説明

含酸素化合物の製造方法

【課題】 装置の腐食をもたらすことなく酸化して、含酸素化合物であるアルコール類、ジオール類、ポリオール類及びケトン類を触媒の分離・除去処理の必要がなく工業的に有利に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 アルカン類を酸化してアルコール類、ジオール類、ポリオール類又はケトン類を製造するにあたり、周期律表の第5族及び第8〜10族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒を用いる含酸素化合物の製造方法、及びアルコール類を酸化して、ジオール類、ポリオール類又はケトン類を製造するにあたり、周期律表の第5族及び第8〜10族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒を用いる含酸素化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飽和炭化水素化合物(アルカン類)又はそのアルコール類を原料とする含酸素化合物の製造方法に関し、詳しくは、アルカン類又はそのアルコール類を、簡便に酸化により部分酸化して、含酸素化合物であるアルコール類、ジオール類、ポリオール類及びケトン類を得る方法に関する。これらの含酸素化合物は、溶剤又は種々の化成品の中間原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
分子状酸素を用いて酸化する酸化プロセスは、空気を使用することができるので安価であり、工業的には極めて重要な技術である。
例えば、6,6−ナイロンの原料として用いられアジピン酸、6−ナイロンの原料として用いられるε−カプロラクタムは、現在、シクロヘキサンの酸化で製造されたシクロヘキサノールやシクロヘキサンから誘導されている。また、ポリエチレンテレフタレートの原料であるテレフタル酸は、p−キシレンの酸化により製造されており、無水マレイン酸は、ブタンの酸化により製造されている。
アルカン類の中で、脂環式炭化水素であるシクロヘキサンの酸化プロセスは、上記したように工業的プロセスとして重要な技術であり、これまで、ナフテン酸コバルトを触媒とする技術が確立されているが、転化率、収率および反応圧力などの点で、必ずしも満足し得るものではなかった。
【0003】
そこで、近年、例えばN−ヒドロキシフタルイミド(NHPI)を主触媒とし、コバルト塩やバナジウム化合物を助触媒として酸化する方法(例えば、特許文献1及び2参照)などが開発されている。しかしながら、この方法では、反応により、触媒であるNHPI自体が分解する上、製品に混入するおそれがあるNHPI及びその分解生成物を反応液から分離する必要がある。また、転化率、収率および反応圧力の面からも、まだ十分に満足し得る技術であるとはいえない。
したがって、シクロヘキサンの酸化プロセスでは、反応圧力がより低く、かつ転化率及び収率がより高い技術の開発が望まれていた。
【0004】
一方、脂環式炭化水素のアダマンタンはダイヤモンド構造単位と同じ構造を持つ、対称性の高いカゴ型化合物として知られている。化学的には、(1)分子の歪みエネルギーが少なく、熱安定性に優れ、(2)炭素密度が大きいため脂溶性が大きく、(3)昇華性があるにもかかわらず、臭いが少ないなどの特徴を有しており、1980年代からは医薬品分野においてパーキンソン氏病治療薬やインフルエンザ治療薬の原料として注目されていたが、近年アダマンタン誘導体の有する耐熱性や透明性などの特性が、半導体製造用フォトレジスト、磁気記録媒体、光ファイバー、光学レンズ、光ディスク基板原料などの光学材料や、耐熱性プラスティック、塗料、接着剤などの機能性材料、化粧品などの分野で注目され、その用途が増大しつつある。また、医薬分野においても抗癌剤、脳機能改善薬、神経性疾患治療薬及び抗ウイルス剤などの原料としての需要が増大してきている。
アダマンタンの酸化生成物であるアダマンタノールやアダマンタノンは、近年、各種機能性材料の中間原料として、急速に需要が増大している。
これらの製造については、例えばアダマンタンを原料とし、硫酸を用いた酸化による2−アダマンタノンの製造と、臭素化・加水分解によるアダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール及びアダマンタンポリオールの製造が行われている。
【0005】
