説明

合金粉末およびその製造方法、電極活物質ならびにアルカリ蓄電池

【課題】充放電の繰り返しに伴う容量の低下が顕著に抑制され、導電性が高く、アルカリ蓄電池の電極活物質として有用な合金粉末を得る。
【解決手段】ニッケルを含有する水素吸蔵合金を原料として用い、特定の粉砕工程およびアルカリ処理工程を含む製造方法により、CaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金をマトリックスとし、メディアン径2.5〜5nmのニッケルクラスタを含有する合金粉末を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金粉末およびその製造方法、電極活物質ならびにアルカリ蓄電池に関する。さらに詳しくは、本発明は主に、アルカリ蓄電池における電極活物質の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、充放電に伴い、水素を可逆的に吸蔵および放出する能力を有する。水素吸蔵合金は、理論容量密度がカドミウムより大きく、亜鉛電極のように、デンドライトの形成もない。このため、水素吸蔵合金は、アルカリ蓄電池の負極活物質として利用するための研究開発が盛んに行われている。たとえば、水素吸蔵合金を含むニッケル水素蓄電池はその安全性の高さから、最近では、電気自動車、ハイブリッド自動車などの動力電源としても注目を集め、出力特性や保存特性のさらなる向上が望まれている。
【0003】
ニッケル水素蓄電池の負極には、主に、CaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金が用いられている。具体的には、たとえば、MmNi5(Mmは希土類元素の混合物を示す)のNiの一部をCo、Mn、Al、Cuなどで置換した水素吸蔵合金が挙げられる。水素吸蔵合金を負極活物質として用いるには、水素吸蔵合金にアルカリ処理を施して活性化するのが一般的である。そこで、水素吸蔵合金のアルカリ処理に関する多くの提案がなされている。
【0004】
たとえば、アルカリ処理工程と水洗工程とを含む合金粉末の製造方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。アルカリ処理工程では、ニッケルを含有する水素吸蔵合金粉末を、90℃以上の温度下で、水酸化ナトリウムの30〜80重量%水溶液に浸漬する。これにより、前記の水素吸蔵合金粉末にアルカリ処理が施される。水洗工程では、アルカリ処理が施された前記の水素吸蔵合金粉末を水洗し、洗液のpHが9以下になるまで水洗を繰り返す。
【0005】
特許文献1によれば、金属ニッケルを含む磁性体の含有量が3〜9重量%であり、導電性が高く、アルカリ電解液中で腐食され難く、初期の充放電サイクルにおいて優れた電極活性を示す合金粉末を効率よく得ることができる。しかしながら、特許文献1の合金粉末中には、充放電の繰り返しに伴う電極活性の低下を抑制できるような大きさを有するニッケルクラスタが十分に生成していない。したがって、特許文献1の合金粉末をニッケル水素電池の負極活物質として用いる場合には、電極活性の点でさらなる改良の余地が残されている。
【0006】
また、ニッケル含有量が20〜70重量%である水素吸蔵合金と、クラスタの平均粒径が8nm〜10nmであるニッケル含有磁性クラスタとを含む合金粉末が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。特許文献2によれば、ニッケルを含有する水素吸蔵合金の粉末に、液温が100℃以上の水酸化ナトリウム水溶液を接触させてアルカリ処理を施すことにより、特許文献2の合金粉末を製造している。アルカリ処理では、水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウム濃度(重量%)と、水酸化ナトリウム水溶液の水素吸蔵合金粉末への接触時間(分)との積が、2410〜2800になるように構成している。
【0007】
特許文献2の合金粉末は、アルカリ蓄電池用の負極活物質として、良好な電極活性を有している。しかしながら、特許文献2の合金粉末を含む電池を電気自動車などの動力電源として使用することを想定すると、特許文献2の合金粉末も、充放電の繰り返しに伴う電極活性の低下を抑制するという観点で、さらなる改良の余地が残されている。
