説明

可視光透過性を有する色素増感型太陽電池およびその製造方法

【課題】光電極および対向電極の両方に金属材料を適用しながらシースルーの外観を有し、且つ製造性が良く低コストである色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】一対の透光性板状体に挟まれたセル内に、貫通穴を有するステンレス鋼シートAを集電材料として備える光電極と、貫通穴を有するステンレス鋼シートBを導電材料として備える対向電極とが、電解液を介して向き合っている色素増感型太陽電池であって、
前記ステンレス鋼シートA、Bは、Cr:16質量%以上、Mo:0.3質量%以上を含有するステンレス鋼からなり、ステンレス鋼シートを厚さ方向に見た投影面積に占める貫通部の面積率が5〜80%、且つ貫通部の平均径が5〜500μmである貫通穴を有するものである、可視光透過性を有する色素増感型太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電極と対向電極の双方にステンレス鋼からなる導電部材を使用した、可視光透過性を有する色素増感型太陽電池、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は従来、主としてシリコンを光電変換素子に用いたものが使われているが、より経済的な次世代太陽電池として「色素増感型太陽電池」の実用化が研究されている。
【0003】
図1に、一般的な色素増感型太陽電池の構成を模式的に示す。透光性板状体2の表面に透光性導電膜3が設けられ、透光性導電膜3の表面には増感色素を担持した多孔質半導体層4が形成されている。透光性導電膜3と多孔質半導体層4により光電極10が構成されている。透光性導電膜3は、例えばITO(インジウム−錫酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化錫)、TO(酸化錫)、ZnO(酸化亜鉛)等の酸化物導電膜で構成され、透光性板状体2にはガラスやプラスチックフィルムなどが使用される。光電極10と向かい合うように対向電極20が配置されており、光電極10、対向電極20、および両電極間に介在する電解液8によって色素増感型太陽電池1が構成されている。対向電極20は導電材料6とその表面に設けられた触媒層7によって構成される。必要に応じて対向電極20を支持するための基板5が設けられる。
【0004】
光電極10を構成する多孔質半導体層4は比表面積の大きいTiO2等の半導体粒子を用いた多孔質層であり、半導体粒子の表面にはルテニウム錯体等の増感色素が担持されている。電解液としてはヨウ素(I2)およびヨウ化物イオンを含むものを使用することが一般的である。入射光30が多孔質半導体層4に担持されている増感色素に到達すると、増感色素(例えばルテニウム錯体)は光を吸収して励起され、その電子が半導体粒子(例えばTiO2)へと注入される。励起電子を注入して酸化状態になった増感色素は電解液8のイオン(例えばヨウ化物イオンI-)から電子を受け取り、基底状態に戻る。このとき液中のイオン(例えばI-)は酸化されて価数の異なるイオン(例えばI3-)となり、対向電極20へ拡散し、対向電極20から電子を受け取って元のイオン(例えばI-)に戻る。これにより、電子は「多孔質半導体層4→透光性導電膜3→負荷40→導電材料6→触媒層7→電解液8→多孔質半導体層4」の経路で移動する。その結果、負荷40を作動させる電流が発生する。
【0005】
対向電極20を構成する導電材料6としては、前記透光性導電膜3と同様にITO、FTO等の透光性を有する酸化物導電膜が使用されることがある。この場合、触媒層7がピンホールの多い薄膜層である場合には、対向電極20を可視光が透過することにより、色素増感型太陽電池1そのものに可視光透過性を持たせることができる。すなわち色素増感型太陽電池1を通して反対側がある程度透けて見えるという、いわゆる「シースルー」の外観が得られる。シリコンを光電変換素子に用いた太陽電池では基本的にシースルーの外観を呈するソーラーパネルを実現することは困難であるが、色素増感型太陽電池ではそれが可能である。このため色素増感型太陽電池は、例えば建築物の窓、駐輪・駐車場の屋根といった部位にシースルー性(可視光透過性)を活かしたソーラーパネルの設置を可能にするなど、意匠性の面での活用も期待されている。また、シースルー性を有する色素増感型太陽電池では、対向電極20側から差し込む入射光も発電に利用できるというメリットがある。
【0006】
このようなシースルー性を有する色素増感型太陽電池のセルを構築するためには、光電極と対向電極をともに透光性部材で構成する必要がある。図1における透光性導電膜3および導電材料6にFTO等の酸化物導電膜を使用した従来の色素増感型太陽電池では、両電極がそれぞれ透光性を有するため、シースルーの外観を得ることは可能であった。
【0007】
しかしながら、透光性の酸化物導電膜は金属材料と比較して導電性が低いので、そのような透光性導電膜を両電極に使用することは色素増感型太陽電池の光電変換効率を向上させる上で不利となる。また、触媒層7が導電材料6の表面を覆っていることにより、対向電極20の可視光透過性が弱められ、所望のシースルー外観が得られにくい場合もある。
【0008】
一方、光電極あるいは対向電極のいずれかにステンレス鋼板を用いたタイプの色素増感型太陽電池が知られている(特許文献4)。このタイプの色素増感型太陽電池では、両電極に酸化物導電膜を用いたものより導電性が向上する。ただし、シースルーの外観を得ることはできない。
【0009】
