説明

口腔用組成物

【課題】本発明の目的は、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物とカチオン系殺菌剤を含みながらも、カチオン系殺菌剤が安定に存在でき、歯垢形成阻害効果と共に、十分な殺菌効果の双方を有効に奏させ得る口腔用組成物を提供することである。
【解決手段】(A)アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物、(B)少なくとも2種のカチオン系殺菌剤、及び(C)炭素数2−3の低級アルコール及び多価アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール系溶剤を含み、
上記(A)成分1g当たり、上記(C)成分が30ml以上の比率となるように設定することにより、口腔用組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物及び2種以上のカチオン系殺菌剤を含み、当該カチオン系殺菌剤の殺菌効果を有効に奏することができる口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕(虫歯)、口臭、歯周病、歯肉炎、歯槽膿漏等の口腔内症状や疾患は、歯垢が原因となっていることが知られている。例えば、う蝕の発生機序は、次のように考えられている。即ち、乳酸菌やミュータンス連鎖球菌等の細菌が歯の表面のペクリル層に付着し、当該細菌が分泌するグルコシルトランスフェラーゼ(以下、「GTase」と表記する)の作用によって食物由来のショ糖を粘着性多糖類に変性させ、更に増殖しながら強固に歯面に付着することにより、歯垢が形成される。この歯垢に含まれる細菌が糖類を代謝し、その代謝産物として生成した酸が歯のエナメル表面を脱灰することにより、う蝕が引き起こされる。
【0003】
今日では、歯垢に起因する口腔内症状や疾患を予防する1つの方策として、GTaseの作用を阻害して歯垢の形成を抑制することが有効であると考えられている。そこで、近年、GTase阻害作用を有する物質の開発が精力的に行われており、GTase阻害作用を有する植物抽出物が種々報告されている(例えば、特許文献1及び2参照)。その一方で、GTase阻害作用が報告されている植物抽出物の多くは、GTase阻害作用が十分でない等の理由で実用に供し得ないというのが実情である。しかしながら、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物については、GTase阻害作用が卓越しており、口腔内において実際に歯垢形成阻害効果を有効に奏し得ることが分かっており、実用性の高い成分として注目されている(特許文献2参照)。
【0004】
また、歯垢が原因となって生じる口腔内の疾患や症状には、口腔内のう蝕原性細菌や歯周病菌が関与しており、これらの口腔内細菌を殺菌して口腔内を清浄にすることも、口腔内症状や疾患を予防する上で重要になっている。従来、口腔内細菌の殺菌には殺菌剤が使用されている。とりわけ、第四級アンモニウム塩系殺菌剤やピリジニウム塩系殺菌剤等のカチオン系殺菌剤は、その抗菌スペクトルの広さ、即効性、低濃度で効力が発揮されることから、口腔用組成物において広く使用されている。
【0005】
そこで、歯垢形成阻害効果と殺菌効果の双方を有効に奏させる口腔用組成物の開発には、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物と共に、カチオン系殺菌剤を配合することが有効であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−95020号公報
【特許文献2】特開2006−306844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物とカチオン系殺菌剤を配合した口腔用組成物について検討を行ったところ、殺菌効果の向上を図るためにカチオン系殺菌剤を併用すると、意外にも、カチオン系殺菌剤が不安定化し、本来の殺菌効果を十分に享受し得なくなるという新たな知見を見出した。そこで、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物とカチオン系殺菌剤を配合した口腔用組成物の開発には、上記問題点を解決することが不可欠である。
【0008】
そこで、本発明は、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物とカチオン系殺菌剤を含みながらも、カチオン系殺菌剤が安定に存在でき、歯垢形成阻害効果と共に、十分な殺菌効果の双方を有効に奏させ得る口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物と2種以上のカチオン系殺菌剤に加えて、更に炭素数2−3の低級アルコール及び/又は多価アルコールを所定の比率で配合することによって、口腔用組成物中でカチオン系殺菌剤の安定化を図ることができ、その殺菌効果を有効に奏させることが可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記態様の口腔用組成物を提供する:
