説明

回転掘削工具及び路面掘削装置

【課題】吸引した場合には粉塵を効率的に除去することが可能であり、冷却《水》を供給した場合には掘削刃を効果的に冷却することが可能な回転掘削工具及び路面掘削装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の回転掘削工具10によれば、接続筒部31を通じて吸引を行った場合に、粉塵が接続筒部31の下端開口にスムーズに流入するので、粉塵を従来より効率よく除去することができる。一方、接続筒部31を通じて回転掘削工具10内に冷却水を流し込んだ場合には、冷却水が回転掘削工具10の内面を伝うか或いは飛散して掘削部位に向かうので、チップ22,22を効果的に冷却することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面掘削装置及び、路面掘削装置に取り付けられる回転掘削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の回転掘削工具2としては、図17に示すように、路面掘削装置1の回転駆動部4に取り付けられる接続筒部5と、接続筒部5より段付き状に大径となった円筒掘削部3とから構成されたものが知られている。この回転掘削工具2は、接続筒部5に吸引装置(図示せず)を接続することで、掘削による粉塵を、円筒掘削部3の内側から接続筒部5を通して除去可能な構成となっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−11115号公報(段落[0030],[0031]、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の回転掘削工具2では、接続筒部5と円筒掘削部3との間に段差がある為、粉塵が接続筒部5の下端開口にスムーズに流入しなかった。
【0004】
また、上述した従来の回転掘削工具2において、接続筒部5から冷却水を流し込むと、その冷却水は掘削部位ではなく路面に落下するため、円筒掘削部3の下端部に備えた掘削刃を効果的に冷却することができなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、吸引した場合には粉塵を効率的に除去することが可能であり、冷却水を供給した場合には掘削刃を効果的に冷却することが可能な回転掘削工具及び路面掘削装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る回転掘削工具は、路面と直交する方向に延びた円筒掘削部の下端部に複数の掘削刃を有する一方、円筒掘削部の同軸上方に円筒掘削部の外径より小さい接続筒部を有してなる回転掘削工具であって、その接続筒部が路面掘削装置の回転駆動部に取り付けられ、接続筒部を通して掘削刃に冷却水を供給した状態、或いは、接続筒部を通して円筒掘削部内の粉塵を吸引可能な状態で回転駆動され、路面に環状溝を掘削可能な回転掘削工具において、接続筒部の下端部を円筒掘削部の上端部から上方にオフセットした位置に配置し、接続筒部と円筒掘削部との間を、接続筒部から下方に向かって拡径した中継筒部にて接続したところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の回転掘削工具において、円筒掘削部の外側に一体に設けられた環状体の下面に複数の掘削刃を有してなり、円筒掘削部によって掘削される環状溝の外側を掘削するためのアウター掘削部を備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の回転掘削工具において、アウター掘削部の掘削刃を、円筒掘削部の掘削刃より上方に配置したところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3に記載の回転掘削工具において、回転掘削工具によって掘削される環状溝の上端部が、段付き状に外側に幅広となるように、円筒掘削部の掘削刃とアウター掘削部の掘削刃とを円筒掘削部の径方向で隣接配置したところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項2又は3に記載の回転掘削工具において、円筒掘削部よって掘削される環状溝と、アウター掘削部によって掘削される環状溝とが同心円となるように、円筒掘削部の掘削刃とアウター掘削部の掘削刃とを円筒掘削部の径方向で離して配置したところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載の回転掘削工具において、アウター掘削部は、円筒掘削部の外側同心円上に配置されたアウター円筒壁の下端部に掘削刃を備えてなり、円筒掘削部のうちアウター円筒壁によって外側を覆われた部分には、円筒掘削部を内外に貫通した側部開口が形成されたところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項2乃至6の何れかに記載の回転掘削工具において、円筒掘削部と中継筒部とは、螺合機構にて着脱可能に連結され、螺合機構は、中継筒部の下端部に一体に設けた円筒体の内面に雌螺子を形成してなる雌螺子筒部と、円筒掘削部の上端部の外径を、段付き状に小径にして、その小径部分に雄螺子を形成してなる雄螺子筒部とから構成され、アウター掘削部に、円環板状の鍔壁を設け、雌螺子筒部と雄螺子筒部とを螺合し、雌螺子筒部の下端部と、円筒掘削部における雄螺子筒部の下端側の段差部との間に鍔壁を挟んで固定したところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1乃至7の何れかに記載の回転掘削工具において、中継筒部は、円錐形であるところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明は、請求項1乃至8の何れかに記載の回転掘削工具において、円筒掘削部の下端部のうち、周方向で隣り合った掘削刃同士の間には、下方に開放した切り欠き部が形成されたところに特徴を有する。
【0015】
請求項10の発明は、請求項1乃至9の何れかに記載の回転掘削工具において、円筒掘削部の外周面に着脱可能に固定されて掘削刃より外側に張り出した過掘防止リングを備えたところに特徴を有する。
【0016】
請求項11の発明に係る路面掘削装置は、請求項1乃至10の何れかに記載の回転掘削工具を備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
[請求項1,8及び11の発明]
請求項1及び11の発明によれば、接続筒部を通じて粉塵を吸引した場合に、粉塵は、接続筒部に向かうに従って収縮した中継筒部の内面に案内され接続筒部の下端開口にスムーズに流入する。よって、粉塵を従来より効率よく吸引除去することが可能である。
【0018】
一方、接続筒部を通じて冷却水を供給した場合には、冷却水が、接続筒部の下端開口縁から中継筒部の内面を伝う。この冷却水は、遠心力によって中継筒部の内面を径方向の外側に向かって流動し、円筒掘削部の内面を伝って掘削部位に向かう。或いは、中継筒部の内面から掘削部位に向かって冷却水が飛散する。よって、掘削刃を冷却水により効果的に冷却することが可能である。
【0019】
ここで、中継筒部は、接続筒部から下方に向かって拡径した円錐形(請求項8の発明)であることが好ましいが、接続筒部から下方に向かう途中で内側に反りつつ拡径したラッパ状でもよいし、接続筒部から下方に向かう途中で外側に反りつつ拡径したドーム状でもよい。
【0020】
[請求項2の発明]
請求項2の構成によれば、円筒掘削部によって掘削された環状溝の外側をアウター掘削部によって掘削することができる。
【0021】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、円筒掘削部によって掘削された環状溝を、その外側にアウター掘削部によって掘削された部分よりも深くすることができる。
【0022】
[請求項4の発明]
請求項4の発明によれば、上端部が段付き状に外側に幅広となった環状溝を、回転掘削工具を付け替えることなく一度に掘削することができる。
【0023】
[請求項5の発明]
請求項5の発明によれば、大小2つの同心円状の環状溝を、回転掘削工具を付け替えることなく一度に掘削することができる。
【0024】
[請求項6の発明]
請求項6の発明によれば、円筒掘削部のうち、アウター円筒壁によって外側を覆われた部分に貫通形成された側部開口を通して、円筒掘削部の外側の粉塵を吸引することができる。また、円筒掘削部の内側に流れ込んだ冷却水を、側部開口を通してアウター掘削部の掘削部位にも供給することが可能となる。
【0025】
[請求項7の発明]
請求項7の構成によれば、円筒掘削部の上端部に備えた雄螺子筒部と、中継筒部の下端部に一体に設けられた雌螺子筒部とを螺合し、雌螺子筒部の下端部と、雄螺子筒部の下端側の段差部との間にアウター掘削部の鍔壁を挟んで固定することで、円筒掘削部とアウター掘削部とが一体回転可能となる。
