説明

回転機の電機子コイル

【課題】銅損および渦電流損、循環電流損をより一層低減し得ると共に、冷却効率を高めることが可能なように改良された回転機の電機子コイルを提供する。
【解決手段】回転機の電機子コイルを、矩形断面に形成した撚り線の束により、前側周方向部分、軸方向部分、及び後側周方向部分とからなる複数のコイル片を渡り部で相互に連結した形に形成し、これらを渡り部にて順次折り返して内層側に位置するものと外層側に位置するものとに分けた上で中心軸を挟んで互いに対向配置させたコイルブロックを複数個形成し、これらを円周方向に互いにずらしつつ組み合わせて全体として1つの円筒体をなすように集合させると共に、軸方向部分の周囲の少なくとも一部に前後に連通する空隙を開けたものとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電機子コイルに関し、特に高回転型の発電機あるいは電動機などの回転機に好適に用いることのできる電機子コイルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
発電機や電動機などの回転機における回転磁界を形成するための電機子として、全体が円筒形をなすように内外二層に巻かれた導体の撚り線をレジン等で成型固化したU、V、W各相のコイルを、単純な円環状をなすスロットレスの固定子鉄心の内周側に絶縁層を介して装着したものが知られている(特開平1−252134号公報参照)。
【0003】
一方、本発明と同一出願人は、上記のような電機子として、直径0.5mm以下の素線を束ねた撚り線をある程度の厚みをもった菱形の断面形状をなす板状にプレス成型してなるコイル束を1つのブロックとし、このブロックを複数個組み合わせて形成した円筒体を固定子鉄心の内周面に保持させるようにしたものを提案した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、この先行技術によると、断面が菱形の板状にプレス成型した複数のコイルブロックを組み合わせて円筒状の電機子コイルを形成する加工が比較的困難である上、内層側のコイル束が密に、外層側のコイル束が粗になり、コイルエリアに入れられる導体の量、つまり占積率が内層側で規制されてしまうために銅損が増大しがちであり、しかも外層側のコイル束が粗になるために素線間に隙間ができて銅損による発熱を逃がし難いといった欠点がある。また、特に高回転型の発電機や電動機では、銅損以外にも渦電流損や循環電流損の影響も大きく、これらの損失を低く抑えることが望まれている。
【0005】
本発明は、このような先行技術の問題点を解消すべく案出されたものであり、その主な目的は、損失をより一層低減し得ると共に、冷却効率を高めることが可能なように改良された回転機の電機子コイルを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的を果たすために、本発明の請求項1においては、各相に分割した複数のコイルブロックで構成してなる発電機あるいは電動機などの回転機の電機子コイル(AC)を、断面形状が概ね矩形をなすように形成した撚り線の束により、所定角度の前側周方向部分(1・7)と、該前側周方向部分の終端で折曲した軸方向部分(2・6)と、該軸方向部分の終端で折曲した所定角度の後側周方向部分(3・5)とからなる複数のコイル片(4・8)を渡り部(9)で相互に連結した形に形成し、前記複数のコイル片を、前記渡り部にて内側から外側へ、あるいは外側から内側へと順次折り返して内層側に位置するものと外層側に位置するものとに分けると共に、これらを中心軸を挟んで互いに対向配置させたコイルブロック(11)を複数個形成し、前記複数個のコイルブロックを円周方向に互いにずらしつつ組み合わせて全体として1つの円筒体をなすように集合させると共に、前記軸方向部分の周囲の少なくとも一部に前後に連通する空隙(28・29)を開けたことを特徴とするものとした。
【0007】
このようにすれば、占積率を高められるので、銅損を低下し得る。また、外部から導入した冷却気や冷却液などの冷却媒体を空隙に流すことができるので、冷却性を向上し得る。
【0008】
特に、自己融着性を有する絶縁皮膜で被覆した素線からなるリッツ線で前記コイルブロックを形成するもの(請求項2)とすれば、撚り線を自己融着させることによってコイルとして整形する際の撚り線のばらけが防止されて型抜き後の形状保持力を高めることができると共に、渦電流損を低減し得る。これに加えて、コイルブロックをプレス成型によって形成したり、一連の撚り線の束によって1相分を連続的に形成したりすれば、製造効率がより一層向上するので、低コスト化を企図することができる。
