説明

回転動力伝達装置

【課題】静圧軸受にて支持されたスピンドルにベルトを介して回転動力を伝達する回転動力伝達装置において、作業性が良く、より高精度にベルト張力を測定することができる回転動力伝達装置を提供する。
【解決手段】静圧軸受は、スピンドルSに対向しているハウジングの対向面に形成された、円周方向に並べられた複数の静圧ポケットPR1〜PR4にて構成され、各静圧ポケットは、回転軸TZを挟んで互いに対向する位置に配置されており、スピンドルは、ベルト22の張力にてベルト引張り方向に引張られている。回転軸に対してベルト引張り方向に位置している静圧ポケットである増負荷静圧ポケットPR2と、増負荷静圧ポケットに対向する位置の静圧ポケットである対向静圧ポケットPR4と、に加えられている負荷を測定可能な負荷測定手段S1、S2を備え、負荷測定手段にて測定した負荷に基づいて、ベルトの張力を算出する張力検出手段50を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに対して静圧軸受にて支持されているスピンドルを、ベルトを介して回転させる回転動力伝達装置において、ベルトの張力をより高精度に検出することができる回転動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、静圧軸受にて支持されているスピンドルを、ベルトを介して回転させる種々の装置が存在する。例えば研削盤では、砥石に接続したスピンドルを静圧軸受にて支持し、ベルトを介してスピンドルを高速回転させて研削を行っている。
ベルトを介してスピンドルを高速回転させる場合、スリップ等を発生させることなく回転動力を伝達するためには、ベルト張力を調整する際のベルト張力の測定が重要である。張力が過小の場合はスリップが発生し易く回転精度が低下する可能性があり、張力が過大の場合は静圧軸受の許容荷重を超えて正常に支持できなくなる可能性や、スピンドルの剛性不足による変形が発生する可能性がある。
【0003】
ベルト張力を測定する従来の一般的な方法は、テンションメータを用いる方法である。テンションメータを用いて測定する場合、工作機械の停止状態において、プーリに架け渡したベルトの中央近傍の直線部分にテンションメータを規定の力で押し当て、ベルトのたわみ量を測定し、測定したたわみ量からベルト張力を算出している。
また、特許文献1に記載された従来技術では、測定装置をベルトの中央近傍の直線部分に規定の力で押し当て、ベルトのたわみ量を測定する代わりに、V字状にたわんだベルトのたわみ角度を測定し、測定したたわみ角度からベルト張力を算出している。
また、特許文献2に記載された従来技術では、ベルトの振動周波数を光学式変位測定手段を用いて非接触にて測定し、測定した振動周波数からベルト張力を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−121465号公報
【特許文献2】特開2002−267566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
テンションメータを用いる従来の方法では、例えば研削盤のベルト張力を測定する場合、ベルトに直接的に測定装置を押し付ける必要があるので、ベルトを覆っているベルトカバーの一部または全部を取り外して測定しなければならない。従って、ベルト張力を測定する毎に、非常に手間がかかる。
また、(A)停止状態におけるベルト張力を測定しており、実際にトルク伝達している回転中のベルト張力を測定していない(遠心力や発熱等により、停止中のベルト張力と回転中のベルト張力は異なると考えられる)。
(B)作業者がテンションメータを押し付けてベルトのたわみ量を測定するので、作業者による測定値のバラツキが発生し易い。
(C)ベルトのたわみ量は、ベルト張力を直接的に測定するものでなく間接的に測定しているとともに、たわみ量の測定は検出能力の限界が低い。
上記の(A)〜(C)に示すように、テンションメータを用いる測定方法では、測定誤差が比較的大きい。従って、より確実にベルトスリップを防ぐためにベルト張力を本来の目標値よりも十分大きな値に設定している。これにより、静圧軸受の許容荷重をより大きくする必要と、スピンドルの剛性をより大きくする必要があり、機械サイズが大きくなる。
また、特許文献1に記載された従来技術では、テンションメータを用いる方法と同様に、測定時に手間がかかるとともに、測定精度が低いために機械サイズが大きくなる。
