説明

吸収型多層膜NDフィルターとその製造方法

【課題】樹脂フィルムを基板とした低反射性と耐環境性に優れた吸収型多層膜NDフィルターとその製造方法を提供する。
【解決手段】この吸収型多層膜NDフィルターは、樹脂フィルム基板の少なくとも片面に誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて成る吸収型多層膜を具備し、吸収膜層が金属膜で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)で構成されると共に、最表面側の誘電体膜層上にMgF膜層が積層され、更に、上記誘電体膜層はSiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いた物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜により構成され、上記吸収膜層は物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜により構成されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域の透過光を減衰させる吸収型多層膜NDフィルターに係り、特に、樹脂フィルムを基板とした低反射性と耐環境性に優れた吸収型多層膜NDフィルターとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ND(Neutral Density Filter)フィルターには、入射光を反射して減衰させる反射型NDフィルターと、入射光を吸収して減衰させる吸収型NDフィルターが知られており、反射光が問題となるレンズ光学系に組み込む場合には、一般的に吸収型NDフィルターが利用される。また、吸収型NDフィルターには、基板自体に吸収物質を混ぜ(色ガラスNDフィルター)あるいは塗布するタイプと、基板自体に吸収はなくその表面に形成された薄膜に吸収があるタイプが存在し、後者の場合、薄膜表面の反射を防ぐために上記薄膜を多層膜(吸収型多層膜)で構成し、透過光を減衰させる機能と共に反射防止の効果を持たせている。尚、小型で薄型のデジタルカメラに用いられる吸収型多層膜NDフィルターは、フィルターの組込みスペースが狭いことから基板自体を薄くする必要があり、樹脂フィルムが最適な基板とされている。
【0003】
そして、特許文献1には、誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させた多層膜により上記薄膜が構成される吸収型多層膜NDフィルターが開示され、吸収膜層を構成する材料としてTi等の金属膜が例示され、また、誘電体膜層を構成する材料としてSiOやMgF等が例示されている。尚、上記吸収膜層としては、吸収膜層の成膜時に意図的に酸素導入を行って、酸素欠損による吸収を有するTiOxやTaOx等の金属酸化物膜を採用したNDフィルターも知られている。
【0004】
ここで、上記吸収膜層を構成する金属膜と金属酸化物膜を比較した場合、TiOxやTaOx等の金属酸化物膜に較べてTi等の金属膜は消衰係数が高いため、同じ消衰係数を得るには金属膜を採用した方が吸収膜層の膜厚を薄くすることができる。そして、フレキシブル性を有する上記樹脂フィルム基板に吸収型多層膜を成膜する場合、樹脂フィルム基板の反り、膜の割れや成膜時間等を考慮すると、金属酸化物膜に較べて膜厚を薄く設定できる金属膜を採用した方が有利である。従って、デジタルカメラ等に利用される吸収型多層膜NDフィルターの吸収膜層には金属膜が主に用いられている。
【0005】
他方、誘電体膜層を構成する材料としては、上述したようにSiOやMgF等が適用されている。そして、吸収型多層膜NDフィルターの表面反射を低減させるには、最表面側に位置する誘電体膜層の屈折率が低いほど好ましく、上述したSiOとMgFとを比較した場合、SiOより屈折率が低いMgFを適用した方が望ましい。しかしながらMgFは若干の吸湿性を有しており、MgFが適用された吸収型多層膜NDフィルターを高温高湿環境下に晒した場合、耐久性に劣る欠点があり、更に、広く利用されているスパッタリング法によるMgFの成膜が、後述する技術的理由により困難である欠点を有している。このため、吸収型多層膜NDフィルターの誘電体膜層にはSiOが主に用いられている。
【0006】
ところで、吸収型多層膜NDフィルターの表面反射が高い場合、撮影画像にゴーストやフレアが生じてしまう。そして、MgFより屈折率の高いSiOを誘電体膜層に適用した従来の吸収型多層膜NDフィルターは表面反射が高く、NDフィルターの低反射性に劣る問題点を有していた。
【0007】
他方、金属膜やTiOx、TaOx等の金属酸化物膜は容易に酸化が進行して消衰係数が低下するため、金属膜や金属酸化物膜を吸収膜層に適用したNDフィルターは透過率が経時的に高くなることが知られており、吸収膜層が金属膜の場合に顕著であった。そして、金属膜や金属酸化物膜が吸収膜層に適用されたNDフィルターを高温高湿環境下に晒した場合、吸収膜層の酸化が進行してその透過率が経時的に増加することが問題となっていた。ここで、金属膜や金属酸化物膜を酸化させる酸素は、大気中あるいは樹脂フィルム基板や誘電体膜層から供給されると考えられている。特に、金属膜が10nm以下の厚さであると酸化の影響を受けやすい。そこで、金属膜等の酸化を防ぐため、大気中や酸素雰囲気中で熱処理を行い、金属膜等の界面付近を予め酸化させて内部まで酸化を進行させない方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献2には、光吸収膜と誘電体膜を透明基板上に積層した薄膜型NDフィルターであって、光吸収膜は、金属材料を原料として蒸着により成膜されたものであり、酸素を含む混合ガスを成膜時に導入し、真空度を1×10-3Paないし1×10-2Paの間で一定に維持した状態で生成した金属材料の酸化物を含有している構成のNDフィルターが開示されている。そして、光吸収膜と誘電体膜を透明基板に積層した後、酸素を10%以上含む酸素雰囲気で加熱し、光学特性の変化を飽和させる方法が提案されている。また、特許文献3では、光透過性基板上に1層以上の透明誘電体膜と光吸収膜が積層されて成る薄膜型NDフィルターにおいて、上記光吸収膜として、酸化により透過率が高くなり難い低級金属窒化膜層を採用した方法が提案されている。
【0009】
しかし、大気中あるいは酸素雰囲気中での熱処理により金属膜等の界面付近を予め酸化させる特許文献2に記載の方法では、厚さ10nm以下の薄い金属膜では完全に内部まで酸化が進行してしまい、界面付近にのみ酸化膜を形成させることが困難な問題を有していた。更に、大気中あるいは酸素雰囲気中で熱処理を施した場合、成膜された吸収型多層膜と樹脂フィルム基板との熱膨張係数の違いにより反りやクラックが発生することもあった。一方、透過率が高くなり難い低級金属窒化膜層を採用した特許文献3に記載の方法は、透過率が増加する欠点については解消されているが、低級金属窒化膜層は金属膜層より消衰係数が小さいため膜厚が大きくなるという問題があり、上記吸収膜層として金属酸化物膜が用いられた場合と同様、樹脂フィルム基板に成膜される際に樹脂フィルム基板の反りや膜割れ等が起こり易い課題を有していた。
【0010】
このように樹脂フィルム基板の少なくとも片面に、SiOから成る誘電体膜層と金属膜から成る吸収膜層を交互に積層させた構造の吸収型多層膜を具備する従来の吸収型多層膜NDフィルターにおいては低反射性と耐環境性に劣る問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−93811号公報
【特許文献2】特開2003−43211号公報
【特許文献3】特開2003−322709号公報
【特許文献4】国際公開WO2001/027345号公報
