説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】高いMn量を含む鋼板であっても、合金化むらの原因となるMnOが表面に生成される影響を低減することで、めっき皮膜の均一性および耐パウダリング性に優れ、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】Mnを2.0〜3.5質量%含有する鋼板から合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法であって、その焼鈍工程を、雰囲気中の酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≦23を満たす条件で行うと共に、めっき工程を、510℃以上600℃未満の板温の鋼板を、亜鉛めっき浴に浸漬させることにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電製品、建築材料等の用途に使用される表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車、家電製品、建築材料等の広範な用途に用いられており、特に合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、耐食性、スポット溶接性に優れることから、自動車用鋼板として広く使用されている。近年、自動車においては、車体の軽量化による燃費の向上、衝突安全性を高めるといったニーズから、この合金化溶融亜鉛めっき鋼板にも高強度化、薄物化のニーズが高まっている。
【0003】
これらの現状を踏まえ、更には強度延性バランスの確保という観点もあり、現在使用されている合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、SiやMnといった易酸化元素を添加したものが多くなっている。しかしながら、これら易酸化元素は、鋼板にめっきを行う前の焼鈍時に選択酸化されて、めっき濡れ性や合金化処理性を著しく阻害することが知られており、その制御を行うのは非常に難しい。以上の実情もあって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造するのは非常に難しいのが現状である。
【0004】
このような実情が勘案され、近年、合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、種々の提案がなされている。
【0005】
特許文献1には、焼鈍工程で、鋼板表層に鋼板添加元素と焼鈍雰囲気の成分との反応物を形成させる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、Mnを含む高張力鋼板の表面に、Sを含有するアンモニウム塩を付着させたのち、熱処理を施し、ついでめっき処理を施す溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。これらの方法は、生成反応物として、Si−Mn−OやMnSを形成させようとする方法である。
【0006】
特許文献3には、めっき溶に鋼板を浸漬させる前に、鋼板の表層をドライエッチングするという合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、焼鈍後の鋼板を冷却制御することにより粒界偏析を減らそうという合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき性改善方法が開示されている。
【0007】
更には、特許文献5には、焼鈍後に、Si、Mn、Alを含有する表面濃化層の70%以上を酸洗により除去し、その後に溶融亜鉛めっきを施す高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献6には、固溶Mn量を低減することにより、加熱炉内でのMnOの発生を抑制しようとする合金化溶融亜鉛めっき用鋼板の製造方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、その何れもが工程が複雑であり、容易に合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することはできない。また、特に高いMn量を含む鋼板において、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法として提案されたものでもなかった。
【0009】
【特許文献1】特開2005−200711号公報
【特許文献2】特開2001−279410号公報
【特許文献3】特開平6−88193号公報
【特許文献4】特開2003−328036号公報
【特許文献5】特開2004−263271号公報
