説明

吸放湿用材料

【課題】吸水性の経時的劣化が効果的に抑制されているとともに保形性(特に折り目加工適性)に優れた吸放湿用材料を提供する。
【解決手段】吸水性繊維質材料1及びその両面に積層された形状保持性繊維質材料2を含む積層体に樹脂成分が前記吸湿性繊維質物質100重量部に対して2〜20重量部含まれていることを特徴とする吸放湿用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸放湿用材料に関する。より具体的には、加湿器等のフィルター(濾材)として使用される材料に関する。
【背景技術】
【0002】
加湿器は、ビル、家屋等における室内の湿度を上げたり、維持するために用いられる装置であり、各種業務用から一般家庭用まで種々のタイプの装置が市販されている。加湿するための方法(方式)としては、例えば気化式、噴霧式、蒸気式等のいろいろなものが知られている。とりわけ、気化式は、常温の水を気化できることから、多くの加湿器に採用されている。気化式による加湿にあっては、常温の水をフィルターに吸水させ、そのフィルターが通気されることにより、吸水された水分が大気中に放湿されることになる。
加湿器に使用されるフィルターには吸水性はもとより、保形性も要求される。すなわち、加湿器のエレメントとして搭載可能となるためには、フィルターとして特定の形状を維持するのに十分な剛性が必要となる。
【0003】
これに関し、これまで様々なフィルターが開発されている。例えば、熱可塑性樹脂からなる基材層(X)、接着性樹脂からなる接着層(Y)並びに吸水層(Z)がこの順序で少なくとも3層に積層されてなる積層シ−トであつて、前記吸水層(Z)が、熱可塑性吸水樹脂を溶融紡糸した繊維からなる不織布(a)、熱可塑性樹脂を溶融紡糸した繊維からなる不織布(b)、不織布(a)と不織布(b)とを接着してなる複合不織布(c)、不織布(a)又は不織布(b)に熱可塑性吸水樹脂からなる吸水シ−ト(d)及び/又は発泡剤を含む熱可塑性吸水樹脂からなる発泡シ−ト(e)を接着してなる層、及び複合不織布(c)に吸水シ−ト(d)もしくは発泡シ−ト(e)とを接着してなる層よりなる群から選ばれる少なくと1種である保水性積層シ−トがある(特許文献1)。また、熱接着性繊維と吸水性繊維とを含む熱接着性不織布を基材とし、この基材に親水性多孔質微粉末と抗菌剤とを配合した合成樹脂エマルジョンを含浸することにより、前記親水性多孔質微粉末と抗菌剤とが合成樹脂を介して基材に付着していることを特徴とする加湿器用気化促進材が知られている(特許文献2)。また例えば、網状構造物の片面または両面に繊維ウエブを一体化した複合体であって、該繊維ウエブはセルロース繊維を30重量%以上含有し、前記複合体は保水量が250g/m
以上、通気度が50〜700cm/cm・sec、湿潤時の圧縮強度が0.1N/5cm以上であることを特徴とする吸放湿性材料が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−318587
【特許文献2】実用登録新案第3001285号
【特許文献3】特開2004−250839
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来技術における材料は、吸水性(吸湿性)と保形性とを十分に両立させるという点においてはさらに改善する余地が残されている。
【0006】
特に、レーヨンをはじめとする吸水性材料は、含水時に寸法変化及び剛軟度(剛性)低下を起こすことが知られている。これらを防止するために一般的には硬仕上げ目的で樹脂加工が行われるものの、折り目加工適性を付与しようとすれば相応の樹脂成分を含浸させることが必要である。ここに、折り目加工適性とは、例えば吸水材料を加湿器に装填する場合のように、加熱下で吸水材料に折り目を付ける加工を施して蛇腹状シート(段ボール状)等に成形し、冷却後にその折り目を付けた形態を実質的に維持できる性質をいう。この折り目加工適性は、吸水材料にとっては、工業的には吸水性と同じくらい重要な特性である。折り目加工適性が不足ないしは欠落している場合は、所望の形状に加工することができず、たとえ吸水性が優れていたとしても実用に供することができない。
【0007】
このような見地より、折り目加工適性が発揮できるのに十分な量の樹脂成分を含浸させることが吸水材料にとって必要不可欠になっている。ところが、本発明者の研究によれば、従来の吸水材料では吸放湿の繰り返しに伴ってその吸水性が経時的に大きく低下するところ、その原因が多量の樹脂成分の使用にあることを突き止めている。すなわち、樹脂使用量が比較的多い従来品では、たとえ初期の吸水性が良好であったとしても、経時的に急激に吸水性が低下していまうという問題がある。
