説明

可溶化剤

【課題】ポリグリセリン脂肪酸エステルを用い、食品、医薬品、化粧品に利用することができる可溶化剤であって、油溶性物質が多量に配合された場合であっても、特殊な乳化機等用いることなく、油溶性物質を水相中に微細に分散し、透明性が高い可溶化組成物を与えることができる可溶化剤、及びこの可溶化剤を利用した食品、医薬品または化粧品を提供する。
【解決手段】ポリグリセリン脂肪酸エステルからなり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数8〜22の飽和脂肪酸から選択される一種以上の飽和脂肪酸(a)と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種以上の不飽和脂肪酸(b)とからなり、飽和脂肪酸(a)と不飽和脂肪酸(b)のモル比率が、(a)/(b)=0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内にあることを特徴とする可溶化剤、及びこの可溶化剤を利用した食品、医薬品または化粧品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油溶性物質の可溶化剤に関する。より詳細には、油溶性物質を、特殊な乳化機等を使用することなく、水相中に多量かつ微細に分散して、透明性が高い可溶化組成物を生成することができる界面活性剤であって、食品、医薬品、化粧品に利用することができる可溶化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
可溶化組成物は、油溶性物質を水相中に微細に分散して生成された、透明性が高い液であり、食品、医薬品、化粧品等に幅広く利用されている。可溶化組成物は、水相と油相に乳化剤を加え、撹拌して得られるエマルジョンとは異なり、熱力学的に安定であり経時安定性が高い組成物である。
【0003】
可溶化組成物は、特定の界面活性剤を使用して、油溶性物質を水相中に平均粒径0.1μmオーダー以下の微細粒子として分散することにより調製される。そして、油溶性物質の粒径が微細であるので液の透明性が高い。そこで、この分散は可溶化と言われ、またこの用途の界面活性剤は可溶化剤と言われている。
【0004】
従来、この可溶化剤としては、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が使用されてきた。しかし、ポリオキシエチレン系界面活性剤は皮膚刺激性等の問題があり、また食品添加物として認可されておらず、化粧品分野や食品分野での使用は不可能であった。
【0005】
一方、ポリグリセリン脂肪酸エステルは食品添加物として認可された界面活性剤であり、食品用乳化剤として利用されている。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの重合度、構成脂肪酸の種類、エステル化度を調節することで親水性から親油性まで様々な物性を有することができ、最近では食品のみならず、医薬品、化粧品、その他の工業用途にも幅広く利用されている。
【0006】
そこで、従来も、ポリグリセリン脂肪酸エステルを利用して油溶性物質を可溶化させる方法が種々検討されてきた。例えば、特許文献1には、ポリグリセリンラウリン酸エステルとポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの混合物を用いて油溶性物質を可溶化する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、油溶性物質が多量に配合されている場合、油溶性物質を微細に分散する性能(可溶化性能)が極端に悪くなり、十分な透明性を有する安定な可溶化組成物を得ることは困難であった。
【0007】
特許文献2にも、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルと糖類または糖アルコール類を用いて油溶性物質を可溶化する方法が、また特許文献3にも、ポリグリセリン飽和脂肪酸エステルを用いて油溶性物質を可溶化する方法が開示されている。しかしながら、特許文献2及び3に開示されている方法では、可溶化には超高圧ホモジナイザー等の乳化機を使用して均質化処理を行う必要があり、操作が非常に煩雑であるとの問題があった。
【0008】
そこで、前記の方法の問題を解決し、油溶性物質が多量に配合された場合であっても、特殊な乳化機を使用する等の煩雑な操作を用いる必要なく、油溶性物質を水相中に、平均粒子径0.1μmオーダー以下の微細粒子として分散し、透明性が非常に高い可溶化組成物を得る方法が望まれており、この方法に使用するための可溶化剤の開発が望まれている。
【特許文献1】特許第3534199号公報
【特許文献2】特公平6−36862号公報
【特許文献3】特許第3528382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用い、食品、医薬品、化粧品の用途に利用することができる可溶化剤であって、油溶性物質が多量に配合された場合であっても、特殊な乳化機等用いることなく、油溶性物質を水相中に微細に分散し、透明性が高い可溶化組成物を与えることができる可溶化剤を提供することにある。本発明は、さらにこの可溶化剤を利用した食品、医薬品または化粧品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸として、特定の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の混合物であって、その混合比が特定の範囲にあるものを用いることにより、前記課題を達成する可溶化剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、油溶性物質を可溶化する可溶化剤であって、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)からなり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸は、炭素数8〜22の飽和脂肪酸から選択される一種以上の飽和脂肪酸(a)と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種以上の不飽和脂肪酸(b)とからなり、かつ飽和脂肪酸(a)と不飽和脂肪酸(b)のモル比率が、(a)/(b)=0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内にあることを特徴とする可溶化剤(請求項1)である。
【0012】
