説明

合成ガスから炭化水素を製造する触媒、触媒の製造方法、合成ガスから炭化水素を製造する方法、及び、触媒の再生方法

【課題】本発明は、触媒の強度や耐摩耗性を損なうことなく、高活性及び高耐水性を発現するF-T合成用触媒と触媒の製造方法並びに触媒の再生方法、及び該触媒を用いた炭化水素の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】シリカを主成分とする触媒担体上に、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びに貴金属を担持してなる触媒であって、該触媒の不純物含有量が0.01質量%〜0.15質量%であることを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒とその製造方法並びにその再生方法及び該触媒を用いた炭化水素の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素と水素を主成分とする、いわゆる合成ガスから炭化水素を製造するための触媒とその製造方法、及び該触媒を用いた炭化水素の製造方法、及び、触媒の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題が顕在化し、他の炭化水素燃料、石炭等と比較してH/Cが高く、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素排出量を抑えることができ、埋蔵量も豊富な天然ガスの重要性が見直されてきており、今後ますますその需要は増加するものと予想されている。そのような状況の中、東南アジア・オセアニア地域等には、パイプライン・LNGプラント等のインフラが未整備の遠隔地で発見されたものの、その可採埋蔵量が巨額の投資を必要とするインフラ建設には見合わず、未開発のまま残されている数多くの中小規模ガス田が存在し、その開発促進が望まれている。その有効な開発手段の一つとして、天然ガスを合成ガスに変換した後、合成ガスからFischer-Tropsch(F-T)合成反応を用いて輸送性・ハンドリング性の優れた灯・軽油等の液体炭化水素燃料に転換する技術の開発が各所で精力的に行われている。
【0003】
【化1】

【0004】
このF-T合成反応は、触媒を用いて合成ガスを炭化水素に転換する発熱反応であるが、プラントの安定操業のためには反応熱を効果的に除去することが極めて重要である。現在までに実績のある反応形式には、気相合成プロセス(固定床、噴流床、流動床)と、液相合成プロセス(スラリー床)があり、それぞれ特徴を有しているが、近年、熱除去効率が高く、生成した高沸点炭化水素の触媒上への蓄積やそれに伴う反応管閉塞が起こらないスラリー床液相合成プロセスが注目を集め、精力的に開発が進められているところである。
【0005】
一般的に触媒の活性は、高ければ高いほど好ましいことは言うまでもないが、特にスラリー床では、良好なスラリー流動状態を保持するためにはスラリー濃度を一定の値以下にする必要があるという制限が存在するため、触媒の高活性化は、プロセス設計の自由度を拡大する上で、非常に重要な要素となる。現在までに報告されている各種F-T合成用触媒の活性は、一般的な生産性の指標である炭素数が5以上の液状炭化水素の生産性で高々1(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)程度であり、前記観点からは必ずしも十分とは言えない(非特許文献1参照)。
【0006】
触媒の活性を向上させる方法の一つとして、担体として用いるシリカ中のナトリウム含有量を低下させることが有効であるとの報告があるが(非特許文献2参照)、ナトリウム含有量が0.01質量%を下回るものと、0.3質量%程度のものを比較したのみであり、ナトリウム含有量をどの程度低下させることで効果が発現するかという具体的な記述は一切無かった。
【0007】
また、アルカリ金属、アルカリ土類金属などの不純物が触媒の活性に与える影響を詳細に検討した結果、不純物濃度を一定範囲の触媒とすることで、従来の触媒と比較して活性を大きく向上させた例がある(特許文献1参照)。
【0008】
また、一般的にF-T合成反応触媒の粒子径は、熱や物質の拡散が律速となる可能性を低くするという観点からは、小さいほど好ましい。しかし、スラリー床によるF-T合成反応では、生成する炭化水素の内、高沸点炭化水素は反応容器内に蓄積されるため、触媒と生成物との固液分離操作が必ず必要になることから、触媒の粒子径が小さすぎる場合、分離操作の効率が大きく低下するという問題が発生する。よって、スラリー床用の触媒には最適な粒子径範囲が存在することになり、一般的に20〜250μm程度、平均粒径として40〜150μm程度が好ましいとされているが、以下に示すように、反応中に触媒が破壊、粉化を起こして、粒子径が小さくなることがあり、注意が必要である。
【0009】
即ち、スラリー床でのF-T合成反応では相当高い原料ガス空塔速度(0.1m/秒以上)で運転されることが多く、触媒粒子は反応中に激しく衝突するため、物理的な強度や耐摩耗性(耐粉化性)が不足すると、反応中に触媒粒径が低下して、上記分離操作に不都合をきたすことがある。更に、F-T合成反応では多量の水を副生するが、耐水性が低く、水により強度低下や破壊、粉化を起こし易い触媒を用いる場合は、反応中に触媒粒径が細かくなることがあり、上記と同様に分離操作に不都合をきたすことになる。
【0010】
また、一般的に、スラリー床用の触媒は、上記したような最適粒径となるように粉砕して粒度調整をして実用に供することが多い。ところが、このような破砕状の触媒には予亀裂が入っていたり、鋭角な突起が生じていたりすることが多く、機械的強度や耐摩耗性に劣るため、スラリー床F-T合成反応に用いた場合には、触媒が破壊して微粉が発生することになり、生成する高沸点炭化水素と触媒との分離が著しく困難になるという欠点を有していた。また、多孔質シリカをF-T合成反応用の触媒担体として用いると、比較的活性が高い触媒が得られることが広く知られているが、破砕による粒度調整を行った場合には、上述したような理由により強度が低下することはもちろん、シリカは耐水性が低く、水の存在により破壊、粉化することが多いため、特にスラリー床で問題となることが多かった。
【0011】
また、F-T反応により副生する水が多量に存在する反応雰囲気下(特にCO転化率が高い雰囲気下)では、主に活性金属である担持コバルトとシリカ担体の界面でコバルトシリケートを形成したり、担持コバルト自体が酸化されたりすることによると思われる、触媒活性が低下するという現象が発生することがあり、問題となっていた。またこの現象は触媒の経時劣化速度の促進、即ち触媒寿命を低下させてしまうことにも繋がるため、操業コストを引き上げる要因となっていた。これらは、活性コバルト金属の耐水性が低いと表現することができる。上記の触媒活性低下は特にCO転化率が高い雰囲気下において、副生水の分圧が増加することによって劣化速度が大きくなり顕著に現われるが、40〜60%のようなCO転化率が高くない雰囲気下でも、副生水の分圧に応じて比較的小さい速度で進行することになる。従って、触媒寿命を延命するという観点からは、CO転化率が高い条件だけでなく、比較的低い条件においても、耐水性を向上することが重要である。この、担持コバルトの酸化抑制、及び活性向上に関しては、貴金属の添加が有効であるとされているが、その効果を発現させるためには、多量の貴金属を必要としたり、多量の貴金属を添加した場合でも、その効果は十分ではなかった(特許文献2〜5参照)。
