説明

口腔用組成物

【解決手段】(A)酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、(C)塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムから選ばれる少なくとも1種のカチオン性抗菌剤を含有し、かつ(A)/(B)の質量比が1.0〜20であることを特徴とする口腔用組成物。
【効果】本発明の口腔用組成物は、低刺激性で、口腔内のバイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果に優れ、歯周病等の口腔疾患の予防又は治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘膜刺激性が低く、かつ口腔内のバイオフィルムに対する抗菌効果及び舌苔除去効果に優れた口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デンタルプラークはバイオフィルムとして捉えられ(非特許文献1)、口腔内のバイオフィルム中の細菌は、浮遊性細菌と比較すると細菌のタンパク質発現パターン(非特許文献2、3)や薬剤耐性(非特許文献4、5)が大きく異なり、これまでに提案された薬剤やその組合せがバイオフィルムに対して有効ではないことが明らかになってきた。
【0003】
これまでに殺菌手段として、フェノール性殺菌剤(特許文献1)などが開発されてきたが、バイオフィルム中の細菌は強力な薬剤耐性メカニズムを有するため、これだけではバイオフィルム抑制効果は不十分であり、口腔疾患のリスクをゼロにすることは困難であった。
【0004】
また、これらの殺菌力を増強するため、殺菌剤の滞留性向上技術(特許文献2)が提案されたが、バイオフィルムの薬剤浸透性の低さなどにより、著効は期待できなかった。この現状から、口腔バイオフィルム中の細菌に対しても有効なバイオフィルム抑制組成物の開発が強く望まれていた。
【0005】
近年、バイオフィルム抑制組成物として、疎水性アミノ酸及びアンモニウム塩の配合(特許文献3)、歯垢構成微生物の細菌間情報伝達機構制御物質の配合(特許文献4)、ラクトン誘導体及び/又はフラン誘導体の配合(特許文献5)、グリセロールリン酸及びフェノール性殺菌剤の配合(特許文献6)、非イオン性抗菌剤及びジカルボン酸化合物の配合(特許文献7)、オフロキサシンやクロサンテルとフェノール性殺菌剤の配合(特許文献8)などが提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの技術は、細菌叢の異なる舌上のバイオフィルムに吸着しにくい、口腔粘膜へ強い作用を示す等の課題があり、低刺激性で、かつ十分満足できる優れた口腔内バイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果を有するものは確認されておらず、未だ市場に導入されていないのが現状である。このような現状から、上記技術に代わる、低刺激性で、口腔内のバイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果の全てを併せ持つ組成物の開発が強く望まれている。
【0007】
【非特許文献1】Costerton,J.W.,Stewart,P.S. and Greenberg,E.P.:Bacterial biofilms:a common cause of persistent infections.Science 284:1318−1322,1999.
【非特許文献2】Costerton,J.W.,Lewandowski,Z.,Caldwell,D.E.,Korber,D.R. and Lappin−Scott,H.M.:Microbial biofilms.Annu.Rev.Microbiol.49:711−745,1995.
【非特許文献3】Hudson,M.C.,Curtiss,R.III:Regulation of expression of Streptococcus mutans genes important to virulence.Infect.Immun.58:464−470,1990.
【非特許文献4】Stewart,P.S.:Mechanisms of antibiotic resistance in bacterial biofilms.Int.J.Med.Microbiol.292:107−113,2002.
