説明

可変動弁機構

【課題】機構の大型化を抑えつつ、吸気弁又は排気弁それぞれを、独立して制御できるようにし、かつ、弁閉弁時の衝撃等を緩和する。
【解決手段】可変動弁機構は、カムの作用力をバルブに伝達するとともに、当該バルブの開弁特性を変更する可変動弁機構であり、カムシャフトと、カムシャフトを中心軸として回転可能に配置されたカムピースと、バルブを閉弁方向に付勢するバルブスプリングとを備える。更に、可変動弁機構は、カムピースとカムシャフトの当接面に配置された磁気粘性流体と、通電により磁気粘性流体に磁力を付す電磁石とを備える。この可変動弁機構では、電磁石への通電を制御することで磁気粘性流体に付される磁力が制御され、カムシャフトとカムピースとの間のせん断応力が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可変動弁機構に関する。具体的には、内燃機関の各気筒のバルブに、カムの作用力を伝達するとともに、バルブの開弁特性を変更することができる可変動弁機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、吸気弁として電磁駆動弁を用いたものが開示されている。具体的に、この電磁駆動弁は、一対の電磁石であるアッパコアとロアコアと、一対の電磁石の間に配置されたディスクと、駆動弁とを備えている。この電磁駆動弁において、ディスクはアッパコア又はロアコアによる電磁力と、付勢力とにより揺動する。駆動弁は、ディスクの揺動に連動して開閉する。
【0003】
例えば、ロアコアに備えられたロアコイルに通電すると、ディスクをロアコア側に移動させる電磁力が発生する。このときディスクはロアコアの電磁力と付勢力とによって、ロアコア側に移動する。駆動弁は、ディスクの移動に伴い開弁状態となる方向に移動する。ディスクはロアコアに当接したところで停止し、駆動弁の開弁状態への移行が完了する。
【0004】
一方、アッパコアのアッパコイルに通電すると、ディスクをアッパコア側に移動させる電磁力が発生する。この電磁力が付勢力より大きくなると、ディスクはアッパコア側に移動する。ディスクがアッパコアに当接すると、駆動弁の閉弁状態への移行が完了する。このように特許文献1の電磁駆動弁は、アッパコア又はロアコアに通電することでディスクを揺動させ、駆動弁の開閉を行うことができる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−121462号公報
【特許文献2】特開2006−132480号公報
【特許文献3】特開平5−149116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の電磁駆動弁によれば、アッパコアとロアコアとの一対の電磁石への通電を制御することで、各吸気弁の開閉を独立して制御することができる。しかし、吸気弁それぞれに対し一対の電磁石等を要する。従って、その機構が複雑かつ大きくなりやすい。
【0007】
また、例えば油圧ピストンで直接バルブを開閉する油圧駆動弁も知られている。しかし、このような油圧駆動弁の機構も、一般に複雑かつ大きくなりやすい。また、油圧駆動弁の場合、油圧ピストンの動きをロストモーションとすると、リフトカーブの閉じ側が急勾配となる。このとき吸気弁は、バルブスプリングの反力に従って移動するため、吸気弁の速度や加速度が大きくなる。従って閉弁時の衝撃力や衝撃音が大きくなりやすい。
【0008】
従って、この発明は、上記課題を解決することを目的とし、機構の大型化を抑えつつ、吸気弁又は排気弁それぞれを、独立して制御できるようにし、かつ、弁閉弁時の衝撃等を緩和するように改良した可変動弁機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、この発明の可変動弁機構は、カムの作用力をバルブに伝達するとともに、当該バルブの開弁特性を変更する可変動弁機構であって、カムシャフトと、前記カムシャフトを中心軸として回転可能に配置されたカムピースと、前記バルブを閉弁方向に付勢するバルブスプリングとを備える。カムピースとカムシャフトの当接面には、磁気粘性流体が配置される。可変動弁機構は、通電により磁気粘性流体に磁力を付す電磁石と、電磁石への通電を制御して磁気粘性流体に付される磁力を制御する制御手段とを備える。
【0010】
この発明において、磁気粘性流体に磁力が付されることにより、カムピースとカムシャフトとの間に、当該磁力に応じたせん断応力、すなわち、カムシャフトのトルクをカムピースに伝達する伝達力が生じる。
【0011】
この発明の可変動弁機構においては、電磁石への通電を制御することにより、せん断応力が制御され、これにより、バルブの開弁特性を制御することができる。制御手段により、電磁石への通電の制御には、例えば、電磁石へ付与される電流の大きさの制御などが含まれる。
【0012】
そして、この発明の可変動弁機構の制御手段は、例えば、バルブの位相を変化させる場合、バルブのリフト開始までの間、せん断応力が、バルブスプリングによる前記カムピースに対する反力よりも小さくなるように、電磁石への通電を制御し、その後、バルブのリフト開始タイミングにおいて、せん断応力が、反力よりも大きくなるように、電磁石への通電を制御する。