【特許文献5】国際公開WO2004/011690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、樹脂フィルムを基板とした低反射性と耐環境性に優れた吸収型多層膜NDフィルターとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者は、樹脂フィルムを基板とした低反射性と耐環境性に優れる吸収型多層膜NDフィルターを提供するために鋭意研究を行った結果、以下のような手法を見出すに至った。
【0014】
まず、高温高湿環境下において上記吸収膜層を構成する金属膜が酸化される際、酸素はSiOから成る酸化物誘電体膜層から供給される。従って、酸素が供給され難くなるようにSiOから成る酸化物誘電体膜層内に含まれる酸素量を減らせば、金属膜における酸化の進行を抑制することができる。
【0015】
ところが、上記酸化物誘電体膜は十分に酸化されていないと僅かに着色するため、透明膜を必要とする反射防止膜や反射膜等には使用することできない。しかし、吸収型多層膜NDフィルターにおいては、吸収のある金属膜がそもそも用いられているので、酸化物誘電体膜層が僅かに着色して吸収があったとしても特に問題とはならない。
【0016】
そして、上記酸化物誘電体膜層の吸収が僅かであれば、吸収型多層膜の膜設計の際に、酸化物誘電体膜層の消衰係数を考慮する必要はなく、反対に酸化物誘電体膜層の吸収が大きくNDフィルターの透過率に大きな影響を与えるようであれば、吸収型多層膜の膜設計の際に酸化物誘電体膜層の消衰係数を考慮すれば良いと考えられる。このような考え方から、酸素量が減らされたSiOx(但しxは2未満)で上記酸化物誘電体膜を構成することにより吸収型多層膜NDフィルターの耐環境性を改善できることが分った。
【0017】
他方、誘電体膜層の全てを酸素量が減らされたSiOx(但しxは2未満)で構成した場合、屈折率が上記SiOx膜層より低いMgF膜層が適用された場合ほど反射率を低減できず、吸収型多層膜NDフィルターにおける低反射性の改善が図れない。そこで、最表面側のSiOx膜層を成膜した後、最表面側のSiOx膜層上にMgF膜層を一層追加して積層することにより低反射性の改善が図れ、かつ、MgF膜層の下側には吸湿性を有しないSiOx膜層が存在するためMgF膜層を用いた吸湿性の問題も生じない。このような考え方から、最表面側のSiOx膜層上にMgF膜層を一層追加する構造を採ることにより吸収型多層膜NDフィルターの低反射性を改善できることが分った。本発明はこのような技術的検討を経て完成されている。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明は、
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて成る吸収型多層膜を具備する吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
上記吸収膜層が金属膜から成る金属吸収膜層で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成されると共に、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が積層されていることを特徴とし、
請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いた物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜により上記酸化物誘電体膜層が構成されると共に、物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜により上記金属吸収膜層が構成されていることを特徴とする。
【0019】
また、請求項3に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
可視波長域(波長400nm〜700nm)における最大透過率と最小透過率の差を平均透過率で割った値で定義される分光透過特性のフラット性が10%以下であることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
可視波長域(波長400nm〜700nm)における最大反射率が1.5%以下であることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
吸収型多層膜の基板と接する膜が上記酸化物誘電体膜層であることを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
上記酸化物誘電体膜層の各膜厚が3nm〜150nmであることを特徴とし、
請求項7に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
上記MgF膜層の膜厚が20nm〜150nmであり、かつ、最表面側の酸化物誘電体膜層とMgF膜層の合計膜厚が200nm以下であることを特徴とする。
【0020】
次に、請求項8に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
上記金属吸収膜層を構成する金属膜がNi単体若しくはNi系合金から成ることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項8に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
上記Ni系合金が、Ti、Al、V、W、Ta、Siから選択された1種類以上の元素を添加したNi系合金であることを特徴とし、
請求項10に係る発明は、
請求項9に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
Ti元素の添加割合が5〜15重量%であることを特徴とし、
請求項11に係る発明は、
請求項9に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
Al元素の添加割合が3〜8重量%であることを特徴とし、
請求項12に係る発明は、
請求項9に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
V元素の添加割合が3〜9重量%であることを特徴とし、
請求項13に係る発明は、
請求項9に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
W元素の添加割合が18〜32重量%であることを特徴とし、
請求項14に係る発明は、
請求項9に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
Ta元素の添加割合が5〜12重量%であることを特徴とし、
請求項15に係る発明は、
請求項9に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
Si元素の添加割合が2〜6重量%であることを特徴とする。
【0021】
更に、請求項16に係る発明は、
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて成る吸収型多層膜を具備し、上記吸収膜層が金属膜から成る金属吸収膜層で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成されると共に、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が積層されている吸収型多層膜NDフィルターの製造方法において、
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いかつ酸素ガスの導入量を制御した物理気相成長法により波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜から成る酸化物誘電体膜層を成膜する工程と、
酸素ガスの導入を停止した物理気相成長法により波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜から成る金属吸収膜層を成膜する工程と、
