説明

回転軸のシール構造

【課題】シールリングを挟んだ両側での圧力差が大きく、かつ回転軸を回転自在に支持している箇所のシールリングにおいて、回転や摺動した場合に、摩耗あるいは発熱量による耐久性の低下が抑制されるシール構造を提供する。
【解決手段】シールリング11を嵌合させた環状溝16が第一軸部8の外周部13と第二軸部2の内周部12とのいずれか一方に形成され、その環状溝16の内側面のうち高圧部14の圧力によってシールリング11が押し付けられる側面19とシールリング11との間に、潤滑油を保持させる潤滑溝20が形成され、その潤滑溝20に潤滑油を供給する油路21が、第一軸部8の外周部13と第二軸部2の内周部12とのいずれか一方に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転軸を回転自在に支持する箇所を液密状態に封止するシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力を伝達する各種の機械・装置類では、歯車やプーリなどの回転することにより動力を伝達する機械要素が多用されており、それらの回転要素は、ケーシングなどの固定部材によって回転自在に支持している。また、それらの回転要素の中心軸線に沿って油路を形成したり、同一軸線上に配置した軸同士の隙間を油路としたりすることが行われている。その例が特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0003】
特許文献1や特許文献2に記載された例は、ベルト式無段変速機のプーリ軸を支持する構造であって、ベルトが巻き掛けられた各プーリは、ベルト溝を変化させるための油圧室を備えており、その油圧室に対して油圧を給排する油路が、プーリ軸の中心軸線に沿って形成されている。したがって、特許文献1に記載された構成では、プーリ軸を回転自在に支持している箇所にも油圧が掛かるので、油圧を維持し、また漏洩による損失を防止するために、軸支持部をシールリングなどで液密状態に封止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第0985855号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/021218号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1,2に記載されている構造では、シールリングを挟んだ両側での圧力差が大きく、そのためにシールリングはこれが取り付けられている環状溝あるいは取付部のうち低圧側に押し付けられた状態となる。このような位置のズレあるいは内側面への押し付けは、例えば上記の特許文献1,2に記載されている例では、プーリの制御油圧によって生じる。したがって、シールリングに対して高圧側は制御油が接触しているが、これとは反対側で環状溝や取付部の内側面に押し付けられている箇所は、制御油圧の漏洩を生じさせないように当該側面に密着し、制御油が存在していない。
【0006】
特に上述した特許文献1,2に記載されているプーリは、エンジンが出力したトルクを伝達するものであって、高圧の油圧が供給されるから、そのプーリ軸を支持している箇所のシールリングにも高い油圧が掛かり、またその油圧の漏洩を防止するようにシールリングの接触圧が高くなっている。そのため、シールリングがこれを取り付けてある環状溝あるいは取付部の内部で回転したり、摺動したりすると、摩耗が進行し、あるいは発熱量が多くなって耐久性が低下する可能性がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、シールリングを挟んだ両側での圧力差が大きく、かつ回転軸を回転自在に支持している箇所のシールリングにおいて、回転や摺動した場合に、摩耗あるいは発熱量による耐久性の低下が抑制されるシール構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、相対的に回転する第一軸部とその第一軸部の外周側に嵌合した第二軸部とを備え、前記第一軸部の外周部と第二軸部の内周部との間にシールリングが介在させられるとともに、そのシールリングを挟んだ一方側が高圧部とされ、かつ他方側が低圧部とされ、これら高圧部から低圧部への流体の漏洩を前記シールリングで封止するように構成された回転軸のシール構造において、前記シールリングを嵌合させた環状溝が前記第一軸部の外周部と前記第二軸部の内周部とのいずれか一方に形成され、その環状溝の内側面のうち前記高圧部の圧力によって前記シールリングが押し付けられる側面とシーリングとの間に、潤滑油を保持させる潤滑溝が形成され、その潤滑溝に潤滑油を供給する油路が、前記第一軸部の外周部と前記第二軸部の内周部とのいずれか一方に形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記潤滑溝は、前記環状溝の内側面のうち前記高圧部の圧力によって前記シールリングが押し付けられる側面と、前記高圧部の圧力によって前記環状溝の内側面に押し付けられている前記シールリングの側面との少なくともいずれか一方に形成されていることを特徴とする回転軸のシール構造である。
