説明

取付機具及び取付装置

【課題】簡易に被取付部材を任意箇所に取り付けることができ、しかも被取付部材の取り付け姿勢の変更に柔軟に対応することができる取付機具及び取付装置を提供する。
【解決手段】制震ブレースFを柱梁架構に取り付けるための取付機具1に、制震ブレースFを把持する把持部13と、把持部13を支持する把持部支持板(124d)を有し、把持部支持板(124d)を少なくとも一方向へ直線移動させることにより、柱梁架構に対する把持部13の位置を調整する位置調整機構12と、把持部支持板(124d)の一方向に略直交する回転軸を中心にして、把持部13を位置調整機構12と共に回転させる回転機構11とを備え、把持部支持板(124d)を、複数の異なる姿勢で把持部13を支持固定する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被取付部材を任意箇所に取り付けるための取付機具、及び該取付機具をフォークリフト等の運搬車に昇降可能に設けた取付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長周期・長時間地震動対策として、既存建物の柱梁架構に2本の制震ブレース(筋交い)をV字状に取り付け、各制震ブレースの下端部に長期振動を吸収するオイルダンパーを設置する制震補強方法が実用化されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
制震ブレースは、例えば長さ2.5m、重さ400kgの長尺状の鋼材であり、制震ブレースの取付方法としては、ウインチを用いた方法が一般的に採用されている。具体的には、複数の作業員が、梁にウインチを仮設し、仮設されたウインチで制震ブレースを吊り上げ、ワイヤで吊り下げられた制震ブレースの取り付け位置を巧みに調整しながら、柱梁架構に取り付けるという作業を行っている。
【0004】
一方で、サッシ窓を窓開口部に取り付ける取付装置が実用化されている。該取付装置は、フォークリフトの腕部に設置され、サッシ窓を把持するとともに、前後左右位置を微調整する各種位置調整機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3972892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来の取付方法においては、制震ブレースの取付作業に多大な手間を要していた。また、サッシ窓の取付装置は、サッシ窓を予め定められた姿勢、つまりサッシ窓の縦横方向が鉛直及び水平になる姿勢で取り付けることを想定しているため、制震ブレースを右斜めの姿勢、あるいは左斜めの姿勢で取り付ける必要がある制震補強作業に、サッシ窓の取付装置を単純に適用することはできない。取付姿勢が数十度も異なる複数の姿勢で2本の制震ブレースをV字状に取り付ける必要がある場合、微調整機能では到底対応することができない。
上記問題は、制震ブレースを取り付ける場合のみならず、被取付部材を異なる複数の姿勢で任意箇所に取り付ける際、一般的に発生する問題である。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、梁にウインチを仮設することなく、従来の取り付け方法に比べてより簡易に被取付部材を任意箇所に取り付けることができ、しかも被取付部材の取り付け姿勢の変更に柔軟に対応することができる取付機具及び取付装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る取付機具は、被取付部材を任意箇所に取り付けるための取付機具であって、前記被取付部材を把持する把持部と、該把持部を支持する支持部材を有し、該支持部材を少なくとも一方向へ直線移動させることにより、前記任意箇所に対する前記把持部の位置を調整する位置調整機構と、前記一方向に略直交する回転軸を中心にして、前記把持部を前記位置調整機構と共に回転させる回転機構とを備え、前記支持部材は、複数の異なる姿勢で前記把持部を支持固定するように構成してあることを特徴とする。
【0009】
本発明にあっては、取付機具の把持部によって被取付部材を把持することができる。把持部は、支持部材によって支持されており、位置調整機構は、該支持部材を少なくとも一方向へ直線移動させる。また、回転機構は、前記一方向に略直交する回転軸を中心にして、把持部を位置調整機構と共に回転させる。従って、把持部にて把持した被取付部材を回転させ、前記一方向における任意箇所及び把持部の相対位置を調整することができる。