請求項1の発明により、1種の可溶化剤(界面活性剤)を用いて、特殊な乳化機等を使用することなく簡便な方法により油溶性物質を可溶化できる技術、及びこの技術により得られる透明性が高い可溶化組成物が提供される。すなわち、前記の特許文献1や2に記載の可溶化剤は、2種以上の界面活性剤を併用するが、この発明では、可溶化剤は1種の界面活性剤からなるので、実用化を考えた場合、操作が簡便になり、2種以上の界面活性剤間の相溶性を考慮する必要がなく、原料の選択幅が拡がり、製造コストの低減等にもつながる。
【0013】
本発明者は、さらに、前記の特定のポリグリセリン脂肪酸エステルに、特定のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルをさらに混合することにより、より優れた可溶化性能が得られることを見出した。本発明は、この知見に基づき完成された、より好ましい態様の可溶化剤も提供する。
【0014】
すなわち、本発明はさらに、油溶性物質を可溶化する可溶化剤であって、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の混合物からなり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸は、炭素数8〜22の飽和脂肪酸から選択される一種以上の飽和脂肪酸(a)と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種以上の不飽和脂肪酸(b)とからなり、かつ飽和脂肪酸(a)と不飽和脂肪酸(b)のモル比率が、(a)/(b)=0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内であり、前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を構成する縮合リシノール酸は、平均縮合度が3〜7であり、前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)において、エステルを構成するポリグリセリンの重量のエステルの重量に対する比率が、0.10〜0.13であり、かつポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の重量比が、(A)/(B)=15/85〜85/15の範囲内にあることを特徴とする可溶化剤(請求項2)を提供する。
【0015】
前記の本発明の可溶化剤は、皮膚刺激性等の問題もなく、食品添加物として認可された原料から構成されるものであり、食品、医薬品、化粧品の製造に利用することができる。そこで、本発明は、前記の可溶化剤に加えて、さらに、前記の可溶化剤により可溶化された可溶化組成物を含有することを特徴とする食品、医薬品または化粧品(請求項4)も提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の可溶化剤を用いることにより、多量に配合されている油溶性物質を、特殊な乳化機等を使用することなく、水相中に微細に分散して可溶化することができる。従って、本発明により、油溶性物質が多量に配合される場合でも、簡便な方法により、透明性が高い可溶化組成物を得る技術が提供される。また、これらの可溶化剤は、医薬品や化粧品として使用される際の問題もなく、食品添加物としても認可された原料から構成されるものであるので、食品、医薬品、化粧品にも利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態をより詳細に説明するが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、変更等が加えられた形態も本発明に属する。
【0018】
本発明の可溶化剤を構成するポリグリセリン脂肪酸エステル(A)は、それを構成する脂肪酸が、炭素数8〜22の飽和脂肪酸から選択される一種以上の飽和脂肪酸(a)及び炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種以上の不飽和脂肪酸(b)とからなることをその特徴とし、さらに飽和脂肪酸(a)と不飽和脂肪酸(b)のモル比率は、(a)/(b)=0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内にあることをその特徴とする。好ましくは(a)/(b)=0.25/0.75〜0.75/0.25の範囲内である。
【0019】
飽和脂肪酸(a)と不飽和脂肪酸(b)のモル比率をこの範囲内とすることにより、可溶化性能が顕著に発揮される。飽和脂肪酸(a)もしくは不飽和脂肪酸(b)の一方のみからなる脂肪酸によっては、優れた可溶化性能は得られない。
【0020】
飽和脂肪酸(a)は、炭素数8〜22の飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上の脂肪酸からなる。炭素数が8〜22の範囲の飽和脂肪酸を使用することにより、優れた可溶化性能が得られる。飽和脂肪酸(a)を構成する炭素数8〜22の飽和脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びベヘン酸を挙げることができ、中でも、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸及びミリスチン酸が好適である。
【0021】
不飽和脂肪酸(b)は、炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上の脂肪酸からなる。炭素数が16〜22の範囲の不飽和脂肪酸を使用することにより、優れた可溶化性能が得られる。不飽和脂肪酸(b)を構成する炭素数16〜22の不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びエルカ酸を挙げることができ、中でも、オレイン酸及びエルカ酸が好適である。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸には、本発明の目的とする効果が達成される範囲で、炭素数8〜22の飽和脂肪酸(a)及び炭素数16〜22の不飽和脂肪酸(b)以外の脂肪酸が少量含まれていてもよい。
【0022】
ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を構成するポリグリセリンとしては、特に限定されないが、平均重合度(n)が2〜10のものが好ましい。ここで平均重合度(n)とは、末端分析法によって得られる水酸基価から算出される値であり、具体的には、下記(式1)及び(式2)から平均重合度(n)が算出される。
【0023】
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0024】
前記(式2)中の水酸基価とは、エステル化物中に含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1g中のエステル化物に含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を、中和するために要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0025】