【0010】
さらに、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記潤滑溝から前記低圧部へ前記潤滑油を排出させる排出溝を更に有することを特徴とする回転軸のシール構造である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、環状溝の内側面のうち高圧部の圧力によってシールリングが押し付けられる側面とシールリングとの間に潤滑溝が形成されており、その潤滑溝に潤滑油を供給する油路が形成されている。そのため、シールリングがこれを取り付けてある環状溝あるいは取付部の内部で回転したり、摺動したりすると、シールリングと環状溝あるいは取付部の内部との間に潤滑溝から潤滑油が供給され、その結果、油膜が形成される。したがって、シールリングと環状溝あるいは取付部との固体接触に比べて、摩耗係数や発熱量は軽減し、シールリングの耐久性を向上させることができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、潤滑油を排出させる排出溝を形成することによって、潤滑油は潤滑溝に滞留せず低圧部へ放出されるので、シールリングの冷却作用が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明に係る相対回転部のシール構造を模式的に示す中心軸線に沿う断面図である。
【図2】この発明に係る無段変速装置の一部を模式的に示す断面図である。
【図3】この発明に係るシールリングと接触した軸受部を模式的に示す半径方向に沿う断面図である。
【図4】この発明における潤滑溝の他の例を示す半径方向に沿う断面図である。
【図5】この発明における潤滑溝の更に他の形状として採用することのできる一例を示す半径方向に沿う断面図である。
【図6】シールリングに潤滑溝を形成した例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、この発明を具体例を参照して説明する。図2に、無段変速機構におけるプーリ軸とその支持部とのシールリング構造にこの発明を適用した例を模式的に示してある。無段変速機1は、従来知られているベルト式のものであり、駆動プーリ2と従動プーリ(図示せず)とにベルト3を巻き掛けてこれらのプーリの間でトルクを伝達し、かつ各プーリに対するベルト3の巻き掛け半径を変化させることにより、変速比を変化させるように構成されている。より具体的に説明すると、各プーリは、固定シーブ4とその固定シーブ4に対して接近・離隔するように配置された可動シーブ5とを備え、それらの固定シーブ4と可動シーブ5との間にV溝状のベルト巻き掛け溝が形成されるように構成されている。各プーリのシャフト6は、ケーシング7で固定されている軸受部8の外周に嵌合されており、軸受部8によって回転自在に支持している。
【0015】
そして、各プーリにはそれぞれの可動シーブ5をその軸線の方向に前後動させるための油圧アクチュエータ9が設けられている。それらの油圧アクチュエータ9のうちのいずれか一方、例えば従動プーリにおける油圧アクチュエータ9には、プーリがベルト3を挟み付ける挟圧力を発生させる油圧が供給され、また前記油圧アクチュエータのうちの他方、例えば駆動プーリ2における油圧アクチュエータ9には、ベルト3の巻き掛け半径を変化させて変速を行うための油圧が供給されている。また各油圧アクチュエータに制御油を供給する油路10が、軸受部8と駆動プーリ2のシャフト6との中心軸線に沿って形成されている。
【0016】
上記の無段変速機1は、車両の走行のためのトルクを伝達するものであり、しかも油圧に応じた伝達トルク容量に設定されるものであるから、前記各油圧アクチュエータ9には、トルクに応じた高い油圧が供給されることになり、したがって上記の無段変速機1,駆動プーリ2のシャフト6に形成された油路10あるいはその油圧アクチュエータ9が、高油圧回路に相当している。
【0017】
上記の無段変速機1などを含む動力伝達装置には、相互に摩擦接触する箇所や軸受などのいわゆる摺動部分あるいは発熱部分が多数存在し、それらの箇所に低油圧回路などから潤滑油を供給するようになっている。その一例として、図1に、相対回転部のシール構造を模式的に断面図に示す。
【0018】
この発明に係るシールリング11は、駆動プーリ2のシャフト6の内周部12と軸受部8の外周部13との間に介在させられており、シールリング11を挟んだ一方側が制御油の存在する高圧部14であり、かつ他方側が大気解放部に連通する低圧部15となっている。またシールリングを嵌合させた環状溝16が、軸受部8の外周部13に形成されている。この軸受部8は、その中心軸線に沿って油路17が形成されている。駆動プーリのシャフトは中空軸18であって、その中空部は前記油路17と連通し、制御油を給排するようになっている。また、この軸受部8は、ケーシング7もしくはその一部を構成しているエンドカバーの内面に突出した軸状の部分であって、ケーシング7もしくはエンドカバーの一部として一体に形成され、あるいは軸状の部材をケーシング7もしくはエンドカバーの内面に取り付けることにより形成されている。したがって、シールリング11を挟んだ高圧側14は制御油が接触しているが、これとは反対側で環状溝16の内側面19に押し付けられている箇所は、制御油の漏洩を生じさせないよう作用している。つまり、シールリング11は油圧を維持し、また漏洩による損失を防止する作用がある。なお、環状溝16は駆動プーリ2のシャフト16の内周部12に形成されてもよい。
