回折格子の形状誤差評価方法
【課題】回折格子回折格子全面からの回折光波面を短時間に計測し、得られた波面情報に演算処理を施すことで、従来技術が持つコストと評価時間に関する課題を解決することを目的としている。
【解決手段】1軸回折格子10または2軸回折格子の全面に光を照射し、+1次回折光と−1次回折光のそれぞれの波面情報をフィゾー型干渉計11などの形状計測用干渉計で評価する。回折格子からの+1次回折光または−1次回折光と、フィゾー型干渉計12の内部に搭載されている参照用オプティカルフラット12からの参照光が重なり合うように、形状計測用干渉計に対して回折格子を相対的に傾ける。フィゾー型干渉計12により、回折光全面からの波面を一括に、且つ短時間に計測できる。得られた+1次回折光または−1次回折光の波面を減算処理することで、回折格子全面にわたるピッチばらつきを求めることができる。
【解決手段】1軸回折格子10または2軸回折格子の全面に光を照射し、+1次回折光と−1次回折光のそれぞれの波面情報をフィゾー型干渉計11などの形状計測用干渉計で評価する。回折格子からの+1次回折光または−1次回折光と、フィゾー型干渉計12の内部に搭載されている参照用オプティカルフラット12からの参照光が重なり合うように、形状計測用干渉計に対して回折格子を相対的に傾ける。フィゾー型干渉計12により、回折光全面からの波面を一括に、且つ短時間に計測できる。得られた+1次回折光または−1次回折光の波面を減算処理することで、回折格子全面にわたるピッチばらつきを求めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密変位センサであるリニアエンコーダ及び平面エンコーダの計測基準として用いられている1軸回折格子および2軸回折格子の形状誤差評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や超精密工作機械において、数百ミリメートル以上の範囲に渡ってナノメートルオーダーのテーブル位置決め精度が実現されているが、これは精密変位センサを用いたフィードバック制御技術の貢献が大きい。
【0003】
前記のような長いストロークに渡る精密位置決めを実現するためのフィードバック用変位センサとしては、レーザ干渉測長器とリニアエンコーダが代表的である。リニアエンコーダは、1軸回折格子10の精密な目盛を基準として計測を行う変位センサである。近年は、空気外乱への耐性の観点から、リニアエンコーダが採用される傾向にある。
【0004】
一方、1軸回折格子を2軸に拡張した2軸回折格子20を用いて、格子面内の2軸変位を同時に検出できる平面エンコーダも製品化されており、主にCNC制御工作機械ヘッドの2軸運動性能の評価に用いられている。
【0005】
リニアエンコーダは、等間隔に刻まれた直線状の1軸微細目盛をスケールにして変位計測を行うため、スケールのピッチばらつきはそのまま計測誤差に影響する。また、平面エンコーダでは、直交する2つの格子軸に沿ったピッチばらつきが、計測誤差に影響する。
【0006】
1軸リニアエンコーダのスケール用1軸回折格子のピッチばらつきを評価するための装置が国内外で開発されている。その多くは、移動台に取り付けられた目盛検出器を格子軸上に沿って走査させ、その移動量を参照用変位センサであるレーザ干渉測長器で測定することでピッチばらつきの測定を行っている。(非特許文献1、2参照)
【0007】
2軸回折格子のピッチばらつきを評価する場合は、上記の手法を2軸に拡張すれば可能である(非特許文献3、4参照)。しかしながら、目盛検出器を回折格子全面に渡って走査させるために時間的なコストが生じ、評価システム全体のドリフトが評価結果に影響する。
【0008】
このような1軸回折格子および2軸回折格子評価装置は、高精度な走査機構と参照用変位センサ、また高度な環境制御技術が必要でありコスト高になるため、世界でも限られた計測系研究機関しか所有していないのが現状である。
【0009】
一方、レーザ干渉測長器等の高精度な計測基準を用いずに、数学的な工夫によってピッチばらつきを自律的に求める手法も開発されており、例えば複数のエンコーダヘッドからの測定値を演算することで、1軸回折格子の目盛の誤差を自律的に求める手法が開発されている(特許文献1参照)。また、2軸回折格子においても、スケール全面を測定部で走査させて得られたデータを演算することで、自律的なピッチばらつき評価法が開発されている。(特許文献2参照)これらの手法は、高精度な計測基準を省くことができるので、低コストに回折格子のピッチばらつきを評価できるという利点がある。しかしながら、スケール全面のピッチばらつきの情報を得るために測定部を走査させる必要があるので、評価システム全体のドリフトが評価結果に影響する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−108116号公報
【特許文献2】特開2008−292259号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M. Sawabe, F. Maeda, Y. Yamaryo, T. Simomura, Y. Saruki, T. Kubo, H. Sakai and S. Aoyagi:A new vacuum interferometric comparator for calibrating the fine linear encoders and scales, Precision Engineering 28 (2004) , pp. 320−328.
