説明

回路基板における液晶ポリマーの劣化抑制方法および回路基板

【課題】絶縁体として液晶ポリマーシートを有する回路基板において、特に熱履歴を受けることによる液晶ポリマーの劣化を抑制する方法と、液晶ポリマーの劣化が抑制された回路基板を提供する。
【解決手段】液晶ポリマーの劣化抑制方法は、絶縁体として液晶ポリマーシート3を用い、導体1としてCuまたはCu合金からなるものを用いる回路基板であって、絶縁体と導体層との間に、Au、Ag、Zn、Cr、Niよりなる群から選択される1または2以上の金属を含み、絶縁体と接する面にCuを実質的に含まない中間金属層2を配置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー基材の劣化を抑制する方法と、液晶ポリマー基材の劣化が抑制されている回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、主として絶縁体である基材と電気信号を伝送するための導体である回路からなる。そして、基材を構成する樹脂材料としては、従来、主にエポキシ樹脂やポリイミド樹脂が用いられていた。
【0003】
これら樹脂からなる基材上に導体層を形成する場合には、接着剤が用いられることがある。しかし、基材樹脂に比べて接着剤の耐熱性などに問題があることから、接着剤を用いずに導体層を形成する技術が開発されている。例えばエポキシ樹脂基材の場合には、エポキシ樹脂が未硬化の状態にある基材と導体層を積層し、この積層体を熱プレスすることにより樹脂を硬化させつつ導体層を圧着する。また、ポリイミド樹脂基材の場合には、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸の溶液を導体層上にキャスティングした後に加熱処理してイミド化することができる。
【0004】
ところが、これら基材と導体層との密着性は、はんだ処理などの熱履歴やエッチング処理などにより低下するという問題があった。そこで、導体層の構成を工夫することにより斯かる密着性を向上させる技術が開発されている。
【0005】
例えば特許文献1の技術では、基材の少なくとも一方の面にNi等からなる第1の金属層、その上にNi等とCuの合金からなる第2の金属層、さらにその上にCuからなる第3の金属層を形成し、基材と導体層との密着性の向上を図っている。特許文献2には、銅箔の下にZnやNi等からなる防錆層を有し、さらにその下にクロメート防錆層を有するプリント配線板用銅箔が開示されている。特許文献3の技術では、銅箔と基材との間に金属Cr層を設けている。特許文献4のプリント配線板用銅箔は、少なくとも片面に酸化アルミニウムからなる層または金属Znと酸化アルミニウムからなる層を有している。また、特許文献5の銅箔は、表面にNi金属またはPを含有するNi合金層を有し、ポリイミド樹脂基材との接着強度等に優れるとされている。
【0006】
ところで近年、情報通信分野では処理すべき情報量が非常に増加しており、それに伴って情報信号の高周波化が進んでいる。しかし、従来のエポキシ樹脂やポリイミド樹脂は電気特性が十分でなく、高周波の情報信号を扱う回路基板に用いると信号の損失が大きくなるという問題がある。また、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂は吸湿性が高いことから、水分を吸収して誘電率が上昇することにより回路の特性インピーダンスが変化してしまい、情報信号の損失が一層大きくなるという問題もある。そこで、高周波用の回路基板では、吸水性が低く誘電特性に優れたフッ素樹脂系の材料を用いることも多い。しかし、フッ素樹脂はめっきや接着などの加工が難しく、一般的な基板加工設備では対応できない場合がある。
【0007】
そこで近年、吸湿性が低く電気特性に優れる液晶ポリマーを絶縁体材料として用いた回路基板が検討されている。また、この液晶ポリマーは熱可塑性であることから回路を構成する金属箔を容易に熱圧着でき回路の形成工程を簡略化できる。さらに、回路を形成した液晶ポリマーシートを積層した後に層間を熱圧着するのみで多層基板を製造できるという利点もある。
【0008】
しかし液晶ポリマー基材と銅箔との密着性は低いことから、特許文献6と7の技術では導体金属としてCu合金を用いている。より具体的には、特許文献6のCu合金箔はCuの他にAgとIn等を含み、特許文献7のCu合金箔はCuの他にFe等を含む。
【特許文献1】特開平9−55575号公報(請求項1、図1)
