可変容量形ポンプ
【課題】電子制御機器を付加することなく、作動流体の温度や吐出圧に応じてポンプの吐出量を機械的に可変制御し得るポンプ装置を提供する。
【解決手段】このポンプ装置は、ポンプボディ1内に収容されて吸入通路22及び吐出通路26に連通して作動流体を吸入及び吐出するポンプ要素と、吐出通路に設けられたオリフィス27と、ポンプ要素の吐出量を制御する制御弁30と、から構成されている。制御弁の内部は、オリフィスの上流側及び下流側の流体圧がそれぞれ導入される高圧室35及び中圧室36と吸入通路に連通する低圧室37の三つの圧力室に隔成され、該制御弁内に、流体の温度又は流体圧に応じて高圧室側から中圧室又は低圧室内に導入する流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路40を設け、流体の温度又は流体圧に応じてポンプ装置の吐出流量を可変制御した。
【解決手段】このポンプ装置は、ポンプボディ1内に収容されて吸入通路22及び吐出通路26に連通して作動流体を吸入及び吐出するポンプ要素と、吐出通路に設けられたオリフィス27と、ポンプ要素の吐出量を制御する制御弁30と、から構成されている。制御弁の内部は、オリフィスの上流側及び下流側の流体圧がそれぞれ導入される高圧室35及び中圧室36と吸入通路に連通する低圧室37の三つの圧力室に隔成され、該制御弁内に、流体の温度又は流体圧に応じて高圧室側から中圧室又は低圧室内に導入する流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路40を設け、流体の温度又は流体圧に応じてポンプ装置の吐出流量を可変制御した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の無段変速機やパワーステアリング装置などの駆動源に用いられるポンプ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のポンプ装置としては、特に車両の無段変速機に適用される場合、エンジンの回転数によってポンプ吐出量を可変制御する可変容量型ベーンポンプが一般的に用いられているが、無段変速機に必要な油量は油温に応じても変化する。つまり、油温が高ければオイルの漏れ量が多くなることから多くのオイルが必要となり、油温が低ければ多くの油量を必要としない。そこで、近年、機器のエネルギロスを低減する省エネ化が要求されていることから、エンジンの回転数だけでなく油温に応じてもポンプ吐出量を可変制御する以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
すなわち、この可変容量型ベーンポンプは、ハウジング内に収容配置され、該ハウジングに固定されたピボットピンを揺動支点として揺動自在に設けられたほぼ円環状のカムリングと、該カムリングの内周側に設けられて、複数のベーンが放射方向に出没自在に設けられたロータと、前記カムリングにおける前記ピボットピンのほぼ反対側の位置に突設された操作部を回転方向の一方へ付勢するカムスプリングと、該カムスプリングの付勢力に抗して前記操作部を回転方向の他方へ押圧するカムリング駆動手段と、該カムリング駆動手段を駆動制御するコントローラと、を備えている。
【0004】
前記カムリング駆動手段は、前記コントローラの出力信号に応じて駆動される電動モータと、回転進出することによって前記カムリングの操作部を押圧するスクリューと、前記電動モータ及びスクリューにそれぞれ結合され、電動モータの駆動力を所定の減速比によってスクリューに伝達する一対の減速用歯車と、から構成されている。
【0005】
そして、エンジン回転数を検出する回転数センサ及びオイルパンに貯留されたオイルの温度を検出する油温センサの検出信号に基づいて電動モータを駆動してカムリングの偏心量を調整し、これによって各ポンプ室の容積を変化させて油温に応じてポンプ吐出量を可変制御するが可能になっている。
【特許文献1】実開平3−118288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の可変容量型ベーンポンプにあっては、油温センサや電動モータ、さらには電子制御コントローラなどを備えていることから、装置全体が複雑化し、製造コストの高騰化を招来している。
【0007】
また、前記従来の可変容量型ベーンポンプは、油温に応じてポンプの吐出量を可変制御しているが、例えば油圧によってもポンプ吐出量を可変制御しようとすると、さらなる装置の複雑化を招来し、これに伴って製造コストの高騰化が余儀なくされるおそれがある。
【0008】
本発明は、前記従来における可変容量型ベーンポンプの技術的課題に鑑みて案出されたもので、電子制御機器を付加することなく、作動流体の温度や吐出圧に応じてポンプの吐出量を機械的に可変制御し得るポンプ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、ポンプボディ内に収容されると共に、該ポンプボディに設けられた吸入通路及び吐出通路に連通して作動流体を吸入及び吐出するポンプ要素と、前記吐出通路に設けられた絞り部と、前記ポンプ要素からの吐出量を制御する制御弁と、を備え、前記制御弁は、前記絞り部の上流側の圧力流体が導入される高圧室と、前記絞り部の下流側の圧力流体が導入される中圧室と、前記吸入通路に連通する低圧室と、前記高圧室と前記中圧室の差圧に応動して前記ポンプ要素の吐出量を制御する制御弁体と、該制御弁体を前記中圧室側から前記高圧室側に付勢する付勢部材と、を有し、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力に応じて前記高圧室側から前記中圧室又は前記低圧室に導入する圧力流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路を設けたことを特徴としている。
【0010】
この発明によれば、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力の上昇に伴い前記調圧通路を通流する圧力流体の流量が増大することから、前記高圧室と前記中圧室の差圧が減少し、前記制御弁体が付勢部材の付勢力により前記高圧室側に戻されることによって、前記制御弁の制御量が小さくなるため、前記ポンプ要素の吐出量が増大する。これにより、前記高圧室内の流体の温度又は圧力に応じて必要とするポンプの吐出量を得ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、いわゆる可変容量型ベーンポンプに適用したものであって、ポンプボディに軸支された駆動軸と、前記ポンプボディ内に回転自在に収容されて、前記駆動軸によって回転駆動されるロータと、該ロータの外周部に形成された複数のスロット内にそれぞれ放射方向へ出没自在に設けられた複数のベーンと、前記ポンプボディ内に揺動自在に収容配置され、内周側に前記ロータとベーンと共に複数のポンプ室を形成するカムリングと、該カムリングの軸方向両側に設けられた第1部材及び第2部材と、前記第1部材または第2部材の少なくとも一方側に設けられ、前記各ポンプ室の容積が増大する領域に開口する吸入ポート及び前記各ポンプ室の容積が減少する領域に開口する吐出ポートと、前記カムリングの外周側に隔成され、前記カムリングの偏心量を制御する第1流体圧室及び第2流体圧室と、前記吐出通路に設けられた絞り部と、前記第1流体圧室又は第2流体圧室の圧力を制御する制御弁と、を備え、前記制御弁は、前記絞り部の上流側の圧力流体が導入される高圧室と、前記絞り部の下流側の圧力流体が導入される中圧室と、前記吸入通路に連通する低圧室と、前記高圧室と前記中圧室の差圧に応動して前記第1流体圧室又は第2流体圧室の圧力を制御する制御弁体と、該制御弁体を前記中圧室側から前記高圧室側に付勢する付勢部材と、を有し、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力に応じて前記高圧室側から前記中圧室又は前記低圧室に導入する圧力流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路を設けたことを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、前記高圧室と前記中圧室の差圧が所定以上になると、前記制御弁体が摺動してポンプの吐出量が減少する方向へ前記カムリングを揺動制御するが、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力が低い場合には、前記調圧通路を通流する圧力流体の流量が減少し、前記高圧室内の圧力がほとんど減圧されないため、前記制御弁の制御量がポンプ吐出量の減少方向に維持される。
【0013】
一方、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力が高くなるにつれて、前記調圧通路を通流する圧力流体の流量は増大し、前記高圧室内の流体圧が減圧されることから、前記高圧室と前記中圧室の差圧が減少する。これにより、前記制御弁体が付勢部材の付勢力により前記高圧室側に戻されることから、前記制御弁の制御量が縮小し、ポンプの吐出量はさらに増大する。この結果、前記高圧室内の流体の温度又は圧力の高さに比例してポンプ吐出量を増大させることができる。
【0014】
したがって、従来のような電子制御機器などの複雑な制御機構を用いることなく、圧力流体の温度又は圧力に応じてポンプの吐出量を可変にすることができ、ポンプの負荷に応じた吐出量が得られる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記調圧通路を、流路径よりも大きい流路長さを有するチョークによって構成したことを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、前記調圧通路は、流体の粘性抵抗によって温度が低い場合には流路抵抗が増大し、温度が高い場合には流路抵抗が減少するため、前記調圧通路を通流する流体の温度に応じた流量を得ることができる。これにより、前記請求項1又は2に記載された各発明の作用効果がより効果的に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るポンプ装置を、車両の無段変速機に用いられる可変容量型ベーンポンプにそれぞれ適用した各実施の形態を図面に基づいて詳述する。
【0018】
すなわち、この可変容量型ベーンポンプは、図5に示すように、フロントボディ2と第1部材であるリアボディ3とを突き合わせてなるポンプボディ1と、該ポンプボディ1の内部に形成された収容空間4の内面に嵌着されたアダプタリング5と、該アダプタリング5のほぼ楕円形の内側空間内に図1中左右方向へ揺動可能なカムリング7と、該カムリング7の内周側に回転自在に配置され、前記ポンプボディ1内に挿通された駆動軸8に連結されたロータ9とを備えている。
【0019】
前記アダプタリング5は、図1及び図3に示すように、内周面5aの下部に形成された円弧状の支持溝に前記カムリング7の位置を保持する位置保持ピン6が設けられていると共に、内周面5aの前記位置保持ピン6の図中左側近傍、つまり後述する第1流体圧室11側に前記カムリング7の揺動支点となる所定面積を有する支持面10が形成されている。
【0020】
