説明

吸引装置、およびそれを備えた液滴吐出装置

【課題】吸引装置における吸引流路の洗浄を容易にする技術を提供すること。
【解決手段】吸引装置が、インクジェットヘッドのノズルに重なる凹部と、前記凹部を縁取っている基体と、前記凹部の底部に接続されていて、前記インクジェットヘッドのキャップ吸引が行われる場合に、前記凹部を介して前記ノズルから液状体を吸引する吸引機構と、前記凹部に重なる中空部と、前記中空部を縁取る底部と、前記底部の周囲を囲む側壁と、を有するとともに、前記基体上に位置する部材と、前記側壁を貫通する第1の貫通口であって、前記中空部を介して前記凹部に洗浄液を供給するための第1の貫通口と、前記側壁を貫通する第2の貫通口と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドからの液状体を受ける吸引装置、およびそれを備えた液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された装置は、インクジェットヘッドのノズルからインクを吸引する処理を行う。この処理はキャップ吸引とも呼ばれ、インクジェットヘッド内部の流路に生じた気泡を除去したり、インクジェットヘッドの流路内で増粘して付着した液状体を除去するのに効果的である。また、特許文献1によれば、インクジェットヘッドのフラッシングが、特許文献1の装置に対して行われることもある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−142422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工業用途で用いられるインクジェットヘッドでは、液体と液体中で分散された金属の粒子とを含有した液状体が用いられる場合がある。ところが、このような液状体は、吸引装置内の流路で詰まりやすい。また、コンシューマー用途の顔料系インクが用いられる場合にも、吸引装置内の流路の詰まりが生じることがある。これらの液状体を用いる場合には、頻繁に流路を洗浄することが望ましいが、従来の装置では吸引流路の洗浄には、手間がかかる。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされ、その目的の一つは、吸引装置における吸引流路の洗浄を容易にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、吸引装置が、インクジェットヘッドのノズルに重なる凹部と、前記凹部を縁取っている基体と、前記凹部の底部に接続されていて、前記インクジェットヘッドのキャップ吸引が行われる場合に、前記凹部を介して前記ノズルから液状体を吸引する吸引機構と、前記凹部に重なる中空部と、前記中空部を縁取る底部と、前記底部に接続されかつ前記底部の周囲を包囲する側壁と、を有するとともに、前記基体上に位置する部材と、前記側壁を貫通する第1の貫通口であって、前記中空部を介して前記凹部に洗浄液を供給するための第1の貫通口と、前記側壁を貫通する第2の貫通口と、を備えている。
【0007】
他の態様では、前記中空部を介して前記洗浄液が供給された場合に、前記吸引機構は前記洗浄液を吸引する。
【0008】
上記吸引装置が、前記凹部に収まったスポンジ体をさらに備えている。そして、前記キャップ吸引が行われる場合に、前記吸引機構は、前記スポンジ体を介して前記液状体を吸引し、前記洗浄液が供給される場合に、前記吸引機構は、前記スポンジ体を介して前記液状体を吸引する。
【0009】
本発明のある態様によれば、液滴吐出装置が、ノズルを有したインクジェットヘッドと、前記ノズルから液状体を受ける吸引装置と、を備えている。そして、前記吸引装置は、前記ノズルに重なる凹部と、前記凹部を縁取っている基体と、前記凹部の底部に接続されていて、前記インクジェットヘッドのキャップ吸引が行われる場合に、前記凹部を介して前記ノズルから液状体を吸引する吸引機構と、前記凹部に重なる中空部と、前記中空部を縁取る底部と、前記底部に接続されかつ前記底部の周囲を包囲する側壁と、を有するとともに、前記基体上に位置する部材と、前記側壁を貫通する第1の貫通口であって、前記中空部を介して前記凹部に洗浄液を供給するための第1の貫通口と、前記側壁を貫通する第2の貫通口と、を有している。
【0010】
