説明

吸水材及びこれを利用した冷風扇

【課題】
長期間細菌等の繁殖を抑えることが可能であり、また、使用場所が制限されない冷風扇を提供することを目的とする。
【解決手段】
石灰岩汚泥及び微砂キラを必須2成分とし、必須2成分の合計に対する必須2成分の一方の成分の比率が42質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量に対して90質量%以上である組成物を焼結して製造した多孔質セラミック吸水材からなることを特徴とする吸水部材を使用することにより、細菌、カビまたは藻の繁殖を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックを用いた冷風扇、スクラバ用などの吸水材及びこれを利用した冷風扇に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックは、従来から、多孔質、軽量、耐薬品性に優れることから、フィルタ、保水材、吸水材などとして利用されている(例えば、特許文献1参照)。多孔質セラミックを、例えば、冷風扇の吸水部材として利用する場合、一般に、水が長期間水槽に貯留されるため、吸水部材は常時濡れた状態となっており、細菌、カビまたは藻が繁殖し易いという問題がある。また、このような冷風扇を使用した場合には、人体に有害な細菌やカビ胞子等が飛散したり、悪臭を発散したりするという問題があった。このような不具合を解消するために、小型ヒータにより、吸水性セラミックからなる気化部の加熱殺菌を行うことができる冷風扇が開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、光半導体触媒により、吸水性セラミック内の水を殺菌するようにした冷風扇が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
ところで、本願出願人は、軽量で気孔率の高い多孔質セラミックを得ることを目的として、石灰岩汚泥及び微砂キラからなる組成物を焼結する多孔質セラミックの製造方法を開示している(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−145679号公報
【特許文献2】特開平9−273771号公報
【特許文献3】特開平9−292137号公報
【特許文献4】特開2006−131446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載の装置では、吸水部材を加熱殺菌するために、ヒータを別途設ける必要があり、加熱殺菌が不十分な場合は、吸水部材にカビ等が繁殖してしまうという問題点があった。さらに、この装置では、加熱殺菌する為のヒータの電力消費が大きく、経済的ではないという問題があった。また、特許文献3に記載の装置では、吸水体とは別に光触媒シートを設けて、吸水体を通過する空気を殺菌しており、吸水体であるセラミック自体のカビ等の繁殖を抑えるものではない。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決すべく、長時間使用してもカビ、細菌、藻などが繁殖しにくく、また脱臭機能を有する多孔質セラミック吸水材及びこれを用いた冷風扇を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者の鋭意研究の結果、特許文献4に示したように、本発明者らが以前に提案した多孔質セラミックが、単体では、極めて抗菌性の効果が持続する吸水材としての優れた特性を示すこと、また、該多孔質セラミックと光触媒とを組み合わせることにより脱臭性能を有する吸水材としての優れた特性を示すこと、さらには、該多孔質セラミック吸水材を冷風扇の吸水部材として用いた場合に極めて優れた特性を示すことを見出し、上記の課題を解決するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、請求項1に記載の通り、CaCO及びSiOを必須2成分とし、必須2成分の合計に対するCaCOの比率が35質量%を下回ることなく、必須2成分の合計に対するSiOの比率が49質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量に対して78質量%以上である組成物を焼結して得られる多孔質セラミック吸水材に関する。
【0009】