【0009】
また前記軸方向部分を、合成樹脂材で形成したインシュレータ(21・22・23)で保持するもの(請求項5)とすれば、軸方向部分の周囲に冷却媒体(空気、液体)が流れる空隙を簡単に形成することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明による電機子コイルを形成するための導線は、自己融着性を有する絶縁被覆を施した所定本数の素線を撚ったものを、複数本束ねて再び撚ることによって所要の断面積の複合撚り構造とされた所謂リッツ線からなっている。このリッツ線を、断面形状が概ね矩形をなすように予めプレス成型し、且つ要所を加熱して撚り線を自己融着させることにより、コイルとして整形する際の撚り線のばらけが防止されて型抜き後の形状保持力が高められる。またリッツ線を用いれば、素線を細くすることができるので渦電流損をより一層低減することができる上、スロットレスの場合のコイルの内外周差と位相差に起因して電流が流れて生ずる損失を、界磁極長さに比例した適宜な捩りを撚り線の束に加えることで低減することができる。
【0012】
この矩形断面のリッツ線を用い、図1に示したように、比較的短い前側湾曲部1a〜1d、比較的短い外層軸線部2a〜2d、そして比較的長い後側湾曲部3a〜3dからなる4つの外層コイル片4a〜4dと、比較的長い後側湾曲部5a〜5c、比較的長い内層軸線部6a〜6c、そして比較的長い前側湾曲部7a〜7cからなる3つの内層コイル片8a〜8cとを、前後方向について同方向の湾曲部同士の間を適宜な長さの渡り部9a〜9fで連結しながら、各外層コイル片4a〜4dと各内層コイル片8a〜8cとを単体で交互にプレス成型することにより、4つの外層コイル片4a〜4dと3つの内層コイル片8a〜8cとが渡り部9a〜9fを介して連続的に繋がれたコイルブロックの一次成型物10が得られる。
【0013】
この際、各外層コイル片4a〜4dと各内層コイル片8a〜8cとは、図示されていない金型の天地を互いに逆にして成型することにより、図1に示す形態、つまり外層、内層両コイル片が直列した形態に形成することができる。また、外層コイル片と内層コイル片とを成型する金型の天地を同一にし、且つ軸線方向の中心位置を揃えて向かい合わせに配置して成型することもでき、このようにして形成した場合の一次成型物10の形態は、図2に示したものとなる。
【0014】
ここで用いるプレス金型は、コイル片が内外2層となるように、また各相の断面積が略同一となるように、その形状を設定すると共に、外層コイル片の数を1ブロック当たり内層コイル片よりも1つ多くすることにより、最終的に円筒状に形成した際の内層部分と外層部分との形状差が過大にならないようにしている。このような構成を採ることにより、内・外各層のコイル片を形成するためのプレス金型の形状差も少なくなるので、予備金型を共用することができる。
【0015】
上述のようにして形成されたコイルブロックの一次成型物10から、外層側円筒面と内層側円筒面とを備えた適宜な治具(図示せず)を用い、以下の手順に従ってコイルブロックを整形する。
【0016】
先ず、一方の電極接続端に連なる前側湾曲部1aの終端を直角に且つ径方向内向きに折り曲げて外層軸線部2aに繋げ、外層軸線部2aの後端を直角に且つ径方向外向きに折り曲げて後側湾曲部3aに繋げる。これで第1外層コイル片4aが形成される。次いで第1外層コイル片4aの後側湾曲部3aの終端に連らなる渡り部9aを軸線方向の外側へ折り返すことにより、これに連なる次の後側湾曲部5aに繋げる。そしてこの後側湾曲部5aの終端を直角に折り曲げ且つ径方向内向きに折り曲げて内層軸線部6aに繋げ、内層軸線部6aの後端を直角に且つ径方向外向きに折り曲げて前側湾曲部7aに繋げる。これで第1内層コイル片8aが形成される。
【0017】
そして第1内層コイル片8aの前側湾曲部7aの終端に連らなる渡り部9bを軸線方向の内側へ折り返すことにより、第1外層コイル片4aの前側湾曲部1aの内周面に重なる第2外層コイル片4bの前側湾曲部1bに繋げる。
【0018】
以下同様にして、軸線部2・6の幅分だけ徐々に位相をずらしつつ、また前側湾曲部1・7並びに後側湾曲部3・5を次々に重ね合わせることにより、図3及び図4に示すように、4つの外層軸線部2a〜2dと3つの内層軸線部6a〜6cとがステータの中心軸を挟んで対向した一つの相の半分を構成するコイルブロック11が形成される。
【0019】
上記のように、4つの湾曲部1・3・5・7のうちの1つだけ(1)を短くすることにより、渡り部9の位置を前後で揃えた上で対向するコイルの位相を等ピッチでずらすことができる。また、渡り部9をプレス成型することにより、径方向への張り出し量を低減することができる。