【特許文献6】特開平9−202939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、高いMn量を含む鋼板であっても、合金化むらの原因となるMnOが表面に生成される影響を低減することで、めっき皮膜の均一性および耐パウダリング性に優れ、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、質量%で、C:0.02〜0.2%、Mn:2.0〜3.5%、Cr:0.03〜0.5%、Al:0.01〜0.15%、Si:0.04%以下(0%を含む)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)を含有する鋼板から、焼鈍工程、めっき工程、合金化処理工程を経て合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、焼鈍工程は、雰囲気中の酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≦23を満たす条件で行うと共に、めっき工程は、510℃以上、600℃未満の板温の鋼板を、亜鉛めっき浴に浸漬させることにより行うことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0012】
請求項2記載の発明は、前記鋼板は、更に、質量%で、Cu:0.003〜0.5%、Ni:0.003〜1.0%、Ti:0.003〜1.0%からなる群から選ばれた1種または2種以上を、合計で0.003〜1.0%含有することを特徴とする請求項1記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0013】
請求項3記載の発明は、前記鋼板は、更に、質量%で、V:0.003〜1.0%、Nb:0.003〜1.0%、B:0.0002〜0.1%、Mo:0.003〜1.0%からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0014】
請求項4記載の発明は、前記鋼板は、更に、質量%で、Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.001%からなる群から選ばれた1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によると、Mnの含有量が2.0〜3.5質量%と高い鋼板であっても、合金化むらの原因となるMnOが表面に生成される影響を低減することで、めっき皮膜の均一性および耐パウダリング性に優れ、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
通常の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程において実施される焼鈍においては、鋼板の主成分であるFeが酸化されることはないが、SiやMnといった易酸化元素が添加されている場合、これらの易酸化元素が選択的に酸化されて鋼板表面への拡散が発生する。そのため、鋼板の表面には、これら易酸化元素単独の酸化物や複合酸化物が生成される。
【0017】
易酸化元素のうちでも、Siは表面に濃化すると、鋼板最表面に薄い酸化層や粒界酸化を形成し、めっき性や合金化処理性を著しく劣化させるという問題を生じる。そのため、本発明では、易酸化元素のうちMnは添加するが、Siについては、不可避的不純物として混入することは容認するものの積極的には添加することはしない。
【0018】
一方、Mnも鋼板の表層に濃化するが、Siのように酸化層や粒界酸化を形成するのではなく、粒状の酸化物(MnO)として成長するため、合金化処理時のFeの外方拡散の障害になることは少なくバリア効果はSiより小さい。また、添加量が少量であれば、合金化速度が速くなる傾向さえある。しかしながら、Mnは強化能力が低いことから、大量に添加する必要がある。大量に添加すると、MnOが鋼板の表面に発生しやすくなるので、合金化挙動を複雑化し、制御を困難にしている。
【0019】
以上のような前提条件を勘案し、本発明者らは、MnOの生成形態と合金化の関係に着目し、検討した結果、合金化むらの詳細な発生メカニズムを突き止めることに成功した。
【0020】
その詳細メカニズムを、図1に基づき説明する。まず、図1(a)に示すように、大量のMnが添加された鋼板を高い酸素分圧下で焼鈍すると、鋼板の最表面に粒状酸化物であるMnOが大量に生成する。その状態で、鋼板を溶融亜鉛めっきの亜鉛めっき浴に浸漬すると、図1(b)に示すように、亜鉛めっき浴中に含まれるAlが、鋼板表面に生成したMnOの酸素、および鋼板内部から拡散するFeと瞬時に反応し、鋼板と亜鉛めっき層の界面にFe−Al−O合金層が形成される。図1(c)に示すように、このFe−Al−O合金層が合金化処理時の鋼板からのFeの拡散障壁となり、鋼板の合金化が阻害されることで、合金化むらを引き起こし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面外観を悪化させていることが分かった。