【0026】
[請求項9の発明]
請求項9の発明によれば、掘削刃が摩耗して小さくなっても、冷却水が切り欠き部に入り込むことで、掘削刃を冷却することができる。
【0027】
[請求項10の発明]
請求項10の発明によれば、過掘防止リングを円筒掘削部の外周面に取り付けて掘削を行うと、過掘防止リングが環状溝の外縁部に干渉して、それ以上の掘削が規制される。これにより路面に形成される環状溝の深さを、設計通りの深さで統一することができる。また、過掘防止リングを取り外して掘削を行えば、任意の深さの環状溝を形成することができる。ここで、過掘防止リングの材質は特に限定しないが、例えば、ゴム製とすれば、路面を傷つけることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。図1には、コンクリート又はアスファルト等で舗装された路面R1を掘削するための路面掘削装置100が示されている。路面掘削装置100には、本発明に係る回転掘削工具10が着脱可能に取り付けられており、この回転掘削工具10を回転状態で路面R1に対してほぼ直角に押し付けると、図7に示すように滑り止め用の円筒ゴム部材Gを嵌め込むための環状溝M1が路面R1に形成される。
【0029】
図1(B)に示すように、路面掘削装置100は、固定手段(図示せず)によって路面R1に固定可能な本体ベース90と、本体ベース90から垂直に起立した1対のガイドポスト91,91と、これらガイドポスト91,91に昇降可能に支持された可動ベース92とを備えている。可動ベース92には送りねじ88が垂直に貫通しており、ハンドル89の回転操作によって送りねじ88を回転させることで可動ベース92が昇降可能となっている。
【0030】
可動ベース92には、回転掘削工具10を回転可能に保持するための主軸ユニット93と、主軸ユニット93に保持された回転掘削工具10を回転駆動させるための駆動源98(具体的には、電動モータ又はエンジン)とが固定されている。
【0031】
図1(A)に示すように、主軸ユニット93は、筒形ハウジング94の内側を貫通した主軸95(本発明の「回転駆動部」に相当する)を、筒形ハウジング94の両端内面に備えたベアリング(図示せず)により回転可能に軸支した構造をなしている。主軸95は両端開放の円筒構造をなしており、筒形ハウジング94から突出した上端部には、ロータリージョイント96が相対回転可能に取り付けられている。ロータリージョイント96の内部には、主軸95の内側と連通する流路(図示せず)が形成されている。流路の一端はロータリージョイント96の側面から突出したホースアダプタ96Aを貫通しており、このホースアダプタ96Aに、粉塵を吸引する吸引装置又は冷却水(一般には、水道水)を供給する給水装置(何れも図示せず)のうちの一方が選択的に接続可能となっている。
【0032】
一方、可動ベース92の下方に突出した主軸95の下端部には、プーリー97が一体に設けられている。このプーリー97と、駆動源98の出力回転軸98Aに備えたプーリー98Bとの間がベルト99によって連結され、これにより、主軸95及び主軸95の下端部に接続された回転掘削工具10が高速回転するようになっている。
【0033】
ここで、回転掘削工具10は、粉塵を吸引しつつ掘削を行う乾式工法のときには、主軸95に直接接続される一方、掘削部位に冷却水を供給しつつ掘削を行う湿式工法のときには、図1に示すように延長筒部11を介して主軸95に接続される。図3に示すように、延長筒部11は、その上端内周面と下端外周面とにそれぞれ螺子部12,13を備える。そして、上端内周面の螺子部12が主軸95の下端部に螺合可能となっており、下端外周面の螺子部13が、回転掘削工具10の上端に螺合可能となっている。延長筒部11の内径は、主軸95の内径とほぼ同径であって、本実施形態では、例えば、10mmとなっている。
【0034】
さて、本発明の回転掘削工具10は、例えば、ステンレス製或いは炭素鋼製であり、両端開放の筒形構造をなしている。図2に示すように、回転掘削工具10は、路面掘削装置100の主軸95に直接或いは延長筒部11を介して接続されるチューブ30と、チューブ30の下端部に接続されて、路面R1を掘削するインナービット20(本発明の「円筒掘削部」に相当する)とから構成されている。
【0035】