項1. (A)アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物、(B)少なくとも2種のカチオン系殺菌剤、及び(C)炭素数2−3の低級アルコール及び多価アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール系溶剤を含み、
上記(A)成分1g当たり、上記(C)成分が30ml以上の比率を満たすことを特徴とする、口腔用組成物。
項2. 上記(B)成分として、第4級アンモニウム塩系殺菌剤及びピリジニウム塩系殺菌剤よりなる群から選択される少なくとも2種のカチオン系殺菌剤を含む、項1に記載の口腔用組成物。
項3. 上記(B)成分として、少なくとも1種の第4級アンモニウム塩系殺菌剤と少なくとも1種のピリジニウム塩系殺菌剤を含む、項1又は2に記載の口腔用組成物。
項4. 上記(C)成分として、少なくとも1種の炭素数2−3の低級アルコールと、少なくとも1種の多価アルコールを含む、項1乃至3のいずれかに記載の口腔用組成物。
項5. 上記(B)成分として、塩化ベンザルコニウム及び塩化ベンゼトニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の第4級アンモニウム塩系殺菌剤と、塩化セチルピリジニウムを含む、項1乃至4のいずれかに記載の口腔用組成物。
項6. 上記(A)成分の配合割合が0.01〜50w/v%である、項1乃至5のいずれかに記載の口腔用組成物。
項7. 上記(C)成分が、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、モノプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、及び重量平均分子量が200〜600のポリエチレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種である、項1乃至6のいずれかに記載の口腔用組成物。
項8. 上記(A)成分が、アカバナ科マツヨイグサ属植物の種子の抽出物である、項1乃至7のいずれかに記載の口腔用組成物。
項9. 洗口剤又は液体歯磨剤である、項1乃至8のいずれかに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の口腔用組成物によれば、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物と共にカチオン系殺菌剤を含みながらも、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物に基づく歯垢形成阻害効果と、カチオン系殺菌剤に基づく殺菌効果の双方有効に奏させることができる。それ故、本発明の口腔用組成物は、歯垢形成や口腔内細菌に起因して生じる口腔内疾患や症状の予防に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試験例1において、各口腔用組成物から測定された塩化セチルピリジニウムの回収率を、使用した溶媒毎に纏めた結果を示す。
【図2】試験例1において、各口腔用組成物から測定された塩化ベンザルコニウムの回収率を、使用した溶媒毎に纏めた結果を示す。
【図3】試験例2において、各口腔用組成物から測定された塩化セチルピリジニウムの回収率を、使用した溶媒毎に纏めた結果を示す。図3中、「エタ+PG」は、溶剤としてエタノールとモノプロピレングリコールを使用した場合;「エタ+BG」は、溶剤としてエタノールと1,3-ブチレングリコールを使用した場合;「PG+BG」は、溶剤としてモノプロピレングリコールと1,3-ブチレングリコールを使用した場合をそれぞれ示す。
【図4】試験例2において、各口腔用組成物から測定された塩化ベンザルコニウムの回収率を、使用した溶媒毎に纏めた結果を示す。図4中、「エタ+PG」は、溶剤としてエタノールとモノプロピレングリコールを使用した場合;「エタ+BG」は、溶剤としてエタノールと1,3-ブチレングリコールを使用した場合;「PG+BG」は、溶剤としてモノプロピレングリコールと1,3-ブチレングリコールを使用した場合をそれぞれ示す。
【図5】比較試験例1において、各口腔用組成物から測定された塩化セチルピリジニウムの回収率を、使用した溶媒毎に纏めた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、単位「w/v%」は、組成物100ml当たりの配合重量(g)を示し、単位「v/v%」は、組成物100ml当たりの配合容量(ml)を示す。
【0014】