【特許文献2】特開2000−165037号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2000−340911号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2002−176242号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2005−15861号公報(請求項1、段落[0001])
【特許文献6】特開2003−64431号公報(請求項1)
【特許文献7】特開2003−180157号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した様に、導体層と絶縁体との密着性を高めるために導体層の構成を工夫した技術は知られていた。しかし、絶縁体として液晶ポリマーシートを用いる場合には、金属層と液晶ポリマーシートとの熱圧着の際に液晶ポリマーの低分子量化により強度や耐久性が低下したり、はんだ処理の際に導体層とシートとの間で膨れが生じるといった問題が生じることが分かった。また、劣化が進むとシートが変色することもある。特に多層板の場合には、多層化のためにさらに熱圧着工程を経なければならないことから、これらの問題は一層顕著なものとなる。
【0010】
そこで本発明が解決すべき課題は、絶縁体として液晶ポリマーシートを有する回路基板において、熱履歴を受けることによる液晶ポリマーの劣化を抑制する方法と、液晶ポリマーの劣化が抑制された回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、回路基板において絶縁体材料である液晶ポリマーの劣化が生じる原因につき鋭意研究を重ねた。その結果、導体層にCuなど特定の金属元素が含まれ、この金属元素と液晶ポリマーが接触しつつ熱履歴を受ける場合に斯かる劣化が生じることを見出した。従って、金属層のうち少なくとも液晶ポリマーに接する部分には液晶ポリマーに悪影響を与える金属元素を配置せず、別の特定金属を配することにより上記課題を解決できることを見出して本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明に係る液晶ポリマーの劣化抑制方法は、絶縁体として液晶ポリマーシートを用い、導体としてCuまたはCu合金からなるものを用いる回路基板であって、絶縁体と導体層との間に、Au、Ag、Zn、Cr、Niよりなる群から選択される1または2以上の金属を含み、絶縁体と接する面にCuを実質的に含まない金属層を配置することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の回路基板は、絶縁体として液晶ポリマーシートを有し、絶縁体としてCuまたはCu合金からなるものを有する回路基板であって、絶縁体と導体層との間に、Au、Ag、Zn、Cr、Niよりなる群から選択される1または2以上の金属を含み、絶縁体と接する面にCuを実質的に含まない金属層が配置されていることを特徴とする。
【0014】
上記中間金属層としては、ZnまたはCrからなるものが好適である。当該中間金属層は、熱履歴を受ける際に液晶ポリマーへ悪影響を与えないものとして特に優れるからである。なお、この中間金属層における導体層との界面近傍には導体層由来のCuが拡散している場合があるが、斯かる中間金属層も絶縁体と接する側の表面にCuが存在しない限り本発明範囲に含まれるものとする。
【0015】
液晶ポリマーシートとしては、フィルム状のものが好ましい。例えば、基材と回路面のカバーシートが液晶ポリマーフィルムである片面または両面回路基板は、いわゆるフレキシブル基板として非常に有用である。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法は、絶縁体として電気特性等に優れた液晶ポリマーシートを有する回路基板において、従来であれば熱履歴により起こりがちであった液晶ポリマーの劣化を抑制することができる。よって、本発明は、高周波情報信号の伝送や処理に用いることができる回路基板における液晶ポリマーシートの強度低下を低減でき、品質や耐久性を高めることができるものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る液晶ポリマーの劣化抑制方法は、絶縁体として液晶ポリマーシートを用い、導体としてCuまたはCu合金からなるものを用いる回路基板であって、絶縁体と導体層との間に、Au、Ag、Zn、Cr、Niよりなる群から選択される1または2以上の金属を含み、絶縁体と接する面にCuを実質的に含まない中間金属層を配置することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る回路基板は、絶縁体として液晶ポリマーシートを用い、導体としてCuまたはCu合金からなるものを用いる。本発明は、液晶ポリマーとCu等が接触しつつ熱履歴を受ける場合に生じる液晶ポリマーの劣化を抑制するものである。