光電極の透光性を確保しながら、その集電部材として金属材料を利用する技術も種々提案されている。この場合、光の入射をできるだけ妨害しないように、多数の孔を設けた金属膜(特許文献1)、グリッド(特許文献2)、金属線(特許文献3)、ステンレス鋼メッシュ(非特許文献1)などが適用される。これらの手法は光電極だけでなく対向電極にも適用可能であると考えられる。しかし、特許文献1〜3のような構成の電極を形成するには複雑な工程を必要とし、コスト増を余儀なくされる。また、ステンレス鋼メッシュはステンレス鋼の細線からなる織物であることから高価であり、色素増感型太陽電池の普及を図る上では容易に採用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−123858号公報
【特許文献2】特開2003−203682号公報
【特許文献3】特開2005−158726号公報
【特許文献4】特開2009−26532号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Yoshikazu Yoshida et al.,APPLIED PHYSICS LETTERS 94,093301 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、光電極および対向電極の両方に金属材料を適用しながらシースルーの外観を有し、且つ製造性が良く低コストである色素増感型太陽電池を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは詳細な研究の結果、上記目的は、光電極の集電材料として多数の貫通穴を有するステンレス鋼シートを使用し、且つ対向電極の導電材料としても多数の貫通穴を有するステンレス鋼シートを使用することによって達成できることを見出した。また、そのようなステンレス鋼シートは、塩化第二鉄水溶液中でのエッチングによって効率良く生産できることがわかった。
【0014】
すなわち本発明では、
一対の透光性板状体に挟まれたセル内に、光電極と対向電極が電解液を介して向き合っている色素増感型太陽電池であって、
光電極は、貫通穴を有するステンレス鋼シートAと、増感色素を担持した多孔質半導体層が一体化したものであり、対向電極は、貫通穴を有するステンレス鋼シートBの少なくとも片面に触媒層を形成したものであり、
前記ステンレス鋼シートA、Bは、Cr:16質量%以上、Mo:0.3質量%以上を含有するステンレス鋼からなり、ステンレス鋼シートを厚さ方向に見た投影面積に占める貫通部の面積率が5〜80%、且つ貫通部の平均径が5〜500μmである貫通穴を有するものである、可視光透過性を有する色素増感型太陽電池が提供される。
ステンレス鋼シートの貫通穴は、圧延シートを電解質水溶液中に浸漬して孔食状ピットを成長させることにより形成したものが好ましい。
【0015】
ステンレス鋼シートの鋼種として、規格鋼種を挙げると以下の鋼が好適な対象となる。
[1]JIS G4305:2005に規定されるフェライト系鋼種に属し、且つCr含有量が16〜32質量%、Mo含有量が0.3〜3質量%の範囲にある鋼。
[2]JIS G4305:2005に規定されるオーステナイト系鋼種に属し、且つCr含有量が16〜32質量%、Mo含有量が0.3〜7質量%の範囲にある鋼。
ステンレス鋼シートAとBは、同一組成の鋼であっても構わないし、異なる組成の鋼であっても構わない。また、ステンレス鋼シートA、Bのどちらか一方が上記[1]に該当する鋼、他方が上記[2]に該当する鋼であってもよい。
【0016】
具体的に各元素の含有量範囲を示すと、以下の鋼が好適な対象となる。
[3]質量%でC:0.15%以下、Si:1.2%以下、Mn:1.2%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.6%以下、Cr:16〜32%、Mo:0.3〜3%、Cu:0〜1%、Nb:0〜1%、Ti:0〜1%、Al:0〜0.2%、N:0.025%以下、B:0〜0.01%、残部Feおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。
[4]質量%でC:0.15%以下、Si:4%以下、Mn:2.5%以下、P:0.045%以下、S:0.03%以下、Ni:6〜28%、Cr:16〜32%、Mo:0.3〜7%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1%、Ti:0〜1%、Al:0〜0.1%、N:0.3%以下、B:0〜0.01%、残部Feおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼。
この場合も、ステンレス鋼シートAとBがともに[3]に該当する鋼であっても構わないし、ともに[4]に該当する鋼であっても構わない。また、ステンレス鋼シートA、Bのどちらか一方が上記[3]に該当する鋼、他方が上記[4]に該当する鋼であってもよい。
【0017】
本発明の色素増感型太陽電池の光電極は、その多孔質半導体層が透光性板状体に面するように配置されていることが望ましい。
【0018】
また、上記のような本発明の色素増感型太陽電池の製造方法として、
下記の貫通穴形成方法Xにより貫通穴を有するステンレス鋼シートAを得たのち、そのステンレス鋼シートAの少なくとも片面に酸化物半導体で構成される多孔質半導体層を形成させ、次いで前記多孔質半導体層に増感色素を担持させることにより光電極を作製する工程(光電極作製工程)、
下記の貫通穴形成方法Xにより貫通穴を有するステンレス鋼シートBを得たのち、そのステンレス鋼シートBの少なくとも片面に触媒層を形成させることにより対向電極を作製する工程(対向電極作製工程)、
一対の透光性板状体に挟まれた空間内に、前記光電極と前記対向電極を、それらが互いに接触しないように向かい合わせて配置し、前記空間内の少なくとも両電極間および多孔質半導体層中の空隙に電解液を満たす工程(電池形成工程)、
