説明

吸着用部材

【課題】吸着部を構成する多孔質体の目詰まりを抑制し、吸着力の低下を抑制することができる吸着用部材を提供する。
【解決手段】吸着用部材1Aは、被加工物を吸着する吸着面2aを備えたセラミック多孔質体からなる吸着部2と、該吸着部2を囲繞した、被加工物からの加工屑を捕集するためのセラミック多孔質体からなる捕集部3と、該捕集部3を囲繞して前記吸着部2および捕集部3を収容する凹部を有する支持部4とを有する。吸着部2の外周面および捕集部3の内周面は、互いに係合する段差部8を有しているとともに、該段差部8を含んで吸着部2の外周面と捕集部3の内周面とが接合材によって接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば研削等の加工を行う際に、被加工物を吸着する吸着用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハなどの基板表面に平面研削加工等を施す場合には、基板を保持することが可能な載置用装置に載置し、加工面に研削液を常時供給しながら研削加工を実施する。このような基板を載置して保持することが可能な載置用装置の1つとして、多孔質(ポーラス)体からなる吸着部を介して基板を真空吸着する真空吸着装置が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、被吸着物を載置する多孔質体からなる載置部(吸着部)と、吸着部の外縁を囲繞、支持する支持部と、支持部に形成された吸引部とを具備する真空吸着装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−358595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔質体からなる吸着部を有する真空吸着装置を用いてシリコンウェハを保持しつつ研削加工を行うと、シリコンウェハの端部と吸着部との間に形成される隙間から研削液が多孔質体に入り込んで、研削液に含まれる研削屑等が吸着部の多孔質体に目詰まりする可能性がある。特許文献1に記載された真空吸着装置は、多孔質体に目詰まりした汚染物を除去するために洗浄液を注入する吸引部を具備しているが、真空吸着装置を長期間使用すると、洗浄を繰り返しても多孔質体に目詰まりした汚染物が除去できなくなり、吸着力の低下につながるという問題があった。
【0006】
よって、吸着部を構成する多孔質体の目詰まりを抑制し、吸着力の低下を抑制することができる吸着用部材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る吸着用部材は、被加工物を吸着する吸着面を備えたセラミック多孔質体からなる吸着部と、該吸着部を囲繞した、前記被加工物からの加工屑を捕集するためのセラミック多孔質体からなる捕集部と、該捕集部を囲繞して前記吸着部および前記捕集部を収容する凹部を有する支持部とを有する吸着用部材であって、前記吸着部の外周面および前記捕集部の内周面が互いに係合する段差部を有しているとともに、該段差部を含んで前記吸着部の外周面と前記捕集部の内周面とが接合材によって接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係る吸着用部材によれば、吸着部を構成するセラミック多孔質体の目詰まりを抑制し、吸着力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態による吸着用部材の構成例を示す斜視図である。
【図2】図1の吸着用部材の構成例を示す、(a)が断面図、(b)が(a)の部分拡大図、(c)が吸着部と捕集部の接合部分の拡大図である。
【図3】図2の吸着用部材の変形例を示す、(a)が断面図、(b)が(a)の部分拡大図、(c)が吸着部と捕集部の接合部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態による吸着用部材1Aは、中央に設けられた円板状の吸着部2と、吸着部2を囲繞して、加工屑を捕集する環状の捕集部3と、捕集部3を囲繞して、吸着部2および捕集部3を支持する支持部4とを有する。吸着部2は、試料Sを載置して吸着するための吸着面2aを備える。