本発明の口腔用組成物は、(A)アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物、(B)少なくとも2種のカチオン系殺菌剤、及び(C)アルコール系溶剤を含有し、且つ当該(C)アルコール系溶剤の配合割合が所定範囲を満たすことを特徴とするものである。以下、本発明の口腔用組成物について、詳細に説明する。
【0015】
(A)アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物
本発明の口腔用組成物は、GTase阻害剤として、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。
【0016】
アカバナ科マツヨイグサ属植物としては、特に制限されず、例えば、メマツヨイグサ(Oenothera biennis)、マツヨイグサ(Oenothera striata)、オオマツヨイグサ(Oenothera erythrosepala)、コマツヨイグサ(Oenothera laciniata)等が例示される。これらの中で、好ましくはメマツヨイグサである。
【0017】
当該アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物は、該植物体の全草、又は種子、根、茎、葉、花蕾等の該植物体の一部から抽出されたものであればよいが、好ましくは該植物の種子から抽出されたものである。
【0018】
また、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物の抽出に使用される好ましい抽出溶媒として、極性溶媒が挙げられる。このような極性溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1〜5の低級アルコール;1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;アセトン;エチルエーテル;酢酸エチル;酢酸メチル等が例示される。これらの抽出溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。当該抽出溶媒として、好ましくは水、炭素数1〜5の低級アルコール、及び炭素数1〜5の低級アルコールと水の混合液;更に好ましくは水、エタノール、及びエタノールと水の混合液;特に好ましくはエタノールと水の混合液が挙げられる。抽出溶媒として、炭素数1〜5の低級アルコールと水の混合液を使用する場合、該混合液の総重量に対する該低級アルコールの含有割合としては、例えば0.0001〜99.9重量%、好ましくは40〜99.9重量%、更に好ましくは50〜90重量%となる割合が挙げられる。
【0019】
アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物は、上記抽出対象植物部位をそのまま、或いは必要に応じて、乾燥、細切、破砕、圧搾、煮沸或いは発酵処理したものを、上記抽出溶媒により抽出することによって得られる。抽出方法としては、通常用いられている植物抽出物の抽出方法を採用することができ、具体的には、冷浸、温浸等の浸漬法;加温下で攪拌する方法;又はパーコレーション法等が例示される。
【0020】
なお、アカバナ科マツヨイグサ属植物を抽出溶媒で抽出するのに先立って、前処理として、圧搾法又はヘキサン等の非極性有機溶媒を使用することにより予め脱脂処理を行い、抽出処理時に該植物から余分な脂質が抽出されるのを防止しておくことが望ましい。
【0021】
上記抽出方法で得られるアカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物は液状であり、本発明では、該抽出物を液状のまま使用してもよく、また必要に応じて濃縮、乾燥等の処理に供して濃縮物や乾燥物として使用してもよい。また濃縮又は乾燥後、該濃縮又は乾燥物を非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いてもよく、またこれを更に適当な溶剤に溶解もしくは懸濁して用いることもできる。また、得られた抽出物を、慣用されている精製法、例えば向流分配法や液体クロマトグラフィー等を用いて、GTase阻害活性を有する画分を取得、精製して使用することも可能である。
【0022】
また、簡便には、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物としては、商業的に入手できるものを使用してもよい。商業的に入手可能なアカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物としては、具体的には、月見草エキス-P(オリザ油化株式会社製)、月見草エキス-PC(オリザ油化株式会社製)、月見草エキス-WSPS(オリザ油化株式会社製)、月見草エキス-PH(オリザ油化株式会社製)、月見草エキス-WSPH(オリザ油化株式会社製)、月見草エキス-LC(オリザ油化株式会社製)、ルナホワイトB(一丸ファルコス株式会社製)等が例示される。ここに例示したアカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物は、いずれもメマツヨイグサの種子から製造された抽出物である。
