説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法

【課題】耐フレーキング性と耐パウダリング性とを両立させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】所定の化学組成を有し特にSiを0.02〜0.1%含む母材鋼の表面に、Feを7.5〜11%、Alを0.1〜0.3%含むめっき層を有し、めっき−母材界面にレッジ構造部を面積率にして60%以上有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板とし、上記組成を有する鋼スラブの熱間圧延の最後に900〜950℃で熱間仕上げ圧延を行い、得られた熱延鋼板を冷間圧延し、790〜900℃で焼鈍し、めっき浴温Tp(℃)と侵入鋼板温度Ts(℃)とが、450≦Tp≦470かつ0≦Ts−Tp≦30を満足する条件下で溶融亜鉛めっきを施し、次いで460〜600℃で合金化処理を施した後、調質圧延を行う、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家電、建材、自動車等の産業分野において、溶融亜鉛めっき鋼板、とりわけ経済性、防錆性、塗装後の性能等が優れている合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下において、「GA」ということがある。)が広く用いられている。
【0003】
GAは、母材鋼板を焼鈍した後に溶融亜鉛めっきし、500〜600℃に加熱して亜鉛めっき層をFe−Zn合金化することにより製造される。めっき付着量は、通常、20〜70g/m、めっき層中のFe含有量の平均値は通常8〜12重量%である。
【0004】
自動車外装用途に用いられるGAには、加工時には耐パウダリング性及び耐フレーキング性が求められる。
【0005】
パウダリングは、鋼板が圧縮変形を受けた場合に、めっき層が粉状になって剥離する現象である。パウダリングが生じるとその部分の耐食性が劣化し、発生したZn粉末が金型に付着して成形品の外観品質を損なう。パウダリングはFe−Zn合金化が進行し、Г相(FeZn10)等の硬質な合金相が過剰に生じると顕著になるとされている。
【0006】
フレーキングは、鋼板が金型の表面を摺動する時に、めっき層が薄片状に剥離する現象である。フレーキングが生じるとプレス加工時の破断や形状不良が生じやすく、成形品の外観や耐食性が損なわれる。フレーキングは、めっき層が軟質な場合や、鋼板の摺動抵抗が大きく鋼板と金型との間の摩擦抵抗が高い場合に発生しやすいとされている。
【0007】
そこで、GAの耐パウダリング性と耐フレーキング性とを両立させるため、従来は、めっきの合金化度(Fe含有量)や合金相構造の制御、或いは、めっき表面の摺動抵抗を下げることに注目した技術(例としてめっき後の潤滑処理等)の開発がなされてきた。
【0008】
しかしながら、最近の加工現場においては、成形品の生産性向上の要請から、プレス成形速度が従来よりも格段に速くなってきている。また、成形精度向上のために、プレス成形金型のクリアランスも極力小さくされる傾向にある。これらの傾向は、いずれもパウダリングやフレーキングが発生しやすい条件を生む。その結果、従来では許容されていた品質のGAを用いていても、パウダリングやフレーキングが発生して品質不良となるケースが生じている。
【0009】
自動車外装用途に主として用いられる極低炭素−IF鋼を母材とするGAにおける耐パウダリング性や耐フレーキング性の向上に関する技術として、例えば特許文献1には、合金相を制御する技術として、めっき浴への浸入時の鋼帯温度を25℃〜75℃高くして、めっき層にζ相結晶が地鉄より垂直に配向した凹部を形成させる技術が開示されている。特許文献2には、めっき表面の摺動性を下げる技術として、めっき皮膜中のFe含有量(以下において、「合金化度」ということがある。)を9%〜11%とし、かつ、合金化処理後にアルカリ又は酸に浸漬してめっき層表面の酸化被膜を適正化して、耐フレーキング性を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3887496号公報
【特許文献2】特許第3240987号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】土岐保・荒井正浩・足立吉隆・中森俊夫・堀雅彦(2003).鉄と鋼,89,46−53.
【非特許文献2】中森俊夫・土岐保・荒井正浩・足立吉隆(1996).住友金属,48,103−110.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載された技術によれば、プレス加工性すなわち「めっき密着性」及び「摺動性」が共に優れたGAを提供できるとされている。しかしながら、合金化反応により形成されるζ相の方位は、直下の地鉄結晶方位の影響を受けるため、全ての凹部内のζ相を地鉄に対して垂直に配向させるのは極めて困難であり、現実的ではない。また、この方法では凹部の存在により塗装後の鮮映性が損なわれてしまい、特に自動車等の外装用途においては外観を損ねることとなる。また、特許文献2に記載されている技術では、殊に長時間の連続操業においてはアルカリや酸の液質管理が重要となり、当該液質管理の状態によっては所望の性能を有するGAを得られない虞があった。加えて、特許文献2に記載の技術は、表面の潤滑性を改善することを期待した技術であり、素地鋼板とめっき層との間の密着力を高める技術ではない。また、上記したような高速プレス加工条件下での耐フレーキング性を、表面の潤滑性を向上させることのみによって改善することは困難である。
【0013】
上記した従来技術のほか、めっき密着性と、めっき−鋼板界面の粗面化度との関係が検討の対象となっている。例えば、非特許文献1では、めっき−鋼板界面におけるαFe結晶粒径オーダーのピッチを有する凹凸の存在がめっき密着性に影響を及ぼす一因子と推定されている。また、素地鋼板の結晶粒の配向がめっき−鋼板界面における上記凹凸の形成に影響を及ぼし得ることが推測されている。さらには、素地鋼板のαFe結晶粒界への亜鉛の侵入と、耐低温チッピング性等のめっき密着性の向上との因果関係が推測されている。また、非特許文献2では、めっき−鋼板界面における母材αFe結晶粒程度のピッチを有する凹凸の形成、及び、母材αFe結晶粒界への亜鉛の侵入によるαFe粒界の脆化に加え、めっき−鋼板界面での約100nmピッチのテラス状のレッジ構造の形成がめっき密着性と相関を有することが、界面等の走査型電子顕微鏡(SEM)観察や引張剪断接着強度の試験結果等から推測されている。