【0008】
従って、本発明の主な目的は、吸水性の経時的劣化が効果的に抑制されているとともに保形性(特に折り目加工適性)に優れた吸放湿用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の積層体に所定量の樹脂成分を含浸させることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の吸放湿用材料に係る。
1. 吸水性繊維質材料及びその両面に積層された形状保持性繊維質材料を含む積層体に樹脂成分が前記吸湿性繊維質物質100重量部に対して2〜20重量部含まれていることを特徴する吸放湿用材料。
2. 吸水性繊維質材料が当該材料の一方の平面から他方の平面にわたって管状に貫通する貫通穴を1又は2以上有する、前記項1に記載の吸放湿用材料。
3. 吸水性繊維質材料の平面上における貫通穴の総面積の占める割合が20〜80%である、前記項2に記載の吸放湿用材料。
4. 貫通穴の1つ当たりの平均面積が0.5〜2mmである、前記項2に記載の吸放湿用材料。
5. 吸水性繊維質材料がレーヨン繊維を含む不織布である、前記項1に記載の吸放湿用材料。
6. 形状保持性繊維質材料が、繊度の異なる長繊維層を複数重ね合わせた構造を有するポリエステル不織布である、前記項1に記載の吸放湿用材料。
7. 加湿器の吸放湿材として使用される、前記項1に記載の吸放湿用材料。
8. 前記項1に記載の吸放湿材料が折り曲げ加工されてなる成形体。
9. 前記項1に記載の吸放湿材料が折り曲げ加工されてなる成形体が基材上に設けられてなる加湿器用エレメント。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸放湿用材料によれば、特定の構成を有する積層体に所定量の樹脂成分を含有させているので、吸放湿の繰り返しに伴う吸水性の経時的な低下を効果的に抑制ないしは防止することができると同時に、優れた形状保持性、折り目加工適性等を発揮することができる。特に、形状保持層/吸水層/形状保持層の3層構造からなる場合は、これらの吸水性、形状保持性、折り目加工適性等をより確実に得ることができる。
【0012】
このような特長をもつ吸放湿用材料は、加湿器のフィルター(濾材)をはじめとして、例えば熱交換器用エレメント、建材、農業用シート、日用品(消臭剤、芳香剤等の気化フィルター材)等の様々な分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の吸放湿用材料の模式図を示す。図1(a)は断面図、図1(b)は平面図である。
【図2】本発明の吸放湿用材料の模式図を示す。図1(a)は断面図、図1(b)は平面図である。
【図3】実施例等における折り目加工適性試験の手順を示す模式図である。
【図4】実施例等における折り目加工適性試験のサンプル配置方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の吸放湿用材料(本発明材料)は、吸水性繊維質材料及びその両面に積層された形状保持性繊維質材料を含む積層体に樹脂成分が前記吸湿性繊維質物質100重量部に対して2〜20重量部含まれていることを特徴とする。
【0015】
図1は、本発明材料の一例を示す模式図である。図1(a)は側面(断面)から見た図である。図1(b)は吸湿性繊維質材料の平面図である。図1(a)に示すように、本発明材料は、吸湿性繊維質材料1(以下「吸水層」ともいう。)の両面に形状保持性繊維質材料2,2(以下「形状保持層」ともいう。)が積層された積層体に樹脂成分(図示せず)が前記所定量さらに含まれている。図1の材料では、形状保持層は、吸水層の両面に隙間なく積層されている。換言すれば、吸湿性繊維質材料又は形状保持性繊維質材料が波状ないしは凹凸状の形成された状態をとらずに互いにフラットな状態で積層されている。このような状態で積層・固定化されることにより、積層体が一体化した状態で変形又は加工することが可能となる。本発明材料は、これらの層のほかに他の層を積層しても良いが、特に上記のような「形状保持層/吸水層/形状保持層」の三層構造からなるものが吸水性、折り目加工適性等の観点から好ましい。
【0016】
本発明では、吸湿性繊維質材料の上面及び下面にそれぞれ形状保持性繊維質材料が積層されるが、この場合の2つの形状保持性繊維質材料は同じものであっても良いし、互いに異なるものであっても良い。特に、本発明では、寸法精度等の見地より、2つの形状保持性繊維質材料は同じものを使用することが望ましい。
【0017】
吸湿性繊維質材料
