説明

可撓性で含水の放出制御される電気化学的電池

本発明は、印加される制御電圧の関数として変化する放射率を有する薄膜で含水電解質の電気化学的電池に関する。この電池は、それぞれ重なって密接された下記の可撓性要素で形成される。これらの要素は、制御電圧の第1電位に接続されることを意図された電気伝導材料の第1の電流コレクタ(11)、PVDF−HFP、PEO、そして、挿入材料を補完するイオンを含む化合物の粉体、の混合物で形成された多孔性の対極(12)、PVDF−HFP及びPEOの混合物で形成される多孔性セパレータ(13)、イオンの横断可能な制御電圧の第2電位に接続されることを意図された電気伝導材料の第2の電流コレクタ(14)、PVDF−HFP、PEO、及び、電気伝導材料の粉体の混合物で形成された多孔性の電気伝導層(15)、PVDF−HFPとPEOの混合物、及び、挿入材料の粉体、で形成された多孔性活性層(16)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性で含水の放出制御される電気化学的電池に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第5,296,318号明細書においては、複合電極を備え、挿入イオンとしてリチウムを使用している可充電バッテリが開示されている。このバッテリは、フィルム形態であるポリマーマトリックスに組み込まれる異なる粉体(パウダー)を使用する。この構造により、2つの効果が得られる。第1に、粉体に機械的強さが付与される。第2に、バッテリの異なる構成成分から形成されるフィルムは、完全に可撓性の電池を形成するように、格子形態で電流コレクタと共に積層されうる。
【0003】
従来におけるこの技術によって開発された電池は、フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレン(PVDF−HFP)の疎水性コポリマー・タイプ・ポリマーを使用する。これらは、従って、例えばジメチル炭酸塩、プロピレンカーボネート、エチレン炭酸塩又はアセトニトリルといった、有機タイプ溶媒を使用する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの電池は、放出制御された電池でない。これらは、イオンの迅速な挿入にとって好適とはいえない有機媒質を使用している。
【0005】
さらに、応用物理のジャーナル、第91巻、No3、2002年2月1日の、A.BESSIERE他による文献、「赤外放射率制御のためのタングステン酸化物を主成分とした可撓性電子リフレクタンス装置」は、非水性媒体の電気化学的電池を使用する赤外線の可変放射率を有する装置を提案している。この装置の赤外線透過性は、最適化されていない。加えて、その切換時間は、長い。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来技術における不利な点を克服するために、本発明は、水性媒体で動作する可撓性電気化学的電池を提案している。水性媒体の関心事は、水の解離定数が高いという事実のため、より高いイオン伝導率によってより迅速なイオン交換を可能にするということである。水の他の利点として、赤外線における透過性及び環境の尊重が注目されうる。含水の電池を形成するには、適切なポリマーを見出して、前記ポリマーを実装(インプリメント)することが必要である。
【0007】
そして、この種の電池は、赤外線において可変の放射率を有する装置を形成するために、使用されうる。これを行うために、本発明による電気化学的電池は、イオンが電気活性材料に接触(アクセス)できるという光学的性質が見られるような、その構成要素の層の特定のレイアウトを有する。
【0008】
従って、本発明の主題は、印加される制御電圧の関数として変化する放射率を有する薄膜の電気化学的電池である。この電池は、それぞれ重なって密接された下記の可撓性要素で形成されるという特徴を有する。これらの要素は、
・ 制御電圧の第1電位に接続されることを意図された、電気伝導材料の第1の電流コレクタ
・ PVDF−HFP、PEO、そして、必要であれば少なくとも1つの他の親水性ポリマー、及び、挿入イオン格納化合物の粉体又は挿入イオンを補完するイオンを吸収可能な粉体、の混合物、で形成された多孔性の対極
・ PVDF−HFP及びPEOの混合物で形成される多孔性セパレータ
・ イオンの横断可能な制御電圧の第2電位に接続されることを意図された、電気伝導材料の第2の電流コレクタ