【0014】
昨今の加工現場における上記したプレス速度の増大やクリアランスの削減に伴い、合金相の制御、表面摺動性の向上等の従来技術では、要求されるプレス加工性の水準を必ずしも満足できなくなりつつある。かかる状況は特に自動車車体用、殊に自動車外装用のGAにおいて顕著である。ゆえに、非特許文献1及び2のような、めっき−素地鋼板界面における凹凸等の形状的要素を取り入れ、GAのめっき皮膜の密着性を更に向上させる必要性が強まりつつある。しかし、このような一定のめっき−素地鋼板界面形状を有するGAを安定して供給するにあたって好便な方法は未だ見出されていない。とりわけ、要求の厳しい自動車外装用途においては、こうした新たな技術を取り入れたGAを安定して供給することは未解決の問題である。
【0015】
例えば、非特許文献2によれば、めっき−素地鋼板界面におけるレッジ構造の形成により、めっき密着性を向上させ得ることが示唆されている。しかし、非特許文献2に記載のレッジ構造は、合金化度が高い条件の下で発現する構造である。よって、実際にこのようなレッジ構造を有するGAを製造しようとすると、高合金化度領域に特徴的な脆いΓ相の形成が促進され、製造されるGAのプレス加工性、特に耐パウダリング性が低下するという問題がある。かかる問題は、複雑な形状に加工されることの多い自動車外装用途のGAにおいて特に顕在化し易い。
【0016】
そこで本発明は、かかる事情に鑑み、特に自動車外装用途に好適な、耐フレーキング性及び耐パウダリング性が共に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記したように、フレーキングがめっき層と母材鋼板との界面で剥離する現象であることから、従来のめっき層やその表面に注目するだけでなく、めっき層−母材鋼界面の構造もフレーキングの抑制に影響するのではないかと考え検討した。その結果、特に所定量のSiを含有する鋼板を母材としたとき、所定の製造条件の下で、適切な合金化度領域においてめっき―母材界面における母材鋼の結晶粒にレッジ構造が観察されるとともに、耐フレーキング性及び耐パウダリング性が共に良好となることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0018】
以下、本発明について説明する。
【0019】
本発明の第1の態様は、母材鋼板の少なくとも片面にめっき層を有するめっき鋼板であって、母材鋼板の化学組成が、重量%で、C:0.007%以下、Si:0.02%以上0.1%以下、Mn:0.05%以上0.8%以下、P:0.03%以下、S:0.015%以下、sol.Al:0.01%以上0.08%以下、Ti:0.005%以上0.05%以下、残部がFe及び不純物であり、めっき層のFe及びAlの含有量が、重量%で、それぞれ7.5%以上11%以下、0.1%以上0.3%以下であって、めっき層の付着量が、片面あたり25g/m以上60g/m以下であり、めっき層と母材鋼板との界面に、レッジ構造部を面積率にして60%以上有する、合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0020】
本発明において、「鋼板」とは、鋼帯をも包含する概念である。また、「レッジ構造部」とは、レッジ構造を有する部分を意味し、「レッジ構造」とは、結晶粒表面に存在する1μm未満の規模の棚状の構造を意味する。本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板においては、後述するように、レッジ構造のピッチ(棚の幅)は通常50nm〜150nm程度となる。めっき層と母材鋼板との界面におけるレッジ構造部の「面積率」は、次の手順で算出するものとする。(1)めっき層をインヒビター(朝日化学工業株式会社製700BK)を0.3%添加した10%塩酸(塩酸の濃度は重量%であり、インヒビターの濃度は当該インヒビターを含む酸溶液全量を100%とした際の重量%である。)で溶解除去することにより、母材鋼板の表面を露出させる。(2)露出させた母材鋼板の表面を、走査型電子顕微鏡(以下において、「SEM」ということがある。)を用いて倍率2000倍で観察し、結晶粒の分布を確認する。なお、表面の形状をより詳細に観察する観点からは、SEMとして例えば電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を好ましく用いることができる。(3)各結晶粒について倍率10000倍で観察し、結晶粒表面の、SEM視野に占める面積にして5割以上でレッジ構造が観察された結晶粒を、「レッジ構造型結晶粒」とする。(4)倍率を再び2000倍とし、上記「レッジ構造型結晶粒」が、倍率2000倍のSEM像視野中において占める面積率を求める。(5)合計10の視野について上記(2)〜(4)を行い、上記面積率の10視野の平均値を算出して、これをレッジ構造部の面積率とする。
【0021】
本発明の第1の態様において、母材鋼板の化学組成が、重量%で、0.08%以下のNbをさらに含有していてもよい。
【0022】
本発明の第2の態様は、母材鋼板の少なくとも片面にめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、母材鋼板の化学組成が、重量%で、C:0.007%以下、Si:0.02%以上0.1%以下、Mn:0.05%以上0.8%以下、P:0.03%以下、S:0.015%以下、sol.Al:0.01%以上0.08%以下、Ti:0.005%以上0.05%以下、残部がFe及び不純物であり、上記化学組成を有する鋼スラブを熱間圧延して、母材鋼板を得る、熱間圧延工程と、熱間圧延工程で得られた母材鋼板を冷間圧延する、冷間圧延工程と、冷間圧延工程後の母材鋼板を790℃以上900℃以下の温度で焼鈍する、焼鈍工程と、焼鈍工程後の母材鋼板を溶融亜鉛めっき処理することにより、めっき鋼板を得る、溶融亜鉛めっき処理工程と、溶融亜鉛めっき処理工程後のめっき鋼板に、460℃以上600℃以下の温度で合金化処理を施す、合金化処理工程と、合金化処理工程後のめっき鋼板に調質圧延を施す、調質圧延工程とを含み、熱間圧延工程における仕上げ圧延が、900℃以上950℃以下の温度で行われ、溶融亜鉛めっき処理工程において、溶融亜鉛めっき浴温Tp(℃)と侵入鋼板温度Ts(℃)とが、