また、本発明は、請求項2に記載の通り、石灰岩汚泥及び微砂キラを必須2成分とし、必須2成分の合計に対する必須2成分の一方の成分の比率が42質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量に対して90質量%以上である組成物を焼結して得られる請求項1に記載の多孔質セラミック吸水材に関する。
【0010】
また、本発明は、請求項3に記載の通り、CaCO及びSiOを必須2成分とし、必須2成分の合計に対するCaCOの比率が35質量%を下回ることなく、必須2成分の合計に対するSiOの比率が49質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量に対して78質量%以上である組成物を焼結して得られる多孔質セラミック吸水材であって、該多孔質セラミック吸水材は5μm以上50μm以下の細孔を有し、該細孔には粒子径が5nm以上30nm以下である光触媒が担持されていること特徴とする多孔質セラミック吸水材に関する。
【0011】
また、本発明は、請求項4に記載の通り、石灰岩汚泥及び微砂キラを必須2成分とし、必須2成分の合計に対する必須2成分の一方の成分の比率が42質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量に対して90質量%以上である組成物を焼結し、得られた焼結物の細孔に光触媒を担持させることにより得られる請求項3に記載の多孔質セラミック吸水材に関する。
【0012】
また、本発明は、請求項5に記載の通り、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質セラミック吸水材からなる吸水部材に水供給手段で水を含浸させ、該吸水部材に送風手段で空気を吹き付けて吸水部材の表面部から水を気化させ空気から気化熱を奪って冷風を生成することを特徴とする冷風扇に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、CaCO及びSiOを必須2成分とし、必須2成分の合計に対するCaCOの比率が35質量%を下回ることなく、必須2成分の合計に対するSiOの比率が49質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量の78質量%以上である組成物を焼結して製造することにより、吸水性の優れた多孔質セラミック吸水材を提供することができる。
【0014】
また、本発明は、上記組成物を焼結することによるワラスナイトの生成時に、気孔径5μm以上50μm以下の範囲の気孔が生成されるため、この気孔を利用して、接着剤を用いることなく、粒子径が5nm以上30nm以下の光触媒を、多孔質セラミック吸水材に担持させることができる。また、光触媒が気孔内に担持されているため、多孔質セラミック吸水材を超音波洗浄しても、光触媒の剥離・脱落を最低限に抑えることができる。
【0015】
また、光触媒を担持させる際に接着剤を用いないことから、多孔質セラミック吸水材が接着剤で覆われることがないので、多孔質セラミック吸水材自体の吸水性能は阻害されないし、光触媒が接着剤で覆われることがないので、多孔質セラミック吸水材は、光触媒効果を十分に発揮することができる。
【0016】
また、本発明の多孔質セラミック吸水材を水に浸漬すると、吸水された水がアルカリ性を示すため、多孔質セラミック吸水材に抗菌性効果を付与することができ、吸水材にカビが生えるのを防ぐことができる。さらには、多孔質セラミック吸水材が光触媒機能を有するため、有機物による汚れを分解することができる。そのため、吸水材の交換等のメンテナンスの手間を抑えることができる。
【0017】
また、上記原材料を所定の組成で配合して焼成した場合、焼成時の寸法変化が小さいので、寸法安定性に優れ、ねらい通りの寸法、形状に成型することができる。
【0018】
また、本発明の冷風扇は、より低温の冷風を送風でき、長時間に亘って、細菌、カビまたは藻の繁殖を抑えることが可能な冷風扇を提供することができる。また、本発明の冷風扇は、吸水部材を殺菌させるためのヒータ等が不要であるため、冷風扇が軽量化され、持ち運びに便利である。加えて、加熱殺菌といった処理が必要でないため、電力消費が小さく経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態にかかる冷風扇の一部縦断前面図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる冷風扇の横断平面図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる冷風扇の一部縦断前面図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる冷風扇の一部横断前面図である。