なお、前記位置保持ピン6は、カムリング7の揺動支点ではなく、カムリング7の位置を保持しつつアダプタリング5に対するカムリング7の回り止めとしての機能を有している。
【0021】
前記カムリング7は、ほぼ円環状に形成され、このロータ9に対して偏心した状態で前記収容空間4内に配置されていると共に、前記位置保持ピン6とこれとほぼ対向した位置にあるシール部材13を介してアダプタリング5との間に第1流体圧力室11と第2流体圧力室12を隔成している。また、カムリング7は、前記アダプタリング5の支持面10の所定位置を揺動中心として第1流体圧室11側あるいは第2流体圧室12側へ揺動自在になっている。
【0022】
前記カムリング7とロータ9は、軸方向の両端面が前記リアボディ3と前記収容空間4の底部側に配置された第2部材である円盤状のプレッシャプレート14によって挟持状態に配置されている。
【0023】
前記ロータ9は、図外のエンジンによって前記駆動軸8が回転駆動されると図中の矢印方向(反時計方向)に回転するようになっていると共に、外周部には、円周方向の等間隔位置に放射方向に沿ったスロット15が複数形成されている。この各スロット15内には、ベーン16がそれぞれ前記カムリング7の内周面方向へ放射状に出没自在に保持されている。また、前記各スロット15の内周側端部に、ほぼ円形状の背圧室17が連続一体に設けられている。
【0024】
また、前記カムリング7とロータ9との間に形成される空間内に、隣接する二枚のベーン16によってポンプ室18が形成されており、前記カムリング7を前記支持面10の揺動支点を中心として揺動させることによってこのポンプ室18の容積を増減させるようになっている。
【0025】
前記第2流体圧室12には、ボルト状のスプリングリテーナ19に一端が弾持されたスプリング20が配置されており、このスプリング20は、前記カムリング7を常時前記第1流体圧室11側に付勢、つまり、ポンプ室18の容積が最大になる方向に付勢している。
【0026】
また、前記ロータ9の回転に伴って前記各ポンプ室18の容積が漸次拡大する吸入領域における前記リアボディ3のロータ9側の内側面には、円弧状の吸入ポート21が形成されている。この吸入ポート21は、吸入通路22を介してリザーバタンクから吸い込んだ作動流体を前記各ポンプ室18内に供給するようになっている。
【0027】
一方、前記ロータ9の回転に伴って、前記各ポンプ室18の容積が漸次縮小していく吐出領域における前記プレッシャプレート14の内側面には、円弧状の吐出ポート23とこれに連通する吐出孔24が形成されており、ポンプ室18から吐出された圧力流体が、前記吐出ポート23及び吐出孔24を介してフロントボディ2の底部に形成された吐出側圧力室25に導入される。この吐出側圧力室25に導入された圧力流体は、ポンプボディ1に形成された吐出通路26から図外の配管を介して無段変速機に送られるようになっている。
【0028】
そして、前記アダプタリング5の支持面10は、第2流体圧室12側から位置保持ピン6までの所定面積に形成されていると共に、図1に示すように、前記吸入ポート21の終端21aと吐出ポート23の始端23aとの中間点と前記駆動軸8の回転中心Pを結ぶ基準線Xに対して徐々に離間するように、第1流体圧室11側へ下り傾斜状に形成されている。
【0029】
また、フロントボディ2の上端内部には、前記駆動軸8と直交する方向に向いた制御弁30が設けられている。この制御弁30は、図1〜図4に示すように、前記フロントボディ2内に形成された弁孔31内に摺動自在に収容された制御弁体であるスプール弁32と、該スプール弁32を図中の左方向に付勢して弁孔31のプラグ33に当接させる付勢部材であるバルブスプリング34と、前記プラグ23とスプール弁22の先端部との間に形成されて、前記吐出通路26に設けられた絞り部であるメータリングオリフィス27の上流側の作動流体圧、つまり吐出ポート23内の圧力流体が導入される高圧室25と、を備えている。
【0030】
一方、前記メータリングオリフィス27の下流側の流体圧は、前記バルブスプリング34が収容された中圧室36に供給され、この中圧室36と高圧室35の両圧力差が所定以上になるとスプール弁32がバルブスプリング34のばね圧に抗して図中右方向に移動する。
【0031】
前記第1流体圧室11は、図3に示すように、前記スプール弁32が左に位置するときは連通路28を介して弁孔31の低圧室37に接続されており、この低圧室37内には、フロントボディ2内に前記吸入通路22から分岐して形成された図外の低圧通路を介して吸入通路22からの低圧が導入されるようになっている。また、前記差圧によってスプール弁32が右側に摺動した場合は、図1に示すように、低圧室37が漸次遮断され、高圧室35と連通して高圧な圧力流体が導入されるようになっている。これによって、低圧室37の圧力とメータリングオリフィス27の上流側の圧力が選択的に供給されるようになっている。
【0032】
一方、前記第2流体圧室12は、リアボディ3のロータ9側の内側面に形成された吸入ポート21における第2流体圧室12側に偏寄した位置から径方向外側に延設された連通溝29を介して前記吸入通路22に連通され、常時吸入側の圧力(低圧)が導入されている。
【0033】
また、前記スプール弁32の内部に設けられたリリーフバルブ38は、前記中圧室36の圧力が所定以上に達したとき、つまり無段変速機の作動圧力が所定以上に達したときに、開放してこの圧力流体を逃がすようになっている。
【0034】
そして、前記制御弁30には、図1〜図4に示すように、前記弁孔31の周壁における前記連通路28とほぼ反対側の位置に、前記スプール弁32が右側に摺動した際に前記高圧室35と第1流体圧室11とが連通すると同時又は僅かに遅れて高圧室35と低圧室37とを連通させる調圧通路40が設けられている。
【0035】
この調圧通路40は、図2及び図4に示すように、前記弁孔31の内周面における軸方向の所定の位置に形成された縦断面ほぼ矩形状の凹溝41と、弁孔31の周壁に対して外側から低圧室37に向かって前記凹溝41の図中の上端部右側をかすめるように斜方へ貫通形成され、該凹溝41と低圧室37とを連通する段差状の連通孔42と、を備え、前記連通孔42は外部との連通を遮断する円筒状の栓部材43によって閉塞されている。
【0036】
前記連通孔42は、外側から前記凹溝41と僅かに重複するように形成され、その重複する比較的小さい開口を有する接続部44を介して該凹溝41と連通する拡径部42aと、該拡径部42aの底部に極細に縮径して形成されると共に、流路径(内径)に比べて比較的長い流路長さに形成され、前記高圧室35と凹溝41の連通時において前記低圧室37に連通するチョーク部42bと、から構成されている。
【0037】
また、前記メータリングオリフィス27と高圧室35との間には、第2絞り部である第2オリフィス39が設けられており、高圧室35内に導入される圧力流体の流体圧を圧力降下させて、該圧力流体の脈動の影響を低減する役割を果たしている。
【0038】
以下に、本発明に係るポンプ装置の作用について、図1〜図4及び図6に基づいて説明する。
【0039】
まず、エンジンの始動に伴い前記駆動軸8が回転すると、図3及び図4に示すように、カムリング7が最大偏心位置に変位した初期状態において、カムリング7内をロータ9が回転する。こうして、ロータ9が回転すると、カムリング7内でポンプ作動が行われ、前記吸入ポート21から吸入された作動流体がベーン16によって加圧されて、前記吐出ポート23を介して吐出通路26へと吐出される。そして、前記吐出通路26に吐出された圧力流体は、メータリングオリフィス27を通過して無段変速機に供給される一方、メータリングオリフィス27の前後から前記制御弁30の高圧室35及び中圧室36内にそれぞれ導入される。
【0040】
このとき、メータリングオリフィス27の前後にはポンプの吐出流量に応じた差圧が生じるが、この差圧が設定値に到達するまで前記制御弁30のスプール弁32はバルブスプリング34によって高圧室35側に押し付けられた状態が維持される。このため、前記第1流体圧室11には、前記低圧通路及び低圧室37を介して吸入通路22からの低圧が導入され、カムリング7はスプリング20のばね力によって最大偏心位置に保持されている。こうして、メータリングオリフィス27の前後の差圧が設定値に到達するまでの間は、図6に示すように、無段変速機に供給される作動流体の吐出量はロータ9の回転速度の上昇にほぼ比例して増加する。
【0041】
続いて、ロータ9の回転速度が上昇し、吐出流量の増加により、メータリングオリフィス27の前後の差圧が設定値以上になると、図1及び図2に示すように、前記制御弁30のスプール弁32がその差圧に応じて図中右方向へ摺動し、第1流体圧室11に連通する圧力室が低圧室37から高圧室35へと切り替わるため、スプール弁32の摺動変位に応じた流体圧が連通路28を介して第1流体圧室11内に導入される。それと同時又は僅かに遅れて、前記高圧室35が前記調圧通路40に連通し、前記流体圧が該調圧通路40内に流入する。
【0042】
このとき、前記高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧が低い場合には、この圧力流体は、前記凹溝41内に流入し、前記接続部44を介して連通孔42の拡径部42a内に流入するが、流路が狭められた接続部44によるオリフィス効果が作用して圧力降下が発生すると共に、前記拡径部42aから低圧室37内に流入する際に、チョーク部42bを通過することによってさらなる減圧作用がはたらく。しかも、前記圧力流体は低温であることから粘性が大きく、チョーク部42bを通過する際に流体の粘性抵抗が大きく作用するため、該圧力流体の流動性がより低下する。さらに、高圧室35内の圧力流体の流体圧が低圧の場合には、前記減圧作用及び粘性抵抗によって圧力流体の流動が相乗的に妨げられるため、該圧力流体の流動性がより一層低下する。これにより、前記高圧室35と調圧通路40とが連通しても、高圧室35内の圧力流体は、前記低圧室37内に流入しづらく、該低圧室37及び低圧通路を介して吸入側にはほとんど還流されない。
【0043】
すなわち、高圧室35内の圧力流体が第1流体圧室11内に導入されると、カムリング7はメータリングオリフィス27の前後の差圧に応じた流体圧力によって第2流体圧室12側へ押圧され、スプリング20のばね力とバランスしつつアダプタリング5内を揺動するが、高圧室35内の流体圧が減圧されないため、カムリング7が第2流体圧室12側に保持される。したがって、無段変速機に供給される作動流体の吐出量は、図6の破線に示すように、ほぼ一定に維持される。
【0044】
一方、無段変速機での負荷が増加し、前記高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧が高くなると、図1及び図2に示すように、この圧力流体は、前記圧力流体が低温の場合とは異なり、前記接続部44及びチョーク部42bにおいて流路断面積が縮小することによる減圧効果はある程度作用しても、圧力流体は温度の上昇に反比例して粘性が低下することから、該圧力流体の温度が高くなるにつれてチョーク部42bを通過する際の流体の粘性抵抗が低下し、圧力流体の流動性が向上する。また、前記圧力流体は、その流体圧が高いほど粘性抵抗に抗してチョーク部42bを通過することが可能となるため、流体圧に応じても該チョーク部42b内の流動性が向上する。これにより、前記高圧室35と調圧通路40とが連通すると、高圧室35内の圧力流体は、流体の粘性抵抗の低下に起因して前記低圧室37内に流入し易くなり、該低圧室37及び低圧通路を介して吸入側へと還流される。