触媒活性低下の要因としては、上記の他に炭化水素の水素化分解、あるいは重合によるコバルト表面上への炭素析出が挙げられる。炭素成分でコバルト表面が覆われることにより、原料ガスと接触可能なコバルト表面積が減少することになり、触媒活性は低下することになる。この他、原料ガス中の硫黄成分、窒素成分等による被毒や、コバルト金属が反応中に凝集してしまうシンタリングが一般的である。
これらの要因で活性低下した触媒がある活性レベルを下回ると、反応プロセスの成績を維持するために触媒を交換、あるいは再生する必要がある。スラリー床では、反応を停止すること無く活性低下した触媒を交換することが可能であるという特徴を有する。しかし、活性低下した触媒を再生することが可能であれば、反応成績維持のための追加触媒が不要、あるいは追加量を減少できるため、製造コストを低減することが可能である。
【0012】
【特許文献1】特開2004-322085号公報
【特許文献2】US4,738,948
【特許文献3】US4,088,671
【特許文献4】特開2000-70720
【特許文献5】特表2004-528176
【非特許文献1】R. Oukaci et al., Applied Catalysis A:Genaral, 186(1999)129-144
【非特許文献2】J. Chen, Cuihua Xuebao, Vol.21, 2000, P169-171
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、合成ガスから炭化水素を製造する触媒の活性を向上させること、及び炭素析出や副生水による活性コバルト金属の活性低下を抑制することを目的とするものであり、副生水が大量に発生する高いCO転化率条件下でも安定的に使用することが可能であり、触媒寿命の長い、合成ガスから炭化水素を製造する触媒及び触媒の製造方法、並びに該触媒を用いた炭化水素の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、高耐水性且つ高活性を有するF-T合成用触媒と触媒の製造方法及び該触媒を用いた炭化水素の製造方法に関する。更に詳しくは、以下に記す通りである。
(1)シリカを主成分とする触媒担体に、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びに貴金属を担持してなる触媒であって、該触媒の不純物含有量が0.01質量%〜0.15質量%であることを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
(2)前記触媒中のコバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物の担持率がコバルト金属換算で5〜50質量%、貴金属の担持率が0.01〜5.0質量%であることを特徴とする(1)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
(3)前記不純物に含まれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の量が、前記触媒担体中の含有量で0.1質量%以下であることを特徴とする(1)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
(4)前記貴金属が、Ru、Rh、Re、Pt、Pd、Ir、Osの少なくとも一種以上からなることを特長とする(1)〜(3)のいずれかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
(5)前記触媒担体が球状のシリカであることを特徴とする(1)〜(4)の何れかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
(6)(1)〜(5)の何れかに記載の触媒を製造する方法であって、珪酸アルカリ水溶液と酸水溶液とを混合して生成させたシリカゾルをゲル化し、酸処理、水洗処理の少なくともいずれかを行った後、乾燥させて得られるシリカを担体として用いて、前記金属及び酸化物を担持させることを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(7)シリカゾルのゲル化後の前記酸処理、水洗処理の少なくともいずれかにおいて、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0〜0.06質量%である水を用いることを特徴とする(6)記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(8)前記生成したシリカゾルを、気体媒体中又は液体媒体中に噴霧させて球状に成形した後、酸処理、水洗処理の少なくともいずれかを行うことを特徴とする(6)又は(7)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(9)(1)〜(5)の何れかに記載の触媒を製造する方法であって、シリカを主成分とする触媒担体に、含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法を用いて、コバルト化合物及び貴金属化合物を同時に担持させ、その後、還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行って製造することを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(10)(1)〜(5)の何れかに記載の触媒を製造する方法であって、シリカを主成分とする触媒担体に、含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法を用いて、コバルト化合物、貴金属化合物をそれぞれ別々に担持させ、その際、最初の化合物の担持後に、乾燥処理、又は乾燥処理及び焼成処理を行い、残りの化合物の担持後に、還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行って製造することを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(11)前記最初に担持する化合物がコバルト化合物、残りの担持する化合物が貴金属化合物であることを特徴とする(10)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(12)前記担持させるコバルト化合物及び貴金属化合物が、前記含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法における製造原料において、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を0〜5質量%の範囲で含有することを特徴とする(9)〜(11)のいずれかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(13)前記シリカを主成分とする触媒担体に、更に、水、酸、アルカリのうち少なくとも何れかによる洗浄を施して不純物濃度を低下させてから、前記コバルト化合物及び前記貴金属化合物を担持させることを特徴とする(9)〜(12)のいずれかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(14)前記洗浄が、酸又はイオン交換水の一方又は双方を用いた洗浄である(13)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(15)前記シリカを主成分とする触媒担体が(6)〜(8)のいずれかに記載の方法で製造した担体であることを特徴とする(9)〜(14)のいずれかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(16)(1)〜(5)の何れかに記載の触媒を用いて合成ガスから炭化水素を製造する方法であって、スラリー床を用いた液相反応で合成することを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する方法。
(17)前記液相反応において、触媒量、原料ガス供給量、反応温度、反応圧力を調整し、ワンパスCO転化率を40〜95%とすることを特徴とする(16)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する方法。
(18)(1)〜(5)の何れかに記載の触媒を用いて合成ガスから炭化水素を製造した後、活性低下した触媒を再生する方法であって、前記活性低下した触媒に水素を含む再生ガスを供給して、前記触媒と再生ガスを接触させることを特徴とする触媒の再生方法。
(19)(1)〜(5)の何れかに記載の触媒を反応器に充填し、当該反応器内で合成ガスから炭化水素を製造した後、活性低下した触媒を再生する方法であって、前記反応器に水素を含む再生ガスを供給し、前記触媒と再生ガスを接触させることを特徴とする触媒の再生方法。
(20)(16)記載の方法により合成ガスから炭化水素を製造した後、活性低下した触媒を再生する方法であって、前記スラリー床に水素を含む再生ガスを供給し、前記触媒と再生ガスを接触させることを特徴とする触媒の再生方法。
(21)前記触媒中のコバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物の担持率がコバルト金属換算で5〜50質量%、貴金属の担持率が0.001〜5.0質量%であることを特徴とする(1)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、副生水が大量に生成する高いCO転化率条件下でも触媒の耐水性が高く、触媒の強度及び活性を損なう程度の小さい、極めて安定性の高いF-T合成用触媒及びその製造方法を提供できる。また、活性低下しても再生が可能であり、該触媒により高い炭化水素生産性を有するF-T合成反応を行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を更に詳述する。
【0017】
本発明者らは、シリカを主成分とする担体に、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びに貴金属を担持してなる不純物の少ない触媒が、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物は担持するが、貴金属を担持しない不純物の少ない触媒と比較して、特に高いCO転化率条件下において著しく耐水性が向上すること、比較的低いCO転化率条件下においても触媒寿命が増加すること、更には活性が向上すること、触媒再生が容易になることを見出し、本発明に至った。また、特定の物理特性を有し、球形の担体を用いることで活性を損なわずに耐摩耗性の高い高強度の触媒を提供及び製造することが可能である。
【0018】
本発明による触媒は、F-T合成反応に活性を有するコバルト系触媒であり、また、担体としてはシリカを主成分とするものを選定し、使用するものである。ここでいうシリカを主成分とする担体とは、シリカ含有量が50質量%以上で100質量%未満のものであり、シリカ以外にアルミナを含有するものや、シリカ担体の製造工程における不可避的不純物を少量含むものを指す。ここでいう不可避的不純物とは、シリカ担体の製造工程で使用される洗浄水に含有される不純物種や出発原料に含有される元素にもよるので限定できないが、例えば、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などである。
【0019】
触媒の担持方法は、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等によればよい。担持において使用する原料(前駆体)であるコバルト化合物や貴金属化合物としては、担持後に還元処理、または焼成処理及び還元処理する際に、カウンターイオン(例えば硝酸塩であればCo(NO3)2中の(NO3)-)が揮散するものであり、溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、アセチルアセトナートなどが使用可能であるが、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。具体的には、塩化貴金属酸や硝酸コバルトなどは、焼成時に酸化貴金属や、酸化コバルトに容易に変化し、その後のコバルト酸化物の還元処理も容易であるため好ましい。
【0020】
コバルトの担持率(担持したコバルトの質量が触媒質量全体に占める割合)の適正範囲は、活性を発現するための最低量以上であり、担持したコバルトの分散度が極端に低下して、反応に寄与できないコバルトの割合が増大してしまう担持率以下であればよい。具体的には5〜50質量%であり、好ましくは10〜40質量%である。この範囲を下回ると活性を十分発現することができず、また、この範囲を上回ると分散度が低下して、担持したコバルトの利用効率が低下して不経済となるため、好ましくない。ここでいう担持率とは、担持したコバルトが最終的に100%還元されるとは限らないため、100%還元されたと考えた場合の金属コバルトの質量が触媒質量全体に占める割合を指す。
【0021】
コバルトと共に担持する貴金属としては、Ru、Rh、Re、Pt、Pd、Ir、Osを用いることができ、これら貴金属を単独で使用しても、組み合わせて使用しても良い。これら貴金属の担持率の適正範囲は、耐水性効果、活性向上効果、再生促進効果を発現するための最低量以上であり、担持した貴金属の分散度が極端に低下して、添加した貴金属のうち効果発現に寄与しない貴金属の割合が高くなり不経済となる担持率以下であればよい。具体的には、0.001〜5.0質量%であり、好ましくは0.01〜1.0質量%である。この範囲を下回ると耐水性向上効果、活性向上効果、再生促進効果を十分発現することができず、また、この範囲を上回ると担持した貴金属の利用効率が低下して不経済となるため、好ましくない。
【0022】
コバルト化合物、貴金属化合物のシリカを主成分とする担体への担持は、前述の担持方法によって行うことが可能であるが、同時でも別々でも良い。
【0023】
同時に担持する際には、コバルト化合物、貴金属化合物の混合溶液を調製して担持するため、一度の担持操作でコバルト化合物、貴金属化合物が同時に担持される。担持後は必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行う。このような処理を施すことにより、コバルト化合物の全部を金属化、又は一部を金属化し残りを酸化物化して、且つ、貴金属化合物を酸化物化する。
【0024】
一方、別々に担持する際にはコバルト化合物の溶液、貴金属化合物の溶液をそれぞれ調製し、最初に一方の溶液を用いてシリカを主成分とする担体へ担持し、乾燥または乾燥及び焼成処理後、残りのもう一方の溶液を用いて更に担体へ担持する。担持後は必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行う。このような処理を施すことにより、コバルト化合物の全部を金属化、又は一部を金属化し残りを酸化物化して、且つ、貴金属化合物を金属化する。
【0025】
また、鋭意検討した結果、別々に担持する際のコバルト化合物、貴金属化合物のシリカ担体への担持はコバルト化合物、貴金属化合物の順に逐次触媒製造時に担持させることが好ましいことが多く、逆に貴金属化合物、コバルト化合物の順で担持した触媒は、前者と比較して活性及び耐水性が低下することが明らかとなった。これは貴金属の作用機構が、貴金属表面に解離吸着した水素が担体表面やコバルト表面に溢れ出す、いわゆるスピルオーバー現象により、コバルトの還元度を向上させる効果によるものであるためであると考えられる。即ち、貴金属を先に担持すると、ほんの少量しか添加しない貴金属が後から担持したコバルトに覆われて機能しなくなってしまう可能性が高くなるためであり、貴金属を後から担持してコバルトあるいはシリカ担体などのガス成分が接触することが可能な表面に貴金属を存在させた方が貴金属の作用効率が高いためであると推定される。