【0013】
また、この発明の可変動弁機構の制御手段は、例えば、バルブの作用角を変化させる場合、バルブのリフト開始の際に、せん断応力が、バルブスプリングによるカムピースに対する反力よりも大きくなるように、電磁石への通電を制御し、その後、バルブのリフト中の閉弁開始の所定のタイミングで、せん断応力が反力よりも小さくなるように、電磁石への通電を制御する。
【0014】
また、この発明の可変動弁機構の制御手段は、例えば、バルブの作用角を変化させる場合、バルブのリフト開始の際に、せん断応力が、バルブスプリングによるカムピースに対する反力よりも大きくなるように、電磁石への通電を制御する。次に、バルブのリフト中の所定のタイミングにおいて、せん断応力が、反力と同じ大きさとなるように、電磁石への通電を制御する。その後、バルブの閉弁開始の所定のタイミングにおいて、せん断応力が反力よりも小さくなるように、電磁石への通電を制御する。
【0015】
また、この発明の可変動弁機構の制御手段は、例えば、作用角を変化させる場合の制御において、せん断応力が反力より小さくなるように電磁石への通電を制御した後、バルブの閉弁直前のタイミングで、せん断応力が反力より大きくなるように、電磁石への通電を制御するものであってもよい。
【0016】
また、この発明の可変動弁機構の制御手段は、例えば、バルブを停止状態で維持する場合に、せん断応力がバルブスプリングによるカムピースに対する反力よりも小さくなるように、電磁石への通電を制御する。
【0017】
また、この発明の可変動弁機構の制御手段は、例えば、バルブを停止状態で維持する場合の制御において、バルブ停止後、バルブ復帰の指示が出された場合、せん断応力が、電磁石への通電時間に比例して大きくなるように、電磁石への通電を制御するものであってもよい。
【0018】
また、この発明の可変動弁機構の制御手段は、例えば、バルブを停止状態で維持する制御において、バルブ停止中に、前記反力よりも小さいせん断応力が生じるように、電磁石への通電を制御し、バルブ復帰の指示が出された後、せん断応力が、反力よりも大きくなるように、電磁石への通電を制御するものであってもよい。
【0019】
また、この発明の可変動弁機構の制御手段は、例えば、バルブを開放状態で維持する場合に、せん断応力が、バルブスプリングによるカムピースに対する反力と同じ大きさとなるように、電磁石への通電を制御する。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、カムシャフトとカムピースの間に配置された磁気粘性流体の粘度を、電磁石への通電の制御により制御することができる。これにより、カムピースとカムシャフト間のトルク伝達力の大きさを変化させることができる。したがって、コンパクトな機構で、バルブの開弁特性を制御することができる。
【0021】
また、例えば、作用角を変化させた場合に、バルブの閉弁直前のタイミングで、せん断応力がバルブスプリングの反力より大きくなるように制御することで、バルブ閉弁直前に、カムピースとカムシャフトとが連結して回転することとなる。したがって、バルブ閉弁時のバルブの速度、加速度を、通常のカムプロフィールにより速度、加速度に一致させることができる。これにより、バルブ閉弁時の衝撃を抑え、従来のバルブの疲労強度を保障することができる。
【0022】
また、バルブを停止状態とした後、バルブ復帰の指示が出された場合、せん断応力が電磁石への通電時間に比例して大きくなるようにすることで、カムシャフトとカムピースとの連結時の速度差による衝撃を緩和することができる。
【0023】
また、バルブ停止状態とした後、予め、反力よりも小さいせん断応力を生じさせ、その後、バルブ復帰の指示が出された後で、せん断応力が反力よりも大きくなるように制御するものについては、バルブ停止状態から復帰までにかかる応答時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1の可変動弁機構の構成を説明するための模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1の可変動弁機構の構成を説明するための模式図である。
【図3】この発明の実施の形態1における可変動弁機構によるバルブの開閉状態について説明するための図である。
【図4】この発明の実施の形態1における可変動弁機構によるバルブの開閉状態について説明するための図である。
【図5】この発明の実施の形態1における可変動弁機構の通電開始からのMRGトルクの変化について説明するための図である。
【図6】この発明の実施の形態2におけるバルブの開閉状態について説明するための図である。
【図7】この発明の実施の形態3におけるバルブの開閉状態について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0026】
実施の形態1.