蒸着法またはウェットコーティング法により最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜する工程、
の各工程を有することを特徴とし、
請求項17に係る発明は、
請求項16に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの製造方法において、
物理気相成長法により最表面側の酸化物誘電体膜層を成膜した後、金属吸収膜層と酸化物誘電体膜層が積層された樹脂フィルムから成る上記基板を成膜装置から取り出し、次いで、蒸着法による成膜装置を用いて上記最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜するか、あるいは、ウェットコーティング法によるコーティング装置を用いて最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜することを特徴とし、
請求項18に係る発明は、
請求項16または17に記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの製造方法において、
長尺状の樹脂フィルム基板に対し、ロール・トウ・ロール方式により酸化物誘電体膜層と金属吸収膜層およびMgF膜層を成膜することを特徴とし、
請求項19に係る発明は、
請求項16〜18のいずれかに記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの製造方法において、
樹脂フィルムから成る基板と接する膜を酸化物誘電体膜層としたことを特徴とし、
請求項20に係る発明は、
請求項16〜19のいずれかに記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの製造方法において、
酸化物誘電体膜層の各膜厚を3nm〜150nmとしたことを特徴とし、
また、請求項21に係る発明は、
請求項16〜20のいずれかに記載の発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの製造方法において、
上記MgF膜層の膜厚が20nm〜150nmであり、かつ、最表面側の酸化物誘電体膜層とMgF膜層の合計膜厚が200nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させた構造の吸収型多層膜を具備する本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターは、
吸収膜層が金属膜から成る金属吸収膜層で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成されると共に、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が積層されていることを特徴としている。
【0023】
そして、上記酸化物誘電体膜が酸素量を減らしたSiOx(但しxは2未満)で構成されていることから、酸化物誘電体膜から金属吸収膜層へ酸素が供給され難くなるため金属吸収膜層における酸化の進行を抑制することができる。
【0024】
従って、高温高湿の環境下に晒した場合でも金属吸収膜層の酸化が起こり難いため、吸収型多層膜NDフィルターの耐環境性を改善できる効果を有する。
【0025】
更に、SiOx(但しxは2未満)で構成された最表面側の酸化物誘電体膜層上に、上記SiOxより屈折率の低いMgF膜層が一層追加して積層された構造を有しているため吸収型多層膜NDフィルターの低反射性が改善され、かつ、追加されたMgF膜層の下側にはSiOx膜層が存在するためNDフィルターの吸湿性が低下することもない。
【0026】
また、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの製造方法によれば、
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いかつ酸素ガスの導入量を制御した物理気相成長法により波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜から成る酸化物誘電体膜層を成膜する工程と、
酸素ガスの導入を停止した物理気相成長法により波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜から成る金属吸収膜層を成膜する工程と、
蒸着法またはウェットコーティング法により最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜する工程、
の各工程を有しているため、
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて成る吸収型多層膜を具備し、上記吸収膜層が金属膜から成る金属吸収膜層で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成されると共に、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が積層されている本発明の吸収型多層膜NDフィルターを確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの酸化物誘電体膜層を構成するSiOx(1.5<x<2)膜を成膜する際のインピーダンス制御設定値に対応して得られるSiOx膜の分光透過特性を示すグラフ図。
【図2】本発明に係る吸収型多層膜NDフィルター(図2中「C:本発明の構造」と表示)と、参考例1および参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルター(図2中「A:参考例1の構造」「B:参考例2の構造」とそれぞれ表示)の分光透過特性を示すグラフ図。
【図3】本発明に係る吸収型多層膜NDフィルター(図3中「C:本発明の構造」と表示)と、参考例1および参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルター(図3中「A:参考例1の構造」「B:参考例2の構造」とそれぞれ表示)の分光反射特性を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
まず、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターは、樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて成る吸収型多層膜を具備し、上記吸収膜層が金属膜から成る金属吸収膜層で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成されると共に、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が積層されていることを特徴としている。
【0030】
更に、本発明において、上記酸化物誘電体膜層は、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いた物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜により構成され、また、上記金属吸収膜層は、物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜により構成されていることを特徴としている。
【0031】
ここで、上記物理気相成長法としては、真空蒸着法、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0032】
以下、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの各構成について説明する。
(1)吸収膜層
本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて上記吸収膜層は、金属膜から成る金属吸収膜層で構成されており、具体的には、酸素ガスの導入を停止した物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜により構成されている。
