説明

四輪駆動車のトルク配分制御装置

【課題】エンジントルクを前輪と後輪とにトルク配分する制御精度をより向上させることを可能とする。
【解決手段】路面と自車の各車輪との間で走行方向の前後、左右、上下に発生する各3方向の輪荷重を検出する輪荷重検出部79としての3方向荷重センサと、自車の走行状態を各3方向の輪荷重を含めた出力値に基づいて検出する走行状態検出部83と、走行状態に応じてトルク伝達カップリングを制御するカップリング制御部73と、検出された上下輪荷重により自車の姿勢を判断する車両姿勢判断部77と、判断された自車の姿勢に応じてトルク伝達カップリングのカップリング・トルクを補正する補正部81とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪と後輪とに配分するトルクを的確に制御可能な四輪駆動車のトルク配分制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪駆動車において、エンジントルクを前輪と後輪に配分する駆動系にトルク配分クラッチが設けられ、このトルク配分クラッチをトルク配分コントローラの制御指令により動作させ、前輪と後輪とに伝達されるトルク配分比を調整するようにしたものがある。
【0003】
この場合、前後加速度検出センサにより車両に作用する前後加速度が検出され、前後加速度感応ゲイン計算部において、前後加速度検出値が大きいほど大きな値による前後加速度感応ゲインが計算される。前後加速度感応ゲインフィルタ値計算部においては、前後加速度感応ゲインが増加する特性にゲイン増加を制限するフィルタ処理を加えて前後加速度感応ゲインフィルタ値が計算される。目標トルク演算部においては、前後加速度感応ゲインフィルタ値を用いて目標トルクが演算され、トルク配分コントローラからはこの目標トルクを得る制御指令がトルク配分クラッチに対し出力される。
【0004】
かかる出力により、坂道発進時における発進トラクションの向上と、ドライ旋回急加速時におけるタイトコーナー・ブレーキング現象の防止との両立を達成させることができる。
【0005】
しかし、加速度検出センサにより検出された車両に作用する前後加速度は、車両の走行状況に応じた姿勢変化に対して遅れを生じるため、制御精度の向上には限界があった。
【特許文献1】特開2001−225663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、加速度検出センサに基づく制御では、制御精度の向上に限界があった点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エンジントルクを前輪と後輪とにトルク配分する制御精度をより向上させるため、エンジンからの出力により第1デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される駆動輪と、前記エンジンからの出力を伝達トルクが制御可能なトルク伝達カップリング及び第2デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される従動輪とを備えた四輪駆動車のトルク配分制御装置であって、路面と自車の各車輪との間で走行方向の前後、左右、上下に発生する各3方向の輪荷重を検出する輪荷重検出部と、自車の走行状態を前記各3方向の輪荷重を含めた出力値に基づいて検出する走行状態検出部と、前記走行状態に応じて前記トルク伝達カップリングを制御するカップリング制御部と、前記検出された上下輪荷重により自車の姿勢を判断する車両姿勢判断部と、前記判断された自車の姿勢に応じて前記トルク伝達カップリングのカップリング・トルクを補正する補正部とを備えたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の四輪駆動車のトルク配分制御装は、エンジンからの出力により第1デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される駆動輪と、前記エンジンからの出力を伝達トルクが制御可能なトルク伝達カップリング及び第2デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される従動輪とを備えた四輪駆動車のトルク配分制御装置であって、路面と自車の各車輪との間で走行方向の前後、左右、上下に発生する各3方向の輪荷重を検出する輪荷重検出部と、自車の走行状態を前記各3方向の輪荷重を含めた出力値に基づいて検出する走行状態検出部と、前記走行状態に応じて前記トルク伝達カップリングを制御するカップリング制御部と、前記検出された上下輪荷重により自車の姿勢を判断する車両姿勢判断部と、前記判断された自車の姿勢に応じて前記トルク伝達カップリングのカップリング・トルクを補正する補正部とを備えた。