また、特許文献2に記載された従来技術では、ベルトの振動周波数を光学式変位測定手段にて測定しているが、例えば研削盤の場合、光学式変位測定手段を研削盤に取り付けることになる。この場合、回転中は光学式変位測定手段も振動してしまうので、回転中に正確な振動周波数を測定するのは困難である。また、より高精度にベルト張力を測定するには、温度補正も行う必要があるが、高速回転中のベルトの温度を測定することは困難である。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、静圧軸受にて支持されたスピンドルにベルトを介して回転動力を伝達する回転動力伝達装置において、作業性が良く、より高精度にベルト張力を測定することができる回転動力伝達装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項1に記載の回転動力伝達装置は、ハウジングと、前記ハウジングに対して静圧軸受にて支持されて所定の回転軸回りに回転可能なスピンドルと、ベルトを介して前記スピンドルに回転動力を伝達する回転駆動手段と、を備えた回転動力伝達装置である。
前記静圧軸受は、前記スピンドルに対向している前記ハウジングの対向面に形成された、円周方向に並べられた複数の静圧ポケットにて構成され、各静圧ポケットは、前記回転軸を挟んで互いに対向する位置に配置されており、前記スピンドルは、前記ベルトの張力にてベルト引張り方向に引張られている。
そして、前記回転軸に対して前記ベルト引張り方向に位置している静圧ポケットである増負荷静圧ポケットと、当該増負荷静圧ポケットに対向する位置の静圧ポケットである対向静圧ポケットと、に加えられている負荷を測定可能な負荷測定手段を備え、前記負荷測定手段にて測定した負荷に基づいて、前記ベルトの張力を算出する張力検出手段を備えている。
【0007】
また、本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項2に記載の回転動力伝達装置は、請求項1に記載の回転動力伝達装置であって、前記負荷測定手段は、前記増負荷静圧ポケット内の流体の圧力を測定可能な第1圧力測定手段と、前記対向静圧ポケット内の流体の圧力を測定可能な第2圧力測定手段にて構成されており、前記張力検出手段は、前記第1圧力測定手段からの検出信号と、前記第2圧力測定手段からの検出信号と、に基づいて前記ベルトの張力を算出する。
【0008】
また、本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項3に記載の回転動力伝達装置は、請求項1に記載の回転動力伝達装置であって、前記負荷測定手段は、前記増負荷静圧ポケット内の流体の圧力と、前記対向静圧ポケット内の流体の圧力と、の差圧を測定可能な差圧測定手段にて構成されており、前記張力検出手段は、前記差圧測定手段からの検出信号に基づいて前記ベルトの張力を算出する。
【0009】
また、本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項4に記載の回転動力伝達装置は、ハウジングと、前記ハウジングに対して静圧軸受にて支持されて所定の回転軸回りに回転可能なスピンドルと、ベルトを介して前記スピンドルに回転動力を伝達する回転駆動手段と、を備えた回転動力伝達装置である。
前記静圧軸受は、前記スピンドルに対向している前記ハウジングの対向面に形成された、円周方向に並べられた複数の静圧ポケットにて構成されており、前記スピンドルは、前記ベルトの張力にてベルト引張り方向に引張られている。
そして、それぞれの静圧ポケットには、それぞれの静圧ポケット内の流体の圧力を測定可能な圧力測定手段が設けられており、それぞれの圧力測定手段からの検出信号に基づいてそれぞれの静圧ポケット内の流体の圧力に基づいた圧力ベクトルを求め、求めたそれぞれの圧力ベクトルにおける前記ベルト引張り方向の成分となる引張り方向圧力ベクトルを求め、それぞれの引張り方向圧力ベクトルを合成して前記ベルトの張力を算出する張力検出手段を備えている。
【0010】
また、本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりの回転動力伝達装置である。