上記構成によれば、吸引装置が、凹部に洗浄液を供給するための第1の貫通口を備えているので、第1の貫通口の作用によって凹部への洗浄液の供給が容易になり、そしてこの結果、吸引装置における吸引流路の洗浄が容易になる。また、吸引装置が第1の貫通口に加えて第2の貫通口を有しているので、洗浄液が吸引装置から溢れ出す惧れがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(A.インクジェットヘッド)
吸引装置の説明に先立って、吸引装置の構造の理解を容易にする目的で、インクジェットヘッド80の説明をする。
【0012】
図1に示すインクジェットヘッド80は、インクジェットヘッド80の外部に対面するノズルプレート81と、複数のキャビティ(不図示)と、ノズルプレート81を貫通してそれぞれのキャビティ(不図示)に繋がっている複数のノズル82と、それぞれのノズル82から液状体を吐出させる複数の吐出素子(不図示)と、を備えている。複数のノズル82は、ノズルプレート81上で、互いに平行かつ隣り合った2つのノズル列を構成している。
【0013】
このような構成を有するインクジェットヘッド80は、図示しない駆動回路からの信号に応じて、複数のノズル82のうちの任意のノズル82から、液状体の液滴を吐出する。なお、ノズル82から吐出されることになる液状体は、図示しない外部タンクからインクジェットヘッド80のキャビティに供給される。
【0014】
(B.吸引装置)
図2および図3を参照しながら、吸引装置1を説明する。図2は吸引装置1の分解斜視図であり、図3は吸引装置1の主要部分に対応した断面図である。
【0015】
吸引装置1は、基体2と、2つのスポンジ体3a、3bと、ストッパー4と、ストッパー4上に位置した部材5と、管状部6(図3)と、管状部6に連結された吸引機構7と、管状部8(図3)と、管状部8に連結された大気圧開放弁9と、台座12と、台座12と基体2との間に位置した弾性体12aと、部材5に設けられた貫通口30a,30bと、貫通口30aに連結された管状部31と、貫通口30bに連結された管状部32と、供給機構33と、を備えている。
【0016】
基体2は、凹部2aを縁取っている。凹部2aは、ノズルプレート81が接近する側が開いている。そして、凹部2aは、ノズル82に重なるように構成されている。なお、基体2は「キャップベース」とも呼ばれる。
【0017】
2つのスポンジ体3a,3bは、凹部2aに収まっている。一方、ストッパー4は、基体2上に位置している。また、ストッパー4は、凹部2aの開口の一部に重なるように構成されている。そして、ストッパー4と凹部2aの一部とが互いに重なっていることで、ストッパー4は、スポンジ体3a、3bが凹部2aから飛び出すことを防ぐ。なお、ストッパー4は凹部2aの開口の一部に重なるに過ぎず、このため、ノズル82から凹部2aへの液状体の流れが妨げられることはない。
【0018】
部材5は、基体2上と、ストッパー4上と、に亘って位置している。部材5は、ゴムなどの弾性部材から構成されている。図3に示すように、このような部材5は、底部5aと、底部5aに縁取られた中空部CAと、底部5aに接続されていて底部5aの周囲を包囲する側壁5cと、を有している。また、底部5aの一部は、環状封止部5bを構成している。そして、この環状封止部5bが中空部CAを包囲している。さらに、部材5は、中空部CAが凹部2aに重なるように、基体2に対して位置決めされている。なお、環状封止部5bの表面は、撥液性を有するように処理されている。
【0019】
吸引装置1が、キャップ吸引(後述)を行う場合には、環状封止部5bがノズルプレート81に押し当てられる。ここで、環状封止部5bがノズルプレート81に押し当てられると、ノズル82と、凹部2aと、の間の空間が環状封止部5bによって封止される。この際、ノズル82の全てが、中空部CAに対面することになる。なお、中空部CAは「キャップ範囲」とも表記される。
【0020】
図3に示すように、貫通口30aと貫通口30bとは、どちらも側壁5cを貫いている。しかも、本実施形態では、2つの貫通口30aと、貫通口30bとは、側壁5c上で、互いに対面するように位置している。また、本実施形態では、貫通口30aの高さは、貫通口30bの高さよりも高い。
【0021】
管状部31は、洗浄液(後述)が流れる流路を縁取っている。そして、管状部31の一端は、側壁5cの外側にて貫通口30aに連結されていて、他端は、供給機構33に連結されている。供給機構33は、洗浄液が蓄えられた供給タンクと、供給ポンプと、を有している(どちらも不図示)。そして、このような構成によって、供給機構から洗浄液が、貫通口30aを介して底部5aに供給される。底部5aに供給された洗浄液は、環状封止部5bを乗り越えて、中空部CAを介して凹部2aに流れ込むことになる。そしてこのため、凹部2a内の表面と、凹部2aに収まったスポンジ体3a,3bと、が洗浄される。