【非特許文献2】Beers J. S., Penzes W. B., NIST length scale interferometer measurement assurance, NISTIR 4998 (1992), pp. 1−28.
【非特許文献3】Mike Holmes, Robert Hocken, David Trumper: The long-range scanning stage: a novel platform for scanned-probe microscopy, Precision Engineering, 24-3(2000) , pp. 191−209.
【非特許文献4】John A Kramar: Nanometre resolution metrology with the Molecular Measuring Machine Meas. Sci. Technol. 16 (2005) pp. 2121−2128.
【非特許文献5】木村 彰秀, 荒井 義和, 高 偉, 回折光干渉型XYZ 3軸変位センサに関する研究 精密工学会誌, 74-9(2008), 976-980.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、1軸または2軸回折格子全面に渡るピッチばらつきを評価するために、回折格子全面からの回折光波面を短時間に計測し、得られた波面情報に演算処理を施すことで、従来技術が持つコストと評価時間に関する課題を解決することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、回折格子全面に光を照射し、+1次回折光と−1次回折光のそれぞれの波面情報を評価する。波面評価には、例えばフィゾー型干渉計などの形状計測用干渉計を用いる。その際、回折格子からの+1次回折光または−1次回折光と、形状計測用干渉計内部の参照光が重なり合うように、形状計測用干渉計に対して回折格子を相対的に傾ける。形状計測用干渉計を用いるため、回折光全面からの波面を一括に、且つ短時間に計測することができる。
【0014】
評価した+1次回折光と−1次回折光のそれぞれの波面情報を減算処理することにより、回折格子が持つピッチばらつきを評価することができる。
【0015】
2軸の回折格子を評価する場合は、直交する2軸に沿って前述した処理を行うことで、2軸分のピッチばらつきを評価することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、回折格子全体のピッチばらつきを短時間に評価できるため、従来のように回折格子全面を走査して格子形状誤差を評価する手法に比べて、評価システムのドリフトの影響を極力排除できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】フィゾー型干渉計11を用いて、1軸回折格子からの+1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図2】フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からの−1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図3】フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向+1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図4】フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向−1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図5】フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からのY方向+1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図6】フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からのY方向−1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図7】市販のフィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向+1次回折光の波面を評価する実験風景を示す写真である。
【図8】2軸回折格子からのX方向+1次回折光の波面を測定した結果を示す図である。
【図9】2軸回折格子からのX方向−1次回折光の波面を測定した結果を示す図である。
【図10】2軸回折格子からのY方向+1次回折光の波面を測定した結果を示す図である。
【図11】2軸回折格子からのYX方向−1次回折光の波面を測定した結果を示す図である。
【図12】2軸回折格子全面に渡るX方向のピッチばらつきを示す図である。
【図13】2軸回折格子全面に渡るY方向のピッチばらつきを示す図である。
【図14】平面エンコーダの計測誤差を評価する実験装置を示す図である。
【図15】2軸回折格子上のラインaを示す図である。