請求項5に記載の回転動力伝達装置は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転動力伝達装置であって、前記張力検出手段は、前記スピンドルの回転中または停止中にかかわらず、算出したベルトの張力が、予め設定された張力許容範囲から外れた場合、報知手段を用いて警告を報知する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の回転動力伝達装置を用いれば、円周方向に並べられた複数の静圧ポケット(回転軸を挟んで互いに対向するように配置されている)において、ベルトの張力によって最も負荷が増加する位置にある増負荷静圧ポケットと、増負荷静圧ポケットに対向している(ベルトの張力による負荷が最も小さい位置にある)対向静圧ポケットと、に加えられている負荷を測定することで、ベルト張力を直接的に、より高精度に求めることができる。
【0012】
また、請求項2に記載の回転動力伝達装置によれば、第1圧力測定手段、第2圧力測定手段を用いることで、増負荷静圧ポケット内の流体の圧力と、対向静圧ポケット内の流体の圧力を、たわみ量と比較して非常に高精度に検出することができるので、より高精度にベルト張力を求めることができる。
また、圧力測定手段を用いて静圧ポケット内の流体の圧力を測定する構成は、例えば図2(A)に示すように、圧力測定手段と静圧ポケットとを連通するだけでよく、非常にシンプルであり、従来のテンションメータのようにベルト張力を測定する毎に作業者が測定装置を運んで来る必要がなく、作業性もよい。
【0013】
また、請求項3に記載の回転動力伝達装置は、増負荷静圧ポケット内の流体の圧力と、対向静圧ポケット内の流体の圧力と、を別々の圧力測定手段からの別々の検出信号から求める請求項2に記載の回転動力伝達装置に対して、1つの差圧測定手段を用いて圧力の差(差圧)を求める。
これにより、請求項2に記載の回転動力伝達装置よりも更に測定誤差が小さくなり、より高精度にベルト張力を測定することができる。
【0014】
また、請求項4に記載の回転動力伝達装置を用いれば、円周方向に並べられた複数の静圧ポケットのそれぞれに圧力測定手段を設け、各静圧ポケットから回転軸方向に向かう圧力ベクトルのそれぞれを求め、各圧力ベクトルのベルト引張り方向の成分を合成して張力を求めることで、請求項1に対して、静圧ポケットの数が奇数であっても、ベルト引張り方向がどのような方向であっても、適切にベルト張力を求めることができる。
【0015】
また、請求項5に記載の回転動力伝達装置では、スピンドルの回転中または停止中にかかわらずベルト張力を求めることが可能であり、適正張力範囲を逸脱した場合に警告を報知することで、ベルト切れ等の故障を迅速に報知できる。
これにより、故障からの復旧をより短時間に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の回転動力伝達装置TSを適用した研削盤1の一実施の形態を説明する図である。
【図2】回転動力伝達装置TSの構造を説明する断面図と、静圧ポケットの有効面積の例を説明する図である。
【図3】第1の実施の形態における図2(A)のA−A断面図の例と、差圧測定手段SSを用いた例を説明する図である。
【図4】第2の実施の形態における図2(A)のA−A断面図の例と、各静圧ポケットの圧力から求めた圧力ベクトルに基づいてベルト張力を求める方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の回転動力伝達装置TSを適用した研削盤1の一実施の形態を示しており、図1(A)は研削盤1の平面図の例を示し、図1(B)は研削盤1の右側面図の例を示している。なお、図1(B)では、心押台の記載を省略している。
また、X軸、Y軸、Z軸が記載されている全ての図面において、X軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、Y軸は鉛直上向きを示しており、Z軸とX軸は水平方向を示している。そしてZ軸はワーク回転軸方向を示しており、X軸方向は砥石TがワークWに切り込む方向を示している。
以下の説明では、回転動力伝達装置TSを適用した研削盤1の例を説明するが、本発明の回転動力伝達装置TSは研削盤に限定されず、静圧軸受にて回転可能に支持されているスピンドルに、ベルトを介して回転動力を伝達する種々の装置に適用することが可能である。
【0018】
●[研削盤1の全体構成(図1(A)、(B))]
図1(A)及び(B)に示すように、研削盤1は、ワーク回転軸WZ回りに回転しているワークWに対して、砥石回転軸TZ回りに回転している略円筒形状の砥石Tを相対移動させてワークWを研削する。なお、各可動体の位置等を検出して各駆動モータに制御信号を出力する制御手段(数値制御装置等)については、図示を省略する。なお、ワーク回転軸WZと砥石回転軸TZは、どちらもZ軸と平行である。
