説明

受信機

【課題】回路規模の増大化を抑え、受信利得を計測可能とした受信機を提供する。
【解決手段】受信機において、受信モードのとき、レーダ装置の信号発生部で生成されるレーダ送信信号が物体から反射されて受信アンテナに受信された受信信号と、レーダ送信信号とを混合し周波数差信号を生成すると共に、検査モードのとき、計測用信号と信号発生器で生成される基準信号とを混合し周波数差信号を生成する第1のミキサと、信号発生器で生成される基準信号に基づき計測用信号を生成し、受信信号として入力する計測用信号生成部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標とする物体までの相対距離と相対速度を計測するミリ波レーダ装置の受信機に関し、特に性能測定機能を備えた受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
目標物体との相対距離と相対速度を検出するレーダ装置として、周波数変調された連続波をレーダ送信信号として使用するFM−CW(Frequency Modulated−Continuous Wave)式のミリ波レーダ装置が知られている。
【0003】
図5は、FM−CW式のミリ波レーダ装置が、目標物体との相対距離と相対速度を検出する原理について説明する図である。この方式のミリ波レーダ装置は、レーダ信号として時間とともに周波数が直線的に上昇と下降とを交互に繰返す三角波変調された連続波を、目標物体へ向けて送信し、目標物体から反射されたレーダ信号を受信する。図5(a)は、ミリ波レーダ装置の送信信号Stと受信信号Srの、時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化を示す図である。
【0004】
実線で示す送信信号Stの周波数に対して破線で示す受信信号Srの周波数は、目標物体との相対距離Rに応じた時間的遅延ΔTと、相対速度Vに応じたドップラシフトΔDとを受けて変化する。この結果、送受信信号間には、周波数上昇区間UPで周波数fu、周波数下降区間DNで周波数fdとなる周波数差(ビート周波数)が生ずる。ミリ波レーダ装置では、送信信号Stと受信信号Srを混合することによりビート周波数を有するビート信号Sbを生成する。
【0005】
図5(b)は、送信信号Stと受信信号Srを混合することにより生成されたビート信号Sbの周波数変化(縦軸:周波数、横軸:時間)を示す図である。図5(c)は、ビート信号Sbの波形を示す図である。ミリ波レーダ装置は、この送受信信号間の周波数差を有するビート信号Sbに対して周波数スペクトラムの解析を行う。そして、周波数スペクトラムの解析で得られた周波数fuおよびfdから、次式に従って目標物体までの相対距離Rおよび相対速度Vを検出する。
【0006】
相対距離:R=C・(fu+fd)/(8・ΔF・fm) ・・・(式1)
相対速度:V=C・(fu−fd)/(4・fc) ・・・(式2)
ここで、Cは光速、fmは三角波変調の周波数、ΔFは送信信号Stの周波数変調幅、fcは送信信号Stの搬送周波数である。
【0007】
図6は、FM−CW式ミリ波レーダ装置の基本的な構成を示す図である。ミリ波レーダ装置30は、レーダ送受信機31と信号処理装置32とを有する。レーダ送受信機31は、送信信号Stを生成するため、変調信号生成部31aと電圧制御発振器(VCO)31bと増幅器311と送信アンテナ31cとを有する。また、レーダ送受信機31は、受信信号Srを処理するため、受信用アンテナ31dと低雑音増幅器(LNA)31eとミキサ31fとA/D変換器31gとを有する。
【0008】
VCO31bは、変調信号生成部31aで生成された三角波の周波数変調信号を受けてFM変調されたミリ波帯の連続波の発振信号を発生する。発振信号は、増幅器311で増幅され、ミリ波レーダ装置30の送信信号Stとして送信アンテナ31cから目標物体へ放射される。
【0009】
目標物体で反射された送信信号Stは受信アンテナ31dを介し、受信信号Srとして受信される。受信信号Srは、LNA31eで低雑音増幅されてミキサ31fに入力される。ミキサ31fでは、VCO31bから分配された送信信号Stと受信信号Srとを混合することにより、送信信号Stと受信信号Srとの周波数差を有するビート信号Sbを生成する。
【0010】
ビート信号Sbは、数百kHz程度のベースバンド帯の信号であり、このままA/D変換器31gに入力されてデジタルデータ信号Sdに変換され、FFT処理機能を備える信号処理装置32へ出力される。信号処理装置32では、レーダ送受信機31から出力されたデータ信号Sdに対してFFT処理を行い、ビート信号Sbの周波数を検出する。そして、ビート信号Sbの周波数から、目標物体までの相対距離Rおよび相対速度Vを検出する。
【0011】
このように、FM−CW式のミリ波レーダ装置では、送信信号Stと受信信号Srとを直接に混合させる、ダイレクトコンバージョン方式の検波が採用できる。そして、ダイレクトコンバージョン方式の検波によって送受信信号の周波数差を有するビート信号Sbが生成できるので、受信信号処理のための回路構成が簡易である。また、生成されるビート信号Sbの周波数は数百kHz程度の、例えば400kHz帯のベースバンド信号なので、混合後のビート信号SbはこのままA/D変換処理が可能である。
【0012】
このように、FM−CW式のミリ波レーダ装置は、その回路構成が比較的簡易であり、レーダ波長も極小のために小型化が進んでいる。特に受信機は、送信信号と受信信号とを直接に混合させれば、A/D変換が可能なベースバンド帯までの周波数変換処理が行えるため、ミリ波レーダ用受信ICとしてMMIC(Monolithic Microwave IC)化の開発が
進んでいる。
【0013】
図7は、受信利得計測回路を備えた従来の受信機の構成を説明するブロック図である。尚、図7では、本願発明の課題を説明するために、図5に示す受信機の、ビート信号Sbを生成するミキサ31f出力までの一部構成と、受信利得計測に必要な回路構成が示されている。
【0014】
受信利得計測回路は、ミリ波レーダの受信機が備える受信特性の、受信帯域内の周波数利得特性を測定する。具体的には、目標物体から反射される受信信号Srを受信処理し、送信信号Stと受信信号Srとの周波数差を有するビート信号Sbを生成するまでの受信処理経路の周波数利得性能を測定する。