インナービット20は、チューブ30の上端部に備えた接続筒部31の同軸下方に備えられ、接続筒部31より大径な扁平円筒形状をなしている。インナービット20の上端部は、接続筒部31の下端部から下方にオフセットした位置に配置されており、その上端部には雄螺子筒部21が備えられている。雄螺子筒部21は、インナービット20の上端部の外径を段付き状に小径にしてその小径部分に雄螺子を形成してなる。
【0036】
一方、インナービット20の下端部には先端が山形に尖った複数のチップ22,22(本発明の「掘削刃」に相当する)が設けられている。これらチップ22,22は下方に突出しかつインナービット20の周方向に沿って等間隔に配置されている。また、図3に示すように、チップ22の厚みは、インナービット20の周壁の厚みよりも厚くなっており(例えば、5〜15mm)、インナービット20の周壁の内外に突出している。なお、チップ22は、例えば、メタルボンドとダイヤモンド砥粒とを焼結したものであって、ロウ付け又は溶接(レーザー溶接)によって固定されている。
【0037】
図2に示すように、インナービット20の下端寄り位置の外周面には、図示しない過掘防止リングを装着するためのリング固定溝23,23が上下に並んで形成されている。これらリング固定溝23,23は、路面R1に形成する環状溝の深さに応じた任意の位置(例えば、チップ22の下端部から5〜10mm上方位置と、10〜20mm上方位置)に形成されている。そして何れか一方のリング固定溝23に過掘防止リング(図示せず)を装着して掘削を行うと、過掘防止リングが路面R1に掘削された環状溝の外縁部と干渉して、過掘防止リングを装着した位置に応じた深さの環状溝を掘削することができる。換言すれば、過剰な掘削を防止することができるようになっている。
【0038】
図2に示すように、インナービット20の外側には、アウタービット40が一体回転可能に備えられている。アウタービット40は、インナービット20の側方に張り出した円環板状の鍔壁41(図4を参照)に複数のチップ42,42を固定してなる。チップ42,42は鍔壁41の外縁寄りの下面から下方に突出しており、インナービット20のチップ22,22よりも上方に配置されている。また、チップ42,42は、インナービット20に備えたチップ22,22と同じ材質で下端部が尖っており、鍔壁41にロウ付け又は溶接されている。ここで、アウタービット40のチップ42,42と、インナービット20のチップ22,22とは径方向で隣接配置されており、それらチップ22,42同士が、上下方向で一部重なるように配置されている。なお、チップ42の厚みは、インナービット20のチップ22より薄くなっている(図3を参照)。また、本実施形態のアウタービット40の外径は、約50〜200mmとなっている。
【0039】
上述したインナービット20及びアウタービット40は、仕様(材質や寸法)の異なる複数種類のものが備えられており、舗装材の材質や目的とする環状溝の設計寸法に応じて適宜取り替え可能となっている。また、チップ22,42が摩耗して掘削不能となった場合は、インナービット20又はアウタービット40だけを交換可能となっている。
【0040】
ところで、図3に示すように、回転掘削工具10のうち、チューブ30は、上側から接続筒部31、中継筒部32、雌螺子筒部33の順に並べて備えられている。図3に示すように、接続筒部31の内周面には雌螺子31Aが形成されており、ここに主軸95の下端部或いは、延長筒部11の螺子部13が螺合可能となっている。
【0041】
雌螺子筒部33は、中継筒部32の下端部に一体に設けられた扁平な円筒体の内周面に雌螺子33Aを形成してなる。この雌螺子筒部33に、インナービット20の上端部に備えた雄螺子筒部21が螺合されている。また、インナービット20の外周面のうち雄螺子筒部21の基端部に形成された段差部27と、チューブ30(雌螺子筒部33)の下端縁との間には、アウタービット40の鍔壁41内縁が挟持され、これにより、アウタービット40がインナービット20と一体回転可能に固定されている(図5を参照)。ここで、雄螺子筒部21と雌螺子筒部33によって本発明の「螺合機構」が構成されている。
【0042】
なお、掘削時には回転掘削工具10(主軸95)が、雄螺子筒部21と雌螺子筒部33とを締め付ける方向(上方から見たときに時計回り方向)に回転するので、掘削の過程で雄螺子筒部21と雌螺子筒部33との螺合状態が緩んでアウタービット40が外れることはない。
【0043】