【0012】
捕集部3は、試料Sを加工する際に、試料Sからの加工屑を捕集するための部材である。例えば、吸着面2a上に試料Sを載置して、研削液を供給しながら、試料Sの表面を研削する場合、試料Sと吸着面2aとの間、すなわち試料Sの研削面とは反対側の面と吸着面2aとの間に研削液およびその研削液に含まれる研削屑が入り込もうとしても、それらは捕集部3によって捕集され、吸着部2に入り込むことを抑制することができる。
【0013】
また、捕集部3の多孔質体は、その吸水率が、吸着部2の多孔質体よりも高い。これにより、シリコンウェハ等の試料の研削時に発生する研削屑は、研削液とともに、吸水率の高い多孔質体の方に捕集されやすくなり、吸着部2のセラミック多孔質体の細孔が研削屑を捕集することによって閉塞されにくく、吸着部2のセラミック多孔質体の細孔閉塞による吸着力の低下発生を抑制することが可能となる。吸水率はJIS R 1634−1998に規定されたアルキメデス法の乾燥重量W1と飽水重量W3を用いて、(W3−W1)/W1×100(%)の式を用いて算出することが可能であり、捕集部3の多孔質体の吸水率は、吸着部2のセラミックス多孔質体の吸水率の1.2倍以上とするのが好ましい。なお、捕集部3の多孔質体の吸水率は、例えば13〜16%であることが好ましい。
【0014】
吸着部2及び捕集部3は、例えばアルミナ,炭化珪素,又は窒化珪素などのセラミックスの多孔質体からなり、支持部4は、例えばアルミナ,炭化珪素,又は窒化珪素などのセラミックスの緻密質体からなる。
【0015】
支持部4は、吸着部2及び捕集部3を収容する収容部5と、この収容部5の底面に開口を有する貫通孔6a,6b(以下、特に区別しない場合には「貫通孔6」という。)とを有している。
【0016】
貫通孔6a,6bは、真空吸引口7a,7bやパイプ(図示せず)を介して、真空吸引装置である真空ポンプ(図示せず)に接続されている。この吸着用部材1Aを使用する際には、吸着部2の吸着面2a上に試料Sを載置して吸着部2の気孔および貫通孔6aを介して真空ポンプで吸引を行うことにより、試料Sを吸着面2a上に吸着保持することができる。
【0017】
また、貫通孔6bは、捕集部3に接続される。貫通孔6bは、捕集した研削屑を捕集部3を通して排出するための研削屑排出用の貫通孔である。これは、上記貫通孔6aとは作用が異なる。貫通孔6bによって捕集部3を吸引することにより、捕集部3に捕集された研削屑を研削液と同時に外部に排出することができる。
【0018】
なお、捕集部3のセラミック多孔質体の気孔部分の平均細孔径は、40μm以上であることが好ましい。このとき、捕集部3のセラミック多孔質体の通気率が0.3%以上となる。ここで、通気率とは、vを単位時間当たりの通気量、tを試料厚み、Aを通気断面積、およびΔpを通気圧力とすると、f=(v・t)/(A・Δp)で表される。このように、
通気率が0.3%以上であるとき、捕集部3の吸引を十分行うことができ、研削屑等の排出を効率よく行うことができる。さらに好ましくは、捕集部3のセラミック多孔質体は、平均細孔径は100μm以上、通気率は1.4%以上であることが好ましい。なお、平均細孔径が大きくなるほど通気率は大きくなるが、平均細孔径が500μm程度(通気率は9.1%程度)までであれば、捕集部3を構成するセラミック多孔質体としての十分に作用し得る。
【0019】
なお、上記平均細孔径は、水銀圧入法(JIS R 1655−2003に準じる)によって測定可能である。水銀圧入法とは、試料を没した水銀に順次圧力を加え、細孔中への水銀圧入量を求めることにより細孔径分布を得る方法である。
【0020】
また、捕集部3のセラミック多孔質体は、上記0.3%以上の通気率を実現するために、上記平均細孔径の特性以外に、気孔率が好ましくは20%以上40%以下、より好ましくは、35±3%であることがより好ましい。気孔率は、アルキメデス法(JIS R 1634に準じる)により求められる。
