説明

口腔用組成物

【課題】塩化セチルピリジニウムに対してグリチルリチン酸又はその塩を比較的多量に含有し、且つ唾液存在下で使用する場合であっても、塩化セチルピリジニウムが有する殺菌力の低下が抑制された口腔用組成物を提供すること。
【解決手段】(i)塩化セチルピリジニウム、(ii)グリチルリチン酸又はその塩、(iii)プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、及びエタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール、並びに(iv)l−メントールを含有し、
塩化セチルピリジニウムに対するグリチルリチン酸又はその塩の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が1以上である、口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン性殺菌剤である塩化セチルピリジニウムは、口腔内細菌に対する殺菌活性が高く、口腔粘膜や歯牙表面に吸着し、歯牙表面への口腔内細菌の吸着を阻害、歯垢の形成を抑制することが知られている。このため、従来から殺菌剤として口腔用組成物に配合されている。
【0003】
また、グリチルリチン酸は甘草の根に含まれる成分である。グリチルリチン酸又はその塩は、抗炎症作用を有することが知られている。また、甘味を呈する物質でもあり、味の改善にも有用であることが知られている。このため、従来から抗炎症剤(あるいは甘味剤)として口腔用組成物に配合されている。
【0004】
そして、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を含有する口腔用組成物も既に知られている(例えば特許文献1参照)。上述したように、塩化セチルピリジニウムは殺菌剤として、グリチルリチン酸又はその塩は抗炎症剤として、当該口腔用組成物に配合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−008831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を含有する口腔用組成物は公知である。また、口腔用組成物に限らず、化粧料(特に皮膚化粧料)や外用剤等においても、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸が配合されたものが知られている。このような各種組成物においては、塩化セチルピリジニウムは殺菌効果を、グリチルリチン酸又はその塩は抗炎症効果を、それぞれ奏する。
【0007】
本発明者らが、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を含有する組成物における殺菌効果をより詳細に検討したところ、塩化セチルピリジニウムに対してグリチルリチン酸又はその塩を比較的多量に配合した組成物(特に塩化セチルピリジニウムに対するグリチルリチン酸又はその塩の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が1以上の組成物)が唾液存在下で使用される場合に、顕著に、塩化セチルピリジニウムの口腔内細菌を殺菌する力が低下することを見出した。つまり、化粧料や外用剤は通常唾液存在下で使用されることはないため、たとえ塩化セチルピリジニウムに対してグリチルリチン酸又はその塩を比較的多量に配合したとしても、殺菌力の低下は起こらないが、口腔用組成物は口腔内に適用されるため通常唾液存在下で用いられることとなり、当該殺菌力低下が起こりえるという問題があることを見出した。
【0008】
そこで、本発明は、塩化セチルピリジニウムに対してグリチルリチン酸又はその塩を比較的多量に含有する場合でも、塩化セチルピリジニウムが有する殺菌力の低下が抑制された口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、驚くべき事に、(i)塩化セチルピリジニウム、(ii)グリチルリチン酸又はその塩に加え、(iii)プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、及びエタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール、並びに(iv)l−メントールを含有する組成物であれば、塩化セチルピリジニウムに対してグリチルリチン酸又はその塩を比較的多量に含有し、且つ唾液存在下で使用する場合であっても塩化セチルピリジニウムが有する殺菌力の低下が抑制されることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は例えば以下の項に記載の口腔用組成物を包含する。
項1.
(i)塩化セチルピリジニウム、(ii)グリチルリチン酸又はその塩、(iii)プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、及びエタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール、並びに(iv)l−メントールを含有し、
塩化セチルピリジニウムに対するグリチルリチン酸又はその塩の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が1以上である、口腔用組成物。
項2.
(i)を0.05〜0.5質量%、(ii)を0.05〜0.5質量%含有する、項1に記載の口腔用組成物。
項3.
(iii)を1〜30質量%、(iv)を0.01〜2質量%含有する、項1又は2に記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0011】
塩化セチルピリジニウムに対するグリチルリチン酸又はその塩の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が1以上であるように、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を含有する口腔用組成物を使用する場合には、塩化セチルピリジニウムが有する殺菌力(殺菌効果)の低下が起こるところ、本発明の、(i)塩化セチルピリジニウム、(ii)グリチルリチン酸又はその塩、(iii)プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、及びエタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール、並びに(iv)l−メントールを含有し、塩化セチルピリジニウムに対するグリチルリチン酸又はその塩の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が1以上である口腔用組成物であれば、塩化セチルピリジニウムが有する殺菌力(殺菌効果)の低下が抑制される(軽減される)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の口腔用組成物は、
(i)塩化セチルピリジニウム、
(ii)グリチルリチン酸又はその塩、
(iii)プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、及びエタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール、並びに
(iv)l−メントール
を含有する。そして、塩化セチルピリジニウムに対するグリチルリチン酸又はその塩の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が1以上である。
【0014】
塩化セチルピリジニウムは、第四級アンモニウム化合物に含まれるカチオン性殺菌剤であり、口腔用組成物分野において口腔内細菌を殺菌する目的で広く使用されている公知の物質である。本発明の口腔用組成物における塩化セチルピリジニウムの含有量は、好ましくは0.05〜0.5質量%、より好ましくは0.05〜0.3質量%、さらに好ましくは0.1〜0.3質量%である。
