説明

吸音材

【課題】低周波域において優れた吸音特性を有し、組立てなどの工程が必要でなく、製品の厚みも必要以上に厚くなく、任意の厚みに発泡体を製造することができ、微粒子や繊維などが散逸するという問題もないクリーンな吸音材を提供する。
【解決手段】吸音材(1)は、熱可塑性樹脂製の独立気泡発泡体を構成するマトリックス樹脂(2)と、マトリックス樹脂(2)中に分散している多数の繊維状物質(3)とからなる。気泡(5)は発泡体中に高分散している。繊維状物質(3)は長さ0.05〜1mmを有し、全長に亘る中空部(4)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂製の発泡体をベースとする吸音材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、吸音材としては発泡ウレタンやグラスウール、ロックウール等が広く用いられている。一般に発泡体は、気泡がそれぞれ独立しており、入射した音波のエネルギーは内部に伝播できない構造になっているが、これに対し発泡ウレタン、グラスウール、ロックウールは、連通している複雑な気泡、気孔流路、断面形状を有しており、これに入射した音波エネルギーは内部に伝播していく過程で周辺の壁面に衝突または摩擦を繰り返すことにより、壁面を振動させ、機械的なエネルギーとして吸収され、結果として音波が吸収されることになる。このように上記の材料は吸音材として優れているが、広い周波数領域の全域に対して優れているわけでなく、特に高周波域である4000Hz以上に対して性能が優れているが、逆に低周波域である500−2000Hzに対しては性能が悪い。
【0003】
低周波域での音波の吸収に対しては、従来、吸音材の背後に空間層を設けたり、穴あきの石膏板を背後の空間層に設置するといった構造的な考慮を施すことで性能を満足させていた。しかし、このような方法の場合、背後に大きな空間層を設ける必要があり、製品の厚さが厚くなり、また組立て作業等も複雑になるという欠点があった。
【0004】
そこで、低周波域の吸音特性を向上させる吸音材として、特許文献1にはシリカやタルク等の微粒子を通気性のある袋状体に封入した吸音材が提案されている。しかし、これは低周波域で良好な吸音特性を示すものの、その吸収帯域は非常に狭く、袋状体内にあるシリカやタルクが使用中に散逸したり、偏ったりするという欠点があった。この対策として、特許文献2には、マイカ、タルクなどの微粒子を繊維間の空隙に樹脂バインダーで保持した吸音材が提案されている。しかし、この方法によっても微粒子を繊維間の空隙に強固に保持することは困難であり、課題が完全に解決されているわけではない。
【0005】
また、特許文献3には、合成樹脂とガラス繊維を同量の割合で混合し、得られた混合物を200〜230℃で加熱し、ガラス繊維の反発弾性を利用して膨張させ、繊維多孔質体を得る方法が記載されている。しかし、この方法では、多孔質の状態によっては、特に空間が大きく壁の厚さが厚い場合には、音波エネルギーを壁面で振動・吸収できない現象が起きる。
【0006】
さらに、特許文献4には、熱可塑性樹脂に3〜100mmの長繊維を含ませ、この組成物を金型キャビティに射出して充填した後、キャビティを拡張し、繊維の絡み合いによる膨張性を利用した成形方法が提案されている。この方法によると吸音性などの性能が発現すると記述されているが、実際にはキャビティ拡張で生じる長繊維の絡み合いが逆に所定の製品肉厚を得るには障害となり、製品に凹みが生じる恐れがある。また、発泡剤等による内部からの膨張力を利用して凹み発生を防止しようとすると、繊維が破壊する恐れがある。
【特許文献1】特開平5−80775号公報
【特許文献2】特開平8−95576号公報
【特許文献3】登録実用新案第3028639号公報
【特許文献4】特開2001−162648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、低周波域において優れた吸音特性を有し、組立てなどの工程が必要でなく、製品の厚みも必要以上に厚くなく、任意の厚みに発泡体を製造することができ、微粒子や繊維などが散逸するという問題もないクリーンな吸音材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明による吸音材は、熱可塑性樹脂製の発泡体を構成するマトリックス樹脂に、全長に亘って中空部を有しかつ長さ0.05〜1mmを有する繊維状物質が分散してなることを特徴とするものである。