【0020】
このようにして形成された6つのコイルブロック11を同軸的に互いに組み合わせて集合させることにより、図5に示すように、60度の範囲に渡って外・内2層構造をなし、且つ向かい合わせに対向配置された2つのコイルブロック11で1つの相をなすU、V、W各相のコイルu、u´、v、v´、w、w´が形成され、最終的に全体として内外二層で略円筒形をなす3相コイルACが構成される。各コイルブロック11の半分は電気角が60度の円周方向幅を持ち、2つのコイルブロック11で1つの相をなすので、1相当たり120度を占有し、従って3相で360度となる。
【0021】
例えばuブロックとu´ブロックとは、内層コイル片8の軸線部6と外層コイル片4の軸線部2とが互いに約180度対向する。これにより、u+端子とu´+端子、u−端子とu´−端子とにはそれぞれ逆位相が現れる。このため、図6に示すように、u−端子とu´−端子とを直列接続することでU相をなす。この他の相も同様に接続し、u´+、v´+、w´+が互いに1点で接続されて中性点(N)となる。なお、各コイルブロックの導線の端末同士は、バスバーを介して互いに接続するか、熱かしめで端子を固着して互いに接続すれば良い。あるいは、一相ごとに一連の素線束で連続巻きに構成しても良い。
【0022】
ここで、各コイルブロック11における軸線部2・6の束同士の周方向中心線は、図4に示した角度(短節角)Aを持つ短節巻となる。この短節角Aは、湾曲部1・3・5・7の長さ或いは渡り部9の形状によって任意に決定される。また、軸線部2・6の1束の幅は、外・内各層が互いに独立しているため、短節角の変更の際に拘束されない。
【0023】
各コイルブロック11は、図7に示すように、外層インシュレータ21、内層インシュレータ22、及び内周チューブ23の3つの部分からなるインシュレータを介してその軸線部2・6をもって相互に保持される。
【0024】
外層インシュレータ21と内層インシュレータ22とは、基本的に円筒を60度単位で分割した円弧面を有しており、外層インシュレータ21の内周面には、各コイルブロック11の外層軸線部2を個々に保持するための軸線方向に沿う隔壁24が形成されている(図8R>8参照)。そして内層インシュレータ22には、軸線方向に沿う突条25が、その外周面における外層インシュレータ21の隔壁24の遊端に対応する位置に形成されている。また内層インシュレータ22の内周面には、各コイルブロック11の内層軸線部6を個々に保持するための軸線方向に沿う隔壁26が形成されている。これら外層インシュレータ21の隔壁24によって外層軸線部2が、内層インシュレータ22の隔壁26によって内層軸線部6が、それぞれ電気的に絶縁される。
【0025】
内層、外層両インシュレータ21・22の相対位相は、外層インシュレータ21の隔壁24の遊端が内層インシュレータ22の外周に設けられた突条25に係合して拘束される。
【0026】
他方、内周チューブ23は基本的に円筒形をなし、その外周面には、内層インシュレータ22の隔壁26の遊端と係合する突条27が設けられており、この突条27に内層インシュレータ22の隔壁26の遊端が係合して内層インシュレータ22と内周チューブ23との相対位相が拘束される。
【0027】
各外層コイル片4の外層軸線部2は、外層インシュレータ21の内周面および互いに隣り合う隔壁24の3面と内層インシュレータ22の突条25の端縁とによって拘束され、外層軸線部2と内層インシュレータ22のとの対向面同士間には、突条25の高さで規定された隙間28が開いている。また、各内層コイル片8の内層軸線部6は、内層インシュレータ22の内周面および互いに隣り合う隔壁26の3面と内周チューブ23の突条27の端縁とによって拘束され、内層軸線部6と内周チューブ23との対向面同士間には、突条27の高さで規定された隙間29が開いている。これらの隙間28・29は、回転機の運転時に冷却媒体が流れる通路として機能する。なお、内周チューブ23を熱伝導性の高い材料で構成すれば、内側の空隙29は省略し得る。
【0028】
外層インシュレータ21の外周壁は、一部抜き窓30になっている。この抜き窓30は、耐熱性、耐切り裂き性、および耐潰れ性に優れたフッ素系合成樹脂材等のメッシュと、このメッシュを熱伝導性および絶縁性に優れたシリコン系樹脂で含浸したシート材で塞がれる。これにより、電機子コアを形成する積層鋼板にバリがあった場合にも、導線の絶縁被覆が破壊され難くなる。
【0029】