[実施の形態のシステムの全体構成]
図1及び図2は、本発明の実施の形態1の可変動弁機構及びその周辺機器の構成を説明するための模式図である。図1の可変動弁機構10は内燃機関に設置され、内燃機関の各気筒の吸気弁又は排気弁(以下、単に「バルブ」と称する)にカムの作用力を伝達すると共に、バルブの開弁特性を制御するものである。
【0027】
図1に示すように、可変動弁機構10は、中空のカムシャフト12を備えている。カムシャフト12は、タイミングチェーン(又はタイミングベルト)によってクランクシャフト(図示せず)に連結され、クランクシャフトと同期して回転する。
【0028】
カムシャフト12には、カムピース14がカムシャフトを中心に回転可能に取り付けられている。カムピース14は、各気筒のバルブそれぞれに対応して設けられるカム16を有している。カムピース14と、カムシャフト12との当接面には、磁気粘性流体であるMRG(磁気粘性グリース)18が充填されている。
【0029】
カムシャフト12の内部には、電磁石20が設置されている。電磁石20には、図示しない電源から通電できる構成となっている。電磁石20に付与される電流値は、図示しない制御装置により制御される。電磁石20への通電により磁界が生じ、MRG18に磁力がかけられる。MRG18はその磁力に応じてその粘度を変化させる特性を有している。
【0030】
図2を参照して、カムピース14の各カム16は、カムシャフト12の軸心を中心とするベース円部16aと、そのベース円部の一部をベース円の外側に膨らませるように形成されたカムノーズ16bとを有する。各カム16に当接するように、ロッカーアーム22が配置されている。
【0031】
ロッカーアーム22の一端にはバルブ24が配置されている。バルブ24にはバルブスプリング26が取り付けられている。バルブ24は、バルブスプリング26により、閉弁方向、即ちロッカーアーム22を押し返す方向に付勢されている。バルブ24は、各カム16の作用力とバルブスプリング26の付勢力により開閉される。
【0032】
ロッカーアーム22の、バルブ24設置部と反対側の端部には、ハイドロリックラッシュアジャスタ28(以下「HLA」)が設置されている。HLA28は、油圧を用いてバルブクリアランスを調整する機構である。
【0033】
[可変動弁機構の特徴的な動作]
実施の形態1の可変動弁機構において、カムピース14にはバルブスプリング26の反力によるトルクTsが生じる。以下、説明の簡略化のため、このバルブスプリング26の反力によるトルクTsを「スプリングトルクTs」とも称するものとする。スプリングトルクTsは、カム16のベース円部16aにおいて小さく、カム16のカムノーズ16bにおいて軸心からの距離(以下「径」とする)が大きくなるにつれて大きくなり、カムノーズ16bの径が最も大きくなる部分(以下、「カムノーズ先端部」とする)において最大となる。
【0034】
一方、電磁石20が通電されると磁界が生じ、MRG18にはその電力に応じた磁力がかかる。磁力に応じてMRG18の粘度が高くなる。そしてMRG18の粘度に応じて、カムピース14とカムシャフト12とを連結させるせん断応力が発生する。せん断応力の大きさによりカムピース14とカムシャフト12との連結力、即ち、カムシャフト12とカムピース14との間でのトルクの伝達力が変化する。以下、説明の簡略化のため、MRG18のせん断応力により伝達することできる許容トルクを「MRGトルクTm」とも称することとする。
【0035】
MRGトルクTmの大きさは、電磁石20に付与する電流値により制御される。MRGトルクTmが、スプリングトルクTs以上となると、カムシャフト12とカムピース14とは連結した状態となり、カムシャフト12のトルクがカムピース14に伝達され、その結果、カムピース14の作用力がバルブ24に伝達される。
【0036】