【0033】
成膜時に意図的に酸素導入を行わずに成膜した金属膜は、上述したように成膜時に意図的に酸素導入を行って成膜した酸素欠損による吸収を有するTiOxやTaOx等の金属酸化物膜と比較して消衰係数が高い。そして、フレキシブル性を有する樹脂フィルム基板に誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて吸収型多層膜を成膜する場合、樹脂フィルム基板の反り、膜の割れや成膜時間等を考慮すると、上述したように消衰係数の高い金属膜を採用した方が金属酸化物膜より膜厚を薄くできるので望ましい。但し、金属膜は容易に酸化が進行して消衰係数が低下し、金属吸収膜層を用いたNDフィルターでは透過率が経時的に高くなってしまうことが知られている。
【0034】
そこで、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいては、金属吸収膜層に隣接する誘電体膜層をSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成することにより金属吸収膜層の酸化を抑制している。尚、上記金属吸収膜層は、上述したように酸素ガスの導入を停止した物理気相成長法により成膜されるが、SiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層の成膜に起因して、物理気相成長装置内に僅かに残留する酸素ガスにより僅かに酸化される場合がある。しかし、酸素欠損による吸収を有するTiOxやTaOx等の金属酸化物膜と較べて酸化の程度は極めて低く、波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0なる要件を満たしているなら上記金属吸収膜層として適用することは可能である。
【0035】
そして、物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜により構成される上記金属吸収膜層の膜厚は3nm〜20nmであることが望ましい。膜厚が3nm未満であると、金属膜は完全に内部まで酸化が進行してしまう場合があり好ましくない。一方、膜厚が20nmを超えて厚くなると、誘電体層に比較して柔らかい金属膜層を厚くすれば膜応力が緩和することが予測されるが、分光透過率が極端に低下してしまう場合がある。
【0036】
金属吸収膜層を構成する上記金属膜は、Ni単体若しくはNi系合金から成ることが好ましい。光学薄膜の吸収膜層として用いられる金属材料はどれも酸化されて消衰係数が低下してしまう傾向にあるが、Ni単体若しくはNi系合金は比較的酸化し難い金属だからである。特に、上記Ni系合金が、Ti、Al、V、W、Ta、Siから選択された1種類以上の元素を添加したNi系合金であることが好ましい。
【0037】
この理由を概略すると以下の通りである。
【0038】
すなわち、純Ni材料は強磁性体であるため、上記金属膜についてNi材料(ターゲット)を用いた直流マグネトロンスパッタリング法で成膜する場合、ターゲットと基板間のプラズマに作用させるためのターゲット裏側に配置したマグネットからの磁力が、Niターゲット材料で遮蔽されて表面に漏洩する磁界が弱くなり、プラズマを集中させて効率よく成膜することが難しくなる。これを回避するには、ターゲット裏側に配置するマグネットの磁力を強く(400ガウス以上)したカソード(強磁場カソード)を用い、Niターゲットを通過する磁界を強めてスパッタリング成膜を行うことが好ましい。但し、このような方法を採った場合でも、生産時には以下に述べるような別の問題が生ずることがある。すなわち、Niターゲットの連続使用に伴ってターゲットの厚みが減少していくと、ターゲットの厚みが薄くなった部分ではプラズマ空間の漏洩磁界が強くなっていく。そして、プラズマ空間の漏洩磁界が強くなると、放電特性(放電電圧、放電電流等)が変化して成膜速度が変化する。つまり、生産時に、同一のNiターゲットを連続して長時間使用すると、Niターゲットの消耗に伴いNi膜の成膜速度が変化する問題が生じ、特性の揃った吸収型多層膜NDフィルターを安定して生産することが難しくなる。この問題を回避するには、上述したようにTi、Al、V、W、Ta、Siから選択された1種類以上の元素が添加されたNi系合金材料を用いて金属膜を構成すればよい。
【0039】
そして、例えば、Ti元素を5〜15重量%の範囲で含むNi系合金材料を用いることが好ましい。Ti量の下限を5重量%とした理由は、5重量%以上含ませることによって強磁性特性を極端に弱めることができ、磁力の低い通常のマグネットを配置したカソードでも直流マグネトロンスパッタリング成膜を行うことができるからである。また、ターゲットによる磁界の遮蔽能力が低いため、ターゲット消耗に依存するプラズマ空間の漏洩磁界の変化も小さく、一定の成膜速度を維持でき、安定して成膜することができるからである。また、Ti量の上限を15.0重量%とした理由は、15.0重量%を超えてTiが含有されると多量の金属間化合物を形成してしまう恐れがあるからである。また、Al元素、V元素、W元素、Ta元素、Si元素の添加量も同様な理由により決定され、これ等Al元素、V元素、W元素、Ta元素、Si元素を添加する場合は、Al元素の添加割合が3〜8重量%、V元素の添加割合が3〜9重量%、W元素の添加割合が18〜32重量%、Ta元素の添加割合が5〜12重量%、Si元素の添加割合が2〜6重量%の範囲で添加したNi系合金材料とすることが好ましい。
(2)誘電体膜層
次に、本発明において上記SiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層は、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いた物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜により構成されている。尚、SiOx膜の消衰係数が0.05を超えると、成膜が完成した吸収型多層膜NDフィルターの可視波長域(波長400nm〜700nm)における最大透過率と最小透過率の差を平均透過率で割った値で定義される「分光透過特性のフラット性」を10%以下にすることが困難となる。特に、平坦な分光透過特性を得るためにはSiOx膜の消衰係数が0.03以下であることが望ましい。このような平坦な分光透過特性を有するSiOx膜を得るには、波長550nmにおける消衰係数0.005〜0.03となるように成膜時の酸素導入量を制御すればよい。
【0040】
また、上記酸化物誘電体膜層の各膜厚は3nm〜150nmであることが望ましい。各膜厚が3nm未満であると光学薄膜としての寄与が少ないばかりか、膜厚制御が困難となる場合があるからである。更に、高温高湿環境下において金属吸収膜層の酸化により透過率が増加する現象を抑制することが難しくなる場合があるからである。一方、酸化物誘電体膜層の各膜厚が150nmを超えた場合、このような厚い膜は波長550nmにおける消衰係数を制御することを必要とする光学薄膜の設計において必要がなくかつ生産効率を低下させ好ましくないからである。
【0041】
更に、樹脂フィルム基板からの酸素の供給を抑制するため、吸収型多層膜の樹脂フィルム基板と接する膜については、上記酸化物誘電体膜層で構成することが望ましい。
(3)MgF膜層
本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいてはSiOx膜から成る最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が一層追加して積層されていることを特徴としている。
【0042】
吸収型多層膜NDフィルターの表面反射を低減させるには、上述したように最表面側に位置する誘電体膜層の屈折率が低いほど好ましい。そして、一般的な誘電体膜材料の内で屈折率が最も低いのは波長550nmにおける屈折率が1.38のMgFであり、この次に屈折率が低いのは波長550nmにおける屈折率が1.45のSiOである。従って、低反射性に優れた吸収型多層膜NDフィルターを得るためには、誘電体膜層を構成する材料として屈折率が最も低いMgFを適用すればよいことが分る。