吸湿性繊維質材料の材質としては吸水性(親水性)を有するものであれば限定的ではなく、天然繊維、合成繊維、再生繊維等のいずれであっても良い。例えば、レーヨン、セルロース(綿、パルプ)、ビニロン、アクリル等が挙げられる。この中でも、本発明ではレーヨン(レーヨン繊維)を好適に用いることができる。
【0018】
吸湿性繊維質材料の形態は、織物又は不織布のいずれでも良いが、本発明では不織布を用いることが好ましい。不織布としては、例えば乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブローン法、スパンレース法等の公知の製法により得られた不織布のほか、これらの加工品等も使用することができる。
【0019】
また、本発明では、吸水性繊維質材料には1種又は2種以上の繊維を使用することができる。本発明では、レーヨン繊維を含む不織布を好適に用いることができる。すなわち、レーヨン繊維単独からなる不織布のほか、レーヨン繊維と他の繊維からなる不織布を好ましく用いることができる。より具体的には、レーヨン繊維とポリエステル繊維からなる不織布を用いることができる。
【0020】
吸湿性繊維質材料の繊度は、用いる繊維の種類のほか、所望の吸湿性(吸水性)、加工性等に応じて選択することができるが、一般的には1.1〜16.7dtex程度、特に2.2〜11.1dtexとすることが好ましい。
【0021】
吸湿性繊維質材料は、通常はシート状である。その厚みは0.1〜20mm程度とし、特に0.2〜10mm)とすることが好ましい。0.1mm以下では吸放湿材料としての性能が得られず、20mm以上では厚すぎて折り目加工機による加工が困難となるおそれがある。また、シートとしての目付量は限定的ではないが、通常は30〜300g/m程度とし、特に40〜200g/mとすることが好ましい。
【0022】
本発明では、吸水性繊維質材料が当該材料の一方の平面から他方の平面にわたって管状に貫通する貫通穴を1又は2以上有するものを採用することができる。管状に貫通する貫通穴を有する吸湿性繊維質材料を使用することにより、より高い吸水性を得ることができる。図2には、前記貫通穴を有する本発明材料の一例を示す。図2(a)に示すように、吸水性繊維質材料の上面から下面にかけて管状(断面からみた形状が略矩形である管状)に貫通する貫通穴3が形成されている。貫通穴3の形成としては、例えば打ち抜きにより形成する方法、加熱・溶融により形成する方法等の公知の穿孔方法を採用することができる。なお、このような貫通穴を有する不織布そのものは、公知又は市販のものを使用することができる。
【0023】
吸水性繊維質材料の平面上における貫通穴の総面積の占める割合(開孔率)は通常20〜80%であるが、好ましくは20〜50%である。前記割合は、図2(b)では、(貫通穴3の総面積(すなわち、図2(b)中の着色部分の合計面積))/(吸水性繊維質材料1の面積(すなわち、図2(b)中の着色部分と白色部分の合計面積)を示す。
【0024】
貫通穴の形状(平面形状)は、特に制限されず、例えば円形、楕円形、正方形、直方形、三角形、多角形、星型等の種々の形状の1種又は2種以上を採用することができる。また、貫通穴の大きさは、所望の通気度、吸水性等にもよるが、一般に貫通穴の1つ当たりの平均面積が0.5〜2mmの範囲内となるように適宜設定することが好ましい。
【0025】
貫通穴の個数(密度)は、貫通穴の大きさ等にもよるが、一般的には10〜100個/cm程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0026】
形状保持性繊維質材料
形状保持性繊維質材料としては、所定の剛性を有する材料であれば限定されず、種々の材質から適宜選択することができる。例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等の合成樹脂が挙げられる。これらの中でも疎水性の高い合成樹脂をより好適に用いることができる。
【0027】
形状保持性繊維質材料の形態は、織物又は不織布のいずれでも良いが、本発明では不織布を用いることが好ましい。不織布としては、例えば乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブローン法、スパンレース法等の公知の製法により得られた不織布のほか、これらの加工品等も使用することができる。
【0028】
また、形状保持性繊維質材料では、1種又は2種以上の繊維を使用することができる。本発明では、ポリエステル繊維を含む不織布を好適に用いることができる。すなわち、ポリエステル繊維単独からなる不織布のほか、ポリエステル繊維と他の繊維からなる不織布を好ましく用いることができる。
