説明

回転式流体機械

【課題】駆動軸に摺接する軸受メタルを備えた回転式流体機械において、該軸受メタルに形成する連通孔の構成に工夫を凝らして、連通孔を形成する際に該連通孔の周縁部分に破損が生じても修復が容易な構成を得る。
【解決手段】上部軸受部(11b)に、駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給される潤滑油が流れる油回収通路(11d)を設ける。上記軸受メタル(16)は、板状部材(17)がその両端部(17a,17a)で突き合わせられるように略円筒状に丸められてなる。上記板状部材(17)に、略円筒状に丸められた状態でその突き合わせ部分に上記油回収通路(11d)と連通する連通孔(16a)が形成されるように、該突き合わせ部分を構成する上記両端部(17a,17a)のうちの少なくとも一方に切り欠き部(16b)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン機構のピストンに駆動連結される駆動軸の外周面に対し、内周面で摺接する略円筒状の軸受メタルを備えた回転式流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ピストン機構のピストンに駆動連結される駆動軸の外周面と内周面で摺接する略円筒状の軸受メタルを備えた回転式流体機械が知られている。このような回転式流体機械の一例としては、例えば特許文献1に開示されるような構成を有する圧縮機が知られている。この圧縮機は、圧縮機構に駆動連結される駆動軸をケーシング側で軸支するように、該駆動軸の外周面と該駆動軸が挿通するケーシング側の貫通孔の内周面との間に、略円筒状の軸受メタルが設けられている。このような軸受メタルを設けることで、上記駆動軸が、該軸受メタルに対して摺動し、上記ケーシングに対して回転することができる。
【0003】
このような軸受メタルは、一般的に、板状部材を丸めて筒状にした状態で、上記ケーシング側の貫通孔内に装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−261298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回転式流体機械内に設けられる軸受は、上述のとおり、駆動軸をケーシングに対して回転可能に支持する部分であるため、摺動する駆動軸と軸受メタルとの間に潤滑油が供給されるように構成されている。そのため、軸受部分に、軸受メタルとケーシングとの間に潤滑油を流すための油通路を設けるとともに、該軸受メタルにも該油通路と連通する連通孔を形成する構成が考えられている。これにより、上記油通路及び連通孔を介して上記軸受メタルと駆動軸との間に潤滑油を供給する構成や、該軸受メタルと駆動軸との間の潤滑油を上記連通孔及び油通路を介して回収する構成などが実現できる。
【0006】
ここで、上記軸受メタルの耐久性を考慮すると、該軸受メタルをできるだけ硬い材料によって形成するのが好ましい。しかしながら、このような硬い材料の軸受メタルは脆いため、上述のような潤滑油を回収するための連通孔を形成しようとすると、穴開け加工の際に該連通孔の周縁部分が欠けたり破損したりする。そして、破損した連通孔の周縁部分を修復する場合には、板状部材からなる軸受メタルの表側または裏側からしか修復作業を行うことができないため、修復作業の作業性があまり良くないという問題がある。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、駆動軸に摺接する軸受メタルを備えた回転式流体機械において、該軸受メタルに形成する連通孔の構成に工夫を凝らして、連通孔を形成する際に該連通孔の周縁部分に破損が生じても修復が容易な構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る回転式流体機械(1)では、軸受メタル(16)を構成する板状部材(17)において、略円筒状に丸められる際に突き合わせられる両端部(17a,17a)に、突き合わせた状態で連通孔(16a)が構成されるような切り欠き部(16b)を設けた。
【0009】
具体的には、第1の発明では、ピストン室内で回転または揺動するピストン(13)を有するピストン機構(10)と、該ピストン(13)に駆動連結される駆動軸(30)と、該駆動軸(30)の外周面に対して内周面で摺接する略円筒状の軸受メタル(16)と、該軸受メタル(16)が収納される貫通孔(11c)を有するメタル支持部(11b)とを備えた回転式流体機械を対象とする。