【0009】
このため、走行状態検出部は、自車の走行状態を各3方向の輪荷重を含めた出力値に基づいて正確に検出することができ、カップリング・トルクを走行状態に応じて適正なものとし、前輪と後輪とに的確にトルク配分することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
エンジントルクを前輪と後輪とにトルク配分する制御精度をより向上させるという目的を、自車の走行状態を各3方向の輪荷重を含めた出力値に基づいて検出する走行状態検出部により実現した。
【実施例1】
【0011】
[四輪駆動車のトルク配分制御装置]
図1は、本発明の実施例1に係り、横置きフロントエンジン・フロントドライブベース(FFベース)の四輪駆動車にトルク配分制御装置を備えたスケルトン平面図である。
【0012】
本実施例の四輪駆動車は、エンジン1からの出力により第1デファレンシャル装置であるフロント・デファレンシャル装置3を介して差動回転可能に駆動される駆動輪としての前輪5,7と、前記エンジン1からの出力を伝達トルクが制御可能なトルク伝達カップリング9及び第2デファレンシャル装置であるリヤ・デファレンシャル装置11を介して差動回転可能に駆動される従動輪としての後輪13,15とを備えている。
【0013】
前記フロント・デファレンシャル装置3は、エンジン1からトランスミッション17を介して駆動入力を受ける。この駆動入力は、リング・ギヤ19を介しフロント・デフ・ケース21に対して行われる。
【0014】
フロント・デファレンシャル装置3の出力部である左右のサイド・ギヤ23,25には、左右の前輪車軸27,29が結合され、この前輪車軸27,29に、前輪5,7が連動連結されている。
【0015】
前記後輪13,15へは、フロント・デファレンシャル装置3への駆動入力をトランスファ31を介して分配伝達される。トランスファ31のトランスファ・ケース33を貫通して前記前輪車軸29が貫通配置されている。
【0016】
トランスファ・ケース33内には、フロント・デファレンシャル装置3の出力回転部としてのフロント・デフ・ケース21から一体回転可能な連結中空軸35が延設されている。この連結中空軸35は、リング・ギヤ37が取り付けられ、後輪側出力用のピニオン・ギヤ39に噛み合っている。
【0017】
ピニオン・ギヤ39は、プロペラ・シャフト41側に連動構成され、プロペラ・シャフト41にトルク伝達カップリング9が連動構成されている。トルク伝達カップリング9は、ドライブ・ピニオン・シャフト43に結合されている。ドライブ・ピニオン・シャフト43は、ドライブ・ピニオン・ギヤ45を備え、このドライブ・ピニオン・ギヤ45は、前記リヤ・デファレンシャル装置11のリング・ギヤ47に噛み合っている。
【0018】
リヤ・デファレンシャル装置11は、後輪車軸49,51間に介設され、後輪車軸49,51が、前記後輪13,15に連動連結されている。
【0019】
従って、エンジン1からトランスミッション17を介してフロント・デファレンシャル装置3のリング・ギヤ19にトルクが入力されると、一方では前輪車軸27,29を介して左右の前輪5,7へトルク伝達が行われる。また他方では、フロント・デフ・ケース21、連結中空軸35、リング・ギヤ37、ピニオン・ギヤ39を介してプロペラ・シャフト41へトルクが分配出力される。
【0020】
プロペラ・シャフト41に分配出力されたトルクは、トルク伝達カップリング9、ドライブ・ピニオン・シャフト43、ドライブ・ピニオン・ギヤ45、リング・ギヤ47、リヤ・デファレンシャル装置11、左右の後輪車軸49,51を介して伝達され、左右の後輪13,15が駆動される。
【0021】
従って、トルク伝達カップリング9がトルク伝達状態であるときには、そのオン・デマンドの伝達トルクに応じ前輪5,7及び後輪13,15の四輪駆動状態で走行することができる。トルク伝達カップリング9が、トルク伝達状態にないときには、前輪5,7による二輪駆動状態で走行することができる。
【0022】
前記トルク伝達カップリング9の締結制御は、4WDコントローラ53により行われる。4WDコントローラ53は、マイクロコンピュータ等で構成され、入力ポートに4WDモード・スイッチ55が接続され、出力ポートに駆動回路57を介してトルク伝達カップリング9の電磁アクチュエータ9aが接続されている。
【0023】
4WDコントローラ53の入力ポートには、その他左右前後輪5,7,13,15の3方向荷重センサ59,61,63,65、アクセル開度センサ、舵角センサ、ヨー・レイト・センサ等が接続されている。