【0029】
形状保持性繊維質材料の繊度は、用いる繊維の種類のほか、所望の吸湿性、加工性等に応じて選択することができるが、一般的には1.1〜33.3dtex程度、特に2.2〜16.7dtexとすることが好ましい。本発明では、特に繊度の異なる長繊維層を複数重ね合わせた構造を有するポリエステル不織布を用いることが好ましい。このような不織布は、市販品を使用することができる。
【0030】
形状保持性繊維質材料は、通常はシート状である。その厚みは0.1〜0.8mm程度とし、特に0.1〜0.3mmとすることが好ましい。0.1mm以下では形状保持性能が得られなくなることがある。また、0.8mm以上では硬くなり、所望の折り目加工適性等が得られなくなるおそれがある。また、シートとしての目付量は限定的ではないが、通常は10〜100g/m程度とし、特に12〜50g/mとすることが好ましい。
【0031】
積層体
図1又は図2で示したように、本発明材料は、吸水性繊維質材料及びその両面に積層された形状保持性繊維質材料を含む積層体と樹脂成分とを有するものである。前記積層体においては、層構成は限定されないが、特に「形状保持層/吸水層/形状保持層」の三層構造からなるものが、寸法精度、吸水性、折り目加工適性等の観点から好ましい。前記三層構造と異なる場合、例えば「吸水層/形状保持層/吸水層」からなる三層構造、「吸水層/形状保持層」からなる二層構造等の場合には、所望の折り目加工適性等が得られない場合がある。
【0032】
本発明材料では、積層体における各材料間(各層間)は接着成分により接合・固定されている。接着成分としては、各材料どうしを接着できる限りは特に限定されない。例えば、吸湿性繊維質材料と形状保持性繊維質材料の材質に応じて市販の接着剤(特にホットメルト接着剤)から適宜選択することができる。ホットメルト接着剤は、液状タイプ又は固形タイプのいずれも使用することができる。例えば、クモの巣状(ネット状)に成形された固形ホットメルト接着剤を各材料間に介在させ、熱プレスすることにより好適に接着することができる。その他にも、吸湿性繊維質材料及び形状保持性繊維質材料の少なくとも一方に予め熱融着繊維を含有させ、熱融着繊維により積層することができる。
【0033】
樹脂成分
本発明材料は、積層体に樹脂成分が前記吸湿性繊維質物質100重量部に対して2〜20重量部含まれている。本発明では、樹脂成分は、例えば積層体の繊維構造の隙間(繊維間)に含まれて(含浸されて)固定されている。
【0034】
樹脂成分の種類としては限定的ではなく、例えばアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、スチレンアクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂 等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。これらの中でも、疎水性の熱可塑性樹脂を好適に用いることができる。疎水性の熱可塑性樹脂を使用することにより、樹脂含有量が高くなっても吸水性の低下が小さく、また膨潤しにくいために所望の皮膜強度を確保することができる。また、熱可塑性樹脂を使用すれば、加熱による加工を容易に行うことができるため、折り目加工適性等の点で有利である。かかる見地より、例えばアクリル樹脂等を好適に用いることができる。
【0035】
樹脂含有量は、吸湿性繊維質物質100重量部に対して2〜20重量部とし、好ましくは2〜15重量部とする。前記含有量が2重量部未満の場合には所望の折り目加工適性が得られなくなる。また、前記含有量が20重量部を超える場合は、剛性が大きくなりすぎて折り目加工ができなくなるとともに、本発明材料の吸放湿に伴う経時的な吸湿性の低下を抑制することが困難となる。
【0036】
また、本発明材料の剛性(含水時)は、本発明材料の使用目的、形状保持性繊維質材料等の種類等により異なるが、通常はJIS−L−1096に準拠した測定方法による剛軟度が50mm以上、特に100mm以上であることが望ましい。このような剛軟度を有する吸放湿用材料は、樹脂加工時における樹脂使用量が少なくて済み、その結果として吸水性の経時的低下が効果的に抑制ないしは防止される。
【0037】
本発明材料は、通常はシート状である。その厚みは0.2〜20mm程度とし、特に0.3〜1.0mmとすることが好ましい。また、シートの坪量は限定的ではないが、通常は50〜300g/m程度とし、特に50〜200g/mとすることが好ましい。
【0038】
