説明

回転角度検出装置および回転角度検出装置付き軸受

【課題】 高速かつ高精度の回転角度検出装置、およびその回転角度検出装置を備えた軸受を提供する。
【解決手段】 磁気発生手段に回転中心の軸方向に配置された複数のライン状の磁気センサアレイと、その出力をデジタル信号に変換するAD変換回路と、出力から磁界分布のゼロクロス位置を検出するゼロクロス位置検出手段と、ゼロクロス位置から磁気発生手段の回転角度を検出する角度計算手段とを備える。検出されたゼロクロス位置を記憶する検出位置記憶手段と、記憶されたゼロクロス位置を元に所定の基準で磁気センサアレイの次回のスキャン範囲を設定するスキャン範囲設定手段と、スキャン範囲設定手段で設定したスキャン範囲で磁気センサアレイ検出信号を読み出すスキャン回路とを設ける。スキャン範囲として限定された部分的な検出信号を用いてゼロクロス位置を検出し、この部分的な検出信号から検出されたゼロクロス位置から回転角度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種の機器における回転検出、例えば小型モータの回転制御のための回転検出や、事務機器の位置検出のための回転検出に用いられる回転角度検出装置、およびその回転角度検出装置を備えた軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の機器に組み込み可能で、かつ高精度の回転角度検出が可能な回転角度検出装置として、磁気センサアレイを用いるものが提案されている(例えば特許文献1)。これは、磁気センサ素子(MAGFET)を多数並べた磁気センサアレイを、信号増幅回路、AD変換回路、およびデジタル信号処理回路とともにセンサチップに集積し、このセンサチップを、回転側部材に配置される磁石に対向配置したものである。この場合、磁石は回転中心回りの円周方向異方性を有するものとされ、前記センサチップ上では、仮想の矩形の4辺における各辺に沿ってライン状の4個の磁気センサアレイが配置される。
このように構成された回転角度検出装置では、各磁気センサアレイでセンサチップに垂直な磁界分布を検出し、これら磁気センサアレイの出力を信号増幅回路およびAD変換回路を経てデジタル信号処理回路に読み出し、デジタル信号処理回路により、各磁気センサアレイ上での前記磁界分布のNS境界線に相当するゼロクロス位置を検出して磁石の回転角度を算出する。
【特許文献1】特開2003−37133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記構成の回転角度検出装置の場合、磁気センサアレイのセンサ信号をスキャンして読み出し、デジタル信号処理回路により角度計算結果を出力するまでの時間が短いほど、高速に角度検出を行うことができ、出力遅延時間を短くすることができる。出力遅延時間の短縮は、高速回転する物体の回転角度の検出や、高速応答が求められる制御システムでの回転角度検出等で特に求められている。
しかし、この出力時間の短縮は、センサ信号の読み出し時間と、その後のデジタル信号処理回路による角度算出の演算処理時間とで制限される。特に、センサ信号の読み出し時間は、磁気センサアレイを構成する磁気センサ素子の並び個数が多いほど長くなる。また、磁気センサ素子の個数が多いと、デジタル信号処理回路で上記ゼロクロス位置を求めるために抽出されるデータ個数も増えるので、角度算出の演算処理時間も長くなってしまう。すなわち、磁気センサアレイを構成する磁気センサ素子数が多くなると、センサ信号の読み出し開始から、角度検出結果が出力されるまでの時間遅れが大きくなる。磁気センサ素子の個数が少ないと上記時間遅れは小さくなるが、角度検出精度は低下する。
【0004】