を有する色素増感型太陽電池の製造方法が提供される。
〔貫通穴形成方法X〕
板厚0.005〜0.2mmのステンレス鋼圧延シートを、3価の鉄イオン濃度30〜100g/L、塩酸濃度0〜50g/Lの塩化第二鉄水溶液中に浸漬して、当該液中で孔食状ピットを成長させることにより、当該シートを厚さ方向に見た投影面積に占める貫通部の面積率が5〜80%、且つ貫通部の平均径が5〜500μmである貫通穴を形成させる。
【0019】
特に、前記「光電極作製工程」として、
前記の貫通穴形成方法Xにより貫通穴を有するステンレス鋼シートAを得たのち、そのステンレス鋼シートAの少なくとも片面に酸化物半導体粒子を含有するペーストを塗布して塗膜を形成させ、その塗膜を焼成することにより酸化物半導体粒子が焼結してなる多孔質半導体層をステンレス鋼シートAの表面上に形成させ、次いで前記多孔質半導体層に増感色素を担持させることにより光電極を作製する工程(光電極作製工程)、
を採用することができる。
【0020】
また前記「電池形成工程」として、
一対の透光性板状体に挟まれた空間内に、前記光電極と前記対向電極を、当該光電極の多孔質半導体層が透光性板状体に面し且つ両電極が互いに接触しないように向かい合わせて配置し、前記空間内の少なくとも両電極間および多孔質半導体層中の空隙に電解液を満たす工程(電池形成工程)、
を採用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下のようなメリットが得られる。
(1)光電極の集電材料および対向電極の導電材料がともに金属材料であるため、従来の透光性導電膜を使用した色素増感型太陽電池と比べ電池内部の導電性に優れ、光電変換効率の向上に有利となる。
(2)対向電極では、ステンレス鋼シートの貫通穴の部分を通して可視光が透過するので、触媒層によってシースルー性が阻害されない。
(3)両電極に透光性導電膜を併用する必要がないので低コスト化に有利となる。
(4)本発明で使用する穴あきステンレス鋼シートは、レジスト法を適用することなく、ステンレス鋼圧延シートを水溶液中でエッチングすることにより得られるので、生産性が高く、大量生産に適する。この点でも低コスト化に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一般的な色素増感型太陽電池の構成を模式的に示した図。
【図2】本発明の色素増感型太陽電池の構成を模式的に例示した図。
【図3】本発明の色素増感型太陽電池の構成を模式的に例示した図。
【図4】本発明の色素増感型太陽電池の構成を模式的に例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図2に、本発明の色素増感型太陽電池の構成を模式的に例示する。
光電極10は、貫通穴50を有するステンレス鋼シートAと、その片面に付着した多孔質半導体層4によって構成されている。この光電極10を用いた色素増感型太陽電池1では、図示されるように、多孔質半導体層4が透光性板状体2に面するように光電極10を配置させることができる。すなわち、従来、金属製の集電材料を透光性板状体2の表面上、あるいは図1示した透光性導電膜3と接触させた状態で配置していたタイプの色素増感型太陽電池(例えば特許文献1〜3)と比較して、本発明の色素増感型太陽電池では、金属製の集電材料による遮光や、透光性導電膜による若干の減光を経ずに、直接多孔質半導体層4に入射光30が届くので、光電変換効率の向上に有利となる。また、ステンレス鋼メッシュを用いたタイプの色素増感型太陽電池(非特許文献1参照)と比べ、ステンレス鋼と半導体層との密着性を確保することが容易である。
【0024】
また、対向電極20は、貫通穴50’を有するステンレス鋼シートBと、その片面に形成された触媒層7によって構成されている。貫通穴50’は触媒層7によって塞がれていない。この対向電極20を用いた色素増感型太陽電池1では、必要に応じて貫通穴50’を通して入射してくる入射光30’を発電に利用することができる。すなわち、光電極10側からの入射光30、および対向電極20側からの入射光30’のいずれか一方または双方を発電に利用することができる。対向電極20の外側には、電解液8を封止する目的で透光性板状体2’が設けられる。この透光性板状体2’は、光電極10側の透光性板状体2と同様、ガラスやプラスチックなどの透光性材料の板あるいはフィルムを適用することができる。
【0025】
本発明の色素増感型太陽電池1では、光電極10はステンレス鋼シートAの貫通穴50を通して、また対向電極20はステンレス鋼シートBの貫通穴50’を通して、それぞれ可視光を通過させることができるので、一対の透光性板状体2、2’に挟まれたセルは、シースルー性を有するものとなる。ステンレス鋼シートAの貫通孔50は、可視光の通過に加え、イオンの通過を担う。
【0026】
図2に示した電池の例では、電子は「多孔質半導体層4→ステンレス鋼シートA→負荷40→ステンレス鋼シートB→触媒層7→電解液8→多孔質半導体層4」の経路で移動する。その結果、負荷40を作動させる電流が発生する。
【0027】
図3に、本発明の別の態様の色素増感型太陽電池の構成を模式的に例示する。この場合、ステンレス鋼シートAの両側に多孔質半導体層4および4’が付着している。貫通穴50を介して両側の多孔質半導体層4、4’が繋がっていても構わないし、分離していても構わない。この場合、対向電極20側からの入射光30’が多孔質半導体層4’の部分において特に効率良く受光できる。
【0028】
対向電極20は、光電極10との間に間隙が確保されている限り、必ずしも透光性板状体2’の表面上に密着させる必要はない。意匠性や生産性を加味して、最適な位置に保持すればよい。