【図5】実施例の多孔質セラミック吸水材の細孔径分布の測定結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態の説明を行なうが、本発明の趣旨に反しない限り、本発明はこれらの実施の形態に限定されない。
【0021】
必須2成分である石灰岩汚泥と微砂キラとの配合比は、それぞれのCaCO及びSiOの含有率にもよるので一律ではないが、おおむね50:50を基本とする。この配合比に偏りがあると(42未満:58以上、つまり一方が42質量%未満になると)、耐火度が低下して焼成時に、収縮したり、キレや割れが発生したりする傾向にある。従って、42〜58:58〜42の範囲で配合する。すなわち、必須2成分の合計に対する必須2成分の一方の成分の比率が42質量%を下回ることのない配合とすることが好ましく、46質量%を下回ることのない配合であることがより好ましい。
【0022】
多孔質セラミック吸水材を得るための組成物に対する必須2成分の合計(石灰岩汚泥と微砂キラとの合計)は、組成物の全質量に対して90質量%以上が好ましく、94質量%以上がより好ましく、96質量%以上がさらに好ましい。必須2成分の合計が、90質量%より少ないと、多孔質化及び軽量化の効果が充分に得られない傾向にある。
【0023】
多孔質セラミック吸水材を得るための組成物は、CaCO及びSiOの合計に対するCaCOの比率が35質量%を下回ることなく、40質量%以上であることがさらに好ましい。CaCOの比率が35質量%を下回ると、耐火度が低下して焼成時に、収縮したり、キレや割れが発生したりする。同様に、CaCO及びSiOの合計に対するSiOの比率が49質量%を下回ることなく、55質量%以上であることがさらに好ましい。SiOの比率が49質量%を下回ると、耐火度が低下して焼成時に、収縮したり、キレや割れが発生したりする。
【0024】
さらには、CaCO及びSiOの合計が、組成物の全質量に対して78質量%以上であり、84質量%以上であることがより好ましい。CaCO及びSiOの比率が78質量%より少ないと、多孔質化及び軽量化の効果が充分に得られない傾向にある。
【0025】
石灰岩汚泥はCaCOを豊富に含み、微砂キラはSiOを豊富に含んでいる。このため、この両者を混合して焼成すると、CaCOとSiOの焼結によりCaOSiO(ワラストナイト)が生成されると同時にCOが排出される。このCOにより、独立気孔ではなく、連通気孔が生じ、気孔径が5μm以上50μm以下の連通気孔が形成され、多孔質化され、軽量化される。また、吸水性が高くなる。
【0026】
また、CaCOのうち、SiOと焼結しなかったものが、焼成中にCaOとなって多孔質セラミック吸水材中に多量に生じる。このCaOが水と反応してCa(OH)を生成することにより、吸水された水がアルカリ性を示すため、細菌、カビ、藻の繁殖を抑える効果が向上するものと考えられる。
【0027】
また、本発明の多孔質セラミック吸水材は、他の無機材質と比較して、吸水性が高く、乾燥速度も比較的に速い。したがって、水を効率良く気化させることができる。
【0028】
石灰岩汚泥は、石灰岩鉱山で採掘された粗鉱を破砕後、水洗するときに発生した汚泥を例えばフィルタープレスで脱水したものである。一例として三星砿業株式会社から「ミツボシ粘土」の商品名で販売されているものがあげられるが、この「ミツボシ粘土」又はこれと同様のものを使用できる。
【0029】
微砂キラは、ガラス原料や窯業用粘土に含まれる珪砂の採掘くずである粘土混じりの微砂である。従来は産業廃棄物として処理されていたものであるため、低価格で入手でき、資源の有効利用となる。
【0030】
この際の焼成温度及び時間はワラストナイトの生成に充分であればよいので、その限りにおいて制限はないが、磁器の焼成条件(例えば、1100〜1300℃)と同様でよい。
【0031】
また、組成物の成分として、上記の必須2成分に加えて、粘土が含まれると、多孔質セラミック吸水材の成形性や焼結性が向上する。組成物に含まれる粘土としては、磁器又は陶器の原料として使用される粘土であれば使用できるが、中でもベントナイトが好適である。
【0032】