【0019】
この発明において、潤滑油を保持させる潤滑溝20が、環状溝16の内側面のうち制御油の圧力によってシールリング11が押し付けられる側面19に形成されている。また、その潤滑溝20に潤滑油を供給する油路21が、軸受部8の内部に設けられている。油路21は低油圧回路に相当する。そのため、シールリング11がこれを取り付けてある環状溝16の内部で回転したり、摺動したりすると、シールリング11と環状溝16の内部19との間に潤滑溝20から潤滑油が供給され、その結果、シールリング11と環状溝16の内部19との接触面に油膜が形成される。したがって、シールリング11と環状溝16との固体接触に比べて、摩耗係数や発熱量は軽減し、シールリング11の耐久性が向上する。なお、潤滑溝20は、環状溝16の内側面19に押し付けられているシールリング11の側面に形成されてもよい。
【0020】
さらに、この発明においては、潤滑溝から前記低圧部へ前記潤滑油を排出させる排出溝を設けることができる。図3には、その一例として、この発明に係るシールリングと接触した軸受部を模式的に示す垂直断面図を示している。この例では、排出溝22は、潤滑溝20から半径方向で外方に向けて形成されており、潤滑油が潤滑溝22から大気開放部分15に漏れ出すように設けられている。排出溝22が構成されることで、シールリング11と環状溝16の内部19との接触面に生じた熱を潤滑油が吸収し、その熱を吸収した潤滑油が滞留することがなく大気解放されるため、温度上昇が抑制され、シールリング11の耐久性が向上する。
【0021】
なお、潤滑溝の数および形状は、これに限定されるものではない。例えば、図4に示すように潤滑溝20は軸受部18に対して偏心した環状に形成されてもよい。あるいは図5に示すようにら旋溝であってもよい。他方、潤滑溝20はシールリング11の側面に形成し、その潤滑溝20に向けて開口するように潤滑路21を軸受部18に形成してもよく、その例を図6に示してある。この図6に示す構成であれば、潤滑溝の製造加工性が向上する。
【0022】
さらに、この発明は上述した具体例に限定されず、相対的に回転する第一軸部の外周部と第二軸部の内周部との間にシールリングが介在させられており、そのシールリングを挟んだ一方側が高圧部とされ、かつ他方側が低圧部とされ、これに高圧部から低圧部への流体の漏洩を封止するように構成され、かつシールリングへ潤滑油を供給する回路が構成されている回転軸のシール構造に適用することができる。この発明に係る回転軸のシール構造は、要は、車両や航空機、船舶、産業用機械など、回転することにより動力を伝達する機械・装置類に用いることができる。
【符号の説明】
【0023】
2…第二軸部、 8…第一軸部、 11…シールリング、 12…第二軸部の内周部、 13…第一軸部の外周部、 14…高圧部、 16…環状溝、 19…環状溝の側面、 20…潤滑溝、 21…油路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する第一軸部とその第一軸部の外周側に嵌合した第二軸部とを備え、前記第一軸部の外周部と第二軸部の内周部との間にシールリングが介在させられるとともに、そのシールリングを挟んだ一方側が高圧部とされ、かつ他方側が低圧部とされ、これに高圧部から低圧部への流体の漏洩を前記シールリングで封止するように構成された回転軸のシール構造において、
前記シールリングを嵌合させた環状溝が前記第一軸部の外周部と前記第二軸部の内周部とのいずれか一方に形成され、
その環状溝の内側面のうち前記高圧部の圧力によって前記シールリングが押し付けられる側面とシーリングとの間に、潤滑油を保持させる潤滑溝が形成され、
その潤滑溝に潤滑油を供給する油路が、前記第一軸部の外周部と前記第二軸部の内周部とのいずれか一方に形成されている
ことを特徴とする回転軸のシール構造。
【請求項2】
前記潤滑溝は、前記環状溝の内側面のうち前記高圧部の圧力によって前記シールリングが押し付けられる側面と、前記高圧部の圧力によって前記環状溝の内側面に押し付けられている前記シールリングの側面との少なくともいずれか一方に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転軸のシール構造。
【請求項3】
前記潤滑溝から前記低圧部へ前記潤滑油を排出させる排出溝を有することを特徴とする請求項1または2に記載の回転軸のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−97867(P2012−97867A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247833(P2010−247833)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】