図4に、透光性板状体2’に接触していない状態で対向電極20を配置したタイプの色素増感型太陽電池の構成を例示する。この場合、触媒層7は図示されるようにステンレス鋼シートBの片面に形成されていても構わないし、両面に形成されていても構わない。
【0029】
〔ステンレス鋼シートA、Bの鋼種〕
色素増感型太陽電池の電解液には通常、ヨウ素(I2)およびヨウ化物イオン等を含む有機溶媒が使用される。本発明に適用するステンレス鋼シートA、Bは、このような電解液中で長期間安定して優れた耐食性を呈する素材で構成する必要がある。発明者らの検討の結果、80℃に加熱した当該電解液中に500時間浸漬したときの腐食減量が1g/m2以下となる性質のステンレス鋼を適用することが極めて有効であることがわかった。いわゆる裸の状態(被覆層を形成していない状態)で上記の厳しい試験環境における腐食減量が1g/m2以下となるステンレス鋼は、パーソナルユースの機器に搭載する普及型の色素増感型太陽電池を構築する上で、通常は十分な耐久性を有する。また、上記液中に1000時間浸漬したときの腐食減量が1g/m2以下となる性質のステンレス鋼は特に信頼性の高い色素増感型太陽電池を構築する上で一層有利である。
【0030】
発明者らは詳細な検討の結果、ステンレス鋼において、一定量以上のCrとMoを含有させることによって、有機溶媒を用いたヨウ素(I2)およびヨウ化物イオン含有電解質溶液中での溶解がほとんど進行しない優れた耐食性が付与できることを確認している。具体的には、ステンレス鋼材料においてCr含有量を16質量%以上とし、且つMo含有量を0.3質量%以上としたとき、色素増感型太陽電池に適用されるヨウ素(I2)およびヨウ化物イオン含有電解液中での溶解がほとんど生じない優れた耐食性を呈することを見出した。また、Cr含有量を17質量%以上とし、且つMo含有量を0.8質量%以上としたときには、より信頼性の高い色素増感型太陽電池を構築できる。この傾向はオーステナイト系やフェライト系といった鋼種の影響をあまり受けず、その他の添加元素の影響も少ない。
【0031】
本発明では、フェライト系鋼種と、オーステナイト系鋼種において、それぞれ以下の組成範囲のステンレス鋼を適用することができる。合金元素の含有量に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0032】
フェライト系鋼種;
「C:0.15%以下、Si:1.2%以下、Mn:1.2%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.6%以下、Cr:16〜32%好ましくは17〜32%、Mo:0.3〜3%好ましくは0.8〜3%、Cu:0〜1%、Nb:0〜1%、Ti:0〜1%、Al:0〜0.2%、N:0.025%以下、B:0〜0.01%、残部Feおよび不可避的不純物の組成を有するフェライト系ステンレス鋼」
規格鋼種を利用する場合は例えばJIS G4305:2005に規定されるフェライト系鋼種であってCr:16〜32質量%好ましくは17〜32質量%、Mo:0.3〜3質量%好ましくは0.8〜3質量%を含有するステンレス鋼を適用すればよい。
【0033】
オーステナイト系鋼種;
「C:0.15%以下、Si:4%以下、Mn:2.5%以下、P:0.045%以下、S:0.03%以下、Ni:6〜28%、Cr:16〜32%好ましくは17〜32%、Mo:0.3〜7%好ましくは0.8〜7%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1%、Ti:0〜1%、Al:0〜0.1%、N:0.3%以下、B:0〜0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物の組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼」
規格鋼種を利用する場合は例えばJIS G4305:2005に規定されるオーステナイト系鋼種であってCr:16〜32質量%好ましくは17〜32質量%、Mo:0.3〜7質量%好ましくは0.8〜7質量%を含有するステンレス鋼を適用すればよい。
【0034】
Cr含有量が16%未満またはMo含有量が0.3%未満だと、色素増感型太陽電池に適用されるヨウ素(I2)およびヨウ化物含有電解質溶液中において、当該材料の溶解がほとんど生じないような優れた耐食性を安定して得ることが難しくなる。より信頼性を向上させるには、フェライト系の場合Crを17%以上且つMoを0.8%以上含有させることが好ましく、Crを18%以上且つMoを1%以上含有させることが一層好ましい。オーステナイト系の場合Crを17%以上且つMoを0.8%以上含有させることが好ましく、Crを18%以上且つMoを2%以上含有させることが一層好ましい。ただし、CrやMoの含有量が過剰に多くなると製造性を害する等の弊害が顕著になる。このため、Cr含有量は32%以下とすることが望ましく、30%以下が一層好ましい。またMo含有量は、フェライト系の場合3%以下とすることが望ましく、オーステナイト系の場合7%以下とすることが望ましい。なお、元素含有量の下限「0%」は、当該元素の含有量が通常の製鋼現場での分析手法において測定限界以下であることを意味する。
【0035】
上記以外の元素として、V:0.3%以下、Zr:0.3%以下、Ca、Mg、CoおよびREM(希土類元素):合計0.1%以下といった元素の混入が許容される。これらはスクラップ等の原料から不可避的に混入する場合があるが上記範囲の混入であれば本発明の効果を阻害するものではない。
【0036】
種々の組成のステンレス鋼について、色素増感型太陽電池の電解液を模擬したヨウ素(I2)およびヨウ化物イオンを含む試験液に対する耐食性を調べた結果を例示する。
