説明

合成開口ソーナー

【課題】送受波器の動揺を補正し、合成開口処理への影響を軽減した合成開口ソーナーを提供する。
【解決手段】仮想の単一配列に動揺を加えず基準位置との間の伝搬距離を計算する第1伝搬距離計算器と、複数配列に動揺検出処理部からの動揺量を擬似的に加えて基準位置との間の伝搬距離を計算する第2伝搬距離計算器と、それらの出力の伝搬距離差から動揺量を計算する補正量計算器と、この動揺量に基づいて受信信号に動揺補正を行なう動揺補正器と、i回目の送波とi+1回目の送波に対応する送波器と受波器の中間位置の一部が、一致するように送信タイミングを制御するPRF制御器と、i回目の送波とi+1回目の送波に対応する受信信号を出力する動揺補正器と、受信信号の目標との間の伝搬距離差から動揺量を検出する自己補正量計算器と、この動揺量に基づき受信信号にさらなる動揺補正を行なう自己動揺補正器とを組み合わせ、動揺補正を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航走体に搭載する送波器と移動方向に等間隔に配列した複数台の受波器とからなる合成開口ソーナーに係り、特に航走体の動揺を補正する合成開口ソーナーに関する。
【背景技術】
【0002】
合成開口ソーナーは、合成開口レーダで開発された技術を応用したソーナーである。レーダの分解能を向上させるためには、受波器の開口長を大きくする必要がある。すなわち、合成開口レーダは、航空機または人工衛星等に搭載し、軌道上を移動しながら、送信したレーダ波の反射波を受波器で連続的に受信する。これにより、小さい開口長の受波器の受信信号を合成する。この結果、等価的に開口長を大きくして分解能を向上させている。合成開口ソーナーは、レーダ波の代わりに音響波を用い、水上または水中の航走体に搭載して、同様の原理により、ソーナーの分解能を向上させる。
【0003】
合成開口処理について、非特許文献1および非特許文献2に示すように高速フーリエ変換と複素乗算を用いたCS(Chirp Scaling)アルゴリズムが知られている。また非特許文献2は、時間軸信号に動揺補正関数を乗算することにより動揺補正を行なう方法を示している。
【0004】
音響波の水中伝搬速度1,500m/sは、レーダ波の空中伝播速度300,000km/sと比較して非常に遅い。このため、合成開口ソーナーは、送信開始からエコー波が返ってきて次の送信を開始するまでのパルス繰返し周期を長く取る必要がある。また、航走体のサンプル間の移動距離が極端に短く、合成開口長が取れない。さらに、航走体速度が遅すぎるため一定速度に保てない不都合がある。
【0005】
すなわち、このパルス繰返し周期の逆数がパルス繰返し周波数PRFで、航走体の速度をv、受波器の受波開口幅をD、水中の音速をc、最大捜索距離をRmaxとして、次の(数1)を満たす必要がある。
【0006】
【数1】

【0007】
この問題は、1回の送信に対して移動方向に等間隔に配列した複数台の受波器で同時に受信するDPCA(Displaced Phase-Center Antenna)方式により解決することができる。
合成開口および動揺補正にDPCAを用いた合成開口方法は、特許文献1、特許文献2および非特許文献2に示されている。
【0008】
DPCA方式は、1台の送波器と移動方向に等間隔に配列した複数台の受波器からなる複数配列において、送波器から目標までと目標から受波器までの伝搬距離の和が、送波器と受波器の中間に位置する仮想的な送受波器から目標までの往復伝搬距離に近似的に等しいとの原理に基づく。DPCA方式は、この仮想的な送受波器から信号が送受波されるとみなして合成開口処理を行なう方式である。以降、実際の送波器と受波器の配列を複数配列、送波器と受波器の中間に位置する仮想的な送受波器の配列をDPCA配列と呼ぶことにより区別する。また、1台の送波器と1台の受波器が一体化した送受波器を単一配列と呼ぶことにする。
【0009】
単一配列で受信する場合は、移動方向のアジマスサンプリング周波数fasは、パルス繰り返し周波数PRFに等しく、航走体速力v、受波開口長Dとの間で(数2)の関係がある。
【0010】
【数2】

【0011】
DPCA配列で受信する場合、複数受波器の間隔dをアジマスサンプリング間隔に合わせて配列することにより、アジマスサンプリング周波数fasをパルス繰り返し周波数PRFよりも高くできる。このとき、受波器数Eとの間で(数3)の関係がある。ここで、受波器間隔dは、それぞれの受波器の受波開口長Dとは定義が異なるが、一般にd=Dにとる。
【0012】
【数3】