【0015】
そして、受信機の入力端に出力可能な計測信号Pinを生成する受信利得計測用信号発生器(Signal Generator、以下SGという)16と、レーダ運用時に送信信号Stを入力するミキサ(MIX)31fに出力可能な受信基準信号を生成する受信用SG15を有する。
【0016】
ビート信号Sbの周波数は数百kHz程度と、送信信号Stの周波数帯域と比較して非常に低い帯域なので、受信利得特性の測定のために受信利得計測用SG16と受信用SG15の出力信号周波数は近接(例えば、1MHz以下)して出力する。各SGは、この近接した出力信号間の周波数差を確保するためにPLL(Phase Locked Loop:位相同期回
路)を備える。
【0017】
図7の受信利得計測回路は、レーダ送信信号を生成するVCO15aに、分周器15b、PFD(Phase Frequency Detector:位相比較器)15c、LPF(Low Pass Filter
)15dから構成されるPLLを付加した受信用SG15を有する。また、図7の受信利
得計測回路は、VCO16aに、分周器16b、PFD16c、LPF16dから構成されるPLLを付加した受信利得計測用SG16を有する。
【0018】
受信利得計測のための周波数差を有する計測信号Pinは、受信用SG15に含まれる分周器15bの分周比(N1)と、受信利得計測用SG16に含まれる分周器16bの分周比(N2)を異なる値に設定し、生成する。VCO(15a、16a)出力信号の周波数は、信号基準の周波数と位相比較を行うため、分周器(15b、16b)を介してPFD(15c、16c)に入力される。PFD(15c、16c)は、発振周波数の安定精度が高い水晶発振器17の出力信号を位相比較のための信号基準として用い、VCO(15a、16a)の分周信号周波数との相対位相差を検出してLPF(15d、16d)に出力する。PFD(15c、16c)出力はLPF(15d、16d)によって平滑化され、発振周波数の制御信号としてVCO(15a、16a)に入力される。この制御信号により、VCO15aの発振周波数は信号基準の1/(N1)倍の周波数に固定され、VCO16aの発振周波数は信号基準の1/(N2)倍の周波数に固定される。
【0019】
尚、発振周波数の位相比較基準に使用される信号基準は、受信用SG15と受信利得計測用SG16に共通の信号であり、同一の信号源である水晶発振器17によって生成される。同一の信号源から生成された位相比較のための信号基準は、VCO(15a、16a)に付加するPLLの周波数制御信号として入力し、受信用SG15と受信利得計測用SG16間の周波数差を安定化させている。
【0020】
そして、受信利得計測時には、受信用SG15で生成された受信基準信号が送信信号Stとしてミキサ31f(MIX-LO)に入力され、受信利得計測用SG16で生成され
た計測信号Pinが、受信信号Srとしてミキサ31f(MIX-RF)に入力される。
ミキサ31f(MIX)は、受信基準信号と計測信号Pinを混合し、受信用SG15と受信利得計測用SG16との間の周波数差を有するビート信号Sbを生成する。ビート信号Sbの信号周波数は、PLLで安定化された、受信用SG15と受信利得計測用SG16との間の周波数差となるので、周波数に依存する受信機の受信利得特性が正確に測定できる。
【0021】
特許文献1には、FPGAで生成された周波数を信号基準としてPLLに入力し、遅延時間や利得を測定するための測定信号とする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2007−96647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
図7に示す従来の受信利得計測回路では、ビート信号Sb周波数帯の計測信号Pinを生成するために、発振周波数が近接する2台のSGを必要とし、さらにSG間の周波数差を安定化させるためにPLL回路を必要としている。そして、2台のSGに対して周波数差を確保するための信号基準を生成する発振器17を必要とする。このため、受信利得計測回路を含めた受信機の構成規模は増大し、消費電力量が増大する。構成規模の増大化は、受信IC化時の回路面積の増大となり、特にPLLを構成するLPFは、他の回路部分と比較して広大な回路面積を必要とする。
【0024】
特許文献1の受信機では、FPGAで生成した信号基準をPLLに入力し、遅延時間や利得の測定用のテスト信号とローカル信号を生成するので、2台のSGおよび信号基準となる発振器は不要となるが、やはりPLLを必要とするため、LPFを搭載するための回
路面積を必要とする。
【0025】
本発明の目的は、回路規模の増大化を抑え、受信利得を計測可能とした受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明による受信機は、受信モードのとき、レーダ装置の信号発生器で生成されるレーダ送信信号が物体から反射されて受信アンテナに受信された受信信号と、前記レーダ送信信号とを混合し周波数差信号を生成すると共に、検査モードのとき、計測用信号と前記信号発生器で生成される基準信号とを混合し周波数差信号を生成する第1のミキサと、前記信号発生器で生成される基準信号に基づき前記計測用信号を生成し、前記受信信号として入力する計測用信号生成部とを備える。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、回路規模の増大化を抑え、受信利得を計測可能とした受信機が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の第一の実施の形態に係る受信機の構成例を示すブロック図である。
【図2】図2は、DSPが実行する受信利得制御処理のフローチャートである。
【図3】図3(a)は受信モードと検査モードとの関係を示す図であり、(b)はステップS4での分周比値の設定タイミングを示す図であり、(c)は計測信号による計測結果を読取るタイミングを示す図であり、(d)はVGA4の増幅利得を調整するタイミングを示す図である。