【0021】
本発明者らは、この実情を解消するべく鋭意検討を行った結果、鋼板を亜鉛めっき浴へ浸漬する際の板温を適切に制御することで、Fe−Al−O合金層の生成を抑制することができ、その結果、合金化むらのない、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができることを見出した。
【0022】
通常、亜鉛めっきを行う際に、亜鉛めっき浴へ浸漬する際の鋼板の板温は400〜500℃程度であるが、表面にMnOが発生した鋼板を、この板温条件で浸漬すると合金化むらが発生する。ここで、鋼板を亜鉛めっき浴へ浸漬する際の板温を、通常温度(400〜500℃)より高くすると、図2(b)に示すように、Feの溶出と共にMnOが亜鉛めっき浴内に排出されることとなり、鋼板表面におけるFe−Al−O合金層の生成を防止することが可能となる。その結果、図2(c)に示すように、合金化は均一に進行し、合金化むらの発生を低減することができる。
【0023】
また、鋼材の焼鈍条件を、MnOが十分に生成されない条件である低酸素分圧とした上で、板温を通常温度(400〜500℃)より高くした場合、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に形成された亜鉛めっき層が剥離してしまう。従って、亜鉛めっき浴へ浸漬する際の鋼板の板温を単に制御するだけではなく、同時に、焼鈍条件も適切に調節しなければ、合金化の挙動を適性に制御することはできないということも確認した。
【0024】
本発明者らは、以上説明したように、亜鉛めっき浴へ浸漬する際の鋼板の板温を制御することと、焼鈍工程の雰囲気中の酸素分圧を調節することを、併せて実施することで、合金化むらのない、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を確実に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
次に、本発明に用いる鋼材の成分限定理由について説明する。以下、各元素の含有量を%と記載するが、断りのない限り全て質量%を示す。
【0026】
C:0.02〜0.2%
Cは鋼の強度に大きく作用し、低温変態生成物の量や形態を変えることで、伸びや伸びフランジ性にも影響を与える。含有量が0.02%未満では自動車用の高強度の鋼板とすることができず、一方、0.2%を超えて添加すると溶接性の低下を招く。従って、Cの含有量は、その下限を0.02%、好ましくは0.04%とし、その上限を0.2%、好ましくは0.15%とする。
【0027】
Mn:2.0〜3.5%
Mnは強化元素であり、高強度を得るためと、加工性が非常に優れた高強度鋼板としての特性を得るためには、少なくとも2.0%以上添加することが必要である。一方、その含有量が多すぎると、伸びの低下、或いは炭素当量の増大があり、溶接性に悪影響を及ぼすため、3.5%以下とする必要がある。従って、Mnの含有量は2.0〜3.5%とする。
【0028】
Cr:0.03〜0.5%
Crは焼き入れ性を高め、組織強化を図る上で有効な元素である。また、Crはオーステナイト中にCを濃化させ、その安定度を高め、マルテンサイトを生成させやすくするだけでなく、酸化物を鋼板表面に形成することによって、めっき性にも影響を与える。その含有量が0.03%未満では、焼き入れ性の向上効果が期待できないので、その下限を0.03%とする。一方、0.5%を超えて添加しても焼き入れ性の向上効果が飽和し、コスト面では不利になるので、その上限を0.5%とする。また、0.3%を超えて添加した場合、めっき性を損ねるので、その上限は0.3%とすることが好ましい。
【0029】
Al:0.01〜0.15%
Alは製鋼段階での脱酸剤として有効な元素であるので、0.01%以上は添加する必要がある。しかしながら、その含有量が0.15%を超えると、表面性状を悪化させるばかりか、製造コストの上昇を招く。従って、Alの含有量は0.01〜0.15%とする。
【0030】
Si:0.04%以下(0%を含む)
Siはα層中の固溶C量を減少させることにより、伸びなどの加工性を向上させる元素である。但し、Siは鋼板表面に酸化皮膜を形成し、めっきの濡れ性を極端に劣化させる元素であるため、基本的には添加しない。しかしながら、不可避的に不純物として混入することがある元素であるため、その上限を、悪影響を及ぼす最低限の0.04%とする。好ましくは、その上限を0.03%に止める必要がある。
【0031】
P:0.03%以下(0%を含む)
Pは高強度鋼板を得るために有効な元素であるが、0.03%を超えるとめっきむらが生じやすくなり、また、合金化処理が困難になるので、基本的には添加しない。しかしながら、不可避的不純物として混入することがある元素であるため、その上限を0.03%に止める必要がある。
【0032】
S:0.03%以下(0%を含む)
