説明

可燃ガス混合器

【課題】逆火や自発火等の異常燃焼を誘起させることがなく、高圧・高温の可燃ガスと酸素含有ガスとを均一に混合して改質用予混合ガス等を生成させることができる可燃ガス混合器を提供する。
【解決手段】予混合ガスを生成する予混合室22を備えた混合機構20と、予混合ガスを混合器外に噴出させる部位に配設され、逆火を防止する逆火防止機構30とを備え、逆火防止機構の噴出ノズル32が、予混合ガスを予混合室から混合器外部に導いて噴出させると共に、ガイドパイプ34が熱媒体をノズル32の部材壁に導き、同部材壁を介して熱媒体と予混合ガスとの間で熱の授受を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ガス製造プラントの反応器等に組み込み、使用されて好適な可燃ガス混合器に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスの有効利用を図るために、天然ガスを一旦反応性の高い合成ガス(例えば、メタンを一酸化炭素と水素)に変換した後、FT合成(フィッシャー・トロプシュ合成)等により分子構造を組み替えて軽油や灯油、或いはDME(ジメチルエーテル)と言った液体燃料を製造するGTL(ガス・トゥ・リキッド)転換技術が活発に研究されている。このGTL技術は、気体の天然ガスを液化して運搬や取扱いを容易にする他、石油由来の製品に比べ、燃料中の硫黄成分や、排気ガス中の一酸化炭素、窒素酸化物などの有害物質を減少させることができ、環境負荷が小さい燃料を得る技術として注目されている。
【0003】
GTL技術を普及させるためには、高効率で、事業性に見合った合成ガス製造プラントの開発が求められている。従来、合成ガス製造方法の一つとして、ATR法(Auto Thermal Reforming法)が知られている。ATR法は、天然ガス、石油、石炭、バイオマス等の合成ガス原料(メタンガス等)の一部を酸素バーナによる燃焼で発熱反応を起こし、その後、先の反応で生成された高温の水蒸気や二酸化炭素ガスを利用し、触媒層における吸熱改質反応により、メタンガス等を改質して合成ガスを生成させるものである。
【0004】
このATR法は、原料ガスの一部と酸素とを反応させるために、全体として燃料過剰(フューエルリッチ)状態で燃焼させることになり、多量の煤の発生を伴うという問題がある。また、反応器を大型化して大規模に合成ガスを生成させようとすると、反応器に複数の酸素バーナを装着することが必要になるが、焼損がなく、安全操業可能な複数バーナの開発が難しく、これがネックとなって、反応器大型化が困難になっている。複数酸素バーナによる大型化に代えて、反応器の基数を多くして大規模製造の問題を解決しようとすると、設備コストが大となり、また、多数の反応器を安全且つ円滑に運転することにも問題があり、プラント運転性の点で解決すべき問題が生じる。
【0005】
合成ガス製造の別の方法として、CPO法(Catalytic Partial Oxidation法)が知られている。CPO法は、原料ガス(メタン等)に酸素含有ガスを予め混合させた予混合ガスを、4MPaG、300degC程度に加圧、加熱して反応器内の触媒層に導き、予混合ガスの一部を部分酸化させて発熱させ、その発熱をその後の改質反応(吸熱反応)の熱源として合成ガス(一酸化炭素と水素)を生成させる。すなわち、CPO法は、ATR法がバーナによる酸化反応で原料ガスを一気に高温に晒すものとは異なり、反応器内での触媒による部分酸化反応で高温状態を維持するので、ATR法に比べて安全操業が可能であり、部分酸化反応と、その後段で改質反応を同時に進行させ、連続操業可能な合成ガス製造方法といえる。
【0006】
CPO法は、一つの反応器で連続操業可能な合成ガス製造方法である点で、特許文献1に記載されるサイクル式炭化水素改質方法と異なる。特許文献1の改質方法は、改質工程と再生工程とを行い得る一対の反応器を備えており、炭化水素燃料と水蒸気とを反応させて水素含有ガスを生成する工程と、再生用ガスを触媒燃焼することで、改質工程で低下した触媒温度を上昇させる再生工程とを交互に繰り返す。すなわち、サイクル式炭化水素改質方法では、一方の反応器が改質工程を行っている間に他方の反応器が再生工程を行うことで、サイクル式(バッチ式)に炭化水素改質を行いながら水素含有ガスを連続的に製造するようしている。このようなサイクル式炭化水素改質方法では、合成ガス製造の効率が悪く、大規模ガス製造には不向きである。