【0021】
一方、吸着部2のセラミック多孔質体は、試料Sを安定して吸着するために、平均細孔径は、好ましくは、20μm以上であればよいが、加工屑を必要以上に吸着しないように、より好ましくは、20μm以上100μ以下であるとよい。
【0022】
本実施の形態による吸着用部材1Aによれば、吸着部2の周囲に捕集部3が設けられているため、研削屑等の加工屑は吸着部2に入り込む前にまず捕集部3によって捕集される。これにより、多孔質体からなる吸着部2の目詰まりを抑制し、吸着力の低下を抑制することができる。
【0023】
また、吸着部2および捕集部3が分離され、吸着部2の底面および捕集部3の底面が支持部4の収容部5の内面にそれぞれ接していることから、吸着部2および捕集部3の吸引をそれぞれ独立して行うことができる。
【0024】
また、図1および図2の構成によれば、貫通孔6a,6bという、それぞれ別々の機構によっては吸引を行うため、一方の吸引が他方の吸引に影響を与えることをより効果的に抑制することができる。
【0025】
また、吸着用部材1Aは、吸着面2a、捕集部3の上面3a、および支持部4の上面4aが略同一面をなしており、試料Sを水平に安定して保持することができる。ここで、捕集部3の上面3aとは、吸着面3aの周囲にある面のことであり、支持部4の上面4aとは、収容部5が設けられた面をいい、吸着部3の上面3aの周囲にある面のことである。支持部4は、吸着用部材1Aを各種装置にネジ止め等によって取り付けるために、フランジ部4bが設けられていてもよい。
【0026】
図2(a)は、本実施形態による吸着用部材1Aの断面図であり、図2(b)は、図2(a)の部分拡大図である。また、図2(c)は、吸着部2の外周面と捕集部3の内周面との接合部分の拡大図を示す。なお、図を分かりやすくするために、図2(b)では貫通孔6を省略している。
【0027】
本実施形態による吸着用部材1Aは、図2に示すように、吸着部2の外周面と環状の捕集部3の内周面が、互いに係合する段差部8を有している。段差部8を含んで吸着部2の外周面と捕集部3の内周面とが接合材Pによって接合されている。また、吸着部2および捕集部3が有する段差部8は、吸着部2の厚さ方向に略平行な第1部位8a1,8a2と、第1部位8a1,8a2の間において吸着面2aに略平行な第2部位8bとをそれぞれ
有している。接合材Pとしては、例えば、ガラスや有機接着剤を用いることができる。
【0028】
このとき、図2(c)に示すように、吸着面2aおよび捕集部3の上面(以下、「捕集面」ともいう。)3aにより近い第1部位8a1同士の間に設ける接合材Pの量を、第1部位8a2同士の間、および第2部位8b同士の間に設ける接合材Pの量よりも少なくすると、吸着部2の外周面と捕集部3の内周面との間の間隔を、吸着面2aおよび捕集面3aに近い部位においてより小さくすることができる。具体的には、捕集面3aと捕集部3の段差部8との間における上記間隔を、吸着部2の吸着面2aとは反対側の面と吸着部2の段差部8との間における間隔よりも小さくすることができる。
【0029】
一方、第1部位8a2同士および第2部位8b同士の間に設ける接合材Pの量は比較的多くすることができることから、吸着部2の外周面および捕集部3の内周面は強固に接合することができる。これにより、本実施の形態による吸着用部材1Aによれば、吸着部2と捕集部3の接合強度を保持しつつ、吸着面2aと捕集面3aとの間の隙間をできる限り小さくすることができる。その結果、吸着面2aおよび捕集面3aに近い部位において吸着部2と捕集部3との間に隙間が生じることを抑制することができ、研削液およびその研削液に含まれる研削屑が上記隙間を介して吸着部2に入り込むことを抑制することができる。
【0030】
また、吸着面2aおよび捕集面3aに近い部位において吸着部2と捕集部3との間に隙間が生じることを抑制することができるため、吸着部2および捕集部3とその隙間との間の強度の違いによって、試料Sにリング状の転写が生じることを抑制することができる。また、吸着部2と捕集部3はともにセラミック多孔質体から構成されているので、吸着部2と捕集部3との強度の違いによる加工段差での転写を抑制することができる。