また、支持部材は、複数の異なる姿勢で把持部を支持固定する構成であるため、任意箇所に対する被取付部材の取り付け姿勢を変更することが可能である。
【0010】
本発明に係る取付機具は、前記把持部は、前記位置調整機構によって位置調整される基部と、前記被取付部材を把持するための複数の把持爪と、該複数の把持爪の先端部が互いに接離する方向へ回動するように、該把持爪の基端部を回動可能に支持する支持軸と、前記基部に該支持軸を着脱可能に係止する係止部材とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、係止部材による支持軸の係止が解除された場合、基部から把持爪を取り外すことが可能になる。また、係止部材によって支持軸を係止することによって、基部に把持爪を取り付けることが可能になる。
従って、例えば、被取付部材の形状に応じた把持爪を用意することによって、異なる形状の被取付部材を把持し、任意箇所に取り付けることが可能になる。
【0012】
本発明に係る取付装置は、前記取付機具と、前記回転機構の回転軸を略水平に保ったまま前記取付機具を昇降させる昇降機構を有する運搬車とを備え、前記運搬車は、一又は複数の車輪と、車体底部との距離を変更する機構を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、運搬車の一又は複数の車輪と、車体底部との距離を変更することによって、地面に対する運搬車の姿勢を変更することが可能になる。
また、任意箇所に対する把持部の姿勢、位置調整方向を一定に保つことが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にあっては、梁にウインチを仮設することなく、従来の取り付け方法に比べてより簡易に被取付部材を任意箇所に取り付けることができ、しかも被取付部材の取り付け姿勢の変更に柔軟に対応することができる。
例えば、長周期・長時間地震動対策に利用される2本の制震ブレースをV字状に取り付ける作業効率を向上させることができ、制震補強の工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る取付装置を模式的に示した側面図である。
【図2】取付装置の要部を模式的に示した側面図である。
【図3】取付装置の要部を模式的に示した平面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】把持部及び把持部支持板の要部を示した模式図である。
【図6】把持部支持板に支持固定された把持基板の姿勢と、位置調整方向との関係を示す説明図である。
【図7】取付装置の使用方法の一例を模式的に示す説明図である。
【図8】把持部の開閉動作を示す説明図である。
【図9】回転機構の動作を示す説明図である。
【図10】位置調整機構の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図1は、本発明の実施の形態に係る取付装置を模式的に示した側面図、図2は、取付装置の要部を模式的に示した側面図、図3は、取付装置の要部を模式的に示した平面図、図4は、図2のIV−IV線断面図である。本発明の実施の形態に係る取付装置は、長尺状の制震ブレースFを柱梁架構に取り付けるための取付機具1と、フォークリフト2とを備える。以下、本実施の形態においては、フォークリフト2の進行方向を前方、フォークリフト2の後退方向を後方、前後方向に対して略垂直な水平方向を横方向という。
【0017】
フォークリフト2は、駆動機構を有するフォークリフト本体21、フォークリフト本体21から前方へ迫り出した略矩形の車体底部22、車体底部22の横方向両側にそれぞれ設けられた2個の前輪部23、フォークリフト本体21に設けられた後輪部24、車体底部22から上方へ立設されたマスト25、マスト25に沿って昇降するフォーク爪26、フォークリフト本体21に設けられた操作ハンドル27、及び車体底部22に載置されたバッテリ28を備える。
前輪部23は、前輪の車軸を支持する2枚の車軸支持板を備えている。前輪部23の該車軸支持板は、車体底部22の前方端部に設けられた横方向の上下回動軸23aによって上下回動可能に支持されている。また、車体底部22は、車体底部22の前方端部の横方向両側からそれぞれ上方に突出した突出部22aを備えており、突出部22aには前輪部23の上下回動位置を調整するための水平調整ねじ23bが先端部を前方に向けて螺合している。前輪部23は、水平調整ねじ23bの先端部が当接する当接部23cを車軸支持板の適宜箇所に備えている。