【非特許文献5】Philip Marsh and Michael V.Martin著「Oral Microbiology」、Wright出版、2000年、p.58−81(Dental plaque)
【特許文献1】特開平02−11511号公報
【特許文献2】特開平04−139119号公報
【特許文献3】特開2002−370953号公報
【特許文献4】特開2003−128580号公報
【特許文献5】特開2004−155681号公報
【特許文献6】特開2005−047855号公報
【特許文献7】特開2005−015369号公報
【特許文献8】特開2005−187377号公報
【特許文献9】特開2000−154112号公報
【特許文献10】特開2006−137679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、低刺激性で、優れた口腔内バイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果を有する口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、(A)酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、(C)塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムから選ばれる少なくとも1種のカチオン性抗菌剤を配合し、かつ(A)/(B)の質量比が1.0〜20であることにより、極めて高いバイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果を発揮し、かつ極めて低い刺激性を示す口腔用組成物が得られることを初めて見出した。
【0010】
なお、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油やジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドは、例えば特許文献9及び10に選択可能な成分として記載されているが、本発明の口腔用組成物は、上記(A)〜(C)成分の特定割合での併用により、これら成分の相乗的作用によって、口腔粘膜への強い刺激がほとんどない上、口腔内のバイオフィルム、特に歯牙表面等に形成されたバイオフィルムのみならず、細菌叢の異なる舌上のバイオフィルムに対してもこれら成分が吸着して優れた抗菌効果を示し、低刺激性で優れたバイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果を発揮し、歯周病、口臭等の口腔疾患を効果的に予防又は治療することができるもので、このことは本発明者の新知見である。
【0011】
従って、本発明は、(A)酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、(C)塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムから選ばれる少なくとも1種のカチオン性抗菌剤を含有し、かつ(A)/(B)の質量比が1.0〜20であることを特徴とする口腔用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の口腔用組成物は、低刺激性で、口腔内のバイオフィルムに対する優れた抗菌効果及び舌苔除去効果を発揮し、歯周病、口臭等の口腔疾患の予防又は治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明の口腔用組成物は、(A)酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、(C)塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムから選ばれる少なくとも1種のカチオン性抗菌剤を含有する。
【0014】
本発明における(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の酸化エチレンの平均付加モル数は40〜100であることが必須であり、バイオフィルム抗菌効果の面から80〜100であることがより好ましい。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の酸化エチレンの平均付加モル数が40未満の場合はバイオフィルム抗菌効果や舌苔除去効果などが悪くなる場合があり、100を超えるものは一般には市販されていない。なお、このような(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、市販品を用いることができる。
【0015】
(A)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の配合量は、組成物全体の0.1〜1.8%(質量%、以下同様。)が好ましく、より好ましくは0.2〜0.9%、更に好ましくは0.3〜0.6%である。配合量が0.1%未満の場合は満足な粘膜刺激低減効果などが得られない場合があり、1.8%を超えるとバイオフィルム抗菌効果や舌苔除去効果に悪影響を与える場合がある。
【0016】
本発明における(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドは、市販品を用いることができ、例えば、日本油脂社製のユニセーフA−LE(商品名)などを用いることができる。
【0017】
(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドの配合量は、好ましくは組成物全体の0.01〜0.5%、より好ましくは0.04〜0.25%、更に好ましくは0.05〜0.125%である。配合量が0.01%未満の場合は十分な舌苔除去効果が得られない場合があり、0.5%を超えると粘膜刺激性に悪影響を与える場合がある。
【0018】
本発明において(C)カチオン性抗菌剤としては、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムから選ばれる少なくとも1種を用いることが必須であり、これらの中でバイオフィルム抗菌効果などの面から塩化セチルピリジニウムを用いることがより好ましい。