【特許文献1】特開2002−256301号公報
【特許文献2】特開2007−115672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、導電性が高く、アルカリ電解液への耐食性に優れ、かつ充放電サイクルを繰り返しても電極活性の低下が顕著に抑制される合金粉末、その製造方法および該合金粉末を含むアルカリ蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その研究過程において、水素吸蔵合金をマトリックスとし、クラスタのメディアン径が3〜5nmのニッケルクラスタを含有する合金粉末を得ることに成功した。そして、このような合金粉末は導電性が高く、アルカリ電解液への耐食性に優れ、かつ充放電サイクルを繰り返しても電極活性の低下が顕著に少ないことを見出した。すなわち、ニッケルクラスタの平均粒径が8〜10nmの分布からメディアン径が3〜5nmの分布に変わることで、得られる合金粉末の特性が劇的に改良されることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、CaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金をマトリックスとし、メディアン径2.5〜5nmのニッケルクラスタを含有する合金粉末に係る。
合金粉末におけるニッケルクラスタの含有量は、合金粉末全量の0.5〜4.2重量%であることが好ましい。
合金粉末は、粒径が20〜50μmであることが好ましい。
【0011】
合金粉末は、表層部にニッケルクラスタが偏在していることが好ましい。
ニッケルクラスタのメディアン径は、表層部の内側から外側に向かって徐々に大きくなっていることが好ましい。
水素吸蔵合金は、さらに、希土類元素の混合物、Co、MnおよびAlよりなる群から選ばれる1または2以上を含有することが好ましい。
水素吸蔵合金のNi含有量は、水素吸蔵合金全量の20〜70重量%であることが好ましい。
【0012】
また本発明は、ニッケルを含有する水素吸蔵合金を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程で得られる粉末をアルカリと接触させるアルカリ処理工程とを含む合金粉末の製造方法であって、
粉砕工程は、ニッケルを含有する水素吸蔵合金を水または有機溶剤の液中にて湿式粉砕して水素吸蔵合金の粉末を得る工程を含み、かつ
アルカリ処理工程は、50〜90℃の温度下で、粉砕工程で得られる水素吸蔵合金の粉末とアルカリ濃度が30〜48重量%のアルカリ水溶液とを10〜80分間接触させる工程を含む合金粉末の製造方法を提供する。
【0013】
アルカリ処理工程でアルカリ処理を施された合金粉末を、0.01〜10Paの減圧下および60〜200℃の加熱下にて、減圧乾燥する乾燥工程をさらに含むことが好ましい。
また本発明は、前記の合金粉末を含む電極活物質を提供する。
また本発明は、前記の電極活物質を含む負極を備えるアルカリ蓄電池を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の合金粉末は、ニッケルクラスタのメディアン径が2.5〜5nmであることにより、優れた電極活性を有している。さらに、本発明の合金粉末は、高い導電性を有し、アルカリ電解液への耐食性に優れ、充放電を繰り返しても電極活性がほとんど低下しない。したがって、本発明の合金粉末は、たとえば、ニッケル水素蓄電池などのアルカリ蓄電池用の電極活物質として好適に使用できる。また、本発明のアルカリ蓄電池は、0〜50℃程度の幅広い温度域で、ほぼ同等の優れた放電特性を示す。また、本発明の合金粉末の製造方法によれば、本発明の合金粉末を効率良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の合金粉末は、水素吸蔵合金中にニッケルクラスタが分散している。本発明によれば、メディアン径2.5〜5nmのニッケルクラスタが水素吸蔵合金中に分散していることにより、導電性能および耐食性が向上するだけでなく、充放電サイクルの繰り返しに伴う電極活性の低下が抑制され、たとえば、電極活物質として有用な合金粉末が得られる。
【0016】