表1に示す組成の各種ステンレス鋼を溶製し、一般的なステンレス鋼板製造工程により板厚0.28〜0.81mmの冷延焼鈍鋼板(2D仕上げ材)を製造し、これを供試材とした。表1中、組織の欄は、「α」がフェライト系、「γ」がオーステナイト系を意味する。表中におけるハイフン「−」は、製鋼現場における通常の分析手法にて測定限界以下であることを意味する。
【0037】
【表1】

【0038】
各供試材から35×35mmの試験片を切り出し、表面(端面を含む)を#600乾式エメリー研磨で仕上げることにより、耐食性試験片とした。
色素増感型太陽電池の電解質溶液を模擬した試験液として、アセトニトリル溶媒中にヨウ素I2:0.05mol/L、およびヨウ化リチウムLiI:0.5mol/Lを溶解させたものを用意した。
【0039】
テフロン(登録商標)製の容器に前記試験液10mLを入れ、この液中に前記耐食性試験片を浸漬した。容器には蓋をして溶媒の揮発を抑えた。この容器を80℃の恒温槽中に保持し、浸漬開始から500時間経過後に試験片を取り出した。各鋼種ともサンプル数n=3で実施した。
【0040】
500時間浸漬後の各試験片について、腐食減量(初期の試験片質量−浸漬後の試験片質量)を測定した。n=3の腐食減量値のうち最も大きい値(すなわち金属の溶出量が最も大きかったもの)をその鋼種の腐食減量の成績として採用した。この500時間浸漬試験における腐食減量が1g/m2以下のものを合格と判定した。また、500時間浸漬試験後の試験片表面を目視観察し、外観を調べた。この場合も、n=3のうち最も腐食の程度が激しかった試験片の外観をその鋼種の成績として採用した。
参考のため、500時間浸漬後の外観において全面腐食または端面の腐食が認められた鋼種を除き、観察後の試験片を再び上記の浸漬試験に供し、トータル1000時間の浸漬試験における腐食減量および外観を調べた。
結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表1、表2からわかるように、Cr:16%以上、且つMo:0.3%以上を含有する本発明対象鋼は、裸のままでヨウ化物イオン含有電解液中に80℃×500hという厳しい条件で浸漬した場合の腐食減量が1g/m2以下となり、点錆の発生も少なく、優れた耐食性を示すことが確認された。Cr:17%以上、且つMo:0.8%以上を含有するものは、トータル1000時間の浸漬試験でも腐食減量が1g/m2以下であり、一層耐久性に優れる。
【0043】
〔ステンレス鋼シートA、Bの形態〕
光電極10を構成するステンレス鋼シートA、および対向電極20を構成するステンレス鋼シートBは、ともに可視光を十分に通過させるに足る貫通穴50、50’を有している必要がある。またステンレス鋼シートAの貫通穴50ではイオンの通過も円滑に行われなければならない。そのためには、貫通部の面積率を十分に確保することが重要である。ここで、貫通部の面積率は、ステンレス鋼シートを厚さ方向に見た場合の投影像に占める、貫通部の面積率(以下「貫通率」と呼ぶことがある)によって表すことができる。個々の貫通穴についての貫通部の面積は、当該貫通穴をステンレス鋼シートの厚さ方向見た場合に、穴を通して向こう側が貫通して見えている部分の投影面積である。貫通率は、少なくとも30個の貫通穴における貫通部が完全に含まれる矩形領域について、個々の貫通部の面積(当該矩形領域から一部がはみ出す貫通部は当該矩形領域内の部分の面積とする)を求め、それらのトータル面積を、当該矩形領域の面積(投影面積)で除することにより算出される。
【0044】
貫通穴50、50’は後述のように電解質水溶液中でのエッチングによって形成させることができる。その場合、ステンレス鋼シートの両面からそれぞれ孔食状ピットが成長するので、一方の表面から成長したピットが他方の表面に至って貫通穴が形成されることもあれば、双方から成長したピット同士が厚みの途中でぶつかって貫通穴となることもある。
【0045】
発明者らの検討によれば、ステンレス鋼シートA、Bいずれかの貫通率が5%を下回っていると、その色素増感型太陽電池1ではシースルー性を安定して呈することが難しくなることがわかった。また、ステンレス鋼シートAにおけるイオン通過性の観点からも、貫通率が5%を下回ると光電変換効率の急激な低下を招くようになることがわかった。このため、本発明に用いる穴あきステンレス鋼シートA、Bはいずれも、貫通率が5%以上であることが必要である。10%以上であるものが好ましく、20%以上であるものがより好ましい。特に良好なシースルー性を重視する場合には、貫通率は50%以上とすることが好ましく、60%以上が一層好ましい。一方、貫通率が過度に高くなると、ステンレス鋼シートA、Bとも強度低下に起因して製造過程でシートが破断しやすくなり、製造性に劣る。またステンレス鋼シートAでは十分な量の多孔質半導体層4(4’)を安定して保持することが難しくなる。種々検討の結果、ステンレス鋼シートA、Bの貫通率はいずれも80%以下とするのが良いことがわかった。70%以下に管理してもよい。
【0046】
個々の貫通穴50、50’のサイズに関しては、光電極10のステンレス鋼シートAでは貫通穴50のサイズが過大であると、多孔質半導体層4を形成する際に半導体粒子含有塗料の塗布が困難になることや、多孔質半導体層4からの集電が不均一になり光電極10の内部抵抗が増大する要因となることが考えられる。また、対向電極20のステンレス鋼シートBでは貫通穴50’のサイズが過大であると、電解液8中のイオンが対向電極20の表面に到達するまでの平均移動距離が大きくなることなどに起因して、光電変換効率の低下を招きやすくなることが考えられる。種々検討の結果、ステンレス鋼シートA、Bいずれの場合も、貫通部の平均径は500μm以下とすることが望まれ、200μm以下、あるいは100μm以下とすることがより好ましい。一方、貫通穴50、50’をあまり微細にしても光電変換効率の向上等の特性改善には繋がらず、また、そのような細かい貫通穴50、50’を多数形成させることは難しいので、通常、貫通部の平均径は5μm以上とすればよい。ここで、貫通部の平均径は、前述の貫通率を求める場合の条件を満たした矩形領域の中に完全に含まれる貫通部(すなわち、貫通部の一部分が当該矩形領域からはみ出しているものを除く)の平均径によって表される。個々の貫通部の径は、円相当径が採用される。円相当径とは、貫通部の面積をS(μm2)、円周率をπとするとき、S=πD2/4によって定まるD(μm)を意味する。