【0026】
十分な効果を発現させるために必要な貴金属の添加量は、不純物が多い触媒では極めて多くなり不経済であったり、その効果が十分得られなかったりしたが、本発明の触媒では、上述のような少量の貴金属を添加するだけで十分かつ高度な効果が得られることが判明した。これは、特に不純物が少ない担体を使用した場合に顕著であり、不純物が少ないことでシリカ表面に貴金属が高分散かつ均質に形成されやすく、少量の貴金属で効率的に触媒表面の特性を還元性雰囲気に変えることができたためと推定される。
【0027】
また、上記の順に従って調製したコバルト化合物と貴金属化合物を担持してなる触媒では、コバルト化合物は担持するが貴金属化合物を担持しない触媒と比較すると活性は向上する。これは、貴金属添加によるスピルオーバー水素によりコバルト表面の還元度合いが高くなり、活性種であるコバルト金属の比率が向上した結果であると考えられる。
【0028】
以下に、上記の触媒を得る方法の一例を示す。まずコバルト化合物からなる前駆体の水溶液をシリカを主成分とする不純物の少ないに担体に含浸担持後、必要に応じて乾燥、焼成処理を行い、次いで、貴金属化合物からなる前駆体水溶液を含浸担持し、必要に応じて乾燥、焼成、還元処理を行い、F-T合成触媒を得ることができる。コバルト化合物の担持後には乾燥処理(例えば空気中100℃-1h)を行い、引き続き焼成処理(例えば空気中450℃-5h)を行っても、乾燥処理を行うだけで次工程である貴金属含浸担持を行っても良いが、コバルトが貴金属含浸担持操作中に貴金属を取り込むことで貴金属の添加効率が低下しないようにするためには、焼成処理を行って酸化コバルトに変換しておくと良い。貴金属化合物の含浸担持を行った後、必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き担体表面のコバルト化合物をコバルト金属に還元(例えば、常圧水素気流中450℃-15h)することでF-T合成触媒が得られるが、焼成して酸化物に変化させた後に還元処理を行っても、焼成せずに直接還元処理を行っても良い。還元処理の温度を高くしたり時間を長くしたりすることにより還元条件を厳しくすると、還元処理後にコバルトが酸化物の状態から金属状態まで還元される比率が高くなり、極端に厳しい還元処理を行うとコバルト金属のみの状態にすることも可能となる。しかし、一般的な還元条件ではコバルト金属の酸化物を一部含有するコバルト金属となることが多い。還元処理後の触媒は、大気に触れて酸化失活しないように取り扱う必要があるが、担体上のコバルト金属の表面を大気から遮断するような安定化処理を行うと、大気中での取り扱いが可能となり好適である。この安定化処理には、低濃度の酸素を含有する窒素、二酸化炭素、不活性ガスを触媒に触れさせて、担体上のコバルト金属の極表層のみを酸化するいわゆるパッシベーション(不動態化処理)を行ったり、F-T合成反応を液相で行う場合には反応溶媒や溶融したFTワックスなどに浸漬して大気と遮断したりする方法があり、状況に応じて適切な安定化処理を行えばよい。
【0029】
また、活性金属、担体構成元素以外の触媒中の不純物を低減し、ある範囲内に制御することが、活性向上及び耐水性向上に対して極めて効果的である。本発明のシリカを担体とした場合では、前記したように、Na等のアルカリ金属、Ca、Mg等のアルカリ土類金属や、Fe等が不純物としてシリカ中に含まれることが多い。これら不純物の影響を、活性金属にコバルトを用いて詳細に検討したところ、アルカリ金属やアルカリ土類金属が多量に存在すると、F-T合成反応における活性が大きく低下する。中でも、ナトリウムの存在の影響が最も強い。
【0030】
良好な触媒活性及び高い耐水性を発現させるためには、触媒中の不純物量は0.15質量%以下に抑える必要がある。この量を上回ると活性が大きく低下するため、著しく不利となる。しかし、不純物量を必要以上に低減することは純度向上にコストがかかり不経済となるため、触媒中の不純物量は0.01質量%以上とすることが好ましい。担持率や前駆体の種類にもよるため限定することが困難ではあるが、触媒中の不純物量を低減するためには、前記したような活性金属の前駆体中の不純物量を5質量%以下に抑えることが効果的である。
【0031】
触媒中の不純物の中で触媒の活性に最も悪い影響を及ぼす元素は、アルカリ金属とアルカリ土類金属である。これら金属の担体中の含有量が0.01質量%を下回る範囲内ではアルカリ金属とアルカリ土類金属の影響はほとんど見られないものの、0.1質量%を上回ると活性は徐々に低下する。従って、担体中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量は0.0〜0.1質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.0〜0.07質量%、更に好ましくは0.0〜0.04質量%である。
【0032】
担体中の不純物の総量としては前述したように0.15質量%を上回ると、触媒の活性が大きく低下する。ここでも上記と同様に、担体中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量を必要以上に低減することは不経済となるため、触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属は触媒活性に悪影響を与えない範囲で含有していても構わない。上記したように、担体中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量を0.01質量%程度まで低下させれば、十分な効果が得られることから、担体中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量は0.01質量%以上とすることが、コスト面から好ましい。
【0033】
製造工程で不純物が入らないような工夫が可能な担体であれば、製造中に不純物が混入しないような施策を施すことが好ましい。一般にシリカの製造方法は、乾式法と湿式法に大別される。乾式法としては燃焼法、アーク法等、湿式法としては沈降法、ゲル法等があり、いずれの製造方法でも触媒担体を製造することは可能であるが、ゲル法を除く上記方法では球状に成形することが技術的、経済的に困難である為、シリカゾルを気体媒体中又は液体媒体中で噴霧させて容易に球状に成形することが可能であるゲル法が好ましい。
【0034】