また、1−アダマンタノールを選択的に製造する技術としては、ブロモアダマンタンを加水分解する方法、次亜塩素酸を酸化剤として塩化ルテニウム触媒により酸化する方法(例えば、特許文献3参照)、オゾンを酸化剤とする方法(例えば、特許文献4及び5参照)、N−ヒドロキシフタルイミド(NHPI)を主触媒とし、コバルト塩やバナジウム化合物を助触媒として酸素又は空気を酸化剤とする方法(例えば、特許文献6〜8参照)などが公知である。例えば、特許文献6にはNHPI/Co(acac)2(コバルト(II)アセチルアセトナート)触媒やNHPI/Co(acac)3(コバルト(III)アセチルアセトナート)触媒を用いてアダマンタン酸化を行うことが開示され、特許文献8にはNHPI/V25触媒やNHPI/V(acac)3(バナジウムアセチルアセトナート)触媒を用いてアダマンタン酸化を行うことが開示されている。また、1,3−アダマンタンジオール及びアダマンタンポリオール類についてはジブロモアダマンタンを加水分解する方法(例えば、特許文献9参照)又は1−アダマンタノールの逐次酸化によって得ることができ、特許文献9でも主生成物の一つとして明記されている。2−アダマンタノンについては硫酸酸化法(例えば、特許文献10参照)が公知である。
しかしながら、臭素化・加水分解法では反応剤として臭素を用いるために原料費が高く、また装置の腐食防止と反応物の漏洩防止のために建設費も高額であり、塩化ルテニウム法では触媒が高価であるために回収・再生が不可欠であり、かつアダマンタンの塩素化合物が副生する問題があり、オゾン法では猛毒のオゾンを使用するため安全性に問題がある。また、NHPI法では反応により触媒であるNHPI自体が分解する上、製品に混入するおそれがあるNHPI及びその分解生成物を反応液から分離(触媒の分離・除去処理)する必要があり、操作が極めて面倒である。硫酸法については、硫酸を触媒兼反応溶媒として用いるので大量の硫酸が必要であり、全量を中和するため処理コストが大きく、環境への負荷も高い。
【0006】
上述した方法以外に、t−ブチルハイドロパーオキサイドを酸化剤として種々の金属錯体を触媒とする方法(例えば、非特許文献1参照)や、過酸化水素を酸化剤として鉄化合物などを酸化剤とする方法(例えば、非特許文献2参照)も提案されているが、酸化剤が高価な上、反応の制御が困難であり、工業化には遠いものと思われる。近年では5価のバナジウム種をモンモリロナイトに固定した触媒が、アダマンタンからアダマンタノール類への酸化に有効であるという報告もされている(例えば、非特許文献3参照)。
非特許文献3では、アダマンタン転化率が93%で、選択率は1−アダマンタノール41%、2−アダマンタノン15%、1,3−アダマンタンジオール43%と高い値が報告されているが、反応時間が96時間と長く要し、ターンオーバー数が100程度であるなど、反応速度の面で更なる改良が必要である。このため、バナジウム/モンモリロナイト触媒を用いる方法も現状では工業的に課題がある状況である。従って、アダマンタンを分子状酸素により直接酸化して1−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール、アダマンタンポリオール類及び2−アダマンタノンを工業的に製造する方法は、現状では得られていないか、改良の余地が多分にあるといえる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−128714号公報
【特許文献2】特開2002−161056号公報
【特許文献3】特開2004−51497号公報
【特許文献4】特開2004−189610号公報
【特許文献5】特開2004−26778号公報
【特許文献6】特開平9−327626号公報
【特許文献7】特開平10−309469号公報
【特許文献8】特開平10−316601号公報
【特許文献9】特開2000−327604号公報
【特許文献10】特開平11−189564号公報
【非特許文献1】J.Chem.Soc.Dalton Trans.,21,1995,3537−3542
【非特許文献2】Chem.Pharm.Bull.,31,4,1983,1166−1171
【非特許文献3】金田ら、日本化学会春季年会予稿、2003年及び2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新しい触媒系を用いてアルカン類又はそのアルコール類を、操作が面倒な触媒の分離・除去処理の必要がない上、装置の腐食をもたらすことなく酸化して、含酸素化合物であるアルコール類、ジオール類、ポリオール類及びケトン類を工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、従来NHPIの助触媒としても用いられていたバナジウム化合物やコバルト化合物等の遷移金属化合物を単独かつより少ない量で触媒として用い、酸素又は空気による直接部分酸化することにより、触媒の分離・除去処理の必要がなく、目的の含酸素化合物を効率良く製造し得ることを見出した。