【0019】
回路基板は、主に片面板、両面板および多層板に分類される。片面板または両面板ではコアとなるシートの片面または両面に回路を形成し、回路面上に回路を保護するためのカバーシートを設ける。多層板の場合には複数のコアシートを積層し、コアシート間に3層以上の回路を形成する。従って多層板の場合は、回路を形成すべきコアシートの回路面と逆の面が他のコアシートの回路面と接していることから、コアシートが同時にカバーシートとしての役割を有し得る。また、多層板の場合にも、最表面の回路面上にカバーシートを設けてもよい。本発明では、絶縁体であるこれらコアシートとカバーシートとして液晶ポリマーシートを用いる。
【0020】
本発明で用いる液晶ポリマーシートは電気特性に優れることから、得られる回路基板は高周波の情報信号にも対応できる。また、液晶ポリマーは低吸湿性であるために、空気中の水分を吸収することによる品質の悪化も抑制されている。さらに液晶ポリマーは耐熱性の熱可塑性樹脂であることから、液晶ポリマーシート同士や液晶ポリマーシートと金属層とを容易に熱圧着することができ、電気特性や耐熱性に劣る接着剤を用いる必要がないという利点も有する。
【0021】
液晶ポリマーにはサーモトロピック型とリオトロピック型があるが、本発明では溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーを好適に用いる。より具体的には、サーモトロピック液晶ポリエステルやサーモトロピック液晶ポリエステルアミドが好ましい。
【0022】
液晶ポリマーシートを得るに当たっては、これを構成する樹脂に応じた公知の各種方法を採用すればよい。また、本発明法において特に好適な上記例示の液晶ポリエステルを用いたシートとしては、例えばフィルム状のものであるが、ジャパンゴアテックス社製の「BIAC(登録商標)」などの市販品を用いることができる。
【0023】
本発明の液晶ポリマーシートは、電気特性など液晶ポリマーの優れた特性を過剰に貶めない範囲で液晶ポリマー以外のポリマーを含んでもよい。当該ポリマーは、液晶ポリマーと単に混合されているのみであっても、化学結合していてもよい。この様なアロイ用ポリマーとしては、融点が220℃以上、好ましくは280〜360℃のポリマー、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレートなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。液晶ポリマーと上記アロイ用ポリマーの混合割合は特に制限されないが、例えば、質量比で50:50〜90:10であることが好ましく、70:30〜90:10であることがより好ましい。液晶ポリマーを含むポリマーアロイも、液晶ポリマーによる優れた特性を保有し得る。
【0024】
上記液晶ポリマーシートでは、シート平面に平行な方向の線膨張係数が25ppm/℃以下に調整されていることが好ましい。より好ましくは21ppm/℃以下である。また、液晶ポリマーシートの上記線膨張係数の下限は8ppm/℃であることが望ましい。液晶ポリマーシートの線膨張係数は、機器分析(TMA法、Thermal Mechanical Analysis)により、試験片幅:4.5mm、チャック間距離:15mm、荷重:1gとし、室温から200℃まで昇温後(昇温速度:5℃/分)、降温速度:5℃/分で冷却する際に160℃から25℃の間で測定される試験片の寸法変化から求めた値であり、例えば、シートのMD方向(シート製造時の走行方向)およびTD方向(MD方向に直交する方向)の線膨張係数のいずれもが、上記範囲を満足していればよい。
【0025】
本発明の液晶ポリマーシートとしては、液晶ポリマーフィルムが好適である。特に片面板や両面板の場合、小型機器に適するフレキシブル回路基板とすることができるからである。この液晶ポリマーフィルムの厚さは特に制限されないが、10μmから1000μmが好ましい。10μm未満であると強度が不足するおそれがあり、また、1000μmを超えるフィルム化は困難な場合がある。
【0026】
