する場合、この酸化防止剤の含有量は、上記反応性ポリシロキサン1,000,000質量部に対して、好ましくは1〜10,000質量部、さらに好ましくは10〜2,000質量部、より好ましくは100〜500質量部である。
【0069】
上記紫外線吸収剤としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン等のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤や、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、酸化チタン微粒子や酸化亜鉛微粒子等の紫外線を吸収する無機微粒子等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。また、光安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート等のヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤及び光安定剤を用いることにより、UV耐性や耐候性を高めることができる。
【0070】
上記レベリング剤としては、シリコーン系ポリマー、フッ素原子含有ポリマー等が挙げられる。
上記レベリング剤を用いることにより、硬化性組成物を塗布した際のレベリング性を向上させることができる。
【0071】
上記有機ポリマーとしては、(メタ)アクリル系ポリマーが挙げられ、好適な構成モノマーとしては、メチルメタクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド等が挙げられる。
【0072】
上記フィラーとしては、シリカやアルミナ等が挙げられる。
【0073】
本発明の硬化性組成物は、活性エネルギー線硬化性組成物及び熱硬化性組成物とすることができ、目的に応じて、重合開始剤が選択され、配合される。
【0074】
上記有機溶剤の種類は、反応性ポリシロキサン(C)及びその他の成分を溶解する有機溶剤が好ましい。上記有機溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;トルエン及びキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAと略す)、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン;ジブチルエーテル等のエーテル;並びにN−メチルピロリドン等や、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2,2ジメチル−1−プロパノール、2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロペンタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGMと略す)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(以下PGEと略す)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(以下PGPと略す)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(以下PGBと略す)等のアルコール類が挙げられる。
【0075】
これらの内では、本発明の反応性ポリシロキサンを良く溶解し、硬化性組成物等の応用に際して、反応性ポリシロキサン組成物の溶剤がそのまま残留しても基材との濡れ性などが良好である点で、PGMEA、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N−メチルピロリドン、メタノール、エタノール、プロパノール。PGM等が好ましい。これらの有機溶剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもでき、さら好ましいのはPGMEAとプロピレングリコールモノアルキルエーテルとの混合溶媒である。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。
なお、実施例の記載における「Mn」は、数平均分子量を意味し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(以下、「GPC」と略す)により標準ポリスチレンを用いて算出したものである。
また、得られた反応性ポリシロキサン(C)の1H−NMR分析は、測定試料1gと、内部標準物質であるヘキサメチルジシロキサン(以下、「HMDSO」という)100mgとを、それぞれ精秤して混合し、HMDSOのプロトンに起因するシグナル強度を基準として、反応性ポリシロキサン(C)を構成する各モノマーユニット単位に起因するプロトンのシグナル強度を規格化して定量計算を行った。
【0077】
THF溶解性試験は、得られたポリシロキサンの固体0.2gを25℃のテトラヒドロフラン(THF)の20gに攪拌して溶解したものを、50mlガラス製メスフラスコに入れて上から目視して濁りを観察した。
また、液のpH測定はガラス電極式pHメーターで行なった。アルコール等の有機溶剤中の水分は、カールフィッシャー電量滴定法で測定し、水分が300質量ppm以下のものを使用した。
【0078】
<実施例1>
攪拌機及び温度計を備えた反応器に、アルコール交換反応用の1−プロパノール150gと、Qモノマーとしてのテトラメトキシシラン(以下、「TMOS」という)36.53g(0.24モル)とを仕込んだ後、これらを撹拌しながら、25質量%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液4.37g(メタノール0.1モル、水酸化テトラメチルアンモニウム12ミリモル)を徐々に加えて、温度25℃、pH9で6時間反応させた。その後、内温を60℃にして攪拌しながらさらに1時間反応させた。ここで、反応液をガスクロマトグラフ分析(TCD検出器)したところ、TMOSのメトキシ基がn−プロポキシ基に置換された化合物(1置換体から4置換体)及び未反応のTMOSが検出された。TMOSは痕跡量しか検出されなかった。これらのうちのn−プロポキシ基含有化合物の割合は、合計でほぼ100質量%であった。ガスクロマトグラムにおける生成物のピーク面積に基づいて、1−プロパノールの置換数(n−プロポキシ基含有化合物1分子あたりのn−プロポキシ基の数の平均)を求めたところ、2.7であった。
【0079】
次に、上記反応液に、Tモノマーとしての3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン59.62g(0.24モル)を加え、さらに水30.2gを加えた。そして、25質量%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液7.88g(メタノール0.18モル、水酸化テトラメチルアンモニウム21.6ミリモル)を加えて、撹拌しながら、温度25℃、pH9で24時間反応させた。その後、10質量%シュウ酸メタノール溶液21.6g(シュウ酸として24ミリモル)加えて10分間攪拌し、中和した。中和直後の中和液のpHをpHメーターで測定したところpH=6.0であり、液は無色透明であった。次いで、この中和液を、ジイソプロピルエーテル120g及び水180gの混合液の中に加えて抽出を行った。このジイソプロピルエーテル層を水洗することで塩類や過剰の酸を除去し、その後、重合禁止剤としてN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミシアルミニウム塩(商品名「Q−1301」、和光純薬工業株式会社製)を11.5mg加えた。得られたジイソプロピルエーテル溶液から、減圧下で有機溶剤を留去し、無色透明な固体の有機ケイ素化合物(C1)を得た。その収量は57.7gであった。そして、C1をTHF溶解性試験にかけたところ、溶液は無色透明であり、不溶物は認められなかった。
