説明

吹き付け断熱材組成物及び吹き付け断熱材被覆層

【課題】熱伝導率が低く、断熱性、耐火性に優れた断熱材被覆層を吹き付け塗工で形成しうる断熱材組成物を提供する。
【解決手段】発泡フェノール樹脂細片、有機バインダー、水で構成され、上記発泡フェノール樹脂細片が、発泡フェノール樹脂成形体を刃物により微細に切断することにより細片化してなり、発泡ガスを内包する組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家屋やビル等の建築物の建設現場において、吹き付け塗工によって断熱材を形成する吹き付け断熱材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
家屋やビル等の建築物の壁面などに断熱層を形成する従来例として、発泡ウレタン樹脂吹き付け方法がある。この技術では、熱伝導率が約0.024W/(m・K)で断熱性に優れており、且つ、形状が複雑な部位にもシームレスな仕上げが出来る。しかしながら、発泡ウレタン樹脂は火炎に弱く、着火した場合は、瞬時に燃え広がる現象が生じ、消火が困難な状態になる恐れがあるという問題を有している。
【0003】
そのため、特許文献1には、発泡スチロール樹脂粉粒体を用い、不燃材であるセメントを混合することにより、発泡スチロール樹脂粉粒体の燃えやすい特性を抑えた吹き付け断熱材組成物が開示されている。係る断熱材組成物を用いて形成される断熱材は、熱伝導率が0.047W/(m・K)以下と、発泡ウレタン樹脂に匹敵する断熱性能を有するとされている。
【0004】
しかし、発泡スチロール樹脂粉粒体も、ある程度燃えやすい特性を有しているため、特許文献1に記載されたセメントの混入割合(セメント100重量部に対して発泡スチロール樹脂粉粒体40重量部以上)程度では、着火した場合の爆燃の現象は抑えられるとしても、吹き付け断熱材自体の燃え広がりを抑えることは困難であった。
【0005】
また、発泡ウレタン樹脂の熱伝導率が約0.024W/(m・K)であるのに対して、発泡スチロール樹脂粉粒体を用いた吹き付け断熱材の熱伝導率は0.047W/(m・K)程度であり、より発泡ウレタン樹脂吹き付けに匹敵する断熱性能が求められていた。
【0006】
特許文献1には、発泡有機樹脂粉粒体の種類として、燃えにくい発泡フェノール樹脂も挙げられている。しかしながら、発泡有機樹脂が発泡フェノール樹脂の場合は、防爆のため発泡フェノール樹脂成形体を押し潰した後に粉砕、或いは防爆設備を設けて押し潰しながら粉砕するため、その過程で気泡の周囲の壁に亀裂が入ることにより、発泡フェノール樹脂中の気泡に含まれる発泡ガスの多くが抜け、これを用いて形成した吹き付け断熱層においては、断熱性能が劣るという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特許第3837630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、形状が複雑な部位にもシームレスな仕上げが出来るという、従来からの吹き付け断熱材の利点を備え、発泡スチロール樹脂粉粒体を用いてなる吹き付け断熱材に比較して、熱伝導率を低めに調整することが容易で、さらに断熱性に優れ、着火した場合にも炭化して燃え広がりを抑えることが容易な耐火性に優れた断熱材を形成しうる吹き付け断熱材組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1は、少なくとも、発泡フェノール樹脂細片、有機バインダー、水で構成される吹き付け断熱材組成物であって、前記発泡フェノール樹脂細片が発泡フェノール樹脂成形体を細片化してなり、発泡ガスを内包することを特徴とする。
【0010】
また、上記本発明においては、上記吹き付け断熱材組成物に、無機バインダーを付加したこと、及び/又は、発泡フェノール樹脂細片の平均粒径が0.3〜15mmであることを好ましい態様として含む。
【0011】
本発明の第2は、少なくとも、発泡フェノール樹脂細片、有機バインダーからなる吹き付け断熱材被覆層であって、前記発泡フェノール樹脂細片が発泡フェノール樹脂成形体を細片化してなり、発泡ガスを内包することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発泡フェノール樹脂細片が断熱性を付与する機能を有する発泡ガスを内包しているため、細片化前の発泡フェノール樹脂成形体の熱伝導率と同等の低い熱伝導率を維持しており、よって、本発明の吹き付け断熱材組成物を用いて吹き付け施工した場合には、発泡ウレタン樹脂吹き付けを用いてなる断熱層と同等の0.024W/(m・K)の熱伝導率を有する断熱材被覆層を形成することが可能となる。