【0047】
ステンレス鋼シートA、Bの厚さは、いずれも0.005〜1mm程度の広い範囲で選択可能であるが、これらのステンレス鋼シートに色素増感型太陽電池1全体としての強度の大部分を負担させる必要がない限り、一般的には薄い方が好ましい。ただし、薄すぎると強度不足により製造時の取り扱いが難しくなるので、0.005mm以上の厚さを確保することが望ましい。具体的には、例えば、厚さ0.005〜0.2mm程度のステンレス鋼圧延シートを素材として用いて、後述の手法で貫通穴50の形成を行うことが好ましい。厚さ0.005〜0.1mmのステンレス鋼圧延シートを使用することが一層好ましい。
【0048】
〔貫通穴の形成〕
ステンレス鋼シートA、Bの貫通穴50、50’を形成させる手法として、塩化第二鉄水溶液中でのエッチングが極めて効果的である。ステンレス鋼シートの素材を塩化第二鉄水溶液中に単に浸漬する手法や、必要に応じてアノード電解あるいは交番電解を加える手法が利用できる。電解質水溶液に塩化第二鉄水溶液を用いると、ステンレス鋼表面に多数の微細な孔食状ピットを形成させることができる。その孔食状ピットは開口径の割りに深さの深い形態を呈するものとなるので、これを成長させることによりシートの厚さを貫通する穴を開けることが可能となる。具体的には、3価の鉄イオン濃度30〜100g/L、塩酸濃度0〜50g/Lの塩化第二鉄水溶液を使用することができる。温度は例えば20〜80℃範囲とすることが好適である。ステンレス鋼種によって耐食性レベルに差があるので、それぞれの鋼種に応じた電解質水溶液濃度、温度を上記の範囲で設定するとともに、処理時間や、電解を行う場合の電解条件などを最適に設定すればよい。貫通率や貫通部の平均径は、板厚に応じて上記各条件を変化させることによりコントロールすることができる。素材の鋼種および板厚、並びに目標とする貫通率および貫通部の平均径に応じて予備実験により最適条件を定めればよい。
【0049】
上記の塩化第二鉄水溶液中でのエッチングによって貫通穴50を形成すると、貫通穴が生じていない部分の表面にも、孔食状ピットが多数形成される。すなわち、当該エッチングによって貫通穴50、50’を形成したステンレス鋼シートA、Bは、貫通穴50、50’が生じていない部分の表面が孔食状ピットによって粗面化されているものとなる。この粗面化によって表面積が増大するので電池の内部抵抗低減に有効となる。しかも、この種の粗面化表面に形成されている孔食状ピット(貫通穴も含む)は、エッジが鋭く切り立った形態を有するので、光電極10のステンレス鋼シートAでは多孔質半導体層4(4’)に対するアンカー効果が働き、ステンレス鋼シートAと多孔質半導体層4との密着性向上にも有効となる。
【0050】
以下に、表1の鋼Hを用いた板厚0.01mmのステンレス鋼圧延シート(焼鈍材)について種々の条件で貫通穴を形成した実験例を開示する。
電解質水溶液として、3価の鉄イオン濃度、および塩酸濃度を種々変えた塩化第二鉄水溶液を用意し、前記ステンレス鋼圧延シートを前記電解質水溶液中に浸漬することにより、貫通穴の形成を試みた。液温、処理時間も種々変化させた。浸漬処理後のステンレス鋼シートを光学顕微鏡(KEYENCE社製;HV−5500)により板厚方向に観察し、前述した貫通部の平均径および貫通部の面積率(貫通率)を求めた。
処理条件および結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3からわかるように、電解質水溶液の濃度、液温、処理時間を変えることによって、貫通部の平均径および貫通部の面積率(貫通率)をコントロールすることができる。No.1、2は3価の鉄イオン濃度が低すぎたのでエッチング力が弱く、貫通穴の生成が不十分であった。No.3は塩酸濃度が高すぎたので全面溶解の傾向が大きくなり、金属の溶出量は多いものの、孔食状の深いピットが成長しにくく、結果的に60secでは十分に貫通穴が得られなかった。なお、本発明対象材はいずれも、貫通穴が生じていない部分の表面が孔食状ピットによって粗面化されていることが確認された。
【0053】
〔光電極の作製〕
光電極10を構成する多孔質半導体層4(4’)は、一般的な色素増感型太陽電池の光極を構成する酸化物半導体粒子層であればよく、例えば二酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO2)、酸化ニオブ(Nb25)の1種または2種以上の酸化物半導体粒子を成分とするものが採用できる。多孔質半導体層4に担持させる増感色素は、例えばルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニン、クマリン、インドリン、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどが適用できる。
【0054】