制震ブレースFの取り付けを行う作業者は、水平調整ねじ23bを回動させることによって、各前輪部23を上下回動させ、フォークリフト2の水平を調整することができる。既存建物で制震ブレースFの取り付け作業を行う際、図1に示すように養生を設けると、フォークリフト2及び取付機具1が傾くおそれがあるが、前輪部23を上下回動させることによって、取付機具1の水平を確保することが可能になる。水平を確保することによって、制震ブレースFの取付位置調整を正確に行うことが可能になる。
【0018】
取付機具1は、制震ブレースFを把持する把持部13と、柱梁架構に対する把持部13の位置を調整する位置調整機構12と、把持部13を位置調整機構12と共に回転させる回転機構11とを備えており、回転機構11はフォーク爪26に設置されている。以下、回転機構11、位置調整機構12、把持部13、その他の細部構造を順に説明し、次いで取付装置の使用方法及び動作を説明する。
【0019】
<回転機構>
回転機構11は、ウォーム減速機111と、ウォーム減速機111の出力を巻き掛け伝動する巻き掛け伝動機構112とを備える。ウォーム減速機111は、フォーク爪26に設けられた支持台113によって支持されている。支持台113は、フォーク爪26の垂直部に締結された矩形状の背板と、該背板の上端から前方へ屈曲し、ウォーム減速機111が載置される載置板と、該載置板を補強する側板とで構成される。
【0020】
ウォーム減速機111は、ウォーム及び該ウォームに噛合するウォームホイール(不図示)を収容した略直方体の減速機収容体111aを備える。減速機収容体111aは、ウォーム及びウォームホイールの回転軸がそれぞれ横方向及び前後方向を向き、かつウォームがウォームホイールの上方に位置する姿勢で支持台113の載置板上に固定されている。ウォームの入力軸111bは、減速機収容体111aから横方向両側に突出しており、各入力軸111bの先端部にはチェーンホイール111cが一体回転可能に設けられている。チェーンホイール111cには、該チェーンホイール111cを回転駆動させるエンドレスチェーン111dが巻き掛けられている。ウォームの出力軸111gは、減速機収容体111aから前方へ突出しており、巻き掛け伝動機構112に接続されている。
【0021】
減速機収容体111aの下部四隅には、略同形の縦長の板片がそれぞれ立設されている。該板片の上端部には上下両側が開放したチェーン案内筒111eが設けられ、チェーン案内筒111eには、エンドレスチェーン111dが上下動自在に挿通している。チェーン案内筒111eは、エンドレスチェーン111dの上下移動を案内することによって、チェーンホイール111cからエンドレスチェーン111dが脱落することを防止するものである。
【0022】
また、チェーン案内筒111eには、側面視倒立U字状の巻き込み防止板111fが設けられている。巻き込み防止板111fは、前後に配された2つのチェーン案内筒111eからそれぞれ上方へ延設され、エンドレスチェーン111dに倣うようにエンドレスホイールの外周縁を覆う板状部材であり、エンドレスホイールに作業者の衣服、指等が巻き込まれるといった事故を防止するためのものである。他の2つのチェーン案内筒111eにも同様の巻き込み防止板111fが設けられている。
【0023】
巻き掛け伝動機構112は、図4に示すように、出力軸111gの先端部に設けられた駆動小歯車112aと、回転軸方向を前後方向にして該駆動小歯車112aの下方に配された従動大歯車112cと、駆動小歯車112a及び従動大歯車112cに巻き掛けられたローラチェーン112bとを備える。従動大歯車112cは、位置調整機構12と一体回転可能に構成されている。詳細は後述する。
また、巻き掛け伝動機構112は、駆動小歯車112a、従動大歯車112c及びローラチェーン112bを覆う覆体112dを備える。覆体112dは、フォーク爪26の適宜箇所に設けられている。
【0024】
作業員がチェーンホイール111cから垂れ下がるエンドレスチェーン111dを引き下げると、チェーンホイール111cが回転し、回転力が入力軸111bに入力される。入力軸111bに入力した回転力は、ウォーム減速機111によって、出力軸111gへ減速伝達される。出力軸111gから出力された回転力は、更に、巻き掛け伝動機構112によって、従動大歯車112cへ減速伝達され、位置調整機構12が回転する。