【0022】
管状部32も、洗浄液が流れる流路を縁取っている。そして、管状部32の一端は、側壁5cの外側にて貫通口30bに連結されている。また、管状部32の他端は、図示しない廃液タンクに連結されている。このように、側壁5cに貫通口30bが位置しているので、たとえ貫通口30aから過剰量の洗浄液が供給されても、貫通口30bから排出されるので、洗浄液が部材5から溢れ出さない。
【0023】
図3に示すように、管状部6は、吸引装置1において流路6Hを縁取る部分である。管状部6に縁取られた流路6Hは、入口部6aを介して凹部2aに接続されている。本実施形態の管状部6は、凹部2aの底部に開いた入口部6aと、入口部6aに接続されているとともに基体2を貫通している貫通部6bと、基体2の底部にて貫通部6bに連結された吸引管6cと、を有している。さらに、吸引管6cは、吸引機構7(図2)に連結されている。
【0024】
ここで、図3に示すように、入口部6aから続く貫通部6bは、凹部2aの底部からほぼ垂直方向に基体2を貫通している。ただし、本実施形態では、液状体または洗浄液(後述)が入口部6aに達した場合でも、吸引機構7の吸引動作が行われる場合以外では、液状体も洗浄液も貫通部6bに流れ落ちない。これは、流路6Hが、入口部6aを除いて封止されていることと、入口部6aの径が十分小さくて表面張力が液状体または洗浄液の入口部6aへの落下を防ぐことと、に起因する。
【0025】
吸引機構7(図2)は、吸引ポンプと、吸引タンクと、を備えている(どちらも不図示)。そして、吸引機構7の吸引動作が行われると、液状体または洗浄液が吸引される。吸引された液状体または洗浄液は、流路6Hを通って吸引タンクに達する。
【0026】
なお、本明細書では、吸引機構7の吸引動作によって液状体または洗浄液が流れる流路が「吸引流路」として定義されている。この定義によれば、本実施形態の「吸引流路」は、凹部2aと、管状部6が縁取る流路6Hと、を含む。
【0027】
管状部8は、空気が通る通気口8Hを縁取る部分である。管状部8に縁取られた通気口8Hは、孔8aを介して凹部2aに接続されている。図3に示すように、本実施形態の管状部8は、凹部2aの底部に開いた孔8aと、孔8aに接続されているとともに基体2を貫通している貫通部8bと、基体2の底部にて貫通部8bに連結された通気管8cと、を有している。さらに、通気管8cは、大気圧開放弁9の一端に連結されている。大気圧開放弁9の他端は、開閉可能な弁を介して大気圧雰囲気に開放されている。通常、大気圧開放弁9は閉じられている。ただし、キャップ吸引が終了した後で、ノズルプレート81を環状封止部5bから離す場合に、大気圧開放弁9が開放される。
【0028】
弾性体12aは、本実施形態では金属バネである。基体2が台座12側へ押される場合に、弾性体12aの弾性力によって、環状封止部5bがノズルプレート81へ押し付けられる。そして、環状封止部5bがノズルプレート81へ押し付けられると、環状封止部5bによって、ノズル82との凹部2aと間の空間が封止される。
【0029】
本実施形態の液状体は、水と、銀のナノ粒子と、を含有していて、具体的には液状体は、水をベースにした銀コロイドである。この液状体において、液状体に流動性を与えている主成分は、水である。一方、洗浄液は、水とグリセリンとの混合物である。洗浄液は水だけでもよい。ただし、グリセリンは保湿作用を有するので、洗浄液が水に加えてグリセリンを含有すれば、吸引流路の乾燥を防ぐことができる。
【0030】
ここで、洗浄液が含む液体は、1)液状体に含有されている機能性材料を、溶質として溶解する液体(つまり狭義の溶媒)、2)機能性材料をコロイド状態にするための液体、3)液状体に含有されている機能性材料を、粒子として分散する液体(つまり狭義の分散媒)、4)機能性材料を膨潤させる液体、5)液状体に流動性を与えている主成分と同じ成分、のうちの少なくとも一つであり得る。さらに、洗浄液は、このような液体に加えて界面活性剤を含んでいてもよい。また、洗浄液が、界面活性剤であってもよい。
【0031】