【0045】
すなわち、高圧室35内の圧力流体は、第1流体圧室11内に導入されると、カムリング7はメータリングオリフィス27の前後の差圧に応じて第2流体圧室12側へ揺動しても、それと同時又は直後に高圧室35内の流体圧が前記調圧通路40を介して減圧され、また第2オリフィス39によっても高圧室35内に流入する圧力流体の流体圧が低減されることから、スプール弁32がバルブスプリング34のばね力によって押し戻されて図中左方向に摺動する。つまり、前記第1流体圧室11への圧力流体の供給が遮断されることから、カムリング7はスプリング20のばね力によって第2流体圧室12側に戻されてしまい、再度カムリング7の偏心量が増大することによって高圧室35内の流体圧が高められるため、図6の破線に示すように、ポンプの吐出流量がさらに増加する。
【0046】
そして、前記制御弁30は、ポンプの吐出流量が吸入側への還流流量よりも大きくなるまで、スプール弁32が摺動を繰り返し、ポンプの吐出流量が吸入側への還流流量よりも大きくなると、スプール弁32が図中右方向に保持され、第1流体圧室11への圧力流体の導入が継続される。これにより、前記高圧室35内の流体の温度及び流体圧とこれに起因するチョーク部42b通過の際の粘性抵抗との相関関係によってポンプの吐出流量が吸入側への還流流量を上回るようになると、カムリング7が第2流体圧室12側へ保持されて、無段変速機に供給される作動流体の吐出量が、図6の破線に示すように、ほぼ一定に維持される。
【0047】
このようにして、本発明の可変容量型ベーンポンプは、図6中にそれぞれ破線のグラフで示すように、前記高圧室35内の流体の温度及び流体圧に応じてポンプ吐出量の定量化点、すなわち図中の破線グラフの折れ点、を可変にすることができるため、流体の温度や圧力に適したポンプの吐出流量が得られる。なお、図6の一点鎖線は、本願のような制御を行わない従来のポンプ装置の吐出流量特性を示しており、該従来のポンプ装置は、ポンプの吐出量不足を回避するために、最低限必要な吐出量(最大吐出量)に設定され、常時一定量の流体が吐出されていることから、流体の温度が低いほどその流量は過剰となり、エネルギの損失が生じている。
【0048】
そして、この実施の形態によれば、流体の粘性を利用することによって、前記弁孔31内に少量の加工を施すのみで、電子制御機器を付加することなく、無段変速機の負荷に感応し得る可変容量型ベーンポンプを得ることができる。
【0049】
また、前記高圧室35が第1流体圧室11に連通すると同時又は僅かに遅れて調圧通路40に連通させたことによって、前記制御弁30の流量制御の開始タイミングが調圧通路40の作用の影響を受けないことから、特にポンプの中高回転時においてポンプの吐出流量を確実に増大させることができ、該ポンプの固有吐出量の最大域における吐出流量が保証される。
【0050】
さらに、メータリングオリフィス27と高圧室35の間に第2オリフィス39を設けたことによって、高圧室35内に導入される圧力流体の脈動の影響を低減することができ、前記制御弁30の流量制御の精度が向上する。しかも、前記第2オリフィス39の温度変化に対する流量特性変化量を、前記調圧通路40の流量特性変化量と比べて小さく設定したことによって、温度変化に伴う圧力流体の吐出流量の変化を調整する際に、前記調圧通路40の流量特性変化のみを考慮すればよく、該圧力流体の吐出流量の調整を容易に行うことができる。
【0051】
図7は本発明の第2の実施の形態を示し、前記第1の実施の形態のいわゆる低圧式の可変容量型ベーンポンプの構成に加えて、前記弁孔31の収容空間4側の周壁に、前記第2流体圧室12と前記中圧室36とを連通する第2連通路46を貫通形成したものである。
【0052】
すなわち、前記第1、第2流体圧室11,12の双方にポンプの吐出圧(高圧)を導入させるいわゆる全圧式の可変容量型ベーンポンプであって、前記弁孔31内におけるスプール弁32の摺動に伴い高圧室35と第1流体圧室11の連通及び中圧室36と第2流体圧室12の連通がそれぞれ選択的に切り替わるようになっており、一方の流体圧室にポンプの吐出圧(メータリングオリフィス27の前後の圧力)を導入させ、他方の流体圧室内の流体を前記低圧室37及び低圧通路を介して吸入側へ還流させることによってカムリング7の揺動を制御している。このような形式のポンプにも、前記第1の実施の形態の調圧通路40を適用することができる。
【0053】
したがって、本実施の形態のような全圧式の可変容量型ベーンポンプに対して前記調圧通路40を適用した場合には、前記第1の実施の形態と同様の作用効果に加えて、第2流体圧室12側にもポンプの吐出圧が導入されているため、カムリング7が偏心方向に保持された状態において、意図しないカムリング7の偏心量の減少、つまりカムリング7の第2流体圧室12方向への不用意な揺動を抑制することが可能になり、カムリング7を第1流体圧室11方向へ確実に押圧することができる。
【0054】
図8及び図9は本発明の第3の実施の形態を示し、基本的な構成は前記第2の実施の形態と同様であり、異なるところは、前記アダプタリング5の内周面において、図8に示すように、前記位置保持ピン6及びシール部材13とが前記第1の実施の形態の場合(図1及び図3)とほぼ左右対称に設けられていると共に、前記支持面10が前記第1流体圧室11側から前記位置保持ピン6までの所定面積に形成されて前記基準線Xに対して徐々に離間するような第2流体圧室12側に下り傾斜状に形成されている。
【0055】
また、前記第1流体圧室11は、前記連通路28が廃止されて前記制御弁30には直接接続されず、図外の導入孔を介して前記吸入通路22に連通され、常時吸入側の圧力(低圧)が導入されている。そして、第1流体圧室11内に導入された吸入側の圧力に加え、アダプタリング5の支持面10が第2流体圧室12側へ下り傾斜しているため、カムリング7は、ポンプ室18内の内圧によってスプリング20のばね力に抗して第2流体圧室12側へ揺動可能となっている。
【0056】
これにより、前記スプール弁32が左に位置する場合には前記第2連通路46を介して中圧室36に接続され、前記高圧室35と中圧室36の圧力差によってスプール弁32が右側に摺動した場合には、図8に示すように、第2流体圧室12と中圧室36との連通が漸次遮断されて、前記低圧室37と連通することにより圧力流体が吸入側へと還流される。こうして、メータリングオリフィス27の下流側の圧力と低圧室37の圧力とが選択的に供給されるようになっている。
【0057】
そして、前記調圧通路40は、図9に示すように、前記弁孔31の内周面における軸方向の所定の位置に、該内周面に対して図中右斜め上方に向かって穿設されて極細径を有する前記第1の実施の形態とほぼ同じ形状のチョーク部42bと、該チョーク部42bの図中右側に重複して切欠形成されてチョーク部42bの終端に連通すると共に、前記高圧室35とチョーク部42bの連通時において前記低圧室37に連通する縦断面ほぼ矩形状の凹溝47と、から構成されている。
【0058】
以上の構成において、メータリングオリフィス27の前後の差圧が設定値以上になると、図8及び図9に示すように、前記制御弁30のスプール弁32がその差圧に応じて図中右方向へ摺動して、前記第2連通路46を介して第2流体圧室12に連通する圧力室が中圧室36から低圧室37に切り替わり、該低圧室37の流体圧が第2流体圧室11内に導入される。それと同時又は僅かに遅れて、前記高圧室35が前記調圧通路40に連通して、高圧室35内の流体圧が調圧通路40内に流入する。
【0059】
このとき、前記高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧が低い場合には、この圧力流体は、チョーク部42b内に流入しようとするが、前記第1の実施の形態と同様に、チョーク部42b内を通過する際にその粘性抵抗が大きく作用することから、吸入側にはほとんど還流されない。したがって、高圧室35内の流体圧はほとんど減圧されず、第2流体圧室12には継続して吸入側の圧力(低圧)が作用するため、カムリング7は、ポンプ室18の内圧に押圧され、第2流体圧室12内の流体圧及びスプリング20のばね力に抗して第2流体圧室12側に保持される。このため、無段変速機に供給される圧力流体の吐出流量はほぼ一定に維持され、ポンプの吐出量が比較的小さく保たれる。
【0060】
一方、無段変速機の負荷が高く前記高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧が高い場合には、チョーク部42bを通過する際の圧力流体の粘性抵抗が低下し、さらに流体圧にも比例して流動性が向上することから、高圧室35内の流体圧は前記低圧室37及び低圧通路を介して随時吸入側へと還流されて減圧されてしまうため、スプール弁32は図中左方向に摺動し、第2流体圧室12内には再び中圧室36内の流体圧が導入される。したがって、カムリング7が第2流体圧室12内の流体圧及びスプリング20のばね力に押圧されて第1流体圧室11側に戻されることから、再度高圧室35内の流体圧が高められ、ポンプの吐出流量が前記還流流量を上回るようになると、スプール弁32が図中右方向に保持されると共に、カムリング7が第2流体圧室12側へ保持される。これにより、高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧に応じて無段変速機に供給される圧力流体の吐出流量の定量化点が可変制御され、無段変速機に対する最適なポンプ吐出量が得られる。
【0061】
したがって、この実施の形態によれば、前記調圧通路40をいわゆる片油圧式の可変容量型ベーンポンプに適用しても前記第1の実施の形態における作用効果を奏することができるのは勿論のこと、前記弁孔31内に細孔加工及び溝加工のみのより簡単な加工を施すだけで、流体の粘性を利用して圧力流体の温度及び流体圧に応じた流量を吐出する可変容量型ベーンポンプを得ることができる。
【0062】
図10は本発明の第4の実施の形態を示し、前記第3の実施の形態における調圧通路40の構成を変更したものである。
【0063】
すなわち、本実施の形態の調圧通路40は、図10に示すように、前記凹溝47が廃止されて、前記チョーク部42bと、前記高圧室35とチョーク部42bの連通時においてチョーク部42bを中圧室36に連通する縦断面L字形状に形成された接続通路48と、から構成されている。
【0064】
したがって、この実施の形態によれば、前記高圧室35と中圧室36の圧力差を直接的に調整することができると共に、高圧室35と低圧室37を連通する場合と比べて圧力差が小さいため、ポンプの吐出流量の調整作業が容易となり、該作業性の向上が図れる。
【0065】
図11は本発明の第5の実施の形態を示し、前記第3の実施の形態における調圧通路40の構成を変更したものである。
【0066】
すなわち、本実施の形態の調圧通路40は、図11に示すように、前記チョーク部42bが廃止されて、前記凹溝47と、前記高圧室35と低圧室37とを隔成する先端側の拡径外周部49の低圧室37側の端縁に切欠形成され、前記高圧室35と凹溝47の連通時において凹溝47を低圧室37に連通する円環状の切欠溝50と、から構成されている。
【0067】