一方、MRGトルクTmがスプリングトルクTsより小さくなると、カムシャフト12とカムピース14とは非連結の状態となる。この場合、カムピース14は空転した状態となり、カム16の作用力は伝達されない状態となる。
【0037】
[バルブの開弁特性の制御について]
本実施の形態1における可変動弁機構10は、電磁石20に付与する電流値を制御することで、バルブ24の開弁特性を以下のように制御する。図3、図4は、本発明の実施の形態1におけるバルブの開弁特性について説明するための図である。図3、4において、横軸はカム角、縦軸はバルブ24のリフト量を表している。
【0038】
[通常の制御]
図3において破線(a)は、通常のバルブタイミングでバルブ24の開弁特性が制御された場合の例を表している。このような通常状態では、MRGトルクTm≧スプリングトルクTsとなるように、電磁石20への通電が制御される。この状態ではカムピース14とカムシャフト12とが一体となって回転する。
【0039】
このような状態では、カム16の作用力は、ロッカーアーム22を介してバルブ24に伝達される。即ち、カム16のベース円部16aに当接している間は、バルブ24はバルブスプリング26の付勢力により閉弁され、カムノーズ16bと接すると、カム16の作用力がバルブスプリング26の反力より大きくなりバルブ24は開弁し、そのリフト量はカムプロフィールに従って変化する。即ち、当接するカム16のカムノーズ16bの径(カムシャフト軸心からの距離)に応じて変化し、カムノーズ先端部で最大となり、再びベース円部16aに当接したところで閉弁する。
【0040】
[位相の制御]
図3の実線の曲線(A)は、通常のバルブタイミング(破線(a))に対し、バルブ24の位相を変化させた場合の例を表している。バルブ24の位相を曲線(A)のように制御して遅角する場合、バルブ24のリフト開始前、MGRトルクTm<スプリングトルクTsとなるように電磁石20に付与する電流値を制御する(あるいはOFFとする)。このとき、カムピース14はカムシャフト12とは非連結の状態となって空転し、バルブ24はバルブスプリング26の付勢力により閉弁した状態で維持される。
【0041】
次に、バルブ24のリフトを開始する時刻T1において、MGRトルクTm≧スプリングトルクTsとなるように電磁石20に付与する電流値が制御される。その結果、カムピース14はカムシャフト12と連結して回転し、カム16の作用力がバルブ24に伝達される。その後、MRGトルクTm≧スプリングトルクTsの状態が維持されることで、バルブ24の位相が遅角制御される。このように、電磁石20への通電タイミングを制御することで、バルブ24の位相を所望のタイミングに進角又は遅角することができる。
【0042】
[作用角の制御]
図3の実線の曲線(B)は、バルブ24の作用角を小作用角に制御した場合の例を表している。ここでは、リフト開始のタイミングで、MGRトルクTm≧スプリングトルクTsとなるように制御する。
【0043】
次に、小作用角に応じた所定の閉弁開始の時刻T2で、トルクTm<スプリングトルクTsとなるようにする。その結果、カムピース14はカムシャフト12と切り離されて空転する。バルブ24は、バルブスプリング26の付勢力により次第に押し戻され閉弁する。これにより所望の小作用角にバルブ24が制御される。
【0044】
図3の実線の曲線(C)は、バルブ24の作用角を大作用角に制御した場合の例を表している。まず小作用角とする場合と同様に、リフト開始のタイミングで、MRGトルクTm≧スプリングトルクTsとなるように制御する。
【0045】
次に、バルブリフト中の所定のリフト量の時刻T2で、一旦、MGRトルクTm=スプリングトルクTsとなるように制御する。これによりバルブ24は現在のリフト量のままで維持される。なお、時刻T2は、カムノーズ先端部に到達する前の時刻である。
【0046】
