説明

呼気捕集フィルタ、呼気収集装置、呼気分析システムおよび呼気分析方法

【課題】 サンプリング時の被験者の負担が少なく、同時に成分の回収率が高い呼気の収集が可能な呼気捕集フィルタ、呼気収集装置、呼気分析システム、呼気分析方法を提供する。
【解決手段】 メタルシート212における吸着剤211の全体積をV、孔部213の全断面積をA、孔部213の長さをLとしたとき、(AL−V)2/L3≧0.003mm3かつV/AL≧0.3を満たしていることを特徴とする吸着部2、もしくはメタルシート212が、網状のメッシュ22に挟持されていることを特徴とする吸着部2を提供する。また、これらの吸着部2を、使用した呼気収集装置、呼気分析システム、呼気分析方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の呼気試料中の微量成分を分析する呼気捕集フィルタ、呼気収集装置、呼気分析システムおよび呼気分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
呼気中の成分には被験者体内で生成された代謝物が微量に含まれており、疾患の有無により、その微量代謝物の濃度や微量代謝物そのものが変化することが知られている。このことを病気の診断に役立てるために、呼気中の微量代謝物の分析に関する基礎的な研究が進められている。
【0003】
呼気中成分の分析装置として、特許文献1では、内径2〜3mmのガラス管内に、吸着剤を充填し、呼気を通過させることにより、吸着剤に呼気中の測定対象成分である呼気成分を吸着させる呼気成分捕集管が提示されている。この呼気成分捕集管を用いた分析方法では、呼気成分の脱離時に吸着剤中に発熱体を分散させ、ガラス管にマイクロ波を照射する。その結果、発熱体が放熱し、その放熱により吸着剤を加熱することによって吸着した成分を脱離させる。そして、脱離した成分を分析カラムに導入し分析している。
【0004】
図5は、吸着剤をガラス管に充填した呼気収集装置の構成の従来例を示す図である。
図5に示すように、呼気収集装置5は、被験者51の呼気を導入するための呼気導入部52と、呼気成分を捕集する呼気収集部53と、呼気収集部53の下流側の圧力を下げ、被験者の負担を軽減するための吸引ポンプ54とを含んで構成される。呼気収集部53は、ガラス管55と、このガラス管55に充填された吸着剤56とによって構成される。ここで、吸着剤56が充填されている領域を吸着部57とする。
【0005】
なお、本明細書では呼気収集装置における所定の場所を基準としたとき、その場所から、被験者に近い側を上流側、被験者から遠い側を下流側と表現することとする。
【0006】
特許文献2では、プラスチックフィルムおよびアルミホイルから形成された積層シートからなる袋部分にキャップを設け、バッグ内に呼気成分を採取する呼気検査用バッグが提示されている。このバッグを赤外分析計またはGC(Gas Chromatography:ガスクロマトログラフ分析計)を備えた質量分析計に接続し、成分を分析している。
特許文献3では、呼気収集装置にバルブを設け、肺胞呼気のみを収集する装置が示されている。
【特許文献1】特開平10−206293号公報(請求項1、段落0020)
【特許文献2】特開2003−171317号公報(請求項5、段落0047から0053)
【特許文献3】特表平8−51098号公報(請求項2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
呼気中のガス成分を分析する場合において、特許文献1で開示されている呼気成分捕集管による方法は、固体の吸着剤表面に、成分を吸着した後、熱脱離し分析することにより、揮発性の低い成分も比較的良く回収できる。しかし、呼気成分を収集する際に、吸着剤による圧力損失が生じ、被験者の負担が増大してしまう。
一方、特許文献2で開示されている呼気検査用バッグによる方法は、呼気収集時に必要な圧力が小さいので、被験者が感じる負担は殆ど無いが、低揮発性物質の十分な回収が出来なくなるということが起きる。
また、吸着剤による圧力損失を小さくし、被験者の負担を軽減する方法として、図5に示されているような、吸引ポンプ54の吸引力を大きくする方法が考えられる。しかし、吸引ポンプの吸引力が過度に大きくなると、被験者の口部の周囲の空気も呼気収集装置に送られてしまい、正確な呼気成分の測定が不可能となってしまう。
【0008】
このような背景に鑑みて、本発明の目的は、呼気を収集するサンプリング時の圧力損失を小さくすることによって、被験者の負担を軽減し、同時に呼気成分の回収率が高い呼気捕集フィルタを提供し、さらにこの捕集フィルタを使用した呼気収集装置を用いた呼気収集装置、呼気分析システムおよび呼気分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