前記切欠溝50は、極めて浅い溝深さに形成されると共に、該溝深さよりも比較的大きい溝長さを有するいわゆるチョーク絞り状に形成されている。なお、前記切欠溝50は、溝深さよりも比較的小さい溝長さを有するオリフィス状に形成してもよい。
【0068】
したがって、この実施の形態によれば、前記スプール弁32の拡径外周部49及び弁孔31の溝加工のみの簡単な加工を施すだけで調圧通路40を形成することができる。しかも、前記切欠溝50は円周切削により形成することから、前記チョーク部42bのような極細孔を形成するよりも容易に加工することができると共に、加工精度も容易に確保することができる。
【0069】
また、前記切欠溝50は環状に形成されていることから、前記チョーク部42bのような極細孔と比べて高いチョーク絞り効果を有し、さらにスプール弁32を鉄系材料によって形成する一方、ポンプボディ1をスプール弁32よりも線膨張係数の大きい例えばアルミニウム合金材料などで形成し、チョーク絞りを構成する両材質の熱膨張差を利用することによって、前記弁孔31と切欠溝50との間に形成される流路断面積を温度によって拡縮させることができるため、切欠溝50におけるチョーク絞り効果をより一層高めることができる。
【0070】
図12は本発明の第6の実施の形態を示し、前記第3の実施の形態における調圧通路40の構成を変更したものである。
【0071】
すなわち、本実施の形態の調圧通路40は、図12に示すように、前記弁孔31の内周面における軸方向の所定の位置に、該内周面に対して図中右斜め上方に向かって穿設され接続孔51と、該接続孔51の図中右側に重複するように弁孔31の周壁の図中上端面に切欠形成され、接続孔51の終端に連通する凹部52と、該凹部52の底部に貫通形成され、前記高圧室35と接続孔51の連通時において前記低圧室37に連通する貫通孔53と、前記凹部52の上端開口部を閉塞する蓋部材54と、前記凹部52の側壁に取付固定され、前記接続孔51の終端開口を閉塞する遮蔽板55と、から構成されている。
【0072】
前記遮蔽板55は、内側(取付面側)と外側にそれぞれ異なる材質の板材を貼り合わせたバイメタルによって形成され、内側に外側の材料よりも相対的に線膨張係数の大きい材料が配置されている。すなわち、前記遮蔽板55は、温度が低い場合には前記接続孔51の終端開口を閉塞して接続孔51と前記凹部52の連通を遮断する一方、温度が上昇すると取付部を支点として外側へ反り返るように変形し、その変形量は温度に応じて可変する。そして、前記遮蔽板55の折曲変形によって形成される遮蔽板55と接続孔51の終端開口との隙間が、流体の温度によって拡縮するオリフィスとして機能するようになっている。
【0073】
したがって、この実施の形態によれば、圧力流体の温度に応じて開閉する遮蔽板55により高圧室35と低圧室37の連通を可変制御したことによって、より油温変化に敏感な調圧通路40を形成することができる。
【0074】
前記各実施の形態から把握される前記請求項に記載した発明以外の技術的思想について以下に説明する。
【0075】
請求項(1) 前記調圧通路を、作動流体の温度が高いほど流路内径が拡径するオリフィスによって構成したことを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【0076】
この発明によれば、前記調圧通路は作動流体の温度が高いほど流路断面積が拡大して流量が増大することから、前記調圧通路における作動流体の温度に応じた流量を得ることができる。
【0077】
請求項(2) 前記オリフィスを前記ポンプボディに形成すると共に、該ポンプボディをアルミニウム合金によって形成したことを特徴とする請求項(1)に記載のポンプ装置。
【0078】
この発明によれば、前記オリフィスが形成される前記ポンプボディを、比較的線膨張係数の大きいアルミニウム合金によって形成したことによって、作動流体の温度に応じて前記調圧通路の流路内径を可変制御することができる。
【0079】
請求項(3) 前記オリフィスを、前記ポンプボディに形成すると共に、該ポンプボディを形成する材料よりも線膨張係数の大きい材料によって形成したことを特徴とする請求項(1)に記載のポンプ装置。
【0080】
この発明によれば、前記オリフィスを、例えば樹脂材料など、前記ポンプボディよりも温度変化に伴う流路内径変化の大きい材料で形成したことによって、前記調圧通路の制御範囲を広く確保することができる。
【0081】
請求項(4) 前記オリフィスをバイメタルによって形成したことを特徴とする請求項(3)に記載のポンプ装置。
【0082】
この発明によれば、前記オリフィスをバイメタルによって形成したことによって、より油温変化に敏感な調圧通路を形成することができる。
【0083】
請求項(5) 前記制御弁が前記ポンプ要素の吐出流量制御を開始するタイミングを、前記調圧通路によって前記高圧室と前記中圧室との連通が開始されるタイミングと同時又はより早く設定したことを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【0084】
この発明によれば、前記制御弁の流量制御の開始タイミングが前記調圧通路の作用の影響を受けないことから、特にポンプの中高回転時において前記ポンプ要素の吐出量を確実に増大させることができ、該ポンプの固有吐出量の最大域における吐出流量が保証される。
【0085】
請求項(6) 前記絞り部と前記高圧室の間に第2絞り部を設けたことを特徴とする請求項(5)に記載のポンプ装置。
【0086】
この発明によれば、前記絞り部と前記高圧室の間に第2絞り部を設けたことによって、前記高圧室に導入される作動流体の脈動を低減することができ、前記制御弁の流量制御の精度が向上する。
【0087】
請求項(7) 前記第2絞り部の温度変化に対する流量特性変化量を、前記調圧通路の流量特性変化量と比べて小さく設定したことを特徴とする請求項(6)に記載のポンプ装置。
【0088】
この発明によれば、温度変化に伴う作動流体の吐出量変化を調整する際に、前記調圧通路の流量特性変化のみを考慮すればよく、前記作動流体の吐出量の調整を容易に行うことができる。
【0089】
請求項(8) 前記調圧通路を、前記制御弁の外周部に形成した溝によって構成したことを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【0090】
この発明によれば、前記調圧通路を、前記制御弁の外周部に溝を形成するのみの簡単な加工によって容易に形成することができる。
【0091】
本発明は、前記各実施の形態の構成に限定されるものではなく、前記調圧通路40を、流路径よりも比較的大きい流路長さ有するチョーク部42bではなく、流路径よりも比較的小さい流路長さを有し、作動流体の温度が高いほど流路内径が拡径するオリフィスによって構成してもよい。この場合には、作動流体の温度が高いほど流路断面積が拡大して流量が増大することから、調圧通路40における圧力流体の温度に応じた流量を得ることが可能となり、該流体の温度や圧力に適したポンプの吐出流量が得られる。
【0092】
さらに、ポンプボディ1を比較的線膨張係数の大きいアルミニウム合金によって形成するほか、前記オリフィスを例えば樹脂材料などのポンプボディ1よりも温度変化に伴う流路内径変化の大きい材料で形成することにより、前記調圧通路40の制御範囲をより広く確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係るポンプ装置の第1の実施の形態を示し、図5のA−A線断面図である。
【図2】同ポンプ装置を示す図1の要部拡大図である。
【図3】同実施の形態のポンプ装置の作用を説明する図5のA−A線断面図である。
【図4】同実施の形態のポンプ装置の作用を説明する図3の部分拡大図である。
【図5】同ポンプ装置を示し、駆動軸の軸方向に沿う縦断面図である。
【図6】同ポンプ装置におけるポンプの回転数と吐出流量の関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係るポンプ装置の第2の実施の形態を示し、図5のA−A線断面図である。
【図8】本発明に係るポンプ装置の第3の実施の形態を示し、図5のA−A線断面図である。
【図9】同ポンプ装置を示す図8の要部拡大図である。
【図10】本発明に係るポンプ装置の第4の実施の形態の要部拡大図である。
【図11】本発明に係るポンプ装置の第5の実施の形態の要部拡大図である。
【図12】本発明に係るポンプ装置の第6の実施の形態の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0094】
1…ポンプボディ
3…リアボディ(第1部材)
7…カムリング
9…ロータ
11…第1流体圧室
12…第2流体圧室
14…プレッシャプレート
15…スロット
16…ベーン
18…ポンプ室
21…吸入ポート
22…吸入通路
23…吐出ポート
26…吐出通路
27…メータリングオリフィス(絞り部)
30…制御弁
32…スプール弁(制御弁体)
34…バルブスプリング(付勢手段)
35…高圧室
36…中圧室
37…低圧室
40…調圧通路
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の無段変速機やパワーステアリング装置などの駆動源に用いられるポンプ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のポンプ装置としては、特に車両の無段変速機に適用される場合、エンジンの回転数によってポンプ吐出量を可変制御する可変容量型ベーンポンプが一般的に用いられているが、無段変速機に必要な油量は油温に応じても変化する。つまり、油温が高ければオイルの漏れ量が多くなることから多くのオイルが必要となり、油温が低ければ多くの油量を必要としない。そこで、近年、機器のエネルギロスを低減する省エネ化が要求されていることから、エンジンの回転数だけでなく油温に応じてもポンプ吐出量を可変制御する以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
すなわち、この可変容量型ベーンポンプは、ハウジング内に収容配置され、該ハウジングに固定されたピボットピンを揺動支点として揺動自在に設けられたほぼ円環状のカムリングと、該カムリングの内周側に設けられて、複数のベーンが放射方向に出没自在に設けられたロータと、前記カムリングにおける前記ピボットピンのほぼ反対側の位置に突設された操作部を回転方向の一方へ付勢するカムスプリングと、該カムスプリングの付勢力に抗して前記操作部を回転方向の他方へ押圧するカムリング駆動手段と、該カムリング駆動手段を駆動制御するコントローラと、を備えている。
【0004】
前記カムリング駆動手段は、前記コントローラの出力信号に応じて駆動される電動モータと、回転進出することによって前記カムリングの操作部を押圧するスクリューと、前記電動モータ及びスクリューにそれぞれ結合され、電動モータの駆動力を所定の減速比によってスクリューに伝達する一対の減速用歯車と、から構成されている。
【0005】
そして、エンジン回転数を検出する回転数センサ及びオイルパンに貯留されたオイルの温度を検出する油温センサの検出信号に基づいて電動モータを駆動してカムリングの偏心量を調整し、これによって各ポンプ室の容積を変化させて油温に応じてポンプ吐出量を可変制御するが可能になっている。