マトリックスになる水素吸蔵合金は、CaCu5型(すなわちAB5型)の結晶構造を有する。なかでも、MmNi5(式中、Mmはミッシュメタルを示す。ミッシュメタルは2種以上の希土類元素の混合物である。)をベースとする水素吸蔵合金が好ましい。ミッシュメタルの具体例としては、たとえば、Ceを40〜50重量%およびLaを20〜40重量%含み、さらにPrおよびNdを含む。Aサイトには、希土類元素の他に、例えばニオブ、ジルコニウムなどが存在する。Bサイトには、Niの他に、たとえば、Co、Mn、Alなどが存在する。ただし、Coは高価であるため、低価格化を図る観点から、水素吸蔵合金のCoの含有量を6重量%以下に抑えることが好ましい。また、水素吸蔵合金のニッケル含有量は、好ましくは、水素吸蔵合金全量の20〜70重量%である。ニッケル含有量が20重量%未満では、水素吸蔵能力低下のおそれがある。一方、ニッケル含有量が70重量%を超えると、水素放出能力低下のおそれがある。
【0017】
水素吸蔵合金の具体例としては、たとえば、下記に示す組成を有するものが挙げられる。
La0.8Nb0.2Ni2.5Co2.4Al0.1
La0.8Nb0.2Zr0.03Ni3.8Co0.7Al0.5
MmNi3.65Co0.75Mn0.4Al0.3
MmNi2.5Co0.7Al0.8
Mm0.85Zr0.15Ni1.0Al0.80.2
MmNi3.55Al0.3Co0.75Mn0.4
【0018】
本発明の合金粉末に含有されるニッケルクラスタは、たとえば、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際に触媒として作用し、メディアン径が2.5〜5nm、好ましくは2.5〜4nmであることを特徴とする。メディアン径が2.5μm未満であるニッケルクラスタは、現状では製造が困難である。また、ニッケルクラスタの平均粒径が5nmを超えると、合金粉末をアルカリ蓄電池の負極活物質として使用し、アルカリ蓄電池の充放電を繰り返した場合に、合金粉末の電極活性が低下するおそれがある。ニッケルクラスタは、数個〜数十個程度のニッケル原子が金属結合などにより集合した、金属状態の強磁性物質が存在する領域である。さらに、ニッケルクラスタはCoなどの異種原子を含むこともある。
【0019】
ニッケルクラスタの粒径は、電極用合金粉末の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察することにより測定できる。このとき、断面TEM写真を画像処理することで、ニッケルクラスタのサイズの分布を求めることができる。画像処理においては、ニッケルクラスタを完全に包囲する円を求め、その円の直径をニッケルクラスタのサイズとして求める。
【0020】
ニッケルクラスタのメディアン径は、例えば以下の方法で求めることができる。
まず、合金粉末の磁化曲線を求める。磁化曲線は、印加した磁場の強さ(H)と誘起された磁化(M)との関係を示す。磁化曲線は、印加した磁場(H)内において、誘起された磁化(M)を測定することにより求められる。得られる磁化(M)(emu/g)、すなわち単位体積中の原子磁気モーメントの総和は、
式(1):M=Σ{μf(d)L(α)}
で表される。
【0021】
式(1)中、μはニッケルの比透磁率を示す。f(d)は、ニッケルクラスタの直径dの分布関数である。直径dの標準偏差をσとすると、f(d)は、
式(2):f(d)=1/{(2π)1/2ln(σ)}×exp{−(ln(d)−ln(dm))2/(2(ln(σ))2)}
で表される。なお、dmはdのメディアン径(最も頻度の大きい直径)を示す。
【0022】
式(1)中、L(α)は、飽和磁化Msと測定されたニッケルの磁化(MNi)との比を表す関係式である。L(α)は、
式(3):L(α)=coth(α)−1/α
で表される。ここで、α=μH/KBT、μ=(MNi4π/3)×(d/2)3である。coth(α)は、双曲線関数(coth(α)={(eα+e-α)/(eα−e-α)})である。μはニッケルの比透磁率を示す。KBはボルツマン定数を示す。Tは絶対温度を示す。MNiはニッケルの磁化を示す。
【0023】
式(1)と、測定データである磁化曲線とのフィッティングを行うことにより、磁化曲線と式(1)とが一致するようなμの実験値を求めることができる。この際に得られる式(2)からメディアン径dmを求めることができる。
【0024】