【0043】
しかし、広く利用されているスパッタリング法でフッ化物誘電体であるMgFを成膜しようとすると、成膜時にフッ素が解離して排気されてしまうのでスパッタリング成膜には適さない膜材料である。また、MgF膜は、表面硬度が求められるカメラレンズ等の最表面に使用されるほど硬質ではあるが、膜の内部構造は柱状構造をとる場合が多く、若干の吸湿性がある。このため、高温高湿環境下において金属吸収膜層の酸化の進行を妨げる機能においてSiOx膜より劣る膜材料である。
【0044】
但し、MgFは真空蒸着法には適した膜材料で、電子ビーム蒸着法でも抵抗加熱蒸着法のどちらでも成膜することが可能な材料である。
【0045】
そこで、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいては、金属吸収膜層の酸化の進行を抑制するためSiOx膜から成る酸化物誘電体膜層を適用し、かつ、吸収型多層膜NDフィルターの反射率を低減させるためSiOx膜から成る最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を一層追加して成膜する構造を採っている。
【0046】
そして、SiOx膜から成る最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を一層追加して成膜するには、例えば、スパッタリングロールコータにより最表面側の酸化物誘電体膜層を成膜した後、金属吸収膜層と酸化物誘電体膜層が積層された樹脂フィルム基板をスパッタリングロールコータから取り出し、次いで、電子ビーム真空蒸着ロールコータにセットしてMgF膜層を成膜してもよいし、あるいは、ウェットコータやディップコータ等のコーティング装置を用いてMgF粒子が分散されたコーティング液を塗布しかつ温風乾燥させてMgF膜層を成膜してもよくその方法は任意である。また、金属吸収膜層と酸化物誘電体膜層が積層された樹脂フィルム基板をスパッタリングロールコータから取り出し、かつ、取り出した樹脂フィルム基板を切断してシート形状に加工してから電子ビーム真空蒸着装置にセットしMgF膜を成膜してもよい。更に、スパッタリング法と真空蒸着法の両方を装備したロールコータを用いて、SiOx膜から成る最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を連続して成膜してもよい。
【0047】
また、最表面側の酸化物誘電体膜層上に蒸着法やウェットコーティング法等により成膜されるMgF膜層の膜厚が20nm〜150nm、かつ、最表面側の酸化物誘電体膜層とMgF膜層の合計膜厚が200nm以下であることが好ましい。MgF膜層の膜厚が20nm未満の場合、低屈折率のMgF膜層による反射防止の効果があまり期待できなくなり、反対にMgF膜層の膜厚が150nmを超えるとMgF膜層による膜応力が大きくなり過ぎるからである。更に、最表面側の酸化物誘電体膜層とMgF膜層の合計膜厚が200nmを超えた場合、可視波長域での反射防止の効果を得るにはこのような厚い膜は必要がなくかつ生産効率を低下させ好ましくないからである。
(4)吸収型多層膜NDフィルター
本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターは、樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて成る吸収型多層膜を具備し、吸収膜層が金属膜から成る金属吸収膜層で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成されると共に、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が積層されており、更に、上記酸化物誘電体膜層は、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いた物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜により構成され、上記金属吸収膜層は、物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜により構成されていることを特徴としている。
【0048】
このような構成を有する吸収型多層膜NDフィルターは、可視波長域(波長400nm〜700nm)における最大透過率と最小透過率の差を平均透過率で割った値で定義される分光透過特性のフラット性が10%以下という優れた光学特性を有している。更に、可視波長域(波長400nm〜700nm)における最大反射率が1.5%以下という特性をも有している。
【0049】
ところで、NDフィルターの膜構成を設計するためには、酸化物誘電体膜層と吸収膜層の光学定数(屈折率、消衰係数)を知らなければならない。そして、これら光学定数を測定するには、分光エリプソメトリー法と分光干渉法がある。金属を原料とする金属吸収膜層は、上述したように成膜後大気中に晒したときから酸化が進行してしまうので、吸収膜層(単層)のみで測定した光学定数と、NDフィルターを構成したときの光学定数の測定値が大きく異なる場合がある。そこで、NDフィルターを構成した状態で、酸化物誘電体膜層と吸収膜層の光学定数を測定し、ここで得られた光学定数をもとに、もう一度NDフィルターの膜構成を再設計することを繰り返して最適な膜構成を求めることが理想的である。
(5)吸収型多層膜NDフィルターの製造方法
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて成る吸収型多層膜を具備し、上記吸収膜層が金属膜から成る金属吸収膜層で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成されると共に、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が積層されている本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの製造方法は、
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いかつ酸素ガスの導入量を制御した物理気相成長法により波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜から成る酸化物誘電体膜層を成膜する工程と、
酸素ガスの導入を停止した物理気相成長法により波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜から成る金属吸収膜層を成膜する工程と、
蒸着法またはウェットコーティング法により最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜する工程、
の各工程を有することを特徴としている。
【0050】
ここで、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜する上記工程については、物理気相成長法により最表面側の酸化物誘電体膜層を成膜した後、金属吸収膜層と酸化物誘電体膜層が積層された樹脂フィルムから成る上記基板を成膜装置から取り出し、次いで、蒸着法による成膜装置を用いて上記最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜するか、あるいは、ウェットコーティング法によるコーティング装置を用いて最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜する方法が挙げられる。
【0051】
また、長尺状の樹脂フィルム基板を採用し、かつ、この樹脂フィルム基板に対し、ロール・トウ・ロール方式により酸化物誘電体膜層と金属吸収膜層およびMgF膜層を成膜する方法を採ってもよい。
【0052】