450≦Tp≦470 (1)
かつ
0≦Ts−Tp≦30 (2)
を満足することを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0023】
本発明の第2の態様において、母材鋼板の化学組成が、重量%で、0.08%以下のNbをさらに含有していてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の態様に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス速度を増大させた条件下においても、プレス加工時の耐フレーキング性及び耐パウダリング性を共に良好とすることが可能である。よって、自動車外装用鋼板として好適に用いることが可能である。さらに、特許文献1のように性能向上をめっき層に凹部を形成させることに依存しないため、良好な塗装品質を得ることが可能である。
【0025】
本発明の第2の態様に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、本発明の第1の態様に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、特殊な作業を必要としないで従来の製造設備を用いて容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のGAのめっき層と母材との界面を電界放射型走査電子顕微鏡にて倍率10000倍で観察したSEM像である。
【図2】本発明のGAのめっき層と母材との界面を電界放射型走査電子顕微鏡にて倍率2000倍で観察したSEM像である。
【図3】本発明のGAのめっき層と母材との界面を電界放射型走査電子顕微鏡にて倍率10000倍で観察したSEM像である。
【図4】本発明とは異なるGAのめっき層と母材との界面を電界放射型走査電子顕微鏡にて倍率2000倍で観察したSEM像である。
【図5】本発明とは異なるGAのめっき層と母材との界面を電界放射型走査電子顕微鏡にて倍率10000倍で観察したSEM像である。
【図6】本発明とは異なるGAのめっき層と母材との界面を電界放射型走査電子顕微鏡にて倍率10000倍で観察したSEM像である。
【図7】本発明のGAの製造方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
【図8】めっき鋼板の耐パウダリング性を評価する装置を説明する図である。
【図9】めっき鋼板の耐フレーキング性を評価する装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。また、以下において、特に断らない限り、化学組成を示す%表示は重量%を示すものとする。また、特に断らない限り、数値範囲について「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。
【0028】
<1.合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)>
本発明の第1の態様に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)について説明する。
【0029】
本発明のGAは主として、めっき−母材鋼界面におけるレッジ構造を適切な合金化度領域で発現させることにより、耐フレーキング性及び耐パウダリング性を共に良好にしている。本発明のGAにおけるレッジ構造の発現機構は必ずしも明確ではないが、本発明者らは次のように推定している。
【0030】
GAは、母材鋼板を、Alを含有した溶融亜鉛めっき浴に浸漬してめっき層を形成した後、適切な合金化度となるまで加熱により母材鋼からめっき層中にFeを拡散させる(合金化処理を施す)ことによって製造される。製造過程においては、溶融亜鉛めっき浴中に母材鋼板が侵入した際に、まずFeと高い親和力を有するAlが反応してFe−Al層が形成される。当該Fe−Al層がめっき層−母材鋼界面に緻密かつ均一に形成されることにより、合金化処理の初期段階で母材鋼からのFeの拡散によってFe−Al層が破壊される事態が抑制される。よって合金化進行後もこのFe−Al層を介してFeの拡散が均一に進行するので、結晶方位に沿った形でレッジ構造が発現すると考えられる。すなわち、製造過程において緻密なFe−Al層が均一に形成されることが、レッジ構造発現のために重要である。
【0031】
本発明者らは、適正な合金化度領域でレッジ構造を発現させるべく検討した結果、レッジ構造の発現はめっき条件のみならず、母材鋼板にも強く影響されることを知見した。以下に、本発明のGAがとる構成について説明する。
【0032】
(a.母材鋼板の化学組成)
母材鋼板の化学組成について説明する。
【0033】
母材鋼板のC含有量は少ないほど好適であり、0.007%以下とする。より好ましくは0.004%以下である。C含有量を上記上限値以下とすることにより、GAの成形性を良好にすることが可能になる。また後述する合金化処理における反応性を良好にすることが可能になるので、めっき層中のFe含有量(合金化度)が適切なGAを得ることが容易になり、したがってGAの耐フレーキング性及び耐パウダリング性を共に良好にすることが容易になる。
【0034】
Siは、本発明において最も特徴的な鋼中成分である。母材鋼板のSi含有量の下限は0.02%であり、より好ましくは0.04%である。Si含有量を上記下限値以上とすることにより、溶融めっき時の初期に生成するFe−Al合金相を、めっきと母材との界面において、薄く均一に生成させることが可能となる。このFe−Al合金相をめっき−母材界面において薄く均一に生成させることにより、溶融めっき後の合金化処理工程においてめっき−母材界面でレッジ構造を形成させることが可能となるので、GAの耐フレーキング性及び耐パウダリング性を共に良好にすることが可能となる。また、母材鋼板のSi含有量の上限は0.1%であり、より好ましくは0.08%である。Si含有量が上記上限値を超えると、GAのプレス加工性が低下する虞がある。また、母材鋼中のSi含有量の増大に伴って、製造時の合金化処理におけるFeのめっき層への拡散速度が低下する傾向にある。よってSi含有量が上記上限値を超えると合金化度を適切な範囲内にすることが困難になりやすく、適切な合金化度を得るために合金化処理温度を上げる必要が生じ、合金化処理温度の上昇により脆いΓ相の生成が促進されてGAの耐パウダリング性を低下させる虞がある。