インシュレータの断面形状は、上記に限定されず、種々の変形態様が可能である。図9に示すものはその一例であり、各コイル片の軸線部2・6は、それぞれの内外周2面と、径方向1面との合計3つの面を内・外各インシュレータ21・22に接して電気的に絶縁されている。そして残りの径方向1面は、内外各インシュレータ21・22の隔壁24・26の基端に設けられた突起31・32と内層インシュレータ22並びに内周チューブ23に設けられた突条27とで適度な隙間33・34を開けて拘束されている。これにより、できた隙間33・34が冷却媒体の通路となる。
【0030】
図10は別の変形例であり、基本的には上記の形態と同様であるが、各軸線部2・6の断面形状は径方向に沿う2面が実質的に平行となっている(実際にはプレス抜き勾配がある)。これにより、互いに隣り合う軸線部同士間の周方向隙間が大きくなり、この扇状の隙間35・36が冷却媒体の通路となる。
【0031】
【発明の効果】
以上詳述した通り本発明によれば、各コイルブロックを組み合わて集合させるだけで略完全な円筒形状にすることができるので、占積率を大幅に高めること(約80%)が可能となり、銅損を大幅に減少させる(約30%)ことができる。しかも冷却媒体がインシュレータの隙間を流れると共に、径方向外向きに張り出した湾曲部が冷却フィンの役割を果たすので、電機子の冷却効率を高めることができる。従って本発明により、銅損及び渦電流損、循環電流損が少なく、冷却性に優れると共に、成型性に優れた電機子コイルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コイルブロックの一次成型物の一例を示す概略構成図
【図2】コイルブロックの一次成型物の別例を示す部分的な外観図
【図3】コイルブロックの外観斜視図
【図4】軸線方向中間部で切断したコイルブロックの側面図
【図5】コイルブロックの配置図
【図6】3相コイルの結線図
【図7】コイルがインシュレータに保持された状態を示す断面図
【図8】外層インシュレータの外観斜視図
【図9】別例によるコイルがインシュレータに保持された状態を示す断面図
【図10】さらに別例によるコイルがインシュレータに保持された状態を示す断面図
【符号の説明】
AC 電機子コイル
1、7 前側周方向部分
2、6 軸方向部分
3、5 後側周方向部分
4 コイル片
9 渡り部
11 コイルブロック
21、22、23 インシュレータ
28、29、33、34、35、36 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相に分割した複数のコイルブロックで構成してなる発電機あるいは電動機などの回転機の電機子コイルであって、
断面形状が概ね矩形をなすように形成した撚り線の束により、所定角度の前側周方向部分と、該前側周方向部分の終端で折曲した軸方向部分と、該軸方向部分の終端で折曲した所定角度の後側周方向部分とからなる複数のコイル片を渡り部で相互に連結した形に形成し、
前記複数のコイル片を、前記渡り部にて内側から外側へ、あるいは外側から内側へと順次折り返して内層側に位置するものと外層側に位置するものとに分けると共に、これらを中心軸を挟んで互いに対向配置させたコイルブロックを複数個形成し、
前記複数個のコイルブロックを円周方向に互いにずらしつつ組み合わせて全体として1つの円筒体をなすように集合させると共に、前記軸方向部分の周囲の少なくとも一部に前後に連通する空隙を開けたことを特徴とする回転機の電機子コイル。
【請求項2】
自己融着性を有する絶縁皮膜で被覆した素線からなるリッツ線で前記コイルブロックを形成したことを特徴とする請求項1に記載の回転機の電機子コイル。
【請求項3】
前記コイルブロックをプレス成型によって形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の回転機の電機子コイル。
【請求項4】
一連の撚り線の束によって1相分を連続的に形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の回転機の電機子コイル。
【請求項5】
前記軸方向部分を、合成樹脂材で形成したインシュレータで保持したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の回転機の電機子コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2004−64825(P2004−64825A)
【公開日】平成16年2月26日(2004.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−216508(P2002−216508)
【出願日】平成14年7月25日(2002.7.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】