説明

口唇単純ヘルペス感染症の治療および/または予防のための局所使用用スプレー組成物

本発明は、口唇ヘルペス部位の局所治療のための組成物に関する。組成物は、抗単純ヘルペスウイルス活性、抗炎症、鎮痛作用を有する薬用植物の調製物と、ヘルペス発疹を治療し、被覆する皮膚軟化薬を有する天然の精製成分とを主成分とする。組成物は、レモンバームとラベンダーの精油、グリチルリチン酸、ベータ−グルカン、D−パンテノール、およびゲル化剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
単純ヘルペス感染症は、症例の80%がセロタイプ1(HSV−1)により引き起こされ、残りの症例が、一般に泌尿生殖器の接触の後に獲得されるセロタイプ2(HSV−2)により引き起こされる。HSV−1およびHSV−2は、抗ヘルペス抗体に血清陰性で感染しやすい人に、感染した唾液、粘膜、および真皮との密接な接触によって感染する。一次感染は、症候性および無症候性となりうる。症候性の口唇ヘルペス感染症は、多数の紅斑発疹を発現し、紅斑発疹は、高いウイルスチャージ(viral charge)の透明な液体で満たされた小さな水泡や、一般に唇の外側縁に沿って局在する水ぶくれに発展しうる。いくつかの症例においては、水泡や水ぶくれは、口蓋の柔らかい部分や、口、咽頭粘膜まで広がる。水泡および水ぶくれの損傷は、紅斑、浮腫、および痛みを伴う潰瘍の形成を決定し、潰瘍は食べ物や飲み物の消費を非常に難しくする。一般に、潰瘍は7−10日間、小さなかさぶたで覆われる。潰瘍の回復に先んじてかさぶたが落下する。いくつかの症例において、細菌重複感染が起こることがある。ウイルスは、感染箇所から脊髄神経節に移動し、そこではウイルスが全滅する可能性もなく潜伏状態のままであり、様々なタイプの刺激(情緒的および肉体的なストレス、太陽からの紫外線への曝露、発熱、インフルエンザ感染、月経)に曝されると再び活性化することができ、再発を引き起こす。再発しやすい多くの患者において、発疹箇所に局在し、痛み、うずき、無感覚、およびかゆみに関連する初期症状は、水泡や水ぶくれが現れる12〜36時間前に起こる(前駆段階)。免疫正常者においては、ヘルペスの感染は自己制御される。治療は、ウイルスが拡散および伝染するのを予防すること、ならびに症状を短くし対抗することを目的とする。
【0002】
経口または点滴の抗ウイルス治療は、ヘルペス感染が全身性化して特別な重要性を有する、ひどい免疫不全の患者(HIV陽性患者、明らかなAIDS患者、癌患者、または免疫抑制剤を用いた治療中の移植患者)に限定される。
【0003】
口唇発疹の発症を予防するか、または重大さを低下させるため、ヘルペスの再発予防は、引き金となる要因を制限し回避することにより行われる。最も効果的なものと考えられる予防システムは、太陽フィルター(sun filter)を含む局所防御の適用、およびリジンのような高容量(1000mg/日)を経口で投与した時に予防価を有することが証明されている栄養補助食品の摂取である。
【0004】
局所的な治療は、免疫正常者に最も行われるものであり、ヘルペス感染の状態に従って変化する。
【0005】
初期段階においては、ウイルスの複製を干渉するヌクレオシドの類似体(アシクロビル、ペンシクロビル)またはウイルス細胞融合の阻害剤(ドコサノール)がクリームの形で使用される。一方、抗ウイルス治療を進められないほど感染が進行した場合、治療は感染に関連する痛み、炎症および熱傷を緩和するために行われる。特に、経口の鎮痛薬(イブプロフェン、パラセタモール)、局所鎮痛薬/麻酔薬(ベンゾカイン、リドカイン、アラントイン、フェノール、メントール)、かさぶたを柔らかくして乾燥、かゆみ、および回復に伴う炎症を緩和する皮膚保護薬(カオリン、ココアバター、グリセロール、パラフィンゲル、亜鉛、酸化物、および酢酸)が使用される。
【0006】
口唇ヘルペスの発疹の局所治療システムのための先行技術の分析は、革新的な治療方法は、抗ウイルス組成物、抗炎症/鎮痛薬、抗菌薬、皮膚軟化薬の混合物を主成分とする独自の局所処方によって示される可能性があることを明らかにする。その局所処方は、病変の治療および被覆に好ましく、したがって様々な感染状態において病変の回復過程を促進させるため、痛み、炎症、伝染のリスク、および感染の拡大を低下させるため、ならびに細菌重複感染のリスクを低下させるために適用することができる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の記載
本発明に係る物は、口唇ヘルペス感染の治療に有用な、抗単純ヘルペスウイルス1型および2型活性、ならびに間接的な抗炎症作用および鎮痛作用を確保するための、活性成分の最適濃度を有するよう適切に選択されバランスされた薬用植物の調製物を主成分とする局所用組成物である。同一の組成物は、ヘルペス病変の治療プロセスに有利に働いて感染プロセスの拡大を予防する、皮膚を軟化させる活性、治療活性、および被覆活性を有する、精製された天然の成分を含む。ゲルのフィルム効果の結果である水泡および水ぶくれの被覆は、さらに患者の美的外見を改善する。
【0008】
組成物は、好ましくはスプレーゲルの形であるが、他の剤形も本発明に含まれる。組成物は、レモンバーム(Melissa officinalis)の精油およびグリチルリチン酸塩、好ましくはアンモニウム塩を含み;好ましい形では、組成物はさらにラベンダー(Lavandula angustifolia)および/またはベータ−グルカンおよび/またはD−パンテノール(プロ−ビタミンB5)を含む。