図3に示すように、中継筒部32は、接続筒部31から雌螺子筒部33に向かうに従って、換言すれば、回転掘削工具10の軸方向で互いに離された接続筒部31の下端開口からインナービット20の上端開口に向かうに従って徐々に拡径したテーパー筒(円錐筒)形状をなしている。そして、中継筒部32の内面32Aは滑らかな円錐曲面となっており、回転掘削工具10の軸線に対する内面32Aの傾斜角度θは、例えば、約40度となっている。
【0044】
次に本実施形態の作用・効果について説明する。路面R1に環状溝M1を掘削する場合には、回転掘削工具10を路面R1から離した状態で駆動源98を起動し、回転掘削工具10を高速回転させる。その状態でハンドル89を操作して可動ベース92を降下させ、回転掘削工具10を路面R1に対して直角に押し付ける。すると、インナービット20の下端部に備えたチップ22によって路面R1が掘削される。回転掘削工具10をさらに降下させていくと環状溝が徐々に深くなり、所定の深さに達すると、回転状態のアウタービット40が路面R1に押し付けられて、インナービット20によって掘削された環状溝の外周縁が掘削される。即ち、最初は、インナービット20だけで掘削が行われ、インナービット20が所定の深さまで掘り進んだところで、インナービット20とアウタービット40との両方で掘削が行われる。
【0045】
所定の深さまで掘削したら駆動源98を停止し、ハンドル89の操作により回転掘削工具10を引き上げる。これにより、図7に示すように上端部が段付き状に径方向外側に幅広となった(換言すれば、径方向の外側部分が内側部分に対して段付き状に浅くなった)環状溝M1が、回転掘削工具10を付け替えることなく一度で形成される。
【0046】
なお、環状溝M1には円筒ゴム部材Gが嵌め込まれるが、円筒ゴム部材Gを嵌め込むと、その上端部が路面R1から盛り上がって中央部が相対的に凹所となる。この凹所内のゴミや水を排出するために、円筒ゴム部材Gの上端部の一部には、排出溝(図示せず)が形成されている。そして、傾斜した路面R1に円筒ゴム部材Gを嵌め込む場合に、排出溝が傾斜の下側となるようにすれば前記凹所内のゴミや水が自然に排出される。
【0047】
ところで、路面掘削装置100のロータリージョイント96に吸引装置(図示せず)を接続し、吸引装置を作動させながら路面R1の掘削を行うと、図5に示すように、インナービット20の掘削部位から粉塵が吸引され、主軸95の内側を通って路面掘削装置100の外部に排出される。回転掘削工具10の内部では、吸い上げられた粉塵が中継筒部32の円錐曲面をなした内面32Aに案内されて接続筒部31の下端開口にスムーズに流れ込み、主軸95の内部を通って図示しない集塵機に回収される。また、回転掘削工具10の内側を吸引することにより、回転掘削工具10の外側の空気が、インナービット20の内外両側面と環状溝との隙間及び、インナービット20の下端部の隣り合ったチップ22,22の間を通って回転掘削工具10の内側に流入する。この空気の流れによりチップ22,22が冷却される。
【0048】
一方、ロータリージョイント96に給水装置(図示せず)を接続し、給水装置を作動させながら路面R1の掘削を行うと、図6に示すように、主軸95及び延長管部11の内側を通って回転掘削工具10内に冷却水が流れ込む。このとき冷却水の一部は、主軸95、延長管部11及び接続筒部31の内面を伝い、さらに、接続筒部31の下端開口から中継筒部32の内面32Aを伝う。そして、回転掘削工具10の回転による遠心力によって径方向の外側に向かって流動し、インナービット20の内面を伝って掘削部位に到達する。或いは、中継筒部32の内面32Aを伝う途中で掘削部位に向かって飛散する。掘削部位に到達した冷却水は、インナービット20の隣り合ったチップ22,22同士の間に入り込んで、チップ22,22を冷却する共に掘削部位を潤滑する。
【0049】
このように、本実施形態の回転掘削工具10によれば、接続筒部31を通じて吸引を行った場合に、粉塵が接続筒部31の下端開口にスムーズに流入するので、粉塵を従来より効率よく除去することができる。一方、接続筒部31を通じて回転掘削工具10内に冷却水を流し込んだ場合には、冷却水が回転掘削工具10の内面を伝うか、飛散して掘削部位に向かうので、チップ22,22を効果的に冷却することができる。
【0050】
[第2実施形態]
この第2実施形態は、主に、インナービット20及びアウタービット40の構造が第1実施形態と異なる。以下、上記第1実施形態と同じ構成については、同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0051】