機能性材料は、本実施形態の場合、上述の銀のナノ粒子である。ただし、他の実施形態では、PEDOT/PSSなどの他の導電性材料であってもよいし、絶縁性材料でもあってもよいし、または半導体材料であってもよい。さらに、機能性材料は、顔料であってもよい。機能性材料が顔料の場合には、典型的な顔料は、液状体においてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、または2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルアセテートに分散されているので、この場合の洗浄液は、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、または2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルアセテートを含有すればよい。
【0032】
(C.キャップ吸引)
図4を参照しながら、吸引装置1が行うキャップ吸引を説明する。まず、インクジェットヘッド80のノズル82と、凹部2aとが、互いに重なるように、吸引装置1に対してインクジェットヘッド80を位置させる。そして、環状封止部5bによって、ノズル82と、凹部2aと、の間の空間が封止されるように、インクジェットヘッド80および吸引装置1の少なくとも一方を他方に対して押し付ける。
【0033】
環状封止部5bによって、ノズル82と、凹部2aと、の間の空間が封止されている場合に、吸引機構7(図2)の吸引動作が開始される。そうすると、吸引機構7は、ノズル82から液状体を強制的に吸引する。吸引された液状体は、吸引流路を流れて吸引タンクに達する。より具体的には、ノズル82からの吸引された液状体は、凹部2aに落ちて管状部6の入口部6aに導かれる。そして、液状体は、管状部6に縁取られた流路6Hを通り、吸引タンクに達する。
【0034】
このようなキャップ吸引によって、インクジェットヘッド80内の流路に貯まった液状体がインクジェットヘッド80の外部へ、ノズル82から強制的に吸引される。そしてこのため、インクジェットヘッド80の流路内から気泡が取り除かる。また、増粘してノズル82内に付着した液状体がノズル82内から取り除かれる。
【0035】
キャップ吸引後、ノズルプレート81を環状封止部5bから離して、ノズル82と、凹部2aと、の間の空間を開放する。そして、後出の「E.吸引流路の洗浄」において説明する手順にしたがって、吸引装置1の吸引流路を洗浄する。
【0036】
(D.フラッシング)
図5を参照しながら、インクジェットヘッド80が行うフラッシングを説明する。フラッシングには、基本的に次の2通りがある。
【0037】
(D1.フラッシング1)
まず、ノズル82と、凹部2aとが、互いに重なるように、吸引装置1に対してインクジェットヘッド80を位置させる。この場合、上述のキャップ吸引の場合とは異なり、ノズル82と、凹部2aと、の間の空間は封止されない。また、本実施形態では、フラッシングを始める前に、洗浄液は凹部2aに貯まっていない。
【0038】
次に、インクジェットヘッド80がフラッシングを開始する。具体的には、液状体が吐出されるようにインクジェットヘッド80が駆動される。吐出された液状体は凹部2aに落ちることになる。本実施形態では、1回のフラッシングの期間中の吐出回数は、1つのノズル82当り約100回である。ここで、フラッシングが行われる期間に亘って、吸引機構7の吸引動作は停止している。このため、ノズル82からの液状体は、凹部2aに貯まっていく。
【0039】
フラッシングが終了したら、ノズル82と、凹部2aと、の間の空間が開放されたままで、供給機構33の供給動作が始まる。そうすると、開口部CAを介して凹部2aへ洗浄液が供給されるように、貫通口30aから底部5aへ洗浄液が流れ出す。洗浄液の供給は、凹部2aに規定量の洗浄液が貯まるまで続く。なお、本実施形態では、洗浄液が供給される期間に亘って、吸引機構7の吸引動作は停止したままである。
【0040】
規定量の洗浄液が凹部2aに貯まったら、吸引機構7の吸引動作が始まる。そうすると、凹部2aに貯まった洗浄液が液状体とともに吸引されて、洗浄液と液状体とが凹部2aから排出される。本実施形態の洗浄液は、液状体が含有する機能性材料を取り込む液体を含有しているので、液状体が流路6Hを流れやすい。このため、液状体が流路6H内に残留することが少なくなり、この結果、流路6Hが詰まる可能性が低下する。
【0041】
(D2.フラッシング2)
「フラッシング2」では、すでに洗浄液が貯まった凹部2aに対してインクジェットヘッド80がフラッシングを行う。ただし、この点を除くと、「フラッシング2」は基本的に上述の「フラッシング1」と同じである。