【図16】2軸回折格子上のラインaに沿った、X方向のピッチばらつきと平面エンコーダのX方向の計測誤差の非線形成分を示す図である。
【図17】2軸回折格子上のラインaに沿った、Y方向のピッチばらつきと平面エンコーダのY方向の計測誤差の非線形成分を示す図である。
【図18】2軸回折格子上のラインaとラインbを示す図である。
【図19】2軸回折格子上のラインbに沿った、X方向のピッチばらつきと平面エンコーダのX方向の計測誤差の非線形成分を示す図である。
【図20】2軸回折格子上のラインbに沿った、Y方向のピッチばらつきと平面エンコーダのY方向の計測誤差の非線形成分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照にして、本発明の実施形態を説明する。以下の説明では、フィゾー型干渉計を回折光波面計測に用いる場合を想定する。
【0019】
図1は、フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からの+1次回折光の波面を評価する構成例を示す。1軸回折格子からの+1次回折光が、参照用オプティカルフラット12から反射したフィゾー型干渉計の参照光と重なり合うように、形状計測用干渉計に対して1軸回折格子を相対的に傾ける。傾斜角度は、1次回折角の半分に相当する。
【0020】
1軸回折格子全長に渡る平面度誤差とピッチばらつきをそれぞれeZ(x),eX(x)とすると、干渉計から得られる波面の位相出力IX+1(x)は、次のように表すことができる。
【0021】
【数1】
【0022】
ただし、λはフィゾー型干渉計の光源波長、gは1軸回折格子全面に渡る全ピッチ長さの平均値を示している。また、θは1次回折角である。
【0023】
図2は、フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からの−1次回折光の波面を評価する構成例を示す。1軸回折格子からの−1次回折光が、フィゾー型干渉計の参照光と重なり合うように、形状計測用干渉計に対して1軸回折格子を相対的に傾ける。傾斜角度は、1次回折角の半分に相当する。
【0024】
1軸回折格子全長に渡る平面度誤差とピッチばらつきをそれぞれeZ(x),eX(x)とすると、干渉計から得られる波面の位相出力IX−1(x)は、次のように表すことができる。
【0025】
【数2】
【0026】
+1次回折光及び−1次回折光の波面から得られた位相出力を減算処理することで、1軸回折格子全長に渡るピッチばらつきeX(x)を求めることができる。以下、平面度誤差eZ(x)とピッチばらつきeX(x)を、1軸回折格子の形状誤差として扱う。
【0027】
【数3】
【0028】
一方、図3は、フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向+1次回折光の波面を評価する構成例を示す。図4は、フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向−1次回折光の波面を評価する構成例を示す。2軸回折格子からのX方向+1次回折光またはX方向−1次回折光が、フィゾー型干渉計の参照光と重なり合うように、形状計測用干渉計に対して2軸回折格子を相対的に傾ける。傾斜角度は、1次回折角の半分に相当する。2軸回折格子全面に渡る平面度誤差とピッチばらつきをそれぞれeZ(x、y),eX(x、y)とすると、干渉計から得られるX方向+1次回折光の位相出力IX+1(x、y)及びX方向−1次回折光波面の位相出力IX−1(x、y)は、それぞれ次のように表すことができる。
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】
【0031】
X方向+1次回折光及びX方向−1次回折光の波面から得られた位相出力を減算処理することで、2軸回折格子全面に渡るピッチばらつきeX(x、y)を求めることができる。
【0032】
【数6】
【0033】
図5は、フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのY方向+1次回折光の波面を評価する構成例を示す。図6は、フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのY方向−1次回折光の波面を評価する構成例を示す。2軸回折格子からのY方向+1次回折光またはY方向−1次回折光が、フィゾー型干渉計の参照光と重なり合うように、形状計測用干渉計に対して2軸回折格子を相対的に傾ける。傾斜角度は、1次回折角の半分に相当する。2軸回折格子全面に渡る平面度誤差とピッチばらつきをそれぞれeZ(x、y),eY(x、y)とすると、干渉計から得られるY方向+1次回折光の位相出力IY+1(x、y)及びY方向−1次回折光波面の位相出力IY−1(x、y)は、それぞれ次のように表すことができる。
【0034】
【数7】
【0035】
【数8】
【0036】
Y方向+1次回折光及びY方向−1次回折光の波面から得られた位相出力を減算処理することで、2軸回折格子全面に渡るピッチばらつきeY(x、y)を求めることができる。
【0037】
【数9】
【実施例】
【0038】