【0009】
レモンバームは、その精油がヘルペス単純ウイルスに対する抗ウイルス活性(シトラール)、抗菌活性(ゲラニルおよびネラール)、鎮痛活性(ミレネ(myrene))、および抗酸化活性(イソオリエンチン、オリエンチン、コーヒー酸、クロロゲン酸)を提供する成分を含む植物である。レモンバームの精油は、標準的な技術に従って製造してもよく、または、イタリア、ミラノのEsperis SpAから市販されている。精油の滴定および規格化は、通常の技術のうちである。
【0010】
ラベンダーは、薬用植物である。精油は、抗炎症、鎮痛および抗菌作用を有する。さらに、それは傷の治療に有利に働く。ラベンダーの精油は、標準的な技術に従って製造してもよく、または、イタリア、ミラノのEsperis SpAから市販されている。精油の滴定および規格化は、通常の技術のうちである。
【0011】
グリチルリチン酸は、ヨーロッパカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)の根抽出物中に存在するが、抗単純ヘルペスウイルス活性を示す。グリチルリチン酸は、例えばイタリア、ミラノのIndena SpAから市販されている。
【0012】
酵母や藻類から抽出できるベータ−グルカン、およびD−パンテノール(プロ−ビタミンB5)は、皮膚組織再生の活性化剤である。ベータ−グルカンは、ウイルス、細菌病原体、および真菌病原体に対する免疫機能を、局所レベルで活性化する。ベータ−グルカンは、例えばイタリア、モンテレンツィオのNutraceutica Srlから市販されている。D−パンテノールは、例えばイタリア、トレッツォ・スッラッダのRes Pharma Srlから市販されている。
【0013】
好ましい実施態様において、本発明の組成物は、活性成分に関して、0.5から2.0重量%のレモンバームの滴定され、規格化された精油、2.5から10重量%のラベンダーの滴定され、規格化された精油、0.25から1重量%のグリチルリチン酸アンモニウム塩、0.25から1重量%のベータ−グルカン、0.25から1重量%のD−パンテノール(プロ−ビタミンB5)を含む。ゲルは、pH4.5から5.5において安定化される。組成物はさらに、溶解剤、増粘剤、安定剤、およびゲル化剤、すなわちカラゲナンを含んでもよい。
【0014】
UVAおよびUVB太陽光照射に対して異なる防御指数を提供する化学的フィルターおよび物理的フィルターは、局所的な単純ヘルペスウイルス感染の反復性の発生頻度を低下させるため、組成物に任意に追加することができる。
【0015】
特に好ましい実施態様において、本発明は、ヘルペスの発疹上に投与することができるスプレーゲルの形の組成物に関するものであり、pH5.0において安定化された以下の重量の活性成分を含む:
レモンバームの滴定され、規格化された精油:1%
ラベンダーの滴定され、規格化された精油:5%
グリチルリチン酸アンモニウム塩:0.5%
ベータ−グルカン:0.5%
D−パンテノール(プロ−ビタミンB5):0.5%。
【0016】
組成物は、レモンバームの精油とグリチルリチン酸の混合物が有する役割のため、単純ヘルペスセロタイプ1および2の「インビトロ」複製を阻害することに驚くほど効果的である。さらに、ラベンダーの精油、ベータ−グルカンおよびD−パンテノールに関連して、口唇ヘルペス感染によって誘起される症状に対抗し、かかる感染により誘起される病変の治療を助けるのに驚くほど効果的であることが証明された。
【0017】
製剤は、大量のゲルと非殺菌瓶詰めを調製するための標準的な製薬のプロトコルに従って製造されてよい。最終製品は、ゲル、ならびに、薬剤の使用のために認可された質および量の溶解剤、増粘剤、安定剤およびゲル化剤に関連する植物抽出成分からなり、該最終製品は、特別な水平ポンプディスペンサーを備えた遮光ガラス瓶中に分配される。
【0018】
組成物は、局所的単純ヘルペス1型および2型感染の予防的処置および治療的処置において、有利に使用される。
【0019】
組成物は、スプレー容器、リップクリーム(labial stick)、クリーム等の形で提供されてもよい。
【0020】
以下の限定されない実施例は、本発明をより詳細に示す。
【実施例1】
【0021】
抗ウイルス活性および「インビトロ」の細胞毒性
異なるパーセンテージのレモンバームの精油とグリチルリチン酸を含む混合物は、抗ウイルス活性と細胞毒性の「インビトロ」測定のための従来の技術を用いてアッセイされた。
【0022】
単純ヘルペス1型の系統(ATCC VR−260)と2型の系統(ATCC CR−734)が、それぞれ、10%FCSを加えたEMEM中、37℃、5%COで培養されたHep−2とVeroの細胞系統において複製された。5−7日間で100%から90%の間の細胞変成作用(CPE)を生ずることが可能な感染効率(MOI)での単一ウイルスの懸濁液は、アッセイする混合物と共に前培養され、プレートウェル中に流すように特定の細胞系統に接種された。レモンバームの精油/グリチルリチン酸アンモニウム塩のマイクログラム/mlでの最終濃度比、100/50; 30/15; 10/5; 3/1.5; 1/0.5における、混合物の、細胞変成作用(CPE)の阻害に基づくウイルス複製を阻害する能力が測定された。特に、抽出液で前培養せずにウイルス懸濁液に感染させたHep−2およびVero対照細胞系統に比べて細胞変成作用を50%阻害することができる(IC50)、もとの混合物の希釈度は、線形回帰分析により計算された。等濃度の混合抽出物を、同じ感染していない細胞系統に添加して、細胞の50%に毒性を有する活性成分の濃度(TC50)を決定した。