光電極10を形成させる手法としては、貫通穴50を有する前述のステンレス鋼シートAの少なくとも片側表面に、酸化物半導体の粒子を含有するペーストをドクターブレード法などにより塗布して塗膜を形成し、これを乾燥させた後、焼成する手法が好適に採用できる。酸化物半導体粒子がTiO2粒子の場合、焼成条件は例えば450〜550℃、0.5〜3h程度とすればよい。なお、ペーストを塗布および乾燥させることにより多孔質半導体層が形成されるタイプのペーストを使用する場合は、塗布後の焼成を省略してもよい。これにより酸化物半導体粒子同士が焼結し、多孔質の半導体層となる。このようにしてステンレス鋼シートAと多孔質半導体層4(4’)とが一体化した板状体が得られる。この板状体を、増感色素が懸濁している液に浸漬することにより、多孔質半導体層4(4’)に増感色素を担持させることができる。
【0055】
〔対向電極の作製〕
本発明で適用する対向電極20は、上記の穴あきステンレス鋼シートBの表面に触媒層7を形成させることにより作製される。触媒物質としては、白金、ニッケル、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェン、カーボンなどが適用できる。白金、ニッケルなどの金属膜の場合は、例えばスパッタリング法により形成することができる。ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェンなどの導電性高分子膜は例えばスピンコート法により形成することができる。カーボンの場合は、例えば活性炭分散溶媒を用いてスピンコート法により形成することができる。発明者らの検討によれば、平均膜厚が約1nmと極めて薄い白金膜を形成させた場合でも電池として機能することが確認された。触媒層7の平均膜厚は例えば1〜300nm程度とすればよい。変換効率の安定性と経済性を両立させる上では、10〜200nm、あるいは20〜100nmの範囲にコントロールすることより効果的である。
【実施例】
【0056】
表3に示したNo.1、2、3、4、6、11、13のステンレス鋼シートを、光電極のステンレス鋼シートAおよび対向電極のステンレス鋼シートBとして用いることにより、図2に示した構成の色素増感型太陽電池を試作した。
【0057】
〔光電極〕
多孔質半導体層を得るための材料として、TiO2粒子含有ペースト(ペクセルテクノロジーズ社製;PECC−01−06)を用意した。このペーストを各ステンレス鋼シートAの片側表面にドクターブレード法にて塗布し、常温で放置し乾燥させて乾燥塗膜とした。その後、炉に挿入して450℃で1h焼成することにより、多孔質半導体層を形成させ、ステンレス鋼シートAと多孔質半導体層が一体化した板状体を得た。この多孔質半導体層の平均厚さは10μmであった。
増感色素としてルテニウム錯体色素(Solaronix社製)を用意し、これをアセトニトリルとtert−ブタノールの混合溶媒に分散させ、色素溶液とした。
前記板状体を前記色素溶液中に浸漬させることにより、多孔質半導体層に増感色素を担持させ、ステンレス鋼シートAと当該多孔質半導体層で構成される光電極を得た。
【0058】
〔対向電極〕
各ステンレス鋼シートBの片側表面に、触媒物質として白金、ニッケル、ポリアニリン、カーボンのいずれかを用いた触媒層を形成することによって対向電極を得た。
白金、またはニッケルの場合は、ステンレス鋼シートBをスパッタリング装置にセットし、触媒物質である金属をターゲットに用いてスパッタコーティングすることにより触媒層を形成した。この膜厚は約20nmとした。
ポリアニリンの場合は、ポリアニリンが溶解したトルエン溶液をステンレス鋼シートBの表面に滴下するスピンコート法にて触媒層を形成した。この膜厚は約30nmである。
カーボンの場合は、活性炭を分散させたtert−ブタノール溶液をステンレス鋼シートBの表面に滴下するスピンコート法にて触媒層を形成した。この膜厚は約50nmである。
【0059】
〔電解液〕
電解液として、アセトニトリル溶媒中にヨウ素I2:0.05mol/L、およびヨウ化リチウムLiI:0.5mol/Lを溶解させたものを用意した。
【0060】
〔電池の形成〕
光電極のステンレス鋼シートA側の面と、対向電極の白金膜とが向き合うように、これら両電極を配置した。その際、両電極それぞれの外側には透光性板状体としてPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム基板を配置した。セルとなる部分の周囲にスペーサーを挿入して、双方の透光性板状体のセル内面同士の間隔が50μmとなるようにセルを構築した。そして、マイクロシリンダを用いてセル内部に電解液を注入し、両電極の間および多孔質半導体層の空隙を電解液で満たしたのち封止した。このようにして図2に示した構成の色素増感型太陽電池を得た。
【0061】
〔電池特性〕
各色素増感型太陽電池に、ソーラーシミュレータ(山下電装社製;YSS−100)を用いてAM1.5、100mW/cm2の擬似太陽光を光電極側から照射しながら、KEITHLEY社製「2400型ソースメータ」によりI−V特性を測定して、短絡電流JSC、開放電圧VOC、形状因子FFの値を得た。これらの値から下記(1)式により光電変換効率ηの値を求めた。
光電変換効率η(%)=短絡電流JSC(mA/cm2)×開放電圧VOC(V)×{形状因子FF/入射光100(mW/cm2)}×100 …(1)
【0062】
〔シースルー性〕
作製した色素増感型太陽電池を新聞紙上に置き、当該電池のセルを通して新聞紙の文字が見えるかどうかで電池のシースルー性を評価した。セルを通して新聞紙の文字が見えるものを○(良好)、それ以外を×(不良)と判定した。
これらの結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
表4からわかるように、ステンレス鋼シートA、Bいずれについても貫通穴の面積率(貫通率)を5%以上とした本発明例の色素増感型太陽電池では、シースルーの外観を呈する電池が構築できた。また、電池特性も良好であった。
【符号の説明】
【0065】
1 色素増感型太陽電池