その後、閉弁を開始する時刻T3において、MRGトルクTm<スプリングトルクTsとなるようにする。その結果、カムピース14はカムシャフト12と切り離されて空転する。バルブ24は、バルブスプリング26の付勢力により次第に押し戻され閉弁する。これにより所望の大作用角にバルブ24が制御される。
【0047】
[バルブの開放]
図4の実線の曲線(D)は、バルブ24を所定のリフト量で開弁状態に制御した例を表している。この場合、まずMGRトルクTm>スプリングトルクTsとなるように電磁石20に付与する電流値が制御され、バルブ24のリフトが開始される。
【0048】
その後、バルブ24のリフト量が所望のリフト量となる時刻T4で、MGRトルクTm=スプリングトルクTsとなるように、電磁石20への電流値を制御する。MGRトルクTm=スプリングトルクTsとされている間、バルブ24は、この所望のリフト量で、開弁状態で維持される。なお、時刻T4は、カムノーズ先端部に到達する時刻より前の時刻である。
【0049】
[バルブの停止]
図4の実線の曲線(E)は、バルブ24を停止した状態を示す。バルブ24を停止とする場合は、バルブ24のリフト開始より前に、MGRトルクTm<スプリングトルクTsとなるように電磁石20に付与する電流値を制御するか、電流値をゼロに制御する。MRGトルクTm<スプリングトルクTsとされている間、カムピース14は空転するためカム16の作用力は伝達されず、バルブ24は閉弁状態で維持される。
【0050】
[バルブ停止からの復帰]
図5は、本発明の実施の形態1のバルブ24の制御において、バルブ24を停止状態から復帰させる場合の制御の例である。図5において、横軸は時間、縦軸はMGRトルクTmを表している。図5の例では、バルブ24の停止時に、電磁石20への通電をOFFとしている。
【0051】
この停止状態からバルブ24を復帰する場合、復帰指示が出されてから、実際にバルブ24が復帰されるまでの要求応答時間(内燃機関の1サイクル以内)の間で、MRGせん断応力をリニアに立ち上げる。つまり要求応答時間経過後の時刻T11において、MRGトルクTm≧スプリングトルクTsとなるように、要求応答時間の間、通電時間に比例して、電流値が増加するように制御する。これにより、カムピース14がカムシャフト12に連結する際の速度差によって生じる衝撃力を緩和させることができる。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態1では、カムシャフト12とカムピース14との間に充填したMRG18と電磁石20とを用いたシンプルかつコンパクトな機構で、バルブ24の制御を実現することができる。また、このシステムによれば、バルブ24の開弁特性、即ち、位相、作用角、バルブ開放、バルブの停止を、電磁石20に付与する電流を制御することで制御することができる。このような開弁特性の制御を組み合わせることで、所定の制御プログラムにしたがって、各バルブ24の開弁特性を自由に、かつ、高い応答性で制御することができる。
【0053】
なお、本実施の形態1の可変動弁機構10では、1の気筒に対して設置される1つのカムピース14のみを図示して説明した。しかし実際にはカムピース14は、気筒ごと又はバルブごとに対応して設置される。この場合、各カムピース14それぞれに対応して電磁石20が設置され、電磁石20それぞれに付加する電流を独立して制御することで、気筒ごと又はバルブごとに異なる開弁特性に制御することができる。
【0054】
また、本実施の形態1では、バルブ24の停止から復帰の際に、電磁石20への通電を制御することでリニアに立ち上げを開始する例について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、例えば、バルブ24の復帰指示が出た直後に、MRGトルクTm≧スプリングトルクTsとなるのに必要な電流を電磁石20に付与するものであってもよい。
【0055】
実施の形態2.