ここで、上記方法の有効性を確認するための実験を行ったので、以下にその結果を示す。図7は、市販のフィゾー型干渉計で1次回折光の波面を求めるための実験風景である。実験に用いた2軸回折格子には、30mm×30mmに渡って1μmピッチの微細形状が加工されている。手動傾斜ステージ30によって2軸回折格子を傾けることで、2軸回折格子からの1次回折光とフィゾー型干渉計の参照光を重ねあわせる。
【0039】
図8から図11に示される実験によって得られたXY方向+1次回折光及びX方向−1次回折光の波面の計測結果を示す。(数式6)、(数式9)に従って導出した2軸回折格子全面に渡るX方向のピッチばらつきeY(x、y)、Y方向のピッチばらつきeY(x、y)、それぞれ図12、図13に示す。結果の端に存在するスパイク状の出力は、光量不足によって生じた誤差であると考えられる。
【0040】
このように得られた2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきを、平面エンコーダの計測誤差と比較することで、本発明が回折格子全面に渡るピッチばらつきの評価に有効であることを示す。図14は、非特許文献5に基づいて製作されたXYZ3軸変位計測用平面エンコーダ40の計測誤差を評価するための実験装置である。
【0041】
このXYZ3軸変位計測用平面エンコーダは、2軸回折格子を計測基準としており、2軸回折格子からの回折光に発生する位相変化を検出し、それを解析することで、前記変位センサのセンサヘッドと2軸回折格子の間のXY方向及びZ方向の相対変位を計測ができる。
【0042】
上記の実験装置では、リニアステージ可動部42に搭載されている2軸回折格子のXYZ3軸方向の変位を、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダにより計測する。その際の、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのX方向の出力を、市販のレーザ干渉測長器43の出力と比較することで、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのX方向の計測誤差を評価する。一方、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのY方向の出力を、市販の静電容量型変位センサ45の出力と比較することで、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのY方向の計測誤差を評価する。
【0043】
上記の実験装置において、図15のように2軸回折格子上のラインaに沿ったXYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分を評価した。図16および図17は、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのXY方向の計測誤差の非線形成分と、走査したラインに対応する2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきを示している。各々のデータは,各サンプリングにおける5回の計測の平均値である.XYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分は,XY格子のピッチばらつきの影響を大きく受けていることが分かる。なお、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分の他の要因としては、誤差評価装置の機械的振動や各変位センサの電気ノイズが考えられる。
【0044】
前述した実験に対して、図18のように2軸回折格子を90度回転させ、2軸回折格子上のラインbに沿ったXYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分を評価した。図19および図20は、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのXY方向の計測誤差の非線形成分と、走査したラインに対応する2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきを示している。各々のデータは,各サンプリングにおける5回の計測の平均値である.前述したで実験と同様に、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分は,XY格子のピッチばらつきの影響を大きく受けていることが分かる。
【0045】
前述した実験結果によれば、2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきが計測誤差に直接影響する平面エンコーダにおいて、平面エンコーダの計測誤差と2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきの間に高い相関が確認できた。従って、本発明が回折格子全面に渡るピッチばらつきの評価に有効であると言える。
【符号の説明】
【0046】