【0042】
まず、凹部2aに規定量の洗浄液が貯まるように、供給機構33の供給動作が行われる。また、ノズル82と、凹部2aと、が互いに重なるように、吸引装置1に対してインクジェットヘッド80を位置させる。次に、インクジェットヘッド80がフラッシング2を開始する。そうすると、凹部2aに、ノズル82からの液状体が貯まっていく。フラッシング2が終了したら、吸引機構7の吸引動作が始まる。そうすると、凹部2aに貯まった液状体が洗浄液とともに吸引されて、液状体と洗浄液とが凹部2aから排出される。
【0043】
フラッシング2によれば、フラッシングが始まる前に凹部2aに洗浄液が貯まっている。このため、凹部2a内部の表面に液状体の成分がこびり付いてしまう可能性が小さくなる。また、「フラッシング2」によっても、「フラッシング1」と同様に、液状体が吸引流路を流れやすい。このため、液状体が吸引流路内に残留することが少なくなり、この結果、吸引流路が詰まる可能性が低下する。
【0044】
(E.吸引流路の洗浄方法)
図6から図8を参照しながら、吸引装置1が行う吸引流路の洗浄方法を説明する。
【0045】
まず、凹部2aが開放されるように、ノズルプレート81を環状封止部5bから離す。そして、図6に示すように、供給機構33の供給動作を開始する。そうすると、貫通口30aから底部5aへ洗浄液が流れ込み、そしてさらに、中空部CAを介して凹部2aへ洗浄液が供給される。洗浄液の供給は、凹部2aに第1の所定量の洗浄液が貯まるまで続けられる。本実施形態では、洗浄液が供給され始める時点から凹部2aに第1の所定量の洗浄液が貯まる時点まで、吸引機構7の吸引動作は停止されている。このため、供給された洗浄液は流路6Hを通らない。
【0046】
凹部2aに第1の所定量の洗浄液が貯まると、凹部2aに収められた2つのスポンジ体3a,3bが、洗浄液にまんべんなく浸される。また、凹部2aの隅々にまで洗浄液が行き渡る。結果として、2つのスポンジ体3a,3bに残留している液状体の成分と、凹部2a内の表面に残留している液状体の成分と、が洗浄液に溶解されたり、洗浄液に取り込まれる。
【0047】
図7に示すように、第1の所定量の洗浄液が凹部2aに貯まったら、洗浄液が流路6Hを通るように、吸引機構7の吸引動作を開始する。そうすると、2つのスポンジ体3a,3bと、凹部2aの表面と、に残留している液状体の成分が、流路6Hを介して排出される。しかも、流路6Hに残留している液状体の成分も洗い流される。このようにして、吸引装置1における吸引流路が洗浄される。なお、第1の所定量の洗浄液が凹部2aに貯まったか否かは、供給機構33が洗浄液を供給した時間に基づいて判断されてよい。
【0048】
次に、図8に示すように、凹部2aの洗浄液の量が第2の所定量未満になった時点で、吸引機構7の吸引動作を停止する。一方で、供給機構33の供給動作は続けられる。再び、凹部2aに第1の所定量の洗浄液が貯まったら、以降、吸引機構7の吸引動作は、上述と同様に、開始と停止とを繰り返す。このことから、本実施形態では、吸引機構7の吸引動作が行われる場合には、凹部2a内の洗浄液の量が、第2の所定量以上かつ第1の所定量以下になっているとも言える。ここで、第2の所定量は、第1の所定量未満の量である。
【0049】
本実施形態によれば、第1の所定量の洗浄液が凹部2aに貯まる。このため、凹部2a内部と、2つのスポンジ体3a,3bと、のうちの広範囲が洗浄液に浸されるので、広範囲が洗浄されることになる。さらに、洗浄液の吸引が始まる時点で、第2の所定量以上の洗浄液が凹部2aに貯まっているので、凹部2aに貯まった洗浄液が吸引される際に、洗浄液が流路6Hを連続的に流れる。このため、流路6Hが効率よく洗浄される。
【0050】
しかも、第2の所定量以上の洗浄液を凹部2aに貯めることと、貯められた洗浄液を吸引することと、を繰り返すので、吸引流路に残留した液状体の成分を洗い流せる可能性がさらに高くなる。
【0051】
さらに、本実施形態では、側壁5cに貫通口30bが設けられているので、洗浄液が部材5から溢れ出ることがない。このことから、吸引流路の洗浄中に、洗浄液が吸引装置1から溢れ出ることがない。
【0052】
(F.液滴吐出装置)
図2の吸引装置1を備えた液滴吐出装置を説明する。
【0053】
図9の液滴吐出装置20は、基本的にはインクジェット装置である。具体的には、液滴吐出装置20は、液状体を保持するタンク20aと、グランドステージ21と、吐出ヘッド部22と、ステージ23と、第1位置制御装置24と、第2位置制御装置25と、第3位置制御装置26と、制御部(不図示)と、支持部24aと、複数の吸引装置1と、を備えている。