【0013】
パルス繰り返し周波数PRFは、送信タイミングであり、(数3)に基づく航走体速度vの実測値により時々刻々制御される。これに伴いアジマスサンプリング周波数fasが制御される。
【0014】
図1を参照して、従来技術による動揺補正処理を説明する。ここで、図1は従来技術による合成開口ソーナーブロック図である。図1において、合成開口ソーナー600は、送受信処理部100、動揺補正処理部200、合成開口処理部300、表示制御処理部400、動揺検出処理部500で構成される。送受信処理部100は、受波器110、送波器120、受信器130、送信器140、PRF制御器150で構成される。
【0015】
送信器140は、外部設定に基づき送信信号を生成する。送信器140は、PRF制御器150からの送信タイミング信号に同期して送信信号を、送波器120に送り出す。送波器120は、送信信号を電気音響変換し、水中に送波する。PRF制御器150は、航走体速度vに基づく速度信号10を入力としてPRF値を(数4)より計算し、送信器140に送信タイミング信号として出力する。
【0016】
【数4】

【0017】
受波器110は、受波エコーを音響電気変換する。受信器130は、受波器110からの受信信号を、増幅、濾波、アナログ/ディジタル変換の後、ベースバンドに周波数変換する。動揺補正処理部200は、動揺補正器210、補正量計算器220で構成される。補正量計算器220は、動揺検出処理部500から受信する動揺量を元に伝搬時間差τに基づく位相補正量Δαを(数5)により計算し、動揺補正器210に出力する。ここでλは中心周波数の波長である。
【0018】
【数5】

【0019】
動揺補正器210は、補正量計算器220からの補正量に基づき受信信号に
exp(Δα)
を複素乗算して、位相回転により動揺補正を行なう。
【0020】
合成開口処理部300は、非特許文献1に基づき合成開口処理を行なう。合成開口処理部300は、レンジ方向とアジマス方向の2次元時間信号を入力し、レンジ方向とアジマス方向の2次元座標信号を表示制御処理部400に出力する。ここで、アジマス方向は航走体の進行方向、レンジ方向は水平面内で航走体の進行方向に直角な方向である。
【0021】
表示制御処理部400は、処理結果の表示のためのフォーマッティング、レベル調整、マンマシンインターフェイスである。
動揺検出処理部500は、外部動揺センサーの出力である動揺データ20を入力とし、3軸の回転角である(1)ローリング角、(2)ピッチング角、(3)ヨーイング角と、3軸の変位量である(4)サージング量、(5)スウェイング量、(6)ヒービング量を実時間関数として出力する。外部動揺センサーには、仏国IXSEA社等から市販されている高精度の慣性誘導装置がある。
【0022】
上述した背景技術は、以下の問題点がある。
第1の問題は、動揺補正が1台の送波器と1台の受波器からなる単一配列を前提としているため、特許文献1や特許文献2にみられるような、1台の送波器と複数台の受波器からなる複数配列での誤差を補正できないことである。
第2の問題は、受波器の移動距離は航走体の速度以外に伝搬時間により変化するが、この伝搬時間による誤差を補正できないことである。
【0023】
第3の問題は、外部動揺センサーの動揺量の検出精度に限界があり、周波数が高くなると波長が短くなるため、合成開口に必要な精度が得られないことである。
本発明の目的は、これらの問題を解決し、高精度の動揺補正を行なう合成開口ソーナーを提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第4244036号明細書
【特許文献2】特開2004−117129号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】A. Moreira, J. Mittermayer, and R. Scheiber “Extended chirp Scaling Algorithm for Air- and Spaceborne SAR Data Processing in Stripmap and ScanSAR Imaging Modes", IEEE Trans. Geosci. Remote Sensing, vol. 34. pp. 1123-1136, Sept. 1996.
【非特許文献2】A. Bellettini, and M. A. Pinto, “Theoretical Accuracy of Synthetic Aperture Sonar Micronavigation Using a Displaced Phase- Center Antenna", IEEE J. Oceanic Eng., vol. 27, pp. 780-789, Oct. 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
合成開口ソーナーは、航走体に搭載され、航走中に3軸方向の回転および移動による動揺を受ける。動揺は、伝搬距離を微妙に変化させるため位相回転を生じ、合成開口処理に重大な影響を及ぼす。本発明が解決すべき課題は、航走体の動揺を外部動揺センサーで検出した動揺量にて動揺補正を行なうとともに、外部動揺センサーで検出しきれない残留動揺量を、自らの受信信号で検出し、自己動揺補正を行なうことにより、動揺に強い高精度な合成開口ソーナーを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
動揺補正の第1段階で、1台の送波器と1台の受波器が一体化した仮想の単一配列と基準位置との間の伝搬距離を、当該単一配列に動揺を加えずに計算する第1の伝搬距離計算値と、1台の送波器と移動方向に等間隔に配列した複数台の受波器からなる複数配列と前記基準位置との間の伝搬距離を、当該複数配列に外部動揺センサーが検出した動揺データに基づく動揺量を擬似的に加えて計算する第2の伝搬距離計算値とから、伝搬距離差を求めて動揺補正量を計算し、動揺補正を行なう。すなわち、
動揺補正後の複数配列と任意目標位置との伝搬距離
=動揺補正前の複数配列と任意目標位置との伝搬距離
+(動揺を加えない仮想の単一配列と基準位置との第1の伝搬距離
−動揺を加えた複数配列と基準位置との第2の伝搬距離)
として( )内の伝搬距離差により動揺量を計算し、動揺補正を行なう。
【0028】
ここで基準位置を合成開口処理の中心に取ることにより、任意目標位置と基準位置の動揺量の差が小さく無視できるようになるため、動揺補正が効果的に行なわれる。伝搬距離は実際の計測量である伝搬時間から、伝播距離=伝播時間×音速で計算できる。
以上、動揺補正の第1段階の結果、複数配列の位置が仮想の単一配列の位置に補正される。
【0029】
次に、動揺補正の第2段階で、i回目の送波に対応するDPCA配列の位置の一部と、i+1回目の送波に対応するDPCA配列の位置の一部を、動揺を加えない状態で一致するように送信タイミングを制御し、前記i回目の送波に対応する受信信号と前記i+1回目の送波に対応する受信信号の目標との間の伝播距離差から動揺量を検出し、動揺補正の第1段階で補正した受信信号にさらなる動揺補正を行なう。
【0030】
以降、この送波器と受波器の中間位置を一致させたDPCA配列を重畳DPCA配列と呼ぶ。
重畳DPCAにおいては、前述の送信タイミングを制御するため、受波器数Eと重畳DPCA数Lとの間で、(数3)を一部変更して、(数6)の関係が必要になる。
【0031】
【数6】