【特許文献1】実開平3−118288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の可変容量型ベーンポンプにあっては、油温センサや電動モータ、さらには電子制御コントローラなどを備えていることから、装置全体が複雑化し、製造コストの高騰化を招来している。
【0007】
また、前記従来の可変容量型ベーンポンプは、油温に応じてポンプの吐出量を可変制御しているが、例えば油圧によってもポンプ吐出量を可変制御しようとすると、さらなる装置の複雑化を招来し、これに伴って製造コストの高騰化が余儀なくされるおそれがある。
【0008】
本発明は、前記従来における可変容量型ベーンポンプの技術的課題に鑑みて案出されたもので、電子制御機器を付加することなく、作動流体の温度や吐出圧に応じてポンプの吐出量を機械的に可変制御し得るポンプ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、ポンプボディ内に収容されると共に、該ポンプボディに設けられた吸入通路及び吐出通路に連通して作動流体を吸入及び吐出するポンプ要素と、前記吐出通路に設けられた絞り部と、前記ポンプ要素からの吐出量を制御する制御弁と、を備え、前記制御弁は、前記絞り部の上流側の圧力流体が導入される高圧室と、前記絞り部の下流側の圧力流体が導入される中圧室と、前記吸入通路に連通する低圧室と、前記高圧室と前記中圧室の差圧に応動して前記ポンプ要素の吐出量を制御する制御弁体と、該制御弁体を前記中圧室側から前記高圧室側に付勢する付勢部材と、を有し、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力に応じて前記高圧室側から前記中圧室又は前記低圧室に導入する圧力流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路を設けたことを特徴としている。
【0010】
この発明によれば、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力の上昇に伴い前記調圧通路を通流する圧力流体の流量が増大することから、前記高圧室と前記中圧室の差圧が減少し、前記制御弁体が付勢部材の付勢力により前記高圧室側に戻されることによって、前記制御弁の制御量が小さくなるため、前記ポンプ要素の吐出量が増大する。これにより、前記高圧室内の流体の温度又は圧力に応じて必要とするポンプの吐出量を得ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、いわゆる可変容量型ベーンポンプに適用したものであって、ポンプボディに軸支された駆動軸と、前記ポンプボディ内に回転自在に収容されて、前記駆動軸によって回転駆動されるロータと、該ロータの外周部に形成された複数のスロット内にそれぞれ放射方向へ出没自在に設けられた複数のベーンと、前記ポンプボディ内に揺動自在に収容配置され、内周側に前記ロータとベーンと共に複数のポンプ室を形成するカムリングと、該カムリングの軸方向両側に設けられた第1部材及び第2部材と、前記第1部材または第2部材の少なくとも一方側に設けられ、前記各ポンプ室の容積が増大する領域に開口する吸入ポート及び前記各ポンプ室の容積が減少する領域に開口する吐出ポートと、前記カムリングの外周側に隔成され、前記カムリングの偏心量を制御する第1流体圧室及び第2流体圧室と、前記吐出通路に設けられた絞り部と、前記第1流体圧室又は第2流体圧室の圧力を制御する制御弁と、を備え、前記制御弁は、前記絞り部の上流側の圧力流体が導入される高圧室と、前記絞り部の下流側の圧力流体が導入される中圧室と、前記吸入通路に連通する低圧室と、前記高圧室と前記中圧室の差圧に応動して前記第1流体圧室又は第2流体圧室の圧力を制御する制御弁体と、該制御弁体を前記中圧室側から前記高圧室側に付勢する付勢部材と、を有し、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力に応じて前記高圧室側から前記中圧室又は前記低圧室に導入する圧力流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路を設けたことを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、前記高圧室と前記中圧室の差圧が所定以上になると、前記制御弁体が摺動してポンプの吐出量が減少する方向へ前記カムリングを揺動制御するが、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力が低い場合には、前記調圧通路を通流する圧力流体の流量が減少し、前記高圧室内の圧力がほとんど減圧されないため、前記制御弁の制御量がポンプ吐出量の減少方向に維持される。
【0013】
一方、前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力が高くなるにつれて、前記調圧通路を通流する圧力流体の流量は増大し、前記高圧室内の流体圧が減圧されることから、前記高圧室と前記中圧室の差圧が減少する。これにより、前記制御弁体が付勢部材の付勢力により前記高圧室側に戻されることから、前記制御弁の制御量が縮小し、ポンプの吐出量はさらに増大する。この結果、前記高圧室内の流体の温度又は圧力の高さに比例してポンプ吐出量を増大させることができる。
【0014】
したがって、従来のような電子制御機器などの複雑な制御機構を用いることなく、圧力流体の温度又は圧力に応じてポンプの吐出量を可変にすることができ、ポンプの負荷に応じた吐出量が得られる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記調圧通路を、流路径よりも大きい流路長さを有するチョークによって構成したことを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、前記調圧通路は、流体の粘性抵抗によって温度が低い場合には流路抵抗が増大し、温度が高い場合には流路抵抗が減少するため、前記調圧通路を通流する流体の温度に応じた流量を得ることができる。これにより、前記請求項1又は2に記載された各発明の作用効果がより効果的に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るポンプ装置を、車両の無段変速機に用いられる可変容量型ベーンポンプにそれぞれ適用した各実施の形態を図面に基づいて詳述する。
【0018】
すなわち、この可変容量型ベーンポンプは、図5に示すように、フロントボディ2と第1部材であるリアボディ3とを突き合わせてなるポンプボディ1と、該ポンプボディ1の内部に形成された収容空間4の内面に嵌着されたアダプタリング5と、該アダプタリング5のほぼ楕円形の内側空間内に図1中左右方向へ揺動可能なカムリング7と、該カムリング7の内周側に回転自在に配置され、前記ポンプボディ1内に挿通された駆動軸8に連結されたロータ9とを備えている。
【0019】
前記アダプタリング5は、図1及び図3に示すように、内周面5aの下部に形成された円弧状の支持溝に前記カムリング7の位置を保持する位置保持ピン6が設けられていると共に、内周面5aの前記位置保持ピン6の図中左側近傍、つまり後述する第1流体圧室11側に前記カムリング7の揺動支点となる所定面積を有する支持面10が形成されている。
【0020】
なお、前記位置保持ピン6は、カムリング7の揺動支点ではなく、カムリング7の位置を保持しつつアダプタリング5に対するカムリング7の回り止めとしての機能を有している。
【0021】
前記カムリング7は、ほぼ円環状に形成され、このロータ9に対して偏心した状態で前記収容空間4内に配置されていると共に、前記位置保持ピン6とこれとほぼ対向した位置にあるシール部材13を介してアダプタリング5との間に第1流体圧力室11と第2流体圧力室12を隔成している。また、カムリング7は、前記アダプタリング5の支持面10の所定位置を揺動中心として第1流体圧室11側あるいは第2流体圧室12側へ揺動自在になっている。
【0022】
前記カムリング7とロータ9は、軸方向の両端面が前記リアボディ3と前記収容空間4の底部側に配置された第2部材である円盤状のプレッシャプレート14によって挟持状態に配置されている。
【0023】
前記ロータ9は、図外のエンジンによって前記駆動軸8が回転駆動されると図中の矢印方向(反時計方向)に回転するようになっていると共に、外周部には、円周方向の等間隔位置に放射方向に沿ったスロット15が複数形成されている。この各スロット15内には、ベーン16がそれぞれ前記カムリング7の内周面方向へ放射状に出没自在に保持されている。また、前記各スロット15の内周側端部に、ほぼ円形状の背圧室17が連続一体に設けられている。
【0024】
また、前記カムリング7とロータ9との間に形成される空間内に、隣接する二枚のベーン16によってポンプ室18が形成されており、前記カムリング7を前記支持面10の揺動支点を中心として揺動させることによってこのポンプ室18の容積を増減させるようになっている。
【0025】
前記第2流体圧室12には、ボルト状のスプリングリテーナ19に一端が弾持されたスプリング20が配置されており、このスプリング20は、前記カムリング7を常時前記第1流体圧室11側に付勢、つまり、ポンプ室18の容積が最大になる方向に付勢している。
【0026】
また、前記ロータ9の回転に伴って前記各ポンプ室18の容積が漸次拡大する吸入領域における前記リアボディ3のロータ9側の内側面には、円弧状の吸入ポート21が形成されている。この吸入ポート21は、吸入通路22を介してリザーバタンクから吸い込んだ作動流体を前記各ポンプ室18内に供給するようになっている。
【0027】
一方、前記ロータ9の回転に伴って、前記各ポンプ室18の容積が漸次縮小していく吐出領域における前記プレッシャプレート14の内側面には、円弧状の吐出ポート23とこれに連通する吐出孔24が形成されており、ポンプ室18から吐出された圧力流体が、前記吐出ポート23及び吐出孔24を介してフロントボディ2の底部に形成された吐出側圧力室25に導入される。この吐出側圧力室25に導入された圧力流体は、ポンプボディ1に形成された吐出通路26から図外の配管を介して無段変速機に送られるようになっている。
【0028】
そして、前記アダプタリング5の支持面10は、第2流体圧室12側から位置保持ピン6までの所定面積に形成されていると共に、図1に示すように、前記吸入ポート21の終端21aと吐出ポート23の始端23aとの中間点と前記駆動軸8の回転中心Pを結ぶ基準線Xに対して徐々に離間するように、第1流体圧室11側へ下り傾斜状に形成されている。
【0029】
また、フロントボディ2の上端内部には、前記駆動軸8と直交する方向に向いた制御弁30が設けられている。この制御弁30は、図1〜図4に示すように、前記フロントボディ2内に形成された弁孔31内に摺動自在に収容された制御弁体であるスプール弁32と、該スプール弁32を図中の左方向に付勢して弁孔31のプラグ33に当接させる付勢部材であるバルブスプリング34と、前記プラグ23とスプール弁22の先端部との間に形成されて、前記吐出通路26に設けられた絞り部であるメータリングオリフィス27の上流側の作動流体圧、つまり吐出ポート23内の圧力流体が導入される高圧室25と、を備えている。
【0030】