【0023】
本発明の口腔用組成物において、(A)成分の配合割合については、特に制限されるものではなく、当該口腔用組成物の形態等に応じて適宜設定することができるが、(A)成分のGTase阻害作用に基づく歯垢形成阻害効果を有効に奏させるという観点から、当該口腔用組成物の総量当たり、(A)成分が0.001w/v%以上、好ましくは0.01〜50w/v%、更に好ましくは0.05〜10w/v%の配合割合で含まれていることが望ましい。ここで示す(A)成分の配合割合の単位「w/v%」は、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物の乾燥重量に換算した配合割合である。
【0024】
(B)カチオン系殺菌剤
本発明の口腔用組成物は、少なくとも2種のカチオン系殺菌剤(以下、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。本発明の口腔用組成物では、このように2種以上のカチオン系殺菌剤を併用することによって、(A)成分の共存下でも殺菌効果を有効に奏させることが可能になる。本発明において使用されるカチオン系殺菌剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に限定されるものではないが、第4級アンモニウム塩系殺菌剤、ピリジニウム塩系殺菌剤、ビスビグアニド系殺菌剤等が例示される。第4級アンモニウム塩系殺菌剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ジメチルエチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、ジデシルジメチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムアジペート、ジデシルジメチルアンモニウムプロピオネート、ジデシルモノメチルヒドロキシエチルアンモニウムスルホネート、塩化デカリニウム等が例示される。また、ピリジニウム塩系殺菌剤としては、具体的には、塩化セチルピリジニウム等が例示される。また、ビスビグアニド系殺菌剤としては、具体的には、塩酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン等が例示される。
【0025】
本発明の口腔用組成物において配合される2種以上のカチオン系殺菌剤の組合せ態様については、特に制限されるものではなく、口腔組成物の用途や形態に応じて適宜設定される。2種以上のカチオン系殺菌剤の組合せ態様の具体例としては、例えば、少なくとも1種の第4級アンモニウム塩系殺菌剤と少なくとも1種のピリジニウム塩系殺菌剤の組合せ、少なくとも2種の第4級アンモニウム塩系殺菌剤の組合せ、少なくとも2種のピリジニウム塩系殺菌剤の組合せが挙げられる。これらの組合せの中でも、口腔内細菌に対する殺菌効果を向上させるという観点からは、好ましくは、少なくとも1種の第4級アンモニウム塩系殺菌剤と少なくとも1種のピリジニウム塩系殺菌剤の組合せ、更に好ましくは、塩化ベンザルコニウム又は塩化ゼンゼトニウムと塩化セチルピリジニウムの組合せが挙げられる。とりわけ、第4級アンモニウム塩系殺菌剤とピリジニウム塩系殺菌剤の組合せ(特に、塩化ベンザルコニウム又は塩化ベンゼトニウムと塩化セチルピリジニウムの組合せ)は、アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物との共存下でも、カチオン系殺菌剤の安定化を一層向上させて、殺菌効果をより有効に奏させることが可能になる。
【0026】
(B)成分として、第4級アンモニウム塩系殺菌剤とピリジニウム塩系殺菌剤を組合せて使用する場合、その混合比については特に制限されるものではないが、一例として、第4級アンモニウム塩系殺菌剤:ピリジニウム塩系殺菌剤が重量比で100:10〜10000、好ましくは100:50〜5000、更に好ましくは100:100〜1000が例示される。
【0027】
本発明の口腔用組成物において、(B)成分の配合割合については、特に制限されるものではなく、当該口腔用組成物の形態等に応じて適宜設定することができるが、(B)成分の殺菌効果を有効に奏させるという観点から、当該口腔用組成物の総量当たり、(B)成分が総量(即ち、2種以上のカチオン系殺菌剤の合計量)で、0.0005〜1w/v%、好ましくは0.001〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.25w/v%の配合割合で含まれていることが望ましい。