Sは熱間圧延時の熱間割れの原因になるほか、スポット割れ性を著しく損なう元素である。鋼中で析出物として固定されるが、その含有量が増加すると、伸びや伸びフランジ性の劣化を招くので、基本的には添加しない。しかしながら、不可避的不純物として混入することがある元素であるため、その上限を0.03%に止める必要がある。
【0033】
また、本発明に用いる鋼材は、以上の元素のほかはFeと不可避的不純物で構成されるが、必要に応じて更に以下の元素を含有しても良い。
【0034】
Cu:0.003〜0.5%、Ni:0.003〜1.0%
CuとNiは鋼材自体の強度を向上させたり、めっき性を向上させたりすることができる有効な元素である。CuやNiは鋼材の主成分であるFeより酸化しにくいため、CuやNiが鋼材表面に濃化することにより、SiやMnの酸化物形態を変化させてめっき性の低下を防止することが可能になる。そのような効果を得ることを考慮すると0.003%以上の添加は必要ではあるが、過度の添加は、加工性の低下、コスト高をもたらすため、Cuの場合、上限は0.5%、Niの場合、上限は1.0%とする。
【0035】
Ti:0.003〜1.0%
Tiは炭化物を形成し、鋼を高強度化するために有効な元素である。また、CやNを固定し、鋼板のr値を上昇させる効果もある。その効果を奏するためには、0.003%以上の添加は必要であるが、過度の添加は、加工性の低下、コスト上昇をもたらすため、その上限を1.0%とする。
【0036】
また、Cu、Ni、Tiは複合添加することで、鋼板表面の清浄度を向上させることができ、Feの溶解時に鉄の複合酸化物を形成して、めっき性を向上させる作用もある。従って、これらの元素を複合添加する場合は、単独で含有する場合の上下限も考慮して、合計で0.003〜1.0%とする。
【0037】
V:0.003〜1.0%、Nb:0.003〜1.0%
VとNbは共に炭化物を形成し、鋼を高強度化するために有効な元素である。その効果を奏するためには、夫々0.003%以上の添加は必要であるが、過度の添加は、加工性の低下、コスト上昇をもたらすため、夫々その上限を1.0%とする。
【0038】
B:0.0002〜0.1%
Bは溶接性を向上させると共に、焼入性を高める作用がある。その作用を効果的に発現させるには、0.0002%以上添加することが好ましい。しかし、過度に添加すると、これらの作用が飽和するだけではなく、延性が劣化し、加工性が低下するようになるので、その上限を0.1%とする。
【0039】
Mo:0.003〜1.0%
Moはめっき性を損なわずに、固溶強化を図る上で有効な元素である。その効果を奏するためには、0.003%以上の添加は必要であるが、過度の添加は、製造コストの上昇をもたらすため、その上限を1.0%とする。
【0040】
Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.001%
Caは介在物の形態を制御して、延性を高め、加工性を向上させる作用がある。その作用を効果的に発現させるには、0.0005%以上添加する必要がある。しかし、過度に添加すると、鋼中の介在物量が増加して延性が劣化し、加工性が低下するようになるので、その上限を0.005%とする。Mgも鋼中でCaと同様の働きをするが、その含有量は、Caと同様の理由で0.0005〜0.001%とする。
【0041】
以下、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の一例を、その製造条件と共に詳細に説明する。
【0042】
まず、上記の成分を含有する鋼のスラブを熱間圧延した後、巻き取り、必要に応じて表面の酸洗を行った後、冷間圧延して下地鋼板を作製する。
【0043】
次に、連続式溶融亜鉛めっきラインにて下地鋼板の焼鈍を行う。例えば、この工程での焼鈍温度は750〜900℃とし、焼鈍時間は200秒以内とする。また、この焼鈍工程は、雰囲気中の酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≦23を満たす条件で行う。酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)>23という低い条件で下地鋼板の焼鈍を行った場合、MnOの発生が極端に少なくなる。この条件で焼鈍した鋼板の板温を通常温度(400〜500℃)より高くして510℃以上とし、次のめっき工程で亜鉛めっき浴に浸漬すると、Feの拡散が過剰に促進されて合金化が過度に進行する。その結果、亜鉛めっきが剥離しやすくなり、耐パウダリング性が悪くなる。よって、焼鈍工程での雰囲気中の酸素分圧PO(単位はatm)は、−log(PO)≦23を満たす条件で行う。
【0044】
焼鈍工程を終えた後、めっき工程での亜鉛めっき処理を行う。めっき浴としては、Alを0.05〜0.20質量%含有する溶融亜鉛めっき浴を用いる。本発明では、亜鉛めっき浴に浸漬する際の鋼板の板温を、510℃以上、600℃未満とする。
【0045】