例えば、上記ゲル法にてシリカ担体を製造する際には、通常多量の洗浄水を用いるが、工業用水等の不純物を多く含んだ洗浄水を用いると、担体中に多量の不純物が残留することになり、触媒の活性が大幅に低下して好ましくない。しかし、この洗浄水として不純物の含有率が低い、あるいはイオン交換水などの不純物を全く含まないものを用いることで、不純物含有量の少ない良好なシリカ担体を得ることが可能となる。この場合、洗浄水中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量は0.06質量%以下とすることが好ましく、これを上回ると、シリカ担体中の不純物含有量が多くなり、調製後の触媒の活性が大きく低下するため好ましくない。洗浄水に酸性の水溶液を用いる場合にも同様な理由で、酸性の水溶液中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量は0.06質量%以下とすることが好ましい。理想的にはイオン交換水の使用が好ましく、イオン交換水を得るためには、イオン交換樹脂などを用いて製造しても良いが、例えばシリカを担体として採用する場合には、シリカの製造ラインにて規格外品として発生するシリカゲルを用いてイオン交換を行い、製造することも可能である。原理的に、洗浄水中の不純物をシリカが補足するのは、シリカ表面のシラノール中水素とアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンなどの不純物イオンとがイオン交換することによる。よって、少々不純物を含んだ洗浄水であっても、洗浄水のpHを低めに調整することで、不純物の補足をある程度防ぐことが可能となる。また、イオン交換量(不純物混入量)は用いる洗浄水の量に比例するため、洗浄水量を低減すること、換言すれば水洗終了までの水の使用効率を上げることでも、シリカ中の不純物量の低減が可能となる。
【0035】
触媒担体の物理的、化学的特性を大きく変化させずに水による洗浄、酸による洗浄、アルカリによる洗浄等の前処理を施すことで、シリカ担体中の不純物を低下させることができる場合には、これらの前処理が触媒の活性向上に極めて有効である。
【0036】
例えば、シリカ担体の洗浄には、硝酸、塩酸、酢酸等の酸性水溶液にて洗浄することや、イオン交換水にて洗浄することが特に効果的である。これらの酸による洗浄処理の後に、酸の一部が担体中に残留することが障害となる場合には、イオン交換水等の清浄な水で更に洗浄するのが効果的である。
【0037】
また、シリカの製造においては、粒子強度向上、表面シラノール基活性向上などを目的とした焼成処理が良く行われる。しかしながら不純物が比較的多い状態で、焼成を行うと、シリカ担体を洗浄して不純物濃度を低下させる際に、シリカ骨格内に不純物元素が取り込まれて、不純物含有量を低減させることが困難となる。よって、シリカ担体を洗浄して不純物濃度を低下させたい場合には、未焼成シリカゲルを用いることが好ましい。
【0038】
以上述べたような触媒及び担体を用いることにより、F-T合成反応における活性が非常に高く、また耐水性の高い触媒を得ることが可能となる。
【0039】
金属の分散度を高く保ち、担持した活性金属の反応に寄与する効率を向上させるためには、高比表面積の担体を使用することが好ましい。しかし、比表面積を大きくするためには、気孔径を小さくする、細孔容積を大きくする必要があるものの、この二つの要因を増大させると、耐摩耗性や強度が低下することになり、好ましくない。担体の物理性状としては、細孔径が8〜50nm、比表面積が80〜550m2/g、細孔容積が0.5〜2.0mL/gを同時に満足するものが、触媒用の担体として、極めて好適である。細孔径が8〜30nm、比表面積が150〜450m2/g、細孔容積が0.6〜1.5mL/gを同時に満足するものであればより好ましく、細孔径が8〜20nm、比表面積が200〜400m2/g、細孔容積が0.8〜1.2mL/gを同時に満足するものであれば更に好ましい。上記の比表面積はBET法で、細孔容積は前記水銀圧入法や水滴定法で測定することができる。また、細孔径はガス吸着法や水銀ポロシメーターなどによる水銀圧入法で測定可能であるが、比表面積、細孔容積から計算で求めることもできる。
【0040】
F-T合成反応に十分な活性を発現する触媒を得るためには、比表面積は80m2/g以上であることが必要である。この比表面積を下回ると、担持した金属の分散度が低下してしまい、活性金属の反応への寄与効率が低下するため好ましくない。また、550m2/g超とすると、細孔容積と細孔径が上記範囲を同時に満足することが困難となり好ましくない。
【0041】
細孔径を小さくするほど比表面積を大きくすることが可能となるが、8nmを下回ると、細孔内のガス拡散速度が水素と一酸化炭素では異なり、細孔の奥へ行くほど水素分圧が高くなるという結果を招き、F-T合成反応では副生成物といえるメタンなどの軽質炭化水素が、多量に生成することになるため、好ましくない。加えて、生成した炭化水素の細孔内拡散速度も低下し、結果として、見かけの反応速度を低下させることとなり、好ましくない。また、一定の細孔容積で比較を行うと、細孔径が大きくなるほど比表面積が低下するため、細孔径が50nmを超えると、比表面積を増大させることが困難となり、活性金属の分散度が低下してしまうため、好ましくない。
【0042】
細孔容積は0.5〜2.0mL/gの範囲内にあるものが好ましい。0.5mL/gを下回るものでは、細孔径と比表面積が上記範囲を同時に満足することが困難となり好ましくなく、また、2.0mL/gを上回る値とすると、極端に強度が低下してしまうため、好ましくない。
【0043】
前述したように、スラリー床反応用のF-T合成触媒には、耐摩耗性、強度が要求される。また、F-T合成反応では、多量の水が副生するために、水の存在下で破壊、粉化するような触媒又は担体を用いると、前述したような不都合が生じることになるために注意を要する。よって、予亀裂が入っている可能性が高く、鋭角な角が折損、剥離し易い破砕状の担体ではなく、球状の担体を用いた触媒が好ましい。球状の担体を製造する際には、一般的なスプレードライ法などの噴霧法を用いればよい。特に、20〜250μm程度の粒径の球状シリカ担体を製造する際には、噴霧法が適しており、耐摩耗性、強度、耐水性に優れた球状シリカ担体が得られる。
【0044】
このようなシリカ担体の製造法を以下に例示する。珪酸アルカリ水溶液と酸水溶液とを混合し、pHが2〜10.5となる条件で生成させたシリカゾルを、空気などの気体媒体中又は前記ゾルと不溶性の有機溶媒中へ噴霧してゲル化させ、次いで、酸処理、水洗、乾燥する。ここで、珪酸アルカリとしては珪酸ソーダ水溶液が好適で、Na2O:SiO2のモル比は1:1〜1:5、シリカの濃度は5〜30質量%が好ましい。用いる酸としては、硝酸、塩酸、硫酸、有機酸等が使用できるが、製造する際の容器への腐食を防ぎ、有機物が残留しないという観点からは、硫酸が好ましい。酸の濃度は1〜10mol/Lが好ましく、この範囲を下回るとゲル化の進行が著しく遅くなり、また、この範囲を上回るとゲル化速度が速すぎてその制御が困難となり、所望の物性値を得ることが難しくなるため、好ましくない。また、有機溶媒中へ噴霧する方法を採用する場合には、有機溶媒として、ケロシン、パラフィン、キシレン、トルエン等を用いることができる。
【0045】
以上のような構成あるいは製造法を用いれば、強度や耐摩耗性を損なうことなく、高活性を発現するF-T合成用触媒の提供が可能となる。
【0046】
また、本発明によるF-T合成用触媒を用いることにより、高効率かつ低コストでF-T合成反応を行い、製品を製造することが可能となる。即ち、本発明に得られる触媒を用いてスラリー床を用いた液相反応でF-T合成反応を行うと、主製品である炭素数が5以上の液体生成物の選択率が高く、また、触媒単位質量あたりの液体生成物の製造速度(炭化水素生産性)も極めて大きい。更に、使用中の触媒粉化の程度や副生水による活性の低下も非常に小さいために触媒寿命が長いという特徴を有する。これらの特徴により、効率の高い低コストでのF-T合成反応の実行が可能となる。
【0047】
本発明による触媒を用いれば、副生水による活性の低下が非常に小さいために、副生水の分圧が非常に高くなるワンパスCO転化率が60〜95%という条件下でも良好なF-T合成反応を行うことができる。ここでいうワンパスCO転化率とは、反応器から排出される未反応原料ガスを含むガスを再度反応器に供給するものとは異なり、原料ガスを反応器に一度通すのみでCOの転化率を求めたものである。ワンパスCO転化率が40〜60%の比較的低い場合でも、副生水による活性低下が非常に小さいため触媒寿命が長くなり、触媒コストを低減することが可能となる。ワンパスCO転化率が40%以下になるとテールガスリサイクル設備の設備コストが増大するため、40%以上で操業することが一般的である。