この発明の目的は、角度検出精度を落とすことなくセンサ信号の読み出し時間を短縮できて、高速かつ高精度の回転角度検出が可能な回転角度検出装置、およびその回転角度検出装置を備えた軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の回転角度検出装置は、回転側部材に配置され、回転中心(O)回りの円周方向異方性を有する磁気発生手段(4)と、この磁気発生手段(4)の回転中心(O)の軸方向に対向して非回転側部材に配置された複数のライン状の磁気センサアレイ(5A〜5D)と、これら複数の磁気センサアレイ(5A〜5D)の出力をデジタル信号に変換するAD変換回路(12)と、このAD変換回路(12)の出力から磁界分布のゼロクロス位置を検出するゼロクロス位置検出手段(15)と、この検出されたゼロクロス位置から磁気発生手段(4)の回転角度を算出する角度計算手段(16)とを備えた回転角度検出装置において、前記ゼロクロス位置検出手段(15)で検出した毎回の処理結果であるゼロクロス位置を記憶する検出位置記憶手段(17)と、その記憶されたゼロクロス位置を元に所定の基準で磁気センサアレイ(5A〜5D)の次回のスキャン範囲を設定するスキャン範囲設定手段(18)と、このスキャン範囲設定手段(18)で設定したスキャン範囲で磁気センサアレイ(5A〜5D)の検出信号を読み出すスキャン回路(13)とを有し、前記ゼロクロス位置検出手段(15)は、前記スキャン範囲として限定された磁気センサアレイ(5A〜5D)の部分的な検出信号を用いてゼロクロス位置を検出し、前記角度計算手段(16)は、この部分的な検出信号から検出されたゼロクロス位置から回転角度を検出するものとしたことを特徴とする。
【0006】
この構成によると、毎回のゼロクロス位置の検出結果を検出位置記憶手段(17)で記憶し、その記憶されたゼロクロス位置を元に次回のスキャン範囲をスキャン範囲設定手段(18)により設定し、ゼロクロス位置検出手段(5)は、その設定されたスキャン範囲をスキャンして次のゼロクロス位置を求める。センサ信号の読み出しは連続して行われるため、次のスキャンで検出されるゼロクロス位置は、よほどの高速でない限り、前回の検出位置から前後のある範囲に存在している。そのため、前回のゼロクロス位置を元に次回のスキャン範囲を適宜設定すれば、上記のようにスキャン範囲を部分的に限られたものとしても、ゼロクロス位置の検出が可能である。このように限定されたスキャン範囲だけを読み出すため、読み出し時間が短縮できる。スキャン範囲は限定するが、磁気センサ素子(5a)の個数は削減しないため、読み出し時間を短縮しながら、検出精度の低下がない。また、読み出される信号量が少なくなるので、ゼロクロス位置検出手段(15)で扱うデータも少なくなり演算処理時間も短縮できる。その結果、磁気センサアレイ(5A〜5D)を構成する磁気センサ素子(5a)の数が多い場合でも、磁気センサアレイ(5A〜5D)からの出力の読み出し開始から、角度検出結果が出力されるまでの時間遅れを短縮でき、高速かつ高精度の回転角度検出が可能となる。
【0007】
この発明において、前記磁気センサアレイ(5A〜5D)は、上記回転中心(O)に垂直な平面内で仮想の矩形の4辺における各辺に配置して4個設けても良い。この構成の場合、矩形に配置された磁気センサアレイ(5A〜5D)で囲まれた内部に、磁気センサアレイ(5A〜5D)の出力を処理して回転角度を算出する信号処理回路(10)を配置できるので、センサチップ上に磁気センサアレイ(5A〜5D)と信号処理回路(10)を共に集積する場合にコンパクトに構成でき、センサチップの回路面積を小さくできる。
【0008】
この発明において、前記角度計算手段(16)の毎回の角度検出結果から磁気発生手段(4)の回転速度と方向を検出する速度・方向検出手段(19)を設け、前記スキャン範囲設定手段(18)は、前記速度・方向検出手段(19)で検出した回転速度と方向の記録に基づき、ゼロクロス計算に用いるデータ個数と、磁気発生手段(4)の回転移動に伴うゼロクロス位置の移動分とを用いて所定の基準でスキャン範囲を設定するものとしても良い。この構成の場合、回転速度および方向の記録から、次回の出力読み出し時にゼロクロス位置がどこに存在するかを、正確に予測でき、予測されるゼロクロス位置の前後にスキャン範囲の始点と終点を設定することで、次回のスキャン範囲を設定できる。これにより、磁気センサアレイ(5A〜5D)から出力を読み出す磁気センサ素子(5a)の数をさらに少なくでき、読み出し時間およびゼロクロス位置検出のための演算処理時間をさらに短縮できる。