【0031】
さらに、試料Sを載置する吸着面2aを平面研削加工した際に、吸着部2と捕集部3の境界部(接合部)に加工時の振動などによる応力が作用しても、接合部に亀裂や破損などの欠陥が生じにくく、エアー漏れによる吸着用部材1Aの吸着力低下が起こりにくい。これは、平面研削加工時の振動等によって生じる応力が段差部8で分散されるとともに、接合部に欠陥が生じても、段差部8においてその欠陥の進展を止め、抑制することができることから、欠陥からのエアー漏れによる吸着力の低下を抑制することができるからと考えられる。
【0032】
一方、吸着部2の外周面および捕集部3の内周面が段差部8を有していない場合には、平面研削加工した際に、吸着部2と捕集部3の境界部に応力が作用して接合部に亀裂や破損などの欠陥が生じ、吸着面2a上を往復して平面加工する加工ツールからの振動などにより、亀裂や破損などの欠陥が接合部全体にわたって進展し易く、接合部の亀裂や破損箇所からエアー漏れが生じるため吸着力の低下が起こりやすい。なお、平面研削加工時に砥石などの加工ツールからは、周波数50〜200Hzの振動が加工物に作用する。
【0033】
また、本実施形態による吸着用部材1Aは、試料を載置する吸着面2aおよび捕集面3aから、セラミック多孔質体の厚さの1/2以上の位置に段差部8が設けられるのが良い。吸着部2と捕集部3との境界の接合部に発生する欠陥の進展を考慮すると、吸着面2aおよび捕集面3aから近い位置に段を設け、加工による振動が作用し易い吸着面2aになるべく近い位置で欠陥の進展を抑制することが良いと思われるが、図2(b)に示すように、捕集面3aから捕集部3の段差部8までの距離に相当する捕集部3の凸部3bの高さhが短いと、凸部3bが平面研削加工時に加わる応力によって破損を生じ易くなることも考えられる。さらに、段差部8の下方は、加工時の応力や振動の影響を受けにくく、欠陥が生じる可能性が極めて少ないことから、エアー漏れの発生が抑制される。よって、吸着部2の下面側からエアー吸引を実施することを考慮すると、エアー吸引源に近い位置に段
差部8を形成してその下方にエアー漏れが抑制される部分を配置することがより好ましいと考えられる。したがって、捕集面3aから段差部8までの高さhは、セラミック多孔質体の厚さの1/2以上とするのが良い。捕集面3aから捕集部3の段差部8までの高さhとセラミック多孔質体の厚さTの関係は、h≧1/2Tとするのがよい。
【0034】
なお、図2に示した吸着用部材1Aでは、セラミック多孔質体の吸着面2a(上面)よりも吸着面2aと反対側の下面の方が大きな面積である場合を示したが、図3に示すように、下面よりも吸着面2aの方が大きな面積を有する吸着用部材1Bであっても良い。この場合も、吸着面2aおよび捕集面3aにより近い第1部位8a1同士の間に設ける接合材Pの量を、第1部位8a2同士の間、および第2部位8b同士の間に設ける接合材Pの量よりも少なくすると、吸着部2の外周面と捕集部3の内周面との間の間隔を、吸着面2aおよび捕集面3aに近い部位においてより小さくすることができる。具体的には、吸着面2aと吸着部2の段差部8との間における上記間隔を、捕集部3の捕集面3aとは反対側の面の捕集部2の段差部8との間における間隔よりも小さくすることができる。
【0035】
また、吸着用部材1Bも、吸着用部材1Aと同様に、エアーの吸引源に近いセラミック多孔質体の厚さの1/2以上の位置に段差部8が設けられるのが良く、図3(b)の凸部2bの吸着面2aから段までの高さhは、吸着部2のセラミック多孔質体の厚さの1/2以上とするのが良い。これは、上述したように、高さhが1/2未満である場合には、吸着部2の凸部2bが吸着面2aの平面研削加工時に加わる応力によって破損を生じ易いためである。吸着面2aから吸着部2の段差部8までの高さhとセラミック多孔質体の厚さTの関係は、h≧1/2Tとするのが良い。
【0036】
