説明

含ふっ素エラストマ被覆電線

【課題】難燃性をより向上し、かつ環境に配慮した含ふっ素エラストマ被覆電線を提供する。
【解決手段】テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体60〜80質量%、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体20〜40質量%からなるブレンドポリマ100質量部に対して、三酸化アンチモンを0.5〜20質量部添加してなる組成物を、導体の外周に被覆層として形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体外周の被覆層として、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体とエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体からなるブレンドポリマを用いた含ふっ素エラストマ被覆電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高耐熱性および可とう性が要求される電線の被覆材料として、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体が用いられている。テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、可とう性、熱安定性、電気絶縁性、耐熱性、耐油性、耐薬品性、および難燃性に優れ、かつ、架橋可能な含ふっ素エラストマ共重合体である。
【0003】
一方、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体は、結晶性のふっ素樹脂であり、例えば熱器具用の配線に用いる場合には、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体に適宜ブレンドして耐カットスルー性を向上する手法が公知である。
【0004】
このようなブレンドポリマーを導体上または電線外周に被覆し、電離性放射線等を照射して架橋することによって、含ふっ素エラストマ被覆電線を得ていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−213871号公報
【特許文献2】特開2004−339316号公報
【特許文献3】特開2001−123011号公報
【特許文献4】特開平10−152619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、機器用電線のように小サイズの電線では、例えばUL規格のVW−1のような難燃性の厳しい試験において、芯線径と絶縁体厚さの組合せによっては合格しないケースがある。このような特殊サイズに対して、塩素系や臭素系の難燃剤を加えて高難燃化する手法があるが、最近の環境保護の趨勢から、これらの難燃剤を規制する傾向がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、難燃性をより向上し、かつ環境に配慮した含ふっ素エラストマ被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体60〜80質量%、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体20〜40質量%からなるブレンドポリマ100質量部に対して、三酸化アンチモンを0.5〜20質量部添加してなる組成物を、導体の外周に被覆層として形成したことを特徴とする含ふっ素エラストマ被覆電線である。
【0009】
請求項2の発明は、上記導体の芯線サイズが22AWG以下で、かつ上記被覆層の肉厚が0.4mm以上である請求項1記載の含ふっ素エラストマ被覆電線である。
【0010】
請求項3の発明は、上記被覆層を架橋剤を用いて、または電子線や紫外線を照射して架橋処理してなる請求項1又は2記載の含ふっ素エラストマ被覆電線である。
【0011】
請求項4の発明は、上記含ふっ素エラストマ被覆電線が、ULVW−1の垂直難燃試験に合格する難燃性を有する請求項1〜3いずれかに記載の含ふっ素エラストマ被覆電線である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、難燃性に優れた含ふっ素エラストマ被覆電線を得ることができるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0014】
本発明に用いるテトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体およびエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体は、それ自身高い難燃性を持っている。しかし、芯線サイズが22AWG以下で、かつ絶縁体としての被覆層の肉厚が0.4mm以上の電線構造(例えば、エアコンやレンジなどの熱機器用配線用途)においては、UL VW−1のような垂直難燃性を満足しない場合が生じる。
【0015】
本発明において、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体とエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体からなるブレンドポリマ100質量部に対して、三酸化アンチモンを0.5〜20質量部、好ましくは5〜15質量部添加することにより、機械的な特性や、耐熱性を損なうことなく難燃性を向上することを見出した。
【0016】
三酸化アンチモンの添加量を0.5〜20質量部に制限したのは、0.5質量部未満では、難燃性に対する効果がなく、また、20質量部を越えてもそれ以上の難燃効果はなく、むしろ耐熱性を低下させるからである。酸化アンチモンの平均粒径は、難燃性の観点から1〜2μmのものを用いるとよい。
【0017】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、主成分であるテトラフルオロエチレンおよびプロピレンと、これらと共重合可能な成分とで構成される。
【0018】
テトラフルオロエチレンおよびプロピレンと共重合可能な成分として、例えば、エチレン、ブテン−1、イソブテン、アクリル酸およびそのアルキルエステル、メタクリル酸およびそのアルキルエステル、ふっ化ビニル、ふっ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、クロロエチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0019】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、耐熱性、成形性などの面から、テトラフルオロエチレンとプロピレンとのモル比が90/10〜45/55の範囲であることが好ましい。主成分以外の成分の含有量は、主成分に対して30モル%以下の範囲であることが望ましい。
【0020】
また、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体としては、エチレン−テトラフルオロエチレン−フルオロオレフィン共重合体を用いることが好ましい。フルオロオレフィンとしては、例えばクロロトリフルオロエチレン、ふっ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、1,1−ジヒドロパーフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロパーフルオロブテン、1,1,5−トリヒドロパーフルオロペンテン−1、1,1,7−トリヒドロパーフルオロペンテン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロヘキセン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロオクテン−1、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロペン、パーフルオロブテン−1などが挙げられる。