本発明の可溶化剤を構成するポリグリセリン脂肪酸エステル(A)は、例えば、前記の脂肪酸、すなわち、飽和脂肪酸(a)と不飽和脂肪酸(b)の混合物と前記のポリグリセリンと水酸化ナトリウムとの混合液を、加熱してエステル化させることにより合成することができる。また、公知の方法によりエステル合成しても得ることができる。
【0026】
ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)としては、そのエステル化率が30%以下、好ましくは25%以下のものが好ましい。ここでエステル化率とは、水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、ポリグリセリンに付加する脂肪酸のモル数(M)から、次式により算出される値である。
(M/(n+2))×100=エステル化率(%)
【0027】
本発明の可溶化剤において、前記のポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を単独で用いる(請求項1の発明の態様)代わりに、前記のポリグリセリン脂肪酸エステル(A)と、平均縮合度が3〜7である縮合リシノール酸とポリグリセリンのエステルであるポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)との混合物を用いる(請求項2の発明の態様)ことにより、さらに優れた可溶化性能が発揮される。
【0028】
縮合リシノール酸は、主としてひまし油を原料とするリシノール酸を縮合したものである。本発明では、平均縮合度3〜7の縮合リシノール酸が使用され、好ましくは平均縮合度4〜6である。ここで平均縮合度(m)は、末端分析法により算出される酸価から、下記の(式3)及び(式4)により算出される。
【0029】
(式3)分子量=280m+18
(式4)酸価=56110/分子量
【0030】
前記酸価とは、油脂中の遊離脂肪酸の指標となる数値であり、1gの油脂に含まれる遊離の脂肪酸を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいい、水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0031】
本発明に使用されるポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)は、例えば、次の方法により合成することができる。リシノール酸に水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を加えた後、常圧もしくは減圧下において常法に従ってリシノール酸の縮合反応を行う。その後、得られた縮合リシノール酸とポリグリセリンとのエステル化反応を、常圧もしくは減圧下において常法に従って行い、仕込んだ縮合リシノール酸のほぼ全てがエステル化するまで反応させる。すなわち、遊離の縮合リシノール酸がほとんど無くなるまで十分に反応させる。
【0032】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)において、エステルを構成するポリグリセリンの重量比率、すなわち、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の重量に対するその中に含まれるポリグリセリン部分の重量の比率は、0.10〜0.13であり、好ましくは0.105〜0.125である。重量比率が、この範囲であると、可溶化性能が格段に向上する。
【0033】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)との混合比率は、それらの重量比が(A)/(B)=15/85〜85/15の範囲内にあることが好ましい。ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を併用することにより、油溶性物質の可溶化状態が格段に向上し、より多量の油溶性物質を配合した場合でもより微細に分散することができ、非常に透明性に優れた可溶化組成物を得ることが可能となるが、(B)の重量比が15%未満の場合は、この可溶化効果の向上は得られない。一方、(A)の重量比が15%未満の場合は、可溶化効果が得られない。
【0034】
本発明の可溶化剤を使用する場合は、先ず可溶化剤と油溶性物質を混合し、この混合物を水相に添加して使用することができる。可溶化剤と油溶性物質の混合物が添加された水相を撹拌することにより、油溶性物質が平均粒径0.1μmオーダー以下の微細粒子に分散され、透明性の高い可溶化組成物を得ることができる。可溶化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)からなる場合は、(A)と(B)と油溶性物質を同時に混合してもよい。
【0035】
本発明の可溶化剤は、植物性油脂、動物性油脂、及びこれらの混合物等、いずれの油溶性物質の可溶化にも使用できる。植物性油脂としては、例えば、オリーブ油、からし油、小麦胚芽油、米ぬか油、ごま油、サフラワー油、大豆油、コーン油、菜種油、パーム油、ひまわり油、綿実油、ヤシ油、落花生油、ツバキ油、カカオ油等が挙げられる。動物性油脂としては、例えば、EPA油、DHA油、牛脂、鶏脂、豚脂、羊脂、まいわし油、さば油、たら油、鯨油等が挙げられる。
【0036】
本発明の可溶化剤により可溶化される油溶性物質としては、さらに、着色料、精油、香料、脂溶性ビタミン類、脂溶性薬剤、酸化防止剤、保存料、飽和または不飽和の高級アルコール、炭化水素類を例示することができる。
【0037】
着色料としては、例えば、カカオ色素、βカロチン、パプリカ色素、アナトー色素、サフロールイエロー、リボフラビン、ラック色素、クルクミン、クロロフィル、ウコン色素等が挙げられる。精油及び香料としては、例えば、オレンジ油、レモン油、ライム油、ペパーミント油、スペアミント油、クローブ油、ジンジャー油、ハッカ油、ローズマリー油、スパイス油、ピネン、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、シトラール、シトロネロール、オイゲノール、ゲラニオール、シンナミックアルデヒド、カンフェン、ボルネオール、メントール等が挙げられる。
【0038】
脂溶性ビタミン類及び脂溶性薬剤としては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、あるいはこれらビタミン類の酢酸、酪酸、ニコチン酸、パルミチン酸等のエステル、βカロチン、CoQ10(ユビデカレノン)、エリスロマイシン、キサンタマイシン等の抗生物質、γ-オリザノール等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ミックストコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、γ-オリザノール、カテキン類等が挙げられる。