すなわち、バナジウム化合物やのコバルト化合物等の遷移金属化合物を単独でかつより少ない量で触媒として用いても、反応条件を選択することにより、例えば、アダマンタンを原料として、1−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール、アダマンタンポリオール及び2−アダマンタノンが高収率で得られ、シクロヘキサンを原料として、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンが高収率で得られることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の含酸素化合物の製造方法を提供するものである。
1. アルカン類を酸化してアルコール類、ジオール類、ポリオール類又はケトン類を製造するにあたり、周期律表の第5族及び第8〜10族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒を用いることを特徴とする含酸素化合物の製造方法。
2. アルコール類を酸化して、ジオール類、ポリオール類又はケトン類を製造するにあたり、周期律表の第5族及び第8〜10族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒を用いることを特徴とする含酸素化合物の製造方法。
3. 触媒に含まれる遷移金属元素がバナジウムである上記1又は2に記載の含酸素化合物の製造方法。
4. 触媒に含まれるバナジウムの原子価が3〜5価である上記3に記載の含酸素化合物の製造方法。
5. 触媒が、3〜5価の原子価を有するバナジウム化合物又は該バナジウム化合物を無機金属多孔質担体に担持した固体触媒である上記4に記載の含酸素化合物の製造方法。
6. 触媒に含まれる遷移金属元素がコバルトである上記1又は2に記載の含酸素化合物の製造方法。
7. 触媒が、2価又は3価の原子価を有するコバルト化合物又は該コバルト化合物を無機金属多孔質担体に担持した固体触媒である上記6に記載の含酸素化合物の製造方法。
8. 無機金属多孔質担体がシリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、シリカチタニア、ゼオライト、チタノシリケート、メソポーラスシリカ又はメソポーラスチタニアである上記5又は7に記載の含酸素化合物の製造方法。
9. 酸化反応が、分子状酸素を含む気体を酸化剤として行われる上記1〜8のいずれかに記載の含酸素化合物の製造方法。
10. 反応系に、カルボン酸類、スルホン酸類及びルイス酸類から選ばれる1種以上が共存する上記1〜9のいずれかに記載の含酸素化合物の製造方法。
11. 原料100質量部当たり、遷移金属元素を含有する触媒単独を0.00001〜10質量部の割合で用いる上記1〜10のいずれかに記載の含酸素化合物の製造方法。
12. アルカン類がアダマンタンであり、アルコール類が1−アダマンタノール又は2−アダマンタノールであり、ジオール類が1,3−アダマンタンジオールであり、ポリオール類がアダマンタンポリオールであり、ケトン類が2−アダマンタノンである請求項1〜11のいずれかに記載の含酸素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、遷移金属を含む触媒を単独かつ少ない量で用いて、反応条件を選択してアルカン類を酸化することにより、触媒の分離・除去処理の必要がなく、アルコール類、ジオール類、ポリオール類及びケトン類等の含酸素化合物を工業的に簡便に安価に製造でき、遷移金属を含む触媒を用い、上記と同様にアルコール類を酸化することにより、触媒の分離・除去処理の必要がなく、ジオール類、ポリオール類及びケトン類等の含酸素化合物を工業的に簡便に安価に製造できる。このため、ルテニウムやNHPI等の高価な触媒が不要となり触媒費を低減することができる。特に、酸化剤として空気又は酸素を用いることができるので、原材料費を低減でき、かつ、過酸化水素や次亜塩素酸塩などの酸化剤を用いた場合に問題となる装置の腐食もないために、装置の防食に特段の処理の必要もなく、装置の建設費も低減することができる。
本発明の製造方法により得られる含酸素化合物のうち、例えばシクロヘキサンから製造されるシクロヘキサノールやシクロヘキサノンは代表的な合成繊維であるナイロンの原料として極めて需要が大きく、アダマンタンから製造される1−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール(及びそれ以上のポリオール類)、2−アダマンタノンは電子材料の原料や医農薬等の各種化学品の中間体として有用性が高い化合物である。
【0012】