また、著しく転化率が高い、あるいは反応時間が長いことで、活性低下が生じた場合には、合成ガスの代わりに水素を含むガスを供給することで、触媒を再生することができる。触媒の再生方法としては、再生ガスを反応器に供給して触媒と再生ガスを接触させるin-situ(その場)法と、触媒を抜出した後、再生塔と呼ばれる別の容器に充填して再生ガスを供給する方法がある。in-situ法では再生塔の設備が不要となる利点を有する反面、再生操作中は製造が停止するという欠点があり、再生塔の設備コスト、再生に必要な時間(製造停止時間)等を勘案して再生方法を決定する必要がある。再生ガスの水素含有量は5%以上であることが好ましく、100%でも良い。他に窒素、アルゴン等の不活性ガスを含有しても良い。再生条件としては、触媒再生が進行する条件であれば良く、特に限定されるものではない。水素を含む再生ガスと触媒を接触させることによる触媒再生機構としては、副生水により酸化したコバルトの再還元と、水素による析出炭素の除去によるものと推察される。また、溶媒の液状炭化水素中に触媒が分散したスラリー床におけるin-situ再生では再生後の再起動オペレーションの観点から、液状炭化水素の水素化分解によるガス成分への変換によって、溶媒が無くならないようにすることが好ましく、温度、圧力、時間、ガス流量等の条件設定に注意が必要である。例えば、再生温度は100〜400℃、再生圧力は常圧〜反応圧、再生時間は1時間以上、再生ガス流量は再生ガス中の水素流量が、反応における合成ガス中の水素流量と同程度が好適である。再生圧力は反応圧以下にすると、反応において反応圧に昇圧するためのコンプレッサーを利用することが可能となり、再生のために新たにコンプレッサーを設置する必要がなくなるため、設備コストの面から有利となる。
触媒を抜出した後、再生塔に充填して再生ガスを供給する方法では、スラリー床の他、流動床、固定床等を選択することが可能であるが、流動床、固定床等の気-固反応では溶媒の水素化分解を考慮する必要が無い為、再生温度は再生速度とコバルトのシンタリングを考慮して決定すれば良い。また、再生圧力は反応圧に拠らず再生設備のコンプレッサーの能力に応じて選択することができるが、昇圧能力が増加するほどコンプレッサーの設備コストが増加するため、再生速度の圧力依存性を勘案して決定する必要がある。
本発明の不純物含有量が少ない触媒では、貴金属を添加しなくても上記の方法で再生することが可能であるが、貴金属を添加することで再生が容易になる。同一の再生条件において、貴金属を添加した触媒では再生効果が顕著に発現し、また、再生条件をマイルドに設定することができる。即ち、再生温度を低く設定することが可能となり、in-situ再生などのスラリー床還元において、溶媒の水素化分解が起こる比較的高い温度領域を回避することができる。
【0048】
尚、本発明で使用する合成ガスには、水素と一酸化炭素の合計が全体の50体積%以上であるガスが生産性の面から好ましく、特に、水素と一酸化炭素のモル比(水素/一酸化炭素)が0.5〜4.0の範囲であることが望ましい。これは、水素と一酸化炭素のモル比が0.5未満の場合には、原料ガス中の水素の存在量が少な過ぎるため、一酸化炭素の水素化反応(FT合成反応)が進みにくく、液状炭化水素の生産性が高くならないためであり、一方、水素と一酸化炭素のモル比が4.0を超える場合には、原料ガス中の一酸化炭素の存在量が少な過ぎるため、触媒活性に関わらず液状炭化水素の生産性が高くならないためである。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0050】
内容積300mLのオートクレーブを用い、インシピエントウェットネス法で最初にCoを担持して乾燥処理、焼成処理後、次いで貴金属を担持して乾燥処理、焼成処理、還元処理、パッシベーションを施して調製した1gのCo/貴金属/SiO2触媒(シリカ担体は、富士シリシア化学(株)製で、平均粒径100μmの球形、Co担持率は20〜30質量%、貴金属担持率は0.001〜0.5質量%)と50mLのn-C16(n-ヘキサデカン)を仕込んだ後、230℃、2.0MPa-Gの条件下、撹拌子を800min-1で回転させながら、W(触媒質量)/F(合成ガス流量);(g・h/mol)=3となるようにF(合成ガス(H2/CO=2)流量)を調整し、供給ガス及びオートクレーブ出口ガスの組成をガスクロマトグラフィーにより求め、CO転化率、CH4選択率、CO2選択率、炭化水素生産性を得た。
【0051】
また、触媒の耐水性を評価するため、以下の実験を実施した。
【0052】
内容積300mLのオートクレーブを用い、上述の方法で調整した1gのCo/貴金属/SiO2触媒と50mLのn-C16を仕込んだ後、230℃、2.0MPa-Gの条件下、撹拌子を800min-1で回転させながら、最初はCO転化率が約60%になるようにW/FのF(合成ガス(H2/CO=2)流量)を調整し、数時間の安定運転後、CO転化率が90%時のH2O分圧と同等となるように、マイクロポンプでH2Oを反応系に添加した。この状態で24時間運転後、H2O添加を停止し、さらに数時間の安定運転を実施した。
【0053】
以下の実施例に記載したCO転化率、CH4選択率、CO2選択率、活性保持率は、それぞれ次に示す式により算出した。
【0054】
【数1】

【0055】
以下、実施例、比較例により、本発明の効果を示す。
【0056】
(実施例1)
表1のAに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率87%、CH4選択率4.7%、CO2選択率2.6%、活性保持率85%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.3 (kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
【0057】
(実施例2)
表1のBに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率88%、CH4選択率4.8%、CO2選択率2.1%、活性保持率86%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.3 (kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
【0058】
(実施例3)
表1のCに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率86%、CH4選択率4.4%、CO2選択率2.4%、活性保持率81%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.3 (kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
【0059】
(実施例4)
表1のDに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率87%、CH4選択率4.5%、CO2選択率3.3%、活性保持率84%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.3 (kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
【0060】
(実施例5)