【図4】図4は、本発明の第一の実施の形態である受信機を受信ICとして集積化させ、送信用ICと組合せてMMIC化したミリ波送受信ICを搭載したFM−CWミリ波レーダ装置の構成を説明する図である。
【図5】図5は、FM−CW式のミリ波レーダ装置が、目標物体との相対距離と相対速度を検出する原理について説明する図であり、(a)は、ミリ波レーダ装置の送信信号Stと受信信号Srの、時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化を示す図である。(b)は、ビート信号Sbの周波数変化(縦軸:周波数、横軸:時間)を示す図であり、(c)は、ビート信号Sbの波形を示す図である。
【図6】図6は、FM−CW式ミリ波レーダ装置の基本的な構成を示す図である。
【図7】図7は、受信利得計測回路を備えた従来の受信機の構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本発明は実施の形態に限定されない。
【0030】
<第一の実施形態>
<受信機>
図1は、本発明の第一の実施の形態に係る受信機の構成例を示すブロック図である。受信機1は、受信機の受信利得を計測する構成を備える。
【0031】
受信機1は、目標物体から反射されたミリ波帯のレーダ信号を受信処理するための構成として、LNA2、ミキサ3、VGA(Variable Gain Amplifiers:可変利得増幅器)4を有する。尚、VGA4出力のアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器5は、受信機1の構成としても良く、DSP6と組合せた構成としても良い。受信機1の回路
規模や信号受け渡しの形態により適宜、選択が可能である。
【0032】
また、受信処理構成の受信利得を計測するための構成として、VCO7、分周器8、ミキサ9、スイッチ10を有し、これらVCO7、分周器8、ミキサ9、スイッチ10により計測用信号生成部を構成する。尚、本実施形態では、レーダ送信機のVCOを受信利得計測用のVCO7として共用する構成とする。このため、図1に示すように、三角波状に電圧が変化する三角波変調信号を出力する三角波生成部11と、一定電圧を出力する一定電圧生成部12と、切替器13とをレーダ送信機に持たせ、DSP6による切替制御を行う。
【0033】
レーダ運用時、即ち前方や後方等の目標物体までの距離等を検出するときには三角波変調信号がVCO7に供給される。VCO7は三角波変調信号によってFM変調され、レーダ送信波である送信信号Stが出力される。また、受信利得計測時には一定電圧がVCO7に供給され、これにより無変調の一定周波数となった連続波信号がVCO7から基準信号S0として出力される。なお、レーダ送信波である送信信号Stは、増幅器(PA)311による所定の利得増幅を受け、送信アンテナANTTx1から目標とする物体に向けて放射される。
【0034】
ANTR1は目標物体から反射されたレーダ送信波を受信する受信アンテナであり、DSP(Digital Signal Processor)6は、A/D変換されたビート信号Sbが有する周波数の解析を行う信号処理装置である。ANTR1、DSP6は受信機1と電気的に接続する。DSP6は、レーダ送信波である送信信号Stと基準信号S0の切り替えを行う際に、増幅器311に供給される電源のオン/オフ制御を行う。送信信号Stの出力時には、増幅器311の電源を通電状態(オン)とし、基準信号S0の出力時には、増幅器311の電源を遮断状態(オフ)とする。また、送信信号Stと基準信号S0の切り替えと同時に、スイッチ10および切替器13の接点切替も実行する。尚、DSP6は、ビート信号Sbの周波数および信号強度を検出する検出部として機能する。
【0035】
ここで、以下の説明において、DSP6はFFT処理を行うプロセッサ、各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUが実行する処理手順が記述されたプ
ログラム等を格納するROM(Read Only Memory)、作業領域としてのRAM(Random Access Memory)等を備えるシステムLSI(Large Scale Integrated-Circuit)であるとする。
【0036】
まず、受信処理経路の構成と動作を説明する。
受信機1に入力された受信信号Srは微弱な信号のため、LNA2で信号増幅されてミキサ3に入力される。LNA2は、雑音指数の低い増幅器であり、周波数に依存する利得特性を有する。ミキサ3に入力された受信信号Srは、FM変調されたレーダ送信波である送信信号Stと混合されて周波数変換され、ベースバンド帯の周波数を有するビート信号Sbを生成する。ミキサ3は、ビート信号Sbの周波数帯に影響する周波数依存の利得特性を有する。
【0037】
ミキサ3で生成されたビート信号Sbの周波数帯はベースバンド帯域なので、このままA/D変換器5に入力し、アナログ/デジタル変換処理が可能である。しかし、LNA2とミキサ3はビート信号Sbの周波数帯域に影響する周波数依存の利得特性を有するため、ビート信号Sbの周波数に依存して信号利得が変動する。この周波数依存の利得特性を調整するために、ミキサ3出力のビート信号SbをVGA4に入力する。
【0038】
VGA4は、電圧制御によって増幅利得を可変する増幅器であり、周波数変換後のビート信号Sbの受信利得特性が一定となるように出力信号の増幅度を調整する。VGA4の
増幅度は、VGA4に接続するDSP6が電圧制御の値を可変させることにより調整する。A/D変換器5は、ビート信号Sbを一定の周期でサンプリングし、デジタルデータ信号に変換する。
【0039】
デジタルデータ信号は、信号処理装置であるDSP6に出力され、ビート信号Sbが有する周波数についての周波数解析が行われる。DSP6は、入力されたデジタルデータ信号に基づいてFFT処理を行うことにより、ビート信号Sbが有する周波数スペクトラムの解析・特定を行う。そして、DSP6は、特定された周波数に基づいて、目標物体までの相対距離Rと目標物体との相対速度Vを検出する。
【0040】
次に、受信利得計測の処理構成と動作を説明する。