ワークWは、センタ部材CLを備えた主軸台と、センタ部材CRを備えた心押台に両端(または両端近傍)が支持されている(センタ部材の代わりにチャックであってもよい)。
【0019】
主軸台は、基台BSに載置されたベースDLと、ベースDLに対してZ軸方向に往復移動可能な主軸ハウジングHLと、主軸ハウジングHL内でワーク回転軸WZ回りに回転可能に支持された主軸SLとを備えている。また、主軸SLの一端にはセンタ部材CLが設けられている。
主軸SLには図示しない駆動モータが設けられており、制御手段は、センタ部材CLの先端をとおるワーク回転軸WZ回りに主軸SLを、任意の角速度で任意の角度まで回転させることができる。
心押台は、基台BSに載置されたベースDRと、ベースDRに対してZ軸方向に移動可能な心押軸ハウジングHRと、心押軸ハウジングHR内でワーク回転軸WZ回りに回転可能または回転不能に支持され、主軸SLと同軸的に設けられた心押軸SRとを備えている。また、心押軸SRの一端にはセンタ部材CRが設けられている。
【0020】
また、基台BSには、Z軸駆動モータMZにて制御されるボールねじNZの回転角度に応じて、ガイドGZに沿ってZ軸方向の任意の位置に位置決めされる砥石スライドテーブル40が載置されている。制御手段はエンコーダ等の位置検出手段EZからの信号を検出しながらZ軸駆動モータMZに制御信号を出力する。
砥石スライドテーブル40には、X軸駆動モータMXにて制御されるボールねじNXの回転角度に応じて、ガイドGXに沿ってX軸方向の任意の位置に位置決めされる砥石進退テーブル41が載置されている。制御手段はエンコーダ等の位置検出手段EXからの信号を検出しながらX軸駆動モータMXに制御信号を出力する。
【0021】
なお、砥石駆動モータMT、砥石ハウジング25を備えた回転動力伝達装置TSについては後述する。
また、本実施の形態にて説明する研削盤1では、砥石Tの支持方法が片持ち式の例を示しているが、両持ち式で砥石Tを支持してもよい。
また、図1(B)に示すように、砥石回転軸TZとワーク回転軸WZは仮想平面MF上に位置している。この状態で砥石TをワークWに対して相対的に近づけていき、ワークWと砥石Tとが接触した位置における砥石Tの側の点を砥石研削点TPとする。そして、研削盤1には、砥石研削点TPの近傍にクーラントを供給するクーラントノズルが設けられているが、図示省略する。
また、図1(A)及び(B)の例に示す研削盤1では、砥石Tのドレッシングを行うドレッシング手段TRが、主軸ハウジングHLに取り付けられている。
【0022】
本実施の形態にて説明する研削盤1では、ポンプ等の流体供給手段を用いて流体を供給し、砥石Tを静圧軸受(流体軸受)にて回転可能に支持している。そして静圧軸受で使用した流体を回収及び冷却してポンプ等に戻し、流体を循環させている。
本発明の回転動力伝達装置TSは、静圧軸受にて使用する流体を利用して、ベルト22の張力をより高精度に測定するものである。
【0023】
●[回転動力伝達装置TSの構造(図2)]
図2(A)に示すように、本発明の回転動力伝達装置TSは、砥石進退テーブル41に載置された砥石ハウジング25(ハウジングに相当)と、砥石ハウジング25に対して静圧軸受にて支持されたスピンドルSと、ベルト22を介してスピンドルSに回転動力を伝達する砥石駆動モータMT(回転駆動手段に相当)にて構成されている。
スピンドルSは、静圧軸受装置JF、JRにて支持されており、静圧軸受装置JF、JRは砥石ハウジング25に固定されている。
スピンドルSは砥石回転軸TZ回りに回転可能であり、一方の端部には従動プーリ24が接続されており、他方の端部には略円筒状の砥石Tが接続されている。
また砥石駆動モータMTには駆動プーリ21が接続されており、駆動プーリ21と従動プーリ24にはベルト22が架け渡されている。
【0024】
●[第1の実施の形態(図3)]
図3(A)は、図2(A)のA−A断面図における第1の実施の形態の例を示している。
第1の実施の形態では、スピンドルSに対向している砥石ハウジング25の対向面に相当する静圧軸受装置JRの面には、図3(A)に示すように、円周方向に並べられた複数の静圧ポケットPR1〜PR4が形成されている。また各静圧ポケットPR1〜PR4は、砥石回転軸TZを挟んで互いに対向する位置に配置されている。(図3(A)の場合、静圧ポケットPR1と静圧ポケットPR3が砥石回転軸TZを挟んで対向する位置に配置されており、静圧ポケットPR2と静圧ポケットPR4が砥石回転軸TZを挟んで対向する位置に配置されている。)