一方、前記メータリングオリフィス27の下流側の流体圧は、前記バルブスプリング34が収容された中圧室36に供給され、この中圧室36と高圧室35の両圧力差が所定以上になるとスプール弁32がバルブスプリング34のばね圧に抗して図中右方向に移動する。
【0031】
前記第1流体圧室11は、図3に示すように、前記スプール弁32が左に位置するときは連通路28を介して弁孔31の低圧室37に接続されており、この低圧室37内には、フロントボディ2内に前記吸入通路22から分岐して形成された図外の低圧通路を介して吸入通路22からの低圧が導入されるようになっている。また、前記差圧によってスプール弁32が右側に摺動した場合は、図1に示すように、低圧室37が漸次遮断され、高圧室35と連通して高圧な圧力流体が導入されるようになっている。これによって、低圧室37の圧力とメータリングオリフィス27の上流側の圧力が選択的に供給されるようになっている。
【0032】
一方、前記第2流体圧室12は、リアボディ3のロータ9側の内側面に形成された吸入ポート21における第2流体圧室12側に偏寄した位置から径方向外側に延設された連通溝29を介して前記吸入通路22に連通され、常時吸入側の圧力(低圧)が導入されている。
【0033】
また、前記スプール弁32の内部に設けられたリリーフバルブ38は、前記中圧室36の圧力が所定以上に達したとき、つまり無段変速機の作動圧力が所定以上に達したときに、開放してこの圧力流体を逃がすようになっている。
【0034】
そして、前記制御弁30には、図1〜図4に示すように、前記弁孔31の周壁における前記連通路28とほぼ反対側の位置に、前記スプール弁32が右側に摺動した際に前記高圧室35と第1流体圧室11とが連通すると同時又は僅かに遅れて高圧室35と低圧室37とを連通させる調圧通路40が設けられている。
【0035】
この調圧通路40は、図2及び図4に示すように、前記弁孔31の内周面における軸方向の所定の位置に形成された縦断面ほぼ矩形状の凹溝41と、弁孔31の周壁に対して外側から低圧室37に向かって前記凹溝41の図中の上端部右側をかすめるように斜方へ貫通形成され、該凹溝41と低圧室37とを連通する段差状の連通孔42と、を備え、前記連通孔42は外部との連通を遮断する円筒状の栓部材43によって閉塞されている。
【0036】
前記連通孔42は、外側から前記凹溝41と僅かに重複するように形成され、その重複する比較的小さい開口を有する接続部44を介して該凹溝41と連通する拡径部42aと、該拡径部42aの底部に極細に縮径して形成されると共に、流路径(内径)に比べて比較的長い流路長さに形成され、前記高圧室35と凹溝41の連通時において前記低圧室37に連通するチョーク部42bと、から構成されている。
【0037】
また、前記メータリングオリフィス27と高圧室35との間には、第2絞り部である第2オリフィス39が設けられており、高圧室35内に導入される圧力流体の流体圧を圧力降下させて、該圧力流体の脈動の影響を低減する役割を果たしている。
【0038】
以下に、本発明に係るポンプ装置の作用について、図1〜図4及び図6に基づいて説明する。
【0039】
まず、エンジンの始動に伴い前記駆動軸8が回転すると、図3及び図4に示すように、カムリング7が最大偏心位置に変位した初期状態において、カムリング7内をロータ9が回転する。こうして、ロータ9が回転すると、カムリング7内でポンプ作動が行われ、前記吸入ポート21から吸入された作動流体がベーン16によって加圧されて、前記吐出ポート23を介して吐出通路26へと吐出される。そして、前記吐出通路26に吐出された圧力流体は、メータリングオリフィス27を通過して無段変速機に供給される一方、メータリングオリフィス27の前後から前記制御弁30の高圧室35及び中圧室36内にそれぞれ導入される。
【0040】
このとき、メータリングオリフィス27の前後にはポンプの吐出流量に応じた差圧が生じるが、この差圧が設定値に到達するまで前記制御弁30のスプール弁32はバルブスプリング34によって高圧室35側に押し付けられた状態が維持される。このため、前記第1流体圧室11には、前記低圧通路及び低圧室37を介して吸入通路22からの低圧が導入され、カムリング7はスプリング20のばね力によって最大偏心位置に保持されている。こうして、メータリングオリフィス27の前後の差圧が設定値に到達するまでの間は、図6に示すように、無段変速機に供給される作動流体の吐出量はロータ9の回転速度の上昇にほぼ比例して増加する。
【0041】
続いて、ロータ9の回転速度が上昇し、吐出流量の増加により、メータリングオリフィス27の前後の差圧が設定値以上になると、図1及び図2に示すように、前記制御弁30のスプール弁32がその差圧に応じて図中右方向へ摺動し、第1流体圧室11に連通する圧力室が低圧室37から高圧室35へと切り替わるため、スプール弁32の摺動変位に応じた流体圧が連通路28を介して第1流体圧室11内に導入される。それと同時又は僅かに遅れて、前記高圧室35が前記調圧通路40に連通し、前記流体圧が該調圧通路40内に流入する。
【0042】
このとき、前記高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧が低い場合には、この圧力流体は、前記凹溝41内に流入し、前記接続部44を介して連通孔42の拡径部42a内に流入するが、流路が狭められた接続部44によるオリフィス効果が作用して圧力降下が発生すると共に、前記拡径部42aから低圧室37内に流入する際に、チョーク部42bを通過することによってさらなる減圧作用がはたらく。しかも、前記圧力流体は低温であることから粘性が大きく、チョーク部42bを通過する際に流体の粘性抵抗が大きく作用するため、該圧力流体の流動性がより低下する。さらに、高圧室35内の圧力流体の流体圧が低圧の場合には、前記減圧作用及び粘性抵抗によって圧力流体の流動が相乗的に妨げられるため、該圧力流体の流動性がより一層低下する。これにより、前記高圧室35と調圧通路40とが連通しても、高圧室35内の圧力流体は、前記低圧室37内に流入しづらく、該低圧室37及び低圧通路を介して吸入側にはほとんど還流されない。
【0043】
すなわち、高圧室35内の圧力流体が第1流体圧室11内に導入されると、カムリング7はメータリングオリフィス27の前後の差圧に応じた流体圧力によって第2流体圧室12側へ押圧され、スプリング20のばね力とバランスしつつアダプタリング5内を揺動するが、高圧室35内の流体圧が減圧されないため、カムリング7が第2流体圧室12側に保持される。したがって、無段変速機に供給される作動流体の吐出量は、図6の破線に示すように、ほぼ一定に維持される。
【0044】
一方、無段変速機での負荷が増加し、前記高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧が高くなると、図1及び図2に示すように、この圧力流体は、前記圧力流体が低温の場合とは異なり、前記接続部44及びチョーク部42bにおいて流路断面積が縮小することによる減圧効果はある程度作用しても、圧力流体は温度の上昇に反比例して粘性が低下することから、該圧力流体の温度が高くなるにつれてチョーク部42bを通過する際の流体の粘性抵抗が低下し、圧力流体の流動性が向上する。また、前記圧力流体は、その流体圧が高いほど粘性抵抗に抗してチョーク部42bを通過することが可能となるため、流体圧に応じても該チョーク部42b内の流動性が向上する。これにより、前記高圧室35と調圧通路40とが連通すると、高圧室35内の圧力流体は、流体の粘性抵抗の低下に起因して前記低圧室37内に流入し易くなり、該低圧室37及び低圧通路を介して吸入側へと還流される。
【0045】
すなわち、高圧室35内の圧力流体は、第1流体圧室11内に導入されると、カムリング7はメータリングオリフィス27の前後の差圧に応じて第2流体圧室12側へ揺動しても、それと同時又は直後に高圧室35内の流体圧が前記調圧通路40を介して減圧され、また第2オリフィス39によっても高圧室35内に流入する圧力流体の流体圧が低減されることから、スプール弁32がバルブスプリング34のばね力によって押し戻されて図中左方向に摺動する。つまり、前記第1流体圧室11への圧力流体の供給が遮断されることから、カムリング7はスプリング20のばね力によって第2流体圧室12側に戻されてしまい、再度カムリング7の偏心量が増大することによって高圧室35内の流体圧が高められるため、図6の破線に示すように、ポンプの吐出流量がさらに増加する。
【0046】
そして、前記制御弁30は、ポンプの吐出流量が吸入側への還流流量よりも大きくなるまで、スプール弁32が摺動を繰り返し、ポンプの吐出流量が吸入側への還流流量よりも大きくなると、スプール弁32が図中右方向に保持され、第1流体圧室11への圧力流体の導入が継続される。これにより、前記高圧室35内の流体の温度及び流体圧とこれに起因するチョーク部42b通過の際の粘性抵抗との相関関係によってポンプの吐出流量が吸入側への還流流量を上回るようになると、カムリング7が第2流体圧室12側へ保持されて、無段変速機に供給される作動流体の吐出量が、図6の破線に示すように、ほぼ一定に維持される。
【0047】
このようにして、本発明の可変容量型ベーンポンプは、図6中にそれぞれ破線のグラフで示すように、前記高圧室35内の流体の温度及び流体圧に応じてポンプ吐出量の定量化点、すなわち図中の破線グラフの折れ点、を可変にすることができるため、流体の温度や圧力に適したポンプの吐出流量が得られる。なお、図6の一点鎖線は、本願のような制御を行わない従来のポンプ装置の吐出流量特性を示しており、該従来のポンプ装置は、ポンプの吐出量不足を回避するために、最低限必要な吐出量(最大吐出量)に設定され、常時一定量の流体が吐出されていることから、流体の温度が低いほどその流量は過剰となり、エネルギの損失が生じている。
【0048】
そして、この実施の形態によれば、流体の粘性を利用することによって、前記弁孔31内に少量の加工を施すのみで、電子制御機器を付加することなく、無段変速機の負荷に感応し得る可変容量型ベーンポンプを得ることができる。
【0049】
また、前記高圧室35が第1流体圧室11に連通すると同時又は僅かに遅れて調圧通路40に連通させたことによって、前記制御弁30の流量制御の開始タイミングが調圧通路40の作用の影響を受けないことから、特にポンプの中高回転時においてポンプの吐出流量を確実に増大させることができ、該ポンプの固有吐出量の最大域における吐出流量が保証される。
【0050】
さらに、メータリングオリフィス27と高圧室35の間に第2オリフィス39を設けたことによって、高圧室35内に導入される圧力流体の脈動の影響を低減することができ、前記制御弁30の流量制御の精度が向上する。しかも、前記第2オリフィス39の温度変化に対する流量特性変化量を、前記調圧通路40の流量特性変化量と比べて小さく設定したことによって、温度変化に伴う圧力流体の吐出流量の変化を調整する際に、前記調圧通路40の流量特性変化のみを考慮すればよく、該圧力流体の吐出流量の調整を容易に行うことができる。
【0051】
図7は本発明の第2の実施の形態を示し、前記第1の実施の形態のいわゆる低圧式の可変容量型ベーンポンプの構成に加えて、前記弁孔31の収容空間4側の周壁に、前記第2流体圧室12と前記中圧室36とを連通する第2連通路46を貫通形成したものである。
【0052】