表1のEに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率82%、CH4選択率4.9%、CO2選択率1.8%、活性保持率80%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.2(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
(実施例6)
表1のFに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率86%、CH4選択率4.5%、CO2選択率1.9%、活性保持率82%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.3(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
(実施例7)
表1のGに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率83%、CH4選択率4.8%、CO2選択率2.0%、活性保持率80%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.2(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
【0061】
(実施例8)
表1のHに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率76%、CH4選択率4.4%、CO2選択率0.9%、活性保持率86%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.2(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
(実施例9)
表1のIに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率74%、CH4選択率4.9%、CO2選択率0.9%、活性保持率83%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.2(kg-炭化水素/kg-触媒/h)であった。
(実施例10)
表1のJに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率76%、CH4選択率4.8%、CO2選択率1.3%、活性保持率85%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.2(kg-炭化水素/kg-触媒/h)であった。
【0062】
(実施例11)
表1のKに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率%、CH4選択率77%、CO2選択率5.0%、活性保持率85%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.2(kg-炭化水素/kg-触媒/h)であった。
(実施例12)
表1のLに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率80%、CH4選択率4.8%、CO2選択率1.5%、活性保持率87%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.2(kg-炭化水素/kg-触媒/h)であった。
(実施例13)
表1のMに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率71%、CH4選択率4.5%、CO2選択率1.0%、活性保持率80%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.1(kg-炭化水素/kg-触媒/h)であった。
【0063】
(実施例14)
表1のNに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率62%、CH4選択率4.9%、CO2選択率1.1%、活性保持率76%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.0(kg-炭化水素/kg-触媒/h)であった。
(実施例15)
内容積300mLのオートクレーブを用い、1gの触媒と50mLのn-C16を仕込んだ後、230℃、2.0MPa-Gの条件下、撹拌子を800min-1で回転させながら、最初はCO転化率が約60%になるようにW/FのF(合成ガス(H2/CO=2)流量)を調整し、24時間の安定運転後、CO転化率が90%を超えるようにW/FのFを減少させることでW/Fを増加し、触媒が活性低下し易い状態に保持した。この状態で24時間運転後、最初のW/Fに戻し触媒の活性低下を確認後、圧力は維持し、温度を150℃に降温して、水素を50ml/minで供給してin-situで触媒再生を行った。この状態で30時間保持した後、合成ガスを最初のW/Fとなるように供給して230℃に昇温し、F-T合成反応を行った。
表1のAに示すような触媒を用いて、上記に示す触媒再生実験を行ったところ、最初のCO転化率は64.6%、高いW/Fにおいて活性低下後、再度最初のW/Fに設定した際のCO転化率は32.9%、水素による再生後のCO転化率は41.1%であった。高いW/F条件に触媒を曝すことで活性低下し、CO転化率は31.7%減少したが、水素による再生によってCO転化率は8.2%回復した。
【0064】
(比較例1)
表2のKに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率70%、CH4選択率5.3%、CO2選択率0.9%、活性保持率69%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.1(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
(比較例2)
表2のLに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率82%、CH4選択率4.6%、CO2選択率1.5%、活性保持率65%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.2(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
(比較例3)
表2のMに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率66%、CH4選択率5.4%、CO2選択率1.0%、活性保持率70%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.0(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
(比較例4)
表2のNに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率58%、CH4選択率5.8%、CO2選択率0.9%、活性保持率69%、炭素数5以上の炭化水素生産性は0.9(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
(比較例5)
表2のOに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率18%、CH4選択率9.1%、CO2選択率1.6%、活性保持率71%、炭素数5以上の炭化水素生産性は0.2(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
【0065】
(比較例6)