なお、図3(A)では静圧ポケットが4個の例を示しているが、第1の実施の形態では、砥石回転軸TZを挟んで互いに対向していればよいので、4個に限定されず、偶数であればよい。
【0025】
静圧ポケットPR1〜PR4には、ポンプP等から所定の圧力の流体(例えば作動油)が配管H1、HR1〜HR4を介して供給される。なお、各静圧ポケットに供給された流体を回収してポンプPに戻す経路については図示省略する。
またスピンドルSは、ベルト22の張力にてベルト引張り方向(図3(A)参照)に引張られている。なお、図3(A)の例では、静圧ポケットPR4の中央と砥石回転軸TZと静圧ポケットPR2の中央とは仮想直線C1で結ぶことが可能であり、当該仮想直線C1の方向はベルト引張り方向と平行になる。この配置が第1の実施の形態における静圧ポケットの配置である。
そして、砥石回転軸TZに対してベルト引張り方向に位置している静圧ポケットPR2(増負荷静圧ポケットに相当)と、当該静圧ポケットPR2に対向する位置に配置されている静圧ポケットPR4(対向静圧ポケットに相当)には、加えられている負荷を測定可能な負荷測定手段が設けられている。
【0026】
図3(A)の例では負荷は圧力であり、静圧ポケットPR2内の流体の圧力を測定可能な圧力測定手段S1(第1圧力測定手段に相当)を設け、静圧ポケットPR4内の流体の圧力を測定可能な圧力測定手段S2(第2圧力測定手段に相当)を設け、静圧ポケットPR2と圧力測定手段S1とを連通路HS1にて連通させ、静圧ポケットPR4と圧力測定手段S2とを連通路HS2にて連通させている。そして圧力測定手段S1、S2のそれぞれの検出信号を張力検出手段50に取り込み、張力検出手段50にて圧力を求め、求めた圧力に基づいてベルト張力を算出する。
【0027】
ここで、図2(A)において、従動プーリ24から遠い側の静圧ポケットPF4(PF2)の中央から、従動プーリ24に近い側の静圧ポケットPR4(PR2)の中央までの砥石回転軸TZ方向の距離を距離L1として、従動プーリ24に近い側の静圧ポケットPR4(PR2)から、従動プーリ24の中央までの砥石回転軸TZ方向の距離を距離L2とする。
この場合、ベルト張力をTB、静圧ポケットPR2内の流体の圧力をPpr2、静圧ポケットPR4内の流体の圧力をPpr4、静圧ポケットPR2、PR4の有効面積をAとすると、以下の(式1)が成立する。
TB=[L1/(L1+L2)]*A*(Ppr2−Ppr4) (式1)
張力検出手段50には、予め距離L1、距離L2、有効面積Aが記憶されている。そして張力検出手段50は、上記の(式1)と、求めた圧力Ppr2、Ppr4を用いて、ベルト張力TBを算出する。
なお図2(B)は、静圧ポケットの概略有効面積を説明する図である(静圧ポケットPR2を例にしている)。有効面積とは、静圧ポケットならびに周囲のランド(図2(B)の幅Wh、Wvの凸状部)で発生する静圧力の合計を、ポケット圧で除した値である。本実施の形態では有効面積として、概略有効面積を使用する。概略有効面積とは次の通りである。静圧ポケットPR2の周囲には、スピンドルSに対向する側に凸となる凸状部が形成されており、この凸状部の幅Wv、Whの中央を通る線(図2(B)中の点線)にて囲まれる面積が概略有効面積となる。
【0028】
以上の説明では、圧力測定手段S1と圧力測定手段S2とを用いて、静圧ポケットPR2内の流体の圧力と、静圧ポケットPR4内の流体の圧力と、を別々に測定したが、図3(B)に示すように、1個の差圧測定手段SSを用いて、静圧ポケットPR2内の流体の圧力と静圧ポケットPR4内の流体の圧力との差圧を求めるようにしてもよい。
この場合、差圧測定手段SSは流路HS1にて静圧ポケットPR2に接続され、流路HS2にて静圧ポケットPR4に接続されている。
張力検出手段50には、静圧ポケットPR2内の流体の圧力と静圧ポケットPR4内の流体の圧力との差圧に基づいた検出信号が差圧測定手段SSから入力され、張力検出手段50は当該差圧(この場合、Ppr2−Ppr4)を求めることができる。
そして張力検出手段50は、上記の(式1)と、求めた差圧(Ppr2−Ppr4)を用いて、ベルト張力TBを算出する。
2個の圧力測定手段S1、S2の検出信号を用いて算出する図3(A)の構成よりも、差圧を用いる図3(B)の構成のほうが、圧力測定手段の固有の誤差を相殺できるので、より小さな誤差でベルト張力を算出することができる。
【0029】
●[第2の実施の形態(図4)]