【0054】
吐出ヘッド部22は、キャリッジ(不図示)と、キャリッジに固定された複数のインクジェットヘッド80と、を備えている。複数のインクジェットヘッド80のそれぞれは、ノズルプレート81(図1)がステージ23側を向くように配向されている。インクジェットヘッド80は、制御部からの信号に応じて、液状体の液滴を吐出する。なお、吐出ヘッド部22におけるインクジェットヘッド80は、チューブによってタンク20aに連結されており、このため、タンク20aからインクジェットヘッド80に液状体が供給される。
【0055】
ステージ23は基板27を固定するための平面を有している。さらにステージ23は、吸引力を用いて基板27の位置を固定する機能も有する。
【0056】
第1位置制御装置24は、支持部24aによって、グランドステージ21から所定の高さの位置に固定されている。この第1位置制御装置24は、制御部からの信号に応じて、吐出ヘッド部22をX軸方向と、X軸方向に直交するZ軸方向と、に沿って移動させる機能を有する。さらに、第1位置制御装置24は、Z軸に平行な軸の回りで吐出ヘッド部22を回転させる機能も有する。ここで、本実施形態では、Z軸方向は、垂直方向(つまり重力加速度の方向)に平行な方向である。
【0057】
第2位置制御装置25は、制御部からの信号に応じて、ステージ23をグランドステージ21上でY軸方向に移動させる。ここで、Y軸方向は、X軸方向およびZ軸方向の双方と直交する方向である。
【0058】
上記のような機能を有する第1位置制御装置24の構成と第2位置制御装置25の構成とは、リニアモータやサーボモータを利用した公知のXYロボットを用いて実現できる。このため、ここでは、それらの詳細な構成の説明を省略する。なお、本明細書では、第1位置制御装置24および第2位置制御装置25を、「ロボット」または「走査部」とも表記する。
【0059】
複数の吸引装置1は、第3位置制御装置26の支持部(後述)上に配置されている。ここで、吸引装置1の数と、インクジェットヘッド80の数とは、同じである。そして、支持部上での複数の吸引装置1の間の位置関係と、キャリッジ上での複数のインクジェットヘッド80の間の位置関係と、は同じであり、そしてこのため、それぞれの吸引装置1が、それぞれのインクジェットヘッド80に、同時に重なり得る。
【0060】
なお、複数の吸引装置1はいずれも同じなので、以下では、1つの吸引装置1に着目して説明する。
【0061】
吸引装置1は、凹部2aがインクジェットヘッド80のノズルプレート81側を向くように、配向されている。そして、第1位置制御装置24の機能によってインクジェットヘッド80が移動することで、ノズル82と凹部2aとが重なるように、吸引装置1は位置している。ただし、第1位置制御装置24の機能によってノズル82と凹部2aとが重なった場合でも、ノズルプレート81と、吸引装置1における環状封止部5bと、の間に所定のギャップが存在するよう構成されている。
【0062】
第3位置制御装置26は、吸引装置1を載せる支持部(不図示)と、支持部をZ軸方向に移動させることで吸引装置1をZ軸方向に移動させる昇降機(不図示)と、を備えている。このような構成を有する第3位置制御装置26は、ノズル82と、凹部2aと、の重なりを維持しながら、吸引装置1を上昇または下降させる。そして吸引装置1を上昇させることで、環状封止部5bがノズルプレート81に押し付けられる。
【0063】
本実施形態によれば、液滴吐出装置20が吸引装置1を備えている。吸引装置1の吸引流路の洗浄は、上述の通り容易なので、吸引流路の詰まりの頻度を抑えることが容易である。そしてこのため、インクジェットヘッド80のキャップ吸引およびフラッシングが、支障をきたすことなく行われる。
【0064】
さらに、液滴吐出装置20において、吸引装置1が次のように用いられてもよい。
【0065】
まず、洗浄液の表面レベルが環状封止部5bの高さよりも高くなる程度に、貫通口30aを介して凹部2a内に洗浄液を貯める。このように洗浄液を貯めたうえで、ノズル82と凹部2aとのお互いの重なりを維持しながら、ノズルプレート81と環状封止部5bとを接しさせる。このようにすれば、ノズルプレート81が洗浄液に浸される。この結果、ノズル82が洗浄液に覆われるので、ノズル82内部の乾燥が防がれる。
【0066】