【0039】
保存料としては、例えば、デヒドロ酢酸等が挙げられる。飽和または不飽和の高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノールオクタコサノール等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、流動イソパラフィン、セレシン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、スクワラン、スクワレン等が挙げられる。本発明の可溶化剤により可溶化される油溶性物質は、前記例示したような油溶性物質の1種類のみからなるものでもよいし、2種類以上の油溶性物質からなるものでも良い。
【0040】
本発明の可溶化剤を使用した可溶化組成物を含有する食品としては、例えば、パン、ケーキ、ビスケット、キャラメル、チューインガム、チョコレート、キャンディー、アイスクリーム、マーガリン、チーズ、乳飲料、マヨネーズ、サラダドレッシング等を挙げることができる。この他にも、本発明の可溶化剤は、清涼飲料水の香料、ビタミン等の可溶化にも用いることができる。また、本発明の食品には、健康食品や機能性食品も包含される。具体的には、粉剤、タブレット、細粒、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、流動食等の各種形態の食品が挙げられる。
【0041】
本発明の可溶化剤は、脂溶性医薬品や難水溶性医薬品等の医薬品の可溶化に使用することができる。本発明の可溶化剤を使用した可溶化組成物を含有する医薬品としては、カプセル、軟膏、例えば乳化型基剤等を挙げることができる。
【0042】
本発明の可溶化剤を使用した可溶化組成物を含有する化粧品としては、シャンプー、洗顔剤、歯磨き、ボディシャンプー等の洗浄を目的とするもの、コールドクリーム、バニシングクリーム等のクリーム状化粧品、乳液、化粧水等の基礎化粧品、仕上げ化粧品、例えばパーマネントウェーブ、整髪料、ヘアーリキッド、ヘアーリンス等の頭髪用化粧品、バスオイル等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<合成例1>
実施例及び比較例で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、以下に示す方法により合成されたものである。すなわち、先ず、ポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)及び脂肪酸の1:1(モル比)の混合物を調製した。ここで使用されるポリグリセリン及び脂肪酸(実施例や大部分の比較例においては、飽和脂肪酸(a)と不飽和脂肪酸(b)の混合脂肪酸である。)の種類は、後記の実施例、比較例に示されている。この混合物に水酸化ナトリウムを0.1%(混合物に対する重量%)添加し、その後、240〜250℃に昇温してエステル化反応を行い、実施例及び比較例で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルを調製した。なお、エステル化反応は、窒素気流下において撹拌しながら、酸価が1以下となるまで行った。また、前記モル比が1:1であるので、エステル化率は、ポリグリセリンがヘキサグリセリンの場合は、約12.5%({1/(6+2)}×100%)以下、デカグリセリンの場合は、約8.3%({1/(10+2)}×100%)以下となる。
【0045】
<合成例2>
実施例及び比較例で使用されるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、以下に示す方法により合成されたものである。すなわち、先ず、リシノール酸に水酸化ナトリウムを添加し、180〜220℃に昇温して縮合反応を行い、縮合リシノール酸を得た。このようにして得られた縮合リシノール酸とポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)とを、ポリグリセリンの重量比率が0.06〜0.25となるように調製(具体的に重量比率は、以下の各例に示されている。)した混合物を、180〜220℃に昇温して常法によりエステル化反応を行い、実施例及び比較例で使用されるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを調製した。エステル化は、窒素気流下において撹拌しながら、酸価が1以下となるまで反応を行った。
【0046】
<試験方法1>
後記の実施例、比較例及び表に示される可溶化剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/またはポリグリセリン縮合リシノール酸エステル)90重量部と油溶性物質10重量部を室温で均一に混合した。得られた混合物を40℃の脱イオン水中に0.5重量%となるように添加し、マグネチックスターラーにて撹拌を行い、可溶化組成物を調製した。レーザー回折式粒度分布測定装置にて、この可溶化組成物中の油溶性物質粒子の平均粒子径を測定した。また、可溶化組成物の透明性を目視にて評価した。
【0047】
なお、下記の表1〜6中では以下の基準に基づき評価結果を表している。
粒子径に関しては、
◎は平均粒子径が0.1μm以下、
○は平均粒子径が0.1μm以上、かつ0.2μm以下、
△は平均粒子径が0.2μm以上、かつ1.0μm以下、
×は平均粒子径が1.0μm以上であるものを示す。
可溶化組成物の透明性に関しては、◎は透明なもの、○はくすみがあるが透明性が高いもの、△は白濁しているもの、×は水相と油相が分離しているものを示す。
【0048】
<実施例1〜15、比較例3及び4>
ポリグリセリンとして、ヘキサグリセリン又はデカグリセリンを用い、脂肪酸として、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸からなる混合脂肪酸を用い、合成例1の方法によりエステル化反応を行った。このエステル化反応により得られたポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を可溶化剤として用い、油溶性物質として大豆油又はオリーブ油を用いて、試験方法1により評価を行った。結果を表1又は表2に示す。なお、各実施例または比較例で使用したポリグリセリンの種類、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の種類、飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸がモル比、及び油溶性物質の種類は、表1又は表2中に示されている。
【0049】
<比較例1及び2>