求め方は、たとえば、参考文献1(Magnetic Properties of LaNi3.55Mn0.4Al0.3Co0.75-XFeX Compounds before and after electrochemical cycles, Journal of Magnetism and Magnetic Materials, vol.242-245 (2002), p850-853)などに記載されている。
【0025】
ニッケルクラスタの含有量は、合金粉末全量の0.5重量%〜4.2重量%である。ニッケルクラスタの含有量が0.5重量%未満では、初期の活性が不十分であり、出力低下のおそれがある。一方、ニッケルクラスタの含有量が4.2重量%を超えると、過度の溶出により、合金容量低下を招き、十分なリザーブを確保できず、寿命劣化を早めるおそれがある。なお、ニッケルクラスタの含有量は、たとえば10kOeの磁場における合金粉末の飽和磁化から求められる。ニッケルクラスタには、金属コバルトなどが含まれる場合もあるが、飽和磁化は、全て金属ニッケルに基づくものと仮定する。そして、飽和磁化に相当する金属ニッケル量をニッケルクラスタの含有量と定義する。
【0026】
本発明の合金粉末は、好ましくは、核と表層部とを含む。核は、表層部で均一に被覆されていることが望ましい。核は合金粉末の内部にあり、主に水素吸蔵合金を含有する。表層部は、核の表面の少なくとも一部に存在し、水素吸蔵合金とニッケルクラスタとを含有する。ニッケルクラスタは、主に表層部に、結晶または非晶質の状態で偏析している。表層部の最内側は、核に接している。また、表層部の最外側は、合金粉末の表面の少なくとも一部になっている。
【0027】
また、ニッケルクラスタのサイズは、表層部の内側から外側に向かって、徐々に大きくなっていることが好ましい。換言すれば、表層部の内側から外側に向かって、サイズの大きなニッケルクラスタが、徐々に多くなり、サイズの小さなニッケルクラスタが、徐々に少なくなることが好ましい。このように、サイズの小さいニッケルクラスタは、水素吸蔵合金を含む核の近傍に偏在することが好ましい。これにより、ニッケルクラスタが有する触媒機能が十分に発揮され、水素吸蔵合金による水素の受け渡しが容易となり、合金粉末の水素の吸蔵能力および放出能力が顕著に向上する。
【0028】
本発明の合金粉末は、粒径が好ましくは20〜50μm、さらに好ましくは23〜50μmである。粒径が20μm未満では、表面積の増加により、合金腐食が加速し、寿命劣化のおそれがある。一方、粒径が50μmを超えると、活性面の現象により、出力低下のおそれがある。
本発明の合金粉末は、たとえば、電池用の電極活物質などに好適に使用できる。
【0029】
本発明の合金粉末は、たとえば、粉砕工程とアルカリ処理工程とを含み、必要に応じてアルカリ処理工程後に乾燥工程を実施する製造方法により製造できる。
[粉砕工程]
本工程は湿式粉砕であり、水中または有機溶剤中で実施される。より具体的には、たとえば、水素吸蔵合金の粒末を含有するスラリーを粉砕機で粉砕することにより、湿式粉砕が実施される。湿式粉砕に使用する粉砕機としては、たとえば、転動ボールミル、遊星ボールミルなどのボールミル粉砕または媒体攪拌ミルなどが挙げられる。
【0030】
また、水素吸蔵合金の粉末を含有する水性スラリーに有機溶剤を添加してもよい。これにより、得られる合金粉末の破砕面に撥水性が付与され、過度の酸化皮膜の形成を抑制できるといった効果が得られる。有機溶剤としては特に制限されないが、たとえば、トルエン、キシレン、アセトン、エタノール、メタノールなどが挙げられる。有機溶剤の添加量は粗粒の量、水の量などに応じて適宜選択できるが、たとえば、粗粒100重量部に対して150〜400重量部である。
【0031】
湿式粉砕は、得られる微粒の平均粒径が20〜30μmになるまで行うのが好ましい。合金粉末の平均粒径を前記範囲に調整することにより、本発明の合金粉末をアルカリ蓄電池の負極活物質として利用する場合に、十分な水素吸蔵能および優れた高率放電特性が発現する。平均粒径が20μm未満になると、合金粉末の水素吸蔵量が小さくなる傾向がある。一方、平均粒径が30μmを超えると、比表面積の減少により、高率放電特性が低下する傾向がある。
【0032】