【0010】
そして、上記メタル支持部(11b)には、上記駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給される潤滑油が流れる油通路(11d)が設けられていて、上記軸受メタル(16)は、両端部(17a,17a)で突き合わせられるように略円筒状に丸められる板状部材(17)からなり、上記板状部材(17)には、略円筒状に丸められた状態でその突き合わせ部分に上記油通路(11d)と連通する連通孔(16a)が形成されるように、該突き合わせ部分を構成する上記両端部(17a,17a)のうちの少なくとも一方に切り欠き部(16b)が設けられているものとする。
【0011】
以上の構成により、板状部材(17)をその両端部(17a,17a)が突き合わせられるように略円筒状に丸めることによって軸受メタル(16)が構成される構造において、該板状部材(17)の端部(17a)に、潤滑油が流れる連通孔(16a)を構成する切り欠き部(16b)が設けられることになるため、該切り欠き部(16b)を板状部材(17)に形成する際に該切り欠き部(16b)の周縁部分が破損しても、破損箇所の修復を容易に行うことができる。すなわち、板状部材に貫通孔を形成する場合には、該貫通孔の周縁部分が破損すると、該板状部材の表側または裏側から修復するしかないが、上述のように板状部材(17)の端部(17a)に切り欠き部(16b)を設ける構成であれば、該板状部材(17)の表裏だけでなく側方からも修復することが可能になり、修復作業が容易になる。
【0012】
上述の構成において、上記切り欠き部(16b)は、上記板状部材(17)が両端部(17a,17a)で突き合わせられて略円筒状に丸められた状態で上記連通孔(16a)を形成するように、上記両端部(17a,17a)にそれぞれ設けられているのが好ましい(第2の発明)。
【0013】
このように、板状部材(17)を両端部(17a,17a)で突き合わせるように略円筒状に丸める場合に、該両端部(17a,17a)にそれぞれ切り欠き部(16b,16b)を設けることで、該切り欠き部(16b,16b)によって構成される連通孔(16a)を、例えば円形などの対称形にすることができ、潤滑油をケーシング側の油回収通路(11d)内へスムーズに流すことが可能になる。
【0014】
また、上記油通路は、上記駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給された潤滑油を回収するための油回収通路(11d)であるのが好ましい(第3の発明)。こうすることで、駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給された潤滑油が軸受の軸方向に流れ出すことなく、上記軸受メタル(16)に設けられた連通孔(16a)を介して油回収通路(11d)から回収される。
【0015】
特に、上記駆動軸(30)の外周面上には、上記軸受メタル(16)の連通孔(16a)に対応した軸方向位置で該駆動軸(30)の周方向に延びるように油回収溝(30d)が設けられているのが好ましい(第4の発明)。
【0016】
これにより、駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給された潤滑油は、該駆動軸(30)の表面を軸方向へ流れると、該駆動軸(30)の外周面上に設けられた油回収溝(30d)内に溜まり、上記軸受メタル(16)の連通孔(16a)を介して油回収通路(11d)内へ流れる。したがって、上述の構成により、上記駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給された潤滑油を、効率良く回収することができる。
【0017】
また、上記ピストン機構(10)が収納されるケーシング(2)と、該ケーシング(2)内でピストン機構(10)の下方に配置され且つ上記駆動軸(30)を介して該ピストン機構(10)を回転駆動させるモータ部(20)と、をさらに備えていて、上記軸受メタル(16)及びメタル支持部(11b)は、上記ケーシング(2)内の上記ピストン機構(10)とモータ部(20)との間に設けられていて、上記油回収通路(11d)は、上記駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給された潤滑油をピストン機構(10)側へ戻すように設けられているものとする(第5の発明)。