VCO7は、電圧制御発振器であり、ミキサ3のLO端に入力されるミリ波帯(例えば77.0GHz)の基準信号S0を生成する。分周器8は、分周比の設定が変更可能な可変分周器であり、設定された分周比率に合わせて入力された信号周波数を分周する。分周比率の設定はDSP6が行う。ミキサ9は、ミリ波帯の周波数混合器であり、基準信号S0と分周器8で生成される基準信号S0の分周信号とを周波数混合し、受信利得のための計測用信号を生成する。スイッチ10は、2状態の接点スイッチであり、閉接点時にミキサ9で生成された計測用信号を受信処理経路(例えば、受信機1の受信信号入力端)に出力する。接点状態の切替はDSP6が行う。
【0041】
VCO7で生成された基準信号S0は、ミキサ3、分周器8、ミキサ9に出力される。分周器8に入力する基準信号S0は、DSP6によって設定された分周比に従って分周される。分周された基準信号S0は、ビート信号Sbが有するベースバンド周波数(1MHz以下)帯域の周波数となり、基準信号S0に基づく分周信号としてミキサ9に出力される。例として、基準信号S0の周波数が77GHzの場合、分周比M=77000に設定すれば1MHzの周波数を有する分周信号が得られ、M=770000では、100kHzの周波数を有する分周信号が得られる。
【0042】
ミキサ9に入力された基準信号S0の周波数は、分周信号の周波数と周波数混合され、ビート信号周波数としての分周信号周波数を重畳させたミリ波帯の計測用信号としてスイッチ10に出力される。周波数の混合例として、基準信号S0の周波数が77GHz、分周信号の周波数が1MHzの場合、基準信号S0を中心周波数として、両側波帯に分周信号の周波数量だけシフトした77.0GHz±1MHzとなる周波数を有する計測用信号が出力される。スイッチ10に入力された計測用信号は、閉接点時に、受信利得計測の計測用信号として例えば、受信機1の受信信号入力端に出力される。
【0043】
受信機1に入力された計測用信号は、基準信号S0の周波数に分周信号周波数を重畳させた状態でLNA2に入力されて信号増幅を受けて、ミキサ3へ出力される。ミキサ3に入力された計測用信号は、VCO7から出力された基準信号S0とダイレクトコンバージョンによる周波数混合が行われ、計測用信号周波数に重畳された分周信号周波数を備えたビート信号Sbが生成される。前述した例では、計測用信号の周波数が77.0GHz±1MHzであり、基準信号S0の周波数が77GHzであるため、周波数混合により、1MHzの周波数を備えるビート信号Sbが生成されることとなる。
【0044】
ここで、分周器8によって生成された分周信号の分周信号周波数は、VCO7で生成された基準信号S0の周波数に分周器8で設定された分周比率(1/M)を掛合わせたものである。従って、基準信号S0に周波数揺動が生じても、分周器8では分周比率(1/M)に応じた周波数搖動を受けた周波数成分を有する分周信号が生成される。
【0045】
周波数搖動の具体例として、基準信号S0の周波数をf0とすると、VCO7の周波数
搖動により、δfの周波数が基準信号S0の周波数f0に加わり、(f0+δf)の周波
数を有する基準信号S0として、ミキサ3、分周器8、ミキサ9に出力されることとなる。分周器8に入力された基準信号S0は、設定された分周比率(1/M)に応じて分周され、(f0+δf)/Mの周波数を有する分周信号となる。
【0046】
ミキサ9では、この基準信号S0と分周信号が周波数混合されるため、出力信号である計測用信号の周波数成分として周波数(f0+δf)及び、周波数(f0+δf)を中心周波数として両側波帯に(f0+δf)/Mだけシフトした周波数成分が出力される。この
周波数成分を有する計測用信号は、ミキサ3で周波数搖動が加わった周波数を有する基準信号S0と周波数混合される。ミキサ3による周波数混合は、ダイレクトコンバージョン方式でのダウンコンバートであるため、基準信号S0より高い周波数成分である、計測用信号の側波帯成分(f0+δf)/Mが、ビート信号Sbの周波数として出力される。つ
まり、基準信号S0に周波数搖動δfが生じても、ビート信号Sbへの影響はδf/Mに抑制できることになる。
【0047】
ミキサ9に入力された基準信号S0は、上記のように、分周信号の周波数と周波数混合され、ビート信号周波数としての分周信号周波数を重畳させたミリ波帯の計測用信号としてスイッチ10に出力される。スイッチ10から出力された計測用信号は、例えば受信機1の受信信号入力端から受信処理経路に入力し、その後ミキサ3へ出力される。ミキサ3に入力された計測用信号は、VCO7から出力された基準信号S0とダイレクトコンバージョンによる周波数混合が行われ、計測用信号周波数に重畳された分周信号周波数が検波される。ミキサ3で検波された分周信号周波数は、ビート信号Sbが備える周波数となる。換言すると、受信利得計測時に測定されたビート信号周波数から計測用信号周波数が特定できる。従って、ベースバンド帯のビート信号Sbを得るために2台のSGが必要としていたPLL機構と信号基準を発生する発振器を受信機の構成に持たなくても、単一の発振器(VCO7)出力を利用した計測用信号が生成できる。
【0048】
ミキサ3で生成されたビート信号Sbは分周信号周波数を備え、VGA4を介してA/D変換器5に入力さる。A/D変換器5に入力されたビート信号Sbは、ビート信号Sbの信号強度に応じたデジタルデータ信号に変換されてDSP(信号処理装置)6に出力される。DSP6では、入力されたデジタルデータ信号に基づいてFFT処理を行うことにより、ミキサ3で生成されたビート信号Sbの周波数スペクトラムとピーク値を特定する。ビート信号Sbの備える周波数は基準信号S0から分周器8で生成された分周信号周波数である。分周器8の分周比率(1/M)の設定はDSP6によって制御される。従って、DSP6のFFT処理によって特定された分周信号周波数と分周比率(1/M)から、基準信号S0および計測用信号の周波数が特定できる。
【0049】
このように、受信利得計測時に受信機1に入力された計測用信号の周波数と、分周信号周波数を備えるビート信号Sb周波数およびビート信号Sbの信号強度とが対応付けできる。そして、例えば、ビート信号Sbの周波数として検波される分周信号周波数を、1kHz、10kHz、100kHz、200kHz、400kHz、1MHzとなるように分周比率(1/M)を変更しながら受信利得計測を行えば、ミキサ3出力に至るまでの受信処理経路の周波数に依存する利得変動が計測できる。つまり、ビート信号Sbが生成されるベースバンド帯域に影響する受信機1の周波数利得特性が測定できる。