10…1軸回折格子、11…フィゾー型干渉計、12…参照用オプティカルフラット、20…2軸回折格子、30…手動傾斜ステージ、40…XYZ3軸変位計測用平面エンコーダ、41…リニアステージ、42…リニアステージ可動部、43…市販のレーザ干渉測長器、44…レーザ干渉測長器用ターゲットミラー、45…市販の静電容量型変位センサ、46…静電容量型変位センサ用平面ミラー
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密変位センサであるリニアエンコーダ及び平面エンコーダの計測基準として用いられている1軸回折格子および2軸回折格子の形状誤差評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や超精密工作機械において、数百ミリメートル以上の範囲に渡ってナノメートルオーダーのテーブル位置決め精度が実現されているが、これは精密変位センサを用いたフィードバック制御技術の貢献が大きい。
【0003】
前記のような長いストロークに渡る精密位置決めを実現するためのフィードバック用変位センサとしては、レーザ干渉測長器とリニアエンコーダが代表的である。リニアエンコーダは、1軸回折格子10の精密な目盛を基準として計測を行う変位センサである。近年は、空気外乱への耐性の観点から、リニアエンコーダが採用される傾向にある。
【0004】
一方、1軸回折格子を2軸に拡張した2軸回折格子20を用いて、格子面内の2軸変位を同時に検出できる平面エンコーダも製品化されており、主にCNC制御工作機械ヘッドの2軸運動性能の評価に用いられている。
【0005】
リニアエンコーダは、等間隔に刻まれた直線状の1軸微細目盛をスケールにして変位計測を行うため、スケールのピッチばらつきはそのまま計測誤差に影響する。また、平面エンコーダでは、直交する2つの格子軸に沿ったピッチばらつきが、計測誤差に影響する。
【0006】
1軸リニアエンコーダのスケール用1軸回折格子のピッチばらつきを評価するための装置が国内外で開発されている。その多くは、移動台に取り付けられた目盛検出器を格子軸上に沿って走査させ、その移動量を参照用変位センサであるレーザ干渉測長器で測定することでピッチばらつきの測定を行っている。(非特許文献1、2参照)
【0007】
2軸回折格子のピッチばらつきを評価する場合は、上記の手法を2軸に拡張すれば可能である(非特許文献3、4参照)。しかしながら、目盛検出器を回折格子全面に渡って走査させるために時間的なコストが生じ、評価システム全体のドリフトが評価結果に影響する。
【0008】
このような1軸回折格子および2軸回折格子評価装置は、高精度な走査機構と参照用変位センサ、また高度な環境制御技術が必要でありコスト高になるため、世界でも限られた計測系研究機関しか所有していないのが現状である。
【0009】
一方、レーザ干渉測長器等の高精度な計測基準を用いずに、数学的な工夫によってピッチばらつきを自律的に求める手法も開発されており、例えば複数のエンコーダヘッドからの測定値を演算することで、1軸回折格子の目盛の誤差を自律的に求める手法が開発されている(特許文献1参照)。また、2軸回折格子においても、スケール全面を測定部で走査させて得られたデータを演算することで、自律的なピッチばらつき評価法が開発されている。(特許文献2参照)これらの手法は、高精度な計測基準を省くことができるので、低コストに回折格子のピッチばらつきを評価できるという利点がある。しかしながら、スケール全面のピッチばらつきの情報を得るために測定部を走査させる必要があるので、評価システム全体のドリフトが評価結果に影響する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−108116号公報
【特許文献2】特開2008−292259号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M. Sawabe, F. Maeda, Y. Yamaryo, T. Simomura, Y. Saruki, T. Kubo, H. Sakai and S. Aoyagi:A new vacuum interferometric comparator for calibrating the fine linear encoders and scales, Precision Engineering 28 (2004) , pp. 320−328.
【非特許文献2】Beers J. S., Penzes W. B., NIST length scale interferometer measurement assurance, NISTIR 4998 (1992), pp. 1−28.
【非特許文献3】Mike Holmes, Robert Hocken, David Trumper: The long-range scanning stage: a novel platform for scanned-probe microscopy, Precision Engineering, 24-3(2000) , pp. 191−209.
【非特許文献4】John A Kramar: Nanometre resolution metrology with the Molecular Measuring Machine Meas. Sci. Technol. 16 (2005) pp. 2121−2128.
