説明

吸音材および繊維吸音構造体ならびにこれらの製造方法

【課題】吸音機能付与材が外部からの摩擦等で容易に脱落、剥離することがなく、吸音機能付与材が直接人体に接触したり吸引されたりすることのない吸音材を提供すること。
【解決手段】本発明は、ポリマー(A)中に形成された、複数のセルを有する成形体であって、
(1)各セル中には吸音機能付与材が内包され、
(2)ポリマー(A)中には細孔が存在し、細孔は他の細孔とポリマー(A)中で連通し、それらの孔径が1nm〜1μmの範囲にあり、
(3)各セルの内壁と吸音機能付与材は実質的に接触していない、吸音材およびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材および繊維吸音構造体ならびにこれらの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、複数のセルを有し、各セル中に吸音機能付与材が内包された吸音材および繊維吸音構造体ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、騒音等の低減が重要な課題となって来ており、そのため、吸音体を配置したり、防音壁を設けたりする対策が採られるようになって来ている。
そして、吸音体や防音壁の素材としては、無機繊維から構成した繊維状吸音材を使用するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような吸音材は、無機質繊維にバインダーを混ぜて堆積させ、所定の厚さおよび密度となるように加熱加圧してバインダーを硬化させることによりマット状に形成する。
マット状物は、具体的に要求される形状および寸法に応じて、マットを複数枚積層して接着され、前記吸音体や防音壁に使用する繊維状吸音材としている。したがって、前記吸音体や防音壁に使用する繊維状吸音材は、その中に積層用接着剤層を含んでいるのが一般的である。
【0004】
ところが、このように繊維状吸音材を固定している場合には、外部からの摩擦等で、吸音体から、繊維状吸音材が脱落、剥離する可能性があるという懸念があった。
【特許文献1】特開平9−296533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、吸音機能付与材が外部からの摩擦等で容易に脱落、剥離することのない吸音材を提供することを目的とする。
また本発明は、吸音機能付与材が直接人体に接触したり吸引されたりすることのない吸音材を提供することを目的とする。
そして、繊維吸音構造体として、成型体を複合化させることで、吸音効果を大きく向上させた繊維吸音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは、ポリマー(A)と吸音機能付与材とを含有するドープを凝固液中で凝固させるいわゆる湿式法で成形する際に、吸音機能付与材の表面を特定のポリマー(C)で被覆すると、ポリマー(A)中にポリマー(C)で被覆された吸音機能付与材を内包した複数のセルが形成されることを見出した。また得られた成形体を特定の溶媒(E)で洗浄しポリマー(C)を除去することにより、セル中の吸音機能付与材は、セルの内壁に担持されることなく、ちょうど鈴の内部の空洞に入れられた珠のように、内壁と吸音機能付与材との間に空洞ができることを見出した。即ち、内部が空洞の球の中にもう一つの球が内包され、内包された球が自由に動くことができる構造が得られることを見出した。
【0007】
また本発明者らは、ポリマー(A)と吸音機能付与材を含有するドープを凝固液中で凝固させるいわゆる湿式法で成形する際に、ポリマー(A)および吸音機能付与材のどちらか一方を親水性とし、他方を疎水性にすることにより、ポリマー(A)中に吸音機能付与材を内包した複数のセルが形成され、セル中の吸音機能付与材は、セルの内壁に担持されることなく、ちょうど鈴の内部の空洞に入れられた珠のように、内壁と吸音機能付与材との間に空洞ができることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、ポリマー(A)中に形成された、複数のセルを有する成形体であって、
(1)各セル中には吸音機能付与材が内包され、
(2)ポリマー(A)中には細孔が存在し、細孔は他の細孔とポリマー(A)中で連通し、それらの孔径が1nm〜1μmの範囲にあり、
(3)各セルの内壁と吸音機能付与材は実質的に接触していない、吸音材である。
【0009】
また本発明は、ドープを凝固液中で凝固させることからなる、ポリマー(A)中に形成された複数のセルを有する成形体であって、各セル中には吸音機能付与材が内包されている吸音材の製造方法であって、