図4(A)は、図2(A)のA−A断面図における第2の実施の形態の例を示している。また図4(B)は、図4(A)に示す各静圧ポケットPR1〜PR5からの圧力ベクトルF1〜F5の例を示している。
第2の実施の形態では、スピンドルSの円周方向に並べられた静圧ポケット(PR1〜PRn)の数が偶数であっても奇数であってもよく、各静圧ポケットが砥石回転軸TZを挟んで互いに対向する位置となるように配置されていてもよいし、対向する位置に配置されていなくてもよい。図4(A)及び(B)では、静圧ポケットが5個(奇数)の例を示しており、各静圧ポケットは砥石回転軸TZを挟んで互いに対向していない配置の例を示している。
そして、それぞれの静圧ポケットPR1〜PR5には、それぞれの静圧ポケットPR1〜PR5内の流体の圧力を測定可能な圧力測定手段S1〜S5が設けられている。
以下、第1の実施の形態との相違点について主に説明する。
【0030】
図4(A)の例の場合、張力検出手段50は、圧力測定手段S1〜S5の各検出信号に基づいて、各静圧ポケットPR1〜PR5内の流体の圧力(Pprn)のそれぞれを測定し、各静圧ポケットPR1〜PR5から砥石回転軸TZに向かう各圧力ベクトルF1〜F5を求める。各圧力ベクトルの大きさ(|Fn|)は(式1)に基づいて、下記の(式2)から求めることができる。
|Fn|=[L1/(L1+L2)]*A*(Pprn) (式2)
また、各圧力ベクトルの方向は、各静圧ポケットの中央から砥石回転軸TZに向かう方向である。
次に張力検出手段50は、求めた圧力ベクトルF1〜F5におけるベルト引張り方向の成分となる引張り方向圧力ベクトルF1H〜F5Hを求める。張力検出手段50には、各圧力ベクトルF1〜F5の向かう方向と、ベルト引張り方向と、距離L1、距離L2、有効面積A等、が予め記憶されている。
そして張力検出手段50は、引張り方向圧力ベクトルF1H〜F5Hの合成ベクトルを求めることでベルト張力を算出することができる。
【0031】
以上、第1及び第2の実施の形態にて説明した回転動力伝達装置TSは、テンションメータのように測定する毎に作業者がベルトカバー等を取り外す必要がなく、作業者が装置に直接触れることがなく、非常に作業性がよい。
また、スピンドルSの停止中であっても回転中であってもベルト張力を測定することが可能である。従って、実際の回転中のベルト張力を測定できるので、停止中と回転中とのベルト張力の誤差を発生させることなく、より高精度にベルト張力を求めることができる。
また、ベルトのたわみ量や振動周波数等、間接的にベルト張力を測定している従来の測定方法とは異なり、ベルト張力による静圧軸受(静圧ポケット)の負荷を測定することで、ベルト張力を直接的に測定し、より高精度にベルト張力を測定することができる。
また、静圧軸受(静圧ポケット)の負荷として、静圧軸受(静圧ポケット)内の流体の圧力を測定することで、非常に高精度に負荷を測定することができ、温度補正も必要としない。
以上により、ベルト張力を直接的に高精度に測定することができる(回転中のベルト張力を測定することもできる)ので、ベルト張力を本来の目標値に設定すればよく、誤差を考慮して目標値より大きな値に設定する必要がない。このため、静圧軸受の許容荷重やスピンドルの剛性を、本来の許容荷重や剛性を満足するように設計すればよいので、機械サイズが必要以上に大きくなることを抑制することができる。また、静圧軸受やスピンドルが必要以上に高い剛性で設計された従来の研削盤であれば、ベルト張力の設定上限値を約1.5倍まで高くすることができることを確認した。
【0032】
また、音声、光または画像等で報知する報知手段を備え、スピンドルSの停止中または回転中にかかわらず、張力検出手段50にてベルト張力を監視させ、予め設定された張力許容範囲から逸脱した場合に報知手段を動作させて警告を報知させることができる。
本実施の形態にて説明した回転動力伝達装置TSは、スピンドルの高速回転中であっても、高精度にベルト張力を算出することができるので、ベルト切れ等の故障を迅速に検出、及び報知することができる。これにより、生産ラインの休止時間等をより短縮化することができる。
【0033】
本発明の回転動力伝達装置TSは、本実施の形態で説明した外観、構成、構造、処理等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
本実施の形態にて説明した回転動力伝達装置TSは、研削盤の砥石に限定されず、静圧軸受にて支持されているスピンドルSを、ベルトを介して回転させる種々の装置に適用することが可能である。
