説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】プレス成形時の摺動性に優れるとともに、かつ化成処理性にも優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】めっき鋼板の平坦部表層には、Zn−OH結合を有し、かつ、平均厚さが10nm以上である酸化物層を形成することとする。このような酸化物層を均一に形成することで良好な摺動性を安定的に得ることができる。また、上記厚さであれば、金型と被加工物の接触面積が大きくなるプレス成形加工においても、表層の酸化物層が磨耗した場合でも残存し、摺動性の低下を招くことがない。さらに、本発明では、ZnO、FeOなどの単純酸化物や、Fe(OH)などの水酸化物を極力酸化物層から除くことにより、形成化成結晶の不均一形成や、スケが多数を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形性及び化成処理性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は亜鉛めっき鋼板と比較して溶接性および塗装性に優れることから、自動車車体用途を中心に広範な分野で広く利用されている。そのような用途での合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形を施されて使用に供される。しかし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これはプレス金型での合金化溶融めっき鋼板の摺動抵抗が冷延鋼板に比べて大きいことが原因である。すなわち、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分で合金化溶融亜鉛めっき鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
【0003】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に亜鉛めっきを施した後、加熱処理を行い、鋼板中のFeとめっき層中のZnが拡散し合金化反応が生じることにより、Fe−Zn合金相を形成させたものである。このFe−Zn合金相は、通常、Γ相、δ1相、ζ相からなる皮膜であり、Fe濃度が低くなるに従い、すなわち、Γ相→δ1相→ζ相の順で、硬度ならびに融点が低下する傾向がある。このため、摺動性の観点からは、高硬度で、融点が高く凝着の起こりにくい高Fe濃度の皮膜が有効であり、プレス成形性を重視する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、皮膜中の平均Fe濃度を高めに製造されている。
【0004】
しかしながら、高Fe濃度の皮膜では、めっき−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく、加工時に、界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングが生じ易い問題を有している。このため、特許文献1に示されているように、摺動性と耐パウダリング性を両立するために、上層に第二層として硬質のFe系合金を電気めっきなどの手法により付与する方法がとられている。
【0005】
亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を向上させる方法としては、この他に、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられている。しかし、この方法では、潤滑油の高粘性のために塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、また、プレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。従って、合金化溶融亜鉛めっき鋼板自身のプレス成形性が改善されることが強く要請されている。
【0006】
上記の問題を解決する方法として、特許文献2および特許文献3には、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、ZnOを主体とする酸化膜を形成させて溶接性、または加工性を向上させる技術を開示している。
【0007】
特許文献4は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、リン酸ナトリウム5〜60 g/lを含みpH2〜6の水溶液にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理を行う、または、上記水溶液を塗布することにより、P酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性及び化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0008】
特許文献5は、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることにより、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0009】
しかしながら、上記の先行技術を合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適用した場合、プレス成形性の改善効果を安定して得ることはできない。本発明者らは、その原因について詳細な検討を行った結果、合金化溶融めっき鋼板はAl酸化物が存在することにより、表面の反応性が劣ること、及び表面の凹凸が大きいことが原因であることを見出した。即ち、先行技術を合金化溶融めっき鋼板に適用した場合、表面の反応性が低いため、電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理及び加熱処理等を行っても、所定の皮膜を表面に形成することは困難であり、反応性の低い部分、すなわち、Al酸化物量が多い部分では膜厚が薄くなってしまう。また、表面の凹凸が大きいため、プレス成型時にプレス金型と直接接触するのは表面の凸部となるが、凸部のうち膜厚の薄い部分と金型との接触部での摺動抵抗が大きくなり、プレス成形性の改善効果が十分には得られない。