脂肪酸として、表1に示す飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸の一方のみを用いた以外は実施例と同様にして、評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
<比較例5>
合成例1に基づき合成されたヘキサグリセリンモノラウリン酸エステルとヘキサグリセリンモノオレイン酸エステルを1:3のモル比で混合したものを可溶化剤として用い、油溶性物質としてオリーブ油を用いて、試験方法1により評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
<比較例6>
合成例1に基づき合成されたデカグリセリンモノミリスチン酸エステルとデカグリセリンモノオレイン酸エステルを1:1のモル比で混合したものを可溶化剤として用い、油溶性物質として大豆油を用いて、試験方法1により評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
<比較例7>
合成例1に基づき合成されたデカグリセリンモノラウリン酸エステルと、合成例2に基づき合成されたヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステル(縮合リシノール酸の縮合度:4、ポリグリセリン重量比0.11)を個々に加温し、粘度を低下させた状態で、1:1のモル比であらかじめ均一に混合しておく。この混合物を可溶化剤として、オリーブ油を油溶性物質として、試験方法1により評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
<比較例8>
脱イオン水200gに、合成例1に基づき合成されたデカグリセリンモノラウリン酸エステル4.5gを加え、完全に溶解した。その溶解液に大豆油0.5gを混合し、次いで、マイクロフルイダイザー(型式:M−110E/H、みずほ工業株式会社製)により均質化圧170MPa、パス回数1回、室温で均質化処理を行い、可溶化物を調製した。さらに、この可溶化物を脱イオン水800gに添加して可溶化組成物試料を調製し、試験方法1と同様にして、平均粒子径及び透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
実施例1〜15は、炭素数8〜22の飽和脂肪酸と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸からなり、かつ飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のモル比率が、0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内にある混合脂肪酸から得られたポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を、可溶化剤として用いた例である。表1、表2の結果より明らかなように、この可溶化剤を用いて調製した可溶化組成物中の油溶性物質の平均粒子径は、実施例1〜4、実施例6、8、9、11においては0.2μm以下であり、高い透明性を示した。他の実施例5、7、10、12〜15でも平均粒子径は0.2μmに近く、高い透明性を示している。
【0057】
炭素数8〜22の飽和脂肪酸又は炭素数16〜22の不飽和脂肪酸の一方のみから得られたポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を、可溶化剤として用いた例である比較例1及び比較例2では、平均粒子径は1μmをはるかに越え、また水相と油相が分離している。炭素数8〜22の飽和脂肪酸と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸の混合脂肪酸から得られたポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を用いるものの、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のモル比率が0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲外である比較例3及び比較例4でも、平均粒子径は1μmをはるかに越え、水相と油相が分離している。
【0058】
比較例5及び比較例6は、構成脂肪酸が炭素数8〜22の飽和脂肪酸のみからなるポリグリセリン脂肪酸エステルと、炭素数16〜22の不飽和脂肪酸のみからなるポリグリセリン脂肪酸エステルの混合物を可溶化剤として用いたものである。そのモル比は、0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内に入るものの、平均粒子径は1μmをはるかに越え、水相と油相が分離しており、このような混合物によっては優れた可溶化効果は得られないことが示されている。
【0059】
特許文献1に記載の方法である比較例7は、構成脂肪酸が炭素数8〜22の飽和脂肪酸のみからなるポリグリセリン脂肪酸エステルと、ヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステルの混合物からなる可溶化剤を用いる例であり、実施例5、7、10、12〜15と同様、平均粒子径が0.2〜1.0μmの範囲である可溶化組成物が得られている。しかし、実施例5、7、10、12〜15では、ポリグリセリン脂肪酸エステルとヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステルとの混合をする必要がなく操作性に優れており、また可溶化組成物の平均粒子径や透明性も、実施例の方が優れている。
【0060】
特許文献3に記載の方法である比較例8は、乳化機を使用して均質化処理を行った例であり、平均粒子径が0.2〜1.0μmの範囲である可溶化組成物が得られている。しかし、実施例では、均質化処理を行う必要がなく操作性に優れており、また可溶化組成物の平均粒子径や透明性も、実施例の方が優れている。
【0061】
<実施例16>
本例は、食品の製造に本発明の可溶化剤を用いる例である。合成例1の方法により得られたヘキサグリセリンモノラウリン酸/エルカ酸エステル(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸のモル比:2/1)15g、水250g及び大豆油3gから、前記の実施例の方法に準じて透明な可溶化組成物を得た。
【0062】
次に、ゲル化剤0.5g、グラニュー糖18g、クエン酸ナトリウム0.1gに水を加えながら全量を100gとし、80℃で加温溶解した。そこに1/5バレンシアオレンジ果汁2g、オレンジフレーバー0.1gを添加し、上記の可溶化組成物0.2gを添加して混合した後にカップに充填し、ゼリーを得た。このようにして得られたゼリーを25℃で3ヶ月間保存したところ、油分の分離はまったく見られず、透明な可溶化状態であった。