【0035】
母材鋼板のMn含有量の下限は0.05%であり、より好ましくは0.1%である。Mn含有量を上記下限値以上とすることにより、Sの含有に起因する熱間脆性を抑制することが可能となる。また、Mnを含有させることにより鋼板の強度を調整することが可能である。一方、母材鋼板のMn含有量の上限は0.8%とし、より好ましくは0.4%である。Mn含有量を上記上限値以下とすることにより、GAの加工性を良好とすることが
容易になる。
【0036】
母材鋼板のP含有量は少ないほど好適であり、好ましくは0.03%以下である。Pには鋼の強度を上げる作用があるため、P含有量が上記上限値を上回るとGAのプレス加工性が損なわれる虞がある。また、母材鋼中のPは合金化反応を阻害するので、P含有量が上記上限値を超えると合金化度を適切な範囲内にすることが困難になりやすく、適切な合金化度を得るために合金化処理温度を上げる必要が生じ、合金化処理温度の上昇により脆いΓ相の生成が促進されてGAの耐パウダリング性を低下させる虞がある。
【0037】
母材鋼板のS含有量は少ないほど好適であり、好ましくは0.015%以下である。母材鋼中のSは、熱間加工性及び耐食性を阻害する作用がある。よって、S含有量を上記上限値以下とすることにより、熱間加工性及び耐食性を良好にすることが容易になる。
【0038】
母材鋼板のsol.Al含有量の下限は0.01%である。sol.Al含有量を当該下限値以上とすることにより、sol.Alによる鋼を脱酸する作用、及び、不可避的不純物であるNをAlNとして固定して母材の成形性を向上させる作用を良好に発揮することが可能となる。また、母材鋼板のsol.Al含有量の上限は0.08%、より好ましくは0.05%である。sol.Al含有量が0.08%を超えると、sol.Alを含有させることによる上記作用は飽和する。また、sol.Al含有量を上記上限値以下とすることにより、焼鈍時に母材表面に酸化物が形成されて溶融めっき時のZnの濡れ性が低下する事態を抑制することが可能となる。
【0039】
母材鋼板のTi含有量の下限は0.005%、より好ましくは0.01%、さらに好ましくは0.02%である。Tiには極低炭素鋼の固溶炭素を固定し、母材のプレス成形性を向上させると共に、結晶粒界での合金化反応性を高め、めっき層表面に適度な硬さを有するδ1 相を均一に生じさせることにより耐フレーキング性を向上させる作用がある。Ti含有量を上記下限値以上とすることにより、Tiによる上記作用を良好に発揮させることが可能となる。また、Ti含有量の上限値は0.08%、より好ましくは0.05%とする。Ti含有による上記作用はTi含有量が0.08%を超えると飽和するからである。
【0040】
母材鋼板において、Nbは必須元素ではない。しかし、NbにもTi同様に固溶炭素を固定する作用があり、また熱間圧延後の鋼板の結晶粒径を小さくし、冷間圧延および焼鈍後の深絞り性を向上させる効果があるので含有させてもよい。Nb含有量の下限は特に限定されるものではない。ただし、Nb含有による上記効果を良好に発揮させることを可能とする観点からは、例えば含有量を0.003%以上とすることが好ましい。また、Nb含有量の上限値は0.08%であり、より好ましくは0.05%以下である。Nb含有量を上記上限値以下とすることにより、高価なNbの使用量を低減してコストを下げることができ、また焼鈍時の結晶粒成長が阻害されて深絞り性が却って悪化する事態を抑制することが容易になる。
【0041】
上記以外の化学組成はFe及び不純物である。
不純物のうち、Nは0.004%以下、Niは0.2%以下、より好ましくは0.02%以下、Cuは0.2%以下、より好ましくは0.01%以下、Crは0.1%以下、より好ましくは0.02%以下がよい。
【0042】
(b.めっき層)
めっき層について説明する。
【0043】
めっき層の付着量の下限は25g/mとする。付着量を当該下限値以上とすることにより、良好な耐食性を確保することが可能となる。また、付着量の上限は60g/mとする。付着量を当該上限値以下とすることにより、付着量過剰に起因してGAの耐フレーキング性及び耐パウダリング性が低下する事態を抑制することが可能である。
【0044】
めっき層の化学組成について説明する。めっき層は、Feを7.5%〜11%、Alを0.1%〜0.3%含有する。
【0045】
めっき層中にはFeを7.5%〜11%含有させる。Fe含有量(合金化度)を7.5%以上とすることにより、他の合金相に較べて軟質なζ相(FeZn13)がめっき層の表面近傍に残存することによるGAの耐フレーキング性低下を抑制することが可能となる。またFe含有量を11%以下とすることにより、耐パウダリング性が大幅に低下する事態を抑制することが可能となる。
【0046】
また、後述するめっき浴中に含有されるAlに対応して、めっき層中にもAlが含まれる。めっき層中のAl含有量は0.1%〜0.3%とする。めっき層中のAl含有量を0.1%以上とすることにより、溶融めっき時にFe−Al合金相を均一に生成させることがより容易となり、そのため母材鋼板−めっき層界面にレッジ構造を形成させることがより容易となる。よって、GAの耐フレーキング性及び耐パウダリング性を共に良好にすることがより容易となる。また、Al含有量を0.3%以下とすることにより、めっき皮膜の合金化速度の低下を抑制することが可能になるので、GAの生産性を良好にすることが可能となる。
【0047】
(c.めっき層−母材鋼界面の構造)
本発明のGAは、めっき層−母材鋼界面に、レッジ構造部を面積率として60%以上備える。
【0048】
図1は、本発明に係るGAについて、めっき層をインヒビター(朝日化学工業株式会社製700BK)を0.3%添加した10%塩酸(塩酸の濃度は重量%であり、インヒビターの濃度は当該インヒビターを含む酸溶液全量を100%とした際の重量%である。)で溶解除去することにより露出させた母材鋼表面を、電界放射型走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss/SUPRA 55VP、加速電圧5kV)を用いて倍率1万倍で観察したSEM像である。図1では、約100nmのピッチのレッジ構造が観察されている。