【0032】
これから、パルス繰り返し周波数PRFは、(数4)を一部変更して、(数7)の関係がある。
【0033】
【数7】

【0034】
動揺が加えられた場合に、重畳DPCA配列の位置が変化し、これにより目標との伝搬距離が変化する。このため、伝搬距離差により動揺量が検出できる。伝搬距離差は、合成開口処理範囲内において近似的に目標位置に関係なく動揺量のみに依存する。このため、目標は具体的な対象物である必要はなく、海底地形を形成する海底の岩、海床により動揺量の検出が可能である。
i+2回目とi+3回目、および以降の送波についても同様の処理を行なう。
【0035】
上述した課題は、複数配列とPRF制御器を含む送受信処理部と、動揺検出処理部と、動揺検出処理部の出力を用いて送受信処理部の出力に動揺補正を行ない、動揺補正後の受信信号を用いてさらなる動揺補正を行なう動揺補正処理部と、合成開口処理部と、表示制御処理部とからなる合成開口ソーナーにより、達成できる。
【0036】
ここで、動揺補正処理部は、第1伝搬距離計算器と、第2伝搬距離計算器と、補正量計算器と、動揺補正器と、自己補正量計算器と、自己動揺補正器とで構成する。
第1伝搬距離計算器は、仮想の単一配列と基準位置との間の伝搬距離を、単一配列に動揺を加えず計算する。第2伝搬距離計算器は、複数配列と基準位置との間の伝搬距離を、複数配列に動揺検出処理部からの動揺量を擬似的に加えて計算する。補正量計算器は、第1伝搬距離計算器と当該第2伝搬距離計算器の出力から、伝搬距離差により第1の動揺量を計算する。動揺補正器は、第1の動揺量に基づき送受信処理部の出力に動揺補正を行なう。送受信処理部のPRF制御器は、i回目の送波とi+1回目の送波に対応する重畳DPCA配列の位置が一致するように送波タイミングを制御する。自己補正量計算器は、重畳DPCA受信信号の目標との間の伝搬距離差から第2の動揺量を検出する。自己動揺補正器は、第2の動揺量に基づき動揺補正器出力に動揺補正を行なう。
【発明の効果】
【0037】
本発明に依れば、航走体の動揺を外部動揺センサーで検出した動揺量にて動揺補正を行なうとともに、外部動揺センサーで検出しきれない残留動揺量を、自らの受信信号で検出し、自己動揺補正を行なう動揺に強い高精度な合成開口ソーナーを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来技術による合成開口ソーナーのブロック図である。
【図2】合成開口ソーナーのブロック図である。
【図3】受波器が奇数の場合の、送波器、受波器、DPCA、重畳DPCA配列の位置を説明するブロック図である。
【図4】受波器が偶数の場合の、送波器、受波器、DPCA、重畳DPCA配列の位置を説明するブロック図である。
【図5】動揺補正前後のビームパターン出力を説明する図である。
【図6】重畳DPCAによるヨーイング角の検出を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下本発明の実施の形態について、実施例を用い図面および数式を参照しながら説明する。なお、実質同一部位には同じ参照番号を振り、説明は繰り返さない。
【0040】
まず、図2を参照して、本実施例による動揺補正処理を説明する。図2において、合成開口ソーナー700は、送受信処理部100A、動揺補正処理部200A、合成開口処理部300、表示制御処理部400、動揺検出処理部500で構成される。送受信処理部100Aは、受波器110、送波器120、受信器130、送信器140、PRF制御器150Aで構成される。
【0041】
送信器140は、外部設定に基づき送信信号を生成し、PRF制御器150Aからの送信タイミング信号に同期して送信信号を出力し、送波器120に送り出す。送波器120は、送信信号を電気音響変換し、水中に送波する。PRF制御器150Aは、航走体速度vに基づく速度信号10を入力としてPRF値を(数7)から計算し、送信器140に送信タイミング信号として出力する。受波器110は、受波エコーを音響電気変換する。受信器130は、受波器110からの受信信号を、増幅、濾波、アナログ/ディジタル変換の後、ベースバンドに周波数変換する。
【0042】
動揺補正処理部200Aは、動揺補正器210A、補正量計算器220A、第1伝搬距離計算器230、第2伝搬距離計算器240、自己動揺補正器250、自己補正量計算器260で構成される。
【0043】
基準位置データ30は、合成開口処理の基準位置で、通常は合成開口処理の中心にとる。
【0044】
第1伝搬距離計算器230は、基準位置と仮想の単一配列間の伝搬距離を計算する。第2伝搬距離計算器240は、動揺検出処理器500からの動揺量を擬似的に加えて、基準位置と複数配列間の伝搬距離を計算する。複数配列の送波器と受波器の配列を図3と図4とを参照して、後述する。