【0063】
<実施例17>
本例は、化粧品乳液の製造に本発明の可溶化剤を用いる例である。合成例1の方法により得られたヘキサグリセリンモノカプリル酸/エルカ酸エステル(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸のモル比:3/1)10g、及び、化粧用基剤としてスクワラン20gを30℃に保温しながら混合し、次にこの混合液中に水300mlを加えて撹拌してスクワラン乳液を作製した。得られた乳液は、さっぱりとして使用感が良く、乳化安定性が非常に優れていた。
【0064】
<実施例18>
本例は、医薬品の製造に本発明の可溶化剤を用いる例である。合成例1の方法により得られたヘキサグリセリンモノカプリン酸/オレイン酸エステル(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸のモル比:1/2)2kg、ユビデカレノン(CoQ10)100g、ビタミンE1kgを30℃に保温しながら混合し、この混合液を1カプセルあたり200mg充填したオーバル型ソフトゼラチンカプセルを製造した。得られたカプセルは37℃の人工胃液中で容易に乳化分散し、また、経時安定性も非常に優れていた。
【0065】
<実施例19〜27、比較例9及び10>
表3に示すポリグリセリン脂肪酸エステル(A)及び表3に示す縮合度及びポリグリセリン重量比を有するヘキサグリセリンポリリシノレート(ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B))を50/50の重量比で混合したものを可溶化剤として用い、油溶性物質として大豆油を用いて、試験方法1により粒子径の評価を行った。結果を表3に示す。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)は、脂肪酸として、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の0.5/0.5(モル比)からなる混合脂肪酸を用い、合成例1の方法によりエステル化反応により得られたものであり、ヘキサグリセリンポリリシノレートは、合成例2の方法により得られたものである。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に示される例は、いずれも、炭素数8〜22の飽和脂肪酸と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸からなりかつ飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のモル比率が0.5/0.5である混合脂肪酸より得られるポリグリセリン脂肪酸エステル(A)と、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)からなり、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の重量比が、50/50である混合物を、可溶化剤として用いた例である。表3に示されるように、平均縮合度が3〜7の範囲内にあり、かつポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)中の、エステルを構成するポリグリセリンの重量の比率が、0.10〜0.13にある実施例19〜23、実施例24〜27では、0.2μm以下の平均粒子径を有する可溶化組成物が得られており、特に実施例19〜23、実施例24及び26では、0.1μm以下の平均粒子径を有する可溶化組成物が得られている。
【0068】
一方、ポリグリセリンの重量の比率が、0.10〜0.13の範囲外である比較例9及び10では、平均粒子径は1μmを越え、水相と油相が分離している。後述の比較例11及び12でも同様である。
【0069】
<実施例28〜32>
表4に示すポリグリセリン脂肪酸エステル(A)及び表4に示す種類、縮合度及びポリグリセリン重量比を有するポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を50/50の重量比で混合したものを可溶化剤として用い、油溶性物質として大豆油を用いて、試験方法1により粒子径の評価を行った。結果を表4に示す。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)は、脂肪酸として、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の0.5/0.5(モル比)からなる混合脂肪酸を用い、合成例1の方法によりエステル化反応により得られたものであり、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)は、合成例2の方法により得られたものである。
【0070】
【表4】

【0071】
表4に示される例は、いずれも、炭素数8〜22の飽和脂肪酸と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸からなりかつ飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のモル比率が0.5/0.5である混合脂肪酸より得られるポリグリセリン脂肪酸エステル(A)と、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)からなり、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の重量比が、50/50である混合物を、可溶化剤として用いた例であり、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を構成するポリグリセリンを、ジグリセリン〜デカグリセリンと変動させたものである。表4に示されるように、ジグリセリン〜デカグリセリンの範囲で、平均粒子径が小さいすぐれた可溶化剤が得られている。
【0072】
<実施例33>
合成例1により合成されたヘキサグリセリンモノカプリル酸/オレイン酸エステル(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸のモル比:2/1)と合成例2により合成されたテトラグリセリン縮合リシノール酸エステル(縮合リシノール酸の縮合度3、ポリグリセリンの重量比率0.13)を50:50(重量部)の割合で混合したものを可溶化剤として用い、油溶性物質としてオリーブ油を用いて、試験方法1により評価を行った。結果を表5に示す。
【0073】
<実施例34>
