説明

含臭素有機化合物、含臭素有機化合物含有組成物およびその製造方法

【課題】樹脂に配合した場合に、高い難燃性および熱安定性を付与しうる含臭素有機化合物を提供する。
【解決手段】下式1で示される含臭素有機化合物、該含臭素有機化合物を含有する難燃剤、並びに該難燃剤と樹脂とを含有する難燃性樹脂組成物。


(式中、Aは−CH−、−C(CH−および−S−のいずれかを表し、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の飽和炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜6の飽和炭化水素基を表し、Yはハロゲン原子を表し、mおよびnはそれぞれ1〜4の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に配合した場合に、高い難燃性および熱安定性を付与しうる含臭素有機化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
含臭素有機化合物は、高い難燃性を付与できることから、各種樹脂の難燃剤として広く利用されている。特に、少量で高い難燃性を付与できることから、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)やテトラブロモビスフェノールA−ビス(2−メチルアリルエーテル)が多用されている。
【0003】
しかしながら、これらの含臭素有機化合物は熱安定性が低く、製造時やリサイクル時の加熱によって、樹脂の劣化、樹脂への着色の他、臭化水素ガスの発生に起因する装置腐食などの問題を引き起こすことが知られている。
【0004】
一方で、熱安定性に優れる含臭素有機化合物として、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)なども知られている。しかしながら、これらの難燃剤はHBCDなどの含臭素化合物と比較して難燃化効果が低く、添加量を大幅に増やす必要があるため、樹脂物性の低下や大幅なコストアップなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−316251号公報
【特許文献2】特開2005−139356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂に配合した場合に、高い難燃性および熱安定性を付与しうる含臭素有機化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式1で示される含臭素有機化合物を提供する。
【0008】
【化1】

(式中、Aは−CH−、−C(CH−および−S−のいずれかであり、RおよびRはそれぞれ水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基、Rは炭素数1〜6の飽和炭化水素基、Yはハロゲン原子、mおよびnはそれぞれ1〜4の整数である。)
【0009】
また、本発明は、(A)ハロゲン化ビスフェノール化合物、(B)下記一般式2で示される化合物および(C)下記一般式3で示される化合物を反応させた後、さらに臭素を反応させてなる含臭素有機化合物含有組成物を提供する。
【0010】
【化2】