この場合の平均粒径は体積平均粒径である。本明細書において、体積平均粒径は、たとえば、粒度分布測定装置(商品名:Multisizer2、ベックマン・コールター社製)を用い、アパーチャ径:600μm、測定粒子数:50000カウントの条件下で測定される。測定用試料は、電解液(商品名:ISOTON−II、ベックマン・コールター社製)50mlに、粗粒20mgおよびアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム1mlを加え、超音波分散器により超音波周波数20kzで3分間分散処理させることによって調製される。なお、水素吸蔵合金の粒度分布測定法は、本手法に限定されるものではない。
【0033】
[アルカリ処理工程]
本工程では、粉砕工程で得られる水素吸蔵合金の合金粉末をアルカリと接触させ、該合金粉末中にニッケルクラスタを生成させる。より具体的には、本工程は、50〜90℃の温度下で、粉砕工程で得られる合金粉末とアルカリ濃度が30〜48重量%のアルカリ水溶液とを10〜80分間接触させる。具体的には、たとえば、ニッケルクラスタとアルカリ水溶液とを混合すればよい。アルカリ処理は、攪拌下に行ってもよい。これにより、本発明の合金粉末が得られる。
【0034】
アルカリ処理温度が50℃未満では、アルカリ濃度によっては、処理が十分に進まないおそれがある。一方、90℃を超えると、クラスタサイズが過度に大きくなるおそれがある。アルカリ水溶液のアルカリ濃度が30重量%未満では、処理温度によっては、処理に十分に進まないおそれがある。一方、48重量%を超えると、処理温度によっては、アルカリの析出が生じ、濃度が安定せず、処理が不安定になるおそれがある。また、アルカリ処理時間(接触時間)が10分未満では、アルカリ濃度および処理時間によっては、処理に十分に進まないおそれがある。一方、80分を超えると、クラスタサイズが過度に大きくなるおそれがある。
【0035】
アルカリ水溶液としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましい。これらの中でも、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。水酸化ナトリウム水溶液は、水酸化カリウム水溶液よりも、活性化の進行が遅い。しかし、水溶液の温度、水酸化ナトリウム濃度および合金粉末と水溶液との接触時間を適正に制御すれば、水酸化ナトリウム水溶液を用いた方が、合金粉末の電極活物質としての性能は向上する。なお、本発明で用いる水酸化ナトリウム水溶液は、NaOHの外に、適正量(NaOHの1molあたり0.07mol未満)の他のアルカリ(KOH、LiOHなど)を含んでいてもよい。
【0036】
なお、アルカリ処理工程では、水素吸蔵合金が酸化されるのを防止し、アルカリ処理による活性化の効果を高める観点から、工程の開始から終了まで、水素吸蔵合金が常に水で濡れた状態であることが好ましい。
また、アルカリ処理後の合金粉末は、水洗することが望ましい。水洗は洗液のpHが9以下になってから終了することが好ましい。洗液のpHが9より高い状態で水洗を終了すると、合金粉末の表面に不純物が残存する場合がある。水洗は、合金粉末を攪拌しながら行うことが望ましい。
【0037】
水洗後の合金粉末は、少量の水素を吸蔵している場合がある。よって、水素を除去し、合金を安定化させる観点から、合金粉末に酸化剤を添加してもよい。合金粉末を酸化剤で処理することで、合金中に吸蔵された水素を化学的に取り出すことができる。酸化は、合金粉末を分散させたpH7以上の水中に酸化剤を投入して行うことが好ましい。酸化剤には、たとえば、過酸化水素水を使用できる。過酸化水素は、水素と反応しても水しか生成しない点で好ましい。酸化剤の使用量は、合金粉末100重量部あたり、好ましくは0.005〜1重量部である。合金粉末中の水素が除去されると、合金粉末を大気中に暴露しても、酸素と水素との反応はほとんど起こらない。よって、合金粉末の発熱が抑制され、生産工程の安全性が向上する。
【0038】
[乾燥工程]
本工程では、アルカリ処理工程で得られる合金粉末を、0.01〜10Paの減圧下および60〜200℃の加熱下に、減圧乾燥する。これにより、合金極表面での気相アルカリ処理が生じ、クラスタサイズを小さくできるといった効果が得られる。減圧度が0.01Pa未満では、気相アルカリ処理の効果が得られないおそれがある。一方、10Paを超えると、十分な乾燥効果がえられないおそれがある。また、温度が60℃未満では、気相アルカリ処理の効果が得られないおそれがある。一方、温度が200℃を超えると、プロセスの安全性が損なわれるおそれがある。