【0018】
このような構成において、上記第1または第2の発明のように軸受メタル(16)に連通孔(16a)を設けることで、ケーシング(2)内のピストン機構(10)とモータ部(20)との間に配置される軸受メタル(16)に対して供給される潤滑油を、該軸受メタル(16)の上側であるピストン機構(10)側へ戻すことができる。そして、このような軸受メタル(16)の構成において、上記第1または第2の発明の構成を適用して連通孔(16a)の形成に工夫を凝らすことで、該第1または第2の発明と同様の作用を得ることができる
【発明の効果】
【0019】
以上より、本発明に係る回転式流体機械(1)によれば、駆動軸(30)の外周面と内周面で摺接する略円筒状の軸受メタル(16)を構成する板状部材(17)には、丸められた状態で突き合わせられる両端部(17a,17a)のうち少なくとも一方に、連通孔(16a)を構成する切り欠き部(16b)が設けられているため、該切り欠き部(16b)を形成する際に該切り欠き部(16b)の周縁部分が破損しても効率良く修復することができる。
【0020】
また、第2の発明によれば、上記切り欠き部(16b)は、両端部(17a,17a)が突き合わせられて丸められた状態で連通孔(16a)を形成するように、該両端部(17a,17a)にそれぞれ設けられているため、対称形の連通孔(16a)を容易に形成することができる。
【0021】
また、第3の発明によれば、駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給された潤滑油は、上記連通孔(16a)を介して回収されるため、軸受の軸方向に潤滑油が流出するのを防止できる。
【0022】
また、第4の発明によれば、上記駆動軸(30)の外周面上に、上記軸受メタル(16)の連通孔(16a)に対応して周方向に延びるように油回収溝(30d)を設けたため、該駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給される潤滑油を効率良く回収することができる。
【0023】
また、第5の発明によれば、ケーシング(2)内に順に上下に配置されたピストン機構(10)及びモータ部(20)を備えていて、上記軸受メタル(16)は、ケーシング(2)内のピストン機構(10)とモータ部(20)との間に配置されているため、このような構成において、上記第1または第2の発明の構成を適用すれば、潤滑油のモータ部(20)側への流出を防止できるとともに、そのために必要な連通孔(16a)を上記軸受メタル(16)に形成する際に生じる破損等の修復も容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る圧縮機の概略構造を示す縦断面図である。
【図2】図2は、上部軸受部の周辺を拡大して示す断面図である。
【図3】図3は、上部軸受部に配置される軸受メタルにおいて、(A)板状部材の平面図、(B)板状部材を丸める様子を示す斜視図、(C)板状部材を円筒状にした状態を示す斜視図を、それぞれ示している。
【図4】図4は、板状部材に貫通孔を形成した従来の構成の図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
−全体構成−
図1に、本発明の実施形態に係る圧縮機(1)(回転式流体機械)の概略構成を示す。この圧縮機(1)は、例えば、空気調和装置で蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路(図示省略)に設けられていて、該冷媒回路内を流れる冷媒を圧縮して吐出するように構成されている。
【0027】
上記圧縮機(1)は、密閉容器状のケーシング(2)と、該ケーシング(2)内に収容される圧縮機構(10)(ピストン機構)と、該ケーシング(2)内に圧縮機構(10)の下方に配置される電動機(20)(モータ部)と、を備えている。この圧縮機構(10)と電動機(20)とは、上記ケーシング(2)内を上下方向に延びるように配置される駆動軸(30)によって連結されている。
【0028】
上記ケーシング(2)は、円筒状の胴体部(3)と該胴体部(3)の両端部を覆う椀状の蓋体部(4,4)とを有している。すなわち、上記ケーシング(2)は、胴体部(3)の両端部に蓋体部(4,4)がそれぞれ取り付けられた状態で互いに接続固定されることにより、内部に密閉された空間が形成される密閉容器となる。