さらに、上述の特許文献に記載の反応は、何れも触媒を反応溶液に均一に溶解させて行う均一系反応であり、反応液からの触媒の分離・回収には多大なエネルギーを消費するのに対して、本発明の製造方法では、バナジウム化合物やコバルト化合物を含浸担持した固体触媒を用いることもでき、反応形式を固定床もしくはバッチ式のいずれで行う場合も反応後の触媒と反応液の分離及び触媒再使用が容易である利点を有する。また、上記非特許文献3に開示されているバナジウム/モンモリロナイト触媒によるアダマンタン酸化の場合は、活性種であるバナジウム原子の価数が5価に限定され、工業的に充分な反応速度(高いターンオーバー数)が得られているとは言えないのに対して、本発明では適用できるバナジウム原子の原子価は3〜5価と広く、またバナジウム以外にもコバルト化合物を使用することができ、ターンオーバー数も高いなど工業的に優れた性能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の製造方法においては、アルカン類又はアルコール類を原料として用いる。アルカン類としては、アダマンタン及びシクロヘキサンなどの脂環式アルカン類が好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。アルカン類の酸化により、アルコール類、ジオール類、ポリオール類又はケトン類が得られる。アルカン類としてアダマンタンを用いた場合、アルコール類として1−アダマンタノール又は2−アダマンタノールを、ジオール類として1,3−アダマンタンジオールを、ポリオール類としてアダマンタンポリオールを、ケトン類として2−アダマンタノンを得ることができる。また、アルカン類としてシクロヘキサンを用いた場合、アルコール類としてシクロヘキサノールを、ケトン類としてシクロヘキサノンを得ることができる。
本発明において、原料として用いるアルコール類としては、1−アダマンタノール、2−アダマンタノール及びシクロヘキサノールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。アルコール類として1−アダマンタノール又は2−アダマンタノールを用いた場合、ジオール類として1,3−アダマンタンジオールを、ポリオール類としてアダマンタンポリオールを、ケトン類として2−アダマンタノンを得ることができる。また、アルコール類としてシクロヘキサノールを用いた場合、ケトン類としてシクロヘキサノンを得ることができる。
【0014】
本発明においては、触媒として、周期律表の第5族及び第8〜10族の遷移金属元素を含有する触媒を単独で用いる。第5族及び第8〜10族の遷移金属元素としてはバナジウム、ニオビウム、鉄、コバルト及びニッケルなどが挙げられる。本発明においてはバナジウム又はコバルトを含む触媒が好ましく、バナジウムは原子価が3〜5価のもの、コバルトは原子価が2又は3価のものが好ましい。
バナジウム化合物としてはバナジルアセチルアセトナート[VO(acac)2]、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]、バナジウムアセチルアセトナート[V(acac)3]、硫酸バナジル[VOSO4]、蓚酸バナジル[VOC24]、酸化バナジウム(V25、V613、VO2)、トリイソプロポキシ酸化バナジウム[VO(OC373]、ステアリン酸酸化バナジウム[CH3(CH216COO]2VO、オキシ塩化バナジウム[VOCl3]及び酸化バナジウム−TPP錯体(TPP:5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン)などが挙げられる。これらのうち、高収率で酸化物が得られ、また、高いターンオーバー数を実現する点から、バナジルアセチルアセトナート[VO(acac)2]、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]、バナジウムアセチルアセトナート[V(acac)3]及びVO−TPP錯体が好ましく、特に、バナジルアセチルアセトナート[VO(acac)2]が好ましい。
ここで、ターンオーバー数とは、[仕込んだアダマンタンの反応消費量(mol)/仕込んだ触媒に含まれる活性金属(バナジウムやコバルト等)量(mol)]により求められる数値であり、反応速度の目安となる数値である。
【0015】