【0009】
この発明において、前記速度・方向検出手段(9)で検出した回転方向と速度の検出結果を外部に出力する手段(20)を設けても良い。この構成の場合、磁気発生手段(4)の回転速度と方向をリアルタイムで外部に知らせることができる。
【0010】
この発明の回転角度検出装置付き軸受は、この発明における上記いずれかの構成の回転角度検出装置を軸受に取付けたものである。その場合に、磁気発生手段は、回転側部材である回転側軌道輪に配置する、磁気センサアレイは、非回転側部材である静止側軌道輪に配置する。
このように、軸受に回転角度検出装置を一体化することで、軸受使用機器の部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化が図れる。その場合に、回転角度検出装置は、高速かつ高精度の回転角度検出が可能であるため、高速回転する機器の軸受や、高速応答が求められる制御システム等での軸受に用いても、高精度の回転角度検出が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の回転角度検出装置は、磁気発生手段に回転中心の軸方向に対向して非回転側部材に配置された複数のライン状の磁気センサアレイと、これら複数の磁気センサアレイの出力を処理するAD変換回路、ゼロクロス位置検出手段、および角度計算手段とを備えた回転角度検出装置において、毎回のゼロクロス位置の検出結果を記憶する手段を設けたため、前回のゼロクロス検出位置を基にして、次回のゼロクロス位置の存在する範囲を推定し、スキャン範囲を設定することができる。この設定した範囲だけをスキャンして信号を読み出すため、読み出し時間が短縮され、処理するデータ数も少ないために、ゼロクロス計算のためのデータ抽出時間も削減でき、角度検出を高速に実行することができる。したがって、角度検出精度を落とすことなくセンサ信号の読み出し時間を短縮できて、高速かつ高精度の回転角度検出が可能となる。
設定するスキャン範囲については、毎回の角度検出結果から回転速度を推定し、その推定値を元にして算出することもでき、最適な範囲に調整する機能を備えることもでき、これにより、できる限り高速に角度と検出結果を出力することが可能となる。
【0012】
この発明の回転角度検出装置付き軸受は、上記発明の回転角度検出装置を軸受に取付けたため、軸受使用機器の部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化が図れ、高速回転する機器の軸受や、高速応答が求められる制御システム等での軸受に用いても、高精度の回転角度検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。図1は、この実施形態の回転角度検出装置の原理構成を示す。回転側部材1および非回転側部材2は、相対的に回転する回転側および非回転側の部材のことである。この回転角度検出装置3は、回転側部材1に配置された磁気発生手段4と、非回転側部材2に配置された4個のライン状の磁気センサアレイ5A〜5Dと、その出力を処理して回転角度を算出する信号処理回路10とを備える。
【0014】
磁気発生手段4は、発生する磁気が回転側部材1の回転中心O回りの円周方向異方性を有するものであり、永久磁石の単体、あるいは永久磁石と磁性材の複合体からなる。ここでは、磁気発生手段4は、1つの永久磁石6を2つの磁性体ヨーク7,7で挟んで一体化して概形が二叉のフォーク状とされ、一方の磁性体ヨーク7の一端がN磁極、他方の磁性体ヨーク7の一端がS磁極となる。磁気発生手段4をこのような構造とすることにより、シンプルでかつ堅牢に構成できる。この磁気発生手段4は、回転側部材1の回転中心Oが磁気発生手段4の中心と一致するように回転側部材1に取付けられ、回転側部材1の回転によって上記回転中心Oの回りをN磁極およびS磁極が旋回移動する。
【0015】