本発明では、導体としてCuまたはCu合金からなるものを用いる。このCu合金は、回路基板の回路を構成するものとして適するものであれば特に制限されず、例えば、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn、Ag、Sn、Zr、Mg、Pから選択される1以上とCuとの合金を例示することができる。ここで「CuまたはCu合金からなるもの」とは、CuまたはCu合金のみからなるものに限定されず、不可避的に混入する成分を有するものも含まれることを意味する。
【0027】
導体層の厚さは特に制限されないが、1〜200μm程度とすることが好ましい。薄過ぎると回路が切断されることによる導通不良が生じるおそれがあり、厚過ぎるとエッチングが難しくなる場合がある。
【0028】
導体層には、中間金属層との密着性を高めるための表面処理を行なってもよい。例えば、めっきにより表面にCuの瘤(アンカー)を形成してもよい。また、メックエッチボンド等の化学薬品でエッチングすることにより銅箔表面を粗化してもよい。
【0029】
本発明では、絶縁体と導体層との間にAu、Ag、Zn、Cr、Niよりなる群から選択される1または2以上の金属を含み、絶縁体と接する面にCuを実質的に含まない中間金属層を配置する。熱圧着処理やはんだ処理などの熱履歴を受けるに当たり、液晶ポリマーとCu等とが接触していると、液晶ポリマーが劣化して強度や耐久性が低下する。そこで本発明では、絶縁体である液晶ポリマーシートとCuを含む導体層との間に、熱履歴による液晶ポリマーの劣化を抑制できる特定の中間金属層を配置することとした。
【0030】
本発明の中間金属層は、Au、Ag、Zn、Cr、Niよりなる群から選択される1または2以上の金属を含む。この中間金属層は、これらAu等のみからなるものであってもよいし、これら金属の合金からなるものであってもよい。また、当該中間金属層を形成するに当たり空気に接する面でこれら金属が酸化される場合や、クロメートなど当初から酸化物層を形成する場合があるが、これらも本発明範囲に含まれる。
【0031】
本発明の中間金属層は、絶縁体と接する面にCuを実質的に含まない。Cuは加熱下で液晶ポリマーの劣化を促進するからである。また、本発明者による知見によれば、Snも加熱下で液晶ポリマーの劣化を促進する。従って、中間金属層の絶縁体と接する面には実質的にSnが存在しないことが好ましい。なお、ここで「実質的」とは、X線光電子分光分析装置(XPS)や電解放射型オージェ電子分光分析装置(FE−AES)など金属表面に存在する元素を検出できる測定装置で検出限界以下であることをいう。
【0032】
本発明の中間金属層は、少なくとも絶縁体と接する面にCuが存在しなければよく、導体層と接する面にはCuが存在していてもよい。例えば、Cu箔からなる導体層に溶融ZnめっきによりZnからなる中間金属層を形成する場合、中間金属層と導体層の界面近傍ではCuとZnが混在している。斯かる場合であっても、中間金属層表面のうち液晶ポリマーシートと接する側にCuが存在しなければ、本発明範囲に含まれる。
【0033】
本発明の中間金属層としては、ZnまたはCrからなるものが好適である。これら金属は、加熱下における液晶ポリマーの劣化抑制作用に特に優れるからである。また、AgやAuは高価である上にエッチングによる回路形成が難しいことから、これら金属層の形成が回路形成後に限定されるからである。なお、ここでの「からなる」はZn等のみからなるとの意ではなく、不可避的な不純物を含んでいてもよく、また、上述した様に表面が酸化されていたり導体層との界面近傍にCu等が拡散しているものも含む。
【0034】
絶縁体と導体層との間に中間金属層を配置する方法、即ち本発明に係る回路基板の製造方法は特に問わない。例えば、導体の片面に中間金属層を形成したものを、当該中間金属層が液晶ポリマーシートへ接する様に熱圧着した後に回路を形成し、さらに導体層が露出している部分上に中間金属層を形成した上でカバーシートを熱圧着すればよい。または、導体層の両面に中間金属層を形成したものを液晶ポリマーシートに熱圧着した後に回路を形成し、カバーシートを熱圧着して回路面を保護してもよい。但しこの場合には、エッチングされた導体層の側面部(断面)は中間金属層で被覆されておらず露出しているが、導体層の側面部と液晶ポリマーシートが接する面積はわずかであるので、当該部を中間金属層で被覆しなくともよいこととする。勿論、当該側面部上に中間金属層を形成してもよい。或いは、熱圧着を使用せず、液晶ポリマーシート上に中間金属層を形成した後、さらにその上に導体層を形成してもよい。
【0035】
以下では図1を参照して本発明に係る回路基板の製法を説明するが、製法はこれに限定されるものではない。
【0036】