捕集部における吸着剤の全体積をV、孔部の全断面積をA、孔部の長さをLとしたとき、(AL−V)2/L3≧0.003mm3かつV/AL≧0.3を満たしていることを特徴とする呼気捕集フィルタ、もしくは捕集部が、網状のメッシュに挟持されていることを特徴とする呼気捕集フィルタを提供する。また、これらの呼気捕集フィルタを使用した呼気収集装置、呼気分析システムおよび呼気分析方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、サンプリング時の圧力損失が小さくなることによって、被験者の負担を軽減し、同時に呼気成分の回収率が高い呼気捕集フィルタを提供し、さらにこの捕集フィルタを用いた呼気収集装置、呼気分析システムおよび呼気分析方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態に係る呼気捕集フィルタ、呼気収集装置、呼気分析システムおよび呼気分析方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る呼気収集装置の構成を示す概略図である。
図1に示すように、呼気収集装置1は、被験者11の呼気を導入するための呼気導入部12と、呼気導入部12と接続され、呼気成分を捕集するための吸着部(呼気捕集フィルタ)2を内部に設置してなる呼気収集部13とを含んで構成される。さらに、呼気収集装置1は、呼気収集部13の下流側に設置され、配管16aを介して、呼気収集部13と接続され、呼気収集部13の下流側、および配管16aの圧力を下げる吸引ポンプ14と、吸引ポンプ14の下流に設けられ、配管16bを介して吸引ポンプ14と接続される、捕集した呼気量を計測するための流量計15とを含んで構成される。ここで、呼気量とは、単位時間あたりに流れる呼気の量である。なお、流量計15は、吸引ポンプ14の上流側の配管16a上に設けてもよい。さらに、呼気収集装置1は、配管16a上に存在し、配管16a内を流れる呼気量を調節するための弁17を含んで構成されてもよい。
なお、呼気導入部12は、口を覆うマスクの形状をしたものが好ましいが、口に咥えて呼気を導入するパイプ形状のものでもよい。
【0012】
被験者11は、呼気導入部12を口部に装着し、呼気を吐出する。吐出された呼気は、呼気収集部13へ送られる。呼気収集部13に送られた呼気に含まれる呼気成分は、呼気収集部13内に備えられている吸着部2内の吸着剤211(図2参照)に吸着されることによって捕集される。吸着剤211によって吸着されなかった成分は、配管16a、弁17、吸引ポンプ14および配管16bを介して、系外に排出される。呼気収集部13の下流には、吸引ポンプ14を設け、呼気収集部13の下流側、および配管16aの圧力を下げ、被験者11の負担を少なくするのが好ましい。また、配管16a上に弁17を設け、配管16a内を流れる呼気量を調節することも可能である。さらに、吸引ポンプ14の上流あるいは下流に流量計15を設け(本実施形態では、吸引ポンプ14の下流側に設けた場合のみを図示)、呼気収集装置1に吐出された呼気量を確認することが好ましい。吸着剤211に捕集された呼気成分の量は、呼気量に依存するため、サンプリング条件をそろえる為に、流量計15によって、呼気量を測定することは重要である。
【0013】
図2は、本実施形態に係る吸着部の構成を示す図であり、(a)は、吸着部の側断面を示す図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図である。
以下、図2を参照して吸着部2の構成を説明する。
図2(a)に示すように、吸着部2は、吸着フィルタ21の両面をメッシュ22で密接に挟んで構成されている。メッシュ22は、吸着フィルタ21に接着されていてもよいし、されていなくてもよい。吸着フィルタ21は、呼気成分を吸着する吸着剤211と、吸着剤211を保持するためのメタルシート(捕集部)212とから構成されている。メタルシート212には、所定(上流)の面から、他(下流)の面に貫通してなる複数の孔部213が形成されている。そして、図2(b)に示すように、孔部213には、粒状の吸着剤211が充填されている。ここで、メッシュ22の網目のサイズは、吸着剤211の粒径より細かいものを用いる。このようにすることで、吸着剤211が、孔部213から流出するのを防ぐことができる。また、呼気が、吸着部2の周囲から逃げないように、吸着部2、または吸着フィルタ21の周囲をシール(図示せず)すれば、吸着剤211が充填された孔部213を、呼気が通る率を高めることができ、呼気の吸着率をさらに大きくすることができる。メタルシート212およびメッシュ22の材質は、加熱した際に、ガスを発生しないもの、例えばステンレススチールなどの金属が好ましい。吸着剤211は、測定したい成分に合わせて適宜選択すればよいが、例えばカーボン系吸着剤からなることが好ましい。具体的には、例えばBuchem BV社のTENAX TA(登録商標)や、同じくBuchem BV社のTENAX GR(登録商標)を用いるのが一般的である。