【0007】
なお、CPO法では、上述のように触媒の助けを得て部分酸化反応が進行していると考えられているが、触媒層内の空間において、触媒の助けを得ずに(無触媒反応により)燃焼反応(部分酸化反応)や改質反応、水性シフト反応が生じているとも考えられている。いずれにしても、CPO法はATR法とは異なりバーナが不要であるから、この点で反応器の大型化を可能にさせる。反応器の大型化は、設備コストを低減させると共に、プラント運転性の改善に大いに寄与する。
【特許文献1】特開2006−282470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
CPO法により合成ガスを生成するに際して、原料ガス(メタン等)と酸素含有ガス(特に酸素ガス)とが均一に混合されないで反応域に供給されると、反応域内での昇温に偏りが生じ、触媒層の一部が異状に高温になり、焼損する等の問題が生じる。混合気の濃度の偏りによる過熱を防止するためには、原料ガス(メタン等)と酸素含有ガスとを予め均一に混合させ、このような予混合ガスを反応器内の反応域に供給すればよく、上述のような過熱の問題は解消される。しかしながら、この場合の予混合ガスは、上述したCPO法による合成ガス製造においては、4MPaG、300degC程度に加圧、加熱しておく必要がある。
【0009】
加圧、加熱された予混合ガス中の酸素は強い支燃性を持つため、酸素を予め燃料と混合することは出来る限り避け、可能な限り反応域(反応場)で混合させなければならないと考えられている。混合中に自発火や触媒層からの逆火による予期せぬ燃焼を発生させないためである。反応域での混合は、燃料濃度の不均一な混合気を反応域に供給することを意味する。可燃ガスの混合中に一旦燃焼を起こすと、その混合ガス条件によっては、反応器を含む系内の圧力が急激に上昇してしまう状態、所謂、非常に危険な爆轟(デトネーション)状態に遷移する虞がある。
【0010】
従って、CPO法による合成ガス製造プラントにおいては、高圧・高温の均一予混合ガスが必要であるが、このような予混合ガスは自発火や逆火の危険を伴うという二律相反するような問題点を解決する必要があり、合成ガス製造プラントを長期間に亘って安全且つ安定的に操業するためには、上述の問題点を解決した混合器を必要とし、そのような混合器が備わって初めて製造装置の大型化が実現できる。
【0011】
上述した特許文献1に開示されるサイクル式炭化水素改質装置には、反応器とは独立して再生ガス混合器が設けられており、この混合器は、再生用ガスと酸素含有ガスとを混合して、再生工程を行う反応器に均一な再生用混合ガスを供給する。混合器を設けることで、再生工程への切り換えの初期に、再生用混合ガスの不均一に起因して反応器内で局所的に触媒燃焼温度が高くなる部分が生じることを防止し、結果的に局所的な高温部への接触又は接近に伴う再生用ガスの自己発火、気相燃焼の発生を防止できるとしている。
【0012】
特許文献1が開示する再生ガス混合器は、反応器内へ燃焼ガスと酸素含有ガスとを均一に混合した混合ガスを供給しなければならないという点で、本発明と目的を同一にしているが、特許文献1の混合器は、改質反応によって温度が低下した触媒の温度を上げて触媒能力を再生することだけを目的に、触媒再生のために別途準備される再生ガスと酸素含有ガスとの均一混合ガスを生成すればよい。
【0013】
一方、CPO法による大規模合成ガス製造プラントにおいては、反応器内の触媒層に供給する予混合ガスは、4MPaG、300degC程度に加圧、加熱されていなければならず、その予混合ガスは、改質反応の原料ガスであり、改質反応(吸熱反応)の熱源を供給する、部分酸化反応のための原料ガスでもある。このような予混合ガスを生成するための混合器として、特許文献1が開示するような単純な構成の混合器を適用することはできない。
【0014】
なお、本発明は、天然ガスばかりでなく、石油、石炭、バイオマス等の合成ガス原料(可燃ガス)と、酸素(支燃性ガス成分)の他、水蒸気、CO2 、CO等を含む酸素含有ガスとの混合に用いる混合器として広く適用することができる。