図9に示すように、本実施形態のアウタービット40は、インナービット20の側方に張り出した鍔壁41の外縁部から下方に向かってアウター円筒壁44が垂下した構造をなしており、そのアウター円筒壁44の下端部に複数のチップ42,42が固定されている。図8に示すように、アウター円筒壁44は、インナービット20の外側同心円上に配置されてインナービット20の外周面を覆っており、アウタービット40のチップ42,42は、インナービット20のチップ22,22と同じ高さでかつ径方向で離れた位置に配置されている。さらに、アウター円筒壁44の下端寄り位置には、過掘防止リング(図示せず)を固定するためのリング固定溝45,45が上下に並んで形成されている。
【0052】
一方、インナービット20のうち、アウター円筒壁44によって外側を覆われた部分には、インナービット20の内外を貫通した複数の側部開口25が形成されている。これら側部開口25は、インナービット20の周方向で等間隔に設けられており、例えば、縦長矩形状をなしている。そして、インナービット20とアウタービット40(アウター円筒壁44)との間に形成された環状空間Q1とインナービット20の内部空間とが側部開口25によって連通状態となっている。
【0053】
なお、本実施形態では、インナービット20のチップ22の厚さが、アウタービット40のチップ42の厚さの約半分となっている。
【0054】
さて、本実施形態の回転掘削工具10を用いて路面R1を掘削した場合は以下のようである。即ち、回転掘削工具10を路面掘削装置100に取り付けて、回転状態で路面R1に近づけていくと、インナービット20とアウタービット40とが同時に路面R1に突き当たる。この状態で、さらに回転掘削工具10を路面R1に押し付けると、径及び溝幅の異なる大小2つの環状溝M2,M3が回転掘削工具を付け替えることなく一度に形成される(図10を参照)。これら環状溝M2,M3は同心円で同じ深さであり、かつ、外側の環状溝M2の溝幅が内側の環状溝M3の溝幅より幅広となっている。
【0055】
ここで、路面掘削装置100のロータリージョイント96に吸引装置(図示せず)を接続して、吸引装置を作動させながら掘削を行うと、図10に示すように、インナービット20内の粉塵が接続筒部31に向かって上方に吸い上げられると共に、インナービット20の外側に形成された環状空間Q1の粉塵が、側部開口25を通ってインナービット20内に吸い込まれる。そして粉塵は、上記第1実施形態の場合と同様に、中継筒部32の内面32Aに案内され、接続筒部31の下端開口にスムーズに流れ込む。
【0056】
また、ロータリージョイント96に給水装置(図示せず)を接続し、給水装置を作動させながら路面R1の掘削を行うと、図11に示すように、冷却水が中継筒部32の内面32A及びインナービット20の内面を伝って流れ、インナービット20の掘削部位まで到達すると共に、インナービット20の内面を伝う冷却水の一部が、遠心力により、側部開口25を通ってアウタービット40の掘削部位に向かって飛散する。
【0057】
本実施形態によれば、インナービット20の内側の粉塵だけでなく、インナービット20とアウタービット40とで囲まれた環状空間Q1内の粉塵も吸引することができる。また、インナービット20のチップ22,22だけでなく、アウタービット40のチップ42,42も冷却水で冷却することが可能である。
【0058】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0059】
(1)図12に示すように、チューブ30のうち中継筒部32を、接続筒部31から下方に向かう途中で内側に弓なりに反りつつ拡径したラッパ筒状としてもよい。また、図13に示すように、中継筒部32を、接続筒部31から下方に向かう途中で外側に弓なりに反りつつ拡径したドーム筒状としてもよい。
【0060】