本発明材料の用途は、吸放湿用として使用される用途であれば限定されず、水分を可逆的に吸放湿することが必要な用途に幅広く使用することができる。すなわち、従来の吸放湿性シートと同様の用途に使用することができる。例えば、気化フィルター、空冷材、除湿材、調湿材等として、各種の装置・部材(加湿器、熱交換器、日用品、家電製品等)に用いることができるほか、そのまま建材用、農業用等としても使用することができる。特に、加湿器に用いる場合は、例えば本発明材料を折り曲げ加工してなる成形体をそのまま又は基材上に前記成形体を設けてなるエレメントとして搭載することができる。
【0039】
本発明材料の製造
本発明材料の製造方法は限定的ではないが、例えば1)吸水性繊維質材料の両面に形状保持性繊維質材料を接着成分を介在させて積層体を形成する工程、2)得られた積層体に樹脂成分を含浸させる工程を含む製造方法によって好適に本発明材料を製造することができる。
【0040】
積層体の形成工程は、前記のような接着成分を介在させて各材料どうしを接着させれば良い。例えば、接着成分としてホットメルト接着剤を用いて加熱しながらプレスすることにより積層体を得ることができる。このような積層方法(条件)自体は、公知の方法を採用することもできる。
【0041】
次いで、得られた積層体に樹脂成分を含浸させる。このような樹脂加工の方法自体は公知の方法と同様にして実施することができる。例えば、積層体を合成樹脂のエマルジョンに積層体を浸漬した後、乾燥することにより、樹脂成分が積層体中に含まれる(含浸された)本発明材料を得ることができる。これにより、例えば、少なくとも形状保持性繊維質材料の隙間(繊維間)に樹脂成分が充填・固定された本発明材料を得ることができる。樹脂成分としては前述のように疎水性熱可塑性樹脂を用いるのが好ましく、例えばアクリル系樹脂等を挙げることができる。また、前記エマルジョンの濃度は通常1〜80重量%程度の範囲内で適宜定めることができる。上記エマルジョンには、樹脂成分のほかにも、例えば抗菌剤、防カビ剤、着色材、界面活性剤(乳化剤)、吸水助剤等を必要に応じて含有させても良い。
【実施例】
【0042】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0043】
繊維質材料の特性
実施例及び比較例で使用した吸湿性繊維質材料及び形状保持性繊維質材料の特性を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
材料特性の測定方法・評価方法
実施例及び比較例における材料特性の測定方法・評価方法は、以下の要領で実施した。
【0046】
(1)吸水性(バイレッグ法)
JIS−L−1907に準拠して実施した。より具体的には、サンプルを2.5cm×25cmにカットし、サンプルの端から1cmを水に浸漬し、3分経過後に水を吸い上げた距離を測定した。
【0047】
(2)吸水性(滴下法)
JIS−L−1907に準拠して実施した。より具体的には、サンプルの表面にスポイトで水を1滴滴下し、それが内部に浸透して鏡面がなくなるまでの時間を測定した。
【0048】
(3)含水−乾燥後の吸水性(バイレッグ法)
JIS−L−1907に準拠して実施した。より具体的には、サンプル全体を水に30分間浸漬して風乾させるという工程を5回繰り返した後、前記(1)と同じ方法で測定した。
【0049】
(4)含水−乾燥後の吸水性(滴下法)
JIS−L−1907に準拠して実施した。より具体的には、より具体的には、サンプル全体を水に30分間浸漬して風乾させるという工程を5回繰り返した後、前記(2)と同じ方法で測定した。
【0050】
(5)含水時の寸法変化率
JIS−L−1096に準拠して実施した。より具体的には、25cm×25cmのサンプル全体を水に10秒浸漬される。その後、絞り機で余分な水を除いた後の1辺の寸法xを測定し、浸漬前の寸法に対する変化率(x−25)/25を求めた。
【0051】
(6)含水時の剛軟度(風合い)
JIS−L−1096に準拠して実施した。より具体的には、サンプルを水に浸漬させた時の剛軟度を45°のカンチレバー法により測定した。評価は、剛軟度が100mm以上の場合は「○」、50mm以上100mm未満の場合は「△」、50mm未満の場合は「×」と表記した。
【0052】
(7)折り目加工適性
評価項目a
まず、図3(1)に示すようにサンプル(幅2.54cm×長さ5cm)を用意する。次に、図3(2)に示すように長さ方向に半分に折り曲げる。図3(2)aは平面図、図3(2)bは断面図(側面図)を示す。図3(3)に示すように、サンプルを折り曲げた状態で上からアルミニウム板を置いた上で加圧する。加圧条件は、常温下で19.6MPaにて5秒間とした。以上の手順において;