【0045】
補正量計算器220Aは、第1伝搬距離計算器230の出力と第2伝搬距離計算器240の出力から伝播距離差を検出する。補正量計算器220Aは、これを動揺補正量として位相差Δαに変換し、動揺補正器210Aに出力する。動揺補正器210Aは、受信信号にexp(Δα)を複素乗算して、位相回転により動揺補正を行なう。動揺補正器210Aは、DPCA配列の中の重畳DPCA配列を除くDPCA配列を形成する受信信号211と、重畳DPCA配列を形成する一方の受信信号212と、重畳DPCA配列を形成するもう一方の受信信号213を出力する。
【0046】
自己補正量計算器260は、受信信号212と受信信号213を入力として、レンジ方向とアジマス方向の2次元相互スペクトラムをとり、レンジ方向は送信信号の中心周波数、アジマス方向はドップラーゼロ周波数に相当する位置の位相差Δβを検出してこれを動揺補正量として自己動揺補正器250に送る。自己動揺補正器250は、受信信号211にexp(Δβ)を複素乗算して、位相回転により自己動揺補正を行なう。
【0047】
合成開口処理部300は、合成開口処理を行なう。表示制御処理部400は、処理結果の表示のためのフォーマッティング、レベル調整、マンマシンインターフェイスである。動揺検出処理部500は、外部動揺センサーの出力である動揺データ20を入力とし、3軸の回転角である(1)ローリング角、(2)ピッチング角、(3)ヨーイング角と、3軸の変位量である(4)サージング量、(5)スウェイング量、(6)ヒービング量を実時間関数として出力する。
【0048】
図3および図4を参照して、送波器と受波器、DPCA配列と重畳DPCA配列の各位置を説明する。なお、図3および図4では送波時から受波時までの伝播時間による受波器の移動は無視している。
【0049】
図3および図4において、横軸は航走体の航走方向、縦軸はi回目の送波とi+1回目の送波に対応するDPCA配列の推移を示す。送波器120の位置を○、受波器110の位置を●、DPCAの位置を◎で示す。また、送波器120と受波器110を囲む箱は、送受波器アレイ160である。
【0050】
図3で、送波器120の横軸の座標を0とし、受波器間隔をdとすると、受波器120の位置は、−3d、−2d、−d、0、d、2d、3dとなる。DPCAの位置は、送波器と受波器の中心であるから、−1.5d、−d、−0.5d、0、0.5d、d、1.5dとなる。DPCAの中で重畳DPCAの位置は、0.5d、d、1.5dとなる。合成開口処理としてDPCAを連続させるためには、送波器120の送信タイミングは、送波器が(数7)から、
v/PRF=(E−L)d/2
=(7−3)d/2
=2d
の距離を移動する毎である必要がある。
【0051】
図4で、図3と同様に送波器120の横軸の座標を0とし、受波器間隔をdとすると、受波器120の位置は、−2.5d、−1.5d、−0.5d、0.5d、1.5d、2.5dとなる。また、DPCAの位置は、−1.25d、−0.75d、−0.25d、0.25d、0.75d、1.25dとなる。DPCAの中で重畳DPCAの位置は、0.25d、0.75d、1.25dとなる。合成開口処理としてDPCAを連続させるためには、送波器120の送信タイミングは、送波器が(数7)から、
v/PRF=(E−L)d/2
=(6−3)d/2
=1.5d
の距離を移動する毎である必要がある。
【0052】
航走体の移動方向をx軸、移動方向と直角の方向をy軸、移動方向と垂直の方向をz軸とし、y軸を右手系で定義する。3軸の動揺量は次の6通りあり、(1)ローリング角はx軸回りの回転量、(2)ピッチング角はy軸回りの回転量、(3)ヨーイング角はz軸回りの回転量である。同様に、(4)サージング変位はx軸方向の移動量、(5)スウェイング変位はy軸方向の移動量、(6)ヒービング変位はz軸方向の移動量である。
【0053】
動揺補正は、これら動揺パラメータの中で合成開口ソーナーの特性に大きな影響を与えるヨーイング角とスウェイング変位について説明する。他の動揺パラメータも同様の原理で補正できるため、ここでの動揺パラメータは次の2つとする。taはアジマス時間でこれらはtaの関数である。なお、アジマス時間taは、アジマスサンプリング周期fasの逆数である。
【0054】
(1)ヨーイング角Φyaw(ta)
(2)スウェイング変位Esway(ta)
以後の説明のため、航走体位置、複数配列の送波器位置とk番目の受波器位置、単一配列位置、基準位置を定義する。
【0055】
まず航走体位置を(数8)とする。
【0056】
【数8】