【0050】
以上の説明から明らかなように、本実施形態の受信機では、単一のVCO出力信号に同期させた受信利得計測が実現できるので、従来構成で2台のSGが必要としていたPLLは不要となる。そして、受信利得計測を処理するための回路構成にはPLLを含まず、少なくともVCO、可変分周器、計測信号生成するミキサで実現できるので、受信利得計測機能の付加による回路規模の増大化を抑制できる。また、PLLを含まないため消費電力
の増大を抑制できる。そしてVCOは、送受信共用の発振器で実現できるので、送信機に設けたVCOから所定の信号(基準信号、送信信号)をインターフェースすることにより、受信利得計測のための処理構成をさらに縮小できる。
【0051】
尚、本実施形態においてVCO7は、信号発生器として機能する。また、ミキサ3は第1のミキサとして機能する。ミキサ9は、第2のミキサとして機能する。
【0052】
本実施形態の構成を有する受信機ICではさらなる効果が見込まれる。
すなわち、受信利得計測回路の付加構成が最小限の回路面積で提供できるため、機能追加に伴う受信機ICのチップコストの増加が抑制できる。また、PLLを含まないので、消費電力の増加に伴うICチップ周辺の放熱構造に影響を与えず、従来の放熱構造が適用できる。受信機ICの受信利得検査がオンウエハで実施できるため、従来の受信機IC検査と比較して、検査時間の短縮、検査工程の簡易化や短縮化が図れ、検査コストの削減が実現できる。
【0053】
<受信利得制御>
次に、本発明の実施の形態に係る受信機について、運用時の受信利得制御の処理手順を図2、図3のチャートを参照にして説明する。尚、以下の説明は、受信機1と電気的に接続されたDSP6による受信利得制御例である。図2は、DSP6が実行する受信利得制御処理のフローチャートである。図3は、受信利得制御処理のタイムチャートである。
【0054】
まず、DSP6では、受信機1の運用状態を判断する(ステップS1〜S3)。
図2中、“受信モード”とは、受信機1の状態が目標物体からのレーダ送信波の反射波を受信信号Stとして受信し、信号処理を行う状態であり、“検査モード”とは、例えば、予め定められた時間間隔で実行される受信機1の性能診断であり、計測用信号入力による信号処理を行う状態である。“モード切替スイッチ”とは、受信機1の運用状態の切替え操作を行う起動指令を指し、例えば、本発明の受信機1を備えるレーダ装置からの検査指令入力(ユーザによる操作入力を含む)や、タイマ起動による指令入力などである。DSP6は、“モード切替えスイッチ”のステータス状態が、“検査モード”への遷移を示すステータスである場合には、“受信モード”から“検査モード”への状態遷移を行い(ステップS2、ON)、そうでない場合には状態遷移は行わない(ステップS2、OFF)。
【0055】
“検査モード”に移行したDSP6は、計測用信号に重畳される分周周波数を設定するため、分周器8に対して分周比値:Mを出力する(ステップS4)。分周比値は、VCO7で生成される基準信号S0の周波数と、受信利得計測を行うビート信号Sbの周波数との相対比率から決められる。尚、“検査モード”に移行したVCO7の出力信号は、既に述べてきたように、無変調の定周波数による連続波信号である。そのため、検査モードに移行したときにVCO7の制御電圧入力が三角波電圧から一定電圧に切り替えられる。
【0056】
VCO7で生成された基準信号S0は、ミキサ9により分周器8で生成された分周信号と混合され、基準信号S0の周波数に分周信号の周波数を重畳させた計測用信号としてスイッチ10に出力される。スイッチ10の接点制御の制御タイミングは、例えば、ステップS3に示す“検査モード”への移行のタイミングで開状態から閉状態に切替えても良い。また、ステップS4に示す分周比値の出力のタイミングで切替えても良い。“検査モード”状態で、計測用信号が受信機1の受信信号入力端に出力されれば良い。
【0057】
受信機1の受信信号入力端に出力された計測用信号は、LNA2で増幅されてミキサ3に入力される。計測用信号は、ミキサ3に入力された基準信号S0と混合されて分周信号の周波数を備えるビート信号Sbが出力される。計測用信号と分周信号とは基準信号S0
と同期している。そして、ビート信号Sbが備える分周信号周波数は、基準信号S0に分周器8で設定された分周比率(1/M)を掛合せた周波数である。この分周信号周波数を備えるビート信号Sbは、VGA4、A/D変換器5を介してデジタルデータ信号に変換され、DSP6に入力される。
【0058】
ステップS5においてDSP6は、受信機1から入力されたデジタルデータ信号に基づいてFFT処理を行い、ビート信号が備える周波数スペクトルの特定を行う。そして、デジタルデータ値に基づいてビート信号の信号強度を特定する。そして、例えば、メモリ内に既知のデータとして保持された信号電力値PINと、特定されたビート信号の信号強度PIFとの差分から受信利得が特定できる。ここで、メモリ内に保持された信号電力値PINとは、例えば、事前に測定した計測用信号強度であり、計測用周波数に応じた電力値である。この受信利得は、分周信号周波数に依存するので、例えば、分周信号の周波数として1kHz、10kHz、100kHz、200kHz、400kHz、1MHzとなるように分周比率(1/M)を変更しながら受信利得計測を行うことにより、ビート信号Sbが検出されるベースバンド帯域での周波数利得特性が特定できる。
【0059】
さらに、計測用信号を用いた受信利得の計測結果と、予めデータ値として保持する受信機1の周波数利得特性値との比較から、現時点(受信利得計測実行時)での受信利得の変化量が特定できる。DSP6は、計測結果とデータ値との差分に基づき(例えば、VGA4の増幅利得可変範囲の上限値である閾値と利得変化量との比較判定を行い、閾値以下であれば利得変化量を補うための増幅利得調整を行う)、VGA4の増幅利得の調整を行う(ステップS6)。
【0060】