鋼板の板温を、亜鉛めっきを行う際の従来までの通常温度(400〜500℃)として、亜鉛めっき浴に浸漬すると、鋼板表面に発生したMnO粒子が、亜鉛めっき浴に浸漬後もそのまま鋼板と亜鉛めっき層の界面に残存することになり、そのMnOの酸素(O)が、鋼板内部から拡散するFeと共に、亜鉛めっき浴中に排出されることになる。このOとFeが、亜鉛めっき浴中のAlと瞬時に反応することで、鋼板と亜鉛めっきの界面にFe−Al−O合金層が形成される。その結果、合金化むらを発生することになる。 これに対して、鋼板の板温を、510℃以上、600℃未満として、亜鉛めっき浴に浸漬すると、MnOがFe共に亜鉛めっき浴中に排出されることになり、Fe−Al−O合金層の形成が抑制されることになり、その結果、合金化むらの発生を抑制することができる。
【0046】
この鋼板の亜鉛めっき浴への浸漬時間は、例えば5秒以内である。この浸漬後に鋼板を亜鉛めっき浴から引き出し、その鋼板の表面に付着した亜鉛めっきの付着量を調整する。その調整は、例えばガスワイパーによって60±5g/mの適正量に調整する。
【0047】
このめっき工程終了後に、続いて、合金化処理工程での合金化処理を行って、溶融亜鉛めっき鋼板を合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする。例えば、この合金化処理の処理温度は450〜600℃で、処理時間は60秒以内である。以上の工程を経ることにより、めっき皮膜の均一性および耐パウダリング性に優れ、合金化むらが抑制された表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【0048】
以上説明したように、Mnの含有量が2.0〜3.5質量%と高い鋼板を下地鋼板として、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するにあたっては、焼鈍時の酸素分圧PO(単位はatm))を、−log(PO)≦23を満たす適正な条件とした上で、めっき工程での鋼板の浸漬温度を、510℃以上、600℃未満とすることで、耐パウダリング性、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
試験では、表1に示す成分組成の各種冷延鋼板を、100×250mmのサイズに加工し、溶融亜鉛めっきシミュレータを用いて、焼鈍、めっき、合金化処理という順を経ることで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の試験片を得た。
【0051】
【表1】

【0052】
まず、表1に示す成分組成の各種冷延鋼板の表面を酸洗することで清浄化した後、N−3%Hの雰囲気で焼鈍を行った。焼鈍条件については表2に示す。この焼鈍での焼鈍温度は750〜900℃の範囲とし、焼鈍時間は120秒とした。−log(PO)は、表2に示すように、焼鈍温度を750〜900℃の範囲とし、露点を−75〜0℃の範囲で変化させることで調整した。
【0053】
【表2】

【0054】
この焼鈍後の鋼板の板温を、表3に示すように調整し、Alを0.13質量%含有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬することで、鋼板の表面に亜鉛めっき層を形成した。尚、浸漬時間は2秒間とした。亜鉛めっき層形成後、ガスワイパーにより、その亜鉛付着量を60g/mに調整して、溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。また、溶融亜鉛めっき浴の温度は、鋼板の板温と同一温度となるよう調整した。
【0055】
合金化処理は、めっき処理の直後、めっきシミュレータ内で赤外線加熱炉を使用することで行った。合金化温度は550℃、合金化時間は10秒間とした。この試験では、得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の試験片を用いてめっき特性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
まず、合金化処理後の各試験片の中央より10mm角のサンプルを切り出して断面試料を作製し、合金化の有無を確認した。亜鉛めっき層のFe含有量(質量%)は、SEM−EDXにより分析した。このFe含有量は、合金化の進行度合いを示し、含有量の多少で合金化むらを推測できる。Fe含有量が少ない場合は、合金化不足を生じ、Fe含有量が過剰な場合は、合金化過剰によるめっき剥離が発生する。
【0058】
合金化むらの発生状況の評価基準は、◎:合金化むらなし、○:合金化むらが面積率で10%未満発生、△:合金化むらが面積率で10%以上30%未満発生、×:合金化むらが面積率で30%以上発生とした。◎と○を合格とする。
【0059】
耐パウダリング性については、90°曲げ戻しテストを実施した後、圧縮側表面の亜鉛めっき層をテープ剥離させ、剥離面積/全面積=面積率(%)を求めた。耐パウダリング性の評価基準は、◎:めっき剥離なし、○:めっき剥離が面積率で5%以下発生、×:めっき剥離が面積率で10%以上発生、××:不めっきが発生し、めっき部の略全面が剥離とした。◎と○を合格とする。