また、作業員は、チェーンホイール111cの前方から垂れ下がったエンドレスチェーン111d、又は後方から垂れ下がったエンドレスチェーン111dのいずれかを選択的に引き下げることによって、従動大歯車112cの回転方向、即ち位置調整機構12の回転方向を選択することができる。
更に、横方向両側にエンドレスチェーン111d及びチェーンホイール111cが設けられているため、作業員は、作業環境に応じて取付装置の右側、左側のいずれからも回転機構11を操作することができる。
更にまた、エンドレスチェーン111dにて駆動する構成であるため、取付装置1の上下位置に拘わらず、一定の操作性を確保することができる。
【0025】
<位置調整機構>
位置調整機構12は、従動大歯車112cの回転軸方向(本実施の形態においては前後方向)へ把持部13を進退させる進退駆動機構部121と、該回転軸方向に対して略垂直な第1方向(例えば、横方向)へ把持部13を移動させる第1位置調整機構部122と、前記回転軸方向及び第1方向に対して略垂直な第2方向(例えば、上下方向)へ把持部13を移動させる第2位置調整機構部123と、前記回転軸方向及び第1方向を含む面内(例えば、水平面内)において把持部13を首振り回動させる首振り機構部124とを備える。以下、前記回転軸方向及び第1方向を含む面を首振り回動面という。
なお、前記回転軸方向、第1方向、第2方向及び首振り回動面の相対関係は一定であるが、位置調整機構12は回転機構11によって回転する構成であるため、第1方向は水平面に対して変動する。例えば、位置調整機構12がある回転位置にあり、第1方向が水平横方向にある場合であっても、位置調整機構12が略90度回転すると、第1方向は鉛直方向になる。同様にして、第2方向及び首振り回動面も水平面に対して変動する。
【0026】
<位置調整機構の進退駆動機構部>
進退駆動機構部121は、従動大歯車112cの回転軸方向へ把持部13を移動させることによって、柱梁架構に対する把持部13の位置を調整するものである(図10(a)参照)。進退駆動機構部121は、その軸長方向と、前記回転軸方向とが略一致するように、従動大歯車112cと一体的に回転する角柱状の進退駆動機構部本体121aと、進退駆動機構部本体121aから前方へ突出しており、軸長方向へ進退する進退駆動部材121cとを備える。
【0027】
進退駆動機構部本体121aは、後端部から後方へ突出した軸部121bと、先端側の外周に同軸的に固定された回転円板部121dとを備える。軸部121bは、支持台113の背板に形成された凹部に嵌合し、回動可能に支持されている。フォーク爪26の先端側には、進退駆動機構部本体121aのラジアル加重を受け、回転円板部121dを回動可能に支持する支持ローラ111hが設けられている。
進退駆動機構部本体121aは、例えば、正逆回転可能なモータ(不図示)、該モータの回転運動を直線運動に変換するボールねじ機構等を収容している。また、進退駆動機構部本体121aは、進退駆動機構部121の動作を操作するための進退操作部121eを備えている。
【0028】
進退駆動部材121cは、進退駆動機構部本体121aより小寸法の角柱状をなし、進退駆動機構部本体121aに内嵌している。なお、進退駆動部材121cは、進退駆動機構部本体121aの前方端部の四辺縁部にそれぞれ設けられた複数のローラによって進退可能に支持されている。
【0029】
このように構成された進退操作部121eを作業員が操作すると、進退駆動部材121cは、前後方向へ進退する。従って、前後方向における把持部13の位置調整が可能になる。
【0030】
<位置調整機構の第1位置調整機構部>
第1位置調整機構部122は、把持部13を第1方向へ移動させることによって、柱梁架構に対する把持部13の位置を調整するものである(図10(b)参照)。第1位置調整機構部122は、進退駆動部材121cの先端部に設けられたフランジに締結された第1位置調整基板122aを備える。第1位置調整基板122aは、進退駆動機構部本体121aの軸長方向(本実施の形態においては前後方向)に対して略垂直な板材であり、該板材には、前方へ突出し、かつ第1方向に離隔対向した略同形の2枚の送りねじ支持板122bが設けられている。2枚の送りねじ支持板122bは、角部を切り欠いた略矩形状である。
【0031】