【0039】
本発明のアルカリ蓄電池は、負極活物質として本発明の合金粉末を含む以外は、従来のアルカリ蓄電池と同様の構成を採ることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
(1)水素吸蔵合金の調製
Mm、Ni、Mn、AlおよびCoの単体を所定の割合で混合した。得られた混合物を、高周波溶解炉で溶解し、組成がMmNi3.55Mn0.4Al0.3Co0.75の水素吸蔵合金のインゴットを作製した。なお、MmはCeを40〜50重量%およびLaを20〜40重量%含み、さらにPrおよびNdを含有する。
【0041】
(2)水素吸蔵合金の粉砕
得られたインゴットを、アルゴン雰囲気中、1060℃で10時間加熱した。加熱後のインゴットをジョークラッシャにより粉砕し、平均粒径500μm未満の粗粒を得た。得られた粗粒を、湿式ボールミルを用いて水の存在下で75μm以下に粉砕し、平均粒径20μmの水素吸蔵合金からなる合金粉末のスラリーを得た。このとき粗粒100重量部に対してアセトンを250重量部添加して湿式粉砕を実施した。
【0042】
(3)アルカリ処理
上記で得られたスラリー100重量部と、水酸化ナトリウムの35重量%水溶液(液温70℃)50重量部とを30分間混合し、水素吸蔵合金の合金粉末をアルカリ処理した。アルカリ処理後の合金粉末を温水で洗浄し、脱水後、乾燥した。洗浄は、洗液のpHが9以下になるまで行った。これにより、不純物が除去された状態の本発明の合金粉末を得た。得られた合金粉末の体積平均粒子径(D50)を上記した方法で求めた。
【0043】
(4)ニッケルクラスタの含有量
上記で得られた合金粉末におけるニッケルクラスタの含有量は、試料振動型磁力計(商品名:小型全自動振動試料型磁力計VSM−C7−10A、東英工業(株)製)を用いて測定した。具体的には、10kOeの磁場における電極用合金粉末の飽和磁化を求め、飽和磁化に相当する金属ニッケル(すなわちニッケルクラスタ)量を求め、ニッケルクラスタの含有量を算出した。
【0044】
(5)ニッケルクラスタの平均粒径
まず、磁化曲線を求め、次に上記式(1)と磁化曲線とのフィッティングを行い、μ値を求めた。フィッティングで得られた磁化曲線の一例を図7(実施例1)および図8(比較例1)に示す。+マークは実測値を示し、実線はフィッティング曲線を示す。この際に求められる式(2)からメディアン径dmを求めた。ニッケルクラスタの含有量およびメディアン径ならびに合金粉末の体積平均粒子径(D50)を下記表1に示す。
【0045】
(6)水素吸蔵合金電極の作製
上記で得られた合金粉末100重量部に対して、カルボキシメチルセルロース(エーテル化度0.7、重合度1600)0.15重量部、カーボンブラック0.3重量部およびスチレンブタジエン共重合体0.7重量部を加え、さらに水を添加して練合し、ペーストを得た。このペーストを、ニッケルめっきを施した鉄製パンチングメタル(厚み60μm、孔径1mm、開孔率42%)からなる芯材の両面に塗着した。ペーストの塗膜は、乾燥後、芯材とともにローラでプレスした。こうして、厚み0.4mm、幅35mm、容量2200mAhの水素吸蔵合金電極(負極)を得た。負極の長手方向に沿う一端部には、芯材の露出部を設けた。
【0046】
(7)ニッケル水素蓄電池の作製
長手方向に沿う一端部に幅35mmの芯材の露出部を有する容量1500mAhの焼結式ニッケル正極を用い、図1に示すような4/5Aサイズで公称容量1500mAhのニッケル水素蓄電池を作製した。図1は、本発明の実施形態の1つであるニッケル水素蓄電池1の構成を簡略化して示す縦断面図である。
【0047】
具体的には、正極11と負極12とを、セパレータ13を介して捲回し、柱状の極板群20を作製した。極板群20では、正極合剤11aを担持しない正極芯材11bの露出部と、負極合剤12aを担持しない負極芯材12bの露出部とを、それぞれ反対側の端面に露出させた。セパレータ13には、ポリプロピレン製の不織布(厚み100μm)を用いた。正極芯材11bが露出する極板群20の端面21には正極集電板18を溶接した。負極芯材12bが露出する極板群20の端面22には、負極集電板19を溶接した。
【0048】