磁気センサアレイ5A〜5Dは磁気発生手段4の磁気を検出するセンサであって、回転側部材1の回転中心Oの軸方向に向けて磁気発生手段4と対向するように、非回転側部材2に配置される。図3に示すように、各磁気センサアレイ5A〜5Dは、それぞれ複数の磁気センサ素子5aをライン状に並べて構成され、上記回転中心Oに垂直な平面内で仮想の矩形の4辺における各辺に沿って配置される。この場合、前記矩形の中心は、回転側部材1の回転中心Oに一致する。このように構成される各磁気センサアレイ5A〜5Dは、非回転側部材2に取付けられる一つの半導体チップ8の前記磁気発生手段4と対向する面上に形成される。半導体チップ8は、例えばシリコンチップである。
【0016】
図2には、磁気センサアレイ5A〜5Dと、その出力を処理して回転角度を算出する信号処理回路10の概略構成をブロック図で示す。信号処理回路10は、磁気センサアレイ5A〜5Dと共に、前記半導体チップ8の上に集積される。この場合、図3のように、矩形に配置された磁気センサアレイ5A〜5Dで囲まれた内部に信号処理回路10が配置される。これにより、半導体チップ8の上に、磁気センサアレイ5A〜5Dと信号処理回路10をコンパクトに配置でき、半導体チップ8の回路面積を小さくできる。
図2において、信号増幅回路11、AD変換回路12、スキャン制御回路13および座標カウンタ14は、各磁気センサアレイ5A〜5Dに対して個別に設けられる。信号増幅回路11は磁気センサアレイ5A〜5Dの出力を増幅するものであり、AD変換回路12は信号増幅回路11で増幅された信号をデジタル信号に変換するものである。スキャン制御回路13は、磁気センサアレイ5A〜5Dの出力をスキャンして読み出す制御を行うものである。
【0017】
例えば、磁気センサアレイ5Aの出力は、対応するスキャン制御回路13の制御でスキャンして順次読み出され、さらに対応する信号増幅回路11で増幅され、その増幅信号が対応するAD変換回路12でデジタル信号に変換されてゼロクロス位置検出手段15に入力される。また、スキャン制御回路13は磁気センサアレイ5Aのスキャン制御において、選択した磁気センサ素子5aの配列位置情報を座標カウンタ14に送信し、これに応答して座標カウンタ14から選択された磁気センサ素子5aの座標情報が前記ゼロクロス位置検出手段15に入力される。これにより、ゼロクロス位置検出手段15では、AD変換回路12からデジタル信号として順次入力されてくる各磁気センサ素子5aのセンサ信号と、座標カウンタ14から入力されてくる座標情報とが関連づけられる。ゼロクロス位置検出手段15は各磁気センサアレイ5A〜5Dに対して共通のものであり、他の磁気センサアレイ5B〜5Dの出力も同様にゼロクロス位置検出手段15に入力されて座標情報と関連づけられる。ゼロクロス位置検出手段15は、前記各磁気センサアレイ5A〜5Dの出力から前記磁気発生手段4による磁界分布のゼロクロス位置を検出するものである。図3には、任意の1回分の信号読み出しによりゼロクロス位置検出手段15で検出されるゼロクロス位置を、符号An ,Bn で例示している。図2における角度計算手段16は、ゼロクロス位置検出手段15で検出されたゼロクロス位置に基づき、磁気発生手段4の回転角度を算出するものである。
【0018】
前記信号処理回路10は、このほか検出位置記憶手段17およびスキャン範囲設定回路18を有する。検出位置記憶手段17は、磁気センサアレイ5A〜5Dの出力を読み出してゼロクロス位置検出手段15で検出した毎回の処理結果であるゼロクロス位置を記憶する回路である。スキャン範囲設定手段18は、検出位置記憶手段17に記憶された前回のゼロクロス位置を元に所定の基準で磁気センサアレイ5A〜5Dの次回のスキャン範囲を設定する回路である。
【0019】