【0014】
次に、図1および図2を参照して、吸着フィルタ21の構成および作用を詳細に説明する。
被験者11によって、マスクなどの呼気導入部12が装着され、被験者11の呼気が呼気収集部13内の吸着部2に吐出される。炭化水素系物質などの呼気成分は、選択的に吸着剤211に吸着され、窒素などの不活性ガスは、吸着されずに吸着部2の下流側へ排出される。吸着部2の下流側を大気圧とした場合、吸着部2を呼気が通過する際の圧力損失分だけ吸着部2の上流側は、下流側に比べ、圧力が高くなり、被験者11が呼気を吐き出すときの抵抗となる。つまり、この圧力損失が小さければ吸着部2の上流側の圧力は小さくなり、被験者11が楽に呼気を吐き出すことができる。吸着部2を流れる呼気量と、それにより生じる圧力損失の関係は以下に記述する通りである。
【0015】
孔部213の断面積の総和(以下、断面積と記載する)をA、孔部213の長さをLとする。また孔部213に存在する吸着剤211の総体積をVとすると、吸着フィルタ21において、呼気が通過できる部分の体積は、AL−Vとなる。従って、呼気が通過できる見かけの断面積は、
(AL−V)/L …(数式1)
となる。
【0016】
また、吸着部2の上流/下流の圧力損失Pは、
P=Q/C …(数式2)
と表せる。
ただし、Q:呼気量、C:コンダクタンスである。
コンダクタンスCは、円管のコンダクタンス(20℃の空気の場合)を仮定すると、
C={1349・d4/L}・{(P1+P2)/2}[m3/s] …(数式3)
である。ここで、d:円管のみかけの内径=2・((AL−V)/πL)1/2、P1:吸着部2の上流側圧力、P2:吸着部2の下流側圧力である。
【0017】
このようにして、用いた吸着剤211の総体積V、呼気量Qなどから、圧力損失Pを算出することができる。ここで、通常の呼吸における呼気量の最大値は、約4[l/min]であり、このときの吸着部2の上流側と下流側の間の圧力損失Pが10[kPa]以下、すなわち
P=Q/C≦10×103 …(数式4)
であれば、発明者らが実験した結果では、呼気をサンプリングする際の負担を感じない。すなわちP1=110×103[Pa],P2=100×103[Pa],Q=4×10-3×105/60[Pa・m3/s]を(数式3)および(数式4)に代入し、さらに(数式3)を(数式4)に代入すると、
(AL−V)2/L3≧2.9×10-12[m3]=2.9×10-3[mm3]となり、(AL−V)2/L3≧0.003[mm3]を満たせば、被験者11が呼気量4[l/min]で吐き出したときも、10[kPa]以下の圧力損失になり、被験者11は負担を感じない。
【0018】
一方、呼気成分の分析面から考えると、なるべく呼気が吸着剤211に接触して、呼気成分が吸着されるのが好ましい。すなわち、前記したALとVの比(孔部213において吸着剤211が占める割合)V/ALが小さすぎる(疎な場合)と、多くの呼気成分が吸着剤211に接触せずに系外に排出されてしまい、感度の高い測定が出来なくなる。発明者らが実験した結果では、V/ALが80%以上であれば、呼気成分の吸着率は90%以上であるのに対して、30%では吸着率は約50%、10%では吸着率が10%程度と下がるため、V/AL≧30%となるのが望ましい。
【0019】
吸着剤211の粒径は細かいほど、同じ量を用いた場合の表面積が大きくなり、呼気成分を吸着する能力が増すが、孔部213における吸着剤211が占める体積比が大きくなり圧力損失が増大することになる。従って、孔部213の表面を入り組んだ形状として構成してもよい。このようにすることで、孔部213の表面積を増大させ、粒径が同じでも圧力損失を比較的増大させることなく、吸着率を増大させることができる。
【0020】
同じ量の吸着剤211を使用している条件下で、吸着部2の上流、下流間の圧力損失を減らしつつ、吸着フィルタ21を通るガス流速を小さくするために、一般に断面積Aを大きくすることが有効である。しかし、図2に示したようなメタルシート212を使わず、単に2つのメッシュ22の間に吸着剤を挟むことによって、吸着剤211を保持する(すなわち、孔部213の内径を極限まで大きくした状態)と、吸着部2を動かすときに、吸着剤211が片側によってしまい、サンプリング時に呼気が吸着剤211にほとんど接触せずに、系外に排出されてしまう。このように、孔部213が形成されているメタルシート212には、吸着剤211の移動を防ぐ効果がある。
【0021】