合成例1により合成されたデカグリセリンモノミリスチン酸/オレイン酸エステル(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸のモル比:1/1)と合成例2により合成されたデカグリセリン縮合リシノール酸エステル(縮合度4、ポリグリセリンの重量比率0.10)を30:70(重量部)の割合で混合したものを可溶化剤として用い、油溶性物質として大豆油を用いて、試験方法1により評価を行った。結果を表5に示す。
【0074】
<比較例11〜16>
表5に示すポリグリセリン脂肪酸エステル(A)及び表5に示す種類、縮合度及びポリグリセリン重量比を有するポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を、(A)と(B)の混合比が表5に示す重量比となるように混合したものを可溶化剤として用い、油溶性物質として大豆油を用いて、試験方法1により評価を行った。結果を表5に示す。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)は、脂肪酸として、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を表5に示すモル比で混合した混合脂肪酸を用い、合成例1の方法によりエステル化反応により得られたものであり、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)は、合成例2の方法により得られたものである。
【0075】
【表5】

【0076】
実施例33及び34は、いずれも、炭素数8〜22の飽和脂肪酸と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸からなりかつ飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のモル比率が0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内にある混合脂肪酸より得られるポリグリセリン脂肪酸エステル(A)と、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)からなり、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の重量比が、15/85〜85/15の範囲内にある混合物を、可溶化剤として用いた例である。また、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の平均縮合度は3〜7の範囲内にあり、かつエステルを構成するポリグリセリンの重量の比率が、0.10〜0.13の範囲内にある。表5に示されるように、これらでは、0.1μm以下の平均粒子径を有し、透明性に非常に優れた可溶化組成物が得られている。
【0077】
一方、エステルを構成するポリグリセリンの重量の比率が、0.10〜0.13の範囲外である比較例11及び12、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のモル比率が0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲外である比較例13及び14、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の重量比が15/85未満(すなわち、(A)の重量比が15%未満)である比較例16では、平均粒子径は1μmを越え、水相と油相が分離している。一方、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の重量比が15/85を超える(すなわち、(B)の重量比が15%未満の)比較例15では、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を混合しない場合(例えば、実施例1)に比べて、可溶化効果の向上は見られない。従って、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を混合しない場合の方が、2種のエステルを混合する必要がなく操作性に優れるので好ましい。
【0078】
<試験方法2>
表6に示す可溶化剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)またはポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の混合物)と大豆油を、表6に示す可溶化剤比(可溶化剤と大豆油の合計に対する可溶化剤の重量%)で、室温にて均一に混合した。これらの混合物を40℃の脱イオン水中に0.5重量%となるように添加し、マグネチックスターラーにて撹拌を行い、可溶化組成物を調製した。これらの可溶化組成物を用いて、レーザー回折式粒度分布測定装置にて平均粒子径を測定した。
【0079】
<実施例35〜50、参考例1〜5、比較参考例1、2>
表6に示すポリグリセリン脂肪酸エステル(A)及び表6に示す種類、縮合度及びポリグリセリン重量比を有するポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を、(A)と(B)の混合比が50/50(重量比)となるように混合したものを可溶化剤として用い、油溶性物質として大豆油を用いて、試験方法2により粒子径の評価を行った。結果を表6に示す。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)は、脂肪酸として、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を表6に示すモル比で混合した混合脂肪酸を用い、合成例1の方法によりエステル化反応により得られたものであり、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)は、合成例2の方法により得られたものである。
【0080】
【表6】

【0081】
表6に示される実施例35〜50、参考例1〜4は、いずれも、炭素数8〜22の飽和脂肪酸と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸からなりかつ飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のモル比率が0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内にある混合脂肪酸より得られるポリグリセリン脂肪酸エステル(A)と、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)からなり、ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の重量比が、50/50である混合物を、可溶化剤として用いた例である。また、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の平均縮合度は3〜7の範囲内にあり、かつエステルを構成するポリグリセリンの重量の比率が、0.10〜0.13の範囲内にある。可溶化剤と大豆油との混合比を変えたところ、表6に示されるように、可溶化剤比40(%)以上で、0.2μm以下の平均粒子径を有し、透明性に優れた可溶化組成物が得られ、特に、可溶化剤比60〜80(%)以上で、0.1μm以下の平均粒子径を有し、透明性が非常に優れた可溶化組成物が得られている。