すなわち、前記第1、第2流体圧室11,12の双方にポンプの吐出圧(高圧)を導入させるいわゆる全圧式の可変容量型ベーンポンプであって、前記弁孔31内におけるスプール弁32の摺動に伴い高圧室35と第1流体圧室11の連通及び中圧室36と第2流体圧室12の連通がそれぞれ選択的に切り替わるようになっており、一方の流体圧室にポンプの吐出圧(メータリングオリフィス27の前後の圧力)を導入させ、他方の流体圧室内の流体を前記低圧室37及び低圧通路を介して吸入側へ還流させることによってカムリング7の揺動を制御している。このような形式のポンプにも、前記第1の実施の形態の調圧通路40を適用することができる。
【0053】
したがって、本実施の形態のような全圧式の可変容量型ベーンポンプに対して前記調圧通路40を適用した場合には、前記第1の実施の形態と同様の作用効果に加えて、第2流体圧室12側にもポンプの吐出圧が導入されているため、カムリング7が偏心方向に保持された状態において、意図しないカムリング7の偏心量の減少、つまりカムリング7の第2流体圧室12方向への不用意な揺動を抑制することが可能になり、カムリング7を第1流体圧室11方向へ確実に押圧することができる。
【0054】
図8及び図9は本発明の第3の実施の形態を示し、基本的な構成は前記第2の実施の形態と同様であり、異なるところは、前記アダプタリング5の内周面において、図8に示すように、前記位置保持ピン6及びシール部材13とが前記第1の実施の形態の場合(図1及び図3)とほぼ左右対称に設けられていると共に、前記支持面10が前記第1流体圧室11側から前記位置保持ピン6までの所定面積に形成されて前記基準線Xに対して徐々に離間するような第2流体圧室12側に下り傾斜状に形成されている。
【0055】
また、前記第1流体圧室11は、前記連通路28が廃止されて前記制御弁30には直接接続されず、図外の導入孔を介して前記吸入通路22に連通され、常時吸入側の圧力(低圧)が導入されている。そして、第1流体圧室11内に導入された吸入側の圧力に加え、アダプタリング5の支持面10が第2流体圧室12側へ下り傾斜しているため、カムリング7は、ポンプ室18内の内圧によってスプリング20のばね力に抗して第2流体圧室12側へ揺動可能となっている。
【0056】
これにより、前記スプール弁32が左に位置する場合には前記第2連通路46を介して中圧室36に接続され、前記高圧室35と中圧室36の圧力差によってスプール弁32が右側に摺動した場合には、図8に示すように、第2流体圧室12と中圧室36との連通が漸次遮断されて、前記低圧室37と連通することにより圧力流体が吸入側へと還流される。こうして、メータリングオリフィス27の下流側の圧力と低圧室37の圧力とが選択的に供給されるようになっている。
【0057】
そして、前記調圧通路40は、図9に示すように、前記弁孔31の内周面における軸方向の所定の位置に、該内周面に対して図中右斜め上方に向かって穿設されて極細径を有する前記第1の実施の形態とほぼ同じ形状のチョーク部42bと、該チョーク部42bの図中右側に重複して切欠形成されてチョーク部42bの終端に連通すると共に、前記高圧室35とチョーク部42bの連通時において前記低圧室37に連通する縦断面ほぼ矩形状の凹溝47と、から構成されている。
【0058】
以上の構成において、メータリングオリフィス27の前後の差圧が設定値以上になると、図8及び図9に示すように、前記制御弁30のスプール弁32がその差圧に応じて図中右方向へ摺動して、前記第2連通路46を介して第2流体圧室12に連通する圧力室が中圧室36から低圧室37に切り替わり、該低圧室37の流体圧が第2流体圧室11内に導入される。それと同時又は僅かに遅れて、前記高圧室35が前記調圧通路40に連通して、高圧室35内の流体圧が調圧通路40内に流入する。
【0059】
このとき、前記高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧が低い場合には、この圧力流体は、チョーク部42b内に流入しようとするが、前記第1の実施の形態と同様に、チョーク部42b内を通過する際にその粘性抵抗が大きく作用することから、吸入側にはほとんど還流されない。したがって、高圧室35内の流体圧はほとんど減圧されず、第2流体圧室12には継続して吸入側の圧力(低圧)が作用するため、カムリング7は、ポンプ室18の内圧に押圧され、第2流体圧室12内の流体圧及びスプリング20のばね力に抗して第2流体圧室12側に保持される。このため、無段変速機に供給される圧力流体の吐出流量はほぼ一定に維持され、ポンプの吐出量が比較的小さく保たれる。
【0060】
一方、無段変速機の負荷が高く前記高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧が高い場合には、チョーク部42bを通過する際の圧力流体の粘性抵抗が低下し、さらに流体圧にも比例して流動性が向上することから、高圧室35内の流体圧は前記低圧室37及び低圧通路を介して随時吸入側へと還流されて減圧されてしまうため、スプール弁32は図中左方向に摺動し、第2流体圧室12内には再び中圧室36内の流体圧が導入される。したがって、カムリング7が第2流体圧室12内の流体圧及びスプリング20のばね力に押圧されて第1流体圧室11側に戻されることから、再度高圧室35内の流体圧が高められ、ポンプの吐出流量が前記還流流量を上回るようになると、スプール弁32が図中右方向に保持されると共に、カムリング7が第2流体圧室12側へ保持される。これにより、高圧室35内の圧力流体の温度及び流体圧に応じて無段変速機に供給される圧力流体の吐出流量の定量化点が可変制御され、無段変速機に対する最適なポンプ吐出量が得られる。
【0061】
したがって、この実施の形態によれば、前記調圧通路40をいわゆる片油圧式の可変容量型ベーンポンプに適用しても前記第1の実施の形態における作用効果を奏することができるのは勿論のこと、前記弁孔31内に細孔加工及び溝加工のみのより簡単な加工を施すだけで、流体の粘性を利用して圧力流体の温度及び流体圧に応じた流量を吐出する可変容量型ベーンポンプを得ることができる。
【0062】
図10は本発明の第4の実施の形態を示し、前記第3の実施の形態における調圧通路40の構成を変更したものである。
【0063】
すなわち、本実施の形態の調圧通路40は、図10に示すように、前記凹溝47が廃止されて、前記チョーク部42bと、前記高圧室35とチョーク部42bの連通時においてチョーク部42bを中圧室36に連通する縦断面L字形状に形成された接続通路48と、から構成されている。
【0064】
したがって、この実施の形態によれば、前記高圧室35と中圧室36の圧力差を直接的に調整することができると共に、高圧室35と低圧室37を連通する場合と比べて圧力差が小さいため、ポンプの吐出流量の調整作業が容易となり、該作業性の向上が図れる。
【0065】
図11は本発明の第5の実施の形態を示し、前記第3の実施の形態における調圧通路40の構成を変更したものである。
【0066】
すなわち、本実施の形態の調圧通路40は、図11に示すように、前記チョーク部42bが廃止されて、前記凹溝47と、前記高圧室35と低圧室37とを隔成する先端側の拡径外周部49の低圧室37側の端縁に切欠形成され、前記高圧室35と凹溝47の連通時において凹溝47を低圧室37に連通する円環状の切欠溝50と、から構成されている。
【0067】
前記切欠溝50は、極めて浅い溝深さに形成されると共に、該溝深さよりも比較的大きい溝長さを有するいわゆるチョーク絞り状に形成されている。なお、前記切欠溝50は、溝深さよりも比較的小さい溝長さを有するオリフィス状に形成してもよい。
【0068】
したがって、この実施の形態によれば、前記スプール弁32の拡径外周部49及び弁孔31の溝加工のみの簡単な加工を施すだけで調圧通路40を形成することができる。しかも、前記切欠溝50は円周切削により形成することから、前記チョーク部42bのような極細孔を形成するよりも容易に加工することができると共に、加工精度も容易に確保することができる。
【0069】
また、前記切欠溝50は環状に形成されていることから、前記チョーク部42bのような極細孔と比べて高いチョーク絞り効果を有し、さらにスプール弁32を鉄系材料によって形成する一方、ポンプボディ1をスプール弁32よりも線膨張係数の大きい例えばアルミニウム合金材料などで形成し、チョーク絞りを構成する両材質の熱膨張差を利用することによって、前記弁孔31と切欠溝50との間に形成される流路断面積を温度によって拡縮させることができるため、切欠溝50におけるチョーク絞り効果をより一層高めることができる。
【0070】
図12は本発明の第6の実施の形態を示し、前記第3の実施の形態における調圧通路40の構成を変更したものである。
【0071】
すなわち、本実施の形態の調圧通路40は、図12に示すように、前記弁孔31の内周面における軸方向の所定の位置に、該内周面に対して図中右斜め上方に向かって穿設され接続孔51と、該接続孔51の図中右側に重複するように弁孔31の周壁の図中上端面に切欠形成され、接続孔51の終端に連通する凹部52と、該凹部52の底部に貫通形成され、前記高圧室35と接続孔51の連通時において前記低圧室37に連通する貫通孔53と、前記凹部52の上端開口部を閉塞する蓋部材54と、前記凹部52の側壁に取付固定され、前記接続孔51の終端開口を閉塞する遮蔽板55と、から構成されている。
【0072】
前記遮蔽板55は、内側(取付面側)と外側にそれぞれ異なる材質の板材を貼り合わせたバイメタルによって形成され、内側に外側の材料よりも相対的に線膨張係数の大きい材料が配置されている。すなわち、前記遮蔽板55は、温度が低い場合には前記接続孔51の終端開口を閉塞して接続孔51と前記凹部52の連通を遮断する一方、温度が上昇すると取付部を支点として外側へ反り返るように変形し、その変形量は温度に応じて可変する。そして、前記遮蔽板55の折曲変形によって形成される遮蔽板55と接続孔51の終端開口との隙間が、流体の温度によって拡縮するオリフィスとして機能するようになっている。
【0073】
したがって、この実施の形態によれば、圧力流体の温度に応じて開閉する遮蔽板55により高圧室35と低圧室37の連通を可変制御したことによって、より油温変化に敏感な調圧通路40を形成することができる。
【0074】
前記各実施の形態から把握される前記請求項に記載した発明以外の技術的思想について以下に説明する。
【0075】
請求項(1) 前記調圧通路を、作動流体の温度が高いほど流路内径が拡径するオリフィスによって構成したことを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【0076】
この発明によれば、前記調圧通路は作動流体の温度が高いほど流路断面積が拡大して流量が増大することから、前記調圧通路における作動流体の温度に応じた流量を得ることができる。
【0077】
請求項(2) 前記オリフィスを前記ポンプボディに形成すると共に、該ポンプボディをアルミニウム合金によって形成したことを特徴とする請求項(1)に記載のポンプ装置。
【0078】
この発明によれば、前記オリフィスが形成される前記ポンプボディを、比較的線膨張係数の大きいアルミニウム合金によって形成したことによって、作動流体の温度に応じて前記調圧通路の流路内径を可変制御することができる。
【0079】
請求項(3) 前記オリフィスを、前記ポンプボディに形成すると共に、該ポンプボディを形成する材料よりも線膨張係数の大きい材料によって形成したことを特徴とする請求項(1)に記載のポンプ装置。