【0015】
なお、口腔内細菌は歯周病やう蝕の原因となることが知られており、Porphyromonas gingivalis、Tannerela forsythia、 Streptococcus mutans等が例示できる。
【0016】
グリチルリチン酸は甘草の根に含まれる有効成分であり、抗炎症作用を有することが知られている。また、グリチルリチン酸の塩も、抗炎症作用を有することが知られている。本発明の口腔用組成物に含有されるグリチルリチン酸の塩としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えばカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。具体的には、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸ジナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム等が挙げられる。中でもグリチルリチン酸ジカリウムが好ましい。本発明の口腔用組成物におけるグリチルリチン酸又はその塩の含有量は、好ましくは0.05〜0.5質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%、さらに好ましくは0.3〜0.5質量%である。
【0017】
本発明の口腔用組成物に含有されるアルコールは、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、及びエタノールからなる群より選択される少なくとも1種である。つまり、これら3種のアルコールを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。組み合わせる場合のこれら3種アルコールの割合は、適宜設定することができる。中でも好ましいのはプロピレングリコールである。当該3種のアルコールを組み合わせて用いる場合は、特に制限されないが、プロピレングリコールがアルコールの主成分(アルコール全体の50%以上)であることが好ましい。プロピレングリコールを単独で用いるのが特に好ましい。
【0018】
本発明の口腔用組成物における当該アルコールの含有量は、特に制限はされないが、上記3種のアルコール合計の含有量が、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜25質量%、さらに好ましくは4〜20質量%、よりさらに好ましくは5〜20質量%である。
【0019】
本発明の口腔用組成物には、さらにl−メントールが含有される。本発明に用いるl−メントールとしては、例えば、合成されたl−メントールや天然物から抽出されたl−メントールを用いることができる、また、l−メントールを含有するペパーミント油、スペアミント油、ハッカ油等の天然精油やl−メントールを含む混合香料等を用いることもできる。
【0020】
本発明の口腔用組成物におけるl−メントールの含有量は、好ましくは0.01〜2質量%、より好ましくは0.01〜1質量%、さらに好ましくは0.02〜0.5質量%、よりさらに好ましくは0.03〜0.3質量%である。なお、l−メントールの含有量は、抽出物や天然精油を用いる場合には、当該抽出物や天然精油に含まれるl−メントールの含有量を意味する。
【0021】
口腔用組成物における(i)塩化セチルピリジニウムの含有量に対する(ii)グリチルリチン酸又はその塩の含有量が多いほど、当該殺菌力低下は顕著になる。言い換えれば、塩化セチルピリジニウム量に対するグリチルリチン酸又はその塩量の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が大きいほど、殺菌力低下が顕著になる。よって、当該質量比が大きい口腔用組成物ほど、上記(iii)及び(iv)成分による当該殺菌力低下の抑制効果が好ましく発揮される。本発明の口腔用組成物における当該質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)は1以上であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。
【0022】
本発明の口腔用組成物は、常法により製造することができ、例えば医薬品、医薬部外品として用いることができる。特に医薬品が好ましい。また、本発明の口腔用組成物の形態は、特に限定するものではないが、常法に従って例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、軟膏剤、ペースト剤、液剤、スプレー剤、ジェル剤であることが好ましい。
【0023】
本発明の口腔用組成物は、上述のように、グリチルリチン酸又はその塩による塩化セチルピリジニウムの殺菌力低下が抑制されている。さらに、グリチルリチン酸又はその塩は抗炎症作用を有している。よって、本発明の口腔用組成物は口腔用の抗炎症剤や殺菌剤等として、口腔ケアに好適に用いることができる。特に、歯槽膿漏薬等の歯科口腔用薬として、歯周病、歯周炎、及び/又は歯肉炎に伴う諸症状の緩和に好ましく用いることができる。当該諸症状としては、例えば歯肉の出血、発赤、はれ、うみ、痛み、むずかゆさ、あるいは口のねばり、口臭等が挙げられる。また、口内炎の治療及び/又は緩和にも好ましく用いることができる。
【0024】
本発明の口腔用組成物には、上記(i)〜(iv)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、口腔用組成物に配合し得る任意成分を、単独で又は2種以上組み合わせて、さらに含有してもよい。
【0025】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシエチレン付加係数が8〜10、アルキル基の炭素数が13〜15であるポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン付加係数が10〜18、アルキル基の炭素数が9であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N−ココイル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤;N−ラウリルジアミノエチルグリシン等のアミノ酸型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1〜5質量%である。
【0026】
また、香味剤として、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネール、α−テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d−カンフル、d−ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して0.001〜1.5質量%配合することができる。
【0027】
また、サッカリンナトリウム、アセスルファムカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p−メトキシシンナミックアルデヒド等の甘味剤を、組成物全量に対して0.01〜1質量%配合することができる。
【0028】
さらに、湿潤剤として、ソルビット、グリセリン、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0029】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。
【0030】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。