(1)ドープは、ポリマー(A)、溶媒(B)およびポリマー(C)で被覆された吸音機能付与材を含有し、
(2)凝固液は、ポリマー(A)の貧溶媒である溶媒(D)を含有し、
(3)ポリマー(C)は、ポリマー(A)と非相溶であり、
(4)溶媒(B)は、ポリマー(A)の良溶媒であり、かつ、ポリマー(C)の貧溶媒であることを特徴とする方法である。
【0010】
さらに本発明は、ドープを凝固液中で凝固させることからなるポリマー中に形成された、複数のセルを有する成形体であって、各セル中には吸音機能付与材が内包されている吸音材の製造方法であって、
(1)ドープは、ポリマー(A)、ポリマー(A)の良溶媒である溶媒(B)および吸音機能付与材を含有し、
(2)凝固液は、ポリマー(A)の貧溶媒である溶媒(D)を含有し、
(3)ドープ中の、ポリマー(A)が疎水性ポリマーであるとき吸音機能付与材は親水性であり、ポリマー(A)が親水性ポリマーであるとき吸音機能付与材は疎水性であることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸音材は、吸音機能付与材が外部からの摩擦等で容易に脱落、剥離することがない。本発明の吸音材は、吸音機能付与材が直接人体に接触したり吸引されたりすることがない。さらに、繊維吸音構造体として、吸音効果を大きく向上させることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<吸音材>
(ポリマー(A))
本発明の吸音材は、ポリマー(A)により形成される。ポリマー(A)として疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーが挙げられる。疎水性ポリマーとして、アラミドポリマー、アクリルポリマー、ビニルアルコールポリマー、セルロースポリマーなどが挙げられる。親水性ポリマーとして、水溶性澱粉、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性酢酸セルロース、キトサンなどが挙げられる。
【0013】
アラミドポリマーは、アミド結合の85モル%以上が芳香族ジアミンおよび芳香族ジカルボン酸成分よりなるポリマーが好ましい。その具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンイソフタルアミドを挙げることができる。アクリルポリマーは、85モル%以上のアクリロニトリル成分を含むポリマーが好ましい。共重合成分として、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリ酸メチル、および硫化スチレンスルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分が挙げられる。
【0014】
(細孔)
本発明の吸音材は、ポリマー自体に細孔を有するポリマー(A)により形成されている。細孔は他の細孔とポリマー(A)中で連通しており、細孔同士が連結した網目構造を形成している。細孔の孔径は1nm〜1μm、好ましくは10nm〜500nmの範囲にある。細孔は、ドープをポリマー(A)の貧溶媒である溶媒(D)を含有する凝固液中で凝固させることによりスピノーダル現象により形成される。細孔は、走査型電子顕微鏡写真、透過型電子顕微鏡写真により観察することができる。
【0015】
(セル)
本発明の吸音材中には複数のセルが形成される。セル中に吸音機能付与材が内包されている。セルの形状は一定ではない。大きさは吸音機能付与材を含むことが出来る大きさである。本発明の吸音材においては、各セルの内壁と吸音機能付与材は実質的に接触していない。即ち本発明の吸音材においては、セルの内壁と、吸音機能付与材との間にポリマー(C)が充填されている態様、およびセルの内壁と吸音機能付与材との間には空間が存在する態様がある。ポリマー(C)として澱粉糊のような水溶性高分子が挙げられる。
【0016】
(吸音機能付与材)
本発明における吸音機能付与材としては、金属酸化物、金属、無機物、鉱物および合成樹脂等をあげることができ、
これらは、同一の吸音材中に2種以上の吸音機能付与材を担持させることもできる。吸音機能付与材は、粒子状のものが好ましい。粒子の粒径は、好ましくは1nm〜500μm、より好ましくは1nm〜100μm、さらにより好ましくは1nm〜50μmである。
【0017】
(吸音材の形状)
本発明の吸音材は、球状、楕円状のような塊状のもの、紐状、パイプ状、中空糸状のような繊維状のもの、また膜状のものが好ましい。
【0018】
<吸音材の製造方法>
本発明の吸音材の製造方法は、ドープを凝固液中で凝固させることからなる、ポリマー(A)中に形成された複数のセルを有する成形体であって、各セル中には吸音機能付与材が内包されている吸音材の製造方法であって、