表2のPに示すような触媒を用いて、F-T合成反応を行ったところ、CO転化率11%、CH4選択率10.7%、CO2選択率1.7%、活性保持率74%、炭素数5以上の炭化水素生産性は0.1(kg-炭化水素/kg-触媒/時間)であった。
【0066】
【表1】

【表2】

【0067】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを主成分とする触媒担体に、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びに貴金属を担持してなる触媒であって、該触媒の不純物含有量が0.01質量%〜0.15質量%であることを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
【請求項2】
前記触媒中のコバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物の担持率がコバルト金属換算で5〜50質量%、貴金属の担持率が0.01〜5.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
【請求項3】
前記不純物に含まれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の量が、前記触媒担体中の含有量で0.1質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
【請求項4】
前記貴金属が、Ru、Rh、Re、Pt、Pd、Ir、Osの少なくとも一種以上からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
【請求項5】
前記触媒担体が球状のシリカであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の触媒を製造する方法であって、珪酸アルカリ水溶液と酸水溶液とを混合して生成させたシリカゾルをゲル化し、酸処理、水洗処理の少なくともいずれかを行った後、乾燥させて得られるシリカを担体として用いて、前記金属及び酸化物を担持させることを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項7】
シリカゾルのゲル化後の前記酸処理、水洗処理の少なくともいずれかにおいて、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0〜0.06質量%である水を用いることを特徴とする請求項6記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項8】
前記生成したシリカゾルを、気体媒体中又は液体媒体中に噴霧させて球状に成形した後、酸処理、水洗処理の少なくともいずれかを行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5の何れか1項に記載の触媒を製造する方法であって、シリカを主成分とする触媒担体に、含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法を用いて、コバルト化合物及び貴金属化合物を同時に担持させ、その後、還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行って製造することを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5の何れか1項に記載の触媒を製造する方法であって、シリカを主成分とする触媒担体に、含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法を用いて、コバルト化合物、貴金属化合物をそれぞれ別々に担持させ、その際、最初の化合物の担持後に、乾燥処理、又は乾燥処理及び焼成処理を行い、残りの化合物の担持後に、還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行って製造することを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項11】
前記最初に担持する化合物がコバルト化合物、残りの担持する化合物が貴金属化合物であることを特徴とする請求項10に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項12】
前記担持させるコバルト化合物及び貴金属化合物が、前記含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法における製造原料において、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を0〜5質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項13】
前記シリカを主成分とする触媒担体に、更に、水、酸、アルカリのうち少なくとも何れかによる洗浄を施して不純物濃度を低下させてから、前記コバルト化合物及び前記貴金属化合物を担持させることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項14】
前記洗浄が、酸又はイオン交換水の一方又は双方を用いた洗浄である請求項13に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項15】
前記シリカを主成分とする触媒担体が請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法で製造した担体であることを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜5の何れか1項に記載の触媒を用いて合成ガスから炭化水素を製造する方法であって、スラリー床を用いた液相反応で合成することを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する方法。
【請求項17】
前記液相反応において、触媒量、原料ガス供給量、反応温度、反応圧力を調整し、ワンパスCO転化率を40〜95%とすることを特徴とする請求項16に記載の合成ガスから炭化水素を製造する方法。
【請求項18】
請求項1〜5の何れか1項に記載の触媒を用いて合成ガスから炭化水素を製造した後、活性低下した触媒を再生する方法であって、前記活性低下した触媒に水素を含む再生ガスを供給して、前記触媒と再生ガスを接触させることを特徴とする触媒の再生方法。
【請求項19】
請求項1〜5の何れか1項に記載の触媒を反応器に充填し、当該反応器内で合成ガスから炭化水素を製造した後、活性低下した触媒を再生する方法であって、前記反応器に水素を含む再生ガスを供給し、前記触媒と再生ガスを接触させることを特徴とする触媒の再生方法。
【請求項20】
請求項16記載の方法により合成ガスから炭化水素を製造した後、活性低下した触媒を再生する方法であって、前記スラリー床に水素を含む再生ガスを供給し、前記触媒と再生ガスを接触させることを特徴とする触媒の再生方法。
【請求項21】
前記触媒中のコバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物の担持率がコバルト金属換算で5〜50質量%、貴金属の担持率が0.001〜5.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒。

【公開番号】特開2007−260669(P2007−260669A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49542(P2007−49542)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】