説明

可溶化化粧料

【課題】コエンザイムQ10やレチノール類を含み、べたつきがなく、さっぱりとした使用感を有する可溶化化粧料を提供する。
【解決手段】(A)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンからなるホスホリルコリンモノマーと、下記一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルからなる疎水部含有モノマーとの共重合体と、(B)コエンザイムQ10、レチノールおよびその誘導体から選択される一種または二種以上と、(C)水系媒体とを配合する。
一般式(1):
CH2=C(CH3)−COOR ‥(1)
(但し、Rは炭素数4〜22のアルキル基またはベンジル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコエンザイムQ10やレチノール類を含み、べたつきがなく、さっぱりとした使用感を有する可溶化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な効能を持つ薬剤が開発されている。例えば、コエンザイムQ10は生細胞内でアセチルCoAからメバロン酸を経由して合成され、心臓、腎臓、肝臓、筋肉、膵臓、甲状腺に多く分布する。このコエンザイムQ10は年齢とともに生合成量が減少し、ヒト表皮中のコエンザイムQ10濃度も加齢により減少することが報告されている。
コエンザイムQ10は体内に吸収されると大部分が還元型コエンザイムQ10となり、ビタミンEと協働して抗酸化作用を示す。ヒト皮膚に連続塗布すると、酸化を抑制してシワ改善がみられる。紫外線による酸化ストレスを抑制することや、コラゲナーゼの発現を抑制することがその作用機序と考えられている。
【0003】
コエンザイムQ10などのユビデカレノン類を含む透明水溶液製剤の製法として、特許文献1にはショ糖脂肪酸エステルによるユビデカレノン類の水溶化が開示されている。しかしこの実施例に記載された技術ではべたつきのなさやさっぱりさなどの使用性の点で満足できる化粧料は得られなかった。
【0004】
またレチノールなどのビタミンAは、荒れ性皮膚の回復、皮脂腺の作用を活発にし、角化増進の抑制効果を奏するが、これを配合した化粧料で、べたつきがなく、さっぱりとした使用感を有するものは得られていなかった。
【0005】
一方、近年n−ブチルメタクリレート(BMA)と2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)との共重合体(PMB)は優れた保湿効果を持つとともに、低濃度において多分子会合体を形成し、安定な疎水性ドメインを水溶媒系に構築することができることが報告されている(非特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−115490号公報
【非特許文献1】K. Ishihara et al Polym.J., 31, 12, 1231 (1999))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、コエンザイムQ10やレチノール類を含み、べたつきがなく、さっぱりとした使用感を有する可溶化化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の共重合体の水系溶液を用いることでコエンザイムQ10やレチノール類を含む可溶化化粧料が各種使用性に極めて優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(A)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCという)からなるホスホリルコリンモノマーと、下記一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルからなる疎水部含有モノマーとの共重合体と、
(B)コエンザイムQ10、レチノールおよびその誘導体から選択される一種または二種以上と、
(C)水系媒体と、
を含むことを特徴とする可溶化化粧料である。
【0010】
一般式(1):
CH2=C(CH3)−COOR ‥(1)
【0011】
(但し、Rは炭素数4〜22のアルキル基またはベンジル基である。)
【0012】
本発明においては、(A)成分である共重合体中のモノマーユニット組成比(モル比)が、ホスホリルコリンモノマーユニット:疎水部含有モノマーユニット=0.25:0.75〜0.80:0.20の範囲であることが好ましい。
また、前記メタクリル酸エステルは、n−ブチルメタクリレートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コエンザイムQ10やレチノール類を含みながら、べたつきがなく、さっぱりとした使用感を有する可溶化化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。
本発明においては、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCという)からなるホスホリルコリンモノマーと、メタクリル酸アルキルエステル(但し、アルキル基は炭素数4〜22である)からなる疎水部含有モノマーとの共重合体によりコエンザイムQ10等が水系媒体中に可溶化された化粧料である。
【0015】
本発明で用いられる2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とアルキルメタクリレートとの共重合体は、下記式(2)で示される繰り返し単位と、下記一般式(3)で表される繰り返し単位とを有し、分子量5000以上を有する水溶性の共重合体である。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
(但し、Rは炭素数4〜22のアルキル基またはベンジル基である。)
【0019】