1)加圧前の図3(3)の状態を確認し、アルミニウム板の設置が可能かどうかを判定した。アルミニウム板が設置できる場合は「○」とし、折り曲げ部分の反発によりアルミニウム板がずれるような場合は「×」とした。この段階で「×」の場合は、以後の試験を中止して不適格と認定した。
2)加圧後の図3(3)の状態を確認し、折り目が一直線となって負荷開放5秒以上経過しても90°以上に折り目が開かない場合は「○」とし、折り目の状態が一直線にならないか又は負荷開放5秒以上経過した時に折り目が90°以上に開いた場合は「△」とし、折り目の状態が一直線にならず、かつ、負荷開放5秒以上経過した時に折り目が90°以上に開いた場合は「×」とした(硬すぎてアルミニウム板を載せても反発する場合も「×」とした。)。
評価項目b
図3(1)に示すようにサンプル(幅2.54cm×長さ5cm)を用意する。次に、図3(2)に示すように長さ方向に半分に折り曲げる。折り曲げた状態で熱プレスする。加圧条件は、80℃で19.6MPaにて5秒間とした。サンプルを図4のように頂点が上(すなわち、△)となるように配置し、20℃で65%RHの条件下に60分間放置した後の形状を確認した。形状に変化がほとんどなく、頂点の沈み具合も20%以下である場合は「○」とし、頂点の沈み具合が20%超え50%以下の場合は「△」とし、頂点の沈み具合が50%を超えている場合は「×」とした。
総合評価
評価項目a及びbともに「○」である場合は「4」とし、いずれか一方が「△」である場合は「3」とし、両方とも「△」である場合は「2」とし、いずれか一方が「×」である場合は「1」とした。
【0053】
<実施例1>
吸湿性繊維質材料及び形状保持性繊維質材料として、それぞれ市販品を用いた。形状保持性繊維質材料(形状保持層)としては、PETスパンボンド「E1012」(旭化成せんい(株)製、不織布)を用いた。また、吸湿性繊維質材料(吸水層)としては、穴あきレーヨンスパンレース「7170A−8P8」((株)シンワ製、不織布)を用いた。両材料の間にクモの巣状のポリアミド系ホットメルト接着剤(目付け12g/m)を介在させた状態で、ベルト搬送式熱プレス機(カーネギーサ製ローラープレス機)にセットし、温度120℃及び圧力9.0N/cm、加熱時間15秒で熱プレスを実施し、形状保持層/吸水層/形状保持層からなる積層体を得た。
【0054】
次いで、上記積層体に樹脂加工を施した。具体的には、固形分濃度が約45重量%の市販のアクリル系樹脂エマルジョン「ボンコートED85E」(大日本インキ化学工業(株)製)に上記積層体を浸漬し、樹脂成分を含浸させた(1dip−1nip方式、処理剤浸漬−マングル絞り、浸漬時間3〜4秒間)。その後、上記積層体を取り出し、乾燥機内で110℃×3分間の乾燥を行うことにより樹脂加工体を得た。樹脂加工に際しては、樹脂含有量として10±3重量%のサンプル(本発明サンプル)のほか、30±4重量%のサンプル(比較サンプル)も調製した。
【0055】
得られたサンプルについて、(1)吸水性(バイレッグ法)、(2)吸水性(滴下法)、(3)含水−乾燥後の吸水性(バイレッグ法)、(4)含水−乾燥後の吸水性(滴下法)、(5)含水時の寸法変化率、(6)含水時の剛軟度(風合い)及び(7)折り目加工適性を調べた。その結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
<実施例2>
形状保持層としてPETスパンボンド「E1030」(旭化成せんい(株)製、不織布)を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
<実施例3>
形状保持層としてPET/ビニロンレジンボンド「DF40Z」(倉敷繊維加工(株)製、不織布)を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
<実施例4>
形状保持層としてPET「ハーフトリコット」((株)五十部整染工場製、編み物)を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
<実施例5>
形状保持層としてナイロンスパンボンド「N5040」(旭化成せんい(株)製、不織布)を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表6に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
<実施例6>
吸水層としてレーヨンスパンレース「7180A」((株)シンワ製、不織布)を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表7に示す。
【0066】
【表7】