組成物中で粘土(ベントナイト)が占める割合は、必須2成分を配合した残余すなわち、組成物の全質量に対して10質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましく、4質量%以下がさらに好ましい。10質量%より多くなると、多孔質セラミック吸水材の成形性や焼結強度が低下する傾向にある。
【0033】
多孔質セラミック吸水材の調製から焼成までの工程は、公知の方法に従えばよい。一例として、原料調合→トロンミル粉砕→スプレードライヤーで顆粒粉にする→成形→焼成→完成、という工程になる。また、原料をスラリー化→発泡体に含浸→乾燥→焼成→完成という工程も可能である。この場合、発泡体としては軟質ポリウレタン発泡体を裁断し、これに原料をスラリー化させたものを含浸させた後に、乾燥させて焼成することにより発泡体を除去することで、生成することができる。
【0034】
また、本発明の多孔質セラミック吸水材は、酸化チタンのような光触媒と組み合わせることにより、光触媒効果を十分に発揮することが可能となる。汚染物質や気体は、多孔質セラミックが有する適度な大きさの気孔に物理吸着されるが、気孔表面に万遍なく配置された光触媒と汚染物質や気体の接触時間を長くすることができる。なお、本発明における光触媒としては、光触媒機能を有するものであれば、特に限定されないが、酸化チタン、酸化亜鉛があげられる。中でも、光触媒機能に優れている点で、酸化チタンが好ましい。ここで、酸化チタンとは、光触媒機能を有するものであって、一般的には、アナターゼ型のものをいう。
【0035】
本発明において、光触媒は、粒子径が5nm以上30nm以下のものを用いる。この範囲の粒子径を用いると、理由は定かではないが、多孔質セラミック吸水材に対するファンデルワールス力によるナノ効果が効果的に発揮されるからか、接着剤なしでも、光触媒が多孔質セラミック吸水材に効率的に担持される。さらに担持効果を高めるためには、粒子径が7nm〜20nmのものを用いることが望ましい。光触媒の粒子径が5nmより小さくなると、粒子径が小さすぎて、多孔質セラミックの気孔の表面を光触媒が隙間なく覆う状態となるためか、多孔質セラミック吸水材の吸水性能を阻害する。また、光触媒の粒子径が30nmを超えてしまうと、多孔質セラミック吸水材の気孔に光触媒が効果的に万遍なく入り込みにくくなるためか、光触媒効果が発揮し難くなる。
【0036】
担持させる光触媒の形態としては粉体、溶媒に粉体を加えた分散液、粘性を加えたゾルのいずれでも用いることが出来るが、本発明における多孔質セラミック吸水材に担持させるための効率性、分散液やゾルの均一性等の理由から、粉体ではなくゾルまたは分散液を使用することが好ましい。ここで、本発明に用いる光触媒ゾルおよび光触媒分散液とは、光触媒粒子が水及び/又は有機溶媒中に0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜50質量%で分散されたものである。
【0037】
光触媒を多孔質セラミック吸水材に担持させる方法としては、多孔質セラミック吸水材に光触媒の分散液をスプレー塗布したり、或いは、光触媒の分散液またはゾルを多孔質セラミック吸水材に含浸させ、その後、乾燥させたりすることによって担持させることができる。例えば、酸化チタンを担持させる場合は、酸化チタンの分散液またはゾルの濃度は、1〜25質量%であることが好ましく、さらに5〜15質量%であることがより好ましい。1質量%より低くなると、担持できる酸化チタンの量が少なくなり光触媒効果が十分に発揮できず、25質量%より高くなると、多孔質セラミック表面に酸化チタンが過剰に付着し、水洗すると多孔質セラミック表面の酸化チタンが剥離してしまう。また、酸化チタンの分散液またはゾルを多孔質セラミック吸水材に含浸させた後の乾燥温度としては、分散液又はゾルに用いた水及び/又は有機溶媒に適した乾燥温度であればよく、80〜300℃であることが好ましい。
【0038】
また、本発明の多孔質セラミック吸水材は、厚さ3〜20mmの平板形状に成形することが好ましく、5〜15mmに成形することがより好ましい。平板形状であれば、大量生産が容易であり、低コストでの製造が可能になる。厚さが3mmよりも薄いと破損し易くなり、一方、20mmよりも厚いと、相対的に体積に対して表面積が小さくなり、水の気化効率が低下する。
【0039】
厚さ以外の、縦と横の大きさは、その形状により異なるが、矩形であれば一辺50〜300mmが好ましく、一辺100〜200mmがより好ましい。縦と横の大きさがこの範囲にあるときに大量生産が容易であり、水の気化効率も高いので望ましい。