ここで、上記式(2)で示される繰り返し単位数(n)と、上記一般式(3)で表される繰り返し単位数(m)は、好ましくはn:m=0.25:0.75〜0.80:0.20の範囲内、より好ましくはn:m=0.30:0.70〜0.50:0.50の範囲内であることが好ましい。
【0020】
また上記一般式(3)において、Rとしては、ブチル基、ステアリル基又はベンジル基であることが好ましく、ブチル基であることが特に好ましい。
【0021】
上記一般式(3)におけるRがブチル基であるn−ブチルメタクリレート(BMA)と2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とをモノマーとして用い、その繰り返し単位をn:m=0.30:0.70とした分子量50000の共重合体(PMB)は本発明において特に好ましいものである。
【0022】
本発明で用いられる(A)成分である2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)からなるホスホリルコリンモノマーと、下記一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルからなる疎水部含有モノマーとの共重合体は、例えば前記PMBの場合、Polym. J.,22,35,355(1990)に記載の方法に従って製造することができる。すなわち、MPC及びBMAを、好ましくは0.20:0.80〜0.85:0.15、例えば0.30:0.70のモル比で用い、好ましくはテトラヒドロフラン及びエタノールの混合溶媒中、開始剤、好ましくはα、α´−アゾビスイソブチロニトリルの存在下で、60〜65℃の反応温度で1〜20時間反応させることにより製造することができる。
【0023】
本発明において用いられる(A)成分である共重合体の配合量は、0.001〜10質量%であることが好ましく、特に0.01〜1質量%が好ましい。
【0024】
本発明において用いられる(B)成分中、レチノールの誘導体としては、酢酸レチノールが挙げられる。
本発明において用いられる(B)成分であるコエンザイムQ10、レチノールおよびその誘導体から選択される一種または二種以上の配合量は、0.0005〜5質量%であることが好ましく、特に0.005〜0.5質量%が好ましい。
【0025】
本発明において、(C)水系媒体は、水または水を50質量%以上含む有機溶剤−水混合溶媒を指す。ここで、有機溶剤とはエタノール、2−プロパノールなどのアルコール類が挙げられる。
【0026】
本発明の可溶化化粧料は、(B)成分であるコエンザイムQ10またはレチノール類を予め化粧料的に許容可能な溶媒に溶解した溶液とし、これを(A)成分の共重合体を(C)成分の水系媒体に溶解させたポリマー水溶液に混合することによって製造することができる。ここで、化粧料的に許容可能な溶媒としては、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコールなどのアルコール類、オクチルメトキシシンナメート、2−エチルヘキサン酸セチル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリットなどの極性油分、スクワラン、流動パラフィン、イソパラフィンなどの非極性油分からなる群から選択されることが好ましい。
【0027】
本発明の可溶化化粧料においては、任意成分として通常化粧料に用いられる成分、例えば保湿剤、油分、界面活性剤、増粘剤、粘度調整剤、皮脂吸着剤、金属封鎖剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、薬剤、色素、香料、防腐剤、pH調整剤等を併用することができる。
【0028】
さらに、本発明の(A)成分である共重合体を用いれば、コエンザイムQ10やレチノール類を含む可溶化物を調製することができることを利用して、コエンザイムQ10やレチノール類を含む透明な飲料を提供することもできる。
【実施例】
【0029】
以下、試験例及び実施例を記載して発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
製造例1(ホスホリルコリンモノマーと疎水部含有モノマーとの共重合体の製造)
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)及びブチルメタクリレート(BMA)を、n:m=3:7のモル比で用い、エタノール中にて開始剤としてα、α´−アゾビスイソブチロニトリルの存在下で、60℃で5時間反応させることにより、モノマー組成比がMPC:BMA=3:7である共重合体(以下、PMB30Wと称する。)を製造した。
【0030】
試験例1
下記表1に示す濃度に調製したPMB30W(製造例1で製造したもの)水溶液10mLに3mg/mL濃度のコエンザイムQ10の2−プロパノール溶液1mLを混合し、可溶化できるかを検討した。
【0031】
下記表1でコエンザイムQ103mgを溶解した場合を「○」、溶解しなかった場合を「×」で示した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果から、0.03質量%の濃度でコエンザイムQ10を可溶化するには、PMB30W水溶液濃度が1質量%以上である必要があることがわかった。
【0034】
試験例2
試験例1と同様にPMB30W水溶液によるレチノールの可溶化について検討した。下記表2に示す濃度に調製したPMB30W水溶液10mLに3mg/mL濃度のレチノールのエタノール溶液1mLを混合し、可溶化できるかを検討した。下記表2でレチノール3mgを溶解した場合を「○」、溶解しなかった場合を「×」で示した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2の結果から、0.03質量%の濃度でレチノールを可溶化するには、PMB30W水溶液濃度が0.1質量%以上である必要があることがわかった。
【0037】
試験例3