【0009】
音波エネルギーを振動エネルギーに効率よく変換させるためには、発泡体の外層部の気泡だけでなく内層部の気泡にも音波エネルギーを伝播させることが好ましく、発泡体の気泡が連通していない場合は、内層部の気泡に音波エネルギーが伝播しない。したがって、繊維状物質の中空率が大きいほど、音波エネルギーを内層部の気泡に伝播させるのに効果的である。中空率が小さ過ぎると、音波エネルギーが繊維状物質に衝突しても、繊維状物質が振動し音波が反射するだけで、発泡体の内層部に音波エネルギーが伝播せず、結果として十分な吸音性能が発揮されない。逆に中空率が大き過ぎると、繊維としての剛性がなくなり、繊維が中空部を保持することができなくなり、音波エネルギーを振動エネルギーに変換できなくなる。したがって、繊維状物質の中空率は上記範囲5〜70%であることが好ましく、20〜50%であることがさらに好ましい。
【0010】
本発明による吸音材において、熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂が好ましく用いられ、例えばプロピレン単独重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体、あるいはこれら重合体に混合可能なゴム又は熱可塑性エラストマーを混入したポリマーブレンドを挙げることができる。
【0011】
繊維状物質は特に限定されるものではなく、合成繊維でも天然繊維でも良い。例えば、カーボン繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維等が挙げられる。
【0012】
繊維状物質の直径は1〜60μmであることが好ましい。
【0013】
繊維状物質の長さは、同物質が複雑に絡み合うことで音波エネルギーを減衰させるので長い方が好ましいが、必要以上に長過ぎると発泡による製品肉厚拡大を阻害することがあり、また、吸音性能を効果的に発現する発泡体の気泡の大きさは20〜950μm程度であって、隣り合う気泡を繊維状物質で有効に連通するには、繊維状物質の長さは通常0.05〜1mm程度であることが好ましい。
【0014】
繊維状物質の中空部の断面形状は特に限定されるものでなく、例えば、1または複数の、円、楕円、多角形、扇形、星形、放射形、これらの組合せ等であってよい。断面「田」字形の中空部が好ましい。
【0015】
繊維全体に対する中空率の比率は好ましくは5〜70%、より好ましくは20〜50%である。
【0016】
本発明による吸音材において、熱可塑性樹脂と繊維状物質の重量割合は、それぞれ25〜85重量%と75〜15重量%(両者の合計100重量%)であることが好ましい。繊維状物質の割合が高すぎると、吸音材から繊維状物質が脱落する恐れがある上に、熱可塑性樹脂の低い割合のため高周波側の吸音率が著しく低下し、好ましくない。繊維状物質の割合が低すぎると、後述する発明の効果が得られにくいことがある。
【0017】
本発明による吸音材において、発泡体の厚みは、5〜15mmであることが好ましい。
【0018】
本発明による吸音材において、発泡体の発泡層における密度は0.1〜0.5g/cmであることが好ましい。発泡体が、発泡層とその外側に形成された非発泡のスキン層とからなる場合がある。その場合はスキン層は遮音層として機能し、吸音材に侵入して来た音波をその内層部に導いて吸音することが困難になるので、スキン層を除去し、発泡層だけにおける密度が上記範囲内にあることが好ましい。発泡体がスキン層を有しない場合は、発泡体の発泡層における密度は発泡体そのものの密度である。密度が上記範囲内にないと後述する発明の効果が得られにくいことがある。
【0019】