次に、本実施形態による吸着用部材1Aの製造方法について説明する。
【0037】
(1)吸着部2の製造
まず、図1および図2に示すセラミック多孔質体からなる吸着部2を製造する。α型炭化珪素粉末、珪素粉末及び成形助剤となるフェノール樹脂を均一に混合し、調合原料を作製する。この調合原料を転動造粒機に投入し、顆粒とした後、外周部に段差部を有した形状の金型による乾式加圧成形にて成形体を得る。次に、この成形体を窒素雰囲気中、500℃〜700℃で脱脂処理した後、1420℃〜1900℃で同じく窒素雰囲気中で熱処理して、所定形状となるよう研削加工を施すことにより、炭化珪素多孔質体からなる図2に示す吸着部2を作製する。なお、調合するα型炭化珪素粉末、珪素粉末の粒径は、好ましくは、40μm〜1000μmであればよいが、平均細孔径を20μm〜100μmにするために、より好ましくは、40μm〜210μmにするとよい。ここで、粒径とは、JISR1619規格に準ずる。
【0038】
なお、吸着部2の主成分がアルミナの場合には、主原料に対し、3〜20重量%の範囲で焼失材を添加混合する。ここで、焼失材とは焼成時に燃えてなくなる材質のことであり、例えば、粉末ポリエチレン、酢酸ビニール、セルロース、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂などの樹脂剤、あるいは炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどを好適に用いることができる。一軸方向加圧成形機の金型中に、焼失材を添加した原料を充填し、圧縮成形する。このようにして得た成形体を1600〜1750℃の焼成温度で焼成すれば、原料中の焼失材が燃えてなくなり、その跡が気孔となって残るため、その後、所定形状となるよう研削加工を施すことにより、アルミナ多孔質体からなる吸着部2を得ることができる。
【0039】
(2)捕集部3の製造
次に、図2に示す捕集部3の製造を行う。ここで、調合原料となるセラミックス粉末の粒径は、80μm〜1000μmであることが好ましいが、平均細孔径を100μm以上
にするために、より好ましくは、210μm〜1000μmにするとよい。図2に示す捕集部3については、成形体を形成するときに、内周面に段差部を有する環状の金型を用いること以外は、吸着部2の製造方法と同様である。
【0040】
(3)支持部4の製造
次に、支持部4は、次のように製造する。まず、主成分をなすセラミック粉末に、所定の焼結助剤あるいは安定化剤とバインダーをそれぞれ添加したセラミック原料を用意する。例えば主成分がSiCである場合には、SiCに対してC、B、BC、Al、Y等のうち少なくとも一種を焼結助剤として添加する。硬質ゴムからなる型の中にセラミック原料を充填したあと、均一に静水圧をかけて成形するCIP(冷間静水圧プレス)成形法により成形する。前記CIP成形法により得られた成形体に所定形状となるように切削加工を施し、1700〜1900℃の焼成温度で、各セラミック粉末を完全に焼結させる温度にて焼成し、所定形状に研削加工を施すことにより、緻密質な支持部4となる。
【0041】
アルミナを主成分とする場合には、高純度のアルミナ粉末に、所定の焼結助剤あるいは安定化剤とバインダーをそれぞれ添加したセラミック原料を用意する。例えば、Alに対しては焼結助剤としてMgO、CaO、SiOのうち少なくとも一種を添加する。そしてこのセラミック原料を、硬質ゴムからなる型の中に充填した後、均一にCIP(冷間静水圧プレス)成形法により成形する。このようにして得た成形体を、1600〜1750℃の焼成温度で焼成し、所定形状に研削加工を施すことにより支持部4を得ることができる。
【0042】
(4)吸着部2、捕集部3および支持部4の接合
まず、吸着部2の外周面又は捕集部3の内周面の少なくともいずれか一方に接合材を塗布する。この際、接合材の塗布は、第1部位8a1に沿って塗布される量が、第1部位8a2および第2部位8bに沿って塗布される量よりも多くなるように行う。
【0043】