【0013】
また、本発明において、発泡フェノール樹脂細片の平均粒径を0.3mm〜15mmとすることにより、個々の発泡フェノール樹脂細片中の気泡が複数となるため、得られる断熱材の熱伝導率を低く調整することが、より容易で、より断熱性に優れた吹き付け断熱材被覆層とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の構成上の特徴は、発泡フェノール樹脂成形体を細片化してなる、発泡ガスを内包する発泡フェノール樹脂細片を用いていることにある。このような発泡フェノール樹脂細片は、発泡フェノール樹脂成形体を刃物により微細に切断することにより得られる。切断は、窒素ガスなどの雰囲気下で行うことができる。即ち、鋭利な刃物を用いて切り刻む、切削する、或いは研磨することにより、発泡フェノール樹脂成形体は内包する発泡ガスの気泡が押し潰されることなく、従って実質的に体積を減らすことなく(非減容で)、微細な細片に分割され、個々の発泡フェノール樹脂細片内には成形体と同様の発泡ガスの気泡が含まれる。また、個々の発泡フェノール樹脂細片は表面が切断面となり、該表面に位置していた気泡は刃物によって切断されて凹部を形成しているため、該凹部に後述する無機バインダーや有機バインダーが嵌り込み一体化するため、吹き付け後の固着性が高くなる。また、鋭利な刃物によって切断することにより、発泡フェノール樹脂細片の表面部分に脆弱な部分が発生しづらいため、この点からも吹き付け後の固着性が高まる。
【0015】
本発明に用いられる発泡フェノール樹脂細片が内包する発泡ガスとは、炭化水素(HC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)等、フェノールフォームの発泡成形に使用される可能性のあるガスを指し、空気との比較で、熱伝導率の小さな気体を示す。
【0016】
尚、上記のように発泡フェノール樹脂細片が発泡ガスを内包するかどうかは、該細片をビニール袋に詰めて潰し、ガス検知器によってガス濃度を測定することにより、判断することが可能である。
【0017】
発泡フェノール樹脂成形体を従来のように粉砕した場合においては、成形体が押し潰されながら分割されているため、気泡の周囲の壁に亀裂が入り、亀裂を介して発泡ガスと空気が置換されていく。
【0018】
本発明に用いられる発泡フェノール樹脂細片は、嵩密度が、製造の容易性という観点からは0.010g/cm3以上、0.10g/cm3以下のものが好ましく、さらには0.020g/cm3以上、0.080g/cm3以下のものが好ましい。なお、発泡フェノール樹脂細片の嵩密度は、細片の1個単位での重量を体積で割って求められるものであるが、多数の細片の集合体を容器に採り、その重量を容器の容積で割ったものは、細片間に隙間がある場合にはやや小さめの嵩密度となる。
【0019】
係る発泡フェノール樹脂細片の平均粒径は好ましくは0.3mm〜15mm、より好ましくは、0.5mm〜8mmである。平均粒径が0.3mm以上であれば、個々の細片の内部に含まれる気泡が複数となるため、熱伝導率をより低く調整することが可能となる。また、現場吹き付け工程におけるノズル口径及び吹き付け圧を考慮すると15mm以下が望ましい。
【0020】
ここで、発泡フェノール樹脂細片の平均粒径とは、発泡フェノール樹脂細片をメッシュで篩い分けた際に、50%重量を篩い分けるメッシュ径である。例えば、平均粒径8mmとは、8mm径のメッシュで篩にかけた際、篩を通過した重量が、全体重量の50%であることを言う。
【0021】
また、係る発泡フェノール樹脂細片の内包する発泡ガスの平均気泡径は0.03mm〜0.2mmが好ましく、より好ましくは0.05mm〜0.1mmである。
【0022】
本発明において、発泡フェノール樹脂細片を発泡樹脂フェノール成形体から作製する際には、個々の細片に発泡ガスが内包されるように、個々の細片の形状が他の部位よりも細い或いは薄い部分を持たないのが好ましいが、平均気泡径の数倍程度の径の球が内包されるような形状・寸法を確保できれば、十分に発泡ガスを内包することが出来るため、発泡フェノール樹脂細片の形状は、球形に限らず、針状、多面体などであってもよい。