【0060】
試験No.1、2、6、7、8、11、15〜29は、本発明の実施例である。酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≦23を満たす条件で焼鈍を行うと共に、亜鉛めっき浴に浸漬させる際の鋼板の板温を510℃以上且つ600℃未満とした実施例では、合金化むらの発生は全て10%未満の合格範囲で、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができた。また、耐パウダリング性についても、評価基準のめっき剥離は多くても面積率で5%であって、全て合格範囲であった。
【0061】
一方、酸素分圧PO(単位はatm))が、−log(PO)>23の条件で焼鈍を行った比較例である試験No.4、10、14では、合金化むらが面積率で30%以上発生し、耐パウダリング性についても、めっき剥離が面積率で10%以上発生し、表面外観が悪くなった。特に、亜鉛めっき浴に浸漬させる際の鋼板の板温を510℃未満とした試験No.14では、合金化が極度に進行したと思われ、亜鉛めっき層の剥離は顕著であり、表面外観は際立って悪くなった。
【0062】
試験No.3、5、9、12、13は、酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≦23を満たす条件で焼鈍を行ったが、亜鉛めっき浴に浸漬させる際の鋼板の板温を510℃未満とした比較例である。これら比較例(試験No.12を除く)では、耐パウダリング性については良好であったが、合金化むらが面積率で30%以上発生し、表面外観が悪くなった。また、亜鉛めっき浴に浸漬させる際の鋼板の板温を420℃と極端に低くした試験No.12では、MnOが大量に発生し、不めっきが発生してしまった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造過程で、合金化むらが発生するメカニズムを示す説明図であって、(a)は鋼板の表面にMnOが大量に生成した状態を示す鋼板の縦断面図、(b)は鋼板と亜鉛めっきの界面にFe−Al−O合金層が形成された状態を示す鋼板の縦断面図、(c)はFe−Al−O合金層がFeの拡散障壁となり合金化むらを引き起こす状況を示す鋼板の縦断面図である。
【図2】本発明を採用して合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際の状況を示す説明図であって、(a)は鋼板の表面にMnOが大量に生成した状態を示す鋼板の縦断面図、(b)はFeの溶出と共にMnOが亜鉛めっき浴内に排出された状況を示す鋼板の縦断面図、(c)は合金化が均一に進行する状況を示す鋼板の縦断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.02〜0.2%、Mn:2.0〜3.5%、Cr:0.03〜0.5%、Al:0.01〜0.15%、Si:0.04%以下(0%を含む)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)を含有する鋼板から、焼鈍工程、めっき工程、合金化処理工程を経て合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
焼鈍工程は、雰囲気中の酸素分圧PO(単位はatm)が、−log(PO)≦23を満たす条件で行うと共に、
めっき工程は、510℃以上、600℃未満の板温の鋼板を、亜鉛めっき浴に浸漬させることにより行うことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板は、更に、質量%で、Cu:0.003〜0.5%、Ni:0.003〜1.0%、Ti:0.003〜1.0%からなる群から選ばれた1種または2種以上を、合計で0.003〜1.0%含有することを特徴とする請求項1記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記鋼板は、更に、質量%で、V:0.003〜1.0%、Nb:0.003〜1.0%、B:0.0002〜0.1%、Mo:0.003〜1.0%からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼板は、更に、質量%で、Ca:0.0005〜0.005%、Mg:0.0005〜0.001%からなる群から選ばれた1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−18873(P2010−18873A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182909(P2008−182909)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】