次に、図2の信号処理回路10において、破線で囲まれた検出位置記憶手段17、およびスキャン範囲設定回路18を含む回路部分9の動作を説明する。上記スキャン制御回路13によるセンサ信号の読み出しは特定の周期で連続して実行されるため、磁気発生手段4の回転が例えば時計回りで、その回転速度がよほど高速なものでない限り、図3に符号An ,Bn で示したゼロクロス位置が検出された前回の信号読み出し・検出処理に続く次回の信号読み出し・検出処理では、例えば図3に符号An+1 ,Bn+1 で示すように、符号An ,Bn で示した前回のゼロクロス位置から磁気センサアレイ5D,5B上を所定量だけ移動した位置にゼロクロス位置が検出されることが推定される。そこで、前記スキャン範囲設定手段18では、検出位置記憶手段17に記憶された前回のゼロクロス位置An ,Bn を元に、次回の信号読み出しのスキャン範囲を例えば次のように設定する。すなわち矩形に配置される磁気センサアレイ5A〜5Dの配置領域において、図4に示すように、前回の1つのゼロクロス位置Bn の前後所定領域S1〜E1と、前回の他の1つのゼロクロス位置An の前後所定領域S2〜E2とがスキャン範囲として設定される。具体的には、前回のゼロクロス位置Bn を元にしたスキャン範囲S1〜E1については、その始点S1と終点E1が、所定の固定値Δを用いて、
S1=Bn −Δ
E1=Bn +Δ
のように設定される。また、前回のゼロクロス位置An を元にしたスキャン範囲S2〜E2については、その始点S2と終点E2が、前記固定値Δを用いて、
S2=An −Δ
E2=An +Δ
のように設定される。このように次回のスキャン範囲を設定することにより、次回に検出されると推定されるゼロクロス位置An+1 ,Bn+1 が、次回のスキャン範囲に確実に含まれるようにできる。
【0020】
次回の磁気センサアレイ5A〜5Dの出力の読み出しにおけるスキャン制御回路13によるスキャン制御は、上記したように設定されたスキャン範囲S1〜E1,S2〜E2に限定して行われるので、読み出し時間を短縮することができる。また、読み出される信号量が少なくなるので、ゼロクロス位置検出手段15で扱うデータも少なくなり演算処理時間も短縮できる。
【0021】
図5は、前記信号処理回路10の他の構成例を示す。この構成例では、図2に示す構成例において、前記角度計算手段16の毎回の角度検出結果から磁気発生手段4の回転速度と方向を検出する速度・方向検出手段19と、検出した回転速度および方向のデータを記憶するメモリ20とを追加したものである。また、この構成例の場合、スキャン範囲設定手段18では、前記速度・方向検出手段19で検出した回転速度と方向の記録に基づき、ゼロクロス位置の演算に用いるデータ個数と、磁気発生手段4の回転移動に伴うゼロクロス位置の移動分とを用いて所定の基準でスキャン範囲を設定するようにしている。
【0022】
図6には、信号処理回路10を図5の構成例とした場合の次回のスキャン範囲S1〜E1,S2〜E2の設定例を示している。この場合も、磁気発生手段4が時計回りに回転している場合を示す。この場合には、回転速度および方向の記録から、次回の出力読み出し時にゼロクロス位置(対応する磁気分布のNS境界線を同図に破線で示す)がどこに存在するかを、かなり正確に予測できることから、予測されるゼロクロス位置の前後にスキャン領域の始点と終点を設定することで、次回のスキャン領域S1〜E1,S2〜E2を設定している。
これにより、磁気センサアレイ5A〜5Dから出力を読み出す磁気センサ素子5aの数をさらに少なくでき、読み出し時間およびゼロクロス位置検出のための演算処理時間をさらに短縮できる。
なお、図5の回路構成の場合に、前記速度・方向検出手段19で検出した回転速度および方向の検出結果を外部に出力する手段を設けても良い。この場合には、磁気発生手段4の回転速度と方向をリアルタイムで外部に知らせることができる。
【0023】
図7および図8は、角度計算手段16による角度算出処理の説明図である。図7(A)〜(D)は、回転側部材1が回転している時の磁気センサアレイ5A〜5Dの出力波形図を示し、それらの横軸は各磁気センサアレイ5A〜5Dにおける磁気センサ素子5aの並び位置を、縦軸は検出磁界の強度をそれぞれ示す。
いま、図8に示す位置X1とX2に磁気発生手段4のN磁極とS磁極の境界であるゼロクロス位置があるとする。この状態で、各磁気センサアレイ5A〜5Dの出力が、図7(A)〜(D)に示す信号波形となる。したがって、ゼロクロス位置X1,X2は、磁気センサアレイ5A〜5Dの出力から直線近似することで算出できる。