(式中、Rは水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【0011】
【化3】

(式中、Rは水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【0012】
さらに、本発明の含臭素有機化合物含有組成物においては、前記(A)1モルに対し、前記(B)と前記(C)の和が1.5〜3モルであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の含臭素有機化合物含有組成物においては、前記(B)と前記(C)が、(B)/(C)=8/2〜2/8(モル比)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の含臭素有機化合物は、樹脂に配合することにより、高い難燃性と熱安定性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で得られた含臭素有機化合物含有組成物の高速液体クロマトグラフのチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の含臭素有機化合物は、前記一般式1で示されるものである。
前記一般式1におけるAは、−CH−、−C(CH−および−S−のいずれかである。
【0017】
前記一般式1におけるRおよびRは、それぞれ水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、具体的には、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基およびヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、臭素含有量が最も高くなることから水素が好ましい。
【0018】
前記一般式1におけるRは炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基およびヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、臭素含有量が最も高くなることからメチル基が好ましい。
前記一般式1におけるYはハロゲン原子である。これらのうち、より高い難燃性が期待できることから、臭素が好ましい。なお、mおよびnはそれぞれ1〜4の整数であり、入手が容易であることから、mおよびnがともに2であることが好ましい。
【0019】
本発明の含臭素有機化合物含有組成物は、(A)ハロゲン化ビスフェノール化合物、(B)前記一般式2で示される化合物および(C)前記一般式3で示される化合物を反応させた後、さらに臭素を反応させたものである。なお、本発明の含臭素有機化合物含有組成物は、前記一般式1の含臭素有機化合物を含有するものである。
【0020】
本発明に用いる(A)ハロゲン化ビスフェノール化合物は、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびビスフェノールSなどのビスフェノール化合物において、芳香環上の水素原子の少なくとも1つをハロゲン原子に置換した化合物である。ここで、ハロゲン原子は、より難燃性に優れることから臭素が好ましく、具体的には、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールFおよびテトラブロモビスフェノールSが挙げられる。
【0021】
本発明に用いる化合物(B)は、一般式2で示されるものである。一般式2におけるRは水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、一般式1におけるRと同一のものが例示できる。また、一般式2におけるXはハロゲン基であり、具体的には、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。これらのうち、容易に入手できることから、塩素が好ましい。
【0022】
本発明に用いる化合物(C)は、一般式3で示されるものである。一般式3におけるRは水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、一般式1におけるRと同一のものが例示できる。また、一般式3におけるRは炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、一般式1におけるRと同一のものが例示できる。さらに、一般式3におけるXは、はハロゲン基であり、一般式2におけるXと同一のものが例示できる。
【0023】
本発明の含臭素有機化合物含有組成物においては、前記(A)1モルに対し、前記(B)と前記(C)の和が1.5〜4モルであることが好ましく、2〜3モルであることがさらに好ましい。上記範囲内とすることにより、難燃性と熱安定性がより優れたものとなる。
【0024】
また、本発明の含臭素有機化合物含有組成物においては、前記(B)と前記(C)が、(B)/(C)=8/2〜2/8(モル比)であることが好ましく、7/3〜3/7であることがさらに好ましい。上記範囲内とすることにより、難燃性と熱安定性がより優れたものとなる。
【0025】
本発明の含臭素有機化合物および含臭素有機化合物含有組成物は、公知の方法に準じて製造することができ、例えば、水酸化ナトリウムなどによりアルコラート化した(A)ハロゲン化ビスフェノール化合物と、(B)下記一般式2で示される化合物および(C)下記一般式3で示される化合物と反応させた後、さらに0〜10℃の条件下で臭素と反応させて臭素化を行い、続いて、過剰の臭素を還元剤および中和剤で処理することにより得られる。なお、前記(B)および前記(C)を反応させる際には、同時に反応させてもよく、何れか一方を先に反応させ、その後もう一方を反応させてもよい。ここで、還元剤としては、公知の化合物を使用でき、例えば、亜硫酸水素ナトリウムおよびヒドラジンなどが使用できる。また、中和剤としては、公知の化合物を使用でき、例えば、水酸化ナトリウムおよびモノエタノールアミンなどが使用できる。
【0026】
本発明の難燃剤は、一般式1で示される含臭素有機化合物を含有するものであるが、さらに、他の含臭素有機化合物を含有してもよい。このような含臭素有機化合物としては、例えば、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2−ブロモエチルエーテル)、ビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、ビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、ビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、ビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、ビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、ビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)シアヌレート、トリス(2−メチル−2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(2−メチル−2,3−ジブロモプロピル)シアヌレート、ビストリブロモネオペンチルマレート、ビストリブロモネオペンチルフマレート、ビストリブロモネオペンチルアジペート、ビストリブロモネオペンチルフタレート、ビストリブロモネオペンチルテレフタレート、トリストリブロモネオペンチルピロメリテート、ビス−2,3−ジブロモプロピルフタレート、ビス−2,3−ジブロモプロピルテレフタレート、トリス−2,3−ジブロモプロピルピロメリテート、トリストリブロモネオペンチルホスフェート、テトラブロモビスフェノール−A、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、ポリブロモジフェニルエーテル、ポリブロモジフェニルエタン、ビスポリブロモフェノキシエタン、トリスポリブロモフェノキシトリアジン、ポリブロモフェニルインダン、ポリペンタブロモベンジルアクリレートおよびエチレンビステトラブロモフタルイミドなどが挙げられる。