(2)上記第1及び第2実施形態では、リング固定溝23,45に過掘防止リングを装着せずに掘削を行った場合を例示したが、過掘防止リングを装着して掘削を行った場合は以下のようである。例えば、図14に示すように、過掘防止リング50は、インナービット20のチップ22,22より外側に張り出しているから、所定の深さまで掘削すると、過掘防止リング50が環状溝の外縁部に干渉して、それ以上の掘削が規制される。これにより、環状溝M1を設計通りの深さに統一することができる。また、過掘防止リング50を舗装材より柔らかい材質(例えば、耐摩耗性に優れたゴム)としておけば、路面R1との干渉時に路面R1を傷つけることがない。また、図示しないが、第2実施形態の構成においてアウタービット40のリング固定溝45に過掘防止リング50を装着して掘削を行った場合も同様の作用効果を奏する。なお、過掘防止リング50の断面形状は、図14に示すように円形でもよいし、図15に示すように、異なる径の半円を合体した形状であってもよい。また、リング固定溝23,45は、インナービット20又はアウタービット40の外周面に2つずつ形成されていたが、1つだけでもよいし、3つ以上でもよい。
【0061】
(3)図16に示すように、インナービット20の下端部のうち、周方向で隣り合ったチップ22,22同士の間に、下方に開放した(上方に向かって凹んだ)半円形の切り欠き部26を設けてもよい。この切り欠き部26を有したインナービット20は、粉塵を吸引しつつ掘削を行う乾式工法のときに使用することも可能であるが、湿式工法のときに使用すると以下のような効果を奏する。即ち、チップ22,22が摩耗して小さくなった場合にも、冷却水が切り欠き部26に入り込むことで、チップ22の冷却及び掘削部位の潤滑を行うことができる。これにより、チップ22,22の摩耗による掘削性能の低下を抑えることができる。ここで、切り欠き部26は、図15の如く全てのチップ22,22間に設けてもよいし、一部のチップ22,22間だけに設けてもよい。
【0062】
また、切り欠き部26を有するインナービット20を湿式工法専用とし、切り欠き部26を有さないインナービット20を乾式工法専用とした場合には、切り欠き部26の有無によって、そのインナービット20が湿式工法専用か否かを容易に見分けることができる。
【0063】
(4)回転掘削工具10のうちインナービット20の内壁面に、インナービット20の回転方向の前方に向かうに従って下るような螺旋状の突条或いは溝を設けてもよい。このようにすれば、回転掘削工具10の回転により、インナービット20の内面と環状溝M1の壁面との間で、粉塵を上方(路面R1)に向けて送り出すことができる。
【0064】
(5)前記実施形態では、回転掘削工具10にアウタービット40が備えられていたが、アウタービット40は備えていなくてもよい。この場合、回転掘削工具10を構成するインナービット20とチューブ30とを一部品で構成してもよい。
【0065】
(6)前記第2実施形態において、アウター円筒壁44の下端部に備えたチップ42,42の位置を、インナービット20に備えたチップ22,22の位置より上方或いは下方に配置して、同心円である環状溝M2,M3の深さを異ならせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態に係る路面掘削装置の(A)側面図、(B)正面図
【図2】回転掘削工具の側面図
【図3】回転掘削工具の分解側断面図
【図4】アウタービットの斜視図
【図5】吸引しつつ掘削をしている状態の回転掘削工具の側断面図
【図6】注水しつつ掘削をしている状態の回転掘削工具の側断面図
【図7】回転掘削工具で掘削された環状溝及び円筒ゴム部材の断面図
【図8】第2実施形態に係る回転掘削工具の側面図
【図9】回転掘削工具の分解側断面図
【図10】吸引しつつ掘削をしている状態の回転掘削工具の側断面図
【図11】注水しつつ掘削をしている状態の回転掘削工具の側断面図
【図12】他の実施形態(1)に係る回転掘削工具の側断面図
【図13】他の実施形態(1)に係る回転掘削工具の側断面図
【図14】他の実施形態(2)に係る回転掘削工具の側断面図
【図15】他の実施形態(2)に係る回転掘削工具の側断面図
【図16】他の実施形態(3)に係る回転掘削工具の側断面図
【図17】従来の回転掘削工具の側断面図
【符号の説明】
【0067】
10 回転掘削工具
20 インナービット(円筒掘削部)
21 雄螺子筒部(螺合機構)
22,42 チップ(掘削刃)
23,45 リング固定溝
25 側部開口
26 切り欠き部
27 段差部
31 接続筒部
32 中継筒部
33 雌螺子筒部(螺合機構)
40 アウタービット(アウター掘削部)
41 鍔壁(環状体)
44 アウター円筒壁(環状体)
50 過掘防止リング
95 主軸(回転駆動部)
100 路面掘削装置
M1,M2,M3 環状溝