コバルト化合物としては、酢酸コバルト(II)[(CH3COO)2Co]、コバルト(II)アセチルアセトナート[Co(acac)2]、コバルト(III)アセチルアセトナート[Co(acac)3]、コバルト(II)ベンゾイルアセトナート[(C65COCH=C(O−)CH32Co]、コバルトヘキサフルオロアセチルアセトナート[(CF3COCH=C(O−)CF32Co]、塩化コバルト(II)[CoCl2]、臭化コバルト(II)[CoBr2]、弗化コバルト(II)[CoF2]、沃化コバルト(II)[CoI2]、硝酸コバルト(II)[Co(NO32]、フタロシアニンコバルト(II)、硫酸コバルト(II)[CoSO4]、酸化コバルト(CoO、Co34)、過塩素酸コバルト(II)[CoClO4]、2−エチルヘキサン酸コバルト(II)[{CH3(CH23CH(C25)COO}2Co]、ナフテン酸コバルト(II)、チオシアン酸コバルト(II)[Co(SCN)2]及びコバルト−TPP錯体(TPP:5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン)などが挙げられる。これらのうち、高収率で酸化物が得られ、また、高いターンオーバー数を実現する点から、コバルト(II)アセチルアセトナート[Co(acac)2]が好ましい。
【0016】
本発明においては、これらのバナジウム化合物又はコバルト化合物を、無機金属多孔質担体に担持した固体触媒として用いることもできる。無機金属多孔質担体としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、シリカチタニア、ゼオライト、チタノシリケート、メソポーラスシリカ及びメソポーラスチタニアなどが挙げられる。
これらの担体の性状は、その種類及び製法により異なり、比表面積は通常10〜2000m2/g程度、好ましくは50〜1500m2/g、細孔容積は通常0.01〜2cm3/g程度、好ましくは0.1〜1cm3/gである。
比表面積及び細孔容積の何れも上記範囲にあれば、触媒活性が低下することがない。なお、比表面積及び細孔容積は、例えば、BET法に従って吸着された窒素ガスの体積から求めることができる[J.Am.Chem.Soc.,60,309(1983)参照]。
【0017】
本発明の製造方法においては、分子状酸素を含む気体を酸化剤として用いることができ、具体的には、空気又は酸素、及びこれらを窒素、ヘリウム、アルゴン等で希釈した混合ガスが挙げられる。
本発明において、酸化反応の条件は、アルカン類を原料とする場合もアルコール類を原料とする場合も同様である。反応温度は、通常40〜300℃程度、好ましくは80〜150℃である。反応温度が300℃以下であると、重質分の副生が抑えられるので、選択率が向上し、反応温度が40℃以上であると、反応速度が上がるので、生産効率が上がる。
【0018】
反応器への酸化剤の導入方法としては、反応液中に直接吹き込む方法、及び反応液面に接触するように気相に吹き込む方法が挙げられる。反応液中に直接吹き込む場合には、撹拌翼の横に吹き込み口を設けると、吹き込まれた気泡が撹拌翼に効率的に巻き込まれるので、反応液への溶解性を高めることができる。また、酸化反応は、常圧又は減圧下でも行うことができるが、必要に応じて加圧することもできる。この加圧により反応液中への酸化剤の溶解が促進されるので、反応速度を高めることができる。
【0019】
本発明において、酸化反応の方式はバッチ式及び固定床流通式のいずれであってもよい。バッチ式で酸化反応を行う場合の触媒量は、原料のアルカン類又はアルコール類100質量部に対して、通常0.00001〜10質量部程度、好ましくは0.01〜1質量部である。0.00001質量部以上であると反応が促進され、10質量部以下であると触媒の処理に時間がかかりすぎることがないので、反応効率が向上する。
バッチ式で反応させる場合の反応時間は、通常3分〜100時間程度、好ましくは1〜20時間である。反応時間が3分以上であると反応の転化率が十分となり、100時間以下であると生産効率が向上する。
固定床流通式で反応させる場合の反応時間は、通常MHSV(質量空間速度)が0.002〜20h-1程度、好ましくは0.05〜1h-1である。MHSVが0.002-1以上であると生産効率の面から有利であり、20h-1以下であると反応が十分に進行する。
【0020】
上記いずれの反応形式においても、酸化反応は、必要に応じ溶媒中で行うことができる。溶媒としては、ドデカン、ベンゼン等の炭化水素;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、クロロ酢酸等のハロゲン化カルボン酸類、メタンスルホン酸等のスルホン酸類などの有機カルボン酸;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸t−ブチル等のエステル類;ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの溶媒の中で、カルボン酸類が好ましく、酢酸及びプロピオン酸が特に好ましい。