【非特許文献5】木村 彰秀, 荒井 義和, 高 偉, 回折光干渉型XYZ 3軸変位センサに関する研究 精密工学会誌, 74-9(2008), 976-980.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、1軸または2軸回折格子全面に渡るピッチばらつきを評価するために、回折格子全面からの回折光波面を短時間に計測し、得られた波面情報に演算処理を施すことで、従来技術が持つコストと評価時間に関する課題を解決することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、回折格子全面に光を照射し、+1次回折光と−1次回折光のそれぞれの波面情報を評価する。波面評価には、例えばフィゾー型干渉計などの形状計測用干渉計を用いる。その際、回折格子からの+1次回折光または−1次回折光と、形状計測用干渉計内部の参照光が重なり合うように、形状計測用干渉計に対して回折格子を相対的に傾ける。形状計測用干渉計を用いるため、回折光全面からの波面を一括に、且つ短時間に計測することができる。
【0014】
評価した+1次回折光と−1次回折光のそれぞれの波面情報を減算処理することにより、回折格子が持つピッチばらつきを評価することができる。
【0015】
2軸の回折格子を評価する場合は、直交する2軸に沿って前述した処理を行うことで、2軸分のピッチばらつきを評価することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、回折格子全体のピッチばらつきを短時間に評価できるため、従来のように回折格子全面を走査して格子形状誤差を評価する手法に比べて、評価システムのドリフトの影響を極力排除できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】フィゾー型干渉計11を用いて、1軸回折格子からの+1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図2】フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からの−1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図3】フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向+1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図4】フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向−1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図5】フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からのY方向+1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図6】フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からのY方向−1次回折光の波面を評価する様子を示す図である。
【図7】市販のフィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向+1次回折光の波面を評価する実験風景を示す写真である。
【図8】2軸回折格子からのX方向+1次回折光の波面を測定した結果を示す図である。
【図9】2軸回折格子からのX方向−1次回折光の波面を測定した結果を示す図である。
【図10】2軸回折格子からのY方向+1次回折光の波面を測定した結果を示す図である。
【図11】2軸回折格子からのYX方向−1次回折光の波面を測定した結果を示す図である。
【図12】2軸回折格子全面に渡るX方向のピッチばらつきを示す図である。
【図13】2軸回折格子全面に渡るY方向のピッチばらつきを示す図である。
【図14】平面エンコーダの計測誤差を評価する実験装置を示す図である。
【図15】2軸回折格子上のラインaを示す図である。
【図16】2軸回折格子上のラインaに沿った、X方向のピッチばらつきと平面エンコーダのX方向の計測誤差の非線形成分を示す図である。
【図17】2軸回折格子上のラインaに沿った、Y方向のピッチばらつきと平面エンコーダのY方向の計測誤差の非線形成分を示す図である。
【図18】2軸回折格子上のラインaとラインbを示す図である。
【図19】2軸回折格子上のラインbに沿った、X方向のピッチばらつきと平面エンコーダのX方向の計測誤差の非線形成分を示す図である。
【図20】2軸回折格子上のラインbに沿った、Y方向のピッチばらつきと平面エンコーダのY方向の計測誤差の非線形成分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照にして、本発明の実施形態を説明する。以下の説明では、フィゾー型干渉計を回折光波面計測に用いる場合を想定する。
【0019】
図1は、フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からの+1次回折光の波面を評価する構成例を示す。1軸回折格子からの+1次回折光が、参照用オプティカルフラット12から反射したフィゾー型干渉計の参照光と重なり合うように、形状計測用干渉計に対して1軸回折格子を相対的に傾ける。傾斜角度は、1次回折角の半分に相当する。
【0020】
1軸回折格子全長に渡る平面度誤差とピッチばらつきをそれぞれeZ(x),eX(x)とすると、干渉計から得られる波面の位相出力IX+1(x)は、次のように表すことができる。