本発明による吸音材において、発泡体の発泡層における連続気泡率は5〜90%であることが好ましい。スキン層ができる場合はやはりこれを除去し、発泡層だけにおける連続気泡率が上記範囲内にあることが好ましい。発泡体がスキン層を有しない場合は、発泡体の発泡層における連続気泡率は発泡体そのものの連続気泡率である。連続気泡率が上記範囲内にないと後述する発明の効果が得られにくいことがある。
【0020】
本発明による吸音材において、1500〜2000Hzの周波数領域における厚み10mm当たりの垂直入射吸音率は0.35以上であることが好ましい。垂直入射吸音率が低過ぎると後述する発明の効果が得られにくいことがある。
【0021】
請求項3記載の発明は、熱可塑性樹脂と、全長に亘る中空部を有しかつ長さ0.05〜1mmを有する繊維状物質(前者:後者の重量割合25:75〜85:15)と、発泡剤の有効量とからなる発泡性樹脂混合物を溶融し、得られた溶融混合物を固定型と可動型からなる金型内に射出し、ついで、可動型を拡型方向に移動させることによって溶融混合物を発泡させることを特徴とする連続気泡を有する吸音材の製造方法を提供する。
【0022】
この方法に使用される発泡剤としては、熱分解型化学発泡剤、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等の化学発泡剤、水、二酸化炭素、窒素、有機溶剤等の物理発泡剤が挙げられる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る発明によれば、発泡体を構成するマトリックス樹脂中に全長に亘って中空部を有する所定長さの繊維状物質が分散しているので、吸音材の内部に導入された音波エネルギーは、発泡体の壁面を振動させることで振動エネルギーに変換されると共に中空部を有する繊維状物質を振動させる。さらに、音波エネルギーが繊維状物質の中空部を通過する過程において繊維状物質の中空部の壁面が低周波数域の音波エネルギーを振動エネルギーに効率的に変換すると共に音波エネルギーが発泡体内部に浸入しさらに効率的に振動エネルギーに変換される。
【0024】
また、繊維状物質は0.05〜1mmと比較的長いので複雑に絡み合うことができ、これにより音波エネルギーの減衰が一層大きくなる。
【0025】
さらに、繊維状物質には一対の複数の独立気泡を中空部で連通する働きもあり、これにより音波エネルギーは発泡体内部に浸入し伝播しやすくなっている。
【0026】
請求項2に係る発明では繊維状物質の中空率は5〜70%であるので、発泡体の外層部の気泡だけでなく内層部の気泡にも音波エネルギーを伝播させることができ、これにより音波エネルギーを振動エネルギーに一層効率よく変換させることができる。
【0027】
請求項3に係る発明によれば、上記のような効果を奏しかつ複雑な形状や3次元的な自由な曲面を有する吸音材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例を挙げる。
【0029】
図1は、本発明に係る吸音材の構造を模式的に示すものである。本発明に係る吸音材(1)は、熱可塑性樹脂製の発泡体を構成するマトリックス樹脂(2)と、マトリックス樹脂(2)中に分散している多数の繊維状物質(3)とからなる。気泡(5)は発泡体中に高分散している。繊維状物質(3)は長さ0.05〜1mmを有し、全長に亘る中空部(4)を有する。繊維状物質(3)には中空部(4)で独立気泡(5)を連通するものもある。
【0030】
発泡体は、発泡層とその外側に形成された非発泡の非常に薄いスキン層とからなる。発泡体の断面を観察し、スキン層の厚さを正確に把握した上でスキン層を数十μmの精度で切削除去する。
【0031】
実施例1
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(三井・デュポンポリケミカル社製、グレード:EV45LX)82重量部と、ナイロン繊維(東レ社製、中空率20%の断面「田」字形の中空部を有するBCFナイロン、繊維径:30μm、繊維長さ:0.8mm)18重量部を混合し、化学発泡剤(ドンジン社製、グレード:D3000CS)10重量部を混入しながら、この混合物を同樹脂の融点以上まで加熱した。得られた溶融混合物を固定型と可動型からなる金型内に射出し、ついで、可動型を拡型方向に移動させることによって大気圧下で発泡成形した。その後、成形物を冷却固化させた。こうして、発泡層とその外側に形成された非発泡のスキン層とからなる吸音材(厚み4.0mm、密度0.43g/cm、連続気泡率7%)を得た。スキン層を除去し発泡層だけを試験に供した。なお、中空率は繊維の断面を顕微鏡写真撮影し、中空部分の面積の全断面積に対する百分率で表した。