【0029】
上記蓋体部(4,4)のうち胴体部(3)の上側に位置する蓋体部(4)には、貫通孔が設けられていて、該貫通孔内に吸入管(5)の吸入管継手(5a)が挿入された状態で固定されている。この吸入管継手(5a)は、吸入管(5)と圧縮機構(10)とを接続して、該吸入管(5)内を流れる吸入ガスを圧縮機構(10)に導入するためものである。
【0030】
また、上記胴体部(3)にも、その上部側に貫通孔が2箇所、設けられていて、一方の貫通孔内に吐出管(6)が挿入された状態で固定されている一方、他方の貫通孔内にターミナル(7)が挿入された状態で固定されている。なお、上記ターミナル(7)は、ケーシング(2)から外方へ突出した部分をターミナルカバー(8)によって覆われている。
【0031】
上記圧縮機構(10)は、ケーシング(2)に固定されるハウジング(11)の上方に配置されている。上記圧縮機構(10)は、ハウジング(11)の上面に密着して配置される固定スクロール(12)と、上記ハウジング(11)と固定スクロール(12)との間に配置され、該固定スクロール(12)に噛合するように圧接される可動スクロール(13)(ピストン)と、該可動スクロール(13)の自転防止機構であるオルダム継手(14)とを備えている。なお、上記圧縮機構(10)内の可動スクロール(13)が収納される空間が、本発明のピストン室に対応する。
【0032】
上記ハウジング(11)は、上記圧縮機構(10)とその下方に位置する電動機(20)との間に配置されていて、外周面で周方向の全体に亘って上記ケーシング(2)に圧入固定されている。つまり、上記ケーシング(2)とハウジング(11)とは全周に亘って気密状に密着されていて、該ケーシング(2)内は、ハウジング(11)によって、固定スクロール(12)や可動スクロール(13)などの圧縮機構(10)が配置される空間と、上記電動機(20)が配置される空間とに区画されている。
【0033】
また、上記ハウジング(11)には、その上面中央を凹陥してなるハウジング凹部(11a)と、下面中央から下方に延びる上部軸受部(11b)とが形成されている。さらに、上記ハウジング(11)には、この上部軸受部(11b)の下端面とハウジング凹部(11a)の底面との間を貫通する貫通孔(11c)が設けられていて、この貫通孔(11c)に上記駆動軸(30)の上端部が軸受メタル(16)を介して回転可能に支持されている。すなわち、この軸受メタル(16)は、図1に示すように、圧縮機構(10)と電動機(20)との間に位置するハウジング(11)に配置されていて、上記ケーシング(2)に取り付けられた吐出管(6)の近傍に位置している。ここで、上記ハウジング(11)のうち上記貫通孔(11a)の周縁部分を構成する上部軸受部(11b)が、上記軸受メタル(16)を支持する本発明のメタル支持部に対応している。
【0034】
上記固定スクロール(12)は、略円板状の固定側鏡板(12a)と、この固定側鏡板(12a)の下面に立設された渦巻き状(インボリュート状)の固定側ラップ(12b)とを備えている。上記固定側鏡板(12a)のラップ(12b)側には、吐出孔(12c)が形成されているとともに、図示しないが、該固定側鏡板(12a)の内部には、後述する圧縮室(S)とケーシング(2)内の空間とを連通させるガス通路の一部が形成されている。上記吐出孔(12c)には、その出口側に開閉可能な吐出弁(12d)が設けられている。
【0035】
また、上記固定スクロール(12)には、上記ケーシング(2)を貫通する吸入管継手(5a)の基端側が後述する圧縮室(S)に連通するように接続されている。これにより、上記吸入管(5)及び吸入管継手(5a)を介してケーシング(2)内に導入された冷媒は、上記圧縮室(S)内に吸入される。なお、上記固定スクロール(12)の吸入管継手(5a)と圧縮室(S)との間には、冷媒が逆方向へ流出するのを防止するための吸入逆止弁(12e)が設けられている。
【0036】
一方、上記可動スクロール(13)は、略円板状の可動側鏡板(13a)と、この可動側鏡板(13a)の上面に立設された渦巻き状(インボリュート状)の可動側ラップ(13b)とを備えている。そして、上記固定側ラップ(12b)と可動側ラップ(13b)とは互いに噛合しており、このことにより固定スクロール(12)と可動スクロール(13)との間において、両ラップ(12b,13b)の接触部間に圧縮室(S)が形成されている。