【0010】
そこで、本発明者らが上記の問題点を改善すべく、研究した結果、下記の知見を得、特許出願を行った(特許文献6)。
【0011】
一般的に,合金化溶融亜鉛めっき鋼板は,溶融亜鉛めっき→合金化処理後に調質圧延が施されるが,この調質圧延時にロールとの接触によりつぶされ平坦化された部分は,周囲と比較すると凸部として存在する。プレス成形時に実際にプレス金型と接触するのは、この平坦部が主体となるため、この平坦部における摺動抵抗を小さくすれば、プレス成形性を安定して改善することができる。この平坦部における摺動抵抗を小さくするには、めっき層と金型との凝着を防ぐのが有効であり、そのためには、めっき層の表面に、硬質かつ高融点の皮膜を形成することが有効であり、平坦部表層の酸化物層厚さを制御することにより、めっき層と金型の凝着が生じず、良好な摺動性を示すことを見出した。また、このような酸化物層厚さの形成には、酸性溶液と接触させてめっき表層に酸化物層を形成する方法が有効なことが明らかになった。
【0012】
そして、以上の知見を基に、特許文献6には、鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後、加熱処理により合金化し、さらに調質圧延を施し、鉄−亜鉛合金めっき表面に平坦部を形成した後に、酸性溶液と接触させることで、めっき表層に10nm以上のZn系酸化物層を形成することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板ならびにその製造方法が開示されている。
【0013】
さらに、詳細な調査を進めた結果、安定した潤滑性を得るためには、前述した酸化物層を、水酸化物を主体とする層にすることが有効であり、かつシーラーなどに使用される接着剤との適合性を満足するためには、皮膜中のZnとFeのバランスを適正化することが必要であるとの知見を得て、プレス成形性と接着性を満足することを目的として、平均厚さ10nm以上、100nm以下のZnおよびFeを含む水酸化物を主体とする層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提案した(特許文献7)。
【特許文献1】特開平1−319661号公報
【特許文献2】特開昭53−60332号公報
【特許文献3】特開平2−190483号公報
【特許文献4】特開平4−88196号公報
【特許文献5】特開平3−191093号公報
【特許文献6】特開2005−139557公報
【特許文献7】特開2005−113264公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、特に化成処理性の観点から、より詳細な検討を進めるうちに、表面にZnOやFeOなどの酸化物が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、化成結晶が均一に形成されないことを、またZnおよびFeを含む水酸化物を主体とする層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、化成結晶は形成されるものの、結晶サイズが粗大であるがゆえにポロシティ(化成結晶の隙間の割合)が大きくなり、耐食性に悪影響を及ぼす可能性があることがわかった。
【0015】
本発明は、かかる事情に鑑み、プレス成形時の摺動性に優れるとともに、かつ化成処理性にも優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、さらに鋭意研究を重ねた。その結果、Zn−OH結合を有する酸化物層をめっき鋼板の平坦部表層に形成することにより、プレス成形時の摺動性に優れ、かつ緻密で均一な化成結晶の形成が可能であることを見出した。
【0017】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]めっき鋼板の平坦部表層には酸化物層を形成し、該酸化物層は、Zn−OH結合を有し、かつ、平均厚さが10nm以上であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[2]前記[1]において、前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき付着量が片面あたり20〜90g/mであり、かつ、めっき皮膜がFe%:6〜14%、Al:0.05〜0.40%を含有した組成からなることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[3]前記[1]または[2]において、合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面における前記平坦部の面積率が20〜80%であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、安定して優れたプレス成形性を示すとともに、緻密で均一な化成結晶を得ることができる合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造の際には、鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後に、さらに加熱し合金化処理が施されるが、この合金化処理時の鋼板−めっき界面の反応性の差により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面には凹凸が存在する。しかしながら、合金化処理後には、通常、材質確保のために調質圧延が施され、この調質圧延時のロールとの接触により、めっき表面は平滑化され凹凸が緩和される。従って、プレス成型時には、金型がめっき表面の凸部を押しつぶすのに必要な力が低下し、摺動特性を向上させることができる。
【0020】