ステップS3〜ステップS6に至る処理フローにおいて、DSP6から受信機1へ出力される各種制御量の設定タイミングが、図3に示されている。図3(a)は受信モードと検査モードとの、切り替えタイミングの関係を示す図であり、(b)はステップS4での分周比値の設定のタイミングを示す図であり、(c)は計測信号による計測結果を読取るタイミングを示す図であり、(d)はVGA4の増幅利得を調整するタイミングを示す図である。
【0061】
DSP6は、分周器8に設定する分周比値を変えながら、計測信号に重畳される分周信号の周波数を変えてステップS4〜ステップS6の処理を実行する(ステップS7、YES)。受信利得を計測する全ての周波数について計測処理が終了(ステップS7、NO)したら、スイッチ10の接点状態を開状態とし、“受信モード”に移行する(ステップS8)。DSP6は、“受信モード”への移行と共にVCO7への制御電圧入力切替を行い、レーダ送信波に用いられる三角波電圧をVCO7に出力させる。それにより、VCO7は三角波電圧によって周波数変調され、三角波状に周波数が変化するレーダ送信波が出力される。
【0062】
このような利得調整機能を有することにより、例えば温度変動のように運用環境の変化に伴う一過性の利得変動を調整することが可能となり、受信機性能の安定性が確保できる。また、同じ手順で、受信機1に生じた故障を利得変動として検知できるため、受信機としての信頼性が向上する。さらに、定期的に実行される受信利得計測結果を一定の期間、記録・保持させることで整備性の向上が期待できる。
【0063】
<変形例>
本実施形態では、ダイレクトコンバージョン式による周波数変換を採用したが、単一のVCO出力信号に同期させて、受信機の性能測定を行う計測信号を生成することによる効果は、複数の周波数変換を行うヘテロダイン式やスーパヘテロダイン式の信号検波を採用した受信機であっても同等の効果が得られる。
【0064】
<第二の実施形態>
<レーダ装置>
図4は、本発明の第一の実施の形態である受信機1を受信IC23bとして集積化させ、送信IC23aと組合せてMMIC化したミリ波送受信IC23を搭載したFM−CWミリ波レーダ装置20の構成を説明する図である。
【0065】
本実施形態でのFM−CWミリ波レーダ装置(以下、レーダ装置と称す)20は、レドーム21、アンテナ部22、ミリ波送受信IC23、信号処理IC24から構成される。レドーム21は、ミリ波周波数帯域(76GHz〜77GHz)で、電波透過な保護カバーである。アンテナ部22は、ミリ波送受信IC23とミリ波帯の導波管変換部(25a、25b、25c)を介して、電気的に接続される。アンテナ部22は、FM−CW変調されたミリ波帯のレーダ送信波を目標物体に送信する送信アンテナ素子ANT1と、目標物体からのドップラシフトが重畳されたレーダ反射波を受信する受信アンテナ素子(ANT2、ANT3)とから構成される。レーダ反射波は、受信アンテナ素子(ANT2、ANT3)に入力し、導波管変換部(25a、25b、25c)を介し、受信信号Srとしてミリ波送受信IC23に入力する。
【0066】
ミリ波送受信IC23は、三角波によるFM変調されたCWミリ波帯のレーダ送信波である送信信号Stを生成する送信IC23aと、アンテナ素子で受信された受信信号Srから目標物体との相対距離Rや相対速度Vに関する周波数成分を抽出するための周波数変換処理を行う受信IC23bと、を含んで構成される。尚、ミリ波送受信IC23は、同一回路で構成される2系統の受信処理回路を備える。
【0067】
送信IC23aはレーダ送信波である送信信号Stおよび基準信号S0を生成する信号発生部を備える。信号発生部には、VCO7に三角波電圧を入力する三角波生成部、一定電圧を入力する一定電圧生成部、およびVCO7が含まれる。三角波と一定電圧との切り替えは、信号処理IC24によって制御される。送信信号Stは、目標物体の探知のための電力増幅を受けて導波管変換部25aに出力される。導波管変換部25aは、送信Ic23aから出力された送信信号Stを低損失で送信アンテナ素子ANT1へ導通する。アンテナ素子ANT1に導通された送信信号Stは、レーダ送信波としてレドーム21を介して該アンテナ素子が備える放射パターン(アンテナパターン)に沿って放射され、目標物体に到達する。
【0068】
目標物体から反射されたレーダ反射波は、レドーム21を介して受信アンテナ素子(ANT2、ANT3)に受信される。尚、受信アンテナ素子(ANT2、ANT3)が備える受信パターン(アンテナパターン)は、送信アンテナANT1が備える放射パターンと同じであっても良く、目標物体の検知領域に合わせて異なるものであっても良い。さらに、受信アンテナ素子ANT2と受信アンテナ素子ANT3とが備えるアンテナパターンは同じパターンを持つものでも良く、異なるパターンを持つものでも良い。
【0069】
受信アンテナ素子(ANT2、ANT3)で受信された目標物体からの反射信号であるレーダ反射波は、挿入損失が低損失の導波管変換部(25b、25c)を介し、受信信号Srとして受信IC23bに入力される。受信IC23bは、受信アンテナ素子毎に2系統の受信機を備えて構成されている。そして利得調整のための可変利得調整増幅器(VGA4)を備え、受信信号Srからビート信号Sbを抽出し信号処理IC24に出力する。
【0070】
信号処理IC24では、A/D変換器により、受信IC23bから出力された2系統のビート信号Sbを夫々に、デジタルデータ信号に変換する。信号処理IC24は、ビート信号Sbの信号強度に応じたデジタルデータ信号に基づいてFFT処理を行う。また、F
FT処理によって特定された周波数スペクトラムからビート信号Sbの信号強度を特定し、受信利得制御等の制御ロジックを実行する。これらの機能は、信号処理IC24に含まれる処理LSI24aによって実行される。さらに、信号処理IC24は、図示されない構成として、各種演算処理を行うCPU、CPUが実行する処理手順が記述されたプログラムを格納するROM、作業領域としてのRAM等を備える。
【0071】
本実施形態では、送信IC23aがレーダ装置の送信機の一例である。そして、受信IC23bがレーダ装置の受信機の一例である。また、信号処理IC24がレーダ装置の検出部の一例である。レーダ装置20は、2つの受信系統毎に第一実施形態に示す受信機1を回路構成に備えた受信IC23bを有する。以下、受信機1系統を例として、受信処理を説明する。