【0049】
昨今の実プレスに即した過酷な条件下での耐フレーキング性及び耐パウダリング性を良好にするためには、めっき−母材鋼板界面においてレッジ構造を形成することが有効である。このレッジ構造の形成によって、母材鋼板とめっき皮膜との接触表面積が増大する結果、めっき皮膜−母材鋼板間の密着力が著しく向上すると考えられる。
【0050】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板においては、レッジ構造のピッチは通常50nm〜150nm程度となる。なお、以下において説明する図2〜図6のSEM像は、倍率を除き同様の条件で観察されたものである。
【0051】
次に「レッジ構造部の面積率」の算出方法について説明する。
図1で観察しためっき層−母材界面を2000倍の倍率で観察すると、図2のようになる。ここで、図1は、図2中のAの部分に概ね相当する。図2に示される通り、めっき層−母材鋼界面の結晶粒は、見え方の異なる2種類に大別される。このうち、低く見える結晶粒は、拡大すると、その結晶粒のほぼ全体にわたって図1のようにレッジ構造が観察される。これに対し、図2中のBの部分のように高く平坦部分を有する結晶粒では、この平坦な部分ではレッジ構造が観察されず、その周辺の結晶粒界近傍のみでレッジ構造が観察される(図3)。そこで、レッジ構造が発現しない部分、すなわち、高く平滑な部分がその結晶粒に占める割合が5割より大きい結晶粒を除外し、その残りを「レッジ構造型結晶粒」として、レッジ構造が観察される結晶粒が視野全体に占める割合を算出することで、1視野における面積率が算出される。図2では65%であった。
【0052】
ただし、母材鋼板の化学組成次第では、SEM像中で低く見える結晶粒でも、レッジ構造が存在しないものが有る。図4は本発明の範囲外の組成を有するGA鋼板のめっき層−母材界面であり、図5(図4中のCの部分に相当)の低く見える結晶粒においても、図6(図4中のDの部分に相当)の高く見える結晶粒においてもレッジ構造は見られない。図4においてレッジ構造部の面積率は0%であった。
すなわち、まず、高く平滑部が5割より大きな割合で存在する結晶粒を除外し、その後、残りの低く見える結晶粒を粒毎に確認し、レッジ構造を5割以上有する結晶粒を「レッジ構造型結晶粒」としてカウントすることにより、レッジ構造部の面積率の算定を行う。
【0053】
めっき層と母材の界面に、レッジ構造のような極めて微細な凹凸が形成されることで、界面形状が複雑化して、投錨効果による密着性の向上や剥離の伝播抑制等の作用が得られるので、昨今の実プレスに即した過酷な条件下での耐フレーキング性及び耐パウダリング性が共に良好になると考えられる。加えて、めっき−母材間の界面密着力を界面構造により得ていることから、塗装後の低温下での石はね等による塗膜及びめっきの剥離(チッピング)を抑制する性能、すなわち耐低温チッピング性も良好にすることが可能である。
【0054】
<2.合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の製造方法>
本発明の第2の態様に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0055】
図7は、本発明の一実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の製造方法S100(以下において、単に「製造方法S100」ということがある。)を説明するフローチャートである。製造方法S100は、従来のGAの製造方法と同様に、スラブの熱間圧延、酸洗、冷間圧延をこの順に経た後、冷延鋼板を母材として溶融亜鉛めっき鋼板製造設備(CGL)を用いてめっき(合金化処理を含む)を行うものである。
図7に示すように、製造方法S100は熱間圧延工程S1と、酸洗工程S2と、冷間圧延工程S3と、焼鈍工程S4と、溶融亜鉛めっき処理工程S5と、合金化処理工程S6と、調質圧延工程S7と、後処理工程S8とをこの順に有する。なお、S4〜S8は、一般的にはCGLを用いてインラインで連続的に行われる。以下、各工程について説明する。
なお、以下において、特に言及のない処理条件については、従来のGAの製造方法における処理条件と同様とする。
【0056】
熱間圧延工程S1(以下、単に「S1」ということがある。)は、上記化学組成を有する鋼スラブに対して熱間圧延を行う工程である。S1においては、粗圧延と、仕上げ圧延とがこの順に行われる。
【0057】
S1における粗圧延の圧延条件は、従来の極低炭素−IF鋼の製造における熱間圧延での粗圧延の条件と同様の条件を適用できる。
【0058】
S1における仕上げ圧延において、圧延温度の下限は900℃であり、より好ましくは910℃である。仕上げ圧延の圧延温度は、従来の製造方法ではAr3温度(母材鋼が本発明のGAに係る上述の組成を有する場合では概ね860〜870℃)以上であるが、本発明はさらに高めの温度域で仕上げ圧延を行うものである。仕上げ圧延の圧延温度を上記下限値以上とすることにより、GAのめっき層−母材鋼界面にレッジ構造を形成することが可能になるため、GAに良好な耐フレーキング性及び耐パウダリング性を付与することが可能となる。また、圧延温度の上限は950℃である。圧延温度を950℃以下とすることにより、スケール押し込みが発生してこれに起因するスケール疵によりGAの表面外観が損なわれる事態を抑制することが容易になる。
【0059】
仕上げ圧延の圧延温度が耐フレーキング性・耐パウダリング性に及ぼす影響については、次のように考えられる。仕上げ圧延を低めの温度域(例えば880℃程度)で行うと、後述する焼鈍工程S4において790℃〜900℃の温度域で焼鈍しても、母材鋼板の表層には、再結晶しきれずに加工粒が残存する。これに対し、熱間仕上げ圧延温度を高くすると、母材鋼板の少なくとも表層において十分に再結晶が進行し、整粒が母材表層に形成される。このようにめっき処理前に母材表層を整粒化することによって、後述する溶融亜鉛めっき処理工程S5において初期に生成するFe−Al合金相をより均一に生成させることができる。その結果、後述する合金化処理工程S6におけるレッジ構造の形成が促進されるため、GA耐フレーキング性及び耐パウダリング性が向上するものと考えられる。