(1)ドープは、ポリマー(A)、溶媒(B)およびポリマー(C)で被覆された吸音機能付与材を含有し、
(2)凝固液は、ポリマー(A)の貧溶媒である溶媒(D)を含有し、
(3)ポリマー(C)は、ポリマー(A)と非相溶であり、
(4)溶媒(B)は、ポリマー(A)の良溶媒であり、かつ、ポリマー(C)の貧溶媒であることを特徴とする方法である(第1の態様)。
【0019】
(ドープ)
ポリマー(A)、吸音機能付与材は吸音材の項で説明した通りである。ドープ中に2種以上の吸音機能付与材を含有させることもできる。
【0020】
本発明では、吸音機能付与材をポリマー(C)で被覆する。ポリマー(C)は、ポリマー(A)と非相溶のポリマーである。非相溶とは、ポリマー(A)とポリマー(B)を混合した時に相分離するものを言う、より具体的には異種のポリマー分子が、分子オーダーで全く混合せず相分離しているか、相分離していても界面で互いに交じり合った状態にあるか、相分離していても互いの相の内部では異種のポリマー同士が分子オーダーで混合している状態のことを言う。ポリマー(C)として、澱粉糊、ゼラチン、片栗粉などの水溶性高分子、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0021】
ポリマー(A)が、アラミドポリマー、アクリルポリマー、ポリ乳酸などの疎水性ポリマーのとき、ポリマー(C)は、澱粉糊のような水溶性高分子であることが好ましい。被覆は溶融したポリマー(C)中に吸音機能付与材を入れて攪拌して行なうことが出来る。被覆の厚さは、10nm〜10mmで好ましくは100nm〜1mmである。
溶媒(B)は、ポリマー(A)の良溶媒であり、且つポリマー(C)の貧溶媒である。良溶媒とは一般に言われるように、ポリマーに対し大きな溶解能を有する溶媒である。貧溶媒とは一般に言われるように、ポリマーに対し溶解能の小さい溶媒である。
【0022】
たとえば、ポリマー(A)がポリメタフェニレンイソフタルアミドで、ポリマー(C)が水溶性高分子の場合、溶媒(B)はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好ましい。またポリマー(A)がアクリルポリマーで、ポリマー(C)が水溶性高分子の場合、溶媒(B)はジメチルスルホオキサド(DMSO)が好ましい。さらにはポリマー(A)がポリ乳酸で、ポリマー(C)が水溶性高分子の場合、溶媒(B)はジクロロメタン(DCM)が好ましい。
【0023】
ドープは、好ましくは100質量部のポリマー(A)に対し、100〜10,000質量部、より好ましくは1,000〜5,000質量部の溶媒(B)を含有する。吸音機能付与材は、ポリマー(A)100質量部に対し、好ましくは100〜10,000質量部、さらに好ましくは100〜1900質量部である。ポリマー(C)は、吸音機能付与材100質量部に対し、好ましくは10〜1,000質量部、さらに好ましくは10〜500質量部である。
【0024】
ドープの温度は、好ましくは5〜80℃、さらに好ましくは20〜50℃である。ドープは、溶媒(B)にポリマー(A)を混入し、充分に攪拌して溶解させた後に、ポリマー(C)で被覆した吸音機能付与材を添加しても良いし、溶媒(B)中にポリマー(A)とポリマー(C)で被覆した吸音機能付与材を同時に混入させても良い。
【0025】
(凝固液)
凝固液は、ポリマー(A)の貧溶媒である溶媒(D)を含有する。貧溶媒とは一般に言われるように、ポリマー(A)に対し溶解能を僅かしか持たない溶媒である。ポリマー(A)がポリメタフェニレンイソフタルアミドであるとき、溶媒(D)は水が好ましい。またポリマー(A)がポリ乳酸であるとき、溶媒(D)はミネラルオイルが好ましい。凝固液は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは85〜100質量%の溶媒(D)を含有する。他の成分は、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルスルホオキサドである。
【0026】