【0072】
<運用モード時の受信処理>
受信アンテナ素子(ANT2、ANT3)で受信された目標物体からの反射信号であるレーダ反射波は、導波管変換部25bを介し、受信信号Srとして受信IC23bに入力される。目標物体からの反射信号特性を備える受信信号Srは微弱なため、低雑音増幅器(LNA2)による信号利得の増幅をうけ、ミキサ3に入力される。ミキサ3に入力された受信信号Srは、同じくミキサ3に入力されたレーダ送信波に用いられる送信信号Stと周波数混合され、目標物体との相対距離Rと相対速度Vに応じた周波数を備えるビート信号Sbを生成する。周波数混合によってダウンコンバートされたビート信号Sbは、ベースバンド帯域の周波数である。ビート信号Sbは、VGA4を介して所定の利得調整を受け、信号処理IC24に出力される。
【0073】
信号処理IC24では、ビート信号Sbは、A/D変換器により、信号強度に応じたデジタルデータ信号に変換されてFFT処理機能を備える処理LSI24aに出力される。処理LSI24aは、デジタルデータ信号に対してFFT処理を行うことにより、デジタルデータ信号が有するビート信号周波数を特定し、目標物体との相対距離Rと相対速度Vを検出する。なお、運用モードがレーダ装置の第1の測定手段の一例である。
【0074】
<検査モード時の受信処理>
図2および図3に示される<受信利得制御>の処理に基づき、レーダ装置20は、レーダ運用時の受信処理診断を実行する。尚、“検査モード”および“運用モード”の切り替えは、例えば、信号処理IC24にタイマ管理機能を持たせ、予め定められた時間間隔で実行される受信機(受信IC23a)の定期的な性能診断の起動に基づく切り替えが例示できる。また、レーダ装置20が搭載される車両等に設けられた操作部品(ボタン、スイッチ等)による操作切替であっても良い。尚、以下の説明においては、信号処理IC24による制御形態で説明を行う。
【0075】
まず、信号処理IC24は“検査モード”の起動に合わせ、スイッチ10の接点状態を切り替えて、受信処理経路上(例えば、受信信号入力端)に計測用信号が出力可能な状態とする。そして、送受信共用に設けられたVCO7の電圧制御入力を三角波から一定電圧に切り替えることによりVCO7の信号出力を無変調の定周波数を有する連続波信号出力に切り替え、基準信号S0として出力する。同時に、信号処理IC24は、送信IC23aに対して送信信号Stを停止させるため、例えば、導波管変換部25aに向かう送信経路上に設けられた増幅器311の電源をオフにし、増幅器311出力を遮断する。増幅器311出力が遮断された送信IC23aからは、送信信号Stに基づくレーダ送信波が出力されることはない。
【0076】
信号処理IC24はさらに、受信IC23bに含まれる分周器8の分周比率(1/M)の設定を実行する。計測用信号に重畳させるための分周信号の周波数を、設定するためで
ある。受信利得計測時のビート信号Sbが有する周波数は、分周信号の周波数であるから、この分周信号周波数を重畳させた計測用信号を生成すれば、目標物体からの反射信号を模擬した疑似的な受信信号を得ることができる。計測用信号の生成に使用する基準信号S0は、レーダ送信波に用いられる信号発生部から分配されることが望ましいが、2系統の受信IC23bに共通して設けられた信号発生部とは独立して設けられた発振器からの信号としてもよい。
【0077】
基準信号S0は、受信IC23bに含まれる分周器8によって周波数分周が行われ、計測用信号の周波数混合を行うミキサ9に分周信号として入力される。分周器8の分周比率(1/M)の設定は信号処理IC24によって行われ、分周信号の周波数は設定された分周比率(1/M)に従う。ミキサ9では、基準信号S0の周波数と分周信号の周波数との周波数混合を行い、計測用信号周波数を生成する。計測用信号周波数には、既に述べたように、基準信号S0と、基準信号S0を中心に両側波帯に分周信号周波数をシフトさせた周波数成分が重畳されている。計測用信号周波数には、ビート信号Sbの備える信号周波数成分が含まれる。
【0078】
周波数の混合例として、基準信号S0の周波数が77GHz、分周信号の周波数が1MHzの場合、基準信号S0の周波数を中心周波数として、両側波帯に分周信号の周波数量だけシフトした77.0GHz±1MHzとなる周波数を有する計測用信号が出力される。ミキサ9で生成された計測用信号は、受信IC23bの信号処理経路に出力され、ミキサ3でベースバンド帯の周波数を備えるビート信号Sbに周波数変換される。ビート信号Sbが備える周波数は、信号処理IC24で設定された分周比率(1/M)に従って基準信号S0が分周された、分周信号の周波数である。
【0079】
信号処理IC24は、受信IC23b毎に出力される信号をA/D変換し、ビート信号Sbの信号強度に応じたデジタルデータ信号に変換する。信号処理IC24は、デジタルデータ信号に対してFFT処理を行い、ビート信号Sbの周波数を特定する。従って、信号処理IC24は、ビート信号Sbの周波数に応じた受信IC23b毎の利得差が検出できる。
【0080】
例えば、信号発生部から分配された信号を基準信号S0とした場合、各受信IC23bに対して同じ分周比率を設定すれば、各受信IC23bから得られるビート信号Sbは共通の周波数を有することとなる。従って、このビート信号Sbの周波数に対する各受信IC23bの信号強度を比較することにより、受信系統間の相対的な利得差が特定できる。
【0081】
信号処理IC24は、この受信系統間の相対的な利得差に基づいてVGAへの利得調整制御を行うことにより、受信系統間の利得差が調整でき、均質な受信特性を備えることができる。例えば、車載用レーダ装置としての性能および品質の確保に効果がある。ここで、検査モードがレーダ装置の第2の測定手段の一例である。尚、本実施形態では2つの受信系統で利得調整を説明したが、利得調整を行う受信系統は2系統に限定されない。
【0082】