【0037】
上記可動スクロール(13)は、上記オルダム継手(14)を介してハウジング(11)に支持され、上記固定スクロール(12)に対して自転することなく回転するように構成されている。すなわち、上記可動スクロール(13)の可動側鏡板(13a)の下面の中心部には、有底円筒状のボス部(13c)が突設されていて、該ボス部(13c)内に上記駆動軸(30)の上端部が回転可能に嵌入されている。詳しくは、駆動軸(30)の上端には偏心軸部(30a)が設けられていて、この偏心軸部(30a)が上記可動側鏡板(13a)に設けられたボス部(13c)内に、メタル(15)を介して回転可能に嵌入されている。これにより、上記駆動軸(30)が回転すると、可動スクロール(12)が駆動軸(30)の軸心を中心として回転する。この可動スクロール(12)の回転半径は、偏心軸部(30a)の偏心量、すなわち駆動軸(30)の軸心と偏心軸部(30a)の軸心との距離と同じである。
【0038】
以上の構成において、上記可動スクロール(13)の回転により、両ラップ(12b,13b)間の容積が拡大することで、上記圧縮室(S)は上記吸入管(5)から冷媒を吸入する。そして、上記可動スクロール(13)のさらなる回転によって、上記両ラップ(12b,13b)間の容積が中心に向かって減少することで冷媒を圧縮する。
【0039】
上記電動機(20)は、ケーシング(2)の内壁面に固定された環状のステータ(21)と、このステータ(21)の内側で回転自在に配置されたロータ(22)とを備えている。このロータ(22)は、上記圧縮機構(10)の可動スクロール(13)に連結される駆動軸(30)上に設けられている。
【0040】
上記駆動軸(30)は、上述のとおり、上端に上記可動スクロール(13)に嵌合する偏心軸部(30a)が設けられているとともに、上部を上記ハウジング(11)の上部軸受部(11b)によって回転可能に支持されている。一方、上記駆動軸(30)の下部は、上記ケーシング(2)の電動機(20)の下方に設けられた下部軸受部(31)によって回転可能に支持されている。この下部軸受部(31)は、外周側の一部が上記ケーシング(2)の内周面に接続されている一方、内周側には、上記駆動軸(30)の外周面に摺接する軸受メタル(32)を収納可能な貫通孔(31a)が形成されている。
【0041】
また、上記駆動軸(30)には、上記ハウジング(11)の上部軸受部(11b)の下側に、可動スクロール(13)や偏心軸部(30a)等と動的バランスを取るためのバランス部(30b)が設けられている。このバランス部(30b)により重さのバランスを取りながら駆動軸(30)が回転することで、アンバランスによる振動を発生させることなく運転することができる。なお、上記図1において、符号33は、バランス部(30b)を覆うバランスカバーである。
【0042】
さらに、上記駆動軸(30)の内部には、上下方向へ延びる給油通路(30c)が形成されている。ここで、上記ケーシング(2)の下部軸受部(31)の下方には、潤滑油が貯留される油溜まり(25)が設けられていて、上記駆動軸(30)の下端は、該油溜まり(25)内の潤滑油中に位置付けられている。上記油溜まり(25)内に貯留された潤滑油は、上記駆動軸(30)の回転に伴って該駆動軸(30)の給油通路(30c)内を上方へ汲み上げられる。このようにして汲み上げられた潤滑油は、上記給油通路(30c)を通って圧縮機構(10)の各摺動部などへ供給される。
【0043】
−上部軸受の構造−
次に、圧縮機構(10)と電動機(20)とを駆動連結する駆動軸(30)の上部を回転可能に支持する上部軸受の構造について、図2及び図3に基づいて以下で詳細に説明する。
【0044】
図2に拡大して示すように、上記駆動軸(30)の上部を回転可能に支持する上部軸受部(11b)には、その内周面を覆うように軸受メタル(16)が配置されている。この軸受メタル(16)は、図3に示すように、矩形状の金属製の板状部材(17)をその長手方向の両端部(17a,17a)同士が突き合わせられるように丸めた状態で、上記上部軸受部(11b)の貫通孔(11c)内に挿入したものであり、該貫通孔(11c)の内周面に対して密着している。
【0045】
上記上部軸受部(11b)の貫通孔(11c)の内周面の一部には、該貫通孔(11c)の下側(電動機側)の所定位置から上方(圧縮機構側)へ向かって延びるように、溝状の油回収通路(11d)(油通路)が形成されている。したがって、上記上部軸受部(11b)の貫通孔(11c)の内周面上に上記軸受メタル(16)が配置されると、該軸受メタル(16)の外方に上記油回収通路(11d)が形成される。