図2に示した吸着部2の例として、孔部213の内径:3×10-3[m]、孔部213の長さ:0.8×10-3[m]、孔部213の数:31個、金属メッシュサイズ:約250μm、吸着剤211:Buchem BV社のTENAX TA(登録商標)(孔径約250μm)、吸着剤211の総体積:約106×10-9[m3]、を用いた場合、吸着剤211を充填しなかった場合の孔部213の断面積の総和は、約219×10-6[m2]となるため、孔部213の総体積は、219×10-6×0.8×10-3=175×10-9[m3]となる。従って、孔部213における吸着剤211が占める体積比(V/AL)は、約60%となる。また、(AL−V)2/L3=(175×10-9−106×10-92/(0.8×10-33≒9300×10-9[m3]=9300[mm3]となり、(AL−V)2/L3≧0.003mm3とV/AL≧0.3(30%)の両方を満たしている。
【0022】
実際に、本実施形態に係る吸着フィルタ21を用いて、呼気を4[l/min]で流したときの圧力損失は、実験で確認した結果、約1[kPa]であり、一般に被験者11が抵抗を感じる10[kPa]に比べて十分に小さい。
この吸着部2を用いて、標準試料としてヘプタンを用いたときの回収率は、50〜70%であり、分析には十分な回収率であった。
【0023】
図3は、呼気分析システムの構成を示す概略図である。
図3に示すように、呼気分析システム3は、呼気収集装置1(図1参照)から取り外された吸着フィルタ21を収容し、加熱することによって呼気成分を吸着剤211(図2参照)から脱離させるための加熱装置31と、加熱装置31で加熱されることによって、吸着フィルタ21から脱離した呼気成分の分析を行う分析装置32と、加熱装置31と分析装置32を接続し、加熱装置31で脱離した呼気成分を分析装置32へ送る配管33と、分析装置32で分析された呼気成分を系外へ排出するための排出管34とを含んで構成される。加熱装置31は、取り外された吸着フィルタ21を収容する加熱室311および加熱室311を加熱するための加熱部312を含んで構成される。さらに、呼気分析システム3は、分析装置32と電気的に接続され、分析装置32で分析された結果を解析するための端末tを含んで構成されてもよい。加熱部312は、例えばランプ光源、電気ヒータ、赤外線ヒータなどを用いる。分析装置32は、GC、イオンモビリティ、質量分析計、GC/MS(Gas Chromatography/Mass Spectrometer)およびこれらを組み合わせたものが使えるが、これらに限定したものではなく、成分を分析できるものであればどのような構成でも構わない。
【0024】
図4は、呼気成分の測定の処理の流れを示すフローである。
図1、図2および図3を参照しつつ、図4を参照して呼気成分の測定の処理の流れを説明する。
まず、吸着部2は、高温でベーキングされ(S1)、吸着剤211に、未知のガス成分が吸着しないように、前もって処理しておく。次に、吸着部2が、窒素やヘリウムなどのクリーンなガス雰囲気下で、所定の温度まで冷却される(S2)。次に、吸着部2が、呼気収集装置1の呼気収集部13に設置される(S3)。そして、呼気導入部12が被験者11の口部に装着され、被験者11が呼気収集装置1に呼気を吐出することによって、被験者11の呼気をサンプリングする(S4)。このとき、揮発性の高い呼気成分を測定したい場合は、呼気収集部13を冷却しながらサンプリングすると、成分が効率よく吸着剤211表面に吸着されるので、感度良く分析することが可能となる。逆に揮発性の低い呼気成分を測定したい場合には、呼気収集部13を測定成分が脱離しない程度の温度に加熱しながらサンプリングを行うと、揮発性の高い夾雑成分は吸着剤211に吸着されにくくなるので、分析時のノイズ成分の影響を小さくすることができる。なお、このとき配管16bに設けた流量計15でサンプリングした呼気量を計測しながら、呼気を収集する。サンプリングする呼気収集量は1[l/回]程度が適当である。使用する分析計の感度、対象とする呼気成分により、サンプリングする呼気量は適度に調節する。
呼気を捕集した後、吸着フィルタ21が、呼気収集部13から外され、呼気分析システム3における加熱装置31の加熱室311内に設置される(S5)。そして、加熱部312が、加熱室311を加熱して呼気成分を吸着フィルタ21より脱離させ、脱離した呼気成分を回収する(S6)。加熱には、例えばランプ光源による熱を利用する。回収した呼気成分は配管33を介して、分析装置32へ送られる。分析装置32は、送られた呼気成分を分析する(S7)。分析装置32は、質量分析計、GC、GC/MS(Gas Chromatography/Mass Spectrometer)などを用いて分析することが出来る。
測定を終了した後の吸着剤211は、不活性ガス雰囲気下で加熱して吸着していた呼気成分を完全に脱離させる(S8)。この処理によって、吸着剤211を再利用することが可能となる。加熱後すぐにサンプリングを行わない場合には、容器に密封し、大気中の成分が吸着しないように保存しておくことが好ましい。
【0025】