また、第1位置調整機構部122は、第1方向へ移動する第1方向移動部材122fと、該第1方向移動部材122fを送りねじ機構によって第1方向へ移動させる第1方向送りねじ122cと、第1方向移動部材122fを支持すると共に第1方向への直線移動を案内する第1方向案内軸122eとを備える。第1方向送りねじ122cは、2枚の支持板を第1方向に貫通し、送りねじ支持板122bによって第1方向への移動が規制され、かつ自由回転可能に支持されている。第1方向送りねじ122cの両端には、丸リム型の第1方向送りハンドル122dがそれぞれ設けられている。また、第1方向案内軸122eは、第1方向送りねじ122cと同様、2枚の支持板によって支持されている。第1方向移動部材122fは、2枚の支持板間を往復移動できる厚み寸法を有する板状をなし、送りねじに螺合する雌ねじと、第1方向案内軸122eに移動可能に挿通する挿通孔とが形成されている。
【0032】
また、第1方向移動部材122fは、第2方向一端側(図1中、上端側)に雌ねじを備える。更に、第1方向移動部材122fは、第2位置調整機構123と連結するための構成として、前方端部から第1方向両側へそれぞれ突出し、第2方向へ適宜長に亘って形成された線条体(不図示)を有する。
【0033】
このように構成された第1位置調整機構部122の第1方向送りハンドル122dを作業員が回転させると、ねじ送り機構によって、第1方向移動部材122fは第1方向へ直線移動する。従って、第1方向における把持部13の位置調整が可能になる。
【0034】
<位置調整機構の第2位置調整機構部>
第2位置調整機構部123は、把持部13を第2方向へ移動させることによって、柱梁架構に対する把持部13の位置を調整するものである(図10(c)参照)。第2位置調整機構部123は、第2方向へ直線移動する板状の第2方向移動部材123aを備える。第2方向移動部材123aは、第1方向移動部材122fの線条体に係合する鉤状の案内リブ123bを備えており、線条体に沿って第2方向へ移動できるように構成されている。また、第2方向移動部材123aは、第2方向一端側から後方へ突出したF字状突出部を備える。該F字状突出部は、第2方向位置調整ねじ123cを、自由回転可能に支持し、かつ第2方向への移動を規制している。第2方向位置調整ねじ123cは、第1方向移動部材122fの雌ねじに螺合している。
【0035】
このように構成された第2位置調整機構部123の第2方向位置調整ねじ123cを作業員が回転させると、第2方向移動部材123aは、第1方向移動部材122fの線条体に沿って第2方向へ直線移動する。従って、第2方向における把持部13の位置調整が可能になる。
【0036】
<位置調整機構の首振り機構部>
首振り機構部124は、首振り回動面において把持部13を首振り回動させることによって、柱梁架構に対する把持部13の位置を調整するものである(図10(d)参照)。首振り機構部124は、第2方向移動部材123aの前方に設けられ、前方が開放した中空略直方体形状の首振り基部124aと、把持部13を支持する把持部支持板124dとを備える。首振り基部124aには、第2方向の首振り回動軸124bが設けられている。把持部支持板124dは、後方へ突出した2枚の第1軸支フランジ124cを備え、第1軸支フランジ124cは、首振り回動軸124bによって回動可能に支持されている。
【0037】
また、首振り機構部124は、把持部支持板124dを首振り回動させるためのねじ機構を有する。具体的には、首振り機構部124は、外周面に雄ねじを有し、一端部が首振り基部124a側に接続された棒状の首振りねじ124hと、該雄ねじに螺合した雌ねじ筒体を有し、把持部支持板124dに接続された丸リム型の首振りハンドル124gとを備える。より詳細な構成は以下の通りである。
首振りねじ124hの一端部には、該首振りねじ124hの軸長方向に対して略垂直な首振りねじ支持軸124jが設けられている。首振り基部124aの一側面には、第2軸支フランジ124iが形成されており、首振りねじ支持軸124jは、その軸長方向が第2方向に略一致するように第2軸支フランジ124iによって支持されている。
首振り機構部124は、首振りハンドル124gの雌ねじ筒体が自由回転可能に内嵌し、首振りねじ124hに沿って該雌ねじ筒体と一体的に移動する移動ブロック124fを備える。把持部支持板124dには、移動ブロック124fを挾持するための挾持片124eが形成されており、移動ブロック124fは、図示しない第2方向の回動軸によって、挾持片124eに支持されている。
【0038】
首振りハンドル124gが回転して雌ねじ筒体が回転した場合、雌ねじ筒体と共に移動ブロック124fは、首振りねじ124hに沿って移動する。移動ブロック124fが首振りねじ124hに沿って移動した場合、把持部支持板124dも移動ブロック124fに追動し、首振り回動軸124bを回動中心にして首振り回動する。