【0019】
(C)カチオン性抗菌剤の組成物全体に対する配合量は、好ましくは0.01〜0.1%、より好ましくは0.01〜0.05%、更に好ましくは0.03〜0.05%である。配合量が0.01%未満の場合は十分なバイオフィルム抗菌効果が得られない場合があり、0.1%を超えると粘膜刺激性に悪影響を与える場合がある。
【0020】
本発明においては、(A)酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドとを特定の質量比で配合することが必須である。その質量比は、低刺激性、バイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果などの面から(A)/(B)が1.0〜20であることが必須であり、特に2.0〜15が好ましく、とりわけ3.0〜10がより好ましい。質量比が1.0未満であったり20を超えると、満足な低刺激性、バイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果が得られない場合がある。
【0021】
本発明の口腔用組成物は、常法により製造することができ、固体、固形物、液体、液状、ゲル体、ペースト状、ガム状等の形状に調製され、練歯磨、液体歯磨、液状歯磨等の歯磨類、洗口剤、口中清涼剤、歯間ケア剤、舌ケア剤等として調製でき、上述した成分に加えて更にその目的、剤型等に応じた適宜な他の任意成分を配合することができる。例えば歯磨類の場合は、各種研磨剤、湿潤剤、粘結剤、界面活性剤、甘味料、香料、着色剤、防腐剤、その他の有効成分などを、本発明の効果を妨げない範囲で通常量で用いることができる。
【0022】
例えば、研磨剤としては、第2リン酸カルシウム・2水和物及び無水物、第1リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、第3リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ポリメタクリル酸メチル、ベントナイト、ケイ酸ジルコニウム等の1種以上を配合し得る(配合量は、歯磨の場合には5〜55%)。
【0023】
界面活性剤としては、上記(A)及び(B)成分に加えて、その他の界面活性剤として陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び両性イオン界面活性剤の1種以上を配合し得る。
陰イオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウムなどのN−アシルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム、N−メチル−N−アシルアラニンナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム等が用いられる。
【0024】
また、非イオン界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステルなどの糖脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、ラクチトール脂肪酸エステルなどの糖アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリン酸モノ又はジエタノールアミド、ミリスチン酸モノ又はジエタノールアミドなどの脂肪酸ジエタノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル等が用いられる。
両性イオン界面活性剤としては、N−ミリスチルジアミノエチルグリシンなどのN−アルキルジアミノエチルグリシン、N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、2−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリンベタインナトリウムなどが用いられる。
【0025】
上記その他の界面活性剤としての陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び両性イオン界面活性剤の配合量は、好ましくは組成物全体に対して0.1〜3%である。
【0026】
粘結剤としては、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、キサンタンガム、トラガカントガム、カラヤガム、アラビヤガムなどのガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの合成粘結剤、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガム、ラポナイトなどの無機粘結剤等の1種以上が配合され得る(配合量通常0.1〜5%)。
【0027】
湿潤剤としては、ソルビット、グリセリン、キシリトール、マルチトール、ラクチトールの1種以上を配合し得る(配合量通常5〜50%)。
【0028】
また、アルコールとして、一価アルコールとしてエタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロパノール等を、多価アルコールとしてエチレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール200〜20,000、ポリプロピレングリコール300〜4,000などを挙げることができ、これらの1種以上を配合し得る。上記アルコールの合計配合量は、純分換算して通常0.1〜20%である。
【0029】
香料として、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料及び、これら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3−l−メントキシプロパン−1,2−ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N−置換−パラメンタン−3−カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を使用することができ、実施例の香料に限定されない。