【0040】
本発明で用いられる多孔質セラミック吸水材は、寸法、形状が悪化せず、ねらいどおりの寸法、形状にでき、原料は安価で、軽量化と気孔率の増加を同時に達成でき、成形時のキレ等も発生しない。
【0041】
図1及び図3は、本発明の実施の形態にかかる冷風扇の一部縦断前面図である。図2及び図4は、本発明の実施の形態にかかる冷風扇の横断平面図である。冷風扇1は、本体ケース2と、水を貯留するタンク3と、タンク3内の水を受ける水受け部4と、水受け部4の水を吸収する多孔質セラミック吸水材5と、回転することで冷風を発生させるファン6と、ファン6と連結することによりファン6を回転させるモータ7とを備えている。
【0042】
本体ケース2は、長方体状に成形されている。本体ケース2の底部には、複数の多孔質セラミック吸水材5が均等な間隔で載置されており、底部から略垂直方向に立設されている。本体ケース2の側方には、タンク3が脱着自在に配置されている。
【0043】
タンク3は円筒状に成形されており、タンク内には、水が貯留されている。また、タンク3の下部には、タンク3の水を受ける水受け部4が配置されている。タンク3の水は、水受け部4を介して、本体ケース2の底部内に供給される。本体ケース2に供給された水が多孔質セラミック吸水材5と接触すると、多孔質セラミック吸水材5は水を吸収して、多孔質セラミック吸水材5の上部まで水を吸い上げる。
【0044】
ファン6は、本体ケース2の前面壁に配置されている。モータ7が回転すると、それに合わせてファン6が回転し、本体ケース2内部が負圧状態となるため、本体ケース2の吸入口9から吹出口8側に空気が吸引される。吸引された空気は、吸水した多孔質セラミック吸水材5の近傍を通過するため、多孔質セラミック吸水材5の表面部から水が気化し、空気中の熱が奪われる。その結果、吹出口8から吹き出される風は冷風となる。
【0045】
多孔質セラミック吸水材5は、平板状に成形されおり、本体ケース2の内部において、並列に並んで配置されている。多孔質セラミック吸水材5の下部は、本体ケース2の底部内の水に浸されており、多孔質セラミック吸水材5に吸収された水は、吸収セラミック5の上部に供給される。
【0046】
光源10を設ける場合には、本体ケース2の内部において、本体ケース2の上部且つ多孔質セラミック吸水材5の上部に配置される。光源10とは、多孔質セラミック吸水材に担持させた光触媒の触媒効果の性能を発揮できるものであればなんでもよく、例えば、紫外線ランプやLEDがあげられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(石灰岩汚泥(ミツボシ粘土)の組成分析)
実施例、比較例で用いる石灰岩汚泥(ミツボシ粘土)について、JIS R 2216に規定する試験方法に従い、組成(質量%)を分析した。
【0049】
【表1】

【0050】
(微砂キラの組成分析)
実施例、比較例で用いる微砂キラについて、JIS R 2216に規定する試験方法に従い、組成(質量%)を分析した。
【0051】
【表2】

【0052】
(多孔質吸水材の製造)
(実施例1)
石灰岩汚泥及び微砂キラとベントナイトを、下記の表3に示す割合(質量%)で調合したものを原料として、これをトロンミル粉砕し、スプレードライヤーで顆粒粉にして、縦217.0mm×横217.0mm×厚さ4.7mmの平板として成形(圧力250kg/cm)、焼成し(温度1250℃、時間90分)、多孔質セラミック吸水材を得た。この場合、焼成前の組成物中のCaCOは、CaCO及びSiOの合計に対して42.9質量%であり、焼成前の組成物中のSiOは、CaCO及びSiOの合計に対して57.1質量%であった。また、CaCO及びSiOの合計が焼成前の組成物の全質量に対して85.0質量%であった。
【0053】
(実施例2)
上記石灰岩汚泥及び微砂キラとベントナイトを、下記の表3に示す割合(質量%)で調合した以外は実施例1と同様に行い、多孔質セラミック吸水材を得た。この場合、焼成前の組成物中のCaCOは、CaCO及びSiOの合計に対して35.9質量%であり、焼成前の組成物中のSiOは、CaCO及びSiOの合計に対して64.1質量%であった。また、CaCO及びSiOの合計が焼成前の組成物の全質量に対して80.2質量%であった。
【0054】
(実施例3)