(1) 先ず、導体層1上に中間金属層2を形成する。形成方法は特に制限されず、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、めっき法、CVD法などを用いることができる。或いは、Cu箔またはCu合金箔である導体層1と中間金属層となる金属箔とを張り合わせてもよい。また、図1では導体層1の片面に中間金属層2を形成しているが、両面に形成してもよい。
【0037】
(2) 得られた導体層1と中間金属層2との積層体を、中間金属層2と液晶ポリマーシート(コアシート)3が接する様に熱圧着する。熱圧着時の条件は常法に従えばよいが、例えば圧力は0.5〜10MPa、時間は1〜30分程度とすることができる。温度は使用する液晶ポリマーにもよるが、少なくともシート表面が軟化する温度で且つシートが過剰に流動しない温度とする。通常、250〜350℃程度である。
【0038】
熱圧着装置の種類は特に問わないが、例えば、平板プレス機、連続ベルト式ラミネータ、ロールラミネータ等を用いることができる。熱圧着は、水分を効率よく除去できることから真空で行なうことが好ましいが、大気中で行なってもよい。
【0039】
(3) 次に、積層体の導体層1と中間金属層2をエッチングすることにより回路パターンを形成する。エッチングの方法は公知方法を用いればよく、特に制限はない。
【0040】
(4) 回路形成後、導体層1上に中間金属層を形成する。形成方法は上記(1)と同様にすればよいが、ここでの中間金属層の組成は上記(1)と同様のものでもよく異なるものでもよい。
【0041】
(5) 図1に示す態様では、回路面を液晶ポリマーシート(カバーシート)4により保護する。この際における熱圧着条件は、上記(2)で説明したものと同様とすることができる。しかし、回路幅の狭い高密度な回路を形成した場合には、過酷な条件を用いると回路が変形してしまうおそれがあるので、より穏和な条件とすることが好ましい。
【0042】
本発明方法を用いて製造された回路基板は、絶縁体を構成する液晶ポリマーの低分子量化が抑制されている。よって、その耐久性が向上しており、また、はんだ時における膨れが抑制されている極めて高品質なものである。
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0044】
製造例1−1 銅箔のソフトエッチング処理
先ず、35μm厚の電解銅箔(古河電工社製、GTS−STD−35)の表面をソフトエッチングした。具体的には、弱アルカリ性クリーナー(上村工業社製、ACL−009)の50mL/L希釈液を用いて55℃で5分間脱脂した後に水洗し、次いで100g/L硫酸により室温で30秒間酸処理した後に水洗し、さらに18g/L硫酸−過酸化水素水100g/Lのソフトエッチング剤により室温で1分間ソフトエッチングした。
【0045】
製造例1−2 Auめっき
上記製造例1−1の銅箔を100g/L硫酸により室温で30秒間酸処理した後に水洗し、次いでシアン化カリウムを0.5g/L、シアン化金カリウムを1.5g/L添加した金めっき剤(小島化学薬品社製、K−700ゴールドストライク)を用いて室温で1分間電解薄めっきした後に水洗し、さらにシアン化カリウムを0.5g/L、シアン化金カリウムを11.7g/L添加した金めっき剤(小島化学薬品社製、K−710ピュア・ゴールド)により65℃で2分間電解厚めっきした。
【0046】
製造例1−3 Agめっき
上記製造例1−1の銅箔を100g/L硫酸により室温で30秒間酸処理した後に水洗し、次いでシアン化カリウムとシアン化銀カリウムを25g/L添加した銀めっき剤(日本高純度科学社製、セレナブライトC)により65℃で5分間電解めっきした。
【0047】
製造例1−4 Znめっき
上記製造例1−1の銅箔を、塩化亜鉛50g/L、塩化アンモニウム200g/Lを添加したZnめっき剤(上村工業社製、アサヒジンコールNR−1、NR−2)により25℃で3分間電解めっきした。
【0048】
製造例1−5 Crめっき
上記製造例1−1の銅箔を、硫酸0.8g/L、3価クロム1g/Lを添加したCrめっき剤(上村工業社製、アサヒクロム特CUH)により55℃で15分間電解めっきした。
【0049】
製造例1−6 Niめっき
上記製造例1−1の銅箔を18g/L硫酸により室温で30秒間前処理し、硫酸を18g/L添加したアクチベーター(小島化学薬品社製、K−700ゴールドストライク)を用いて室温で1分間触媒付与した後に水洗した。次いで、Niめっき剤(上村工業社製、ニムデンNPR−Mを150mL/L、ニムデンNPR−Aを45mL/L、ニムデンNPR−Dを3mL/Lの割合で混合したもの)を用いて80℃で8分間無電解めっき処理した。