本発明は、上記の二律相反する問題を解決するために提案されたものであり、自発火や逆火による異常燃焼を誘起させることがなく、生成された高圧・高温の予混合ガスを、例えば、改質用混合ガスとして大型反応器等に好適に供給することできる可燃ガス混合器を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の本発明の可燃ガス混合器に依れば、可燃原料ガスと酸素含有ガスとの予混合ガスを生成させる可燃ガス混合器であって、前記予混合ガスを生成する予混合室を備えた混合機構と、前記予混合ガスを混合器外に噴出させる部位に配設され、逆火を防止する逆火防止機構とを備え、逆火防止機構は、予混合ガスを前記予混合室から混合器外部に導いて噴出させるノズル部材と、熱媒体を前記ノズル部材壁に導き、当該ノズル部材の部材壁を介して熱媒体と予混合ガスとの間で熱の授受を行わせるガイド部材とを備えることを特徴とする。
【0016】
請求項1記載の熱媒体は、特に限定されないが、請求項2の発明に依れば、前記ガイド部材は、前記熱媒体に前記熱授受を行わせた後、当該熱媒体を前記予混合室に放出し、前記熱媒体は、前記可燃原料ガス、酸素含有ガス、並びに前記可燃原料ガス及び/又は酸素含有ガスを構成する少なくとも1種の構成ガスから選択されることを特徴とする。
請求項3の発明に依れば、前記ガイド部材は、前記ノズル部材を囲繞し、ノズル部材壁外周に熱媒体を導くことを特徴とし、更に請求項4記載の発明に依れば、前記ノズル部材は、前記予混合室近傍に配置されるガス導入端と、予混合ガスを混合器外部に噴出させるガス噴出端とを有し、前記ガイド部材は、前記ノズル部材の前記ガス導入端からガス噴出端に亘って実質的にノズル部材の全長を囲繞することを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の本発明の可燃ガス混合器に依れば、前記熱媒体は、前記ノズル部材のガス噴出端に導かれた後、前記ガス導入端から前記予混合室に放出され、前記ガス噴出端における熱媒体温度を、前記予混合ガスを混合器外に噴出させる際に要求される予混合ガス温度に基づいて設定し、前記ガス導入端における予混合ガス温度を、熱媒体によって冷却される分だけ高い温度に調整されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の本発明の可燃ガス混合器に依れば、前記熱媒体は、前記ノズル部材のガス噴出端に導かれた後、前記ガス導入端から前記予混合室に放出され、前記ガス噴出端における熱媒体温度を、前記予混合ガスを混合器外に噴出させる際に要求される予混合ガス温度に基づいて設定し、前記ガス導入端における予混合ガス温度を、熱媒体によって加熱される分だけ低い温度に調整されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明に依れば、逆火防止機構のノズル部材が、予混合室の予混合ガスを混合器外部に導いて噴出させ、ガイド部材が熱媒体を前記ノズル部材壁に導き、この熱媒体と予混合ガスとの間でノズル部材の部材壁を介して熱の授受を行わせることができる。このため、予混合ガスは熱媒体により冷却又は加熱されて所要のガス温度(要求ガス温度)に容易に制御することができ、均一に予混合され、所要のガス温度の混合ガスを混合器外部に噴出させることができる一方、ノズル部材を通る均一予混合ガスのガス温度が熱媒体により制御され、効果的に消炎させることができ、逆火を防止することができる。
【0020】
請求項1記載の熱媒体は、特に限定されないが、請求項2の発明に依れば、熱媒体は、前記可燃原料ガス、酸素含有ガス、並びに前記可燃原料ガス及び/又は酸素含有ガスを構成する少なくとも1種の構成ガスから選択され、この熱媒体は、前記熱授受を行わせた後、前記予混合室に放出されるので、熱媒体や可燃原料ガス、酸素含有ガスに加えられた熱が有効に回収され、また、特別な熱媒体を準備する必要もない。
【0021】
請求項3の発明に依れば、ノズル部材を囲繞したガイド部材が、熱媒体をノズル部材壁外周に導くために、更に請求項4記載の発明に依れば、ガイド部材が、ノズル部材のガス導入端からガス噴出端に亘って実質的にノズル部材の全長を囲繞するようにして、熱媒体をノズル部材壁外周に導くために、熱媒体とノズル部材を通る予混合ガスとの間の熱の授受を効果的に行わせることができる。
【0022】