角度計算は、次式(1)で行うことができる。
θ=tan-1(2L/b) ……(1)
ここで、θは、磁気発生手段4の回転角度を絶対角度で示した値である。2Lは、矩形に並べられる各磁気センサアレイ5A〜5Dの1辺の長さである。bは、ゼロクロス位置X1,X2間の横方向長さである。
ゼロクロス位置X1,X2が磁気センサアレイ5B,5Dにある場合には、それらの出力から得られるゼロクロス位置データにより、上記と同様にして回転角度θが算出される。
このように、この回転角度検出装置3では、磁界分布のゼロクロスから回転角度を算出するので、検出精度を向上させることができる。また、磁界パターンから角度情報を取得するので、回転角度検出装置3の軸合わせが不要となり、取付けが容易となる。
【0024】
特に、この回転角度検出装置3では、毎回の処理結果であるゼロクロス位置を検出位置記憶手段17で記憶し、その記憶されたゼロクロス位置を元に所定の基準で磁気センサアレイ5A〜5Dの次回のスキャン範囲をスキャン範囲設定手段18により設定する。このスキャン範囲で磁気センサアレイ5A〜5Dの検出信号を読み出すスキャン制御を、スキャン制御回路13で行う。このようにスキャン範囲として限定された磁気センサアレイ5A〜5Dの部分的な検出信号を用いて、前記ゼロクロス位置検出手段15で次回のゼロクロス位置を検出し、検出されたこのゼロクロス位置から角度計算手段16により回転角度を算出するようにしているので、読み出し時間を短縮することができる。また、読み出される信号量が少なくなるので、ゼロクロス位置検出手段15で扱うデータも少なくなり演算処理時間も短縮できる。その結果、磁気センサアレイ5A〜5Dを構成する磁気センサ素子5aの数が多い場合でも、磁気センサアレイ5A〜5Dからの出力の読み出し開始から、角度検出結果が出力されるまでの時間遅れを短縮でき、高速かつ高精度の回転角度検出が可能となる。
【0025】
図9は、この実施形態の回転角度検出装置3を転がり軸受に組み込んだ例を示す。この転がり軸受30は、内輪21と外輪22の転走面間に、保持器23に保持された転動体24を介在させたものである。転動体24はボールからなり、この転がり軸受30は深溝玉軸受とされている。また、軸受空間の一端を覆うシール25が、外輪22に取付けられている。回転軸40が嵌合する内輪21は、転動体24を介して外輪22に支持されている。外輪22は、軸受使用機器のハウジング(図示せず)に設置されている。
【0026】
内輪21には、磁気発生手段取付部材26が取付けられ、この磁気発生手段取付部材26に磁気発生手段4が取付けられている。磁気発生手段取付部材26は、内輪21の一端の内径孔を覆うように設けられ、外周縁に設けられた円筒部26aを、内輪21の肩部外周面に嵌合させることにより、内輪21に取付けられている。また、円筒部26aの近傍の側板部が内輪21の幅面に係合して軸方向の位置決めがなされている。
外輪22にはセンサ取付部材27が取付けられ、このセンサ取付部材27に、磁気センサアレイ5A〜5Dおよび信号処理回路10の集積された半導体チップ8が取付けられている。また、このセンサ取付部材27に、角度計算手段14の出力を取り出すための出力ケーブル29も取付けられている。センサ取付部材27は、外周部の先端円筒部27aを外輪22の内径面に嵌合させ、この先端円筒部27aの近傍に形成した鍔部27bを外輪22の幅面に係合させて軸方向の位置決めがなされている。
【0027】
このように、軸受30に回転角度検出装置3を一体化することで、軸受使用機器の部品点数、組立工数の削減、およびコンパクト化が図れる。その場合に、回転角度検出装置3は、高速かつ高精度の回転角度検出が可能であるため、高速回転する機器の軸受や、高速応答が求められる制御システム等での軸受に用いても、高精度の回転角度検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態にかかる回転角度検出装置の概念構成を示す斜視図である。