したがって、熱間仕上げ圧延の温度は、上述のスケール押込みがない範囲で高いほど好ましい。
【0060】
酸洗工程S2(以下、単に「S2」ということがある。)は、上記S1で得られた熱延鋼板に酸洗処理を行い、鋼板表面のスケール分を除去する工程である。本工程における処理条件は、従来の極低炭素−IF鋼を母材とするGAの製造方法における酸洗処理の条件と同様の条件を適用できる。
【0061】
冷間圧延工程S3(以下、単に「S3」ということがある。)は、上記S2を経た母材鋼板に冷間圧延を行い、冷延鋼板を得る工程である。本工程における圧延条件は、従来の極低炭素−IF鋼を母材とするGAの製造方法における冷間圧延の条件と同様の条件を適用できる。
【0062】
焼鈍工程S4(以下、単に「S4」ということがある。)は、上記S3で得られた冷延鋼板を、還元雰囲気下、790℃〜900℃の温度で焼鈍する工程である。焼鈍温度が790℃を下回った場合、母材全体にまで十分に再結晶を進行させることが困難となり、加工粒が残存する結果、プレス加工性が低下する虞がある。これに対し、焼鈍温度を790℃以上とすることにより、母材鋼板全体のみならず、表層においても十分に再結晶が進行し、母材表層が整粒化するために、後述する溶融亜鉛めっき処理工程S5においてFe−Al合金相を均一に生成させることができる。Fe−Al合金相の均一な生成により、後述する合金化処理工程S6においてめっき層−母材界面のレッジ構造形成が促進されるため、GAに良好な耐フレーキング性及び耐パウダリング性を付与することができる。また、焼鈍温度を900℃以下とすることにより、母材の結晶粒径が粗大化して製品の加工後表面に肌荒れを生じる事態を抑制することが可能となる。加えて、焼鈍炉中でのロール表面へのスケールや還元鉄のビルドアップに起因する押し込み疵によって表面性状が劣化する事態を抑制することが容易になる。
【0063】
S4において用いる還元雰囲気としては、水素ガス含有雰囲気等、還元雰囲気下での焼鈍(以下において、「還元焼鈍」ということがある。)に使用可能な公知の還元雰囲気を特に制限なく用いることができる。
【0064】
S4における焼鈍時間は、0.5分〜3分とすることが好ましい。焼鈍時間を0.5分以上とすることにより、母材鋼板表層においても十分に再結晶を進行させ、母材表層を整粒化させることが容易になるので、後述する溶融亜鉛めっき処理工程S5においてFe−Al合金相を均一に生成させることが容易になる。よって、GAに良好な耐フレーキング性及び耐パウダリング性を付与することが容易になる。また、焼鈍時間を3分以下とすることにより、生産効率を向上させることが容易になる。加えて、母材の結晶粒径が粗大化して製品の加工後表面に肌荒れを生じる事態を抑制することが容易になる。さらに、焼鈍炉中でのロール表面へのスケールや還元鉄のビルドアップに起因する押し込み疵によって表面性状が劣化する事態を抑制することが容易になる。
【0065】
溶融亜鉛めっき処理工程S5(以下、単に「S5」ということがある。)は、上記S4を経た母材鋼板に、CGLを用いて溶融亜鉛めっきを施し、めっき鋼板とする工程である。具体的には、母材鋼板を溶融亜鉛めっき浴(以下において、「めっき浴」ということがある。)中に侵入させた後、表面に溶融金属が付着した鋼板をめっき浴から引き上げ、ガスワイピングによりめっき付着量を調整する。
【0066】
S5において、めっき浴温(Tp)は450℃〜470℃とする。すなわち
450≦Tp≦470 (1)
とする。Tpを450℃以上とすることにより、ガスワイピングによるめっき付着量の調整を容易にすることが可能となる。また、Tpを470℃以下とすることにより、後述するめっき浴中への侵入鋼板温度の適正化と併せて、母材鋼板の結晶粒界からFeが異常拡散し、異常なZn−Fe化合物が生成するアウトバースト反応を抑制することができるので、均一なFe−Al合金相を形成することが可能となる。これにより、GAに良好な耐フレーキング性及び耐パウダリング性を安定して付与することが可能となる。
【0067】
S5において、めっき浴内への侵入鋼板温度(Ts)は、Tp〜Tp+30℃とする。すなわち
0≦Ts−Tp≦30 (2)
とする。Tsをめっき浴温(Tp)以上とすることにより、Fe−Al合金相の形成を容易にすることが可能となる。また、TsがTp+30℃を上回ると、めっき浴浸漬中に、上述した母材結晶粒界からFeが異常拡散し、Fe−Al合金相を破壊するアウトバースト反応が起こるとともに、結晶粒内からもζ相が生成し始め、均一なFe−Al合金相の破壊が起こる虞がある。Tsを上記範囲内とすることにより、緻密で均一なFe−Al合金相を形成した後に、後述する合金化処理を行うことが可能となるため、めっき層−母材界面におけるレッジ構造の形成が容易になる。よって、昨今の実プレスに即した過酷なプレス条件下においても良好な耐フレーキング性及び耐パウダリング性を発揮可能なGAを製造することが可能となる。
【0068】
S5において、めっき浴中のAl濃度は、0.07%〜0.20%とすることが好ましい。めっき浴中のAl濃度を上記範囲内とすることにより、めっき皮膜中のAl含有量が概ね0.1%〜0.3%となる。めっき浴中のAl濃度が低すぎると、Fe−Al合金相を均一に生成させることができず、そのため母材鋼板−めっき層界面にレッジ構造を形成させることが困難になる。逆に、めっき浴中のAl濃度が高すぎると、めっき皮膜中のFe−Al層が過剰に厚く形成され、後述する合金化処理における反応速度が遅くなり生産性に悪影響がある。めっき浴中のAl濃度を上記範囲内とすることにより、Fe−Al層を介してFeの拡散が均一に進行する結果、適正な合金化度域で良好な耐フレーキング性及び耐パウダリング性を有するGAを製造することが可能となる。
【0069】
合金化処理工程S6(以下、単に「S6」ということがある。)は、上記S5を経ためっき鋼板を、460℃〜600℃で加熱することにより合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)とする工程である。合金化処理温度を460℃以上とすることにより、適切な合金化度を安定して維持することが可能となる。また、合金化処理温度を600℃以下とすることにより、合金化反応が進みすぎてGAの耐パウダリング性が低下する事態を抑制することが可能となる。