【0024】
前記3方向荷重センサ59,61,63,65は、輪荷重検出部を構成し、路面と各車輪である前後輪5,7,13,15との間で走行方向の前後、左右、上下に発生する各3方向の輪荷重を検出して4WDコントローラ53に入力する。
【0025】
3方向荷重センサ59,61,63,65は、車輪速センサとエンコーダからなり、前後輪5,7,13,15の各車輪ハブの軸受けで発生した変位を検出し、軸受けの剛性特性と合わせて前記各3方向の輪荷重を検出する。
【0026】
そして、4WDコントローラ53は、4WDモード・スイッチ55による4WDへの切り換えにより駆動回路57を介してトルク伝達カップリング9の電磁アクチュエータ9aを電流制御し、トルク伝達カップリング9の締結を行なわせる。このとき3方向荷重センサ59,61,63,65等各種センサの検出信号に基づいてトルク伝達カップリング9の締結制御が行なわれる。
【0027】
4WDコントローラ53の入力ポートには、さらにABSコントローラ67、エンジン・コントローラ69、コンビネーション・メータ71等が接続されている。ABSコントローラ67は、車輪速に基づき前後輪5,7,13,15がロックしないようにブレーキ液圧を制御する。エンジン・コントローラ69は、アクセル開度などに基づきエンジン1の噴射制御を行う。コンビネーション・メータ71は、スピード・メータのパルス信号を車速信号として4WDコントローラ53へ入力する。
【0028】
図2は、四輪駆動車のトルク配分制御装置の機能ブロック図である。
【0029】
図2のように、前記4WDコントローラ53は、カップリング制御部73、目標ヨー・レイト設定部75、車両姿勢判断部77、輪荷重検出部79、補正部81を含んでいる。
【0030】
前記カップリング制御部73は、自車の走行状態に応じて前記トルク伝達カップリング9の電磁アクチュエータ9aに出力し、目標ヨー・レイトが実現されるようにトルク伝達カップリング9のカップリング・トルクを制御する。
【0031】
前記目標ヨー・レイト設定部75は、走行状態に応じて自車の目標ヨー・レイトを設定する。自車の走行状態は、走行状態検出部83により各3方向の輪荷重を含めた出力値に基づいて検出される。すなわち、走行状態検出部83の車輪速センサ、アクセル開度センサ、舵角センサ、3方向荷重センサ59,61,63,65等の各信号に基づいて走行状態が算出される。
【0032】
前記車両姿勢判断部77は、輪荷重検出部79である3方向荷重センサ59,61,63,65により検出された各上下輪荷重により自車の姿勢を判断する。
【0033】
前記補正部81は、前記車両姿勢判断部77で判断された自車の姿勢に応じて前記カップリング・トルクを補正する。本実施例において、補正部81は、後輪13,15に対する前輪5,7の輪荷重の増減、旋回内外の輪荷重の差に応じて前記カップリング・トルクを減増する。
【0034】
すなわち、カップリング制御部73(図2)は、図3のようなゲイン出力マップを備えており、検出された前後輪5,7,13,15の上下輪荷重に応じてゲイン出力を調整する。
【0035】
例えば、後輪13,15側に比較して前輪5,7側の上下輪荷重が大きくなるに従ってゲイン出力を低くし、前輪5,7側に比較して後輪13,15側の上下輪荷重が大きくなるに従ってゲイン出力を高くする(図4左側)。同時に、旋回内外の輪荷重の差が大きく横力(横G)が大きくなるに従ってゲイン出力を高くし、旋回内外の輪荷重の差が小さく横力(横G)が小さくなるに従ってゲイン出力を低くする(図4右側)。
【0036】
また、本実施例のカップリング制御部73は、登坂発進制御及び旋回リミット制御によりトルク伝達カップリング9の電磁アクチュエータ9aを制御する。登坂発進制御のためには、図5のようなゲイン出力マップを備えており、3方向荷重センサ59,61,63,65により検出された3方向の輪荷重の内、前後輪5,7,13,15の上下輪荷重の増減応じてゲイン出力を調整する。
【0037】
例えば、後輪13,15側に比較して前輪5,7側の輪荷重が大きくなるに従ってゲイン出力を低くし、前輪5,7側に比較して後輪13,15側の輪荷重が大きくなるに従ってゲイン出力を高くする。
【0038】
このようなゲイン出力により、登坂停車時においてトルク伝達カップリング9のカップリング・トルクを勾配に応じて出力させることで登坂発進時の制御レスポンスを向上させることができる。
【0039】