請求項5記載の本発明の可燃ガス混合器に依れば、熱媒体によって予混合室からの予混合ガスが冷却されることになり、ノズル部材内を伝播する火炎を有効に消炎することができ、また、予混合室での可燃原料ガス及び酸素含有ガスの温度を高く設定できるので、その分、ガスの体積容積が増加してガス流速が大きくなり、ガスが混合される剪断境界層での混合が促進して燃料濃度分布の偏りのない均一混合気を生成させることができる。
【0023】
請求項6記載の本発明の可燃ガス混合器に依れば、熱媒体によって予混合室からの予混合ガスが加熱されることになり、予混合室での可燃原料ガス及び酸素含有ガスの温度を低く設定できるので、その分、予混合室での自発火の心配をせずに低い温度で混合を行わせることができ、燃料濃度分布の偏りのない均一混合気を生成させることができる。また、ノズル部材内では熱媒体と予混合ガスの間での熱の授受を制御して予混合ガスを要求される温度に正確に加熱することができ、ノズル部材内の均一予混合ガスの正確な温度管理により、火炎伝播を防止して逆火(消炎)及び自発火を有効に阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る可燃ガス混合方法及び可燃ガス混合器の実施の形態を、図面を参照して説明する。
まず、図1を参照して、本発明に係る可燃ガス混合器が使用されて好適なCPO法による合成ガス製造プロセスについて説明する。図1に示す製造プロセスでは、理解を容易にし、説明を簡略化するために、天然ガス中の主燃料成分であるメタンから水素ガスを合成するプロセスが示されている。
【0025】
水素ガスを合成する高圧反応器1内には、触媒層(反応域)2が装着されており、この触媒層2において、後述する部分酸化反応、改質反応、及び水性シフト反応により、水素ガスを主成分とする合成ガスが生成される。そして、反応器1内の触媒層2の直ぐ上流には、本発明に係る可燃ガス混合器10が備えられている。反応器1には、可燃原料ガスであるメタンガス(CH4)と酸素(O2)及び水蒸気(H2O)から成る酸素含有ガスとが供給され、これらの供給ガスは、詳細は後述する方法によって、混合器10において均一に混合されて上述の触媒層2に供給される。
【0026】
反応器1に供給されるメタンガス(CH4)、酸素(O2)及び水蒸気(H2O)の成分比や、供給ガスの圧力・温度は、得ようとする合成ガス成分比等によって適宜値に設定することができるが、これらの供給ガス設定条件が変わると、反応器1内の触媒層温度も大きく変化するので、反応器等の耐久性や安全性を考慮してこれらの供給ガス設定条件が設定される。
【0027】
図1には、供給ガス設定条件が例示されており、供給ガス成分比を、触媒層2への供給時点で、例えば10:6:6に調整し、供給ガス圧力及び温度を例えば、4MPaG、300degCにそれぞれ設定すると、触媒にもよるが、触媒層2の上流触媒層温度は850degC程度に維持され、改質後の下流触媒層温度は700degC程度になり、水素(H2)と一酸化炭素(CO)の合成ガスが成分比で2:1の割合で得られると予測されている。触媒層2での反応速度(触媒温度)の確保や、改質反応温度の設定のために、供給ガス圧力及び温度を、図示しない圧縮機及び熱交換器によって、上述のように高圧、高温に設定している。
【0028】
上述のように供給ガス成分比、ガス圧力・温度等を調整した可燃原料ガス(メタンガス)と酸素含有ガス(酸素と水蒸気)の予混合ガスが触媒層2に供給されると、反応式1及び2で示す、酸化反応と部分酸化反応(いずれも発熱反応)が生じ、同時に反応式3乃至5で示す、改質反応(吸熱反応)が生じると考えられる。
CH4+2O2=CO2+2H2O+891kJ (反応式1)
CH4+1/2O2=CO+2H2+36kJ (反応式2)
CH4+H2O=CO+3H2−250kJ (反応式3)
CH4+CO2=2CO+2H2−247kJ (反応式4)
CO+H2O=CO2+H2−3kJ (反応式5)
CPO法による合成ガス製造方法では、供給ガス中の酸素成分割合がATR法に比較して低く、触媒層2において行われる酸化反応は、主として反応式2で示す部分酸化反応が支配的であるが、反応式1で示すメタンと酸素の酸化反応も一部行われる。そして、吸熱量の大きい反応式3の改質反応が同時に行われ、反応式4,5で示す改質反応、水性シフト反応も一部行われる。
【0029】
供給ガスの酸素がすべて消費されるまで、部分酸化反応や酸化反応が継続するが、上述したとおり、供給ガスの酸素含有量が少ないために、反応式2で示す部分酸化反応、及び反応式3で示す改質反応が支配的に行われ、触媒層温度はせいぜい850degCにしか上昇しない。