【図2】同回転角度検出装置における半導体チップ上での磁気センサアレイと信号処理回路の構成例を示すブロック図である。
【図3】磁気センサアレイ上でのゼロクロス位置の一例を示す説明図である。
【図4】上記回路構成例の場合に磁気センサアレイ上に設定されるスキャン範囲の一例を示す説明図である。
【図5】半導体チップ上での磁気センサアレイと信号処理回路の他の構成例を示すブロック図である。
【図6】同回路構成例の場合に磁気センサアレイ上に設定されるスキャン範囲の一例を示す説明図である。
【図7】磁気センサアレイの出力波形図である。
【図8】角度計算手段による角度算出処理の説明図である。
【図9】同回転角度検出装置を備えた転がり軸受の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1…回転側部材
2…非回転側部材
3…回転角度検出装置
4…磁気発生手段
5A〜5D…磁気センサアレイ
12…AD変換回路
13…スキャン制御回路
15…ゼロクロス位置検出手段
16…角度計算手段
17…検出位置記憶手段
18…スキャン範囲設定手段
19…速度・方向検出手段
30…転がり軸受
O…回転中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転側部材に配置され、回転中心回りの円周方向異方性を有する磁気発生手段と、この磁気発生手段に回転中心の軸方向に対向して非回転側部材に配置された複数のライン状の磁気センサアレイと、これら複数の磁気センサアレイの出力をデジタル信号に変換するAD変換回路と、このAD変換回路の出力から磁界分布のゼロクロス位置を検出するゼロクロス位置検出手段と、この検出されたゼロクロス位置から磁気発生手段の回転角度を検出する角度計算手段とを備えた回転角度検出装置において、
前記ゼロクロス位置検出手段で検出した毎回の処理結果であるゼロクロス位置を記憶する検出位置記憶手段と、その記憶されたゼロクロス位置を元に所定の基準で磁気センサアレイの次回のスキャン範囲を設定するスキャン範囲設定手段と、このスキャン範囲設定手段で設定したスキャン範囲で磁気センサアレイの検出信号を読み出すスキャン回路とを有し、前記ゼロクロス位置検出手段は、前記スキャン範囲として限定された磁気センサアレイの部分的な検出信号を用いてゼロクロス位置を検出し、前記角度計算手段は、この部分的な検出信号から検出されたゼロクロス位置から回転角度を検出するものとしたことを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記磁気センサアレイは、上記回転中心に垂直な平面内で仮想の矩形の4辺における各辺に配置して4個設けた回転角度検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記角度計算手段の毎回の角度検出結果から磁気発生手段の回転速度と方向を検出する速度・方向検出手段を設け、前記スキャン範囲設定手段は、前記速度・方向検出手段で検出した回転速度と方向の記録に基づき、ゼロクロス計算に用いるデータ個数と、磁気発生手段の回転移動に伴うゼロクロス位置の移動分とを用いて所定の基準でスキャン範囲を設定するものとした回転角度検出装置。
【請求項4】
請求項2において、前記速度・方向検出手段で検出した回転方向と速度の検出結果を外部に出力する手段を設けた回転角度検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の回転角度検出装置を備えた回転角度検出装置付き軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−183154(P2007−183154A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1232(P2006−1232)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】