図5に示すようなガラス管55に充填した吸着剤56を用いて吸着部57を構成すると、吸着部57における吸着剤56が占める体積比は概ね50%以上となり、吸着率は高くなるが、吸着部57での圧力損失が大きくなり、サンプリング時の被験者の負担が増大する。本実施形態で用いた吸着剤211(図2参照)と同じ大きさで、かつ同じ量の吸着剤56を内径3[mm]のガラス管55に充填したところ、吸着部57の長さは18[mm]、吸着部のうち吸着剤56]が占める体積比は98%となり、標準試料であるヘプタンの回収率は約90%と高い回収率を示した。しかし、(AL−V)2/L3=0.002となり、呼気を4[l/min]で流した時の実験では、吸着部57における圧力損失は約40kPaあり、被験者51の負担が増大する結果となった。
【0026】
このように、(AL−V)2/L3≧0.003mm3とV/AL≧0.3との両方を満たすよう吸着剤を配置することにより、圧力損失が小さく被験者の負担が小さく、かつ成分の回収率が高い吸着フィルタを作ることが出来る。
表1は、比較例の呼気捕集方法と、本実施形態における呼気捕集方法との比較を示す表である。
ここで、比較例は、例えば容器(バッグ)捕集による方法(例えば、特許文献2で開示されている方法)および固体吸着による方法(例えば、特許文献1で開示されている方法)であり、本実施形態は、吸着フィルタによる方法である。
表1は、呼気捕集方法である容器(バッグ)捕集による方法、固体吸着による方法および吸着フィルタによる方法における吸着部57の圧力損失、および呼気成分の回収率を比較したものである。
なお、呼気成分の回収率は、ヘプタンを標準試料として実験した結果である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、容器捕集による方法における、吸着部における圧力損失は、1[kPa]以下であり、被験者への負担は小さいものの、成分の回収率は、およそ10%と低い。
一方、固体吸着による方法では、呼気成分の回収率は、およそ90%と良好だが、吸着部における圧力損失が40[kPa]と大きく、被験者への負担が大きい。
本実施形態における吸着フィルタによる方法では、吸着部における圧力損失が1kPa以下であり、被験者の負担が小さい。さらに、呼気成分の回収率も、およそ50%〜70%と高く、良好なサンプリングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係る呼気収集装置の構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る吸着部の構成を示す図であり、(a)は、吸着部の側断面を示す図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図である。
【図3】呼気分析システムの構成を示す概略図である。
【図4】呼気成分の測定の処理の流れを示すフローである。
【図5】吸着剤をガラス管に充填した呼気収集装置の構成の従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 呼気収集装置
2 吸着部
3 呼気分析システム
5 呼気収集装置
12 呼気導入部
13 呼気収集部
14 吸引ポンプ
21 吸着フィルタ
22 メッシュ
31 加熱装置
32 分析装置
211 吸着剤
212 メタルシート
213 孔部
311 吸着剤
311 加熱室
312 加熱部
313 吸着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気成分を吸着するための吸着剤と、
所定の面から他の面へと貫通し、前記吸着剤が充填される孔部を有する捕集部とを具備した呼気捕集フィルタであって、
前記捕集部における前記吸着剤の全体積をV、前記孔部の全断面積をA、前記孔部の長さをLとしたとき、(AL−V)2/L3≧0.003mm3かつV/AL≧0.3を満たしていることを特徴とする呼気捕集フィルタ。
【請求項2】
呼気成分を吸着するための吸着剤と、
前記吸着剤を保持する捕集部とを具備する呼気捕集フィルタであって、
前記捕集部が、網状のメッシュに挟まれていることを特徴とする呼気捕集フィルタ。
【請求項3】
前記吸着剤は、カーボン系吸着剤からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の呼気捕集フィルタ。
【請求項4】
前記捕集部は、金属からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の呼気捕集フィルタ。
【請求項5】
前記メッシュは、金属からなることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の呼気捕集フィルタ。
【請求項6】
被験者の呼気を導入するための呼気導入部と、