また、触媒の反応性を向上させるために、反応系に、カルボン酸類、スルホン酸類及びルイス酸類から選ばれる1種以上を共存させることが効果的である。スルホン酸類としてはメタンスルホン酸及びトルエンスルホン酸等が挙げられる。ルイス酸類としてはランタントリフラート[La(OTf)3]及びユウロピウムトリフラート[Eu(OTf)3]等が挙げられる。また、硫酸、ゼオライト等の固体酸類も併用することができる。
カルボン酸類を溶媒として用いる場合、カルボン酸類以外の酸の使用量は、通常、カルボン酸類の0.001〜10質量%程度、好ましくは0.01〜1質量%である。
【0021】
用いる溶媒の種類によっては反応器の気相部分で分子状酸素を含むガスと溶媒蒸気が混合し、爆発組成となるおそれがある。工業的生産における安全確保のためには爆発範囲外で反応させることが極めて望ましい。本反応系において、爆発範囲外で反応を行う方法としては、ハロゲン化炭化水素系の不燃性溶媒を用いる方法、反応温度を高めて溶媒蒸気圧を増加させることにより爆発範囲の上限側で運転する方法、反応温度を下げて溶媒蒸気圧を減少させ、爆発範囲の下限側で運転する方法、供給する不燃性ガス中の酸素分圧を下げることにより爆発する組成を回避する方法、及び反応器の液相には高濃度の酸素を含むガスを供給して高効率の酸化を行うと共に、気相部分に独立して窒素、二酸化炭素、ヘリウムなどの不活性ガスを供給し気相酸素濃度を低下させことにより爆発組成を回避する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
三ツ口フラスコ内の酢酸(10ml)にアダマンタン10mmol(1.36g)と触媒であるバナジルアセチルアセトナート[VO(acac)2]5μmol(1.3mg)を溶解させ、スターラーで攪拌しながら1気圧の酸素を10ml/min.の流量で連続的に吹き込み、温度120℃で6時間反応させ、アダマンタン(ADM)の部分酸化反応を行った。生成物をガスクロマトグラフで定量分析した結果、生成物は1−アダマンタノール(1−AdOH)、2−アダマンタノール(2−AdOH)、1,3−アダマンタンジオール(1,3−(AdOH)2)、及びそれらの酢酸エステル、2−アダマンタノン(2−Ad=O)であった。生成物のアダマンタン転化率は37.0%、合計収率は25.8%で、ターンオーバー数(TON)は517であった。これらの結果を表1に示す。
また、以下の実施例及び参考例における分析結果も表1に示す。なお、ターンオーバー数は、[仕込んだアダマンタンの反応消費量(mol)/仕込んだ触媒に含まれる活性金属(バナジウムやコバルト等)量(mol)]により求められる数値であり、ターンオーバー数が大きいほど、反応速度が速いといえる。
【0023】
実施例2
実施例1において、アダマンタンの仕込み量を5mmolに変えた以外は実施例1と同様の反応を行った。
実施例3
実施例1において、触媒をバナジウムアセチルアセトナート[V(acac)3]に変えた以外は実施例1と同様の反応を行った。
実施例4
実施例1において、触媒をメタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]に変えた以外は実施例1と同様の反応を行った。
実施例5
実施例1において、触媒を酸化バナジウム−TPP錯体[VOTPP]に変えた以外は実施例1と同様の反応を行った。
実施例6
実施例1において、溶媒である酢酸をプロピオン酸に変えた以外は実施例1と同様の反応を行った。
実施例7
実施例6において、触媒量を10μmolに変えた以外は実施例6と同様の反応を行った。
実施例8
実施例6において、触媒量を1.3μmolに変えた以外は実施例6と同様の反応を行った。
【0024】
実施例9
実施例6において、アダマンタンの仕込み量を5mmolに変え、反応温度を100℃に変えた以外は実施例6と同様の反応を行った。
実施例10
実施例9おいて、メタンスルホン酸[CH3SO3H]を0.004ml添加した以外は実施例9と同様の反応を行った。
実施例11
実施例9において、ユウロピウムトリフラート[Eu(OTf)3]を10μmol添加した以外は実施例9と同様の反応を行った。
実施例12
実施例6において、触媒量を10μmolに変え、アダマンタンの代わりに1−アダマンタノールを5mmol仕込んだ以外は実施例6と同様の反応を行った。
実施例13
実施例6において、アダマンタンの仕込み量を5mmolに変え、触媒をCo(acac)2・2H2Oに変えた以外は実施例6と同様の反応を行った。
【0025】
参考例1