【0039】
なお、把持部支持板124dは、把持部13を異なる複数の姿勢で支持固定するための細部構成として、把持基板挾持部124k、図1〜図4に図示されていない第1及び第2ボルト孔124m、124m、把持基板固定ボルト124nを備えているが(図5及び図6参照)、その詳細は、後述の把持部13の構成と併せて説明する。
【0040】
<把持部>
図5は、把持部13及び把持部支持板124dの要部を示した模式図である。把持部13は、把持部支持板124dに支持固定された把持基板131と、制震ブレースFを把持する2組の把持爪132、133とを備える。把持基板131は、略長方形の板状であり、把持部支持板124dに対して積層的に対向している。把持基板131の四隅には、把持爪132、133を支持するための把持爪支持部131eを備える。把持爪支持部131eの短辺方向内側には、緩衝部材131gが設けられている。また、把持基板131は、把持爪132、133を開方向へ付勢する付勢部材132d、133dを引っ掛けるためのU字状の引掛部131fを備える。更に、把持基板131の各短辺には長手方向外側へそれぞれ突出した突出湾曲部が形成されている。更にまた、把持基板131は、該把持基板131の回転軸から離隔した第1ボルト挿通孔131cと、該第1ボルト孔124lから把持基板131の回転方向へ所定長離隔した第2ボルト挿通孔131dとを有する。第1及び第2ボルト挿通孔131c,131dは、異なる姿勢で把持部13を位置調整機構12の把持部支持板124dに支持固定するためのものである。
【0041】
また、把持部13は、把持爪132、133の先端部132f、133fが互に接離する方向へ回動するように、把持爪132、133の基端部を回動可能に支持する把持爪支持軸132a、133aを備える。把持爪支持軸132a、133aは、把持基板131の長辺方向を向くよう把持爪支持部131eによって支持されている。また、把持部13は、図2に示すように把持基板131の把持爪支持部131eに把持爪支持軸132a、133aを着脱可能に係止するための係止部材133bを備える。係止部材133bは、例えば、ピン状部材である。係止部材133にて、把持爪支持軸132a、133aを着脱することにより、把持爪132、133を取り外すことができる。従って、例えば、被取付部材の形状に応じた把持爪を用意することによって、異なる形状の被取付部材を把持し、任意箇所に取り付けることが可能になる。なお、作図の便宜上、符号133bを一部省略してあるが、各把持爪132、133には同様の係止部材133bが設けられている。
【0042】
更に、把持部13は、把持爪132、133を閉状態に連結するための連結桿132hを備える。連結桿132hの一端側には雄ねじが形成されており、該雄ねじには把持爪132、133を閉状態で締結するための把持爪締結ボルト132iが螺合している。連結桿132hの他端側は把持爪132の先端部132fに、連結桿支持軸132gによって回動可能に支持されている。なお、連結桿支持軸132gは、把持爪支持軸132a、133aと略同方向である。把持爪133の先端部133fは、把持爪132側から把持爪133側へ回動した連結桿132hの一端側が嵌り込む凹部を備える。凹部に連結桿132hを嵌め込んだ状態で把持爪締結ボルト132iを締結することによって、把持爪132、133を締結することができる。また、把持爪133の先端部133fには、凹部に嵌り込んだ連結桿132hの脱落を防止する脱落防止突起133gが設けられている。詳細には、脱落防止突起133gは、前記凹部の連結桿132h入側から、該凹部に嵌り込んだ連結桿132hの前記他端側へ突出した凸状部である。
脱落防止突起133gを設けることによって、把持爪締結ボルト132iによる締結が解除された状態であっても、連結桿132hによって把持爪132、133の連結状態を維持することができる。従って、把持爪締結ボルト132iを締め付ける際、把持爪132、133を閉状態に押さえ込みながら締結作業を行う必要がなくなる。また、把持爪締結ボルト132iの締結を解除した際、自重によって把持爪132、133が落下するように開き、作業員が負傷する事故を防止することができる。
【0043】