前記呼気導入部と接続され、呼気成分を捕集するための呼気捕集フィルタを内設してなる呼気収集部と、
を含んで構成される呼気収集装置であって、
前記呼気捕集フィルタは、
前記呼気成分を吸着するための吸着剤と、
所定の面から他の面へと貫通し、前記吸着剤が充填される孔部を有する板状の捕集部とを具備しており、
前記捕集部における前記吸着剤の全体積をV、前記孔部の全断面積をA、前記孔部の長さをLとしたとき、(AL−V)2/L3≧0.003mm3かつV/AL≧0.3を満たしていることを特徴とする呼気収集装置。
【請求項7】
被験者の呼気を導入するための呼気導入部と、
前記呼気導入部と接続され、呼気成分を捕集するための呼気捕集フィルタを内設してなる呼気収集部と、
を含んで構成される呼気収集装置であって、
前記呼気成分を吸着するための吸着剤と、
前記吸着剤を保持する捕集部とを具備する呼気捕集フィルタであって、
前記捕集部が、網状のメッシュに挟まれていることを特徴とする呼気収集装置。
【請求項8】
前記呼気収集部と接続される流量計をさらに備えることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の呼気収集装置。
【請求項9】
前記呼気収集部と接続される吸引ポンプをさらに備えることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の呼気収集装置。
【請求項10】
呼気成分を捕集する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の呼気捕集フィルタを収容し、前記呼気捕集フィルタを加熱することによって前記呼気成分を前記呼気捕集フィルタから脱離させる加熱装置と、
前記加熱装置から、脱離した前記呼気成分を取得し、この呼気成分の分析を行う分析装置と、
を含んで構成されることを特徴とする呼気分析システム。
【請求項11】
前記加熱装置は、ランプ光源を含んで構成されることを特徴とする請求項10に記載の呼気分析システム。
【請求項12】
前記呼気分析装置は、質量分析計またはガスクロマトグラフ分析計を含んで構成されることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の呼気分析システム。
【請求項13】
被験者の呼気を導入するための呼気導入部と、
前記呼気導入部と接続され、呼気成分を捕集するための請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の呼気捕集フィルタを内設してなる呼気収集部と、
を含んで構成される呼気収集装置と、
前記呼気捕集フィルタを収容し、前記呼気捕集フィルタを加熱することによって前記呼気成分を前記呼気捕集フィルタから脱離させる加熱装置と、
前記加熱装置から、脱離した前記呼気成分を取得し、この呼気成分の分析を行う分析装置と、
を含んで構成される呼気分析システムとを用いた呼気分析方法であって、
前記呼気捕集フィルタが、前記呼気収集装置に設置されて、
前記呼気収集装置が前記被験者に装着され、前記被験者が前記呼気収集装置に呼気を吐出することによって、前記被験者の呼気をサンプリングして、
前記呼気を捕集した後、前記呼気捕集フィルタが、前記呼気収集装置から外され、前記加熱装置に設置され、
前記加熱装置が、前記呼気捕集フィルタを加熱することによって前記呼気成分が前記呼気捕集フィルタより脱離し、脱離した前記呼気成分を回収して、
前記呼気成分を分析装置で分析することを特徴とする呼気分析方法。
【請求項14】
前記呼気のサンプリングをする前に前記呼気捕集フィルタを加熱することをさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の呼気分析方法。
【請求項15】
前記呼気のサンプリング時に、前記呼気捕集フィルタを加熱することをさらに含むことを特徴とする請求項13または請求項14に記載の呼気分析方法。
【請求項16】
前記呼気のサンプリング時に、前記呼気捕集フィルタを冷却することをさらに含むことを特徴とする請求項13または請求項14に記載の呼気分析方法。
【請求項17】
前記呼気成分の回収時に、ランプ光源を用いることを特徴とする請求項13から請求項16のいずれか一項に記載の呼気分析方法。
【請求項18】
前記分析装置は、質量分析計またはガスクロマトグラフ分析計を含むことを特徴とする請求項13から請求項17のいずれか一項に記載の呼気分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−329779(P2006−329779A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152810(P2005−152810)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】