【0021】
【数1】
【0022】
ただし、λはフィゾー型干渉計の光源波長、gは1軸回折格子全面に渡る全ピッチ長さの平均値を示している。また、θは1次回折角である。
【0023】
図2は、フィゾー型干渉計を用いて、1軸回折格子からの−1次回折光の波面を評価する構成例を示す。1軸回折格子からの−1次回折光が、フィゾー型干渉計の参照光と重なり合うように、形状計測用干渉計に対して1軸回折格子を相対的に傾ける。傾斜角度は、1次回折角の半分に相当する。
【0024】
1軸回折格子全長に渡る平面度誤差とピッチばらつきをそれぞれeZ(x),eX(x)とすると、干渉計から得られる波面の位相出力IX−1(x)は、次のように表すことができる。
【0025】
【数2】
【0026】
+1次回折光及び−1次回折光の波面から得られた位相出力を減算処理することで、1軸回折格子全長に渡るピッチばらつきeX(x)を求めることができる。以下、平面度誤差eZ(x)とピッチばらつきeX(x)を、1軸回折格子の形状誤差として扱う。
【0027】
【数3】
【0028】
一方、図3は、フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向+1次回折光の波面を評価する構成例を示す。図4は、フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのX方向−1次回折光の波面を評価する構成例を示す。2軸回折格子からのX方向+1次回折光またはX方向−1次回折光が、フィゾー型干渉計の参照光と重なり合うように、形状計測用干渉計に対して2軸回折格子を相対的に傾ける。傾斜角度は、1次回折角の半分に相当する。2軸回折格子全面に渡る平面度誤差とピッチばらつきをそれぞれeZ(x、y),eX(x、y)とすると、干渉計から得られるX方向+1次回折光の位相出力IX+1(x、y)及びX方向−1次回折光波面の位相出力IX−1(x、y)は、それぞれ次のように表すことができる。
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】
【0031】
X方向+1次回折光及びX方向−1次回折光の波面から得られた位相出力を減算処理することで、2軸回折格子全面に渡るピッチばらつきeX(x、y)を求めることができる。
【0032】
【数6】
【0033】
図5は、フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのY方向+1次回折光の波面を評価する構成例を示す。図6は、フィゾー型干渉計を用いて、2軸回折格子からのY方向−1次回折光の波面を評価する構成例を示す。2軸回折格子からのY方向+1次回折光またはY方向−1次回折光が、フィゾー型干渉計の参照光と重なり合うように、形状計測用干渉計に対して2軸回折格子を相対的に傾ける。傾斜角度は、1次回折角の半分に相当する。2軸回折格子全面に渡る平面度誤差とピッチばらつきをそれぞれeZ(x、y),eY(x、y)とすると、干渉計から得られるY方向+1次回折光の位相出力IY+1(x、y)及びY方向−1次回折光波面の位相出力IY−1(x、y)は、それぞれ次のように表すことができる。
【0034】
【数7】
【0035】
【数8】
【0036】
Y方向+1次回折光及びY方向−1次回折光の波面から得られた位相出力を減算処理することで、2軸回折格子全面に渡るピッチばらつきeY(x、y)を求めることができる。
【0037】
【数9】
【実施例】
【0038】
ここで、上記方法の有効性を確認するための実験を行ったので、以下にその結果を示す。図7は、市販のフィゾー型干渉計で1次回折光の波面を求めるための実験風景である。実験に用いた2軸回折格子には、30mm×30mmに渡って1μmピッチの微細形状が加工されている。手動傾斜ステージ30によって2軸回折格子を傾けることで、2軸回折格子からの1次回折光とフィゾー型干渉計の参照光を重ねあわせる。
【0039】
図8から図11に示される実験によって得られたXY方向+1次回折光及びX方向−1次回折光の波面の計測結果を示す。(数式6)、(数式9)に従って導出した2軸回折格子全面に渡るX方向のピッチばらつきeY(x、y)、Y方向のピッチばらつきeY(x、y)、それぞれ図12、図13に示す。結果の端に存在するスパイク状の出力は、光量不足によって生じた誤差であると考えられる。
【0040】
このように得られた2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきを、平面エンコーダの計測誤差と比較することで、本発明が回折格子全面に渡るピッチばらつきの評価に有効であることを示す。図14は、非特許文献5に基づいて製作されたXYZ3軸変位計測用平面エンコーダ40の計測誤差を評価するための実験装置である。
【0041】
このXYZ3軸変位計測用平面エンコーダは、2軸回折格子を計測基準としており、2軸回折格子からの回折光に発生する位相変化を検出し、それを解析することで、前記変位センサのセンサヘッドと2軸回折格子の間のXY方向及びZ方向の相対変位を計測ができる。
【0042】
上記の実験装置では、リニアステージ可動部42に搭載されている2軸回折格子のXYZ3軸方向の変位を、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダにより計測する。その際の、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのX方向の出力を、市販のレーザ干渉測長器43の出力と比較することで、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのX方向の計測誤差を評価する。一方、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのY方向の出力を、市販の静電容量型変位センサ45の出力と比較することで、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのY方向の計測誤差を評価する。