【0028】
また、本発明の口腔用組成物において、(A)成分に対する(B)成分の比率については、前述する(A)成分及び(B)成分の配合割合を充足する範囲で適宜設定されるが、一例として、(A)成分1重量部(乾燥重量換算)当たり、(B)成分が0.00002〜1000重量部、好ましくは0.00002〜50重量部、更に好ましくは0.001〜5重量部が挙げられる。
【0029】
(C)アルコール系溶剤
本発明の口腔用組成物は、炭素数2−3の低級アルコール及び多価アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール系溶剤(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有する。アルコール系溶剤の中でも、上記成分を選択することにより、(B)成分の安定化を図り、ひいては(B)成分に基づく殺菌効果を有効に奏させることが可能になる。
【0030】
上記(C)成分として使用される炭素数2−3の低級アルコールとしては、具体的には、エタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノールが例示される。また、上記(C)成分として使用される多価アルコールとしては、具体的には、グリセリン、モノプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、重量平均分子量が50〜2000(好ましくは100〜1000、更に好ましくは200〜600)のポリエチレングリコール等が例示される。これらの中でも、(B)成分をより一層安定化させるという観点から、好ましくはエタノール、イソプロパノール、グリセリン、モノプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、及び重量平均分子量が200〜600のポリエチレングリコールが挙げられる。
【0031】
これらのアルコール系溶剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
また、(C)成分として、2種以上のアルコール系溶剤を使用する場合、その組合せ態様については、特に制限されないが、(B)成分の安定化を一層向上させるという観点から、少なくとも1種の炭素数2−3の低級アルコールと少なくとも1種の多価アルコールとの組合せ;好ましくはエタノールと、プロピレングリコール及び1,3-ブチレングリコールの少なくとも1種との組合せが例示される。(C)成分として、炭素数2−3の低級アルコールと多価アルコールを組み合わせて使用する場合、その混合比については特に制限されないが、一例として、炭素数2−3の低級アルコールの総量100重量部当たり、多価アルコールが総量で10〜1000重量部、好ましくは20〜500重量部、更に好ましくは50〜200重量部が例示される。
【0033】
本発明の口腔用組成物は、(A)成分及び(C)成分が、(A)成分1g(乾燥重量換算)当たり、(C)成分が30ml以上となる比率を満たすものである。このような比率で(C)成分を配合することによって、(A)成分の存在下でも(B)成分の安定化が図られ、(B)成分に基づく殺菌効果を有効に奏させることが可能になる。本発明の口腔用組成物において、(B)成分の殺菌効果を一層有効に発現させるという観点から、(A)成分1g(乾燥重量換算)当たり、(C)成分が好ましくは30〜8000ml、更に好ましくは40〜2000mlが挙げられる。
【0034】
また、本発明の口腔用組成物において、(C)成分の配合割合については、前述する(A)成分の配合割合、(A)成分に対する(C)成分の比率を充足する範囲で適宜設定されるが、一例として、当該口腔用組成物の総量当たり、0.02〜99v/v%、好ましくは0.3〜80v/v%、更に好ましくは2〜60v/v%が挙げられる。
【0035】
その他の配合成分
本発明の口腔用組成物には、(A)〜(C)成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の抗菌剤や他のGTase阻害物質を組み合わせて配合してもよい。このような抗菌剤やGTase阻害物質を併用することによって、(A)成分に基づく抗う蝕効果や歯垢形成阻害効果或いは(B)成分に基づく殺菌効果を相加的若しくは相乗的に増強することもできる。このような抗菌剤としては、例えば、ソルビン酸、ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、ヨウ化カリウム等が挙げられる。また、他のGTase阻害物質としては、例えば、ブドウ科ブドウ属(Vitis)植物の抽出物、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫、タステイン、タンニン類、エラグ酸、ポリフェノール、ウーロン茶抽出物、緑茶抽出物、センブリ、タイソウ、ウイキョウ、芍薬、ゲンチアナ、センソ、龍胆、黄連等が挙げられる。