また、配合量も特に限定されないが、上記の香料素材は、製剤組成中に0.000001〜1%使用するのが好ましい。また、上記香料素材を併用した賦香用香料としては、製剤組成中に0.1〜2.0%使用するのが好ましい。
【0030】
有効成分としては、(C)成分のカチオン性抗菌剤に加えて、その他の有効成分として、例えばデカリニウムクロライドなどの陽イオン性殺菌剤、トリクロサン、ヒノキチオール等のフェノール性化合物、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、アミラーゼ、プロテアーゼ、溶菌酵素、スーパーオキサイドなどの酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウムなどのアルカリ金属モノフルオロホスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第1錫などのフッ化物、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレスタノール、グリチルリチン酸類、グリチルレチン酸、ビサボロール、グリセロホスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、水溶性無機リン酸化合物等の有効成分を1種以上配合し得る。上記有効成分の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量とすることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実験例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において配合量はいずれも質量%である。
【0032】
〔実験例〕
表1に示す組成の試験組成物を下記方法で調製し、その次に示す方法で口腔バイオフィルム抗菌効果、舌苔除去効果及び粘膜刺激改善効果を評価した。結果を表1に示す。
【0033】
試験組成物(比較例及び実施例)の調製法:
60℃で加熱溶解させたポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、カチオン性抗菌剤、及びその他の成分を秤取し、蒸留水を添加することで全量が100gになるように調製した。その後、60℃で1時間攪拌することにより分散・溶解させたものを、直ちに実験に用いた。
【0034】
[バイオフィルム抗菌効果の評価方法]
ライオン株式会社オーラルケア研究所において継代保存(凍結保存)してあったアクチノマイセス ナイスランディー(Actinomyces naeslundii) ATCC 51655株,フゾバクテリウム ニュークレアタム(Fusobacterium nucleatum) ATCC 10953株,ポルフィロモーナス ジンジバリス(Porhyromonas gingivalis) ATCC 33277株,ストレプトコッカス サングイニス(Streptococcus sanguinis) ATCC 10556株の各菌液40μLをそれぞれ、121℃で15分間オートクレーブした5mg/L ヘミン(シグマ アルドリッチ社製)及び1mg/L ビタミンK(和光純薬工業社製)を含むトッドへーウィットブロース(Becton and Dickinson社製)培養液(THBHM*1)4mLに添加し、37℃で一晩嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)した。培養後、各菌液(4種)から300μLを採取し、それぞれ30mLのTHBHMに添加し、更に一晩培養した。再培養後、各菌液を遠心分離(10,000rpm、10min)し、上清を廃棄した。
【0035】
各沈渣(細菌)に対して121℃で15分間オートクレーブしたベイサルメディウムムチン培養液(BMM*2)を添加し再懸濁した後、予めBMM1,000mLを入れた培養槽に、上記各菌数がそれぞれ1×107個/mLになるように接種し、37℃で嫌気条件下(95vol%窒素、5vol%二酸化炭素)で一晩培養した。その後、BMMを100mL/hの速度で供給するとともに、同速度で培養液を排出した。上記培養槽から排出された培養液は、液量が300mLに保たれる別の培養槽に連続的に供給した。
この培養槽内の回転盤(約80rpmで回転)には、付着担体であるハイドロキシアパタイトディスク(直径7mm×高さ3.5mm)を装着し、その表面にバイオフィルムを形成させた。
【0036】
上記方法による培養は14日間行い、後半の7日間は次に示す薬剤処置を行った。すなわち、1日1回、バイオフィルムが付着したハイドロキシアパタイトディスクを培養槽から取り出し、シャーレ(直径35mm×高さ14mm)に移し、試験組成物5g(実施例及び比較例)で30秒間浸漬した。その後、生理食塩水5gで3回洗浄後、再び培養槽内に戻した。同操作は総計7回実施した。
【0037】
培養終了時には、試験組成物のバイオフィルム抗菌効果を評価するため、バイオフィルムを4mLのTHBHMを添加した試験管(直径13mm×100mm)に移した。直ちに超音波破砕(200μAの出力で10秒間)、段階希釈(10倍希釈を6段階)を行い、常法で作製した血液寒天平板培地*3に各菌溶液を塗沫した。同平板培地は、肉眼でコロニーが確認できるまで嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)した。各平板培地のコロニー数をカウント後、定法により生菌数を算出した。結果は、下式より比較例1を対照とした試験組成物の効果を算出した後、下記の評価基準で求めた。
【0038】
【数1】

【0039】
評価基準:
×:比較例1を対照とした試験組成物の効果が、−4以上0以下
△:比較例1を対照とした試験組成物の効果が、0を超え2以下
○:比較例1を対照とした試験組成物の効果が、2を超え4以下
◎:比較例1を対照とした試験組成物の効果が、4を超え7以下
【0040】
*1 THBHMの組成:1リットル中の質量で表す。
トッドへーウィットブロース(Becton and Dickinson社製):
30g/L