酸素成分がすべて消費されて部分酸化反応や酸化反応が終ると、以後は反応式3乃至5の改質反応(水性シフト反応)が支配的になる。これらの反応はいずれも吸熱反応であることから、触媒層2の後流部分に行けば行くほど触媒温度は低下し、触媒出口ではほぼ700degCになる。上述のような供給ガス設定条件では、水素(H2)と一酸化炭素(CO)の合成ガスが成分比で2:1の割合で得られる。
【0030】
酸素含有ガス中の酸素量を増加させると、反応式1の酸化反応が支配的になるので、触媒温度が上昇し、吸熱反応である改質反応(式3,4,5)が活発となり、水素の収量が増加することになる。酸素含有ガス中の酸素量を増加させると、逆火や自発火の危険が増すが、本発明の可燃ガス混合器は、詳細は後述するような逆火防止機構を備えるために、混合器内で燃料原料ガスと酸素含有ガスとを十分均一に混合させた上で、そのような混合器を触媒層2近傍に配置することができ、従って、酸素含有ガス中の酸素量を増加させた均一な予混合ガスを触媒層2に供給することができる。そのため、触媒の部分的な(局所的な)過熱が防止できるので、本発明に係る混合器10で得られる混合ガスの混合特性(均一混合度合い等)にも依るが、達成可能な限度において触媒温度を上げることができ、合成ガスを効率よく製造することができる。
【0031】
図2は、本発明に係る混合器10の概略を示すブロック図であり、この混合器10は、例えばメタンのような可燃原料ガス(燃料)と、酸素及び水蒸気からなる酸素含有ガスとを均一に混合させて予混合ガスを生成させるものであり、予混合ガスを生成する予混合室22を備えた混合機構20と、予混合ガスを混合器10の外部に噴出させる部位に配設され、逆火を防止する逆火防止機構30とを備えている。
【0032】
混合機構20において均一な予混合ガスを得るためには、本発明では特に限定するものではないが、混合させる2つの流れの境界に剪断層を生じさせ、スケールの小さい乱流によって混合促進を図るのがよい。そのような混合促進方法は、2つの流れに相対速度差を与えることが一般的であり、噴流を対向衝突させて混合する方法や、スタックミキサにより混合する方法、スワラーを利用して流れに旋回を付与する方法等の種々の方法が考えられる。
【0033】
燃料濃度に偏りがない均一な予混合ガスを如何なる方法により生成させるかはともかくとして、そのような混合機構20には、予混合ガスを生成するための予混合室22を備えている。そして、予混合室22で生成された予混合ガスは、予混合ガスを混合器の外部に噴出させる部位に配設された逆火防止機構30を介して外部に、すなわち、触媒層2に向かって噴出される。このとき、予混合ガスは、下流に配設される触媒層2の改質工程に要求される供給ガス設定条件(図1参照)を満たしており、例えばメタン、酸素、水蒸気の供給ガス成分比が、10:6:6に調整され、ガス圧力・温度も、詳細は後述するように、4MPaG、300degCに調整されている。そして、逆火防止機構30は、これも詳細は後述するように、逆火防止機構30に配置された多数の細孔の噴出ノズル32から予混合ガスを噴出させて、触媒層2の入口端面において予混合ガスが均一に行き渡るようにしている。
【0034】
逆火防止機構30は、図3及び図4にその詳細を示すように、予混合ガスを予混合室22から混合器外部に導いて噴出させる噴出ノズル(ノズル部材)32、噴出ノズル32の外壁(部材壁)32aを介して予混合ガスとの熱の授受を行う熱媒体をノズル外壁32aに導き、熱の授受後に当該熱媒体を予混合室22に放出するガイドパイプ(ガイド部材)34、混合器10の触媒層対向面に配設され、多数の細孔噴出ノズル32及びガイドパイプ34を取り付け、内部に熱媒体室36aが形成されている熱媒体容器36等を備えて構成されている。
【0035】
熱媒体容器36は、全体が中空円盤状をなし、触媒層2に対向する底板36bと逆皿状の上板36cとで上記閉空間の熱媒体室36aを区画している。そして、上板側壁には、冷却室36aに熱媒体(この実施形態では水蒸気が使用される)を供給するポート36dが設けられている。