実施の形態2のシステムは、図1、2に示す可変動弁機構10と同様の構成を有している。また実施の形態2の可変動弁機構10では、図3〜図4と同様の制御を行うが、バルブ停止から復帰する場合の制御においてのみ、図5に替えて図6の制御を行う。
【0056】
図6は、本発明の実施の形態2におけるバルブの開弁特性の制御について説明するための図である。図6において、横軸は時刻、縦軸はMRGトルクTmを表している。また、図6において実線(A)は、本実施の形態2におけるバルブ24の復帰の場合の例であり、破線(a)は、実施の形態1で説明したバルブ24の復帰の例である。
【0057】
図6の例では、バルブ停止時には、電磁石20への通電をOFFとする。その結果、バルブスプリング26によってバルブが停止側にアシストされ閉弁する。したがって、高い応答性でバルブの停止制御が可能となる。
【0058】
その後、バルブ24の停止中に、図6の実線(A)に示すように、電磁石20に小さな電流を付加する。ここでの電流は、バルブの復帰に必要なトルク(即ち、復帰時点でMGRトルクTm=スプリングトルクTsとなるトルク)の半分のトルク(以下「初期トルク」)が生じる値とする。このとき、MRGトルクTm<スプリングトルクTsであり、バルブ24は復帰しない。その後、初期トルク分上昇させた状態で維持される。
【0059】
バルブ24の復帰指示があると、MRGトルクTm>スプリングトルクTsとなるように、電流値をリニアに増加させる。このとき増加の割合を、実施の形態1に説明した弁復帰の場合の例(破線(a))と同じ割合とする。その結果、初期トルク分を上昇させない場合(破線(a))と比較して、バルブ24の復帰にかかる応答時間を1/2に短縮することができる。
【0060】
以上説明したように、実施の形態2によれば、バルブ24の停止時に、初期トルク分、MRGトルクTmを上昇させておくことで、バルブ24の復帰指示後、実際にバルブ24が復帰するまでの応答時間を、短縮させることができる。
【0061】
なお、本実施の形態2では、初期トルクを、バルブ24の復帰に必要なトルクの半分となるように設定する場合について説明した。しかしこの発明はこれに限るものではない。初期トルクを大きくすれば、より早い応答性を確保することができる。このような初期トルクの大きさは、必要な応答性と、初期トルク維持間の消費電力等を考慮して、適宜設定することができる。
【0062】
また、本実施の形態2では、バルブ復帰指示後、電流値をリニアに増加させる場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではなく、バルブ復帰指示後、直ちに必要なMRGトルクTmに応じた電流を付加することとしてもよい。この場合にも、初期トルク分上昇させた状態からの復帰であるため、復帰時の衝撃を、ある程度低減することができる。
【0063】
また、比較のために復帰時の電流値を上昇させる割合を、実施の形態1の場合と同じ割合としたが、この発明はこれに限るものではなく、電流値の増加の割合は、要求応答時間の範囲内で適宜設定することができる。
【0064】
実施の形態3.
実施の形態3の可変動弁機構10は、図1、図2に示したものと同じ構成を有している。実施の形態3の可変動弁機構10は、作用角を小さくするような場合に、カムピース14を空転させる場合の制御に特徴を有する。
【0065】
図7は、この発明の実施の形態3におけるバルブの開弁特性の制御について説明するための図である。図7において横軸はカム角、縦軸はリフト量を表している。また、図7において曲線(a)は、通常の制御時のバルブの開弁特性を表し、曲線(A)、(B)は、本実施の形態3におけるバルブ24の開弁特性を表している。
【0066】
図7に示されるように、例えば、曲線(A)に示すように、カムノーズ先端部に達した後、カムピース14を空転させて小作用角とする場合、閉弁開始のタイミングで、電磁石20への通電はOFF(あるいはTm<Ts)とされる。その結果、カムピース14は空転し、バルブ24はバルブスプリング26の付勢力によって閉弁する。したがって、バルブ24閉弁時の衝撃が大きくなりやすい。
【0067】
このため、本実施の形態3では、バルブ24の閉弁直前のタイミングで電磁石20に通電し、MGRトルクTm>スプリングトルクTsとなるようにMGR18に磁力を付す。その結果、カムピース14はカムシャフト12と同期して回転する。従って、バルブ24の閉弁の直前に、バルブ24を通常のカムプロフィールに従った速度、加速度の状態にすることができる。これにより、バルブ24閉弁時の衝撃を、通常の開弁特性の場合と同程度にまで緩和することができ、バルブ24に従来同様の疲労強度を保障することができる。
【0068】
一方、カムノーズ先端部に達する前に、電磁石20への通電をOFF(あるいはTm<Ts)としてカムピース14を空転させた場合、バルブスプリング26による反力によって、カムピース14とカムシャフト12とは逆回転した状態となる。この場合には、閉弁時にバルブ24の速度、加速度が、通常のカムプロフィールに従った場合の閉弁時の速度、加速度と同値になるように、MGR18によるせん断応力を制御する。これにより、同様にバルブ24の閉弁時の衝撃を、通常の開弁特性の場合と同程度にまで緩和することができ、バルブ24の疲労強度を保障することができる。