【0032】
比較例1
実施例1のナイロン繊維を、ナイロン繊維(東レ社製、中空率20%の断面「田」字形の中空部を有するBCFナイロン、繊維径:30μm、繊維長さ:30mm)に代えた以外、実施例1と同様の操作により、吸音材を得た。スキン層を除去し発泡層だけを試験に供した。
【0033】
比較例2
比較試験のために、ポリプロピレン65重量%とポリエステル35重量%からなる樹脂混合物で形成された不織布(厚み7mm、密度0.036g/cm)製の吸音材を用意した。
【0034】
物性測定
実施例1および比較例1、2で得られた発泡層について、下記の方法で吸音率、密度および連続気泡率の測定を行った。
【0035】
a)吸音率
実施例1および比較例1、2で得られた吸音材について、500〜5000Hzの周波数領域における垂直入射吸音率を求めた。得られた結果を図2のグラフに示す。実施例1で得られた吸音材は、低周波域において厚み10mm当たり0.35以上の吸音率を示し、優れた吸音特性を発現した。
【0036】
b)密度
実施例1および比較例1で得られた発泡層(発泡体からスキン層を除いたもの)をメスシリンダー内の水中に沈めて、その体積(A) を測定し、また電子天秤を用いてその重量(M) を測定した。発泡層の密度は重量(M) を体積(A) で除することで求められる。
【0037】
実施例1および比較例1で得られた発泡層の密度は、それぞれ0.43g/cm、0.63g/cmであった。
【0038】
c)連続気泡率
上記と同様にして、発泡前の混合物の体積と重量からその密度を求めた。発泡前の混合物の密度をρとする。さらに、乾式自動密度計アキュピック1330(島津製作所社製)を用いて、発泡層の連続気泡の体積を排除した体積(B) つまり独立気泡を含む発泡層の体積を測定した。
【0039】
以下の式により、独立気泡率を算出した。
【0040】
独立気泡率(%)=(体積B−重量M÷発泡前の混合物密度ρ)/(体積A−重量M÷発泡前の混合物密度ρ)
連続気泡率(%)=100−独立気泡率(%)
実施例1および比較例1で得られた発泡層の連続気泡率は、それぞれ7%、4%であった。
【0041】
測定結果を表1にまとめて示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明に係る吸音材を概略的に示す説明図である。
【図2】図2は、垂直吸音率と周波数の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
(1) 吸音材
(2) マトリックス樹脂
(3) 繊維状物質
(4) 中空部
(5) 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂製の発泡体を構成するマトリックス樹脂に、全長に亘って中空部を有しかつ長さ0.05〜1mmを有する繊維状物質が分散してなることを特徴とする吸音材。
【請求項2】
繊維状物質の全体積に対する中空部の体積の割合が5〜70%であることを特徴とする請求項1記載の吸音材。
【請求項3】
熱可塑性樹脂と、全長に亘る中空部を有しかつ長さ0.05〜1mmを有する繊維状物質(前者:後者の重量割合25:75〜85:15)と、発泡剤の有効量とからなる発泡性樹脂混合物を溶融し、得られた溶融混合物を固定型と可動型からなる金型内に射出し、ついで、可動型を拡型方向に移動させることによって溶融混合物を発泡させることを特徴とする吸音材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−299201(P2008−299201A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147019(P2007−147019)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】