【0050】
製造例1−7 Snめっき
上記製造例1−1の銅箔をSnめっき剤(ロームアンドハース社製、ティンボジットLT−34)を用いて70℃で5分間電解めっき処理した。
【0051】
製造例1−8 熱圧着
上記製造例1−1の銅箔または上記製造例1−2〜1−7で得られた中間金属層めっき銅箔を100μm厚の液晶ポリマーフィルム(ジャパンゴアテックス社製、BIAC BC050F)の両面に積層し、平板真空プレス機を用いて温度310℃、圧力3MPaで5分間かけて熱圧着した。
【0052】
試験例1
上記製造例1で得られた熱圧着体をエッチング剤(塩化第二鉄溶液)に浸漬して銅箔と金属層を除去した。得られたフィルムについて、島津製作所製のフローテスターを用い、液晶ポリマーが流動を開始する温度を測定した。具体的には、各フィルムをフローテスターに固定し、直径0.5mm、長さ1mmのキャピラリーダイを当てて500kgf(約4.9kN)の荷重をかけつつ6℃/分で昇温し、ダイが移動開始する温度を流動開始温度とした。また、比較のために未処理の液晶ポリマーフィルム(ジャパンゴアテックス社製、BIAC BC050F)についても同様に試験した。結果を表1に示す。
【0053】
試験例2
上記試験例1と同様の処理をして得られたフィルムをJIS K7127に準じて試験片タイプ5とし、引張試験機(A&D社製、テンシロンRTC1210A)を用いて引張速度50mm/分で引張り、JIS K7161に準じて伸度の保持率を算出した。また、比較のために未処理の液晶ポリマーフィルム(ジャパンゴアテックス社製、BIAC BC050F)についても同様に試験した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
当該結果の通り、元の液晶ポリマーフィルム(No.1)に比して、いったん金属層を積層して熱圧着したフィルムの流動開始温度は低下している。これは、高温高圧下、フィルム中に含まれる水分により液晶ポリマーが低分子量化したためと考えられる。特に、熱圧着時において液晶ポリマーフィルムとCu(No.7)またはSn(No.8)が接している場合には、フィルムの流動開始温度と伸度保持率は極度に低下しており、液晶ポリマーの低分子量化が著しく進んでいる。
【0056】
一方、本発明に係る中間金属層を介して銅箔を積層した例(No.2〜6)では、フィルムの流動開始温度と伸度保持率の低下は低減している。特に中間金属層としてZn(No.4)またはCr(No.5)を介した場合の効果は高い。従って、本発明によれば絶縁体として液晶ポリマーシートを有する回路基板の熱履歴による劣化が抑制されることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る回路基板の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 : CuまたはCu合金からなる導体層
2 : 中間金属層
3 : 液晶ポリマーシート(コアシート)
4 : 液晶ポリマーシート(カバーシート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体として液晶ポリマーシートを用い、導体としてCuまたはCu合金からなるものを用いる回路基板であって、
絶縁体と導体層との間に、Au、Ag、Zn、Cr、Niよりなる群から選択される1または2以上の金属を含み、絶縁体と接する面にCuを実質的に含まない中間金属層を配置することを特徴とする液晶ポリマーの劣化抑制方法。
【請求項2】
絶縁体として液晶ポリマーシートを有し、導体としてCuまたはCu合金からなるものを有する回路基板であって、
絶縁体と導体層との間に、Au、Ag、Zn、Cr、Niよりなる群から選択される1または2以上の金属を含み、絶縁体と接する面にCuを実質的に含まない中間金属層が配置されていることを特徴とする回路基板。
【請求項3】
上記中間金属層がZnまたはCrからなる請求項2に記載の回路基板。
【請求項4】
液晶ポリマーシートがフィルム状のものである請求項2または3に記載の回路基板。

【図1】
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【公開番号】特開2007−42945(P2007−42945A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227039(P2005−227039)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】