【0021】
エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体は、エチレン単位とテトラフルオロエチレン単位とフルオロオレフィン単位とで構成されており、それぞれの含有モル比は10〜40/90〜60/0.1〜20であることが好ましい。
【0022】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体60〜80mass%、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体20〜40mass%の範囲に限定したのは、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体が60mass%未満(エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体が40mass%より多い)では可とう性と伸びが低下するからである。また、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体が80mass%を超える(エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体が20mass%より少ない)と、引張強さが低下するからである。
【0023】
上記で得られた被覆電線を、電子線や紫外線等を照射したり、有機過酸化物を用いて周知の方法で架橋処理して用いることが望ましい。
【0024】
なお、本発明においては、前記した成分に加えて架橋助剤、上記以外の難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、安定剤、充填剤、着色剤、シリコーン等を添加してもよい。
【0025】
以上の構成によれば、小サイズ厚肉電線に対しても優れた難燃性を有する含ふっ素エラストマ被覆電線を得ることができる。
【実施例】
【0026】
(実施例1〜5)
表1に示す配合剤を250℃に加熱したニーダーにより15分間均一に混練してコンパウンドを形成する。これを120℃に保持した6インチオープンロールで約2mmの厚さにシート成形した後、シートペレタイザーによって5mm角のペレットに加工した。
【0027】
その後、このペレットを、ヘッドが180℃、第1シリンダーが220℃、第2シリンダーおよびダイスが250℃に設定された40mm押出機(L/D=24)内にそれぞれ圧入する。その後、26AWG(導体径0.78mm)の銅撚線の外周に厚さ0.55mmに押出して被覆層を形成すると共に、この被覆層に14Mradの電子線を照射することによって架橋を行い、含ふっ素エラストマ被覆電線を作製する。
【0028】
(比較例1〜4)
比較例1〜4も実施例と同様の方法にて作製する。
【0029】
次に、実施例1〜5および比較例1〜4で作製したそれぞれの含ふっ素エラストマ被覆電線における機械特性、難燃性、耐熱老化性について評価した。
【0030】
それぞれの特性の評価は、以下に示す方法で行った。
【0031】
引張特性:
それぞれの含ふっ素エラストマ被覆電線から導体を抜脱した被覆層について、JIS−K−6301に準じた引張試験を行い、引張強さ(MPa)、伸び(%)を測定した。この引張試験におけるそれぞれの引張強さ、伸びの値を初期値とする。
【0032】
難燃性:
UL subject758に準拠した垂直燃焼試験(VW−1)を行い、1分以内に自己消火したものを合格、1分を越えるものを不合格とした。
【0033】
耐熱老化性(耐熱性):
それぞれの含ふっ素エラストマ被覆電線から導体を抜脱した被覆層について、空気置換量200回/hrのギヤーオープン(232℃)中で7日間保持した後、JIS−K−6301に準じた引張試験を行い、引張特性での引張試験における初期値に対する引張強さ残率(%)、伸び残率(%)を測定した。
【0034】
実施例1〜5および比較例1〜4で作製したそれぞれの含ふっ素被覆電線における各試験結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、本発明である実施例1〜5の含ふっ素エラストマ被覆電線は、いずれも引張強さが12MPa以上、伸びが150%(好ましくは200%)以上、難燃性が合格、熱老化後の引張強さ残率および伸び残率が80%以上であり、機械特性、難燃性、耐熱性の全てにおいて優れている。
【0037】
これに対して、比較例1は三酸化アンチモンが規定量未満であり、難燃性が不合格となった。比較例2は、三酸化アンチモンが規定量を越えた(21質量部)ものであり、難燃性は合格するが、耐熱老化性が著しく低下し目標を下回った。
【0038】
よって、三酸化アンチモンの添加量は、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体とエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体からなるブレンドポリマ100質量部に対して、0.5〜20質量部がよい。
【0039】
また、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体が規定より多い比較例3は引張強さが低く、規定より少ない比較例4は伸びと耐熱性が大幅に低下している。
【0040】
従って、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体60〜80mass%、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体20〜40mass%の範囲がよい。
【0041】
以上本発明の実施例を説明したが、本発明は、電線被覆材の他に、耐熱性が要求されるゴムパッキンやシール材として応用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体60〜80質量%、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体20〜40質量%からなるブレンドポリマ100質量部に対して、三酸化アンチモンを0.5〜20質量部添加してなる組成物を、導体の外周に被覆層として形成したことを特徴とする含ふっ素エラストマ被覆電線。
【請求項2】
上記導体の芯線サイズが22AWG以下で、かつ上記被覆層の肉厚が0.4mm以上である請求項1記載の含ふっ素エラストマ被覆電線。
【請求項3】
上記被覆層を架橋剤を用いて、または電子線や紫外線を照射して架橋処理してなる請求項1又は2記載の含ふっ素エラストマ被覆電線。
【請求項4】
上記含ふっ素エラストマ被覆電線が、ULVW−1の垂直難燃試験に合格する難燃性を有する請求項1〜3いずれかに記載の含ふっ素エラストマ被覆電線。

【公開番号】特開2010−186585(P2010−186585A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28630(P2009−28630)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】