【0031】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。これらは、組成物のpHが4〜8、好ましくは5〜7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の通常配合量は0.01〜2重量%である。
【0032】
なお、本発明の口腔用組成物には、さらに、薬効成分として、酢酸dl−α−トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、アラントイン、カルバゾクロム、ヒノキチオール、硝酸カリウム、パラチニット等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0033】
また、基剤として、アルコール類、シリコン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プラスチベース等を添加することも可能である。
【0034】
上述のとおり、上記(iii)及び(iv)成分を組み合わせて用いることにより、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を含有し、塩化セチルピリジニウムに対するグリチルリチン酸又はその塩の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が1以上(好ましくは1〜10)である口腔用組成物において起こる、グリチルリチン酸又はその塩による塩化セチルピリジニウムの殺菌力の低下を抑制することができる。よって、本発明は、上記(iii)及び(iv)成分を含んでなる、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を含有する組成物用の殺菌力低下抑制剤をも包含する。当該剤は、上記(iii)及び(iv)成分のみからなるものであってもよいし、例えば上記例示の任意成分と上記(iii)及び(iv)成分が適宜組み合わされたものであってもよい。(iii)及び(iv)成分の組み合わせ割合は、適宜設定することができるが、(iii)成分1〜30質量部(好ましくは2〜25質量部、より好ましくは4〜20質量部)に対して、(iv)成分0.01〜2質量部が好ましく、0.01〜1質量部がより好ましく、0.02〜0.5質量部がさらに好ましく、0.03〜0.3質量部がよりさらに好ましい。また、例えば、当該剤の0.1〜100質量%が上記(iii)及び(iv)成分であり得る。なお、当該剤の製造は、例えば、各種成分を適当な方法により混合することで行い得る。一例として、(iii)成分に(iv)成分及び必要に応じて任意成分や水を加え、混合する方法が挙げられる。
【0035】
さらに、本発明は、(iii)及び(iv)成分により、唾液存在下でグリチルリチン酸又はその塩が塩化セチルピリジニウムの殺菌力を低下させるのを抑制する方法も包含する。この場合においても、(iii)及び(iv)、並びに(ii)グリチルリチン酸又はその塩及び(i)塩化セチルピリジニウムの使用量は上述の条件であることが好ましい。
【0036】
当該方法の中でも、塩化セチルピリジニウムに対してグリチルリチン酸又はその塩を比較的多量(特に塩化セチルピリジニウムに対するグリチルリチン酸又はその塩の質量比が1以上)に含有する組成物に、上記(iii)及び(iv)成分を加える工程を含む、塩化セチルピリジニウムの殺菌力低下を抑制する方法は好ましい。当該方法においては、(iii)及び(iv)成分は予め混合された上で、(iii)と(iv)を含む混合物として加えられる。
【0037】
またさらに、本発明は、(i)〜(iv)成分を含有し、(i)塩化セチルピリジニウムに対する(ii)グリチルリチン酸又はその塩の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が1以上である、組成物を製造する方法も包含する。当該方法は、(i)〜(iv)を混合する工程を含む。混合される(i)及び(ii)成分の量は、(i)に対する(ii)の質量の比が1以上である。(i)〜(iv)を混合する順序は、(iii)及び(iv)成分を予め混合してから用いる点以外は、特に制限されない。つまり、当該方法では、(iii)と(iv)を予め混合し、“(iii)と(iv)を含む混合物”として、これを(i)及び(ii)と混合する工程を含む。例えば、(i)及び(ii)を混合し、これにさらに“(iii)と(iv)を含む混合物”を混合してもよく、(i)及び“(iii)と(iv)を含む混合物”を混合し、これにさらに(ii)を混合してもよく、(ii)及び“(iii)と(iv)の混合物”を混合し、これにさらに(i)を混合してもよい。中でも、(i)及び(ii)を含む組成物と、上述の殺菌力低下抑制剤(好ましくは(iii)と(iv)との混合物)とを混合する工程を含むのがより好ましい。これらの方法においては、得られる組成物に含有される(i)〜(iv)成分が、上述した含有量及び質量比等の各種条件を満たすことが好ましい。
【0038】
なお、ここでの組成物は、口腔(内)に適用される限り特に制限はされないが、口腔用組成物が好ましい。また、当該組成物には、例えば上記例示の任意成分が含まれ得る。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。また、以下「CPC」は塩化セチルピリジニウムを、「GK2」はグリチルリチン酸ジカリウムを、それぞれ示す。なお、以下特に断りのない限り「%」は「質量%」を示す。
<CPCを含有する組成物の殺菌力の検討>
表1〜表5に記載の組成に従って、CPC、GK2、各種アルコール(プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エタノール、グリセリン、ソルビット)、及びl−メントールを精製水に溶解させ、各種溶液組成物(各実施例、各比較例、及び各参考例:表1〜表5参照)を調製した。表1〜表5の数値は、CPC、GK2、各種アルコール、及びl−メントールが、それぞれ当該溶液組成物中に含有される量(質量%)を示す。また、表4及び表5には、GK2とCPCの質量比(GK2/CPC)の値も併せて示す。表中、各成分量が空欄である場合は、その成分は含まれないことを示す。なお、表1〜表3に記載の各例のGK2とCPCの質量比(GK2/CPC)は、いずれも2である。
【0040】
なお、実施例1−1、実施例2−4、実施例3−3は、いずれも同じ組成物である。
〔試験方法〕
菌液の調製
健常人4名より無刺激唾液を採取し、等量ずつ混合し、均一に撹拌した。当該唾液混合溶液を、以下の検討で菌液(口腔内細菌含有液)として使用した。
試験方法
反応用プレート(96穴タイタープレート)の各ウェルに各溶液組成物を200μLずつ分注し、さらにそれぞれのウェルに菌液20μLを添加し、ピペッティングにより攪拌した。30秒後に各ウェルから溶液を20μLずつ採取し、培養用プレート(96穴タイタープレート)の各ウェル(TSB/Y/VH培地100μLが分注済み)に添加して混合した。菌液添加後から1、2、3、4、5、10、20分後についても同様の処理を行った。
【0041】
その後、48時間嫌気ボックス(Anaerobic System Model 1025:Forma Scientific社)内で静置して培養し、培地が混濁した場合(目視判断)、菌が発育したとし、培養用プレートに添加した溶液中の菌は滅菌されていないと判定した。当該判定を、30秒、及び1、2、3、4、5、10、20分後に反応用プレートから採取した各溶液について行い、初めて菌が発育しなかった(即ち培養後培地が混濁しなかった)時間を「殺菌に要した時間」とした。結果を表1〜表5にあわせて示す。20分後でも滅菌されていなかった場合は、表には「ND」と記した。また、30秒後に既に滅菌されていた場合は、表には「30秒以内」と記した。
【0042】
なお、TSB/Y/VH培地は、次に示す組成の各成分を蒸留水に溶解させ、オートクレーブして調製した。