【0057】
複数配列の送波器の航走体中心からの相対位置を(数9)とする。
【0058】
【数9】

【0059】
複数配列のk番目受波器の航走体中心からの相対位置を(数10)とする。
【0060】
【数10】

【0061】
単一配列の位置を(数11)とする。
【0062】
【数11】

【0063】
合成開口処理の中心にとる基準位置を、(数12)とする。
【0064】
【数12】

【0065】
送波時の送波器の位置は航走体位置と送波器相対位置の和であり、航走体中心を動揺中心としてヨーイング角Φyawとスウェイング変位Eswayの動揺を加えた場合、(数8)と(数9)から(数13)となる。
【0066】
【数13】

【0067】
受波時のk番目の受波器位置は航走体位置と受波器相対位置の和であり、伝搬時間Δtaの間に航走体が移動している分を考慮して、(数8)と(数10)から(数14)となる。
【0068】
【数14】

【0069】
これより、動揺補正の第一段階で、単一配列と基準位置との伝搬距離と、複数配列と基準位置との伝搬距離の差から動揺量を計算する手順について説明する。
【0070】
基準位置と単一配列の間の伝搬距離は、(数11)と(数12)から(数15)で与えられる。
【0071】
【数15】

【0072】
すなわち、第1伝搬距離計算器230は、(数15)を計算し、補正量計算器220Aに出力する。
ここで、伝播時間Δtaによる誤差も同時に補正するため、単一配列には伝播時間Δtaを含めない。
【0073】
次に基準位置と送波器の間の伝搬距離は、(数12)と(数13)から(数16)で与えられる。
【0074】
【数16】