試験例1でのPMB30W水溶液に代えてショ糖脂肪酸エステル水溶液を用いた他は試験例1と同様にしてコエンザイムQ10の可溶化を行った。
【0038】
試験例1および試験例3で得られたコエンザイムQ10製剤の光透過率を比較したところ、試験例1のコエンザイムQ10製剤のPMB30W1質量%のものでは透過率100%であったのに対し、試験例3のコエンザイムQ10製剤のショ糖脂肪酸エステル10質量%のものでは透過率はほぼ0%であり、透明ではなかった。
【0039】
(実施例1) 化粧水
PMB30W 1.0 質量%
コエンザイムQ10 0.03
1,3ブチレングリコール 6.0
グリセリン 4.0
オレイルアルコール 0.1
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(15)ラウリルアルコールエーテル 0.5
エタノール 10.0
香料 適量
色材 適量
メチルパラベン(防腐剤) 適量
EDTA(褪色防止剤) 適量
クエン酸(緩衝剤) 適量
精製水 残余
【0040】
(製法)
精製水に保湿剤、緩衝剤、褪色防止剤を室温にて溶解し水相とする。エタノールに防腐剤、香料、エモリエント剤、界面活性剤を溶解し、先の水相に混合可溶化する。PMB30Wにて可溶化したコエンザイムQ10を添加後、色材により調色後、ろ過、充填して化粧水を得た。
【0041】
(実施例2) 乳液
PMB30W 1.0 質量%
コエンザイムQ10 0.03
ステアリン酸 2.0
セチルアルコール 1.5
ワセリン 4.0
スクワラン 5.0
グリセロールトリ-2-エチルヘキサン酸エステル 2.0
ソルビタンモノラウリン酸エステル 5.0
ジプロピレングリコール 3.0
PEG1500 1.0
トリエタノールアミン 適量
メチルパラベン(防腐剤) 適量
精製水 残余
【0042】
(製法)
精製水に保湿剤、アルカリを加え70℃に加熱調製する。油分を溶解し、これに界面活性剤、防腐剤、香料を加え70℃に調整する。この油相及びPMB30Wによって可溶化したコエンザイムQ10を、先に調整した水相に加え予備乳化を行う。ホモミキサーにて乳化粒子を均一にした後に、脱気、ろ過、冷却して乳液を得た。
【0043】
(実施例3) クリーム
PMB30W 1.0 質量%
コエンザイムQ10 0.03
ステアリン酸 8.0
ステアリルアルコール 4.5
ステアリン酸ブチル 6.0
モノステアリン酸グリセリン 5.0
プロピレングリコール 2.0
水酸化カリウム 0.4
香料 適量
メチルパラベン(防腐剤) 適量
EDTA(酸化防止剤) 適量
精製水 適量
【0044】
(製法)
精製水に保湿剤、アルカリを加え70℃に調整する。油分を加熱溶解後、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料を加え70℃に調整する。この油相及びPMB30Wによって可溶化したコエンザイムQ10を先に調製した水相に徐々に添加し、予備乳化を行う。ホモミキサーにて乳化粒子を均一に調整後、脱気、ろ過、冷却してクリームを得た。
【0045】
(比較例1)
ショ糖脂肪酸エステル 10.0 質量%
コエンザイムQ10 0.03
1,3ブチレングリコール 6.0
グリセリン 4.0
オレイルアルコール 0.1
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(15)ラウリルアルコールエーテル 0.5
エタノール 10.0
香料 適量
色材 適量
メチルパラベン 適量
EDTA 適量
クエン酸 適量
精製水 残余
【0046】
使用性の向上試験
比較例1で調製したコエンザイムQ10製剤と、実施例1,2で調製したコエンザイムQ10製剤について次の評価方法で使用性を比較したところ、優れた使用性の向上が確認できた。その結果を表3に示す。
【0047】
(使用性の評価法)
専門パネル20名によって、次の基準で官能評価した。
◎:15〜20名が良いと答えた
○:10〜14名が良いと答えた
△:5〜9名が良いと答えた
×:4名以下が良いと答えた
【0048】
【表3】

【0049】
実施例4 美容飲料
PMB30W 1.0 質量%
コエンザイムQ10 0.03
果糖ブドウ糖液糖 12.0
ガラクトオリゴ酸 0.2
クエン酸 0.3
ビタミンミックス 0.2
ドリンクフレーバー 0.2
水道水 残余
(製法)
水道水に果糖ブドウ糖液糖、ガラクトオリゴ酸、クエン酸、ビタミンミックス、ドリンクフレーバーを加えた後、PMB30Wにて可溶化したコエンザイムQ10を添加して透明飲料を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンからなるホスホリルコリンモノマーと、下記一般式(1)で表されるメタクリル酸エステルからなる疎水部含有モノマーとの共重合体と、
(B)コエンザイムQ10、レチノールおよびその誘導体から選択される一種または二種以上と、
(C)水系媒体と、
を含むことを特徴とする可溶化化粧料。
一般式(1):
CH2=C(CH3)−COOR ‥(1)
(但し、Rは炭素数4〜22のアルキル基またはベンジル基である。)
【請求項2】
共重合体中のモノマーユニット組成比(モル比)が、ホスホリルコリンモノマーユニット:疎水部含有モノマーユニット=0.25:0.75〜0.80:0.20の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の可溶化化粧料。
【請求項3】
前記メタクリル酸エステルが、n−ブチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の可溶化化粧料。

【公開番号】特開2007−204432(P2007−204432A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25566(P2006−25566)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】