その後、吸着部2を捕集部3に嵌合させ、吸着部2の外周面と捕集部3の内周面とを接合して、専用の加圧装置で厚み方向から加圧する。このとき、吸着部2の段差部8と捕集部3の段差部8との間のクリアランスは、図2(c)に示すように、0mm<T1<0.1mm、T2,T3>0.1mmとなるように設定する。
【0044】
一方、支持部4の収容部5内面にペースト状のガラスを塗布する。ガラス塗布後、吸着部2および捕集部3を収容部5に嵌合させ、専用の加圧装置で厚み方向から加圧する。
【0045】
その後、大気雰囲気または真空雰囲気炉内で800℃以上1300℃以下の温度で熱処理する。これにより、吸着部2と捕集部3、およびこれらと支持部4とが接合される。
なお、吸着部2と捕集部3との接合、吸着部2,捕集部3と支持部4との接合に用いるガラスは、Y,SiOおよびAlを所定比率で混合し、これに溶媒を添加したペースト状のガラスを用いるのが良い。また、SiO,Al,B,CaO,MgOおよびTiOと溶媒を所定比率で混合したガラスペーストや、SiO,Al,B,CaO,MgO,BaOおよびSrOと溶媒を所定比率で混合したガラスペーストも用いることが可能である。また、ガラスの代わりに樹脂によって接合してもよく、硬化剤を混ぜ合わせた樹脂接着剤を専用の加圧装置で厚み方向から加圧するまではガラスと同様の工程を用いて処置し、その後常温から70℃までを2〜24時間で乾燥させる。これにより、吸着部2、捕集部3、および支持部4が接合される。接合された結果得られたものを接合体という。
【0046】
(5)吸着面の平面研削加工方法
次に(4)で接合した接合体の吸着面2a,捕集面3aおよび上面4aに平面加工を施す。市販の平面研削盤上に、吸着面2a,捕集面3aおよび上面4aを上にして接合体を置いた状態で瞬間接着剤やワックスなどで盤上に貼り付ける。そして高精度に加工可能な所定の番手のダイヤモンドホイールを平面研削盤に取り付け、接合体表面に与える振動などの負荷の小さい所定の切り込み量で、吸着面2a,捕集面3aおよび上面4aの平面研削加工を実施する。
【0047】
以上の(1)〜(5)の製造方法により、本実施の形態による吸着用部材1Aを製造可能である。
【0048】
また、吸着用部材1Bも、吸着用部材1Aと同様の方法で製造可能である。
【0049】
なお、本実施形態による吸着用部材1A,1Bの吸着部2および捕集部3には、アルミナ,炭化珪素または窒化珪素などの各種セラミックからなる多孔質体を用いることができる。特に、シリコンウェハを吸着面に吸着保持し、その平面に高精度加工を施す際には、加工時に発生する熱を除去できる点から、熱伝導率の高い炭化珪素質焼結体を用いることが好ましい。
【0050】
また、本実施形態による吸着用部材1A,1Bの支持部4には、吸着部と同様に、アルミナ,炭化珪素または窒化珪素などの各種セラミックからなる緻密体を適用可能であるが、シリコンウェハ加工時に発生する熱を除去できる点から、熱伝導率の高い炭化珪素質焼結体を用いることが好ましい。さらに、支持部4については、吸着部2との接合時に熱処理を施すため、熱膨張差による接合部への応力集中の発生を考慮すると、吸着部2と同様の材質のセラミックからなる緻密体を適用することがより好ましい。支持部4の気孔率は1%以下とするのが良い。
【0051】
なお、上述の段差部8は複数段とすれば、吸着面2a,捕集面3a,上面4aを平面研削加工した際の応力を接合部の各段で分散可能であり、接合部に欠陥を生じても、加工時の振動による欠陥の進展をより生じにくいものとできる。
【0052】
なお、上述の説明では、加工屑の一例として研削屑を示しているが、これには、研削液に含まれる砥粒、試料や研削用砥石の微小な破片、および試料や研削用砥石に付着していたダスト等も含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1A,1B:吸着用部材
2:吸着部
2a:吸着面
2b:吸着部の凸部
3:捕集部
3a:捕集面
3b:捕集部の凸部
4:支持部
4a:上面
4b:フランジ部
5:収容部
6a,6b:貫通孔