上記石灰岩汚泥及び微砂キラとベントナイトを、下記の表3に示す割合(質量%)で調合した以外は実施例1と同様に行い、多孔質セラミック吸水材を得た。この場合、焼成前の組成物中のCaCOは、CaCO及びSiOの合計に対して50.0質量%であり、焼成前の組成物中のSiOは、CaCO及びSiOの合計に対して50.0質量%であった。また、CaCO及びSiOの合計が焼成前の組成物の全質量に対して78.8質量%であった。
【0055】
(実施例4)
上記石灰岩汚泥及び微砂キラとベントナイトを、下記の表3に示す割合(質量%)で調合し、これに、市販の乾燥スパゲティ(太さ1.6mm)を細かく砕いて、全質量の30%となるように、乾燥スパゲティを混合したものを原料とし、実施例1の工程と同様に行い、多孔質セラミック吸水材を得た。
【0056】
(実施例5)
上記石灰岩汚泥及び微砂キラとベントナイトを、下記の表3に示す割合(質量%)で調合したものと水とを2:1の割合で混合してスラリーにし、縦220.0mm×横220.0×厚さ5.0mmの大きさのウレタンスポンジ(質量:120g)に含浸させた。含浸後のウレタンスポンジとスラリーの質量の合計を25gに調整して、乾燥後、焼成して(温度1240℃、時間90分)多孔質セラミック吸水材を得た。
【0057】
(比較例1)
比較例1の吸水部材として、縦60.3mm×横237.9mm×厚さ18.6mmの大きさの石膏(サンケイ石膏株式会社製)を用意した。
【0058】
(比較例2)
比較例2の吸水部材として、縦148.5mm×横145.1mm×厚さ7.4mmの大きさのコージライト(株式会社神谷匣鉢製)を用意した。
【0059】
(比較例3)
比較例3の吸水部材として、長石:陶石:粘土=60:20:20の割合(質量%)で調合した磁器タイルの原材料と水とを2:1の割合で混合してスラリーにし、縦220.0mm×横220.0×厚さ5.0mmの大きさのウレタンスポンジ(質量:120g)に含浸させた。含浸後のウレタンスポンジとスラリーの質量の合計を25gに調整して、乾燥後、1290℃、70分で焼成して、磁器タイルを用意した。
【0060】
(比較例4)
比較例4の吸水部材として、縦113.9mm×横113.0mm×厚さ65.0mmの大きさの耐火断熱レンガ(丸越工業株式会社製、MARUKOSI C−1)を用意した。
【0061】
(収縮率の測定)
実施例1乃至5の多孔質セラミック吸水材、及び比較例3の吸水部材について、収縮試験を行った。収縮率は、以下の式(1)で求め、その結果を表3に示した。なお、式(1)中の多孔質セラミック吸水材寸法とは、縦と横の寸法(cm)を合計したものをいう。

【数1】

【0062】
【表3】

【0063】
石灰岩汚泥及び微砂キラとベントナイトを表3に示したとおりに調合した実施例1乃至3において、収縮変化がほとんどなく、ワレもキレも発生していないことが確認された。実施例4及び5において、石灰岩汚泥及び微砂キラとベントナイト以外の材料を用いて製造した多孔質セラミック吸水材においても、収縮変化がほとんどなく、ワレもキレも発生していないことが確認された。一方、比較例3においては、収縮変化が大きいことが確認された。よって、本発明の多孔質セラミック吸水材は、収縮率の変化が小さいため、歩留りに優れた吸水材である。
【0064】
実施例1〜5で用いた石灰岩汚泥に含まれるCaCO及びSiOの含有量は、分析値及びCaO、CaCOの分子量をもとに、CaCOが75.64質量%、SiOが7.42質量%であると計算される。同様に、実施例1〜5で用いた微砂キラに含まれるCaCO及びSiOの含有量についても、分析値及びCaO、CaCOの分子量をもとに、CaCOが0.161質量%、SiOが93.43質量%であると計算される。石灰岩汚泥の方により多くのCaCOが含まれるため、石灰岩汚泥と微砂キラの配合比が42:58の場合にCaCOの配合比が最も低くなり、この場合のCaCOは35.7質量%となる。したがって、石灰岩汚泥及び微砂キラの合計に対する一方の成分の比率が42質量%を下回ることがなければ、CaCO及びSiOの合計に対するCaCOの比率が35質量%を下回らないことがわかる。
【0065】
同様に、微砂キラの方により多くのSiOが含まれるため、石灰岩汚泥と微砂キラの配合比が58:42の場合にSiOの配合比が最も低くなり、この場合のSiOは49.7質量%となる。したがって、石灰岩汚泥及び微砂キラの合計に対する一方の成分の比率が42質量%を下回ることがなければ、CaCO及びSiOの合計に対するSiOの比率が49質量%を下回らないことがわかる。
【0066】