一方で、このような合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面が調質圧延などによりつぶされ平坦化された部分(以下、平坦部と称す)は、プレス成形時に金型が直接接触する部分であるため、金型との凝着を防止する硬質かつ高融点の物質が存在することが、摺動性の向上には重要である。この点では、表層に酸化物層を存在させることは、酸化物層が金型との凝着を防止するため、摺動特性の向上に有効である。
【0021】
実際のプレス成形時には、表層の酸化物は摩耗し、削り取られるため、金型と被加工材の接触面積が大きい場合には、十分に厚い酸化物層の存在が必要である。めっき表面には合金化処理時の加熱により酸化物層が形成されているものの、調質圧延時のロールとの接触により大部分が破壊され、新生面が露出している。そのため、良好な摺動性を得るためには調質圧延以前に厚い酸化物層を形成しなければならない。また、このことを考慮に入れて、調質圧延前に厚い酸化物層を形成させたとしても、調質圧延時に生じる酸化物層の破壊を避けることはできないため、平坦部の酸化物層が不均一に存在し、良好な摺動性を安定して得ることはできない。
【0022】
以上の検討の結果から、調質圧延が施された合金化溶融亜鉛めっき鋼板、特にめっき表面平坦部に、均一に酸化物層を形成する処理を施すことが良好な摺動性を安定的に得る点で重要となる。
【0023】
めっき表面平坦部に、酸化物層を形成することを目的として各種酸化処理を行うと、通常、めっき層の構成金属であるZnやFeが酸化され、ZnO、FeOなどの単純酸化物や、Zn(OH)、Fe(OH)などの水酸化物が形成される。ここで、プレス金型とめっき表面の直接接触を防止し、摺動性のみを向上させるという観点から考えると、上記の単純酸化物や水酸化物はいずれも金属ZnおよびFe−Zn金属間化合物より融点が高く、また高硬度であるため、凝着を抑制する効果は十分に得られる。しかしながら、ZnOやFeOなどの単純酸化物は、酸への溶解が困難であり、化成処理時にめっき鋼板表面をエッチングしにくくなるため、これらの酸化物を表面に形成した合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、化成結晶が均一に形成されず、スケが多数見られる。同様に、Zn(OH)のZn系水酸化物は、強酸に容易に溶解するが、Fe(OH)のFe系水酸化物は、強酸に対して溶解するものの溶解速度が遅いため、Zn系の水酸化物が表面に形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板でないと、化成処理時に鋼板表面を均一にエッチングすることができず、緻密で均一な化成結晶を形成することができない。以上より、プレス成形性と化成処理性を同時に満足するためには、めっき鋼板表面には、ZnO、FeOなどの単純酸化物や、Fe(OH)などの水酸化物を極力形成させず、Zn(OH)のZn系水酸化物、すなわち、Zn−OH結合を有する酸化物層の形成させることが重要、かつ、必須であることがわかる。
【0024】
このようなZn−OH結合を有する酸化物層を合金化溶融亜鉛めっき鋼板の平坦部表層に形成する方法としては、特に限定しない。しかし、酸性水溶液による反応を利用する方法が最も効果的である。中でも、酢酸ナトリウムなど低pH領域でpH緩衝作用を有する薬品を亜鉛の溶解するpH(例えば2.0)に硝酸などの酸で調製した水溶液の液膜を鋼板表面に形成させ、所定時間放置することで、均一にZn−OH結合を有する酸化物層を表層に形成することができる。ここで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を使用していることで、めっき層にはFeが含有されており、前述した水溶液に接触させるとFeの溶解も生じる。しかし、Feの水酸化物が形成されるpHは、Znの水酸化物が形成されるpHよりも高いため、亜鉛の溶解するpH(例えば2.0)に調製しておけば、Znの水酸化物が優先的に形成され、水溶液中に故意にFeイオンを添加しない限り、Zn−OH結合を有する酸化物のみを表層に形成することができる。
【0025】
形成された酸化物層がZn−OH結合を有しているかどうかを判定するには、例えば、X線光電子分光法(XPS)により確認できる。通常、化学状態分析に用いている亜鉛2pスペクトルでは、Znの酸化物と水酸化物のそれぞれの亜鉛2pピークの結合エネルギーが非常に接近しているため、判定は難しい。表面の導電性の低い場合には、表面が帯電することにより結合エネルギーが変化するため、XPSによる酸化物、水酸化物の判定はさらに困難になる。しかし、亜鉛2p2/3ピークの結合エネルギーと亜鉛オージェピークの運動エネルギーの和である“オージェパラメータ”を用いることで両者の区別が可能となる。また亜鉛2pと酸素1sのピークの結合エネルギーの差からも酸化物と水酸化物の区別が可能である。
【0026】
めっき表面の平坦部表層における酸化物層の厚さは、Ar+イオンスパッタリングと組み合わせた走査オージェ電子顕微鏡法(SAM)により測定・評価することができる。SAMに備わっている、二次電子像観察機能により、めっき表面の平坦部を確認し(容易に可能である)、その表面を分析対象領域とする。Ar+イオンスパッタリングにより所定深さまでスパッタした後、測定対象の各元素のピーク強度から相対感度因子補正により、その深さでの組成を求めることができる。酸化物層の水酸化物に起因するOの含有率は、ある深さで最大値となった後(これが最表層の場合もある)、減少し一定となる。酸化物層の厚さは、Oの含有率が、最大値より深い位置で、最大値と内部での一定値との和の1/2となるスパッタリング時間を、膜厚既知のSiO膜などのスパッタレートをもとに、換算して求めることができる。
【0027】
めっき鋼板の平坦部表層におけるZn−OH結合を有する酸化物層の厚さを10nm以上とすることにより、良好な摺動性を示す合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。さらには、厚さを20nm以上とするとより効果的である。これは、金型と被加工物の接触面積が大きくなるプレス成形加工において、表層の酸化物層が磨耗した場合でも残存し、摺動性の低下を招くことがないためである。一方、厚さの上限は特に設けないが、200nmを超えるとZn−OH結合を有する酸化物層であっても、化成処理液によるエッチング速度が低下し、緻密で均一な化成皮膜の形成が困難になるため、200nm以下とするのが望ましい。