【0023】
本発明において、有機バインダーとしては、水溶性高分子、樹脂類、ゴム類等を用いることができる。
【0024】
上記水溶性高分子としては、セルロース誘導体、モンモリロン石、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、アロフェン、ヒシンゲル石等が挙げられる。これらの中でもセルロース誘導体、モンモリロン石が好ましく用いられる。従来の発泡スチロール樹脂粉粒体を用いた断熱材組成物においては、発泡スチロール樹脂粉粒体が組成物中で浮かないように、高粘度の水溶性高分子を用いる必要があったが、本発明においては、発泡フェノール樹脂に親水性があるため、低粘度の水溶性高分子であっても圧送時や吹き付け時に混合成分が分離する事がない。具体的には1%水溶液の粘度が通常8000mPa・s未満となるような水溶性高分子を使用し、本発明の吹き付け断熱材組成物をポンプ圧送する場合には、ポンプ圧送の効率をより高めるために水溶性高分子を用いるものとする。その含有量は、最終製品の用途に応じて適宜設定すれば良いが、通常は発泡フェノール樹脂細片100重量部に対して0.5〜120重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは2〜30重量部とする。
【0025】
尚、本発明の断熱材組成物は、吹き付け前に全成分を混合して組成物として壁面に吹き付ける、或いは、別々のノズルから噴出させて壁面に吹き付けられる直前に混合して組成物として壁面に吹き付ける、のいずれであっても良い。
【0026】
また、上記樹脂類としては、エチレン酢酸、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等を使用出来る。また、ゴム類としては、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム等を用いることが出来る。これらのバインダーは何れの形態でも使用出来、粉末状、エマルジョン等の何れの状態でも用いることが出来る。このような形態は公知のものまたは市販品を使用することが出来る。その含有量は発泡フェノール樹脂細片100重量部に対して、通常240重量部以下であり、好ましくは1〜80重量部、より好ましくは、5〜80重量部である。
【0027】
また、無機バインダーとしては公知のもの又は市販品を使用することができ、石膏、或いは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメント類が使用できる。これらの中でも石膏が好ましい。本発明の吹き付け断熱材組成物中における該無機バインダーの含有量は、発泡フェノール樹脂細片100重量部に対して、100重量部以下が用いられ、取り扱いなどを考慮すれば、1〜30重量部程度である。
【0028】
本発明の組成物に用いられる水は様々な環境下における吹き付け時の作業性を考慮してその含有量を決める。好ましくは、発泡フェノール樹脂細片100重量部に対して、100〜1500重量部となるようにすれば良い。
【0029】
本発明の吹き付け断熱材組成物において、発泡フェノール樹脂細片、有機バインダー、水、無機バインダーの混合比率は、断熱性、耐火性、吹き付け作業性、固着性、耐久性など、様々な観点より調整すればよいが、断熱性及び耐火性を従来技術以上に確保する観点からは、施工後の断熱材被覆層において、発泡フェノール樹脂細片の体積比率を50%〜95%の範囲とする必要があり、より好ましくは65%〜80%の範囲とする必要がある。また、その他の性能である吹き付け作業性、固着性、耐久性を阻害しないように、有機バインダー、水、無機バインダーで混合比率を適宜、定めることが出来る。
【0030】
本発明の吹き付け断熱材組成物は、各種成分を混合機、ニーダー等によって均一に混合することによって調整することができ、所望の施工領域に吹き付け、塗装等の公知の施工方法によって被着させ、該被着層を乾燥させれば断熱材被覆層が得られる。特に本発明の吹き付け断熱材組成物は吹き付け施工に好適に用いる事が出来る。吹き付けにより施工する場合は、吹き付けガンを通じて各部位に被着させれば良い。施工領域としては、例えば、構造物の壁、床、天井、屋根等、内外層問わずに適用することができる。
【0031】
本発明の吹き付け断熱材組成物を壁面に吹き付けた後、該組成物に含まれていた水が蒸発すると、本発明の吹き付け断熱材被覆層となる。
【0032】