凝固液は、界面活性剤を含有していても良い。界面活性剤としてアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤として、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、炭素数12〜16の直鎖モノアルキル第4級アンモニウム塩、炭素数20〜28の分岐アルキル基を有する第4級アンモニウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキル基及びアシル基が8〜18個の炭素原子を有するアルキルアミンオキシド、カルボベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン、アミドスルホベタイン等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、アルキレンオキシド、好ましくはエチレンオキシド(EO)等を挙げることができる。界面活性剤の含有量は、溶媒(D)100質量部に対し、好ましくは0.05〜30質量部、さらに好ましくは5〜10質量部である。凝固液の温度は、好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは20〜50℃である。
本発明によれば、いわゆるスピノーダル分解によって、ポリマー(A)中に連続した孔径1nm〜1μm程度の網目構造の細孔が形成される。
【0027】
本発明の吸音材を得るには特殊な装置は不要である。塊状吸音材は、ドープを、凝固液中に添加することにより製造することができる。例えば、ドープを凝固液中にスプレー、注射器などで滴下させるだけでよい。また、繊維状の吸音材は、凝固液中にノズルで吐出して巻き取ることで製造できる。また、繊維状、紐状、パイプ状の吸音材は、空中からマイクロシリンジ等でドープを吐出しながらマイクロシリンジ等を水平に移動させて、ドープを凝固液中に投入することにより得ることもできる。また、膜状吸音材はキャリア物質上にドープを塗布し凝固液に浸漬することで製造できる。これらの場合、スプレーノズルの口径、塗布厚みなどを変えることにより、吸音材の径や厚みを任意に調整することが可能である。
【0028】
ドープを凝固液中で凝固させると、得られる成形体中には、セルが形成されセル中には、ポリマー(C)で被覆された吸音機能付与材が内包されている。
成形体をポリマー(C)の良溶媒である溶媒(E)で洗浄し、ポリマー(C)を除去することにより、セル中に吸音機能付与材が内包され、セルの内壁と吸音機能付与材が実質的に接触していない吸音材が得られる。溶媒(E)として水が挙げられる。
【0029】
以上のように、ポリマー(A)がポリメタフェニレンイソフタルアミドであり、溶媒(B)がN−メチル−2−ピロリドンであり、ポリマー(C)が水溶性高分子であり、溶媒(D)が水であることが好ましい。またポリマー(A)がアクリルポリマーであり、溶媒(B)がジメチルスルホオキサドであり、ポリマー(C)が水溶性高分子であり、溶媒(D)が水であることが好ましい。
【0030】
本発明の吸音材は、ドープを凝固液中で凝固させることからなるポリマー中に形成された、複数のセルを有する成形体であって、各セル中には吸音機能付与材が内包されている吸音材の製造方法であって、
(1)ドープは、ポリマー(A)、ポリマー(A)の良溶媒である溶媒(B)および吸音機能付与材を含有し、
(2)凝固液は、ポリマー(A)の貧溶媒である溶媒(D)を含有し、
(3)ドープ中の、ポリマー(A)が疎水性ポリマーであるとき吸音機能付与材は親水性であり、ポリマー(A)が親水性ポリマーであるとき吸音機能付与材は疎水性であることを特徴とする方法によっても製造することができる(第2の態様)。
【0031】
ポリマー(A)、溶媒(B)、溶媒(D)については、第1の態様と同じである。
第2の態様においては、ポリマー(C)を使用しない。また、ポリマー(A)が疎水性ポリマーであるとき吸音機能付与材は親水性であり、ポリマー(A)が親水性ポリマーであるとき吸音機能付与材は疎水性である点を特徴とする。親水性と疎水性の組み合わせのためポリマー(A)と吸音機能付与材は互いに、はじき合う性質を有するため、鈴構造が構成される。
【0032】
ポリマー(A)が疎水性ポリマーであるとき、吸音機能付与材は親水性である。疎水性ポリマーとして、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが挙げられる。親水性の吸音機能付与材として水溶性スメクタイト等が挙げられる。ポリマー(A)が親水性ポリマーであるとき吸音機能付与材は疎水性である。親水性ポリマーとして、ポリビニルアルコールが挙げられる。疎水性の吸音機能付与材としてハイドロタルサイト、クレイ等が挙げられる。
【0033】
ドープは、100質量部のポリマー(A)に対し、好ましくは100〜10,000質量部、より好ましくは1,000〜5,000質量部の溶媒(B)を含有する。吸音機能付与材は、ポリマー100質量部に対し、好ましくは100〜10,000質量部、さらに好ましくは100〜1900質量部である。
凝固液は、第1の態様と同じである。
【0034】