【0027】
本発明の難燃性樹脂組成物は、前記難燃剤と樹脂とを含有するものである。使用し得る樹脂としては、ポリスチレンおよびポリプロピレンなど、公知の樹脂を使用することができる。本発明の樹脂組成物において、前記難燃剤は、樹脂100重量部に対して1〜10重量部であることが好ましい。
【0028】
なお、本発明の難燃性樹脂組成物には、ホスファイト化合物、チオエーテル化合物、ヒンダードフェノール化合物、金属化合物、ラジカル発生剤およびフタロシアニン金属錯体などの添加剤を使用することができる。
【0029】
ホスファイト化合物は、一般的には熱安定剤として使用されるものであり、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビスステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチル−1−フェニルオキシ)(2−エチルヘキシルオキシ)ホスホラス、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデン−ビス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ジホスファイト、ヘキサトリデシル−1,1,3−トリス(3−t−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト、モノ(ジノニルフェニル)モノ−p−ノニルフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、テトラアルキル(C=12〜16)−4,4’−イソプロピリデン−(ビスフェニル)ジホスファイト、亜リン酸モノ又はジフェニルモノ又はジアルキル(又はアルコキシアルキル,C=8〜13)、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリスデシルホスファイトおよびトリフェニルホスファイトなどが挙げられる。
【0030】
チオエーテル化合物は、一般的には熱安定剤として使用されるものであり、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリストリルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネートおよび2−メルカプトベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0031】
ヒンダードフェノール化合物は、一般的には熱安定剤として使用されるものであり、例えば、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、グリセリントリス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、カルシウムジエチルビス[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンおよび2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノールなどが挙げられる。
【0032】
金属化合物は、一般的に難燃性を増強するために使用されるものであり、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、水和酸化アルミニウム、酸化モリブデン、 硫酸亜鉛および錫酸亜鉛などが挙げられる。
【0033】
ラジカル発生剤は、一般的に難燃性を増強するために使用されるものであり、例えば、クメンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ジクミルパーオキサイドおよび2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンなどが挙げられる。
【0034】
フタロシアニン金属錯体は、一般的に難燃性を増強するために使用されるものであり、例えば、フタロシアニン鉄、フタロシアニンマンガン、フタロシアニンコバルトなどが挙げられる。
【0035】
これらの添加剤の配合量としては、樹脂100重量部に対し0.01〜10重量部が好ましい。
【0036】
また、本発明の難燃性樹脂組成物には、発泡剤や発泡核剤なども使用することができる。
【0037】
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン、モノクロロジフルオロメタン、モノクロロ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルおよびエチルメチルエーテルなどの揮発性有機発泡剤、水、窒素および炭酸ガスなどの無機発泡剤、アゾ化合物などの化学発泡剤などが挙げられる。発泡剤の配合量は特に限定されないが、好ましくは、樹脂100重量部に対し0.01〜0.5モル、より好ましくは0.05〜0.3モルである。
【0038】
発泡核剤としては、例えば、タルク、ベントナイト、カオリン、マイカ、シリカ、クレーおよび珪藻土などが挙げられる。発泡核剤を使用する場合に使用量は、樹脂100重量部に対し0.01〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。
【0039】
本発明の成形体は、前記難燃性樹脂組成物を公知の方法で成形してなるものである。成形方法は特に限定されず、押出成形、射出成形、押出発泡成形またはビーズ発泡成形などが挙げられる。
【0040】
本発明の難燃性発樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、光安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定化剤、重金属不活性剤、耐衝撃改良剤、着色剤、滑剤、滴下防止剤、結晶核剤、帯電防止剤および相溶化剤などの公知の樹脂添加剤を配合することができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例および比較例について本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定するものではない。なお、特に記載しない限り、「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」である。
【0042】
(実施例1)
攪拌装置、温度計および滴下漏斗を備えたフラスコに、10%水酸化ナトリウム水溶液111g、臭化ナトリウム11.1g、水素化ホウ素ナトリウム0.1g、イソプロパノール17.9gおよび3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールA71.45g(0.131mol)を加え、40℃の均一溶液とした。ここに、2−クロロプロペン13.3g(0.174mol)と3−メチル−2−クロロプロペン14.8g(0.164mol)の混合液を滴下漏斗より滴下し、さらに65〜70℃で4時間攪拌した後、溶媒を減圧留去した。さらに、35℃まで冷却した後、塩化メチレン70g、水50gを添加して混合した後、塩化メチレン層を抽出した。
【0043】
抽出した塩化メチレン層を、攪拌装置、温度計および滴下漏斗を備えたフラスコに移し、塩化メチレン150gを加えて5℃に冷却した。この溶液に、液温が10℃を超えないように臭素27gを滴下し、滴下終了後さらに10〜20℃で30分間攪拌した。続いて、15重量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液で余剰の臭素を還元した後、さらに20重量%水酸化ナトリウムで中和した。30分間攪拌した後、溶液を静置して塩化メチレン層を抽出し、溶媒を減圧留去することにより組成物1を得た。((A)1モルに対して(B)2.57モル、(B1)/(B2)=4.8/5.2(モル比))
【0044】
組成物1について、高速液体クロマトグラフ質量分析における液体クロマトグラフのチャートを図1に示す。なお、保持時間の短いピークから順に、ピークA、B、C、DおよびEとする。
【0045】
また、各ピークにおける質量分析結果は下記の通りであり、その構造は下記のように帰属できる。
【0046】
<ピークA>
MS m/z:742[M−H]
【化4】