・ PVDF−HFP、PEO、及び、電気伝導材料の粉体、の混合物で形成された多孔性の電気伝導層
・ PVDF−HFPとPEO、及び、挿入材料の粉体、の混合物で形成された多孔性活性層
を備え、
前記対極、前記セパレータ、前記電気伝導層、及び、前記活性層は、含水電解質で充填されている。
【0009】
第1及び第2の電流コレクタは、格子(グリッド)であってもよい。これらの格子は、(例えば、アルミニウム、銅、又は、鉛といった)金属製でもよく、好適には、ステンレス、ITOであってもよい。これらは、好適にはカーボン及びPVDF−HFPコポリマーの混合物で覆われたステンレス鋼であってもよい。
【0010】
好ましくは、可撓性エレメントのPVDF−HFP及びPEOの混合物は、重量で、80%及び50%の間のPVDF−HFP、及び、20%及び50%の間のPEOを含む。
【0011】
挿入イオンと相補的なイオンを含むイオン貯蔵化合物は、好ましくはポリマーで覆われている、HWO、HWO・HO、HMoO、ポリアニリン(PANI)といったポリマー、又は、活性炭素から選択されうる。
【0012】
挿入イオンは、WO・HO及びWOといった材料に挿入されうるNa、Mg2+といったイオンである
【0013】
電子伝導層の電気伝導材料は、グラファイトカーボン及び金属から選択されうる。
【0014】
電解水溶液は、特に、硫酸を含みうる。
【0015】
図面を添付された、例示として付与されて限定意図のない後述の説明を読むことで、本発明は、より充分に理解され、そして、他の利点及び特色は、より明瞭になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上述のように、PVDF−HFPコポリマーは疎水性である。しかしながら、このコポリマーは、注目すべき機械的性質のため、非常に興味深いものである。このポリマーが水を吸収することが可能になるように、親水性ポリマーを加えることが提案される。その1つとして、強い親水性の、酸化(PEO)ポリエチレンが提案される。
【0017】
第1に、PVDF−HFP及びPEOの混合物に対する適正な組成、換言すれば、適切な機械的強さを維持すると同時に大量の水を吸収する混合物に対する組成を見出すことが必要である。
【0018】
図1は、分単位での吸収時間tの関数として、PVDF−HFP及びPEOの異なる混合物に対する%での重量ゲイン(WG)曲線を表す線図である。使用されるPVDF−HFPコポリマーは、12%のモルHFPを含む。曲線1は、PVDF−HFPコポリマーに対応する(従って、PEOは無い)。曲線2は、80重量%のPVDF−HFP、及び、20重量%のPEOを含む混合物に対応する。曲線3は、60重量%のPVDF−HFP、及び、40重量%のPEOを含む混合物に対応する。曲線4は、50重量%のPVDF−HFP、及び、50重量%のPEOを含む混合物に対応する。
【0019】
ベル型の曲線は、PEOが水溶性であることを示す。機械的強さが保証されるのは、PVDF−HFPである。50重量%を超えるPEOを有する組成物が、試験された。これらは、充分な機械的強さを有していない。しかしながら、二酸化ケイ素充填材を追加することで、PEOのパーセンテージを更に増加することが可能になる。
【0020】
硫酸の溶液での電気伝導率試験が、実施された。その結果は、得られた誘電率が、30%のPEOの組込みから、非含水のバッテリのもの(すなわち、1.61×10−4S・cm−1)よりも大きいということを示した。非常に高性能な電解質は、これにより簡単に得られる。
【0021】
PVDF−HFP及びPEOの混合物のフィルムは、実験材料で形成されうる。50重量%のPEOのフィルムに対して、最大でフラスコの半分のマークまでアセトニトリルを添加する前に、1gのPEOが組織を作製するピルに導入されて1.5mLのエーテル中に分散される。そしてストッパ付きフラスコは、PEOが充分に溶媒和されるまで、攪拌される。そして、(12%モルのHFPを含む)1gのPVDF−HFP、2gの可塑剤として作用するジ−nブチルフタレート(DBP)及びアセトンが、添加される。そして、この溶液は、ガラスプレート上に拡散される前に、堆積物の厚さを制御できるドクターブレードによって、略2000rpmで15分間混合される。溶媒の蒸発後に、幅5cmで長さ約1.2mのリボン形態のフィルムが得られる。
【0022】