本実施の形態の説明では、負荷の測定として、圧力を測定したが、圧力以外の方法(例えば、軸受部におけるスピンドルとハウジングとの隙間の距離)を用いて負荷を測定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 研削盤
25 砥石ハウジング
40 砥石スライドテーブル
41 砥石進退テーブル
50 張力検出手段
BS 基台
CL、CR センタ部材
JF、JR 静圧軸受装置
MT 砥石駆動モータ(回転駆動手段)
P ポンプ
PR1〜PR5、PF2、PF4 静圧ポケット
T 砥石
TS 回転動力伝達装置
TZ 砥石回転軸
S スピンドル
S1〜S5 圧力測定手段
SS 差圧測定手段
W ワーク
WZ ワーク回転軸



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに対して静圧軸受にて支持されて所定の回転軸回りに回転可能なスピンドルと、
ベルトを介して前記スピンドルに回転動力を伝達する回転駆動手段と、を備えた回転動力伝達装置において、
前記静圧軸受は、前記スピンドルに対向している前記ハウジングの対向面に形成された、円周方向に並べられた複数の静圧ポケットにて構成され、各静圧ポケットは、前記回転軸を挟んで互いに対向する位置に配置されており、
前記スピンドルは、前記ベルトの張力にてベルト引張り方向に引張られており、
前記回転軸に対して前記ベルト引張り方向に位置している静圧ポケットである増負荷静圧ポケットと、当該増負荷静圧ポケットに対向する位置の静圧ポケットである対向静圧ポケットと、に加えられている負荷を測定可能な負荷測定手段を備え、
前記負荷測定手段にて測定した負荷に基づいて、前記ベルトの張力を算出する張力検出手段を備えている、
回転動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転動力伝達装置であって、
前記負荷測定手段は、前記増負荷静圧ポケット内の流体の圧力を測定可能な第1圧力測定手段と、前記対向静圧ポケット内の流体の圧力を測定可能な第2圧力測定手段にて構成されており、
前記張力検出手段は、前記第1圧力測定手段からの検出信号と、前記第2圧力測定手段からの検出信号と、に基づいて前記ベルトの張力を算出する、
回転動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の回転動力伝達装置であって、
前記負荷測定手段は、前記増負荷静圧ポケット内の流体の圧力と、前記対向静圧ポケット内の流体の圧力と、の差圧を測定可能な差圧測定手段にて構成されており、
前記張力検出手段は、前記差圧測定手段からの検出信号に基づいて前記ベルトの張力を算出する、
回転動力伝達装置。
【請求項4】
ハウジングと、
前記ハウジングに対して静圧軸受にて支持されて所定の回転軸回りに回転可能なスピンドルと、
ベルトを介して前記スピンドルに回転動力を伝達する回転駆動手段と、を備えた回転動力伝達装置において、
前記静圧軸受は、前記スピンドルに対向している前記ハウジングの対向面に形成された、円周方向に並べられた複数の静圧ポケットにて構成されており、
前記スピンドルは、前記ベルトの張力にてベルト引張り方向に引張られており、
それぞれの静圧ポケットには、それぞれの静圧ポケット内の流体の圧力を測定可能な圧力測定手段が設けられており、
それぞれの圧力測定手段からの検出信号に基づいてそれぞれの静圧ポケット内の流体の圧力に基づいた圧力ベクトルを求め、求めたそれぞれの圧力ベクトルにおける前記ベルト引張り方向の成分となる引張り方向圧力ベクトルを求め、それぞれの引張り方向圧力ベクトルを合成して前記ベルトの張力を算出する張力検出手段を備えている、
回転動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転動力伝達装置であって、
前記張力検出手段は、前記スピンドルの回転中または停止中にかかわらず、算出したベルトの張力が、予め設定された張力許容範囲から外れた場合、報知手段を用いて警告を報知する、
回転動力伝達装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−69698(P2011−69698A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220314(P2009−220314)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】