【0036】
また、本発明の口腔用組成物は、上記成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、口腔用組成物に通常使用されている成分を配合することもできる。このような成分としては、例えば、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、発泡剤、香料、矯味剤、甘味剤、防腐剤、消炎剤、殺菌剤、他の抗菌剤、色素、増粘剤、緩衝剤、界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0037】
更に、本発明の口腔用組成物は、その製剤形態に応じて、薬学的に許容される担体を含むことができる。例えば、本発明の口腔用組成物の剤型を液状にする場合であれば、精製水、イオン交換水、超純水、水道水等の水を担体として使用すればよい。
【0038】
口腔用組成物の製造方法
本発明の口腔用組成物は、(A)〜(C)成分の所定量、及び必要に応じて他の成分の所定量を混合することにより製造することができる。本発明の口腔用組成物の製造において、各配合成分の混合順番については特に制限されるものではないが、口腔用組成物の調製時に(A)成分と(B)成分の安定化を図るために、(C)成分の存在下で(A)成分と(B)成分を混合することが望ましい。
【0039】
口腔用組成物の用途、形態
本発明の口腔用組成物は、口腔内に適用されることにより、(A)成分のGTase阻害作用に基づく歯垢形成阻害効果、及び(B)成分に基づく殺菌効果を有効に奏させることができるので、う蝕、口臭、歯周病、歯槽膿漏等の口腔内疾患や症状の予防の目的で使用することができる。とりわけ、本発明の口腔用組成物は、抗う蝕効果に優れており、う蝕予防の目的での使用に好適である。
【0040】
また、本発明の口腔用組成物は、液体歯磨剤、練歯磨剤、潤製歯磨剤、口中清涼剤(マウススプレー等)、口腔用パスタ剤、洗口剤(マウスウオッシュ)、マウスリンス、うがい剤、歯肉マッサージクリーム等の形態の口腔用剤として提供される。これらの中でも、好ましくは、液体歯磨剤、口中清涼剤、洗口剤、マウスリンス、うがい剤等の液状の口腔用剤が挙げられ、更に好ましくは、液体歯磨剤及び洗口剤が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
試験例1
マツヨイグサ抽出物と2種のカチオン系殺菌剤を配合する口腔用組成物において、使用する溶剤の種類及び濃度が当該カチオン系殺菌剤の安定性に如何なる影響を及ぼすかについて、以下の試験を行った。先ず、表1に記載の処方で口腔用組成物を調製した。具体的には、表2に示す溶剤と水を混合した後に、マツヨイグサ抽出物を添加して、最後にカチオン系殺菌剤を混合することにより、口腔用組成物を調製した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
得られた各口腔用組成物について、カチオン系殺菌剤の濃度をHPLCにより測定した。HPLCの測定条件は、次の通りである。
標準溶液:カチオン系殺菌剤を、各口腔用組成物に配合した濃度と同じになるように水で段階的に希釈した水溶液
サンプルの前処理:遠心分離及びフィルター濾過により不溶性成分の除去を行った。
インジェクト量:10μl
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に、粒径5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:アセトニトリルと0.3mol/lの塩化アンモニウム混液(容量比3:2)
流速:1.6ml/分
検出条件:紫外吸光光度計を使用した(測定波長:塩化セチルピリジニウム:258nm、塩化ベンザルコニウム:210nm、塩化ベンゼトニウム:210nm)。
【0045】
配合したカチオン系殺菌剤の濃度を100として、実際に上記HPLCの測定により測定されたカチオン系殺菌剤の濃度の割合を回収率(%)として算出した。結果を図1(塩化セチルピリジニウムの測定結果)及び2(塩化ベンザルコニウムの測定結果)に示す。この結果、溶剤として、炭素数2−3の低級アルコール又は多価アルコールを使用し、且つマツヨイグサ抽出物1g当たり、当該溶剤を30ml以上の比率に設定した場合において、当該カチオン系殺菌剤の殺菌効果を有効に奏させ得る程度に、口腔用組成物中にカチオン系殺菌剤が安定に存在していることが確認された。これに対して、炭素数2−3の低級アルコール及び多価アルコール以外の溶剤を使用した場合、並びに炭素数2−3の低級アルコール又は多価アルコールを使用し、且つマツヨイグサ抽出物1g当たり、当該溶剤を10mlに設定した場合では、口腔用組成物からカチオン系殺菌剤が安定に存在しておらず、当該殺菌剤に基づく殺菌効果を十分に享受し得ないことが明らかとなった。特に、炭素数2−3の低級アルコール及び多価アルコール以外の溶剤を使用した場合では、いずれの溶剤濃度であっても、口腔用組成物中からカチオン系殺菌剤を全く検出できなかった。