ここで、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料(ターゲット)としては、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料であれば任意の材料が適用できる。
【0053】
例えば、SiCとSiを含有する材料より構成され、かつ、SiCの体積比率(%)=[SiCの全体積/(SiCの全体積+Siの全体積)]×100とした場合のSiCの体積比率が50%〜70%であるスパッタリングターゲット(特許文献5参照)、あるいは、SiC粉末を、鋳込み成形法、プレス成形法または押出し成形法により成形し、この成形体に対し、真空中または減圧非酸化雰囲気中で、1450℃以上2200℃以下の温度で溶融したSiを含浸させて上記成形体の気孔を金属Siで満たすと共に、SiCと金属Siを含みSiに対するCの原子比が0.5以上0.95以下であるスパッタリングターゲット(特許文献4参照)等が挙げられる。
【0054】
次に、樹脂フィルム基板としてPET(ポリエチレンテレフタレート)を適用し、かつ、この樹脂フィルム基板の両面にそれぞれ成膜したSiOxから成る酸化物誘電体膜層(片面3層)とNi−Tiから成る金属吸収膜層(片面2層)およびSiOxから成る最表面側の酸化物誘電体膜層上に成膜したMgF膜層(片面1層)とで構成される平均透過率12.5%の本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの膜構造を表1(表1中「C:本発明の構造」と表示)に示す。
【0055】
比較のために、樹脂フィルム基板としてPET(ポリエチレンテレフタレート)を適用し、かつ、この樹脂フィルム基板の両面にそれぞれ成膜したSiOxから成る酸化物誘電体膜層(片面3層)とNi−Tiから成る金属吸収膜層(片面2層)とで構成される平均透過率12.5%の参考例1に係る吸収型多層膜NDフィルターの膜構造を表1(表1中「A:参考例1の構造」と表示)に示し、同様に、樹脂フィルム基板としてPET(ポリエチレンテレフタレート)を適用し、かつ、この樹脂フィルム基板の両面にそれぞれ成膜したSiOxから成る酸化物誘電体膜層(片面2層)とNi−Tiから成る金属吸収膜層(片面2層)およびNi−Tiから成る最表面側の金属吸収膜層上に成膜したMgF膜層(片面1層)とで構成される平均透過率12.5%の参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルターの膜構造を表1(表1中「B:参考例2の構造」と表示)に示す。
【0056】
【表1】

これ等の吸収型多層膜NDフィルターにおいて、酸化物誘電体膜層にはSiCおよびSiを主成分とする成膜材料(ターゲット)を用いかつ酸素ガスの導入量を制御したマグネトロンスパッタリング法により成膜したSiOx(1.5<x<2)膜が適用され、また、吸収膜層にはNi−Ti膜層が採用されている。
【0057】
尚、上記SiOx(1.5<x<2)膜層で構成される酸素欠損の酸化物誘電体膜層に係る成膜条件に関しては、SiOx膜の組成分析には技術的に困難が伴うため、SiOx膜における光学特性の測定により最終的に波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05となるよう成膜条件を制御する方法に依っている。
【0058】
また、Ni−Ti膜層で構成される金属吸収膜層の成膜条件に関しては、成膜材料の添加物や不純物、成膜時の残留ガス、基板からの放出ガスや成膜速度により、得られる金属吸収膜層の屈折率や消衰係数が大きく異なることがある。従って、Ni−Ti合金を成膜材料とし、かつ、酸素ガスの導入を停止すると共に、真空蒸着法、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法等のいずれかの物理気相成長法により成膜して得られた金属吸収膜層が、波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜となる条件を満たすように成膜条件を制御することを要する。
【0059】
上記金属吸収膜層の酸化を抑制するため、好ましくは上記吸収型多層膜の樹脂フィルム基板(PET)と接する膜についても、SiOx(1.5<x<2)膜から成る酸化物誘電体膜層で構成するとよい(表1参照)。
【0060】
また、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターにおいて、上記MgF膜層の成膜は、樹脂フィルム基板(PET)の両面とも空気側から2層目のSiOx膜までスパッタリングロールコータで成膜し、次いで大気中に取り出してから電子ビーム蒸着ロールコータにセットし直して両面にMgF膜層を成膜している。
【0061】
この様にMgF膜層を別プロセスにより成膜する場合、参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルターのように、Ni−Tiから成る金属吸収膜層が最表面にある状態でスパッタリングロールコータから取り出してしまうと、MgF膜層を成膜する間において金属吸収膜層表面から酸化が進行してしまう。
【0062】
従って、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターを製造する場合、空気側から2層目のSiOx膜層(すなわち、SiOxから成る最表面側の酸化物誘電体膜層)まで連続してスパッタリングロールコータで成膜し、金属吸収膜層を酸化の進行から防ぐ手段を施してから空気中に取り出すことが望ましい。
【0063】
ここで、樹脂フィルム基板を構成する材質は特に限定されないが、透明であるものが好ましく、量産性を考慮した場合、後述する乾式のスパッタリングロールコーティングが可能となるフレキシブル基板であることが好ましい。フレキシブル基板は、従来のガラス基板等に比べて廉価・軽量・変形性に富むといった点においても優れている。そして、上記基板を構成する樹脂フィルムの具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)およびノルボルネンの樹脂材料から選択された樹脂フィルムの単体、あるいは、上記樹脂材料から選択された樹脂フィルム単体とこの単体の片面または両面を覆うアクリル系有機膜との複合体が挙げられる。特に、ノルボルネン樹脂材料については、代表的なものとして、日本ゼオン社のゼオノア(商品名)やJSR社のアートン(商品名)等が挙げられる。
【0064】
次に、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例】
【0065】
はじめに、SiCおよびSiを主成分とするターゲットを成膜材料とし、かつ、樹脂フィルム基板には幅300mmにスリットした厚さ100μmのPETフィルムを用いると共に、成膜時に酸素ガスの導入量を制御し、得られたSiOx(1.5<x<2)膜の酸素導入量の変化による分光光学特性の変化を調べた。
【0066】
成膜にはスパッタリングロールコータ装置を用い、上記酸化物誘電体膜層を成膜するためのターゲットには、上述したようにSiCとSiを主成分とするターゲット(但し、SiC:Siは、重量比で70〜90%:30〜10%)、あるいは、高純度SiCから成るターゲットを用いた。
【0067】
排気ポンプにはターボ分子ポンプを用いた。SiCとSiを主成分とするターゲットを用い、デュアルマグネトロンスパッタリングでスパッタリングを行い、酸素ガス導入はインピーダンスモニターにより制御した。インピーダンス制御設定値が小さくなっているときほど、酸素ガスが多く導入されていることを示している。
【0068】
ここで、デュアルマグネトロンスパッタリングとは、絶縁膜を高速成膜するために、2つのターゲットに中周波(40kHz)パルスを交互に印加してアーキングの発生を抑制し、ターゲット表面に絶縁層の形成を防ぐスパッタリング方法である。
【0069】