このようにノズルプレート81を洗浄液に浸せば、インクジェットヘッド80を冷却することができる。インクジェットヘッド80からの液状体の吐出は、高温の雰囲気下で行われることがある。ところが、インクジェットヘッド80の温度が所定の温度範囲を超えて高くなると、吐出される液状体の体積が設定値から外れてしまう。しかしながら、吸引装置1を用いれば、上述のようにインクジェットヘッド80を冷却できる。
【0067】
なお、上述の説明において、ノズルプレート81を環状封止部5bに接しさせることと、凹部2a内に洗浄液を貯めることとの順序は、逆でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施形態で用いられるインクジェットヘッドの模式図。
【図2】本実施形態の吸引装置の分解斜視図。
【図3】本実施形態の吸引装置の部分断面を示す模式図。
【図4】本実施形態の吸引装置が行うキャップ吸引を示す模式図。
【図5】本実施形態のインクジェットヘッドが行うフラッシングを示す模式図。
【図6】本実施形態の吸引流路を洗浄する様子を示す模式図。
【図7】本実施形態の吸引流路を洗浄する様子を示す模式図。
【図8】本実施形態の吸引流路を洗浄する様子を示す模式図。
【図9】本実施形態の液滴吐出装置の斜視図。
【符号の説明】
【0069】
1…吸引装置、2…基体、2a…凹部、3a,3b…スポンジ体、4…ストッパー、5…部材、5a…底部、5b…環状封止部、5c…側壁、6…管状部、6H…流路、6a…入口部、6b…貫通部、6c…吸引管、7…吸引機構、8…管状部、8a…孔、8b…貫通部、8c…通気管、8H…通気口、9…大気圧開放弁、12…台座、20…液滴吐出装置、21…グランドステージ、20a…タンク、22…吐出ヘッド部、23…ステージ、24…第1位置制御装置、24a…支持部、25…第2位置制御装置、26…第3位置制御装置、27…基板、30a,30b…貫通口、31,32…管状部、33…供給機構、80…インクジェットヘッド、81…ノズルプレート、82…ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドのノズルに重なる凹部と、
前記凹部を縁取っている基体と、
前記凹部の底部に接続されていて、前記インクジェットヘッドのキャップ吸引が行われる場合に、前記凹部を介して前記ノズルから液状体を吸引する吸引機構と、
前記凹部に重なる中空部と、前記中空部を縁取る底部と、前記底部に接続されかつ前記底部の周囲を包囲する側壁と、を有するとともに、前記基体上に位置する部材と、
前記側壁を貫通する第1の貫通口であって、前記中空部を介して前記凹部に洗浄液を供給するための第1の貫通口と、
前記側壁を貫通する第2の貫通口と、
を備えた吸引装置。
【請求項2】
請求項1記載の吸引装置であって、
前記中空部を介して前記洗浄液が供給された場合に、前記吸引機構は前記洗浄液を吸引する、
吸引装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の吸引装置であって、
前記凹部に収まったスポンジ体をさらに備え、
前記キャップ吸引が行われる場合に、前記吸引機構は、前記スポンジ体を介して前記液状体を吸引し、
前記洗浄液が供給される場合に、前記吸引機構は、前記スポンジ体を介して前記液状体を吸引する、
吸引装置。
【請求項4】
ノズルを有したインクジェットヘッドと、
前記ノズルから液状体を受ける吸引装置と、
を備えた液滴吐出装置であって、
前記吸引装置は、
前記ノズルに重なる凹部と、
前記凹部を縁取っている基体と、
前記凹部の底部に接続されていて、前記インクジェットヘッドのキャップ吸引が行われる場合に、前記凹部を介して前記ノズルから液状体を吸引する吸引機構と、
前記凹部に重なる中空部と、前記中空部を縁取る底部と、前記底部に接続されかつ前記底部の周囲を包囲する側壁と、を有するとともに、前記基体上に位置する部材と、
前記側壁を貫通する第1の貫通口であって、前記中空部を介して前記凹部に洗浄液を供給するための第1の貫通口と、
前記側壁を貫通する第2の貫通口と、
を有している、
液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−142653(P2008−142653A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334153(P2006−334153)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】