【0046】
図3に示すように、上記軸受メタル(16)には、板状部材(17)の両端部(17a,17a)同士が突き合わせられるように丸められた状態で、上記上部軸受部(11b)の油回収通路(11d)に連通する連通孔(16a)が形成されるように、上記両端部(17a,17a)にそれぞれ半円状の切り欠き部(16b,16b)が設けられている。このように、上記軸受メタル(16)に、上記油回収通路(11d)に連通する連通孔(16a)を設けることで、該軸受メタル(16)と駆動軸(30)との間に供給される潤滑油を、上記連通孔(16a)及び油回収通路(11d)を介して圧縮機構(10)側へ回収することができる。したがって、上記上部軸受部(11d)を介して電動機(20)側へ潤滑油が流れ出すのを抑制して、該上部軸受部(11d)の軸受メタル(16)の摺動面により多くの潤滑油を供給することができる。
【0047】
しかも、上記連通孔(16a)を、板状部材(17)の両端部(17a,17a)にそれぞれ形成された半円状の切り欠き部(16b,16b)によって構成することで、該切り欠き部(16b,16b)を形成する際に該切り欠き部(16b,16b)の周縁部分が破損しても、板状部材(17)の両面及び側面から修復作業を行うことができ、修復作業を効率良く行うことができる。すなわち、図4に示すように、板状部材(117)に貫通孔(116a)が形成されてなる軸受メタル(116)の場合、該貫通孔(116a)の周縁部分が破損すると、板状部材(117)の両面側からしか修復作業を行うことができないため、貫通孔(116a)の孔径を拡げるなどの修復方法しかなくなるが、上述のように、板状部材(17)の両端部(17a,17a)に設けた切り欠き部(16b,16b)によって連通孔(16a)を構成した場合には、該板状部材(17)の両面に加えて側面からも修復作業を行うことができ、部分的な修復を容易に行うことができる。
【0048】
また、上記駆動軸(30)の外周面上には、上記軸受メタル(16)の連通孔(16a)に対応する軸方向位置に、該駆動軸(30)の全周に亘って周方向に延びる油回収溝(30d)が設けられている。上記駆動軸(30)の外周面に上記油回収溝(30d)を設けることで、該駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給される潤滑油が該油回収溝(30d)内に溜まって、上記軸受メタル(16)の連通孔(16a)を介して上記油回収通路(11d)によって上部軸受部(11d)の圧縮機構(10)側へ回収される。したがって、上記油回収溝(30d)によって、駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間の潤滑油をより効率良く集めて回収することができる。
【0049】
−圧縮機の運転動作−
次に、上述の構成を有する圧縮機(1)の運転動作について説明する。
【0050】
まず、上記電動機(20)を駆動すると、駆動軸(30)が回転し、可動スクロール(13)が固定スクロール(12)に対して自転することなく該駆動軸(30)の軸心周りに回転運動を行う。
【0051】
上記可動スクロール(13)の回転運動に伴って、圧縮室(S)の容積が周期的に増減を繰り返す。上記圧縮室(S)の容積が増大するときに、冷媒回路を流れる冷媒(吸入ガス)が、吸入管(5)から吸入管継手(5a)を経て、上記固定スクロール(12)側から該圧縮室(S)内へ吸い込まれる。そして、上記圧縮室(S)の容積が減少するときに、冷媒が圧縮されて、吐出孔(12c)から吐出通路を介してケーシング(2)内に吐出される。
【0052】
ここで、上記ケーシング(2)の下部の油溜まり(25)に貯留された油は、上記駆動軸(30)内の給油通路(30c)を通って軸受の各摺動部分などへ供給される。
【0053】
そして、ハウジング(11)の上部軸受部(11b)の軸受メタル(16)と駆動軸(30)との間に供給された潤滑油は、該軸受メタル(16)と駆動軸(30)との間を下方へ流れ落ちて、該駆動軸(30)の表面に設けられた油回収溝(30d)に溜まる。その後、該油回収溝(30d)と連通する上記軸受メタル(16)の連通孔(16a)を介して上記上部軸受部(11b)の油回収通路(11d)内へ流れる。潤滑油は、該油回収通路(11d)によって上記上部軸受部(11b)の圧縮機構(10)側へ回収される。