2、2’ 透光性板状体
3 透光性導電膜
4、4’ 多孔質半導体層
5 基板
6 導電材料
7 触媒層
8 電解液
10 光電極
20 対向電極
30、30’ 入射光
40 負荷
50、50’ 貫通穴
A、B ステンレス鋼シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の透光性板状体に挟まれたセル内に、光電極と対向電極が電解液を介して向き合っている色素増感型太陽電池であって、
光電極は、貫通穴を有するステンレス鋼シートAと、増感色素を担持した多孔質半導体層が一体化したものであり、対向電極は、貫通穴を有するステンレス鋼シートBの少なくとも片面に触媒層を形成したものであり、
前記ステンレス鋼シートA、Bは、下記[1]または[2]の鋼からなり、ステンレス鋼シートを厚さ方向に見た投影面積に占める貫通部の面積率が5〜80%、且つ貫通部の平均径が5〜500μmである貫通穴を有するものである、可視光透過性を有する色素増感型太陽電池。
[1]JIS G4305:2005に規定されるフェライト系鋼種に属し、且つCr含有量が16〜32質量%、Mo含有量が0.3〜3質量%の範囲にある鋼。
[2]JIS G4305:2005に規定されるオーステナイト系鋼種に属し、且つCr含有量が16〜32質量%、Mo含有量が0.3〜7質量%の範囲にある鋼。
【請求項2】
前記ステンレス鋼シートA、Bは、下記[3]または[4]の鋼からなるものである、請求項1に記載の可視光透過性を有する色素増感型太陽電池。
[3]質量%でC:0.15%以下、Si:1.2%以下、Mn:1.2%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.6%以下、Cr:16〜32%、Mo:0.3〜3%、Cu:0〜1%、Nb:0〜1%、Ti:0〜1%、Al:0〜0.2%、N:0.025%以下、B:0〜0.01%、残部Feおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。
[4]質量%でC:0.15%以下、Si:4%以下、Mn:2.5%以下、P:0.045%以下、S:0.03%以下、Ni:6〜28%、Cr:16〜32%、Mo:0.3〜7%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1%、Ti:0〜1%、Al:0〜0.1%、N:0.3%以下、B:0〜0.01%、残部Feおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
ステンレス鋼シートA、Bの貫通穴は、圧延シートを電解質水溶液中に浸漬して孔食状ピットを成長させることにより形成したものである請求項1または2に記載の可視光透過性を有する色素増感型太陽電池。
【請求項4】
光電極は、その多孔質半導体層が透光性板状体に面するように配置されている請求項1〜3のいずれかに記載の可視光透過性を有する色素増感型太陽電池。
【請求項5】
下記の貫通穴形成方法Xにより貫通穴を有するステンレス鋼シートAを得たのち、そのステンレス鋼シートAの少なくとも片面に酸化物半導体で構成される多孔質半導体層を形成させ、次いで前記多孔質半導体層に増感色素を担持させることにより光電極を作製する工程(光電極作製工程)、
下記の貫通穴形成方法Xにより貫通穴を有するステンレス鋼シートBを得たのち、そのステンレス鋼シートBの少なくとも片面に触媒層を形成させることにより対向電極を作製する工程(対向電極作製工程)、
一対の透光性板状体に挟まれた空間内に、前記光電極と前記対向電極を、それらが互いに接触しないように向かい合わせて配置し、前記空間内の少なくとも両電極間および多孔質半導体層中の空隙に電解液を満たす工程(電池形成工程)、
を有する請求項1〜3のいずれかに記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
〔貫通穴形成方法X〕
板厚0.005〜0.2mmのステンレス鋼圧延シートを、3価の鉄イオン濃度30〜100g/L、塩酸濃度0〜50g/Lの塩化第二鉄水溶液中に浸漬して、当該液中で孔食状ピットを成長させることにより、当該シートを厚さ方向に見た投影面積に占める貫通部の面積率が5〜80%、且つ貫通部の平均径が5〜500μmである貫通穴を形成させる。
【請求項6】
前記「光電極作製工程」として、
前記の貫通穴形成方法Xにより貫通穴を有するステンレス鋼シートAを得たのち、そのステンレス鋼シートAの少なくとも片面に酸化物半導体粒子を含有するペーストを塗布して塗膜を形成させ、その塗膜を焼成することにより酸化物半導体粒子が焼結してなる多孔質半導体層をステンレス鋼シートAの表面上に形成させ、次いで前記多孔質半導体層に増感色素を担持させることにより光電極を作製する工程(光電極作製工程)、
を採用する請求項5に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記「電池形成工程」として、
一対の透光性板状体に挟まれた空間内に、前記光電極と前記対向電極を、当該光電極の多孔質半導体層が透光性板状体に面し且つ両電極が互いに接触しないように向かい合わせて配置し、前記空間内の少なくとも両電極間および多孔質半導体層中の空隙に電解液を満たす工程(電池形成工程)、
を採用する請求項5または6に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−108465(P2011−108465A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261384(P2009−261384)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】