【0075】
また基準位置とk番目の受波器間の伝搬距離は、(数12)と(数14)から(数17)で与えられる。
【0076】
【数17】

【0077】
基準位置とDPCA配列の仮想的送受波器位置である送波器と受波器の中間位置の伝搬距離は、(数16)と(数17)から(数18)で与えられる。
【0078】
【数18】

【0079】
伝播時間Δtaは、送波時から受波時までの航走体の移動時間で、再帰的に(数19)となる。
【0080】
【数19】

【0081】
または、伝播時間Δtaは、近似的に(数20)となる。
【0082】
【数20】

【0083】
第2伝搬距離計算器240は、(数17)を計算して、補正量計算器220Aに出力する。これより、動揺補正時の伝搬距離差は、(数15)と(数18)から(数21)で与えられる。
【0084】
【数21】

【0085】
以上に基づき、動揺補正のための補正量は、k番目の受波器出力について距離の次元である(数21)に2π/λを乗算し、往復であるので2倍にして(数22)の位相回転Δαk(ta)を施すことにより行なう。λは中心周波数の波長である。すなわち伝搬距離差に基づく位相差は、(数22)となる。
【0086】
【数22】

【0087】
次に、アジマス時間taは、アジマスサンプリング周波数fasの逆数であるから、これをアジマスサンプリング周期のi倍である離散値(数23)に置き換える。すなわち、
【0088】
【数23】

【0089】
これより、(数21)の伝搬距離差は、(数24)の離散値に置き換わる。
【0090】
【数24】

【0091】
これから、(数22)の位相差は、(数25)の離散値に置き換わる。
【0092】
【数25】

【0093】
(数25)は、航走体の位置を示す番号iと受波器の相対位置を示す番号kとに依存する。
【0094】
補正量計算器220Aは、第1伝搬距離計算器230と第2伝搬距離計算器240の出力からくる伝播距離差に基づく位相補正量Δαi,kを(数25)により計算し、動揺補正器210Aに出力する。動揺補正器210Aは、補正量計算器220Aからの補正量に基づき受信信号にexp(Δαi,k)を複素乗算して、位相回転により動揺補正を行なう。
【0095】
DPCA配列では、図3および図4に示すとおり、仮想の送受波器間隔が実際の受波器間隔の1/2になり、アジマスサンプリング周波数fasの逆数であるアジマスサンプリング周期×航走体速度vは、(数3)に従って受波器間隔dの1/2に一致させる。航走体速度vが変動する場合は、アジマスサンプリング周波数fasを(数5)に従って調整する。
【0096】
次に、動揺補正の第2段階で、自らの受信信号の伝搬距離差による残留動揺量を検出する手順について説明する。ここまでの補正で、動揺を加えない場合は、複数配列の送波器と受波器の中間の位置は、DPCA配列の位置に一致し、これより、i回目とi+1回目の送波に対応する重畳DPCA配列の位置も一致するから、i回目とi+1回目の送波に対応する重畳DPCA受信信号の伝搬距離差は前述の残留動揺量によるものとみなせる。
【0097】
以後の説明のため、(数8)(数9)(数10)について、航走体位置、複数配列の送波器位置、k番目の受波器位置、基準位置の離散値表現を定義する。まず、航走体の位置を(数26)とする。ここで、Hは海底からの航走体の高度である。
【0098】
【数26】

【0099】
複数配列の送波器の航走体中心からの相対位置を(数27)とする。ここでYoは航走体中心から送波面までの距離である。
【0100】
【数27】

【0101】
複数配列のk番目受波器の航走体中心からの相対位置を(数28)とする。ここでXoは受波器の位置を送波器の位置と対称に位置するための補正項であり、Yoは送波器と同様に航走体中心から受波面までの距離である。
【0102】
【数28】

【0103】
基準位置は、合成開口処理の中心として、(数29)とする。ここで、Roは、基準位置の原点からの水平距離である。
【0104】
【数29】

【0105】
重畳DPCA配列の位置は、動揺補正の第1段階でΔtaが近似的に0に補正されているから、送波器位置の(数13)と受波器位置の(数14)を(数23)により、離散値に置き換えることにより、(数30)になる。ここで、kはi回目の送波の受波器位置である。
【0106】
【数30】

【0107】
これより、重畳DPCA配列の位置(数30)に(数27)と(数28)を代入すると、i回目の送波に対応する重畳DPCA配列の位置は(数31)になる。ここで、k‘はi+1回目の送波の受波器位置である。
【0108】
【数31】