正極リード18aを介して封口板6と正極集電板18とを導通させた。その後、負極集電板19を下方にして、極板群20を円筒形の有底缶からなる電池ケース15に収容した。負極集電板19と接続された負極リード19aを、電池ケース15の底部と溶接した。電池ケース15に電解液を注液した後、周縁にガスケット17を具備する封口板6で、電池ケース15の開口部を封口し、電池を完成させた。なお、電解液には、比重1.3の水酸化カリウム水溶液に、40g/Lの濃度で水酸化リチウムを溶解させたものを用いた。
【0049】
(8)電池の評価
得られたニッケル水素蓄電池のサイクル寿命を容量維持率で評価した。具体的には、電池を20℃環境下、1000mAで2時間24分充電し、20℃で1時間、40℃で1時間、0℃で3時間または−10℃で5時間保存した後、2000mAで電池電圧が0.9Vになるまで放電し、放電容量(mAh)と放電電位(V)との関係を調べた。結果を図2に示す。図2は、実施例1の電池における放電容量と放電電位との関係を示すグラフである。図2から、本発明のニッケル水素電池は、−10℃〜45℃で保存した後も、放電電位の差は0.2V未満であり、放電特性が温度に関係なく安定していることが明らかである。
【0050】
(比較例1)
水素吸蔵合金の粉砕に際し、有機溶剤(アセトン)を使用せず、および、アルカリ処理条件が水酸化ナトリウムの48重量%水溶液(液温110℃)50重量部との70分間混合であること以外は、実施例1と同様にして合金粉末を得た。また、実施例1と同様にして、ニッケルクラスタの含有量および平均粒径ならびに合金粉末の体積平均粒子径(D50)を求めた。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして電池の評価を行った。結果を図5に示す。図5は比較例1の電池における放電容量と放電電圧との関係を示すグラフである。図5から、このニッケル水素電池は、−10℃〜45℃で保存した後、放電電位の差が0.2Vを超え、保存温度によって放電特性が不安定になることが明らかである。
【0051】
また、実施例1および比較例1の電池を、充放電サイクル試験に供した。具体的には、20℃環境下、1000mAで2時間24分充電し、20℃で30分保存し、2000mAで電池電圧が0.9Vになるまで放電する充放電サイクルを繰り返し行い、充放電サイクルの回数と放電容量との関係を求めた。結果を図6に示す。図6は、実施例1および比較例1の電池における充放電サイクルの回数と放電容量との関係を示すグラフである。図6から、充放電サイクル数が150回を過ぎた時点で、両方の電池の放電容量が低下し始めるが、実施例1の電池は放電容量の低下が少ないのに対し、比較例1の電池は放電容量が大きく低下することが明らかである。
【0052】
(実施例2)
水素吸蔵合金粉末の体積平均粒径を47μmから25μmへ変更する以外は、実施例1と同様にして、本発明の合金粉末を製造した。また、実施例1と同様にして、ニッケルクラスタの含有量および平均粒径ならびに合金粉末の体積平均粒子径(D50)を求めた。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして電池の評価を行った。結果を図3に示す。図3は、実施例1の電池における放電容量と放電電位との関係を示すグラフである。図3から、本発明のニッケル水素電池は、−10℃〜45℃で保存した後も、放電電位の差は0.2V未満であり、放電特性が温度に関係なく安定していることが明らかである。
【0053】
(実施例3)
水素吸蔵合金の粉砕に際し、有機溶剤(アセトン)を使用せず、アルカリ処理の水洗の後に真空乾燥(1Pa、100℃、30分)を行う以外は、実施例1と同様にして、本発明の合金粉末を製造した。また、実施例1と同様にして、ニッケルクラスタの含有量および平均粒径ならびに合金粉末の体積平均粒子径(D50)を求めた。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして電池の評価を行った。結果を図4に示す。図4は、実施例1の電池における放電容量と放電電位との関係を示すグラフである。図4から、本発明のニッケル水素電池は、−10℃〜45℃で保存した後も、放電電位の差は0.2V未満であり、放電特性が温度に関係なく安定していることが明らかである。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から、本発明によれば、平均粒径2.8〜3.7μmの非常に微細なニッケルクラスタが生成していることが明らかである。