【0082】
なお、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を混合しない場合(実施例1、参考例5)や、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のモル比率が0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲外にある場合(比較参考例1、2)は、可溶化剤比40(%)でも、平均粒子径は1μmを越え、水相と油相が分離している。
【0083】
<実施例51>
本例は、食品の製造に本発明の可溶化剤を用いる例である。合成例1の方法により得られたヘキサグリセリンモノラウリン酸/エルカ酸エステル(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸のモル比:2/1)4.5g、合成例2の方法により得られたテトラグリセリン縮合リシノール酸エステル(縮合度3、ポリグリセリンの重量比率0.13)4.5g、水250g及び大豆油9gから透明な可溶化組成物を得た。この可溶化組成物を用いた以外は、実施例16と同様にして、ゼリーを得た。このようにして得られたゼリーを25℃で3ヶ月間保存したところ、油分の分離はまったく見られず、透明な可溶化状態であった。
【0084】
<実施例52>
本例は、化粧品乳液の製造に本発明の可溶化剤を用いる例である。合成例1の方法により得られたデカグリセリンモノカプリン酸/オレイン酸エステル(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸のモル比:1/3)3g、合成例2の方法により得られたデカグリセリン縮合リシノール酸エステル(縮合度4、ポリグリセリンの重量比率0.11)2g、化粧品用基剤として、スクワラン15gを30℃に保温しながら混合し、次にこの混合液中に水300mlを加えて撹拌してスクワラン乳液を作製した。得られた乳液は、さっぱりとして使用感が良く、乳化安定性が非常に優れていた。
【0085】
<実施例53>
本例は、医薬品の製造に本発明の可溶化剤を用いる例である。合成例1の方法により得られたヘキサグリセリンモノミリスチン酸/エルカ酸エステル(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸のモル比:1/2)800g、合成例2の方法により得られたテトラグリセリン縮合リシノール酸エステル(縮合度5、ポリグリセリンの重量比率0.12)1200g、ユビデカレノン(CoQ10)200g、ビタミンE1kgを30℃に保温しながら混合し、この混合液を1カプセルあたり200mg充填したオーバル型ソフトゼラチンカプセルを製造した。得られたカプセルは37℃の人工胃液中で容易に乳化分散し、また、経時安定性も非常に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、特殊な乳化機等を使用することなく、簡便な方法により油溶性物質を多量かつ微細に水相中に可溶化し、透明性が高い可溶化組成物を得る技術が提供される。また、これらの可溶化剤は食品、医薬品、化粧品に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油溶性物質を可溶化する可溶化剤であって、
ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)からなり、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸は、炭素数8〜22の飽和脂肪酸から選択される一種以上の飽和脂肪酸(a)と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種以上の不飽和脂肪酸(b)とからなり、かつ飽和脂肪酸(a)と不飽和脂肪酸(b)のモル比率が、(a)/(b)=0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内にあることを特徴とする可溶化剤。
【請求項2】
油溶性物質を可溶化する可溶化剤であって、
ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の混合物からなり、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸は、炭素数8〜22の飽和脂肪酸から選択される一種以上の飽和脂肪酸(a)と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸から選択される一種以上の不飽和脂肪酸(b)とからなり、かつ飽和脂肪酸(a)と不飽和脂肪酸(b)のモル比率が、(a)/(b)=0.2/0.8〜0.8/0.2の範囲内であり、
前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)を構成する縮合リシノール酸は、平均縮合度が3〜7であり、
前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)において、エステルを構成するポリグリセリンの重量のエステルの重量に対する比率が、0.10〜0.13であり
かつ
ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)とポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(B)の重量比が、(A)/(B)=15/85〜85/15の範囲内にあることを特徴とする可溶化剤。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステル(A)のエステル化率が30%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可溶化剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の可溶化剤を使用した可溶化組成物を含有することを特徴とする食品、医薬品または化粧品。

【公開番号】特開2008−119568(P2008−119568A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303556(P2006−303556)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】