【0109】
同様に、i+1回目の送波に対応する重畳DPCA配列の位置は(数32)となる。
【0110】
【数32】

【0111】
i回目の送波に対応する重畳DPCA配列の位置とi+1回目の送波に対応する重畳DPCA配列の位置の差は、伝播距離差ΔPi,dpcaに相当し、(数31)(数32)から(数33)で与えられる。ここで前述の残留動揺量は、すでに第1段階の動揺補正でアジマスサンプリング周波数fasに比較して十分に小さくなっているため、i回目の送波とi+1回目の送波でヨーイング角Φyawの値とスウェイング変位Eswayの値は変化しないものとみなせる。
【0112】
【数33】

【0113】
動揺を加えないとき、動揺量は0であるから、伝搬距離差の(数33)が0になる必要があり、これより(数34)が成り立つ。
【0114】
【数34】

【0115】
この(数34)を(数33)に代入して、重畳DPCA配列の位置の差、すなわち伝播距離差ΔPi,dpcaとヨーイング角Φi,yawの関係は(数35)になり、ヨーイング角が比較的小さい場合には、伝播距離差ΔPi,dpcaは目標との距離に関係なくヨーイング角Φi,yawに比例し、スウェイング変位Ei,swayは無視できる。
【0116】
【数35】

【0117】
一方で、伝播距離差ΔPi,dpcaは、重畳DPCAの出力の位相差βと(数36)の関係にある。ここで位相差βは、重畳DPCAの出力のアジマス方向とレンジ方向の2次元相互スペクトラムをとり、レンジ方向は送信信号の中心周波数、アジマス方向はドップラーゼロ周波数に相当する位置の位相差を検出することにより求める。あるいは、伝播距離差ΔPi,dpcaは、重畳DPCAの出力のレンジ方向とアジマス方向の2次元相互相関をとり、ピーク値の位置から伝搬時間差を検出して伝播距離差に変換して求める。
【0118】
【数36】

【0119】
以上の結果、ヨーイング角φi,yawは、(数35)と(数36)により(数37)で与えられる。
【0120】
【数37】

【0121】
動揺補正の第2段階は、この原理により自らの受信信号で伝播距離差による残留動揺量を検出し、動揺補正を行なうものである。
【0122】
自己補正量計算器260は、動揺補正器210Aの出力212と出力213から、位相差βを検出して、自己動揺補正器250に出力する。自己動揺補正器250は、自己補正量計算器260からの出力211に残留動揺量に基づいてexpβを複素乗算し、位相回転により動揺補正を行なう。
【0123】
(数37)が成り立つためには、位相回転量が±45度を越えないように、(数36)の伝搬距離差が(数38)を満たす必要がある。
【0124】
【数38】