【0080】
有機ケイ素化合物(C1)を1H−NMR分析し、メタクリロイル基が存在することを確認した。また、この1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)、即ち、Tモノマーに由来する構造単位(Tモノマー単位)の含有量及び有機ケイ素化合物(C1)のアルコキシ基の含有量を求め、これを基にしてケイ素化合物(B1)、即ち、Qモノマーに由来する構造単位(Qモノマー単位)の含有量を計算した。その結果、得られた有機ケイ素化合物(C1)は、ケイ素化合物(A)及びケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C1)の1H−NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したn−プロポキシ基)の含有割合は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して2.5%に相当する量であった。
また、Mnは9,600であった。
【0081】
<実施例2>
実施例1において中和に用いた24ミリモルのシュウ酸に代えて、24ミリモルのギ酸を用いた他は実施例1と同じにして有機ケイ素化合物C2を得た。中和後の中和液のpHは6.0でやや濁りが認められたが、最終的に55.3gのC2を得ることができ、THF溶解性試験では、溶液は無色透明であり、不溶物は認められなかった。
【0082】
<実施例3>
実施例1において中和に用いた24ミリモルのシュウ酸に代えて、65ミリモルのシュウ酸を10%濃度の1−プロパノール溶液として用いた他は実施例1と同じにして有機ケイ素化合物C3を得た。中和後の中和液のpHは4.0で無色透明であり、最終的に57.1gのC2を得ることができた。THF溶解性試験では、溶液は無色透明であり、不溶物は認められなかった。
【0083】
<実施例4>
実施例1において中和に用いた24ミリモルのシュウ酸に代えて、35ミリモルのシュウ酸を10%水溶液として用いた他は実施例1と同じにして有機ケイ素化合物C4を得た。中和後の中和液のpHは6.0で、やや濁りがあったが、最終的に54.6gのC4を得ることができ、THF溶解性試験では、溶液は無色透明であり、不溶物は認められなかった。
【0084】
<実施例5>
実施例1において中和に用いた24ミリモルのシュウ酸に代えて、33ミリモルのメタンスルホン酸を10%水溶液として用いた他は実施例1と同じにして有機ケイ素化合物C5を得た。中和後の中和液のpHは2.0でやや濁りがあったが、最終的に41.5gのC5を得ることができ、THF溶解性試験では、溶液は無色であったが一部不溶物が認められた。
【0085】
<実施例6>
攪拌機および温度計を備えた反応器に、ケイ素化合物(A)として、Tモノマーの1種である3−エチル−3−((3−(トリメトキシシリル)プロポキシ)メチル)オキセタン(以下、「TMSOX」という)1.1kg(4.01モル)、ケイ素化合物(B)としてQモノマーの1種であるテトラメトキシシラン(以下、「TMOS」という)1.1kg(7.24モル)と1−プロパノール1.1kgを仕込んだ後、25%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液0.29kg(水酸化テトラメチルアンモニウムとして0.8モル)を徐々に加えた。60℃で1時間反応させた後、反応液を攪拌しながら水750g(41モル)と1−プロパノール750gの混合液を0.5時間かけて滴下した。滴下時間も含めて60℃で6時間反応させたあと、温度25℃で20質量%濃度のシュウ酸/メタノール溶液396g(0.88モル)を加えて1時間攪拌し、中和した。中和後の液は無色透明であり、ゲル化はおきていなかった。この中和液のpHをpHメーターで測定したところ、6.0であった。減圧下で有機溶剤と水を留去して、得られた残さをPGMEAに溶解させ、水洗を行うことで塩類や過剰の酸を除去した。得られたPGMEA溶液から減圧下で溶剤を留去し、無色の有機ケイ素化合物C6の1.2kgを得た。
【0086】
化合物C6を1H NMR分析およびIR(赤外吸収)分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)、即ち、TMSOXに由来する構造単位(Tモノマー単位)の含有量および化合物C1のアルコキシ基の含有量を求め、これらを基にしてケイ素化合物(B)、即ち、TMOSに由来する構造単位(Qモノマー単位)の含有量を計算した。その結果、得られた有機ケイ素化合物C6は、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
【0087】
ケイ素化合物C6の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して0.8%に相当する量であった。
また、得られたケイ素化合物のMnは3,200、Mwは350,000であり、保持時間6分から10分付近の高分子領域にピークは見られなかった。実施例6で得られた化合物C6をTHF試験で評価したところ無色透明で不溶物は認められなかった。
【0088】
<実施例7>
実施例6において中和に用いた0.88モルのシュウ酸に代えて、4.8モルの酢酸のメタノール溶液を用いた他は実施例1と同じにして有機ケイ素化合物C7を得た。中和後の中和液のpHは6.0でやや濁りが認められ、THF溶解性試験では、わずかにほぼ透明の不溶物が認められたが、溶液はほぼ無色透明だった。
【0089】
<実施例8>
実施例6において中和に用いた0.88モルのシュウ酸に代えて、5.6モルの10%クエン酸水溶液を用いた他は実施例6と同じにして有機ケイ素化合物C8を得た。中和後の中和液のpHは7.0でやや濁りが認められたが、THF溶解性試験では、溶液は無色透明だった。
【0090】
<比較例1>
実施例6において中和に用いた0.88モルのシュウ酸に代えて、0.88モルの硫酸の10%水溶液を用いた他は実施例6と同じにして有機ケイ素化合物を得た。中和後の中和液のpHは3.0で、明らかな濁りが認められた。最終的に白色の固体を得ることができたが、ゲル化しておりTHF溶解性試験ではほとんど溶けなかった。
【0091】
<比較例2>
実施例6において中和に用いた0.88モルのシュウ酸に代えて、0.88モルの硫酸の10%水溶液を用いた他は実施例6と同じにして有機ケイ素化合物を得た。中和後の中和液のpHは3.0で、明らかな濁りが認められた。最終的に白色の固体を得ることができたが、ゲル化しておりTHF溶解性試験ではほとんど溶けなかった。
【0092】
実施例と比較例の結果を表1にまとめた。
【表1】