噴出ノズル32は、直管のパイプ部材で構成され、その一端のガス導入端32bが予混合室22を臨んで開口し、他端のガス噴出端32cが混合器外方、すなわち触媒層2に向かって開口し、予混合室22を混合器外部に連通させている。そして、熱媒体容器の底板36bには、噴出ノズル32を多数固着させるための穴が規則正しく千鳥格子状に形成されており(図4参照)、噴出ノズル32は、この穴にガス噴出端32cを嵌合し、溶着して取り付けられている。一方、噴出ノズルのガス導入端32bは、熱媒体容器の上板36cに、各噴出ノズル取付位置に対応して穿設させた穴から予混合室22側に僅かに突出している。
【0036】
噴出ノズル32には、その外壁32aをガス導入端32bからガス噴出端32cに亘ってほぼ全長を囲繞するガイドパイプ34が配設されており、このパイプ34は、内径が噴出ノズル32の外径より大きい直管形状をしており、噴出ノズル32とガイドパイプ34間に熱媒体通路37が形成されている。そして、ガイドパイプ34は、その基端34aを、熱媒体容器の上板36cに穿設された上記穴に嵌合し溶着して熱媒体容器36に取り付けられている。一方、ガイドパイプ34の先端34bは、噴出ノズル32のガス噴出端32c近傍まで延びて配設されているが、先端34bと熱媒体容器底板36bの内底面との間に隙間36eが設けられており、熱媒体室36aからの熱媒体がその隙間36eを通って熱媒体通路37に導くことが出来る。そして、熱媒体容器の熱媒体室36aは、上記隙間36e及び熱媒体通路37を介して予混合室22に連通しており、予混合ガスとの熱の授受が終わった熱媒体は、熱媒体通路37を介し、ガイドパイプ34の基端34aから予混合室22に放出される。
【0037】
このように、ガイドパイプ34は、噴出ノズル32の外壁32aに沿ってガス導入端32bからガス噴出端32cに亘って延び、実質的にノズル32の全長を囲繞している。ガイドパイプ34は、熱媒体を噴出ノズル外周に導き、噴出ノズルの外壁32aを介して噴出ノズル32の内部を流れる予混合ガスから熱を奪う役割を有しており、この熱媒体を、ガス噴出端32cの近傍まで導き、熱媒体でガス噴出端32cでの過熱を防止した後、熱媒体を噴出ノズルの外壁32aに沿ってガス噴出端32cまで導く役割を果たすことが出来れば、ガイドパイプ34は、実質的にノズル32の全長を包むように覆っている状態、すなわち、囲繞していると言える。
【0038】
本発明に使用される熱媒体としては、特に限定されないが、熱の授受が終わった熱媒体は、上述したとおり、熱媒体通路37を介して予混合室22に放出されるので、可燃原料ガス(例えばメタン)、酸素含有ガス(例えば、酸素及び過熱水蒸気)、並びに可燃原料ガス及び/又は酸素含有ガスを構成する少なくとも1種の構成ガス(例えば水蒸気)から選択することが好ましい。 上記以外にも、例えば水、CO、エタンガス、水素、等の低温ガスが考えられるが、天然ガス等の合成改質反応を考慮すると、改質に使用されるガス成分を熱媒体とすることが好ましく、このような成分ガスを熱媒体として使用すると、熱媒体として殊更別のガスを準備する必要がなく、予混合ガス成分としてそのまま利用されるので、熱の回収、有効利用が出来、触媒層2に供給する予混合ガスの温度調整等を容易に行うことができる。
【0039】
そして、ガス噴出端32cの近傍に導かれる熱媒体の設定温度としては、特に限定しないが、最良の実施形態としては、触媒層2に供給する予混合ガスに要求されているガス温度に基づいて設定し、ガス導入端における予混合ガス温度を、熱媒体によって冷却される分だけ高い温度に調整することが好ましい。
噴出ノズル32の外壁32aを介して熱媒体と予混合ガスとの間で行われる熱交換は、熱媒体流量、速度、予混合ガス流量、速度、ノズル径等、種々のファクタに影響されることになるが、例えば、噴出ノズル32のノズル長が長ければ長いほど熱交換効率が高まるので、噴出ノズル32のノズル長を極力長く設定して、上記熱媒体温度を、触媒層2に供給する予混合ガスに要求されているガス温度(例えば、図1に示される300degC)に近い温度に設定すれば、ガス噴出端32cから噴出する予混合ガス温度を略要求とおりの温度(300degC)に制御することができる。
【0040】
ここで、噴出ノズルのガス噴出端32cでの予混合ガス温度を要求温度に近づける方法として、2つの方法がある。すなわち、第1の方法は、予混合ガスを熱媒体で暖めてガス噴出端32cで要求温度に近づける方法であり、この場合、ガス噴出端32cでの熱媒体温度は、予混合ガス要求温度(300degC)より若干高い温度(例えば、310degC)程度に設定され、ガス導入端32bでの予混合ガス及び熱媒体の各温度は、ガス噴出端32cでの温度より低くなる(例えば、それぞれ250degC、255degC)。