【0080】
この発明によれば、前記オリフィスを、例えば樹脂材料など、前記ポンプボディよりも温度変化に伴う流路内径変化の大きい材料で形成したことによって、前記調圧通路の制御範囲を広く確保することができる。
【0081】
請求項(4) 前記オリフィスをバイメタルによって形成したことを特徴とする請求項(3)に記載のポンプ装置。
【0082】
この発明によれば、前記オリフィスをバイメタルによって形成したことによって、より油温変化に敏感な調圧通路を形成することができる。
【0083】
請求項(5) 前記制御弁が前記ポンプ要素の吐出流量制御を開始するタイミングを、前記調圧通路によって前記高圧室と前記中圧室との連通が開始されるタイミングと同時又はより早く設定したことを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【0084】
この発明によれば、前記制御弁の流量制御の開始タイミングが前記調圧通路の作用の影響を受けないことから、特にポンプの中高回転時において前記ポンプ要素の吐出量を確実に増大させることができ、該ポンプの固有吐出量の最大域における吐出流量が保証される。
【0085】
請求項(6) 前記絞り部と前記高圧室の間に第2絞り部を設けたことを特徴とする請求項(5)に記載のポンプ装置。
【0086】
この発明によれば、前記絞り部と前記高圧室の間に第2絞り部を設けたことによって、前記高圧室に導入される作動流体の脈動を低減することができ、前記制御弁の流量制御の精度が向上する。
【0087】
請求項(7) 前記第2絞り部の温度変化に対する流量特性変化量を、前記調圧通路の流量特性変化量と比べて小さく設定したことを特徴とする請求項(6)に記載のポンプ装置。
【0088】
この発明によれば、温度変化に伴う作動流体の吐出量変化を調整する際に、前記調圧通路の流量特性変化のみを考慮すればよく、前記作動流体の吐出量の調整を容易に行うことができる。
【0089】
請求項(8) 前記調圧通路を、前記制御弁の外周部に形成した溝によって構成したことを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【0090】
この発明によれば、前記調圧通路を、前記制御弁の外周部に溝を形成するのみの簡単な加工によって容易に形成することができる。
【0091】
本発明は、前記各実施の形態の構成に限定されるものではなく、前記調圧通路40を、流路径よりも比較的大きい流路長さ有するチョーク部42bではなく、流路径よりも比較的小さい流路長さを有し、作動流体の温度が高いほど流路内径が拡径するオリフィスによって構成してもよい。この場合には、作動流体の温度が高いほど流路断面積が拡大して流量が増大することから、調圧通路40における圧力流体の温度に応じた流量を得ることが可能となり、該流体の温度や圧力に適したポンプの吐出流量が得られる。
【0092】
さらに、ポンプボディ1を比較的線膨張係数の大きいアルミニウム合金によって形成するほか、前記オリフィスを例えば樹脂材料などのポンプボディ1よりも温度変化に伴う流路内径変化の大きい材料で形成することにより、前記調圧通路40の制御範囲をより広く確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係るポンプ装置の第1の実施の形態を示し、図5のA−A線断面図である。
【図2】同ポンプ装置を示す図1の要部拡大図である。
【図3】同実施の形態のポンプ装置の作用を説明する図5のA−A線断面図である。
【図4】同実施の形態のポンプ装置の作用を説明する図3の部分拡大図である。
【図5】同ポンプ装置を示し、駆動軸の軸方向に沿う縦断面図である。
【図6】同ポンプ装置におけるポンプの回転数と吐出流量の関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係るポンプ装置の第2の実施の形態を示し、図5のA−A線断面図である。
【図8】本発明に係るポンプ装置の第3の実施の形態を示し、図5のA−A線断面図である。
【図9】同ポンプ装置を示す図8の要部拡大図である。
【図10】本発明に係るポンプ装置の第4の実施の形態の要部拡大図である。
【図11】本発明に係るポンプ装置の第5の実施の形態の要部拡大図である。
【図12】本発明に係るポンプ装置の第6の実施の形態の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0094】
1…ポンプボディ
3…リアボディ(第1部材)
7…カムリング
9…ロータ
11…第1流体圧室
12…第2流体圧室
14…プレッシャプレート
15…スロット
16…ベーン
18…ポンプ室
21…吸入ポート
22…吸入通路
23…吐出ポート
26…吐出通路
27…メータリングオリフィス(絞り部)
30…制御弁
32…スプール弁(制御弁体)
34…バルブスプリング(付勢手段)
35…高圧室
36…中圧室
37…低圧室
40…調圧通路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプボディ内に収容されると共に、該ポンプボディに設けられた吸入通路及び吐出通路に連通して作動流体を吸入及び吐出するポンプ要素と、
前記吐出通路に設けられた絞り部と、
前記ポンプ要素からの吐出量を制御する制御弁と、を備え、
前記制御弁は、前記絞り部の上流側の圧力流体が導入される高圧室と、前記絞り部の下流側の圧力流体が導入される中圧室と、前記吸入通路に連通する低圧室と、前記高圧室と前記中圧室の差圧に応動して前記ポンプ要素の吐出量を制御する制御弁体と、該制御弁体を前記中圧室側から前記高圧室側に付勢する付勢部材と、を有し、
前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力に応じて前記高圧室側から前記中圧室又は前記低圧室に導入する圧力流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路を設けたことを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
ポンプボディに軸支された駆動軸と、
前記ポンプボディ内に回転自在に収容されて、前記駆動軸によって回転駆動されるロータと、
該ロータの外周部に形成された複数のスロット内にそれぞれ放射方向へ出没自在に設けられた複数のベーンと、
前記ポンプボディ内に揺動自在に収容配置され、内周側に前記ロータとベーンと共に複数のポンプ室を形成するカムリングと、
該カムリングの軸方向両側に設けられた第1部材及び第2部材と、
前記第1部材または第2部材の少なくとも一方側に設けられ、前記各ポンプ室の容積が増大する領域に開口する吸入ポート及び前記各ポンプ室の容積が減少する領域に開口する吐出ポートと、
前記カムリングの外周側に隔成され、前記カムリングの偏心量を制御する第1流体圧室及び第2流体圧室と、
前記吐出通路に設けられた絞り部と、
前記第1流体圧室又は第2流体圧室の圧力を制御する制御弁と、を備え、
前記制御弁は、前記絞り部の上流側の圧力流体が導入される高圧室と、前記絞り部の下流側の圧力流体が導入される中圧室と、前記吸入通路に連通する低圧室と、前記高圧室と前記中圧室の差圧に応動して前記第1流体圧室又は第2流体圧室の圧力を制御する制御弁体と、該制御弁体を前記中圧室側から前記高圧室側に付勢する付勢部材と、を有し、
前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力に応じて前記高圧室側から前記中圧室又は前記低圧室に導入する圧力流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路を設けたことを特徴とするポンプ装置。
【請求項3】
前記調圧通路を、流路径よりも大きい流路長さを有するチョークによって構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のポンプ装置。
【請求項1】
ポンプボディ内に収容されると共に、該ポンプボディに設けられた吸入通路及び吐出通路に連通して作動流体を吸入及び吐出するポンプ要素と、
前記吐出通路に設けられた絞り部と、
前記ポンプ要素からの吐出量を制御する制御弁と、を備え、
前記制御弁は、前記絞り部の上流側の圧力流体が導入される高圧室と、前記絞り部の下流側の圧力流体が導入される中圧室と、前記吸入通路に連通する低圧室と、前記高圧室と前記中圧室の差圧に応動して前記ポンプ要素の吐出量を制御する制御弁体と、該制御弁体を前記中圧室側から前記高圧室側に付勢する付勢部材と、を有し、
前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力に応じて前記高圧室側から前記中圧室又は前記低圧室に導入する圧力流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路を設けたことを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
ポンプボディに軸支された駆動軸と、
前記ポンプボディ内に回転自在に収容されて、前記駆動軸によって回転駆動されるロータと、
該ロータの外周部に形成された複数のスロット内にそれぞれ放射方向へ出没自在に設けられた複数のベーンと、
前記ポンプボディ内に揺動自在に収容配置され、内周側に前記ロータとベーンと共に複数のポンプ室を形成するカムリングと、
該カムリングの軸方向両側に設けられた第1部材及び第2部材と、
前記第1部材または第2部材の少なくとも一方側に設けられ、前記各ポンプ室の容積が増大する領域に開口する吸入ポート及び前記各ポンプ室の容積が減少する領域に開口する吐出ポートと、
前記カムリングの外周側に隔成され、前記カムリングの偏心量を制御する第1流体圧室及び第2流体圧室と、
前記吐出通路に設けられた絞り部と、
前記第1流体圧室又は第2流体圧室の圧力を制御する制御弁と、を備え、
前記制御弁は、前記絞り部の上流側の圧力流体が導入される高圧室と、前記絞り部の下流側の圧力流体が導入される中圧室と、前記吸入通路に連通する低圧室と、前記高圧室と前記中圧室の差圧に応動して前記第1流体圧室又は第2流体圧室の圧力を制御する制御弁体と、該制御弁体を前記中圧室側から前記高圧室側に付勢する付勢部材と、を有し、
前記高圧室内の圧力流体の温度又は圧力に応じて前記高圧室側から前記中圧室又は前記低圧室に導入する圧力流体の流量を増減制御して、前記高圧室と前記中圧室の差圧を調整する調圧通路を設けたことを特徴とするポンプ装置。
【請求項3】
前記調圧通路を、流路径よりも大きい流路長さを有するチョークによって構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のポンプ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−25423(P2008−25423A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197519(P2006−197519)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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