【0067】
<実施例7>
形状保持層としてPETスパンボンド「E1030」(旭化成せんい(株)製、不織布)を用いたほかは、実施例6と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表8に示す。
【0068】
【表8】

【0069】
<実施例8>
形状保持層としてPET/ビニロンレジンボンド「DF40Z」(倉敷繊維加工(株)製、不織布)を用いたほかは、実施例6と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表9に示す。
【0070】
【表9】

【0071】
<比較例1>
特開平8−318587号に準じて、吸水層/形状保持層/吸水層という構成に変更したほかは、実施例6と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表10に示す。
【0072】
【表10】

【0073】
<比較例2>
形状保持層としてPETスパンボンド「E1030」(旭化成せんい(株)製、不織布)を用いたほかは、比較例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表11に示す。
【0074】
【表11】

【0075】
<比較例3>
吸水層単独とし、穴あきレーヨンスパンレース「7170A−8P8」((株)シンワ製、不織布)を用い、樹脂含有量を30重量%のみとしたほかは、実施例1と同様にして作製し、各物性について調べた。その結果を表12に示す。
【0076】
【表12】

【0077】
<実施例9>
積層体として、市販品を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。前記市販品としてはPET/吸水PET積層スパンボンド「MA1100」(旭化成せんい(株)製、PET繊維/吸水性変成PES繊維/PET繊維 積層体)を用いた。その結果を表13に示す。
【0078】
【表13】

【0079】
<実施例10>
積層体として市販品を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。前記市販品としてはPET/吸水PET積層スパンボンド「MA1300」(旭化成せんい(株)製、PET繊維/吸水性変成PES繊維/PET繊維 積層体)を用いた。その結果を表14に示す。
【0080】
【表14】

【0081】
<実施例11>
吸水層としてレーヨンスパンレース「7180A」((株)シンワ製、不織布)を用いたほかは、実施例4と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表15に示す。
【0082】
【表15】

【0083】
<実施例12>
吸水層として穴あきスパンレース「PET/レーヨン 20/80」((株)シンワ製、不織布、25メッシュ)を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表16に示す。
【0084】
【表16】