このような登坂発進時に、前記カップリング制御部73は、自車のアクセル開度及び車速が一定値以上であるとき前記トルク伝達カップリング9を出力ゼロに制御する。また、登坂発進後に3方向荷重センサ59,61,63,65によって検出された前後輪5,7,13,15の上下輪荷重から自車の走行状態において登坂走行が終了したと判断された場合(例えば、登坂走行から平坦走行又は降坂走行の何れかの走行状態)には、前記トルク伝達カップリング9の出力をゼロに制御する。
【0040】
また、前記カップリング制御部73は、自車の車速が一定値を下回り且つ非ブレーキ操作状態であるとき前記輪荷重検出部79の3方向荷重センサ59,61,63,65により検出された3方向の輪荷重の内、前後輪5,7,13,15の前後輪荷重から算出される実ブレーキ力が一定値を上回るとき旋回リミット制御出力により前記トルク伝達カップリング9の出力トルクをカット制御する。さらに自車の車速が一定値を上回るとき又はブレーキ操作状態且つブレーキ液圧が実ブレーキを上回るとき前記旋回リミット制御出力を行わないようにした。
[カップリング・トルク制御]
図6のフローチャートは、例えばエンジン・スタートにより実行される。
【0041】
ステップS1では、[走行中か?]の判断処理が実行される。この処理では、4WDコントローラ53が、ストップ・ランプ信号ON、車速≦2km/h、アクセル開度≦5%により判断し、これらの条件が成立せず走行中であると判断されると(YES)、ステップS2へ移行し、条件が成立し走行中ではないと判断されると(NO)、自車が停車中であると判断されたとき登坂発進制御へ移行する。
【0042】
ステップS2では、[車速>一定値か?]の判断処理が実行される。この処理では、車速が一定値を上回るときステップS3へ移行し、車速が一定値以下の極低速であるとき、旋回リミット制御へ移行する。
【0043】
(ヨーレイト制御)
ステップS3では、[走行状態検出」の処理が実行される。この処理では、走行状態検出部83の車輪速センサ、アクセル開度センサ、舵角センサ、3方向荷重センサ59,61,63,65等により検出された各信号が目標ヨー・レイト設定部75により読み込まれ、ステップS4へ移行する。
【0044】
ステップS4では、「出力トルク算出」の処理が実行される。この処理では、エンジン1の出力トルク、トランス・ミッション17の状態等から後輪13,15への出力トルクが算出され、ステップS5へ移行する。
【0045】
ステップS5では、「μ推定」の処理が実行される。この処理では、エンジン1の出力トルク、前後輪5,7,13,15の輪荷重、後輪13,15の差回転等から後輪13,15の接地面μが推定算出され、ステップS6へ移行する。
【0046】
ステップS6では、「グリップ限界値算出」の処理が実行される。この処理では、後輪13,15の輪荷重、ステップS13での推定μ、後輪13,15のタイヤ動半径等から後輪13,15のグリップ限界値がトルクとして推定算出され、ステップS7へ移行する。
【0047】
ステップS7は、「目標ヨー・レイト算出」の処理が実行される。この処理では、目標ヨー・レイト設定部75が読み込んだ走行状態から自車の目標ヨー・レイトを算出し、ステップS8へ移行する。
【0048】
ステップS8では、実ヨー・レイト、目標ヨー・レイトより「カップリング・トルク算出」の処理が実行される。この処理では、カップリング制御部73において、自車の旋回半径から自車の実ヨー・レイトが算出されると共に、目標ヨー・レイトとの差からカップリング・トルクを算出し、ステップS9へ移行する。
【0049】
ステップS9では、「上下輪荷重」の処理が実行される。この処理では、輪荷重検出部79からの信号により車両姿勢判断部77が前後輪5,7,13,15の上下輪荷重の増減において車両姿勢を判断し、ステップS10へ移行する。
【0050】
ステップS10では、「ゲイン量の決定」の処理が実行される。この処理では、カップリング制御部73の補正部81が図3のゲイン出力マップを読み出し、3方向荷重センサ59,61,63,65で検出された前後輪5,7,13,15の各3方向の輪荷重の内、前後輪荷重と左右輪荷重とに応じてゲイン出力を決定し、ステップS11へ移行する。
【0051】
ステップS11では、「出力トルク>グリップ限界か?」の判断処理が実行される。この処理では、後輪13,15への出力トルクがグリップ限界値を上回っていれば(YES)、ステップS12へ移行し、出力トルクがグリップ限界値以下であれば(NO)、補正を行わずステップS13へ移行する。
【0052】
ステップS12では、「カップリング・トルク補正」の処理が実行される。この処理では、決定されたゲイン出力によりカップリング制御部73でのカップリング・トルクが補正部81で補正される。この補正は、後輪13,15の旋回外側の出力トルクがグリップ限界値以下となるように行われ、ステップS13へ移行する。