【0070】
調質圧延工程S7は、上記S6を経たGAに、使用に適するように強度、靭性や表面性状等を調整する目的で、調質圧延を施す工程である。本工程における処理条件は、従来の極低炭素−IF鋼を母材とするGAの製造方法における調質圧延の条件と同様の条件を適用できる。
【0071】
後処理工程S8は、上記S7を経たGAに、更なる摺動性や耐食性等の付与を目的として後処理を行う工程である。例えば、酸及び/又はアルカリへの浸漬、酸化物層やリン酸塩処理層の形成等の後処理によって、GA表面の摺動性を向上させることにより、フレーキングやパウダリングの発生を抑制することが容易になる。
【0072】
本発明に関する上記説明では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法S100を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。必要とされる特性に応じて、例えば上記した後処理工程を備えない形態の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法とすることも可能である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0074】
本発明が規定する範囲の化学組成を有する6種類の鋼(A〜F)と、本発明が規定する化学組成の範囲から外れる4種類の鋼(G〜J)とを、転炉−二次精錬(RH)−連続鋳造の工程で製造した。A〜Jの各鋼の化学組成を表1に示す。表1のG〜Jの項目において、*印がついている成分は、含有量が本発明の規定する範囲から外れていることを表す。
【0075】
【表1】

【0076】
A〜Jの各鋼について熱間圧延及び冷間圧延を施し、厚さ0.7mmの冷延鋼板を得た。これら冷延鋼板を母材鋼板として、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に基づき、合金化溶融亜鉛めっき鋼板をCGLにて製造した。この合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに際し、熱間圧延における仕上げ圧延、還元焼鈍、溶融亜鉛めっき及び合金化処理を行った条件を、各例の評価結果と共に表2に示す。表2において、「FT」の項目は熱間圧延における仕上げ圧延温度を、「SS」の項目は焼鈍温度を、「GA」の項目は合金化処理温度を示す。また、「Tp」の項目は溶融亜鉛めっき浴温を、「Ts」の項目はめっき浴への侵入鋼板温度を示す。また、まためっき浴中のAl濃度は、0.09〜0.11%とした。なお、表2において、*印が付いている項目は、その項目が本発明に規定される範囲から外れていることを意味する。
【0077】
【表2】

【0078】
表2に示す各GAについて、以下の試験を行った。
【0079】
<付着量、合金化度、及びめっき層中のAl含有量の測定>
GAのめっき層の付着量、めっき層中のFe含有量(重量%)(合金化度)、及び、めっき層中のAl含有量(重量%)を以下の手順で測定した。結果を表2に示す。
【0080】
GAのめっき層を、インヒビター(朝日化学工業株式会社製700BK、0.3%)を添加した10%塩酸で溶解除去し、その前後の重量差からめっき付着量を算出した。さらに溶解した液から誘導結合プラズマ発光分光(ICP−AES)分析でZn,Fe,Al量を測定し、めっき皮膜中のFe含有量(合金化度)およびAl含有量を算出した。
【0081】
<レッジ構造部の面積率の測定>
GAのめっき層を、インヒビター(朝日化学工業株式会社製700BK、0.3%)を添加した10%塩酸で溶解除去し、露出させた母材鋼板の表面を電界放射型走査電子顕微鏡(Carl Zeiss/SUPRA 55VP)を用い加速電圧5kVで観察した。観察倍率は2000倍として、上述した「レッジ構造部が観察される結晶粒」と「観察されない結晶粒」とを識別した。コンピュータによる画像処理を行い、画面上で観察される「レッジ構造部が観察される結晶粒」を塗りつぶした。画像解析により、この塗りつぶした部分が視野全体に占める割合を算出した。1サンプルにつき10視野についてこの操作を行い、平均値をレッジ構造部の面積率とした。結果を表2に示す。
【0082】
<耐パウダリング性試験>
それぞれの試験片(板厚0.7mm)から直径100mmの円盤状のブランク1を打ち抜き、ダイス径52mm、肩半径5mmのダイス2と、ポンチ径50mmのポンチ3とを用いて円筒絞り成型を行なった。模式図を図8に示す。その後、円筒部の外周部全体から粘着テープ(ニチバン株式会社製セロテープCT−24;24mm幅)により剥離されるめっき層の重量を測定し、その結果を以下の区分で評価した。評価結果を表2に示す。ここに、「mg/P」とは円筒絞り成型したサンプル1個あたりのめっき層の剥離量(mg)を表す単位である。
5mg/P未満:◎
5mg/P以上10mg/P未満:○
10mg/P以上20mg/P未満:△
20mg/P以上:×
上記4段階評価において○以上が、自動車外装用途のGAとして合格レベルである。
【0083】
<耐フレーキング性試験>
防錆油(パーカー興産株式会社製ノックスラスト550HN)を片面当たり3g/m塗布した幅30mm、長さ133mmの試験片4(板厚0.7mm)をダイス5の上に設置し、クランクプレスを用いて、平均加工速度170mm/秒でポンチ6を圧入し、試験片をコの字に成形する。ポンチとダイスの間の幅(クリアランス)は片側0.56mmとした。すなわちしごき率は20%である。模式図を図9に示す。成形後の試験片の側壁部に粘着テープ(ニチバン株式会社製セロテープCT−24;24mm幅)を貼ってはがし、テープに付着するめっき層の剥離面積がテープ全体の面積に占める割合を、コンピュータを用いた画像解析により求めた。その結果は以下の区分で評価した。
3%未満:◎
3%以上5%未満:○
5%以上10%未満:△
10%以上:×
上記4段階評価において○以上が、自動車外装用途のGAとして合格レベルである。
【0084】
なお、上記耐フレーキング性試験におけるポンチ6の下降速度170mm/秒は表面の摺動にとっては非常に厳しい条件であり、フレーキングを防ぐ上では不利な条件である。例えば前述した特許文献2の実施例では、ポンチの圧入速度は60mm/分である。また、昨今の加工現場におけるプレス速度は通例100mm/秒を上回る。すなわち上記試験は、従来よりも極めて厳しく、昨今の実プレスに近いプレス速度条件で耐フレーキング性を評価するものである。