【0046】
試験例2
マツヨイグサ抽出物と2種のカチオン系殺菌剤を配合する口腔用組成物において、使用する溶剤の組合せが当該カチオン系殺菌剤の安定性に如何なる影響を及ぼすかについて、以下の試験を行った。先ず、表3及び4に記載の処方で口腔用組成物を調製した。具体的には、アルコール系溶剤と水を混合した後に、マツヨイグサ抽出物を添加して、最後にカチオン系殺菌剤を混合することにより、口腔用組成物を調製した。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
得られた各口腔用組成物について、カチオン系殺菌剤の濃度を試験例1と同様にしてHPLCにより測定した。配合したカチオン系殺菌剤の濃度を100として、実際に測定されたカチオン系殺菌剤の濃度の割合を回収率(%)として算出した。結果を図3(塩化セチルピリジニウムの測定結果)及び4(塩化ベンザルコニウムの測定結果)に示す。この結果も、上記試験例1と同様に、エタノール、モノプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールを2種以上組み合わせ、且つマツヨイグサ抽出物1g当たり、当該溶剤の合計量が30ml以上の比率に設定した場合において、口腔用組成物中にカチオン系殺菌剤が安定に存在していることが確認された。特に、エタノールと、モノプロピレングリコール又は1,3-ブチレングリコールとを組み合わせた場合には、カチオン系殺菌剤がより高い割合で検出された。以上の結果から、溶剤として、炭素数2−3の低級アルコールと多価アルコールとを組み合わせて使用することが、カチオン系殺菌剤の殺菌効果を更に向上させる上で有効であることが明らかとなった。
【0050】
試験例3
マツヨイグサ抽出物と2種のカチオン系殺菌剤を配合する口腔用組成物において、使用するカチオン系殺菌剤の組合せが当該カチオン系殺菌剤の安定性に如何なる影響を及ぼすかについて、以下の試験を行った。先ず、表5に記載の処方で口腔用組成物を調製した。具体的には、アルコール系溶剤と水を混合した後に、マツヨイグサ抽出物を添加して、最後にカチオン系殺菌剤を混合することにより、口腔用組成物を調製した。
【0051】
得られた各口腔用組成物について、カチオン系殺菌剤の濃度を試験例1と同様にしてHPLCにより測定した。配合したカチオン系殺菌剤の濃度を100として、実際に測定されたカチオン系殺菌剤の濃度の割合を回収率(%)として算出した。結果を表5に併せて示す。この結果からも、2種のカチオン系殺菌剤の内の1つとして塩化ベンゼトニウムを使用しても、上記試験例1−2と同様に、口腔用組成物中に、カチオン系殺菌剤を安定に存在させ得ることが確認された。とりわけ、実施処方1及び2は、実施処方3に比して、2種のカチオン系殺菌剤の回収率が顕著に高い値を示したことから、2種以上のカチオン系殺菌剤として、第4級アンモニウム塩系殺菌剤とピリジニウム塩系殺菌剤とを併用すると、口腔用組成物中で、これらのカチオン系殺菌剤をより一層安定化できることも明らかとなった。
【0052】
【表5】

【0053】
比較試験例1
マツヨイグサ抽出物とカチオン系殺菌剤を配合する口腔用組成物において、1種のカチオン系殺菌剤を使用した場合に、当該カチオン系殺菌剤の安定性に如何なる影響を及ぼすかについて、以下の試験を行った。先ず、表6に記載の処方で口腔用組成物を調製した。具体的には、上記表2に示す溶剤と水を混合した後に、マツヨイグサ抽出物を添加して、最後に塩化セチルピリジニウムを混合することにより、口腔用組成物を調製した。
【0054】
【表6】

【0055】
得られた各口腔用組成物について、塩化セチルピリジニウムの濃度を試験例1と同様にしてHPLCにより測定した。配合した塩化セチルピリジニウムの濃度を100として、実際に測定された塩化セチルピリジニウムの濃度の割合を回収率(%)として算出した。得られた結果を図5に示す。図5から明らかなように、カチオン系殺菌剤として塩化セチルピリジニウムを単独で使用した場合には、いずれの溶媒の如何なる濃度でも、カチオン系殺菌剤を安定に存在させることができなかった。以上の結果から、上記試験例1−3で示されている、カチオン系殺菌剤を口腔用組成物における安定化効果は、2種以上のカチオン系殺菌剤を使用した場合に獲得される特有の効果であることが明らかとなった。
【0056】
試験例4