7a,7b:真空吸引口
S:試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を吸着する吸着面を備えたセラミック多孔質体からなる吸着部と、該吸着部を囲繞した、前記被加工物からの加工屑を捕集するためのセラミック多孔質体からなる捕集部と、該捕集部を囲繞して前記吸着部および前記捕集部を収容する凹部を有する支持部とを有する吸着用部材であって、
前記吸着部の外周面および前記捕集部の内周面が互いに係合する段差部を有しているとともに、該段差部を含んで前記吸着部の外周面と前記捕集部の内周面とが接合材によって接合されていることを特徴とする吸着用部材。
【請求項2】
前記吸着面が該吸着面と反対側の面よりも面積が小さく、前記吸着部の外周面と前記捕集部の内周面との間隔は、前記捕集部の上面と前記捕集部の前記段差部との間における前記間隔が、前記吸着部の前記吸着面とは反対側の面と前記吸着部の前記段差部との間における前記間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の吸着用部材。
【請求項3】
前記吸着面が該吸着面と反対側の面よりも面積が大きく、前記吸着部の外周面と前記捕集部の内周面との間隔は、前記吸着面と前記吸着部の前記段差部との間における前記間隔が、前記捕集部の前記上面とは反対側の面と前記捕集部の前記段差部との間における前記間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の吸着用部材。
【請求項4】
前記吸着面が該吸着面と反対側の面よりも面積が小さく、前記捕集部の上面と前記捕集部の前記段差部との間における前記接合材の量が、前記吸着部の前記吸着面とは反対側の面と前記吸着部の前記段差部との間における前記接合材の量よりも少ないことを特徴とする請求項1または2に記載の吸着用部材。
【請求項5】
前記吸着面が該吸着面と反対側の面よりも面積が大きく、前記吸着面と前記吸着部の前記段差部との間における前記接合材の量が、前記捕集部の前記上面とは反対側の面と前記捕集部の前記段差部との間における前記接合材の量よりも少ないことを特徴とする請求項1または3に記載の吸着用部材。
【請求項6】
前記捕集部の前記段差部は、前記捕集部の上面からの距離が前記捕集部の前記セラミック多孔質体の厚さの1/2以上の位置にあることを特徴とする請求項1、請求項2および請求項4のいずれかに記載の吸着用部材。
【請求項7】
前記吸着部の前記段差部は、前記吸着面からの距離が前記吸着部の前記セラミック多孔質体の厚さの1/2以上の位置にあることを特徴とする請求項1、請求項3および請求項5のいずれかに記載の吸着用部材。
【請求項8】
前記支持部は、前記吸着部に接続されて該吸着部を吸引することによって、前期吸着面に前記被加工物を吸着するための第1貫通孔と、前記捕集部に接続されて該捕集部を吸引することによって、捕集した前記加工屑を前記捕集部を通して排出するための第2貫通孔とを有していることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の吸着用部材。
【請求項9】
前記載置部の前記セラミック多孔質体の平均細孔径は、20μm以上100μm以下であり、前記捕集部の前記セラミック多孔質体の平均細孔径は、100μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項8に記載の吸着用部材。
【請求項10】
前記捕集部の前記セラミック多孔質体の通気率が、0.3%以上であることを特徴とする請求項9に記載の吸着用部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−178447(P2012−178447A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40447(P2011−40447)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】