【0093】
表1において、当量とは、第1工程で用いたアルカリ剤の当量に対する第2工程で用いた酸の当量を意味し、アルカリ剤が1酸塩基で酸が1塩基酸である場合は、各々のモル数の比と同じ値となる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の反応性ポリシロキサンは反応性基を有するので硬化性組成物の少なくとも一部として用いることにより、組成物に硬化性を付与するができるものであり、また、無機成分が多いために、硬化物には耐熱性や高い表面硬度を付与することができる。したがって、各種コーティング材料等の原材料として好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるケイ素化合物(A)と、下記一般式(2)で表されるケイ素化合物(B)とを、アルカリ性条件下で加水分解共縮合させる第1工程と、縮合工程を経た反応液を、有機酸で中和する第2工程とを含む、反応性ポリシロキサンの製造方法。

【化1】

〔一般式(1)において、R0はメタクリロイル基、アクリロイル基、オキセタニル基のなかから選択される少なくとも1種を有する有機基であり、R0は同一であっても異なっても良く、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を有する有機基であり、R1は同一であっても異なっても良く、Xは加水分解性基であり、Xは同一であっても異なっても良く、nは0又は1である。〕

SiY4 (2)

〔一般式(2)において、Yはシロキサン結合生成基であり、Yは同一であっても異なっても良い。〕
【請求項2】
第2工程で用いる有機酸が、5以下のpKaを有するカルボン酸を含み、中和後の中和液の液性がpH値で7より小さく2以上である、請求項1に記載の反応性ポリシロキサンの製造方法。
【請求項3】
第2工程で用いる有機酸が、最も小さいpKaが3.3より小さい多塩基酸であるカルボン酸を含む請求項1または2に記載の反応性ポリシロキサンの製造方法。
【請求項4】
第2工程で用いる有機酸を、炭素数1〜5のアルコールを含む非水溶液として用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の反応性ポリシロキサンの製造方法。
【請求項5】
第2工程で用いる有機酸が、シュウ酸またはクエン酸である、請求項1〜4のいずれかに記載の反応性ポリシロキサンの製造方法。

【公開番号】特開2011−132326(P2011−132326A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292025(P2009−292025)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】