R1 路面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面と直交する方向に延びた円筒掘削部の下端部に複数の掘削刃を有する一方、前記円筒掘削部の同軸上方に前記円筒掘削部の外径より小さい接続筒部を有してなる回転掘削工具であって、その接続筒部が路面掘削装置の回転駆動部に取り付けられ、前記接続筒部を通して前記掘削刃に冷却水を供給した状態、或いは、前記接続筒部を通して前記円筒掘削部内の粉塵を吸引可能な状態で回転駆動され、前記路面に環状溝を掘削可能な回転掘削工具において、
前記接続筒部の下端部を前記円筒掘削部の上端部から上方にオフセットした位置に配置し、前記接続筒部と前記円筒掘削部との間を、前記接続筒部から下方に向かって拡径した中継筒部にて接続したことを特徴とする回転掘削工具。
【請求項2】
前記円筒掘削部の外側に一体に設けられた環状体の下面に複数の掘削刃を有してなり、前記円筒掘削部によって掘削される前記環状溝の外側を掘削するためのアウター掘削部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の回転掘削工具。
【請求項3】
前記アウター掘削部の前記掘削刃を、前記円筒掘削部の前記掘削刃より上方に配置したことを特徴とする請求項2に記載の回転掘削工具。
【請求項4】
前記回転掘削工具によって掘削される前記環状溝の上端部が、段付き状に外側に幅広となるように、前記円筒掘削部の前記掘削刃と前記アウター掘削部の前記掘削刃とを前記円筒掘削部の径方向で隣接配置したことを特徴とする請求項3に記載の回転掘削工具。
【請求項5】
前記円筒掘削部よって掘削される前記環状溝と、前記アウター掘削部によって掘削される前記環状溝とが同心円となるように、前記円筒掘削部の前記掘削刃と前記アウター掘削部の前記掘削刃とを前記円筒掘削部の径方向で離して配置したことを特徴とする請求項2又は3に記載の回転掘削工具。
【請求項6】
前記アウター掘削部は、前記円筒掘削部の外側同心円上に配置されたアウター円筒壁の下端部に前記掘削刃を備えてなり、
前記円筒掘削部のうち前記アウター円筒壁によって外側を覆われた部分には、前記円筒掘削部を内外に貫通した側部開口が形成されたことを特徴とする請求項5に記載の回転掘削工具。
【請求項7】
前記円筒掘削部と前記中継筒部とは、螺合機構にて着脱可能に連結され、
前記螺合機構は、前記中継筒部の下端部に一体に設けた円筒体の内面に雌螺子を形成してなる雌螺子筒部と、前記円筒掘削部の上端部の外径を、段付き状に小径にして、その小径部分に雄螺子を形成してなる雄螺子筒部とから構成され、
前記アウター掘削部に、円環板状の鍔壁を設け、
前記雌螺子筒部と前記雄螺子筒部とを螺合し、前記雌螺子筒部の下端部と、前記円筒掘削部における前記雄螺子筒部の下端側の段差部との間に前記鍔壁を挟んで固定したことを特徴とする請求項2乃至6の何れかに記載の回転掘削工具。
【請求項8】
前記中継筒部は、円錐形であることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の回転掘削工具。
【請求項9】
前記円筒掘削部の下端部のうち、周方向で隣り合った前記掘削刃同士の間には、下方に開放した切り欠き部が形成されたことを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の回転掘削工具。
【請求項10】
前記円筒掘削部の外周面に着脱可能に固定されて前記掘削刃より外側に張り出した過掘防止リングを備えたことを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の回転掘削工具。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載の回転掘削工具を備えたことを特徴とする路面掘削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−183748(P2008−183748A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17301(P2007−17301)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【特許番号】特許第4014218号(P4014218)
【特許公報発行日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(306036222)有限会社キットカッター (2)
【Fターム(参考)】