【0054】
−実施形態の効果−
以上より、この実施形態によれば、圧縮機構(10)を回転駆動させる駆動軸(30)の上部を回転可能に支持する上部軸受部(11b)において、その貫通孔(11c)内に収容される軸受メタル(16)に、上記上部軸受部(11b)に形成された油回収通路(11d)に連通する連通孔(16a)を設けたため、上記軸受メタル(16)と駆動軸(30)との間に供給される潤滑油を上記連通孔(16a)を介して油回収通路(11d)から回収することができる。しかも、この油回収通路(11d)は、圧縮機構(10)側へ潤滑油を戻すように構成されているため、潤滑油が上記上部軸受部(11b)の電動機(20)側(下方)へ流出するのを抑制できる。
【0055】
そして、上記軸受メタル(16)は、板状部材(17)の両端部(17a,17a)同士が突き合わせられるように丸められてなるもので、該板状部材(17)には、両端部(17a,17a)同士が突き合わせられて丸められた状態で上記連通孔(16a)が形成されるように、該両端部(17a,17a)に半円状の切り欠き部(16b,16b)が設けられているため、板状部材(17)に切り欠き部(16b,16b)を形成した際に該切り欠き部(16b,16b)の周縁部分が破損した場合でも、該周縁部分の修復を板状部材(17)の両面及び側面から行うことができ、修復作業を効率良く行うことができる。
【0056】
したがって、連通孔を形成する際に破損しやすい硬くて脆い材料を軸受メタルとして用いる場合でも、上述のような構成を適用することにより、破損箇所を容易に修復することが可能となる。よって、より硬い材料を軸受メタルとして用いることができ、該軸受メタルの耐久性の向上を図れる。
【0057】
なお、上述のように軸受メタル(16)を構成する板状部材(17)の両端部(17a,17a)に切り欠き部(16b,16b)を設ける構成は、上記実施形態のように、上記軸受メタル(16)が、圧縮機構(10)と電動機(20)との間に配置されている場合やケーシング(2)内の冷媒を外部へ吐出する吐出管(6)の近傍に配置されている場合など、上記軸受メタル(16)に連通孔(16a)を設けて潤滑油の回収を行う必要がある場合に、特に有効である。
【0058】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0059】
上記実施形態では、駆動軸(30)の上部を回転可能に支持する上部軸受部(11b)において、軸受メタル(16)を構成する板状部材(17)の両端部(17a,17a)に、該両端部(17a,17a)が突き合わせられて丸められた状態で連通孔(16a)が形成されるように、切り欠き部(16b,16b)をそれぞれ設けているが、この限りではなく、一方の端部にのみ切り欠き部を設けてもよい。また、上記連通孔(16a)の形状は、円形以外の形状であってもよいし、連通孔(16a)の数も2つ以上であってもよい。さらに、上述のような構成を適用するのは上記上部軸受部(11b)に限らず、軸受メタルを構成する板状部材に連通孔を設ける必要がある軸受であれば、他の軸受に適用してもよい。また、上記実施形態では、上記連通孔(16a)を排油孔として用いているが、この限りではなく、給油孔として利用してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、圧縮機(1)の駆動軸(30)の軸受メタル(16)に適用しているが、この限りではなく、膨張機などの流体機械に適用してもよい。さらに、上記実施形態では、圧縮機(1)の構成をスクロール式としているが、この限りではなく、ピストンに駆動連結された駆動軸を回転可能に支持する軸受を備えた構成であれば、どのような構成の流体機械であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、圧縮機(1)の構成を、ケーシング(2)内に上から順に圧縮機構(10)及び電動機(20)が配置される構成としているが、この限りではなく、軸受メタルに連通孔を形成する構成であれば、どのような構成の圧縮機であってもよい。さらに、上記実施形態では、吐出管(6)を、圧縮機構(10)と電動機(20)との間の空間に連通するように設けているが、この限りではなく、他の位置に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明は、駆動軸と摺接する軸受メタルに連通孔を形成する構成において、該連通孔の構成に工夫を凝らして、該連通孔の周縁部分が破損した場合でも修復しやすい構成としたので、例えば圧縮機構を回転駆動させる駆動軸を備えた圧縮機に特に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 圧縮機(回転式流体機械)