また、インピーダンスモニターは、酸素導入量によってターゲット電極間のインピーダンスが変化する現象を応用し、形成する膜が金属モードと酸化物モードの間の遷移領域にある所望のモードの膜となるように、酸素導入量を制御かつモニターして酸化物誘電体膜層を高速成膜するために使用される。
【0070】
SiCとSiを主成分とする上記ターゲットを用い成膜して得られるSiOx膜は、成膜時の酸素分圧が高くなる(成膜時の酸素導入量が多くなる)につれて、SiOx膜におけるxの値が2に近づいていく(すなわち、SiO膜へ変化していく)。
【0071】
インピーダンス制御設定値が、36、38、40、42、44、46、48、49として成膜されたSiOx(1.5<x<2)膜の分光透過率を図1に示す。図1において、インピーダンス制御設定値が36、38、40、42、44、46、48、49の順に対応して、成膜されたSiOx膜の波長550nmにおける透過率が順に高くなっている。すなわち、インピーダンス制御設定値を36に設定して成膜されたSiOx膜の波長550nmにおける透過率が一番高く、インピーダンス制御設定値を49に設定して成膜されたSiOx膜の波長550nmにおける透過率が一番低くなっている。
【0072】
上記SiOx膜の物理的膜厚は約80nmである。また、SiOxの成膜時におけるインピーダンス制御設定値と、4kW入力時のカソード電圧およびSiOx膜の消衰係数を表2にそれぞれ示す。
【0073】
成膜時のインピーダンス制御設定値が38以下の時に、SiOx膜は目視にて透明に見える。更に、インピーダンス設定値が35より45のときは、同じ4kW入力時の成膜速度が約30%向上しているので、成膜時間(生産コスト)の削減も期待できる。
【0074】
【表2】

上記のようにインピーダンスモニターを用いて成膜中の酸素導入量を制御し、成膜時に導入する酸素ガスを減じることにより、波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05の酸化物誘電体膜層を得ることができる。
【0075】
尚、SiOx膜の消衰係数が0.05を超えると、成膜が完成した吸収型多層膜NDフィルターの可視波長域(波長400nm〜700nm)における最大透過率と最小透過率の差を平均透過率で割った値で定義される「分光透過特性のフラット性」を10%以下にすることが困難となる。特に、平坦な分光透過特性を得るためにはSiOx膜の消衰係数が0.03以下であることが望ましい。このような平坦な分光透過特性を有するSiOx膜を得るには、表2に示すデータから、波長550nmにおける消衰係数0.005〜0.03に対応させてインピーダンス制御設定値を37〜45に設定すればよい。
【0076】
次に、酸化物誘電体膜層の成膜時のインピーダンス制御設定値を40に設定して、表1の膜構造(表1中「C:本発明の構造」と表示)を有する本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターを得た。尚、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターは、空気側から2層目のSiOx膜層までをスパッタリングロールコータで成膜し、SiOxから成る最表面側の酸化物誘電体膜層上に位置するMgF膜層は電子ビーム蒸着ロールコータで成膜している。
【0077】
比較のため、参考例1に係る吸収型多層膜NDフィルター(表1中「A:参考例1の構造」と表示)と参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルター(表1中「B:参考例2の構造」と表示)も製造した。尚、参考例1に係る吸収型多層膜NDフィルターのSiOxから成る酸化物誘電体膜層(片面3層)とNi−Tiから成る金属吸収膜層(片面2層)は全層スパッタリングロールコータで成膜している。また、参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルターについては、SiOxから成る酸化物誘電体膜層(片面2層)とNi−Tiから成る金属吸収膜層(片面2層)までをスパッタリングロールコータで成膜し、Ni−Tiから成る最表面側の金属吸収膜層上に位置するMgF膜層は電子ビーム蒸着ロールコータで成膜している。
[分光透過特性および分光反射特性]
製造した本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターと、参考例1および参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルターの分光透過特性と分光反射特性を測定した。この測定結果を図2および図3のグラフ図に示す。
【0078】
図2のグラフ図に示された本発明に係る吸収型多層膜NDフィルター(図2中「C:本発明の構造」と表示)と、参考例1および参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルター(図2中「A:参考例1の構造」「B:参考例2の構造」とそれぞれ表示)の分光透過特性を比較するとほとんど差が無いことが確認される。
【0079】
ところが、図3のグラフ図に示された本発明に係る吸収型多層膜NDフィルター(図3中「C:本発明の構造」と表示)と、参考例1および参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルター(図3中「A:参考例1の構造」「B:参考例2の構造」とそれぞれ表示)の分光反射特性を比較すると、MgF膜層が最表面側に設けられた本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターと参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルターの反射率は、SiOx膜層が最表面側に設けられた参考例1に係る吸収型多層膜NDフィルターより大幅に低減している。これは、屈折率の低いMgF膜層が最表面側に設けられたことに起因している。
[耐環境性]
次に、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターと参考例1および参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルターを、85℃、90%に設定された環境試験機(エスペック社製)にそれぞれ置き、その耐環境性について調査した。
【0080】
そして、24時間後に各吸収型多層膜NDフィルターを環境試験機から取り出し、自記分光光度計(日本分光社製)により分光透過特性の測定を行なってその経時変化から耐環境性を調べた。
【0081】
この環境試験結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

表3に示された本発明に係る吸収型多層膜NDフィルター(表3中「C:本発明の構造」と表示)と、参考例1および参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルター(表3中「A:参考例1の構造」「B:参考例2の構造」とそれぞれ表示)の波長550nmにおける透過率の変化量ΔT(%)を比較すると、環境試験後の本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターと参考例1に係る吸収型多層膜NDフィルターは透過率の増加が小さい。これは、金属吸収膜層であるNi−Ti膜層をSiOxで被覆しているため、Ni−Ti膜層の酸化が進行し難かったためであると考えられる。
【0083】
一方、環境試験後の参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルター(表3中「B:参考例2の構造」と表示)は透過率の増加が大きい。これは、Ni−Ti膜層に接して最表面側に設けられたMgF膜に吸湿性があるためで、Ni−Ti膜層の酸化により消衰係数が低下したことによると考えられる。
【0084】
尚、環境試験後における反射率の変化量ΔR(%)に関しては、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターと参考例1および参考例2に係る吸収型多層膜NDフィルターのいずれにおいてもほとんど違いがないことが確認された。