【0028】
平坦部表層にZn−OH結合を有する酸化物層が形成された合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき付着量は20〜90g/mとするのが好ましい。20g/m未満であると、付着量が少ないが故に本来の防錆鋼板としての機能が劣る場合がある。一方、90g/mを超えると、防錆性は十分であるが、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の特徴である溶接性および塗装性を満足するよう合金化処理を行った際に、めっき−鋼板界面においてΓ相の形成を回避することができず、パウダリングなどのめっき剥離を招く場合がある。
【0029】
また、めっき皮膜中のFe濃度は6〜14%の範囲が好ましい。これは、Fe濃度が6%未満であると、表面に純Zn相(η相)が残存した状態であり、前述した溶接性および塗装性などを満足することができなくなる場合があるからである。一方、14%を超えると、めっき−鋼板界面に厚いΓ相が形成され、めっき密着性が劣る場合がある。このようなFe濃度にコントロールするためには、皮膜中にAlを適量含有させることが重要であり、Al濃度は0.05〜0.40%の範囲にあることが好ましい。
【0030】
さらに、めっき表面における前記平坦部の面積率は、20〜80%とするのが望ましい。20%未満では、平坦部を除く部分(凹部)での金型との接触面積が大きくなり、実際に金型に接触する面積のうち、酸化物厚さを確実に制御できる平坦部の面積率が小さくなるため、プレス成形性の改善効果が小さくなる場合がある。また、平坦部を除く部分は、プレス成形時にプレス油を保持する役割を持つ。従って、平坦部を除く部分の面積率が20%未満になると(平坦部の面積率が80%を超えると)プレス成形時に油切れを起こしやすくなり、プレス成形性の改善効果が小さくなる場合がある。
【0031】
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに関しては、めっき浴中にAlが添加されていることが必要であるが、Al以外の添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Alの他に、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【実施例1】
【0032】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0033】
板厚0.8mmの冷延鋼板上に、常法の合金化溶融亜鉛めっき法により、めっき付着量60g/m、Fe濃度:10%、Al濃度:0.20%のめっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行った。なお、この際の平坦部の面積率は、採取位置により多少のばらつきが見られたが、全て40〜60%の範囲に含まれていた。
次に、上記により得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、酢酸ナトリウム:40g/lを含有し、硝酸でpH1.5に調整した水溶液(35℃)に浸漬し、ゴム製のロールで表面の液膜量を約5g/mに制御した後、大気中でそのまま放置し、10〜60秒経過後、水洗・乾燥する酸化処理を実施した。
上記酸化処理を行った鋼板の一部については、電気炉中で加熱し、その際の温度を変化させることで、酸化皮膜中における存在形態をZnOとするものと、Zn−OH結合を有するものに変化させる熱処理を実施した。
【0034】
以上の様に作製した合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対して、プレス成形性を簡易的に評価する手法として摩擦係数の測定を実施し、また、化成処理を行ったものについて、皮膜付着量と結晶のSEM観察を実施した。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に形成された酸化物層の厚さと存在状態について評価を実施した。なお、これらの評価は以下のようにして行った。
【0035】
(1)プレス成形性評価試験(摩擦係数測定試験)
プレス成形性を評価するために、各供試材の摩擦係数を以下のようにして測定した。
図1は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押上げることにより、ビード6による摩擦係数測定用試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル7が、スライドテーブル支持台5に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、スギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを試料1の表面に塗布して試験を行った。
図2、3は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。図3に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ69mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ60mmの平面を有する。
摩擦係数測定試験は下に示す2条件で行った。
[条件1]
図2に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル13の水平移動速度):100cm/minとした。
[条件2]
図3に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル13の水平移動速度):20cm/minとした。
供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0036】
(2)化成処理性評価