更にまた、把持爪132、133は、引掛金具132c、133cを備え、引掛金具132c、133cと、把持基板131の引掛部131fとの間には、把持爪132、133を開方向へ付勢する把持爪付勢部材132d、133dが設けられている。また、把持爪132、133の内側には、緩衝部材132e、133eが設けられている。
【0044】
図6は、把持部支持板124dに支持固定された把持基板131の姿勢と、位置調整方向との関係を示す説明図である。把持部支持板124dは、把持基板131の突出湾曲部を前記長手方向の外側から挟み込むように挾持する鉤状の把持基板挾持部124kを備えており、図6に示すように把持基板131を把持基板回転軸131bによって回動可能に支持している。
また、把持部支持板124dは、把持基板131が図6(a)に示すように、第2方向(図6中上下方向)に対して把持基板131の長手方向が一方向(図6中右方向)へ所定角度傾いた姿勢で、把持基板131を固定するための第1ボルト孔124lを有する。図6(a)に示すように、把持基板固定ボルト124nを第1ボルト挿通孔131cに挿通させ第1ボルト孔124lに螺合させることによって、把持基板131を前記一方向へ傾けた状態で把持部支持板124dに支持固定させることができる。
同様にして、把持部支持板124dは、把持基板131が図6(b)に示すように、第2方向(図6中上下方向)に対して把持基板131の長手方向が他方向(図6中左方向)へ所定角度傾いた姿勢で、把持基板131を固定するための第2ボルト孔124mを有する。図6(b)に示すように、把持基板固定ボルト124nを第2ボルト挿通孔131dに挿通させ第2ボルト孔124mに螺合させることによって、把持基板131を前記他方向へ傾けた状態で把持部支持板124dに支持固定させることができる。
【0045】
このように構成された把持部支持板124d及び把持基板131にあっては、制震ブレースFの取り付け姿勢の変更に柔軟に対応することができる。また、図6(a)、(b)に示すように、把持部支持板124dに対する把持基板131の姿勢を適宜変更することによって、制震ブレースFを右斜めに取り付ける場合、左斜めに取り付ける場合のいずれの場合であっても、位置調整機構12による位置調整方向を変更すること無く制震ブレースFの取り付けを行うことが可能になる。つまり、2本の制震ブレースFを略V字状に取り付ける場合、一の制震ブレースFを右斜めに把持して取り付け、更に他の制震ブレースFを左斜めに把持して取り付ける必要があるが、いずれの場合においても、把持部13の位置を横方向及び上下方向の直線移動、水平面における首振り回動によって調整することが可能になる。
【0046】
なお、回転機構11によって、把持部13を回転させた場合、上述のように位置調整方向が変動するため、位置調整作業に混乱が生じ、効率的に制震ブレースFを取り付けることが困難になる。また、位置調整機構12の後段に、回転機構11を設けることも考えられるが、大きな減速比を有する大型の回転機構11を位置調整機構12の後段に設けた場合、不具合が生ずる。例えば、フォークリフト2に取付機具1のより広い載置スペースを確保し、また不要なカウンターウェイトを備える必要が生じるため、全体として取付装置が大型化することになる。既存の建物において制震ブレースFを取り付ける場合、作業スペースは限られており、取付装置の大型化は深刻な問題となる。
【0047】
<その他の細部構造>
取付装置は、取付装置を安定させるアウトリガー3(図7参照)を保持するための2個のアウトリガー保持筒14aを各フォーク爪26に備える。また、各アウトリガー保持筒14aを連結する連結管14b、連結管14bの適宜箇所に設けられた工具保持筒14cを備える。工具保持筒14cは、把持爪締結ボルト132i、第2方向位置調整ねじ123c、把持基板固定ボルト124n等を締結するための工具を保持するためのものである。
【0048】
<取付装置の使用方法及び動作>
図7は、取付装置の使用方法の一例を模式的に示す説明図、図8は、把持部13の開閉動作を示す説明図、図9は、回転機構11の動作を示す説明図、図10は、位置調整機構12の動作を示す説明図である。始めに作業者は、制震ブレースFの取付姿勢に応じて、図6に示すように、把持部支持板124dに対する把持基板131の支持固定位置を変更する。
そして、作業者は、図7(a)に示すように、フォーク爪26を昇降させることによって、取付器具の高さを制震ブレースFの高さに合わせ、把持部13にて制震ブレースFを把持する。作業者は、図8(a)に示すように、把持爪締結ボルト132iを緩め、連結桿132hを把持爪133から脱離させ、把持爪132、133を開く。そして、図8(b)に示すように、制震ブレースFを把持爪132、133によって挟み込み、連結桿132hを把持爪133に嵌め、把持爪締結ボルト132iで締結する。