【0069】
なお、以上の実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、この実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0070】
10 可変動弁機構
12 カムシャフト
14 カムピース
16 カム
16a ベース円部
16b カムノーズ
18 MRG
20 電磁石
24 バルブ
26 バルブスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムの作用力をバルブに伝達するとともに、当該バルブの開弁特性を変更する可変動弁機構であって、
カムシャフトと、
カムを有し、かつ、前記カムシャフトを中心軸として回転可能に配置されたカムピースと、
前記バルブに配置され、前記バルブを閉弁方向に付勢するバルブスプリングと、
前記カムピースと前記カムシャフトの当接面に配置され、磁力が付されることにより前記カムピースと前記カムシャフトとの間に、当該磁力に応じたせん断応力を生じさせる磁気粘性流体と、
通電により、前記磁気粘性流体に磁力を付す電磁石と、
前記電磁石への通電を制御して、前記磁気粘性流体に付される磁力を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする可変動弁機構。
【請求項2】
前記制御手段は、前記バルブの位相を変化させる際、
前記バルブのリフト開始までの間、前記せん断応力が、前記バルブスプリングによる前記カムピースに対する反力よりも小さくなるように、前記電磁石への通電を制御し、
前記バルブのリフト開始タイミングにおいて、前記せん断応力が、前記反力よりも大きくなるように、前記電磁石への通電を制御することを特徴とする請求項1に記載の可変動弁機構。
【請求項3】
前記制御手段は、前記バルブの作用角を変化させる際、
前記バルブのリフト開始の際、前記せん断応力が、前記バルブスプリングによる前記カムピースに対する反力よりも大きくなるように、前記電磁石への通電を制御し、
前記バルブのリフト中の閉弁開始の所定のタイミングで、前記せん断応力が前記反力よりも小さくなるように、前記電磁石への通電を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の可変動弁機構。
【請求項4】
前記制御手段は、前記バルブの作用角を変化させる際、
前記バルブのリフト開始の際、前記せん断応力が、前記バルブスプリングによる前記カムピースに対する反力よりも大きくなるように、前記電磁石への通電を制御し、
前記バルブのリフト中の所定のタイミングにおいて、前記せん断応力が、前記反力と同じ大きさになるように、前記電磁石への通電を制御し、
前記バルブの閉弁開始の所定のタイミングで、前記せん断応力が、前記反力よりも小さくなるように、前記電磁石への通電を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の可変動弁機構。
【請求項5】
前記制御手段は、前記せん断応力が前記反力より小さくなるように電磁石への通電を制御した後、前記バルブの閉弁直前のタイミングで、前記せん断応力が前記反力より大きくなるように、前記電磁石への通電を制御することを特徴とする請求項3又は4に記載の可変動弁機構。
【請求項6】
前記制御手段は、前記バルブを停止状態で維持する場合に、前記せん断応力が前記バルブスプリングによる前記カムピースに対する反力よりも小さくなるように、前記電磁石への通電を制御することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の可変動弁機構。
【請求項7】
前記制御手段は、前記バルブ停止後、前記バルブ復帰の指示が出された場合、前記せん断応力が、前記電磁石への通電時間に比例して大きくなるように、前記電磁石への通電を制御することを特徴とする請求項6に記載の可変動弁機構。
【請求項8】
前記制御手段は、前記バルブ停止中に、前記反力よりも小さいせん断応力が生じるように、前記電磁石への通電を制御し、
前記バルブ復帰の指示が出された後、前記せん断応力が、前記反力よりも大きくなるように、前記電磁石への通電を制御することを特徴とする請求項6又は7に記載の可変動弁機構。
【請求項9】
前記制御手段は、前記バルブを開放状態で維持する場合に、前記せん断応力が、前記バルブスプリングによる前記カムピースに対する反力と同じ大きさとなるように、前記電磁石への通電を制御することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の可変動弁機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−167594(P2012−167594A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28868(P2011−28868)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】