また、実施例1〜5で用いた石灰岩汚泥と微砂キラを比べると、石灰岩汚泥の方がCaCO及びSiO以外の成分が多いため、石灰岩汚泥と微砂キラの配合比が58:42の場合に多孔質セラミック吸水材中の2成分の配合比が最も低くなると考えられる。例えば、石灰岩汚泥:微砂キラ:粘土等の追加成分の比を58:42:11.11とした場合(必須2成分の合計が全質量に対して約90質量%の場合に相当)、多孔質セラミック吸水材中のCaCO及びSiOの合計の割合は、78.7質量%となる。したがって、石灰岩汚泥及び微砂キラの合計が全質量に対して90質量%以上であれば、CaCO及びSiOの合計が組成物の全質量に対して78質量%以上となることがわかる。
【0067】
(吸水量、及び時間当りの水分蒸発量)
実施例1で得られた多孔質セラミック吸水材及び比較例1〜4で得られた吸水部材を、大きさ50mm×100mmにして、水に24時間浸漬させた後、吸水質量(体積当たりの吸水質量、g/cm)を測定した。次に、この多孔質セラミック吸水材及び吸収部材を無風状態の室内(室温約25℃、相対湿度約58%)で放置し、吸水質量が初期質量(水に浸漬する前の質量)に戻るまでの時間(乾燥時間)を測定した。結果を表4に示した。
【0068】
【表4】

【0069】
実施例1と比較例1〜4を比較すると、本発明の多孔質セラミック吸水材は、吸水性が高く、時間当たりの水分蒸発量が多いことが確認された。すなわち、他の無機材質と比べて吸水しやすく乾燥しやすい材質であり、冷風扇用吸収部材として特に優れていることが確認された。
【0070】
(細孔径分布)
上記石灰岩汚泥及び微砂キラとベントナイトを、上記の表3に示す実施例1とおなじ割合(質量%)で調合し、焼結温度を1240℃及び1280℃で焼結した。製造された多孔質セラミック吸水材の細孔径分布を細孔径分布測定器(Poremaster60、東芝株式会社製)を用いて、水銀圧入法により測定した。その結果を図5に示す。
【0071】
図5より、本発明の多孔質セラミック吸水材の細孔径は5μmから50μmであることが示された。
【0072】
(実施例6〜8)
焼成温度をそれぞれ1000℃、1100℃、1200℃とした以外は実施例1と同様に行い、多孔質セラミック吸水材を得た。
【0073】
(pH測定)
上記のように得られた実施例6〜8の多孔質セラミック吸水材の切片に対して、蒸留水を加えて(質量比で多孔質セラミック吸水材:蒸留水=1:10)、6時間振とうした後、濾過を行い、この液を溶出液とした。この溶出液について、ガラス電極法を用いてpHを測定した。結果を表5に示した。
【0074】
【表5】

【0075】
実施例6〜8のいずれの場合であっても、すなわち、焼成温度の高低に関わらず、pHが11.89〜12.90と比較的強いアルカリ性を示すことが確認された。
【0076】
(実施例9)
実施例4の多孔質セラミック吸水材に、酸化チタン(ST−01(平均粒子径7nm)、石原産業株式会社製):水=1:8の溶液(酸化チタン濃度約11質量%の分散液)を1分間含浸させ、105℃にて120分間乾燥させた。酸化チタンの目付け量は約68g/mであった。
【0077】
(カビ発生の有無)
実施例1及び9で得られた多孔質セラミック吸水材を13枚並列に並べた冷風扇、及び比較例1乃至3の吸水部材それぞれ5枚、9枚、13枚を並列に並べた冷風扇を1日6時間稼働させ、2週間目及び2か月目に、目視により、吸水部材へのカビ発生の有無を確認した。結果を表6に示した。
【0078】
【表6】

【0079】
実施例1及び9と比較例1乃至3を比較すると、試験開始2週間後において、本発明の多孔質セラミック吸水材を吸収部材として用いる冷風扇は、カビの発生が見られないことが確認された。さらに、実施例9の多孔質セラミック吸水材は、酸化チタンを担持しているので、光触媒効果によって、試験開始後2ヶ月経過してもカビの発生は見られないことが確認された。従って、本発明の多孔質セラミック吸水材及び冷風扇によれば、長期間に亘ってカビの発生を抑えることができることが確認された。
【0080】
(実施例10)
実施例1の多孔質セラミック吸水材に、酸化チタン(ST−01(平均粒子径7nm)、石原産業株式会社製):水=1:8の溶液(酸化チタン濃度約11質量%の分散液)を1分間含浸させ、105℃にて120分間乾燥させた。酸化チタンの目付け量は約50g/mであった。
【0081】
(実施例11)
実施例4の多孔質セラミック吸水材に、酸化チタン(ST−01(平均粒子径7nm)、石原産業株式会社製):水=1:8の溶液(酸化チタン濃度約11質量%の分散液)を1分間含浸させ、105℃にて120分間乾燥させた。酸化チタンの目付け量は約68g/mであった。