図2は、PVDF−HFP及びPEOの混合物中における、HSOの異なる濃度に対する、そして、PEOの重量での異なる濃度に対する電気伝導率を表す線図である。曲線5は、HSOの濃度が1Mに等しい場合に対してトレースしたものである。曲線6は、HSOの濃度が0.1Mに等しい場合に対してトレースしたものである。
【0023】
活性材料を有するPVDF−HFP及びPEOの混合物中のプラスチックフィルムは、同様の方法であるが、粉体形状の活性材料を製造の最後で添加することによって、形成されうる。3.66(重量比)に等しい活性剤/ポリマー比率が、用いられている。より大量の活性剤を使用することもできる。
【0024】
図3は、可視光線及び赤外線において作動する電気活性装置を得るための、異なる活性剤−ポリマー複合フィルムのレイアウトの線図である。
【0025】
図3の電池は、コレクタ11、対極12、セパレータ13、コレクタ14、グラファイトを主成分(ベース)とするフィルム15、そして、活性材料のフィルム16、を重合せて含む。これらのフィルム11〜16は、「光蓄電池(光バッテリ)」を形成するためにアセンブルされる。電流コレクタ11及び14は、ステンレス鋼(グリッドのメッシュ寸法略0.5mm)のグリッドである。電解質に反応しにくいこれらのグリッドを作製するために、カーボン及び(12%モルのHFPを含む)PVDF−HFPの混合物で覆ってもよい。この疎水性混合物は、サイクルにおけるコレクタの強度を向上することを可能にする。
【0026】
対極は、酸性媒体又は活性カーボン中に安定な挿入材料を含んでもよい。対極12は、60重量%の(12%モルHFPの)PVDF−HFP及び40重量%のPEOを含む混合物中のHWO・HO(ここで0<x≦0.35)で形成されうる。
【0027】
セパレータ13は、50重量%の(12%モルHFPの)PVDF−HFP及び50重量%のPEOを含む混合物で形成されうる。
【0028】
フィルム15は、50重量%の(12%モルHFPの)PVDF−HFP及び50重量%のPEOを含む混合物中に(30重量%及び60重量%間の)カーボンを含む。このフィルムによって、活性材料16のフィルム上に電荷をより良好に分布させることを保証することができる。
【0029】
活性材料16のフィルムは、60重量%の(12%モルHFPの)PVDF−HFP及び40重量%のPEOを含む混合物中に一水化タングステン酸化物WO・HOを含む。この材料WO・HOは、酸性媒体中で安定であってプロトンを挿入可能な任意の他の種とも置換されうる。
【0030】
PVDF−HFP及びPEOの混合物中のフィルム(対極12、セパレータ13、電子伝導層15及び活性層16)は、それらを形成するために用いたDBPを除去することによって多孔性になっている。この除去は、組み立てられた電池をエーテル中に配置することによってなされうる。そして、多孔性になっているフィルムを含む電池は、含水電解質を含む容器中に浸漬することによって、この含水電解質で充填されうる。
【0031】
活性層16の厚さは、9μmであってもよい。セパレータ13の厚さは、10μm及び100μmの間であってもよい。
【0032】
図4は、50mV/s及びこれよりも上での電気化学的電池に対する異なる曲線を表す。50mV/sのこの値は、電池のサイクル率、換言すればユーザによって定まる電位の進展率、を表す。左のY軸は、輝度Iを表す。右のY軸は、対極12の化合物HWO・HOの係数xを表す。X軸は、ボルトでの作用電極の電位Eweを表す。図4は、イオンの挿入があること、そしてそれ故、システムが電気化学的観点から機能することを示す。
【0033】
図5は、本発明による電気化学的電池の光学的性質を例示している線図である。この線図は、波長λの関数として、電池の反射率を(%で)表す。曲線21は、イオン貯蔵化合物HWO・HOに対応する。曲線22は、イオン貯蔵化合物WO・HOに対応する。曲線22は、挿入前の活性層16に対応し(WO・HO)、そして、曲線21は、挿入後の、活性層16に対応する(HWO・HO)。この図は、電池が赤外線における反射の変調を有することを示す。この図は、溶媒として水を使用するため、赤外線中における吸収帯の欠如をも示す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明による電気化学的電池を形成するために用いるポリマーの異なる混合物に対する重量ゲイン曲線を表す線図である。
【図2】図2は、本発明による電気化学的電池を形成するために用いるコポリマーに対する硫酸の濃度の関数として、電気伝導率を表す線図である。
【図3】図3は、本発明による電気化学的電池を形成するための異なる複合フィルムのレイアウトの線図を表す。