ポリマー(A)が、ポリメタフェニレンイソフタルアミドであり、溶媒(B)がN−メチル−2−ピロリドンであり、溶媒(D)が水であることが好ましい。ポリマー(A)がアクリルポリマーであり、溶媒(B)がジメチルスルホオキサドであり、溶媒(D)が水であることが好ましい。吸音機能付与材が、金属酸化物、金属、無機物、鉱物および合成樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0035】
成型体による、吸音性向上の要因は明確ではないが、ポリマー(A)中に細孔が存在し、細孔は他の細孔とポリマー(A)中で連通し、それらの孔径が1nm〜1μmの範囲にことと、各セルの内壁と吸音機能付与材は実質的に接触していないため、細孔内の空気中を音が伝わりにくくするととともに、吸音機能付与材自体も振動することで、吸音効果の向上があると推測される。
【0036】
さらに、本成型体を、単独で用いても良いが、繊維構造体の中に、粒状又は繊維状で内部に分散又は表面に配置させて、繊維吸音構造体とすることで、取り扱いが非常に容易となり、建築物、車、パーテーション他既存の吸音材と同様に扱うことが可能となる。
【0037】
なお、繊維吸音構造体の製造方法としては、通常の繊維構造体を作成する方法により作成可能であるが、例えば、エアレイト゛法により、短カット長繊維のシートとシートの間に成型体を挟み込む方法や、通常のカード方式により硬綿状のシートを作成しその表面に樹脂等と一緒にコートし付着させる方法や、2枚の硬綿を準備しその間に挟む方法。さらには、ランダムカード、吹込み成型法に成型体を混ぜたシート物。また、長繊維不織布や湿式不織布の表面にコートまたは、2枚の間に挟むタイプ等がある。なお、その成型体と繊維構造は、ランダムにまざりあった状態でもよいし、2層またはそれ以上の多層となってもよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
なお、実施例中の各値は以下の方法により求めた。
厚み:
JISL1096記載の方法に準じて厚み(mm)を測定した。
密度:
JISL1097記載の方法に準じて密度(g/cm)を測定した。
吸音性:
JISA1405に記載の方法に基づき、管内法による建築材料の垂直入射吸音率を測定した。
目付け:
JISL1096記載の方法に準じて目付け(g/m)を測定した。
【0039】
[実施例1]
(ドープの調製)
室温で、100質量部のポリメタフェニレンイソフタルアミドを1900質量部のN−メチル−2−ピロリドンに溶解させて、ポリマー溶液を作成した。吸音機能付与材としてのハイドロタルサイト(富田製薬製)100質量部に、澱粉糊を300質量部添加し、攪拌棒で全体を充分に攪拌してペースト状にした。このペースト状物を、ポリメタフェニレンイソフタルアミド100質量部に対し、ハイドロタルサイトが60質量部の割合になるように、ポリマー溶液に添加して、さらに攪拌棒で全体が均一に白濁するまで充分に攪拌しドープを得た。
(凝固液の調製)
室温で、100質量部の水に陰イオン性界面活性剤(花王株式会社製、製品名 エマール0)を1質量部加え、充分に溶解するまで攪拌して凝固液を調製した。
(成形加工)
湿式紡糸法によって成形を行った。すなわち、室温にてドープを凝固液中に吐出し、ローラーで巻き取って繊維状吸音材を得た。
(澱粉糊の溶解)
得られた繊維状吸音材を、2〜3mm長に切断し、水に入れ、温水浴中にて60℃で1時間加温して、澱粉糊を溶解させた。
【0040】
(シート状吸音材の作成)
ポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸とイソフタル酸とを60/40(モル%)で混合した酸成分と、エチレングリコールとジエチレングリコールとを85/15(モル%)で混合したジオール成分とからなる共重合ポリエチレンテレフタレートを鞘部に配し、鞘/芯の重量比で50/50になるように常法により紡糸して得られた芯鞘型熱接着性複合短繊維(単糸繊度1.7dtex、繊維長5mm)を得た。
この複合短繊維100%を用いて、エアレイド法により目付け100g/mの不織布(1)を作成し、この不織布(1)上に上記の操作で得た繊維状吸音材よりなり、目付け170g/mの不織布(2)を作成した。
さらに、不織布(2)の上に、上記不織布(1)と同じ、複合短繊維100%を用いて、エアレイド法により目付け100g/mの不織布(3)を形成し、順に、不織布(1)//不織布(2)//不織布(3)となるように積層された、複合シートを作成し、エアースルードライヤー(150℃×1分間)で熱処理を施して、シート状吸音材を得た。得られたシート状吸音材は、目付380g/m、厚み2.5mm、密度0.152g/cmであった。吸音性の結果を表1に示す。
【0041】
[比較例1]