【0082】
(実施例12)
実施例5の多孔質セラミック吸水材に、酸化チタン(ST−01(平均粒子径7nm)、石原産業株式会社製):水=1:8の溶液(酸化チタン濃度約11質量%の分散液)を1分間含浸させ、105℃にて120分間乾燥させた。酸化チタンの目付け量は約62g/mであった。
【0083】
(光触媒担持多孔質セラミック洗浄試験結果)
実施例10、11及び12の多孔質セラミック吸水材を、1時間水に浸漬後、超音波洗浄器(TSK−200、東芝株式会社製)で8分洗浄、乾燥後の重量を測定した。洗浄前後の多孔質セラミック吸水材に担持させた酸化チタンの脱落率を以下の式(2)で求めた。試験結果を表7に示した。
【数2】

【0084】
【表7】

【0085】
実施例10乃至12の多孔質セラミック吸水材は、接着剤のような酸化チタンを固定させるものを使用していないにもかかわらず、洗浄後の酸化チタンの脱落がほとんどないことが確認された。
【0086】
(光触媒によるアセトアルデヒド除去性能)
実施例11及び12の多孔質セラミック吸水材の洗浄前の試料と洗浄後の試料について、JIS R 1701−2に基づいて、アセトアルデヒド除去性能を測定した。その結果を表8に示した。


【0087】
【表8】

【0088】
実施例11及び12から、洗浄前及び洗浄後の試料についても、アセトアルデヒドの除去効果が確認された。従って、本発明の多孔質セラミック吸水材を用いることにより、吸水部材の洗浄を行なった後でも十分な脱臭効果を有する冷風扇が得られる。
【符号の説明】
【0089】
1 冷風扇
2 本体ケース
3 タンク
4 水受け部
5 多孔質セラミック吸水材
6 ファン
7 モータ
8 吹出口
9 吸入口
10 光源(紫外線ランプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaCO及びSiOを必須2成分とし、必須2成分の合計に対するCaCOの比率が35質量%を下回ることなく、必須2成分の合計に対するSiOの比率が49質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量に対して78質量%以上である組成物を焼結して得られる多孔質セラミック吸水材。
【請求項2】
石灰岩汚泥及び微砂キラを必須2成分とし、必須2成分の合計に対する必須2成分の一方の成分の比率が42質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量に対して90質量%以上である組成物を焼結して得られる請求項1に記載の多孔質セラミック吸水材。
【請求項3】
CaCO及びSiOを必須2成分とし、必須2成分の合計に対するCaCOの比率が35質量%を下回ることなく、必須2成分の合計に対するSiOの比率が49質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量に対して78質量%以上である組成物を焼結して得られる多孔質セラミック吸水材であって、該多孔質セラミック吸水材は5μm以上50μm以下の細孔を有し、該細孔には粒子径が5nm以上30nm以下である光触媒が担持されていること特徴とする多孔質セラミック吸水材。
【請求項4】
石灰岩汚泥及び微砂キラを必須2成分とし、必須2成分の合計に対する必須2成分の一方の成分の比率が42質量%を下回ることなく、必須2成分の合計が全質量に対して90質量%以上である組成物を焼結し、得られた焼結物の細孔に光触媒を担持させることにより得られる請求項3に記載の多孔質セラミック吸水材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質セラミック吸水材からなる吸水部材に水供給手段で水を含浸させ、該吸水部材に送風手段で空気を吹き付けて吸水部材の表面部から水を気化させ空気から気化熱を奪って冷風を生成することを特徴とする冷風扇。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−116626(P2011−116626A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199870(P2010−199870)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(590001670)株式会社カネキ製陶所 (3)
【Fターム(参考)】