【0125】
これから、ヨーイング角Φi,yawの制約条件は(数39)で与えられる。
【0126】
【数39】

【0127】
この制約条件は、すでに動揺補正の第1段階で大きな動揺量が補正されているため、実用上は問題にならない。
【0128】
本実施例は、以上述べてきたとおり、第一段階で仮想の単一配列および複数配列を組み合わせ、複数配列に外部動揺センサーの動揺データに基づく動揺量を模擬的に加えて、仮想の単一配列と基準点の伝播距離と複数配列と基準点との伝搬距離の差を計算し、これを動揺量として受信信号に動揺補正を行ない、さらに第2段階で動揺補正後の自らの受信信号により重畳DPCA配列と目標との伝播距離差を検出し、これを動揺量として受信信号に動揺補正を行なうものである。
【0129】
図5を参照して、本実施例による動揺補正前後のビームパターンを説明する。図5において、横軸はアジマス距離(m)、縦軸は受信レベル(dB)である。また、図5(a)は航走体に動揺が無い場合、図5(b)は1/8λに相当するヨーイングとスウェイングの動揺を加えた場合、図5(c)は1/8λに相当するヨーイングとスウェイングの動揺を加え、かつ動揺補正を行った結果である。図5(b)と図5(c)との対比から、動揺補正の効果は明らかである。
【0130】
図6を参照して、実施例による重畳DPCAのヨーイング角の検出結果を説明する。図6において、横軸はアジマス周波数(Hz)、縦軸はヨーイング角(度)である。与えたヨーイング角は0.2度で、合成開口処理範囲に分布した海底の岩を想定した9目標による検出結果を示す。図6から、ヨーイング角は正しく検出されていることは明らかである。
【0131】
上述した実施例に拠れば、合成開口ソーナーの動揺補正に、動揺補正の第1段階で、動揺を加えない仮想の単一配列と基準位置との間の伝搬距離と、外部動揺センサーで検出した動揺量を模擬的に加えた複数配列と基準位置との間の伝搬距離を計算し、その伝搬距離差から動揺補正量を計算し、受信信号を補正しているため、合成開口ソーナーは動揺のない単一配列の理想的な形に補正され、サイドローブを増やすことなく精度の高い動揺補正ができる。
【0132】
また動揺補正の第2段階で、第1段階で動揺補正した自らの受信信号について、重畳DPCA配列の伝搬時間差に基づき残留動揺量を検出しているため、外部動揺センサーでは検出しきれない小さな動揺も検出し、精度の高い動揺補正ができる。
【符号の説明】
【0133】
10…速度信号、20…基準位置データ、30…動揺データ、100…送受信処理部、110…受波器、120…送波器、130…受信器、140…送信器、150…PRF制御器、160…送受波器アレイ、200…動揺補正処理部、210…動揺補正器、211…DPCA受信信号、212…重畳DPCA受信信号、213…重畳DPCA受信信号、220…補正量計算器、230…第1伝搬距離計算器、240…第2伝搬距離計算器、250…自己動揺補正器、260…自己補正量計算器、300…合成開口処理部、400…表示制御処理部、500…動揺検出処理部、600…合成開口ソーナー、700…合成開口ソーナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数配列の送受信処理部と、動揺検出処理部と、前記動揺検出処理部の出力を用いて前記送受信処理部の出力に動揺補正を行ない、動揺補正後の自らの受信信号を用いてさらなる動揺補正を行なう動揺補正処理部と、合成開口処理部と、表示制御処理部とからなる合成開口ソーナー。
【請求項2】
請求項1に記載の合成開口ソーナーにおいて、
前記動揺補正処理部は、
1台の送波器と1台の受波器が一体化した仮想の単一配列と基準位置との間の伝搬距離を、当該単一配列に動揺を加えず計算する第1伝搬距離計算器と、
1台の送波器と移動方向に等間隔に配列した複数台の受波器からなる複数配列と前記基準位置との間の伝搬距離を、当該複数配列に動揺検出処理部からの動揺量を擬似的に加えて計算する第2伝搬距離計算器と、
前記第1伝搬距離計算器の出力と前記第2伝搬距離計算器の出力の伝搬距離差から第1の動揺量を計算する補正量計算器と、
この第1の動揺量に基づいて受信信号に動揺補正を行なう動揺補正器と、
任意のi回目の送波に対応する送波器と受波器の中間位置の一部と、i+1回目の送波に対応する送波器と受波器の中間位置の一部が、動揺を加えない状態で一致するように送信タイミングを制御するPRF制御器と、
前記i回目の送波に対応する受信信号と前記i+1回目の送波に対応する受信信号の目標との間の伝搬距離差から第2の動揺量を検出する自己補正量計算器と、
この第2の動揺量に基づいて前記動揺補正器の受信信号の出力に動揺補正を行なう自己動揺補正器とからなることを特徴とする合成開口ソーナー。
【請求項3】
請求項2に記載の合成開口ソーナーであって、
前記第1伝搬距離計算器は、伝搬距離計算において、前記仮想の単一配列と前記基準位置との間の伝搬時間により生じる航走体の移動距離を含めず計算し、
前記第2伝搬距離計算器は、伝搬距離において、前記複数配列と前記基準位置との間の伝搬時間により生じる航走体の移動距離を含めて計算することを特徴とする合成開口ソーナー。
【請求項4】
請求項2に記載の合成開口ソーナーであって、
前記自己補正量計算器は、前記i回目の送波に対応する受信信号と前記i+1回目の送波に対応する受信信号について、レンジ方向とアジマス方向の2次元相互スペクトラムをとり、レンジ方向は送信信号の中心周波数、アジマス方向はドップラーゼロ周波数に相当する位置の位相差を検出してこれを伝搬距離差に変換し、前記第2の動揺量とすることを特徴とする合成開口ソーナー。
【請求項5】
請求項2に記載の合成開口ソーナーであって、
前記自己補正量計算器は、前記i回目の送波に対応する受信信号と前記i+1回目の送波に対応する受信信号について、レンジ方向とアジマス方向の2次元相互相関をとり、ピーク値の位置から伝搬時間差を検出してこれを伝搬距離差に変換し、前記第2の動揺量とすることを特徴とする合成開口ソーナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−38899(P2011−38899A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186572(P2009−186572)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】