【0085】
<実施例13>
吸水層として穴あきスパンレース「PET/レーヨン 20/80」((株)シンワ製、不織布、22メッシュ)を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表17に示す。
【0086】
【表17】

【0087】
<実施例14>
吸水層として穴あきスパンレース「PET/レーヨン」」((株)シンワ製、不織布、10メッシュ)を用いたほかは、実施例1と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表18に示す。
【0088】
【表18】

【0089】
<実施例15>
形状保持層としてPETスパンボンド「E1100」(旭化成せんい(株)製、不織布)を用いたほかは、実施例12と同様にして樹脂加工体を調製し、各物性について調べた。その結果を表19に示す。
【0090】
【表19】

【0091】
以上の結果からも明らかなように、本発明の吸放湿材料(樹脂含有量10±3%)は、吸水性の経時的低下が効果的に抑制されているとともに、良好な形状保持性及び折り目加工適性を発揮できることがわかる。
【0092】
<試験例1>
実施例1で得られた積層体(樹脂加工前のもの)を用い、樹脂含有量の関係と吸水性等との関係を調べた。樹脂としては、実施例1と同様、固形分濃度が約45重量%の市販のアクリル系樹脂エマルジョン「ボンコートED85E」(大日本インキ化学工業(株)製)を用い、樹脂含有量が表20になるように調節したほかは実施例1と同様にして樹脂成分を含浸させた。得られた各樹脂加工体の物性を実施例1と同様して調べた。その結果を表20に示す。
【0093】
【表20】

【0094】
表20の結果からも明らかなように、樹脂含有量が20重量%を超えると例えば吸水性(バイレッグ法)が104mmから68mmになり、経時的に吸水性が大きく低下してしまうことがわかる。また、樹脂成分が0重量%の場合は吸水性が維持されるものの、折り目加工適性の点で不利になることがわかる。これに対し、樹脂含有量が2〜20重量%という範囲内では、吸水性の経時的な低下を効果的に抑制できるとともに、良好な折り目加工適性が得られることがわかる。
【0095】
<試験例2>
実施例1で得られた積層体(樹脂加工前のもの)を用い、樹脂含有量の関係と吸水性等との関係を調べた。樹脂としては、固形分濃度が約25重量%の市販のポリエステル系樹脂エマルジョン「バイロナールMD1480」(東洋紡績(株)製)を用い、樹脂含有量が表21になるように調節したほかは実施例1と同様にして樹脂成分を含浸させた。得られた各樹脂加工体の物性を実施例1と同様して調べた。その結果を表21に示す。
【0096】
【表21】

【0097】
表21の結果からも明らかなように、ポリエステル系樹脂を用いた場合でも、表20の結果と同様、樹脂含有量が2〜20重量%という範囲内では、吸水性の経時的な低下を効果的に抑制できるとともに、良好な折り目加工適性が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性繊維質材料及びその両面に積層された形状保持性繊維質材料を含む積層体に樹脂成分が前記吸湿性繊維質物質100重量部に対して2〜20重量部含まれていることを特徴する吸放湿用材料。
【請求項2】
吸水性繊維質材料が当該材料の一方の平面から他方の平面にわたり管状に貫通する貫通穴を1又は2以上有する、請求項1に記載の吸放湿用材料。
【請求項3】
吸水性繊維質材料の平面上における貫通穴の総面積の占める割合が20〜80%である、請求項2に記載の吸放湿用材料。
【請求項4】
貫通穴の1つ当たりの平均面積が0.5〜2mmである、請求項2に記載の吸放湿用材料。
【請求項5】
吸水性繊維質材料がレーヨン繊維を含む不織布である、請求項1に記載の吸放湿用材料。
【請求項6】
形状保持性繊維質材料が、繊度の異なる長繊維層を複数重ね合わせた構造を有するポリエステル不織布である、請求項1に記載の吸放湿用材料。
【請求項7】
加湿器の吸放湿材として使用される、請求項1に記載の吸放湿用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−62816(P2011−62816A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212661(P2009−212661)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000109037)ダイニック株式会社 (55)
【Fターム(参考)】