ヘミン(シグマ アルドリッチ社製): 5mg/L
ビタミンK(和光純薬工業社製): 1mg/L
蒸留水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップした。)
【0041】
*2 BMMの組成:1リットル中の質量で表す。
プロテオースペプトン(Becton and Dickinson社製):
2g/L
トリプトン(Becton and Dickinson社製): 1g/L
トリプチケースペプトン(Becton and Dickinson社製):
1g/L
ムチン(シグマ アルドリッチ社製): 2.5g/L
ヘミン(シグマ アルドリッチ社製): 1mg/L
ビタミンK(和光純薬工業社製): 0.2mg/L
KCl(和光純薬工業社製): 0.5g/L
システイン(和光純薬工業社製): 0.1g/L
蒸留水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップした。)
【0042】
*3 血液寒天平板培地の組成:1リットル中の質量で表す。
トッドへーウィットブロース(Becton and Dickinson社製):
30g/L
寒天(Becton and Dickinson社製): 15g/L
ヘミン(シグマ アルドリッチ社製): 5mg/L
ビタミンK(和光純薬工業社製): 1mg/L
蒸留水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップした。)
羊脱繊維素血液: 50mL添加
(上記組成1Lを121℃で15分間オートクレーブした後に45℃に冷却後、添加。)
【0043】
[舌苔除去力の評価方法]
舌苔除去力を評価するため、まず被験者10名の舌苔付着面積及び舌苔の最大厚さを下記の評点で測定した。その後、歯ブラシや舌ブラシなどによる舌清掃を禁止した状態で、試験組成物15g(比較例及び実施例)を30秒間含嗽させ、試験液を吐出させた後、3分間歯をブラッシングさせた。同操作を1日2回継続させ、5日後に試験開始時と同様に舌苔付着面積及び舌苔の最大厚さを評価した。
【0044】
評点:
(1)舌苔付着面積
0:舌苔の付着面積が舌の1/6以下である。
1:舌苔の付着面積が舌の1/6を超え1/3以下である。
2:舌苔の付着面積が舌の1/3を超え2/3以下である。
3:舌苔の付着面積が舌の2/3を超える。
【0045】
(2)舌苔の最大厚さ
1:舌苔の最大厚さ部位で舌乳頭が完全に認められる。
2:舌苔の最大厚さ部位で舌乳頭の一部が認められる。
3:舌苔の最大厚さ部位で舌乳頭が全く認められない。
【0046】
下式により、各被験者の試験組成物の舌苔除去力を求めた後、10名の平均値を算出した。結果は、試験組成物の舌苔除去力から比較例1の舌苔除去力を引いた点数(比較例1に対する試験組成物の効果の差)を用いて下記の評価基準で示した。
【0047】
算出式:
各被験者の試験組成物の舌苔除去力=
(試験前の舌苔付着面積×試験前の舌苔の最大厚さ)-(試験後の舌苔付着面積×試験後の舌苔の最大厚さ)
【0048】
評価基準:
×:比較例1に対する試験組成物の効果の差が0点以下
△:比較例1に対する試験組成物の効果の差が0点を超え1.5点以下
○:比較例1に対する試験組成物の効果の差が1.5点を超え3.0点以下
◎:比較例1に対する試験組成物の効果の差が3.0点を超える
【0049】
[口腔粘膜刺激性の評価]
口腔粘膜刺激性に関する評価は、ヒト使用試験により実施した。すなわち、被験者10名に試験組成物15g(比較例及び実施例)を30秒間含嗽させ、試験液を吐出させた後、3分間歯をブラッシングさせた際の口腔粘膜に対する刺激性を下記評点で評価させた。結果は、10名の平均値から下記の評価基準で求めた。
【0050】
評点:
1点:比較例1と比較して口腔粘膜の刺激が悪化した。
2点:比較例1と同等の口腔粘膜の刺激が認められた。
3点:比較例1と比較してやや刺激低減効果が認められた。
4点:比較例1と比較して刺激低減効果が認められた。
5点:比較例1と比較して著しい刺激低減効果が認められた。
【0051】
評価基準:
×:評点が1点以上2点以下
△:評点が2点を超え3点以下
○:評点が3点を超え4点以下
◎:評点が4点を超え5点以下
【0052】
【表1】

【0053】
1)日光ケミカルズ社製、括弧内は酸化エチレンの平均付加モル数を示す。
2)日本油脂社製
3)東京化成工業社製の塩化セチルピリジニウム
4)シグマ アルドリッチ社製のグルコン酸クロルヘキシジン(本発明の(C)成分の対照品として)
5)和光純薬工業社製の塩化ベンザルコニウム
6)和光純薬工業社製の塩化ベンゼトニウム
7)花王社製
【0054】
表1の結果より、(C)塩化セチルピリジニウムの存在下で、(A)酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油/(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドの質量比が1.0未満や20を超える場合(比較例1〜4)や、上記(C)成分のカチオン性抗菌剤の代わりにグルコン酸クロルヘキシジンを配合した場合(比較例5)、(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドの代わりにラウリルジメチルアミンオキシドを配合した場合(比較例6)、上記(A)成分の代わりに酸化エチレンの平均付加モル数が20のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を用いた場合(比較例7)は、低刺激性、バイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果のいずれかに劣り、全てを満足させることはできなかった。これに対して、(C)塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムから選ばれる少なくとも1種のカチオン性抗菌剤の存在下で、(A)酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドとを質量比で(A)/(B)が1.0〜20の範囲で配合した場合(実施例1〜19)は、これら各成分の相乗的な効果が発現し、低刺激性、バイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果のすべての項目で良好な結果が得られ、本発明の有効性が認められた。