また、プレス加工においては通常板厚の減少(減肉)が発生する。プレス加工において発生する減肉は、材料に負荷される引張力による伸びに起因する減肉と、しごき加工に起因する減肉とを含むものと考えられる。GAを実際に自動車外装用途向けにプレス加工するにあたっては、加工後の製品に求められる安定性の観点から、プレス後においてもプレス前の板厚に対して60%以上の板厚を確保することが必要とされている。上記耐フレーキング試験は、プレス加工のモデルとして、プレス加工時に発生する減肉に対するしごき加工の寄与を減肉全体の1/2と近似し、許容され得る最大の減肉(40%=100%−60%)の1/2、すなわち20%のしごき率でプレスを行ったものである。上記した減肉の要因のうち、しごき加工が表面の摺動に及ぼす影響は大きい。すなわち、しごき率が大きいほど表面の摺動にとっては厳しい条件となり、フレーキングを防ぐ上で不利な条件となる。したがって、上記耐フレーキング試験は、プレス速度だけでなく、しごき率の観点からも実プレスに近い、厳しい条件で耐フレーキング性を評価するものである。
【0085】
表2に示すように、母材鋼板の組成、めっき層の付着量、合金化率、及び製造条件の全てが本発明の規定を満たす実施例1〜8は、レッジ構造部の面積率が60%以上となり、耐パウダリング性及び耐フレーキング性が共に良好であった。特に、上述のように極めて厳しいプレス条件においても良好な耐フレーキング性を示した。一方、母材鋼板の組成が本発明の規定する範囲内であっても、合金化度又はめっき層の付着量が本発明に規定する範囲から外れている比較例1〜3、6については耐フレーキング性が思わしくなかった。また、母材鋼板の組成が本発明の規定する範囲内であっても、製造条件が本発明の規定の範囲から外れている比較例4〜5、7〜8は、耐フレーキング性が不芳であった。母材鋼板の組成が本発明の規定する範囲から外れている比較例9〜12は、製造条件が本発明の規定の範囲内であっても耐フレーキング性が不芳であった。
【0086】
以上の試験結果から、本発明によれば、特に自動車外装用途に好適な、耐フレーキング性及び耐パウダリング性が共に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供できることが示された。
【0087】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車外装用途等に好適に用いることができる。また、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、自動車外装用途等に用いる合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 ブランク
2 ダイス
3 ポンチ
4 試験片
5 ダイス
6 ポンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材鋼板の少なくとも片面にめっき層を有するめっき鋼板であって、
前記母材鋼板の化学組成が、重量%で、C:0.007%以下、Si:0.02%以上0.1%以下、Mn:0.05%以上0.8%以下、P:0.03%以下、S:0.015%以下、sol.Al:0.01%以上0.08%以下、Ti:0.005%以上0.05%以下、残部がFe及び不純物であり、
前記めっき層のFe及びAlの含有量が、重量%で、それぞれ7.5%以上11%以下、0.1%以上0.3%以下であって、
前記めっき層の付着量が、片面あたり25g/m以上60g/m以下であり、
前記めっき層と前記母材鋼板との界面に、レッジ構造部を面積率にして60%以上有する、合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記母材鋼板の化学組成が、重量%で、0.08%以下のNbをさらに含有する、請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
母材鋼板の少なくとも片面にめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
前記母材鋼板の化学組成が、重量%で、C:0.007%以下、Si:0.02%以上0.1%以下、Mn:0.05%以上0.8%以下、P:0.03%以下、S:0.015%以下、sol.Al:0.01%以上0.08%以下、Ti:0.005%以上0.05%以下、残部がFe及び不純物であり、
前記化学組成を有する鋼スラブを熱間圧延して、前記母材鋼板を得る、熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程で得られた前記母材鋼板を冷間圧延する、冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後の前記母材鋼板を790℃以上900℃以下の温度で焼鈍する、焼鈍工程と、
前記焼鈍工程後の前記母材鋼板を溶融亜鉛めっき処理することにより、めっき鋼板を得る、溶融亜鉛めっき処理工程と、
前記溶融亜鉛めっき処理工程後の前記めっき鋼板に、460℃以上600℃以下の温度で合金化処理を施す、合金化処理工程と、
前記合金化処理工程後の前記めっき鋼板に調質圧延を施す、調質圧延工程とを含み、
前記熱間圧延工程における仕上げ圧延が、900℃以上950℃以下の温度で行われ、
前記溶融亜鉛めっき処理工程において、溶融亜鉛めっき浴温Tp(℃)と侵入鋼板温度Ts(℃)とが、
450≦Tp≦470 (1)
かつ
0≦Ts−Tp≦30 (2)
を満足することを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記母材鋼板の化学組成が、重量%で、0.08%以下のNbをさらに含有する、請求項3に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−188676(P2012−188676A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50380(P2011−50380)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】