【0085】
このように本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターのみが、可視波長域400〜700nmにおける分光反射率が低く、しかも環境試験による透過率の増加も少ないことが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターは低反射性に優れているため撮影画像にゴーストやフレアの発生が無く、更に、耐環境性にも優れているため厳しい環境下で長時間の信頼性を要求される小型で薄型のデジタルカメラ等に利用される産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて成る吸収型多層膜を具備する吸収型多層膜NDフィルターにおいて、
上記吸収膜層が金属膜から成る金属吸収膜層で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成されると共に、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が積層されていることを特徴とする吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項2】
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いた物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜により上記酸化物誘電体膜層が構成されると共に、物理気相成長法により成膜された波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜により上記金属吸収膜層が構成されていることを特徴とする請求項1に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項3】
可視波長域(波長400nm〜700nm)における最大透過率と最小透過率の差を平均透過率で割った値で定義される分光透過特性のフラット性が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項4】
可視波長域(波長400nm〜700nm)における最大反射率が1.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項5】
吸収型多層膜の基板と接する膜が上記酸化物誘電体膜層であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項6】
上記酸化物誘電体膜層の各膜厚が3nm〜150nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項7】
上記MgF膜層の膜厚が20nm〜150nmであり、かつ、最表面側の酸化物誘電体膜層とMgF膜層の合計膜厚が200nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項8】
上記金属吸収膜層を構成する金属膜がNi単体若しくはNi系合金から成ることを特徴とする請求項1または2に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項9】
上記Ni系合金が、Ti、Al、V、W、Ta、Siから選択された1種類以上の元素を添加したNi系合金であることを特徴とする請求項8に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項10】
Ti元素の添加割合が5〜15重量%であることを特徴とする請求項9に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項11】
Al元素の添加割合が3〜8重量%であることを特徴とする請求項9に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項12】
V元素の添加割合が3〜9重量%であることを特徴とする請求項9に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項13】
W元素の添加割合が18〜32重量%であることを特徴とする請求項9に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項14】
Ta元素の添加割合が5〜12重量%であることを特徴とする請求項9に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項15】
Si元素の添加割合が2〜6重量%であることを特徴とする請求項9に記載の吸収型多層膜NDフィルター。
【請求項16】
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、誘電体膜層と吸収膜層とを交互に積層させて成る吸収型多層膜を具備し、上記吸収膜層が金属膜から成る金属吸収膜層で構成され、誘電体膜層がSiOx(但しxは2未満)から成る酸化物誘電体膜層で構成されると共に、最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層が積層されている吸収型多層膜NDフィルターの製造方法において、
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いかつ酸素ガスの導入量を制御した物理気相成長法により波長550nmにおける消衰係数が0.005〜0.05のSiOx(1.5<x<2)膜から成る酸化物誘電体膜層を成膜する工程と、
酸素ガスの導入を停止した物理気相成長法により波長550nmにおける屈折率が1.5〜3.0かつ消衰係数が1.5〜4.0の金属膜から成る金属吸収膜層を成膜する工程と、
蒸着法またはウェットコーティング法により最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜する工程、
の各工程を有することを特徴とする吸収型多層膜NDフィルターの製造方法。
【請求項17】
物理気相成長法により最表面側の酸化物誘電体膜層を成膜した後、金属吸収膜層と酸化物誘電体膜層が積層された樹脂フィルムから成る上記基板を成膜装置から取り出し、次いで、蒸着法による成膜装置を用いて上記最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜するか、あるいは、ウェットコーティング法によるコーティング装置を用いて最表面側の酸化物誘電体膜層上にMgF膜層を成膜することを特徴とする請求項16に記載の吸収型多層膜NDフィルターの製造方法。
【請求項18】
長尺状の樹脂フィルム基板に対し、ロール・トウ・ロール方式により酸化物誘電体膜層と金属吸収膜層およびMgF膜層を成膜することを特徴とする請求項16または17に記載の吸収型多層膜NDフィルターの製造方法。
【請求項19】
樹脂フィルムから成る基板と接する膜を酸化物誘電体膜層としたことを特徴とする請求項16〜18のいずれかに記載の吸収型多層膜NDフィルターの製造方法。
【請求項20】
酸化物誘電体膜層の各膜厚を3nm〜150nmとしたことを特徴とする請求項16〜19のいずれかに記載の吸収型多層膜NDフィルターの製造方法。
【請求項21】
上記MgF膜層の膜厚が20nm〜150nmであり、かつ、最表面側の酸化物誘電体膜層とMgF膜層の合計膜厚が200nm以下であることを特徴とする請求項16〜20のいずれかに記載の吸収型多層膜NDフィルターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−224350(P2010−224350A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73397(P2009−73397)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】