上記で使用した複合短繊維100%を用いて、エアレイド法により不織布を作成した。目付375g/m、厚み2.0mm、密度0.188g/cmであった。吸音性の結果を表1示す。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー(A)中に形成された、複数のセルを有する成形体であって、
(1)各セル中には吸音機能付与材が内包され、
(2)ポリマー(A)中には細孔が存在し、細孔は他の細孔とポリマー(A)中で連通し、それらの孔径が1nm〜1μmの範囲にあり、
(3)各セルの内壁と吸音機能付与材は実質的に接触していない、吸音材。
【請求項2】
各セルの内壁と、吸音機能付与材との間にポリマー(C)が充填されている請求項1記載の吸音材。
【請求項3】
繊維構造体の少なくも一部に請求項1または2に記載の吸音材を含む、繊維吸音構造体。
【請求項4】
ドープを凝固液中で凝固させることからなる、ポリマー(A)中に形成された複数のセルを有する成形体であって、各セル中には吸音機能付与材が内包されている吸音材の製造方法であって、
(1)ドープは、ポリマー(A)、溶媒(B)およびポリマー(C)で被覆された吸音機能付与材を含有し、
(2)凝固液は、ポリマー(A)の貧溶媒である溶媒(D)を含有し、
(3)ポリマー(C)は、ポリマー(A)と非相溶であり、
(4)溶媒(B)は、ポリマー(A)の良溶媒であり、かつ、ポリマー(C)の貧溶媒であることを特徴とする方法。
【請求項5】
ポリマー(A)が疎水性ポリマーである請求項4記載の方法。
【請求項6】
ドープが、100質量部のポリマー(A)に対して100〜10,000質量部の溶媒(B)を含有する請求項4記載の方法。
【請求項7】
ポリマー(A)がポリメタフェニレンイソフタルアミドであり、溶媒(B)がN−メチル−2−ピロリドンであり、ポリマー(C)が水溶性高分子であり、溶媒(D)が水である請求項4記載の方法。
【請求項8】
ポリマー(A)がアクリルポリマーであり、溶媒(B)がジメチルスルホオキサドであり、ポリマー(C)が水溶性高分子であり、溶媒(D)が水である請求項4記載の方法。
【請求項9】
吸音機能付与材が、金属酸化物、金属、無機物、鉱物および合成樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項4記載の方法。
【請求項10】
凝固後に、ポリマー(C)の良溶媒である溶媒(E)によって吸音材を洗浄し、ポリマー(C)を除去する請求項4記載の方法。
【請求項11】
溶媒(E)が水である請求項10記載の方法。
【請求項12】
ドープを凝固液中で凝固させることからなるポリマー中に形成された、複数のセルを有する成形体であって、各セル中には吸音機能付与材が内包されている吸音材の製造方法であって、
(1)ドープは、ポリマー(A)、ポリマー(A)の良溶媒である溶媒(B)および吸音機能付与材を含有し、
(2)凝固液は、ポリマー(A)の貧溶媒である溶媒(D)を含有し、
(3)ドープ中の、ポリマー(A)が疎水性ポリマーであるとき吸音機能付与材は親水性であり、ポリマー(A)が親水性ポリマーであるとき吸音機能付与材は疎水性であることを特徴とする方法。
【請求項13】
ポリマー(A)が疎水性ポリマーで、吸音機能付与材は親水性である請求項12記載の方法。
【請求項14】
ドープが、100質量部のポリマー(A)に対して100〜10,000質量部の溶媒(B)を含有する請求項12記載の方法。
【請求項15】
ポリマー(A)がポリメタフェニレンイソフタルアミドであり、溶媒(B)がN−メチル−2−ピロリドンであり、溶媒(D)が水である請求項12記載の方法。
【請求項16】
ポリマー(A)がアクリルポリマーであり、溶媒(B)がジメチルスルホオキサドであり、溶媒(D)が水である請求項12記載の方法。
【請求項17】
吸音機能付与材が、金属酸化物、金属、無機物、鉱物および合成樹脂なる群から選ばれる少なくとも一種である請求項12記載の方法。
【請求項18】
請求項3に記載の繊維吸音構造体の製造方法であって、繊維構造体と同時に請求項1または請求項2に記載の吸音材を複合化する、繊維吸音構造体の製造方法。
【請求項19】
請求項3に記載の繊維吸音構造体の製造方法であって、あらかじめ繊維構造体を作製した後、請求項1または請求項2に記載の吸音材を複合化する、繊維吸音構造体の製造方法。

【公開番号】特開2008−256943(P2008−256943A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98885(P2007−98885)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(592091596)帝人エンジニアリング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】