各供試体に、防錆油を塗油し、垂直に24時間保持することで塗油量を約2g/m2と一定にした後、アルカリ脱脂(日本パーカライジング(株)製FC-L4460、43℃)をスプレー圧:1kg/cm2で2分間実施し、表面調製(日本パーカライジング(株)製PL-X、室温、20秒)後、化成処理(日本パーカライジング(株)製、PB-L3080、43℃、2分)を施した。化成処理後のサンプルは、P付着量を蛍光X線を利用して測定するとともに、皮膜結晶のSEM観察を行い、結晶サイズを測定した。なお、結晶サイズは、一般のGAに形成されるものと同レベルのサイズのもの(15μm以下)を○、それ以上のものを×と評価した。
【0037】
(3)酸化物層の厚さ測定
めっき表面の平坦部における酸化物層の厚さは、Ar+イオンスパッタリングと組み合わせた走査オージェ電子顕微鏡法(SAM)により評価した。用いた装置は、PHI社製のSAM660である。二次電子像により、めっき表面の平坦部を確認し、電子ビームを走査し、平坦部表面で約3μm×3μmの領域を測定した。加速電圧3kVのAr+イオンスパッタリングにより酸素の濃度がほぼ一定となる深さまでスパッタと測定を繰り返し、検出された元素のピーク強度から相対感度因子補正により、各々の深さでの組成を求めた。酸化物層の厚さは、Oの含有率が、最大値より深い位置で、最大値と内部での一定となった値との和の1/2となるスパッタリング時間を、膜厚既知のSiO膜で求めたスパッタレートをもとに深さに換算して求めた。なお、測定は1試料あたり最低3箇所の平坦部について実施し、その平均値とした。
【0038】
(4)酸化物層の状態評価
形成された酸化物層の状態を、X線光電子分光法(XPS)により調査した。用いた装置は、SSI社製SSX-100で、単色化したAlKαを励起源として用いた。X線ビーム径は約600μmである。この大きさは、めっき表面の平坦部とそうでない部分を含むため、光電子の取り出し角度を試料表面から35°と小さくすることで、表面の凸部からの情報を多くし、平坦部からの情報が多く含まれるようにした。亜鉛2p3/2ピークの結合エネルギーと亜鉛オージェピークの運動エネルギーの和である“オージェパラメータ(α´)”を用いることで水酸化物と酸化物を区別した。水酸化亜鉛のα´は2009.1eV、酸化亜鉛のα´は2009.6eV以上であるため、α´が2009.3eV以下をZn−OH結合が主体の皮膜であると判定した。また、亜鉛2pと酸素1sのピークの結合エネルギー差(ΔEZn2p3/2O1s)からも酸化物と水酸化物の判定を行った。水酸化亜鉛のΔEZn2p3/2O1sは490.1eV、酸化亜鉛のΔEZn2p3/2O1sは491.0eV以上であるため、ΔEZn2p3/2O1sが490.5eV以下をZn−OH結合が主体の皮膜であると判定した。
【0039】
以上より得られた試験結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、以下のことが明らかとなった。
【0042】
No.5〜7、9〜11、13〜15、17〜19の本発明例は、酸化物形成処理を行ったまま、もしくは低温での加熱を実施したものであり、表面にはZn−OH結合の酸化物層が厚さ10nm以上で形成されている。均一で緻密な結晶が形成されており、スケも確認されず、化成処理性にすぐれていることがわかる。また、酸化物層の厚さが10nm以上のため、摩擦係数が低くなっており、摺動性が良好である。特に、厚さが20nm以上のNo.9〜11、13〜15、17〜19の本発明例については、非常に低位安定しており、十分な摺動性向上が見られる。
【0043】
一方、No.1〜4の比較例は、酸化物層の厚さが10nm未満であり、平坦部に摺動性を向上させるのに十分な酸化膜が形成されておらず、摩擦係数が高い。
【0044】
No.8、12、16、20の比較例は高温での加熱を実施した例であり、表面にはZn−O結合の酸化物層が形成されている。ここで、発明例と比較してみると、いずれの酸化物層の場合でも、化成処理の付着量に大きな変化は認められない。しかし、Zn−O結合の酸化物層が形成されている例では、結晶サイズの粗大化が見られ、かつ部分的にスケも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
プレス成形時の摺動抵抗が小さく、安定して優れたプレス成形性を示す溶融亜鉛めっき鋼板を提供でき、かつ、化成処理性にもすぐれているので、自動車車体用途を中心に広範な分野で適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。
【図2】図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【図3】図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1 摩擦係数測定用試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル
9 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼板の平坦部表層には酸化物層を形成し、
該酸化物層は、Zn−OH結合を有し、かつ、平均厚さが10nm以上であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき付着量が片面あたり20〜90g/mであり、かつ、めっき皮膜がFe%:6〜14%、Al:0.05〜0.40%を含有した組成からなることを特徴とする請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面における前記平坦部の面積率が20〜80%であることを特徴とする請求項1または2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−231376(P2007−231376A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54963(P2006−54963)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】