【0043】
上記の実験装置において、図15のように2軸回折格子上のラインaに沿ったXYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分を評価した。図16および図17は、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのXY方向の計測誤差の非線形成分と、走査したラインに対応する2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきを示している。各々のデータは,各サンプリングにおける5回の計測の平均値である.XYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分は,XY格子のピッチばらつきの影響を大きく受けていることが分かる。なお、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分の他の要因としては、誤差評価装置の機械的振動や各変位センサの電気ノイズが考えられる。
【0044】
前述した実験に対して、図18のように2軸回折格子を90度回転させ、2軸回折格子上のラインbに沿ったXYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分を評価した。図19および図20は、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダのXY方向の計測誤差の非線形成分と、走査したラインに対応する2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきを示している。各々のデータは,各サンプリングにおける5回の計測の平均値である.前述したで実験と同様に、XYZ3軸変位計測用平面エンコーダの計測誤差の非線形成分は,XY格子のピッチばらつきの影響を大きく受けていることが分かる。
【0045】
前述した実験結果によれば、2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきが計測誤差に直接影響する平面エンコーダにおいて、平面エンコーダの計測誤差と2軸回折格子のXY方向のピッチばらつきの間に高い相関が確認できた。従って、本発明が回折格子全面に渡るピッチばらつきの評価に有効であると言える。
【符号の説明】
【0046】
10…1軸回折格子、11…フィゾー型干渉計、12…参照用オプティカルフラット、20…2軸回折格子、30…手動傾斜ステージ、40…XYZ3軸変位計測用平面エンコーダ、41…リニアステージ、42…リニアステージ可動部、43…市販のレーザ干渉測長器、44…レーザ干渉測長器用ターゲットミラー、45…市販の静電容量型変位センサ、46…静電容量型変位センサ用平面ミラー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子の形状誤差評価方法であって、リニアエンコーダおよび平面エンコーダの計測基準面である1軸回折格子および2軸回折格子全面からのX方向とY方向の+1次及び−1次回折光の波面を計測し、回折格子が持つ平面度の影響を除去するために減算処理を施すことで、回折格子のピッチばらつきを短時間に評価することを特徴とする回折格子の形状誤差評価方法。
【請求項2】
形状計測用干渉計の参照光と回折格子からX方向とY方向の+1次及び−1次回折光を重ね合わせるため、形状計測用干渉計に対して回折格子を相対的に傾けることを特徴とする請求項1に記載の回折格子の形状誤差評価方法。
【請求項3】
形状計測用干渉計によって、回折格子のピッチばらつきを評価するために必要な回折格子全面からの回折光の波面を一括に、且つ短時間に評価することができることを特徴とする請求項1または2に記載の回折格子の形状誤差評価方法。
【請求項1】
回折格子の形状誤差評価方法であって、リニアエンコーダおよび平面エンコーダの計測基準面である1軸回折格子および2軸回折格子全面からのX方向とY方向の+1次及び−1次回折光の波面を計測し、回折格子が持つ平面度の影響を除去するために減算処理を施すことで、回折格子のピッチばらつきを短時間に評価することを特徴とする回折格子の形状誤差評価方法。
【請求項2】
形状計測用干渉計の参照光と回折格子からX方向とY方向の+1次及び−1次回折光を重ね合わせるため、形状計測用干渉計に対して回折格子を相対的に傾けることを特徴とする請求項1に記載の回折格子の形状誤差評価方法。
【請求項3】
形状計測用干渉計によって、回折格子のピッチばらつきを評価するために必要な回折格子全面からの回折光の波面を一括に、且つ短時間に評価することができることを特徴とする請求項1または2に記載の回折格子の形状誤差評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図7】
【公開番号】特開2011−145151(P2011−145151A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5817(P2010−5817)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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