【0023】
細胞変性作用および細胞毒性は、ミトコンドリア内酵素による、テトラゾリウム色素MTSの、可溶性着色ホルマザン産物への代謝を低下させる能力として測定され、それは490/650nmでの分光光度の読み取りによって定量することができる。
【0024】
様々なウイルスにより誘導される細胞変性の50%阻害(IC50)を導く混合物の平均希釈度は、以下の濃度の活性成分を含むことがわかった:
−レモンバームの精油:10マイクログラム/ml
−グリチルリチン酸アンモニウム塩:5マイクログラム/ml。
混合物の至適抗ウイルス希釈度では、細胞毒性は見られなかった。
【実施例2】
【0025】
臨床例
月経と同時に再発する頻繁な口唇ヘルペスの32歳の女性患者は、pH5.0において安定化された以下の重量の活性成分を含む、組成物の局所投与による治療的処置を、初めて使用する:
レモンバームの滴定され、規格化された精油:1%
ラベンダーの滴定され、規格化された精油:5%
グリチルリチン酸アンモニウム塩:0.5%
ベータ−グルカン:0.5%
D−パンテノール(プロ−ビタミンB5):0.5%。
【0026】
処置は、前駆段階で開始される。ヘルペスの発疹の拡張が小さくなればなるほど、かなりの痛みが減少し、かさぶたの期間は短くなり、続いて以前の再発性感染の発症に比べてヘルペス部位のより早い治癒が観察される。
【実施例3】
【0027】
臨床例
インフルエンザの発症に加えて口唇ヘルペス発疹に冒されている35歳の女性は、水泡および水ぶくれの発現と同時に、pH5.0において安定化された以下の重量の活性成分を含む、組成物の局所投与による治療的処置を開始する:
レモンバームの滴定され、規格化された精油:1%
ラベンダーの滴定され、規格化された精油:5%
グリチルリチン酸アンモニウム塩:0.5%
ベータ−グルカン:0.5%
D−パンテノール(プロ−ビタミンB5):0.5%。
【0028】
治癒は、特別な問題(かゆみ、乾燥、かさぶたの落下の遅れ)はなく、ヘルペス発疹に冒された口唇皮膚組織の統合性が完全に回復して、約4日間で達成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともレモンバームの精油とグリチルリチン酸塩を含む、局所使用のための組成物。
【請求項2】
ラベンダーの精油および/またはベータ−グルカンおよび/またはD−パンテノール(プロ−ビタミンB5)をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
pHが4から6の間に含まれる緩衝化ゲルの形である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
スプレーの形である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項5】
0.5から2重量%のレモンバームの滴定され、規格化された精油、2.5から10重量%のラベンダーの滴定され、規格化された精油、0.25から1重量%のグリチルリチン酸アンモニウム塩、0.25から1重量%のベータ−グルカン、0.25から1重量%のD−パンテノール(プロ−ビタミンB5)を含む、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
溶解剤、増粘剤、安定剤およびゲル化剤をさらに含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
1重量%のレモンバームの滴定され、規格化された精油、5重量%のラベンダーの滴定され、規格化された精油、0.5重量%のグリチルリチン酸アンモニウム塩、0.5重量%のベータ−グルカン、0.5重量%のD−パンテノールを含む、請求項5または6記載の組成物。
【請求項8】
UV太陽光照射防御フィルターをさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
局所的単純ヘルペスウイルス1型および2型の感染の予防的処置および治療的処置において使用するための、請求項1から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
医療用具の形である、請求項1から9のいずれかに記載の組成物。

【公表番号】特表2009−530350(P2009−530350A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500863(P2009−500863)
【出願日】平成19年3月21日(2007.3.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052689
【国際公開番号】WO2007/110356
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(508284573)イスチチュト ファルマコテラピコ イタリアーノ ソシエタ ペル アチオニ (1)
【Fターム(参考)】