【0049】
次いで、作業員は、フォーク爪26を上昇させることによって、制震ブレースFを持ち上げ、エンドレスチェーン111dを引き下げることによって、図7(b)及び図9に示すように、把持部13と共に制震ブレースFを回転させる。
そして、作業員は、図7(c)に示すように、フォークリフト2を前進させて、制震ブレースFを柱梁架構Aに近づける。作業員は、フォーク爪26を昇降させることによって、上下位置を粗調整する。
最後に、作業員は、図7及び図10に示すように、進退操作部121e、第1方向送りハンドル122d、第2方向位置調整ねじ123c、首振りハンドル124gを操作して、制震ブレースFを前後、横方向、上下方向に移動させ、首振り回動させることにより、柱梁架構Aに対する制震ブレースFの位置を微調整し、制震ブレースFをボルトにて取り付ける。また、位置調整を行う際、取付装置を安定させるべく、アウトリガー3をアウトリガー保持筒14aに保持させると良い。アウトリガー3は、棒状部材の下端部に刺股状部分及び接地板を形成してなる部材を、取付装置の右側用、左側用として2つ備え、各部材を横方向の管部材によって連結して構成されている。
【0050】
このように構成された取付器具及び取付装置にあっては、梁にウインチを仮設することなく、従来の取り付け方法に比べてより簡易に制震ブレースFを柱梁架構Aに取り付けることができ、しかも制震ブレースFの取り付け姿勢の変更に柔軟に対応することができる。その結果、長周期・長時間地震動対策の制震補強の工期を短縮することができる。
【0051】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
1 取付機具
2 フォークリフト(運搬車)
11 回転機構
12 位置調整機構
13 把持部
22 車体底部
22a 突出部
23 前輪部(車輪)
23a 上下回動軸
23b 水平調整ねじ
23c 当接部
121 進退駆動機構部
122 第1位置調整機構部
123 第2位置調整機構部
124 首振り機構
124d 把持部支持板
131 把持基板(基部)
132、133 把持爪
132a、133a 把持爪支持軸(支持軸)
133b 係止部材
F 制震ブレースF(被取付部材)
A 柱梁架構(任意箇所)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部材を任意箇所に取り付けるための取付機具であって、
前記被取付部材を把持する把持部と、
該把持部を支持する支持部材を有し、該支持部材を少なくとも一方向へ直線移動させることにより、前記任意箇所に対する前記把持部の位置を調整する位置調整機構と、
前記一方向に略直交する回転軸を中心にして、前記把持部を前記位置調整機構と共に回転させる回転機構と
を備え、
前記支持部材は、
複数の異なる姿勢で前記把持部を支持固定するように構成してある
ことを特徴とする取付機具。
【請求項2】
前記把持部は、
前記位置調整機構によって位置調整される基部と、
前記被取付部材を把持するための複数の把持爪と、
該複数の把持爪の先端部が互いに接離する方向へ回動するように、該把持爪の基端部を回動可能に支持する支持軸と、
前記基部に該支持軸を着脱可能に係止する係止部材と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の取付機具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の取付機具と、
前記回転機構の回転軸を略水平に保ったまま前記取付機具を昇降させる昇降機構を有する運搬車と
を備え、
前記運搬車は、
一又は複数の車輪と、車体底部との距離を変更する機構を備える
ことを特徴とする取付装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−236307(P2010−236307A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86930(P2009−86930)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(597144484)ジーオーピー株式会社 (50)
【出願人】(000194756)成和リニューアルワークス株式会社 (32)
【Fターム(参考)】