【図4】図4は、サイクルの間、電流及び電荷の展開を表す線図である。
【図5】図5は、本発明による電気化学的電池の光学的性質を例示する線図である。
【符号の説明】
【0035】
11 コレクタ
12 対極
13 セパレータ
14 コレクタ
15 グラファイトベースのフィルム
16 活性材料のフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加される制御電圧の関数として変化する放射率を有する薄膜の電気化学的電池であって、この電池は、それぞれ重なって密接された下記の可撓性要素で形成されるという特徴を有し、これらの要素は、
制御電圧の第1電位に接続されることを意図された、電気伝導材料の第1の電流コレクタ(11)、
PVDF−HFP、PEO、そして、必要であれば少なくとも1つの他の親水性ポリマー、及び、挿入イオンを補完するイオンを備える化合物の粉体、の混合物、で形成された多孔性の対極(12)、
PVDF−HFP及びPEOの混合物で形成される多孔性セパレータ(13)、
イオンの横断可能な前記制御電圧の第2電位に接続されることを意図された、電気伝導材料の第2の電流コレクタ(14)、
PVDF−HFP、PEO、及び、電気伝導材料の粉体、の混合物で形成された多孔性の電気伝導層(15)、
PVDF−HFP、PEO、及び、挿入材料の粉体、の混合物で形成された多孔性活性層(16)、を備え、
前記対極(12)、前記セパレータ(13)、前記電気伝導層(15)、及び、前記活性層(16)は、含水電解質で充填されている、電気化学的電池。
【請求項2】
前記第1の電流コレクタ(11)は、格子であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学的電池。
【請求項3】
前記第2の電流コレクタ(14)は、格子であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学的電池。
【請求項4】
前記格子は、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項2又は3に記載の電気化学的電池。
【請求項5】
前記格子は、カーボン及びPVDF−HFPコポリマーの混合物で覆われていることを特徴とする請求項4に記載の電気化学的電池。
【請求項6】
前記可撓性要素における、PVDF−HFP及びPEOの混合物は、重量で、80%及び50%の間のPVDF−HFP、並びに、20%及び50%の間のPEO、を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電気化学的電池。
【請求項7】
前記挿入イオンと相補的なイオンを含む前記イオン貯蔵化合物は、HWO、HWO・HO、HMoO、ポリマー及び活性炭素から選択されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電気化学的電池。
【請求項8】
前記挿入イオンは、WO・HO及びWOから選択される材料のイオンであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の電気化学的電池。
【請求項9】
前記電子伝導層の電気伝導材料がグラファイトカーボン及び金属から選択されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の電気化学的電池。
【請求項10】
前記含水電解質が硫酸を含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の電気化学的電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−524822(P2008−524822A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547593(P2007−547593)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【国際出願番号】PCT/FR2005/051106
【国際公開番号】WO2006/067354
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(507058339)ヨーロピアン・エアロノーティック・ディフェンス・アンド・スペース・カンパニー・イーズ・フランス (6)
【Fターム(参考)】