【0047】
<ピークB>
MS m/z:756[M−H]
【化5】

【0048】
<ピークC>
MS m/z:895[M−HBr+O、742[M−CHCHBrCHBr]
【化6】

【0049】
<ピークD>
MS m/z:909[M−HBr+O、742[M−CHCBr(CH)CHBr]
【化7】

【0050】
<ピークE>
MS m/z:923[M−HBr+O、756[M−CHCBr(CH)CHBr]
【化8】

【0051】
(実施例2)
攪拌装置、温度計および滴下漏斗を備えたフラスコに、10%水酸化ナトリウム水溶液111g、臭化ナトリウム11.1g、水素化ホウ素ナトリウム0.1g、イソプロパノール17.9gおよび3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールA71.45g(0.131mol)を加え、40℃の均一溶液とした。ここに、3−メチル−2−クロロプロペンを8.0g(0.105mol)を滴下漏斗より滴下し、さらに65〜70℃で4時間攪拌した。続いて2−クロロプロペンを20.7g(0.229mol)を滴下漏斗より滴下し、さらに65〜70℃で4時間攪拌した後、溶媒を減圧留去した。さらに、35℃まで冷却した後、塩化メチレン70g、水50gを添加して混合した後、塩化メチレン層を抽出した。
【0052】
抽出した塩化メチレン層を、攪拌装置、温度計および滴下漏斗を備えたフラスコに移し、塩化メチレン150gを加えて5℃に冷却した。この溶液に、液温が10℃を超えないように臭素27gを滴下し、滴下終了後さらに10〜20℃で30分間攪拌した。続いて、15重量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液で余剰の臭素を還元した後、さらに20重量%水酸化ナトリウムで中和した。30分間攪拌した後、溶液を静置して塩化メチレン層を抽出し、溶媒を減圧留去することにより組成物2を得た。((A)1モルに対して(B)2.54モル、(B1)/(B2)=6.9/3.1(モル比))
【0053】
また、組成物2の高速液体クロマトグラフ質量分析を行なったところ、実施例1におけるピークA〜Eの全てが検出された。
【0054】
(実施例3)
攪拌装置、温度計および滴下漏斗を備えたフラスコに、10%水酸化ナトリウム水溶液111g、臭化ナトリウム11.1g、水素化ホウ素ナトリウム0.1g、イソプロパノール17.9gおよび3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールA71.45g(0.131mol)を加え、40℃の均一溶液とした。ここに、2−クロロプロペンを8.9g(0.098mol)を滴下漏斗より滴下し、さらに65〜70℃で4時間攪拌した。続いて3−メチル−2−クロロプロペンを18.7g(0.244mol)を滴下漏斗より滴下し、さらに65〜70℃で4時間攪拌した後、溶媒を減圧留去した。さらに、35℃まで冷却した後、塩化メチレン70g、水50gを添加して混合した後、塩化メチレン層を抽出した。
【0055】
抽出した塩化メチレン層を、攪拌装置、温度計および滴下漏斗を備えたフラスコに移し、塩化メチレン150gを加えて5℃に冷却した。この溶液に、液温が10℃を超えないように臭素27gを滴下し、滴下終了後さらに10〜20℃で30分間攪拌した。続いて、15重量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液で余剰の臭素を還元した後、さらに20重量%水酸化ナトリウムで中和した。30分間攪拌した後、溶液を静置して塩化メチレン層を抽出し、溶媒を減圧留去することにより組成物3を得た。((A)1モルに対して(B)2.54モル、(B1)/(B2)=6.9/3.1(モル比))
【0056】
また、組成物3の高速液体クロマトグラフ質量分析を行なったところ、実施例1におけるピークA〜Eの全てが検出された。
【0057】
(比較例1)
2−クロロプロペンを29g(0.32mol)とし、3−メチル−2−クロロプロペンを用いない以外は、実施例1と同様に反応させることにより、組成物4を得た。また、組成物4の高速液体クロマトグラフ質量分析を行なったところ、実施例1におけるピークAおよびピークCのみ検出された。
【0058】
(比較例2)
3−メチル−2−クロロプロペンを26g(0.34mol)とし、2−クロロプロペンを用いない以外は、実施例1と同様に反応させることにより、組成物5を得た。また、組成物5の高速液体クロマトグラフ質量分析を行なったところ、実施例1におけるピークBおよびピークEのみ検出された。
【0059】
<高速液体クロマトグラフ質量分析の測定条件>
高速液体クロマトグラフは下記の条件で行った。
装置 agilent 1100(アジレント・テクノロギー社製)
カラム inertsil ODS−3、3.0mm×50mm(ジーエル サイエンス社製)
溶離液 水/アセトニトリル=10/90
流速 1ml/分
カラム温度 40℃
また、質量分析は、上記高速液体クロマトグラフに、質量分析装置を接続することにより測定した。
【0060】
実施例1〜3および比較例1〜2で得られた難燃剤組成物を用いて樹脂組成物を作成し、難燃性と熱安定性を評価した。なお、使用した原料は下記の通りである。
(樹脂)
PSJポリスチレン G9401(PSジャパン社製 ポリスチレン樹脂)
(発泡剤)
ヘプタン
(発泡核剤)
タルクMS(日本タルク工業(株)製)
【0061】
(試験例1〜3、比較試験例1〜3)
口径65mmから口径90mmに直列連結した二段押出機の口径65mmの押出機に、発泡剤を除く表1に記載の原料を投入し、200℃に加熱して溶融、可塑化、混練することにより樹脂組成物とした。続いて、65mm押出機先端(口径90mmの押出機の口金と反対側)に別ラインで所定量の発泡剤を圧入し、口径90mmの押出機で樹脂温度を120℃に冷却して、口径90mmの押出機の先端に設けた厚さ方向2.5mm、幅方向45mmの長方形断面のダイリップより大気中へ押し出すことにより、直方体状の樹脂発泡体(試験片)を得た。
【0062】
得られた試験片を用いて、難燃性および熱安定性を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0063】
<難燃性>
JIS K−7201に従って酸素指数を測定した。
○:酸素指数が26以上
×:酸素指数が26未満
【0064】
<熱安定性>
得られた試験片を細かく裁断し、その3gを12×120mm試験管に取り、220℃に温調したアルミブロックバスに20分間放置した後、溶融状態の試験片2.00gを採取した。冷却後、トルエン50mlに溶解し、波長360nmにおける吸光度を分光光度計(商品名:日立分光光度計U−1800、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定し、下記のように評価した。
○:0.8未満
△:0.8以上1.5未満
×:1.5以上
【0065】
<成形性>
発泡成形体の状態を目視により下記のように評価した。
○:発泡体に、ワレ、亀裂およびボイドが見られず、良好な発泡体が得られた。
×:発泡体に、ワレ、亀裂またはボイドが見られる。または、製造時にダイからのガスの噴出が見られ、良好な発泡体が得られない。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかなように、試験例1〜3の成形体は、難燃性、熱安定性および成形性のいずれの項目においても優れていることが分かる。一方、比較試験例1〜4のように、難燃剤として本発明の組成物を使用しない場合には、難燃性、熱安定性および成形性の全てを満足させるものは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の含臭素有機化合物は、樹脂に配合した場合に、高い難燃性および熱安定性を付与することができる。そのため、家電製品や建材などの断熱用途や盛土工法などの土木用途を始めとする様々な用途に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1で示される含臭素有機化合物。
【化1】