実施例1において、触媒としてバナジウム18μmolをモンモリロナイトに固定した触媒(V/Mont.)を用い、アダマンタンの仕込み量を3mmolとし、溶媒として酢酸t−ブチルを用い、反応温度100℃で96時間反応させた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。なお、上記触媒は、特開2004−2234に記載の触媒調製法により、塩化バナジウム(III)水溶液をモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業株式会社製)に添加してイオン交換し、ろ過、水洗、乾燥後、空気中800℃で焼成することにより得られたものである。
参考例2
実施例1において、触媒としてNHPI 1mmolとVO(acac)250μmolを用い、溶媒である酢酸の使用量を25mlとし、反応温度を75℃とした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
溶剤又は種々の化成品の中間原料として有用なアルコール類、ジオール類、ポリオール類及びケトン類を簡便に得る方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカン類を酸化してアルコール類、ジオール類、ポリオール類又はケトン類を製造するにあたり、周期律表の第5族及び第8〜10族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒を用いることを特徴とする含酸素化合物の製造方法。
【請求項2】
アルコール類を酸化して、ジオール類、ポリオール類又はケトン類を製造するにあたり、周期律表の第5族及び第8〜10族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒を用いることを特徴とする含酸素化合物の製造方法。
【請求項3】
触媒に含まれる遷移金属元素がバナジウムである請求項1又は2に記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項4】
触媒に含まれるバナジウムの原子価が3〜5価である請求項3に記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項5】
触媒が、3〜5価の原子価を有するバナジウム化合物又は該バナジウム化合物を無機金属多孔質担体に担持した固体触媒である請求項4に記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項6】
触媒に含まれる遷移金属元素がコバルトである請求項1又は2に記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項7】
触媒が、2価又は3価の原子価を有するコバルト化合物又は該コバルト化合物を無機金属多孔質担体に担持した固体触媒である請求項6に記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項8】
無機金属多孔質担体がシリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、シリカチタニア、ゼオライト、チタノシリケート、メソポーラスシリカ又はメソポーラスチタニアである請求項5又は7に記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項9】
酸化反応が、分子状酸素を含む気体を酸化剤として行われる請求項1〜8のいずれかに記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項10】
反応系に、カルボン酸類、スルホン酸類及びルイス酸類から選ばれる1種以上が共存する請求項1〜9のいずれかに記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項11】
原料100質量部当たり、遷移金属元素を含有する触媒単独を0.00001〜10質量部の割合で用いる請求項1〜10のいずれかに記載の含酸素化合物の製造方法。
【請求項12】
アルカン類がアダマンタンであり、アルコール類が1−アダマンタノール又は2−アダマンタノールであり、ジオール類が1,3−アダマンタンジオールであり、ポリオール類がアダマンタンポリオールであり、ケトン類が2−アダマンタノンである請求項1〜11のいずれかに記載の含酸素化合物の製造方法。


【公開番号】特開2006−249034(P2006−249034A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70611(P2005−70611)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月29日 触媒学会主催の「第94回 触媒討論会」において文書をもって発表
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】