信号処理IC24は、受信IC23bに含まれる利得計測回路を用いて所定の検査を実行した後で、送信IC23aに対して増幅器311の電源をオンに切り替え、切替スイッチ10の接点を計測用信号入力から導波管変換部25b、25c経由の受信信号Sr入力に切り替える。そして、送受信共用に設けられたVCO7の電圧制御入力を一定電圧から三角波に切り替えることにより、VCO7の信号出力として、三角波状に周波数が連続して変化する連続波信号出力に切り替わり、レーダ送信波としての送信信号Stが出力される。送信信号Stが出力されるレーダ装置20は、運用モードに戻り、受信信号Srから目標物体との相対距離Rと相対速度Vに応じたビート信号Sbの周波数解析を行うことによって、目標物体との相対距離Rと相対速度Vを検出する。
【0083】
本実施形態において、受信IC23bには、第一実施形態の受信機1がMMICとして含まれるため、第一実施形態と同等の効果が得られる。そして、レーダ装置20が運用中であっても、第一実施形態で説明したように、検査モードと運用モードとを切替えることで、運用中の利得調整が可能であるから、運用環境に左右されず安定した受信性能を有するFM−CWミリ波レーダ装置が提供できる。さらに、受信IC23b内に予め利得計測回路を含むので、レーダ装置の性能確認のための外部測定装置を必要としない。レーダ装置の製造出荷時や、車両に搭載した車両出荷時、定期的な点検時においてレーダ装置の検査時間短縮、検査工程の簡易化や短縮化が図れ、検査コストの削減が実現できる。
【0084】
図4に示す実施例では複数の受信アンテナに対し同じ受信IC23bを設けているが、分周器8、ミキサ9、スイッチ10を送信IC23aに1組だけ設け、スイッチ10から出力される共通の計測用信号を各受信アンテナに供給するようにしてもよい。そうすれば、分周器8、ミキサ9、スイッチ10を各受信アンテナで兼用することができ、コストダウンと共にレーダ装置全体の構成が簡略化される。
【符号の説明】
【0085】
1 受信機、 2 LNA、 3 ミキサ(第一のミキサ)、 4 VGA、
5 A/D変換器、 6 DSP、 7 VCO、 8 分周器、
9 ミキサ(第二のミキサ)、 10 スイッチ、
20 FM-CWミリ波レーダ装置、 21 レドーム、 22 アンテナ部、
23 ミリ波送受信IC、 24 信号処理IC、 25 導波管変換部、
30 ミリ波レーダ装置、 31 レーダ送受信機、 32 信号処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信モードのとき、レーダ装置の信号発生器で生成されるレーダ送信信号が物体から反射されて受信アンテナに受信された受信信号と、前記レーダ送信信号とを混合し周波数差信号を生成すると共に、検査モードのとき、計測用信号と前記信号発生器で生成される基準信号とを混合し周波数差信号を生成する第1のミキサと、
前記信号発生器で生成される基準信号に基づき前記計測用信号を生成し、前記受信信号として入力する計測用信号生成部と、
を備える受信機。
【請求項2】
受信モードのとき、レーダの信号発生器で生成されるレーダ送信信号が物体から反射されて受信アンテナに受信された受信信号と、前記レーダ送信信号とを混合し周波数差信号を生成すると共に、検査モードのとき、計測用信号と前記信号発生器で生成される基準信号とを混合し周波数差信号を生成する第1のミキサと、
前記信号発生器で生成される基準信号に基づき前記計測用信号を生成し、前記受信信号としてレーダの受信回路に入力する計測用信号生成部と、
前記検査モードのとき、前記計測用信号と前記第1のミキサで生成された周波数差信号との関係から前記受信回路の利得を算出する手段と、
を含むレーダの受信回路の利得測定回路。
【請求項3】
前記計測用信号生成部は、
前記基準信号を分周する分周器と、
前記基準信号と前記分周された基準信号の周波数とを混合し計測用信号を生成する第2のミキサと、
前記計測用信号を前記受信信号として入力するための接点スイッチと、
を備える請求項2に記載の利得計測回路。
【請求項4】
前記レーダの受信回路は可変利得増幅器を備え、前記利得算出手段で算出された利得に応じて該可変利得増幅器の利得を調整する手段を含む請求項3に記載の利得計測回路。
【請求項5】
可変分周器で複数の周波数にビート周波数を設定し、各周波数で前記増幅器の利得を調整する手段を含む請求項4に記載の利得計測回路。
【請求項6】
受信モードのとき、レーダの信号発生器で生成されるレーダ送信信号が物体から反射されて受信アンテナに受信された受信信号と、前記レーダ送信信号とを第1のミキサで混合し周波数差信号を生成するステップと、
検査モードのとき、計測用信号と前記信号発生器で生成される基準信号とを前記第1のミキサで混合し周波数差信号を生成するステップと、
前記信号発生器で生成される基準信号に基づき前記計測用信号を生成し、前記受信信号としてレーダの受信回路に入力するステップと、
前記検査モードのとき、前記計測用信号と前記第1のミキサで生成された周波数差信号との関係から前記受信回路の利得を算出するステップと、
を含むレーダの受信回路の利得測定方法。
【請求項7】
受信モードのとき信号発生器でレーダ送信信号を生成し、検査モードのとき前記信号発生器で基準信号を生成する信号発生部と、
前記レーダ送信信号を送信する送信アンテナと、
前記レーダ送信信号が物体から反射された反射波を受信する受信アンテナと、
前記基準信号に基づき計測用信号を生成する計測用信号生成部と、
ミキサと、
前記受信モードのとき、前記ミキサに前記レーダ送信信号を供給し、前記受信アンテナに受信された受信信号と前記レーダ送信信号とを混合して生成された周波数差信号に基づき前記物体の距離、相対速度を検出する第1の測定手段と、
前記検査モードのとき、前記計測用信号を前記受信信号として入力すると共に、前記ミキサに前記基準信号を供給し、前記計測用信号と前記基準信号とを混合して生成された周波数差信号に基づき前記周波数差信号の周波数および信号強度を検出する第2の測定手段と、
を含むレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−198070(P2012−198070A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61537(P2011−61537)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】