【0053】
ステップS13では、[カップリング・トルク出力]の処理が行われ、カップリング制御部73により目標ヨー・レイトを実現するように電磁アクチュエータ9aを制御して後輪13,15にヨー・レイトを変更するためのトルクを付加調整することができ、カップリング・トルクを制御することができる。
【0054】
(登坂発進制御)
ステップS1から移行するステップS14〜S18は、登坂発進制御に係るステップである。
【0055】
ステップS14では、「荷重判定」の処理が実行される。この処理では、カップリング制御部73が図5のゲイン出力マップを読み出し、3方向荷重センサ59,61,63,65により検出された前後輪5,7,13,15の3方向輪荷重の内、上下輪荷重に応じてゲイン出力を決定し、ステップS15へ移行する。
【0056】
ステップS15では、「カップリング・トルク出力」の処理が実行される。この処理では、カップリング制御部73による電磁アクチュエータ9aの制御により登坂停車時、トルク伝達カップリング9が勾配に応じたトルクを出力することで発進時の制御レスポンスを向上させることができる。このトルク伝達カップリング9のカップリング・トルクは、ステップS14でのゲイン出力、上下方向輪荷重に基づく車重、推定された路面μの積により算出される。
【0057】
ステップS16では、「発進したか?」の判断処理が実行される。この処理では、登坂発進したか否かの判断がなされ、発進していれば(YES)、ステップS17へ移行し、発進していなければ(NO)、ステップS14,S15が繰り返される。
【0058】
ステップS17では、「アクセル開度>一定値and車速度>一定値か?」或いは自車の姿勢判定として「登坂走行が終了したか?」の判断処理が実行される。この処理では、登坂走行が高速で行われ、或いは急発進で登坂走行が行われるようなときは、アクセル開度>一定値and車速度>一定値であると判断されて(YES)、ステップS18へ移行し、アクセル開度>一定値and車速度>一定値でなければ(NO)、ステップS15により「カップリング・トルク出力」の処理が行われ、また、自車が発進走行、登坂走行から平坦又は降坂走行に移行したとき(YES)、ステップS18へ移行し、登坂走行状態を維持しているとき(NO)、ステップS15の処理に戻り、登坂発進制御が行われる。なお、本実施例においては、より的確にカップリング・トルク出力を行わせるためにアクセル開度と車速とをアンド条件で組み合わせているが、少なくとも車速の一定値のみを基準にしたステップS17の制御判断を行っても十分に効果が得られる。
【0059】
ステップS18では、「カップリング・トルク出力OFF」の処理が実行される。この処理では、登坂走行が高速で行われ、或いは急発進で登坂走行が行われるようなときにカップリング制御部73が電磁アクチュエータ9aの制御を停止し、トルク伝達カップリング9の出力トルクをゼロとする。従って、後輪13,15へのトルク分配は行われず、前輪5,7のみにより登坂走行或いは登坂発進を行わせ、安定した登坂走行或いは登坂発進を実現させることができる。
【0060】
(旋回リミット制御)
ステップS2から移行するステップS19,S20は、旋回リミット制御に係るステップである。
【0061】
ステップS19では、「ブレーキ・ランプOFFand(実ブレーキ−ブレーキ液圧)>一定値か?」の判断処理が実行される。この処理では、極低速でブレーキ・ランプがOFFで実ブレーキがブレーキ液圧を上回っているとき(YES)、ステップS20へ移行し、ブレーキ・ランプがON又は実ブレーキがブレーキ液圧を上回っていなければ(NO)、ステップS3へ移行する。
【0062】
この場合、実ブレーキとは、タイトコーナー・ブレーキング現象による内部循環トルクであり、車両が車輪に対して負のトルクが作用する状態を言う。実ブレーキは、3方向荷重センサ59,61,63,65により検出された前後輪5,7,13,15の3方向輪荷重の内、前後輪荷重から算出される。ブレーキ液圧は、液圧センサで検出される。
【0063】
ステップS20では、「旋回リミット制御出力」の処理が実行される。この処理では、カップリング制御部73による電磁アクチュエータ9aの制御でトルク伝達カップリング9のカップリング・トルクがカットされ、タイトコーナー・ブレーキング現象を防止することができる。
[実施例の効果]