【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
参考例A〜E(表5)から、CPCは優れた殺菌力を有しており、その殺菌力は濃度依存的に高まることがわかった。
【0049】
また、比較例A〜E及び参考例A〜E(表5)から、CPCに対してGK2を比較的多量((GK2/CPC)値が1以上)に含む場合、CPCの殺菌力はGK2により低下することがわかった。
【0050】
さらに、各実施例(表1〜表4)及び各比較例(表1〜表5)から、CPC及びGK2を含み、(GK2/CPC)値が1以上である組成物に、さらにプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、又はエタノール、並びにl−メントールを含有させることで、当該殺菌力の低下が抑制されることがわかった。特に、実施例1−1〜1−3、2−3〜2−5、3−2〜3−4、4−1〜4−4では、殺菌に要した時間が顕著に短くなっており(少なくとも3分以内)、特に好ましいことがわかった。
【0051】
以下に、処方例を記載する。処方例における各成分の数値は、質量%を示す。また、以下の処方例では、pH調整剤により、pHを5.5〜7.0に調整した。
【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

【0056】
【表10】

【0057】
【表11】

【0058】
【表12】

【0059】
【表13】

【0060】
【表14】

【0061】
【表15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)塩化セチルピリジニウム、(ii)グリチルリチン酸又はその塩、(iii)プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、及びエタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール、並びに(iv)l−メントールを含有し、
塩化セチルピリジニウムに対するグリチルリチン酸又はその塩の質量比(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)が1以上である、口腔用組成物。
【請求項2】
(i)を0.05〜0.5質量%、(ii)を0.05〜0.5質量%含有する、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
(iii)を1〜30質量%、(iv)を0.01〜2質量%含有する、請求項1又は2に記載の口腔用組成物。

【公開番号】特開2012−144480(P2012−144480A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4222(P2011−4222)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】