このようなニッケルクラスタを含有することにより、上記した良好な保存特性および充放電サイクル寿命が得られるものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の合金粉末は、たとえば、アルカリ蓄電池の電極活物質として好適に使用できる。本発明の合金粉末を含むアルカリ蓄電池は、サイクル寿命が長く、充放電サイクルを繰り返しても使用初期とほぼ同程度の放電性能を有し、たとえば、小型携帯機器用電源、ハイブリッド自動車用電源などの分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態の1つであるニッケル水素蓄電池の構成を簡略化して示す縦断面図である。
【図2】実施例1の電池における放電容量と放電電圧との関係を示すグラフである。
【図3】実施例2の電池における放電容量と放電電圧との関係を示すグラフである。
【図4】実施例3の電池における放電容量と放電電圧との関係を示すグラフである。
【図5】比較例1の電池における放電容量と放電電圧との関係を示すグラフである。
【図6】実施例1および比較例1の電池における充放電サイクルの回数と放電容量との関係を示すグラフである。
【図7】フィッティングで得られた実施例1の合金粉末の磁化曲線を示す図面である。
【図8】フィッティングで得られた比較例1の合金粉末の磁化曲線を示す図面である。
【符号の説明】
【0058】
1 ニッケル水素蓄電池
6 封口板
11 正極
11a 正極合剤
11b 正極芯材
12 負極
12a 負極合剤
12b 負極芯材
13 セパレータ
15 電池ケース
17 ガスケット
18 正極集電板
18a 正極リード
19 負極集電板
19a 負極リード
20 極板群
21、22 極板群の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金をマトリックスとし、メディアン径2.5〜5nmのニッケルクラスタを含有する合金粉末。
【請求項2】
ニッケルクラスタの含有量が、合金粉末全量の0.5〜4.2重量%である請求項1に記載の合金粉末。
【請求項3】
粒径が20〜50μmである請求項1または2に記載の合金粉末。
【請求項4】
表層部にニッケルクラスタが偏在している請求項1〜3のいずれか1つに記載の合金粉末。
【請求項5】
ニッケルクラスタのメディアン径が、表層部の内側から外側に向かって徐々に大きくなる請求項4記載の合金粉末。
【請求項6】
水素吸蔵合金が、さらに、希土類元素の混合物、Co、MnおよびAlよりなる群から選ばれる1または2以上を含有する請求項1〜5のいずれか1つに記載の合金粉末。
【請求項7】
水素吸蔵合金のNi含有量が、水素吸蔵合金全量の20〜70重量%である請求項1〜6のいずれか1つに記載の合金粉末。
【請求項8】
ニッケルを含有する水素吸蔵合金を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程で得られる粉末をアルカリと接触させるアルカリ処理工程とを含む合金粉末の製造方法であって、
粉砕工程は、ニッケルを含有する水素吸蔵合金を水中または有機溶剤中にて湿式粉砕して水素吸蔵合金の粉末を得る工程を含み、かつ
アルカリ処理工程は、50〜90℃の温度下で、粉砕工程で得られる水素吸蔵合金の粉末とアルカリ濃度が30〜48重量%のアルカリ水溶液とを10〜80分間接触させる工程を含む合金粉末の製造方法。
【請求項9】
アルカリ処理工程でアルカリ処理を施された合金粉末を、0.01〜10Paの減圧下および60〜200℃の加熱下にて、減圧乾燥する乾燥工程をさらに含む請求項8の合金粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1つの合金粉末を含む電極活物質。
【請求項11】
請求項10の電極活物質を含む負極を備えるアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−18866(P2010−18866A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181996(P2008−181996)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】