上記処方D(溶剤がイソプロパノール;塩化セチルピリジニウムの回収率100%、塩化ベンザルコニウムの回収率100%)と上記比較処方1(塩化セチルピリジニウムの回収率0%、塩化ベンザルコニウの回収率0%)の口腔用組成物について、以下の殺菌効果の評価を行った。先ず、ブレインハートインフージョン(BHI)液体培地9mlに、試験サンプル(口腔用組成物)1mlを加えた培地(10倍希釈液)を作製した。次いで、10倍希釈液を等量のBHI液体培地と混合して20倍希釈液を作製した。同様の手順で2段階希釈系列(10、20、40、80、160、320、640、1280倍)を作成し、48穴マイクロプレートの各ウェルに0.5mlずつ添加した。BHI液体培地で一晩培養したストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)菌MT8148株の懸濁液をプレートの各ウェルに10μlずつ添加し、37℃で24時間静置培養した後、菌の生育の有無を確認した。なお、コントロールとして、塩化セチルピリジニウム0.05w/v%及び塩化ベンザルコニウム0.01w/v%を含む水溶液についても、上記と殺菌効果の評価を行った。
【0057】
結果を表7に示す。表7に示すように、カチオン系殺菌剤の回収率が100%の口腔用組成物は、コントロールと同等の殺菌効果を示したのに対して、カチオン系殺菌剤の回収率0%の口腔用組成物は、殺菌効果が奏されていなかった。即ち、以上の結果から、上記試験例1−3及び比較試験例1において、評価したカチオン系殺菌剤の回収率は、口腔用組成物が奏する殺菌効果と相関関係があることが確認された。
【0058】
【表7】

【0059】
試験例5
マツヨイグサ抽出物として、月見草エキス-WSPS(オリザ油化株式会社製)、月見草エキス-PH(オリザ油化株式会社製)、月見草エキス-WSPH(オリザ油化株式会社製)、月見草エキス-LC(オリザ油化株式会社製)、及びルナホワイトB(一丸ファルコス株式会社製)を用いて、上記試験例1−4と同様の試験を実施したところ、上記試験例1−4と同様の傾向の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アカバナ科マツヨイグサ属植物の抽出物、(B)少なくとも2種のカチオン系殺菌剤、及び(C)炭素数2−3の低級アルコール及び多価アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種のアルコール系溶剤を含み、
上記(A)成分1g当たり、上記(C)成分が30ml以上の比率を満たすことを特徴とする、口腔用組成物。
【請求項2】
上記(B)成分として、第4級アンモニウム塩系殺菌剤及びピリジニウム塩系殺菌剤よりなる群から選択される少なくとも2種のカチオン系殺菌剤を含む、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
上記(B)成分として、少なくとも1種の第4級アンモニウム塩系殺菌剤と少なくとも1種のピリジニウム塩系殺菌剤を含む、請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
上記(C)成分として、少なくとも1種の炭素数2−3の低級アルコールと、少なくとも1種の多価アルコールを含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項5】
上記(B)成分として、塩化ベンザルコニウム及び塩化ベンゼトニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の第4級アンモニウム塩系殺菌剤と、塩化セチルピリジニウムを含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項6】
上記(A)成分の配合割合が0.01〜50w/v%以上である、請求項1乃至5のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項7】
上記(C)成分が、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、モノプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、及び重量平均分子量が200〜600のポリエチレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1乃至6のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項8】
上記(A)成分が、アカバナ科マツヨイグサ属植物の種子の抽出物である、請求項1乃至7のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項9】
洗口剤又は液体歯磨剤である、請求項1乃至8のいずれかに記載の口腔用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−235566(P2010−235566A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88228(P2009−88228)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】