本発明は、エンジン1からの出力によりフロント・デファレンシャル装置3を介して差動回転可能に駆動される前輪5,7と、前記エンジン1からの出力を伝達トルクが制御可能なトルク伝達カップリング9及びリヤ・デファレンシャル装置11を介して差動回転可能に駆動される後輪13,15とを備えた四輪駆動車のトルク配分制御装置であって、路面と自車の各車輪5,7,13,15との間で走行方向の前後、左右、上下に発生する各3方向の輪荷重を検出する輪荷重検出部79としての3方向荷重センサ59,61,63,65と、自車の走行状態を各3方向の輪荷重を含めた出力値に基づいて検出する走行状態検出部83と、前記走行状態に応じて前記トルク伝達カップリング9を制御するカップリング制御部73と、前記検出された上下輪荷重により自車の姿勢を判断する車両姿勢判断部77と、前記判断された自車の姿勢に応じて前記トルク伝達カップリング9のカップリング・トルクを補正する補正部81とを備えた。
【0064】
このため、走行状態検出部83は、自車の走行状態を各3方向の輪荷重を含めた出力値に基づいて正確に検出することができ、Gセンサによる制御に比較して運転者の違和感が無いか少なく、カップリング・トルクを走行状態に応じて適正なものとし、前輪5,7と後輪13,15とに的確にトルク配分することができる。
【0065】
前記走行状態に応じて自車の目標ヨー・レイトを設定する目標ヨー・レイト設定部75を備え、前記カップリング制御部73は、前記目標ヨー・レイトを実現するように前記トルク伝達カップリング9の電磁アクチュエータ9aを制御する。
【0066】
このため、車両旋回特性として十分なヨー・レイト制御を行わせることができる。
【0067】
エンジン1からの出力によりフロント・デファレンシャル装置3を介して差動回転可能に駆動される前輪5,7と、前記エンジン1からの出力を伝達トルクが制御可能なトルク伝達カップリング9及びリヤ・デファレンシャル装置11を介して差動回転可能に駆動される後輪13,15とを備えた四輪駆動車のトルク配分制御装置であって、路面と自車の各車輪5,7,13,15との間で走行方向の前後、左右、上下に発生する各3方向の輪荷重を検出する輪荷重検出部79としての3方向荷重センサ59,61,63,65と、前記検出された上下輪荷重により自車の姿勢を判断する車両姿勢判断部77と、前記判断された自車の姿勢に応じて前記トルク伝達カップリング9のカップリング・トルクを制御するカップリング制御部73とを備え、前記カップリング制御部73は、登坂発進時に自車のアクセル開度及び車速が一定値以上であるとき又は自車が登坂走行状態を終了したことを検知したとき、前記トルク伝達カップリング9を出力ゼロに制御する。
【0068】
このため、登坂停車時においてトルク伝達カップリング9のカップリング・トルクを勾配に応じて出力させることで登坂発進時の制御レスポンスを向上させることができる。
【0069】
また、登坂走行が高速で行われ、或いは急発進で登坂走行が行われるようなときにカップリング制御部73が電磁アクチュエータ9aの制御を停止し、トルク伝達カップリング9の出力トルクをゼロとする。従って、後輪13,15へのトルク分配は行われず、前輪5,7のみにより登坂走行或いは登坂発進を行わせ、安定した登坂走行或いは登坂発進を実現させることができる。
【0070】
前記カップリング制御部73は、自車の車速が一定値を下回り非ブレーキ操作状態であるとき前記輪荷重検出部79としての3方向荷重センサ59,61,63,65が検出された前後輪5,7,13,15の3方向輪荷重の内、前後輪荷重から算出される実ブレーキ力が一定値を上回るとき、旋回リミット制御出力が行われてカップリング制御部73による電磁アクチュエータ9aの制御でトルク伝達カップリング9のカップリング・トルクがカットされ、タイトコーナー・ブレーキング現象を防止することができる。自車の車速が一定値を上回るとき又はブレーキ操作状態であるとき前記旋回リミット制御出力を停止する制御を行う。
[その他]
なお、フロントエンジン・リヤドライブベース(FRベース)の四輪駆動車において、エンジン1からの出力により第1デファレンシャル装置であるリヤ・デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される駆動輪としての後輪と、前記エンジンからの出力を伝達トルクが制御可能なトルク伝達カップリング及び第2デファレンシャル装置であるフロント・デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される従動輪としての前輪とを備えた構造にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】横置きフロントエンジン・フロントドライブベース(FFベース)の四輪駆動車にトルク配分制御装置を備えたスケルトン平面図である。(実施例1)