【0055】
本発明におけるメカニズムの詳細は不明であるが、(A)酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドと、(C)塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムから選ばれる少なくとも1種のカチオン性抗菌剤との3種の成分が複合分子を形成することにより、口腔粘膜への強い刺激がほとんどない上、口腔内のバイオフィルム、特に歯牙表面等に形成されたバイオフィルムのみならず、細菌叢の異なる舌上のバイオフィルムに対しても吸着して優れた抗菌効果を示し、低刺激性で高いバイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果を発揮するものと考えられる。
【0056】
〔実施例20〕液状歯磨
ポリオキシエチレン(100)硬化ヒマシ油
(日本サーファクタント社製) 0.6%
ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド(日本油脂社製) 0.06
無水ケイ酸 18.0
キサンタンガム 0.2
ポリアクリル酸ナトリウム 0.1
70%ソルビット液 35.0
グリセリン 17.0
プロピレングリコール 5.0
塩化セチルピリジニウム(東京化成工業社製) 0.05
香料A 0.8
精製水 残
計 100.0%
(酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油/ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドの質量比=10)
【0057】
〔実施例21〕練歯磨
第2リン酸カルシウム 47.0%
無水ケイ酸 2.5
70%ソルビット液 24.0
プロピレングリコール 3.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
アルギン酸ナトリウム 0.2
サッカリンナトリウム 1.0
香料A 1.0
ポリオキシエチレン(80)硬化ヒマシ油
(日本サーファクタント社製) 0.6
ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド(日本油脂社製) 0.2
塩化セチルピリジニウム(東京化成工業社製) 0.01
精製水 残
計 100.0%
(酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油/ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドの質量比=3.0)
【0058】
〔実施例22〕練歯磨
炭酸カルシウム 40.0%
プロピレングリコール 3.0
グリセリン 20.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.5
酸化チタン 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
パラオキシ安息香酸エチル 0.1
香料A 1.0
ポリオキシエチレン(100)硬化ヒマシ油
(日本サーファクタント社製) 0.6
ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド(日本油脂社製) 0.12
塩化セチルピリジニウム(東京化成工業社製) 0.03
精製水 残
計 100.0%
(酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油/ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドの質量比=5.0)
【0059】
〔実施例23〕洗口剤
エタノール 10.0%
グリセリン 20.0
サッカリンナトリウム 0.3
香料B 0.5
ポリオキシエチレン(100)硬化ヒマシ油
(日本サーファクタント社製) 0.4
ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド(日本油脂社製) 0.09
塩化セチルピリジニウム(和光純薬工業社製) 0.01
塩化ベンザルコニウム(和光純薬工業社製) 0.01
塩化ベンゼトニウム(和光純薬工業社製) 0.01
精製水 残
計 100.0%
(酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油/ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシドの質量比=4.4)
【0060】
なお、香料A、Bは下記の通りである。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
以上、実施例20〜23に対して実験例と同様な評価を行った結果、いずれも低刺激性、バイオフィルム抗菌効果及び舌苔除去効果の点で良好な結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸化エチレンの平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(B)ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、(C)塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムから選ばれる少なくとも1種のカチオン性抗菌剤を含有し、かつ(A)/(B)の質量比が1.0〜20であることを特徴とする口腔用組成物。

【公開番号】特開2008−156288(P2008−156288A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347235(P2006−347235)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】