(式中、Aは−CH−、−C(CH−および−S−のいずれかであり、RおよびRはそれぞれ水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基、Rは炭素数1〜6の飽和炭化水素基、Yはハロゲン原子、mおよびnはそれぞれ1〜4の整数である。)
【請求項2】
(A)臭素化ビスフェノール化合物、(B)下記一般式2で示される化合物および(C)下記一般式3で示される化合物を反応させた後、さらに該(B)および該(C)由来の炭素−炭素二重結合を臭素化してなる含臭素有機化合物含有組成物。
【化2】

(式中、Rは水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【化3】

(式中、Rは水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【請求項3】
前記(A)1モルに対し、前記(B)と前記(C)の和が1.5〜3モルである請求項2記載の含臭素有機化合物含有組成物。
【請求項4】
前記(B)と前記(C)が、(B)/(C)=8/2〜2/8(モル比)である請求項2または3記載の含臭素有機化合物含有組成物。
【請求項5】
(A)臭素化ビスフェノール化合物、(B)下記一般式2で示される化合物および(C)下記一般式3で示される化合物を反応させて中間体を得る工程と、得られた中間体を臭素化する工程、とを含む含臭素有機化合物含有組成物の製造方法。
【化4】

(式中、Rは水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【化5】

(式中、Rは水素または炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、Rは炭素数1〜6の飽和炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【請求項6】
請求項1に記載の含臭素有機化合物を含有する難燃剤。
【請求項7】
請求項6記載の難燃剤と樹脂とを含有する難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−188408(P2012−188408A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55361(P2011−55361)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】