【図2】四輪駆動車のトルク配分制御装置の機能ブロック図であるである。(実施例1)
【図3】ゲイン出力マップである。(実施例1)
【図4】ゲイン出力のイメージを示す説明図である。(実施例1)
【図5】ゲイン出力マップである。実施例1)
【図6】四輪駆動車にトルク配分制御装置のフローチャートである。(実施例1)
【符号の説明】
【0072】
1 エンジン
3 フロント・デファレンシャル装置(第1デファレンシャル装置)
5,7 前輪
9 トルク伝達カップリング
11 リヤ・デファレンシャル装置(第2デファレンシャル装置)
13,15 後輪
59,61,63,65 3方向荷重センサ59,61,63,65
73 カップリング制御部
75 目標ヨー・レイト設定部
77 車両姿勢判断部
79 輪荷重検出部
81 補正部
83 走行状態検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの出力により第1デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される駆動輪と、
前記エンジンからの出力を伝達トルクが制御可能なトルク伝達カップリング及び第2デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される従動輪と、
を備えた四輪駆動車のトルク配分制御装置であって、
路面と自車の各車輪との間で走行方向の前後、左右、上下に発生する各3方向の輪荷重を検出する輪荷重検出部と、
自車の走行状態を前記各3方向の輪荷重を含めた出力値に基づいて検出する走行状態検出部と、
前記走行状態に応じて前記トルク伝達カップリングを制御するカップリング制御部と、
前記検出された上下輪荷重により自車の姿勢を判断する車両姿勢判断部と、
前記判断された自車の姿勢に応じて前記トルク伝達カップリングのカップリング・トルクを補正する補正部と、
を備えたことを特徴とする四輪駆動車のトルク配分制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の四輪駆動車のトルク配分制御装置であって、
前記走行状態に応じて自車の目標ヨー・レイトを設定する目標ヨー・レイト設定部を備え、
前記カップリング制御部は、前記目標ヨー・レイトを実現するように前記トルク伝達カップリングを制御する、
ことを特徴とする四輪駆動車のトルク配分制御装置。
【請求項3】
エンジンからの出力によりフロント・デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される前輪と、
前記エンジンからの出力を伝達トルクが制御可能なトルク伝達カップリング及びリヤ・デファレンシャル装置を介して差動回転可能に駆動される後輪と、
を備えた四輪駆動車のトルク配分制御装置であって、
路面と自車の各車輪との間で走行方向の前後、左右、上下に発生する各3方向の輪荷重を検出する輪荷重検出部と、
前記検出された上下輪荷重により自車の姿勢を判断する車両姿勢判断部と、
前記判断された自車の姿勢に応じて前記トルク伝達カップリングのカップリング・トルクを制御するカップリング制御部とを備え、
前記カップリング制御部は、登坂発進時に前記トルク伝達カップリングを出力制御し、自車の車速が一定値以上であるとき又は登坂発進後に登坂走行が終了したとき前記トルク伝達カップリングを出力ゼロに制御する、
ことを特徴とする四輪駆動車のトルク配分制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の四輪駆動車のトルク配分制御装置であって、
前記カップリング制御部は、自車の車速が一定値を下回り非ブレーキ操作状態であるとき前記輪荷重検出部が検出する輪荷重から算出される実ブレーキ力が一定値を上回るとき旋回リミット制御出力によりトルク伝達カップリングのカップリング・トルクをカットすると共に自車の車速が一定値を上回るとき又はブレーキ操作状態であるとき前記旋回リミット制御出力を停止する制御を行う、
ことを特徴とする四輪駆動車のトルク配分制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−262834(P2009−262834A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116311(P2008−116311)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000225050)GKN ドライブライン トルクテクノロジー株式会社 (409)
【Fターム(参考)】