本発明の吹き付け断熱材組成物により得られる断熱材被覆層は、嵩密度が0.03g/cm3以上、0.05g/cm3以下が好ましい。その比重は、発泡フェノール樹脂細片の粒径及び含有量によって適宜調整することが出来る。
【0033】
また、係る断熱材被覆層の熱伝導率は0.024W/(m・K)以上、0.047W/(m・K)以下が好ましく、このような低い熱伝導率を有する断熱材は、従来のウレタンフォームに匹敵する断熱性を発揮することができる。また断熱材被覆層の厚みは、所望の断熱性等によって適宜設定すれば良いが、通常は5〜50mm程度である。
【実施例】
【0034】
下記に示す成分を各々の配合に応じ均一に混練して、実施例及び比較例の断熱材組成物を調製した。尚、以下の「部」は重量部を示す。
【0035】
(成分)
発泡フェノール樹脂細片A:発泡フェノール樹脂成形体を刃物で切断したもの。
平均粒径3φ、嵩密度0.027g/cm3
発泡フェノール樹脂細片B:発泡フェノール樹脂成形体を潰した後、細片化したもの。
平均粒径3φ、嵩密度0.27g/cm3
発泡スチロール樹脂粉粒体:発泡スチロール樹脂成形体をほぐしたもの。
平均粒径3φ、嵩密度0.02g/cm3
無機バインダー:普通ポルトランドセメント
有機バインダー:エチレン酢酸ビニル系エマルジョン
水溶性高分子:セルロース誘導体(1%水溶液粘度が7999mPa・s)
【0036】
(実施例1)
発泡フェノール樹脂細片A 100部
エマルジョン 8部
セルロース 8部
水 800部
【0037】
(実施例2)
発泡フェノール樹脂細片A 100部
セメント 8部
エマルジョン 8部
セルロース 8部
水 800部
【0038】
(比較例1)
発泡フェノール樹脂細片B 100部
セメント 8部
エマルジョン 8部
セルロース 8部
水 800部
【0039】
(比較例2)
発泡スチロール樹脂粉粒体 40部
セメント 80部
エマルジョン 8部
セルロース 8部
水 800部
【0040】
本実施例及び比較例に挙げる材料を実施例及び比較例に示す配合比にて、吹き付け機によって吹き付け形成し、得られた断熱材被覆層の熱伝導率を測定し、着火試験を行った。尚、断熱材組成物の乾燥方法については、重量変化がなくなるまで、自然乾燥とした。
【0041】
(1)熱伝導率の測定は、JIS A1412−2に示す熱伝導率計(熱流計法)を用いて測定した。結果は下記の通りである
実施例1:0.033W/(m・K)
実施例2:0.035W/(m・K)
比較例1:0.070W/(m・K)
比較例2:0.047W/(m・K)
【0042】
(2)着火試験は断熱材被覆層を炎で炙り、その後の燃焼性を観察した。結果は下記の通りである。
実施例1:着火後5秒間炙りつづけたが、表面が焦げるのみで火炎は一切上がらなかった。
実施例2:実施例1同様
比較例1:実施例1同様。
比較例2:着火後、炙るのを直ちに止めたが、火炎の勢いは増すばかりで燃え尽きた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、吹き付け塗工によって建築物の壁面などに断熱層を形成する際に好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、発泡フェノール樹脂細片、有機バインダー、水を混合してなる吹き付け断熱材組成物であって、前記発泡フェノール樹脂細片が発泡フェノール樹脂成形体を細片化してなり、発泡ガスを内包することを特徴とする吹き付け断熱材組成物。
【請求項2】
無機バインダーを付加したことを特徴とする請求項1に記載の吹き付け断熱材組成物。
【請求項3】
前記発泡フェノール樹脂細片の平均粒径が0.3〜15mmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吹き付け断熱材組成物。
【請求項4】
少なくとも、発泡フェノール樹脂細片、有機バインダーからなる吹き付け断熱材被覆層であって、前記発泡フェノール樹脂細片が発泡フェノール樹脂成形体を細片化してなり、発泡ガスを内包することを特徴とする吹き付け断熱材被覆層。

【公開番号】特開2008−195605(P2008−195605A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5758(P2008−5758)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】