2 ケーシング
6 吐出管
10 圧縮機構(ピストン機構)
11 ハウジング
11b 上部軸受部(メタル支持部)
11d 油回収通路(油通路)
12 固定スクロール
13 可動スクロール(ピストン)
15 メタル
16 軸受メタル
16a 連通孔
16b 切り欠き部
17 板状部材
17a 端部
20 電動機(モータ部)
30 駆動軸
30c 給油通路
30d 油回収溝
116 軸受メタル
116a 貫通孔
117 板状部材
S 圧縮室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン室内で回転または揺動するピストン(13)を有するピストン機構(10)と、該ピストン(13)に駆動連結される駆動軸(30)と、該駆動軸(30)の外周面に対して内周面で摺接する略円筒状の軸受メタル(16)と、該軸受メタル(16)が収納される貫通孔(11c)を有するメタル支持部(11b)とを備えた回転式流体機械であって、
上記メタル支持部(11b)には、上記駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給される潤滑油が流れる油通路(11d)が設けられていて、
上記軸受メタル(16)は、両端部(17a,17a)で突き合わせられるように略円筒状に丸められる板状部材(17)からなり、
上記板状部材(17)には、略円筒状に丸められた状態でその突き合わせ部分に上記油通路(11d)と連通する連通孔(16a)が形成されるように、該突き合わせ部分を構成する上記両端部(17a,17a)のうちの少なくとも一方に切り欠き部(16b)が設けられていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項2】
請求項1に記載の回転式流体機械において、
上記切り欠き部(16b)は、上記板状部材(17)が両端部(17a,17a)で突き合わせられて略円筒状に丸められた状態で上記連通孔(16a)を形成するように、上記両端部(17a,17a)にそれぞれ設けられていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転式流体機械において、
上記油通路は、上記駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給された潤滑油を回収するための油回収通路(11d)であることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項4】
請求項3に記載の回転式流体機械において、
上記駆動軸(30)の外周面上には、上記軸受メタル(16)の連通孔(16a)に対応した軸方向位置で該駆動軸(30)の周方向に延びるように油回収溝(30d)が設けられていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項5】
請求項3または4に記載の回転式流体機械において、
上記ピストン機構(10)が収納されるケーシング(2)と、該ケーシング(2)内でピストン機構(10)の下方に配置され且つ上記駆動軸(30)を介して該ピストン機構(10)を回転駆動させるモータ部(20)と、をさらに備えていて、
上記軸受メタル(16)及びメタル支持部(11b)は、上記ケーシング(2)内の上記ピストン機構(10)とモータ部(20)との間に設けられていて、
上記油回収通路(11d)は、上記駆動軸(30)と軸受メタル(16)との間に供給された潤滑油をピストン機構(10)側へ戻すように設けられていることを特徴とする回転式流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−196269(P2011−196269A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64803(P2010−64803)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】