【0041】
第2の方法は、予混合ガスを熱媒体(冷媒ガス)で冷やしてガス噴出端32cでの予混合ガスを要求温度に近づける方法である。この場合、ガス噴出端32cでの熱媒体温度は、予混合ガス要求温度(300degC)より若干低い温度(例えば、290degC)程度に設定され、ガス導入端32bでの予混合ガス及び熱媒体の各温度は、ガス噴出端32cでの温度より高くなる(例えば、それぞれ350degC、345degC)。
【0042】
ガス噴出端32cでのノズル壁温を予混合ガス要求温度(300degC)程度に正確に制御できるので、逆火を防止する点ではいずれの方法でも問題がなく、大差がない。しかしながら、予混合ガス要求温度より若干低い温度の熱媒体でガス噴出端32cを冷やす第2の方法が有利と言える。しかしながら、第2の方法ではガス導入端32bでの予混合ガス温度を第1の方法に比して顕著に高く出来る点で(上記例示温度では約100度の差がある)大きな差異があり、予混合ガス温度を低く設定することができ、予混合室22での予混合ガスの自発火を防止する点では第1の方法が優れ、予混合ガス温度を高く設定することができ、混合機構20における混合剪断層を利用した混合に有利である点で、第2の方法が優れる。
【0043】
第1の方法を採用すれば、混合機構20によって燃料ガス及び酸素含有ガスを一度に急激に混合させても混合温度が低い分、自発火等の危険を未然に防止することができ、燃料濃度分布の偏りを極力なくし、均一な予混合ガスを生成することができる。そして、均一な予混合ガスを生成した後で、噴出ノズル32内における熱媒体との熱交換によって、予混合ガスに要求される温度にまで加熱すればよく、細孔噴出ノズルの使用によって、予混合ガスの温度制御を正確に行うことができる。そして、細孔噴出ノズルの使用は、消炎を容易にし、火炎の逆火を防止することができる。
【0044】
一方、第2の方法を採用すれば、同じ圧力条件下では予混合ガス温度が高いと、予混合ガスの体積容量が大きいことを意味し、その分、混合機構20内で流れるガス流速、すなわち燃料ガス及び酸素含有ガスの流速を高めることができ、剪断境界層での乱流混合が促進されて、より均一な予混合ガスが生成されることになる。そして、上述したとおり、熱媒体温度を、ガス噴出端32cにおいて予混合ガスの要求設定温度よりも低く設定することができるので、ガス噴出端32c付近を効果的に冷却して過熱を防止することができ、逆火の防止に有効である。
【0045】
噴出ノズルの内径d(図3参照)は、燃焼ガスの燃焼速度等で決まる消炎距離より小に設定しなければならない。ガス噴出端32cの近傍壁が火炎に晒されたり、触媒層や反応器壁面からの輻射により過熱すると、近傍の予混合ガス温度が上昇し、燃焼速度が大になり、消炎距離はこれに反比例して小となる。熱媒体(冷媒)によってガス噴射端32c近傍を冷却しない場合には、安全を考慮すると、噴出ノズルの内径dを極めて小さい値に設定せざるを得ず、ノズルの圧損が大になって、予混合ガスの噴出量を不均一にし、また、ノズルの目詰まりも生じる。
【0046】
本発明に係る逆火防止機構30に依れば、熱媒体(水蒸気)の温度は、上記第1及び第2の方法のいずれを採用しても、予混合ガスの噴出時における要求温度値近傍に設定され、熱媒体室36aからガス噴出端32c、熱媒体通路37を介して噴出ノズル外壁32aの外周回りに導かれ、これらの過熱されたガス噴出端32cや熱媒体通路37を冷却し、予混合ガスとの熱の授受によって、予混合ガス温度を要求温度値近傍に維持することができる。従って、予混合ガスの噴流によって、ガス噴出端32c近傍に形成される渦流R(図3参照)に火炎が保炎され、ガス噴出端32c近傍のノズル壁が過熱されることがあっても、熱媒体(水蒸気)によって冷却することができ、すなわち、火炎から壁面への熱損失が大きくなるため、燃焼反応を維持することが出来ず、効果的に逆火を防止することができる。
【0047】
熱媒体(水蒸気)によるガス噴出端32c近傍の冷却は、噴出する予混合ガスの燃焼速度を下げ、消炎距離を大にする効果がある。その結果、噴出ノズル32の内径dを大にしても逆火が生じないことを意味し、噴出ノズル32の内径dを大に出来れば、噴出ノズル32での圧力損失を小にでき、各噴出ノズル32から噴出する予混合ガスの流量の均一化や噴出ノズル32の目詰まりを防止することができ、触媒層2の局所的な過熱防止に大いに効果があり、合成ガス製造プラントの安全且つ安定的な操業に寄与し、プラント大型化を可能にすることが出来る。
【0048】
なお、上述の実施形態では、噴出ノズル32をガイドパイプ34で囲繞し、これらの間に形成される熱媒体通路37に熱媒体(水蒸気)を導いて噴出ノズル32内を流れる予混合ガスや、ガス噴出端近傍壁面の冷却を行ったが、噴出ノズル32やガス噴出端32c近傍壁面の冷却方法はこれに限定されず、ガイド部材によって熱媒体をノズル部材に導く方法としては、ガイド部材によって熱媒体の噴流を形成し、この噴流をノズル部材に吹き付けて熱媒体をノズル部材に導く方法等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る可燃ガス混合器が好適に適用される、合成ガス製造のための反応器の構成の概略と、反応器内で生じる酸化・改質反応を説明するためのフロー図、及びそれに対応させて示した、反応器内温度変化を示すグラフ。
【図2】本発明に係る混合器10の概略を示すブロック図。
【図3】図2に示す逆火防止機構14の部分断面図。
【図4】図3に示す逆火防止機構14のA−A矢視部分切開断面図。
【符号の説明】
【0050】
1 反応器
2 触媒
10 混合器
20 混合機構
22 予混合室
30 逆火防止機構
32 噴出ノズル(ノズル部材)
34 ガイドパイプ(ガイド部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃原料ガスと酸素含有ガスとの予混合ガスを生成させる可燃ガス混合器であって、
前記予混合ガスを生成する予混合室を備えた混合機構と、
前記予混合ガスを混合器外に噴出させる部位に配設され、逆火を防止する逆火防止機構とを備え、
逆火防止機構は、予混合ガスを前記予混合室から混合器外部に導いて噴出させるノズル部材と、
熱媒体を前記ノズル部材壁に導き、当該ノズル部材の部材壁を介して熱媒体と予混合ガスとの間で熱の授受を行わせるガイド部材と
を備えることを特徴とする可燃ガス混合器。
【請求項2】
前記ガイド部材は、前記熱媒体に前記熱授受を行わせた後、当該熱媒体を前記予混合室に放出し、
前記熱媒体は、前記可燃原料ガス、酸素含有ガス、並びに前記可燃原料ガス及び/又は酸素含有ガスを構成する少なくとも1種の構成ガスから選択されることを特徴とする、請求項1記載の可燃ガス混合器。
【請求項3】
前記ガイド部材は、前記ノズル部材を囲繞し、ノズル部材壁外周に熱媒体を導くことを特徴とする、請求項1又は2記載の可燃ガス混合器。
【請求項4】
前記ノズル部材は、前記予混合室近傍に配置されるガス導入端と、予混合ガスを混合器外部に噴出させるガス噴出端とを有し、
前記ガイド部材は、前記ノズル部材の前記ガス導入端からガス噴出端に亘って実質的にノズル部材の全長を囲繞する
ことを特徴とする、請求項3記載の可燃ガス混合器。
【請求項5】
前記熱媒体は、前記ノズル部材のガス噴出端に導かれた後、前記ガス導入端から前記予混合室に放出され、
前記ガス噴出端における熱媒体温度を、前記予混合ガスを混合器外に噴出させる際に要求される予混合ガス温度に基づいて設定し、
前記ガス導入端における予混合ガス温度を、熱媒体によって冷却される分だけ高い温度に調整されている
ことを特徴とする、請求項4記載の可燃ガス混合器。
【請求項6】
前記熱媒体は、前記ノズル部材のガス噴出端に導かれた後、前記ガス導入端から前記予混合室に放出され、
前記ガス噴出端における熱媒体温度を、前記予混合ガスを混合器外に噴出させる際に要求される予混合ガス温度に基づいて設定し、
前記ガス導入端における予混合ガス温度を、熱媒体によって加熱される分だけ低い温度に調整されている
ことを特徴とする、請求項4記載の可燃ガス混合器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−214164(P2008−214164A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57106(P2007−57106)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】