説明

回転部材の溶接構造

【課題】溶接部の保護を簡易化することができる回転部材の溶接構造を提供する。
【解決手段】ギヤ部3を有するギヤ部材5と、このギヤ部材5が組み付けられる軸部材7と、ギヤ部材5と軸部材7との間に設けられギヤ部材5と軸部材7とを一体回転可能に固定する溶接部9とを備えた回転部材の溶接構造1において、溶接部9が、ギヤ部材5に設けられギヤ側溶接面11を有するギヤ側溶接部13と、軸部材7に設けられギヤ側溶接面11に軸側溶接面15を対向して位置する軸側溶接部17とからなり、ギヤ部材5に、ギヤ側溶接面11よりも突出する保護面19を有する保護部21を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される回転部材の溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、それぞれ別部材からなる部材間を一体回転可能に溶接する回転部材の溶接構造としては、大歯車を小歯車の軸部に対してインロー部で電子ビーム溶接し、大歯車と小歯車とを一体回転可能に固定したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この回転部材の溶接構造では、インロー部において、大歯車と軸部とに溝を形成し、大歯車と軸部とを組み合わせたときに溝同士で空室を形成するように構成されている。そして、この空室は、インロー部における電子ビーム溶接部の形成を容易にさせると共に、電子ビーム溶接時に発生するガスの拡散を容易にさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−62663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような回転部材の溶接構造では、インロー部のような部材間の溶接部は溶接精度を向上させるために、非常に精度良く加工が施されている。このため、部材間の溶接前や溶接時において、溶接部の損傷を避けるために部材の取り扱いを慎重に行わなければならなかった。
【0006】
そこで、この発明は、溶接部の保護を簡易化することができる回転部材の溶接構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ギヤ部を有するギヤ部材と、このギヤ部材が組み付けられる軸部材と、前記ギヤ部材と前記軸部材との間に設けられ前記ギヤ部材と前記軸部材とを一体回転可能に固定する溶接部とを備えた回転部材の溶接構造であって、前記溶接部は、前記ギヤ部材に設けられギヤ側溶接面を有するギヤ側溶接部と、前記軸部材に設けられ前記ギヤ側溶接面に軸側溶接面を対向して位置する軸側溶接部とからなり、前記ギヤ部材には、前記ギヤ側溶接面よりも突出する保護面を有する保護部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
この回転部材の溶接構造では、ギヤ部材にギヤ側溶接面よりも突出する保護面を有する保護部が設けられているので、ギヤ部材を単体で取り扱うときに、ギヤ部材の搬送時や保管時などでギヤ側溶接面側を接地させることにより、ギヤ側溶接面よりも先に保護部の保護面を接地させることができ、ギヤ側溶接面の損傷を防止することができる。
【0009】
従って、このような回転部材の溶接構造では、ギヤ部材を容易に取り扱うことができ、作業性を向上することができると共に、溶接部の保護を簡易化することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶接部の保護を簡易化することができる回転部材の溶接構造を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る回転部材の溶接構造が適用された動力伝達装置の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る回転部材の溶接構造の断面図である。
【図3】(a)は本発明の実施の形態に係る回転部材の溶接構造のギヤ部材の断面図である。(b)は本発明の実施の形態に係る回転部材の溶接構造の軸部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、図1を用いて本発明の回転部材の溶接構造が適用される動力伝達装置の一例について説明する。
【0013】
図1に示すように、動力伝達装置101は、ケーシング103と、軸部材7と、駆動軸105と、方向変換ギヤ組107とを備えている。ケーシング103は、複数の分割ケースからなり、車体フレームや他の動力伝達機構を収容するケーシングなどの静止系部材(不図示)に固定される。このケーシング103内には、軸部材7と、駆動軸105とが回転可能に収容されている。
【0014】
軸部材7は、中空状に形成され、軸方向両側を一対のベアリング109,111を介してケーシング103に回転可能に支持されている。また、軸部材7の内周側には、入力側の伝達機構(不図示)に連結されたシャフト113が軸部材7と相対回転可能に挿通されている。また、軸部材7の軸方向端部の外周には、入力側の伝達機構に一体回転可能に連結されるスプライン形状の連結部115が形成され、軸部材7に駆動力が入力される。この軸部材7に入力された駆動力は、駆動軸105に出力される。
【0015】
駆動軸105は、軸心が軸部材7の軸心に対して直交方向に配置され、一対のベアリング117,119を介してケーシング103に回転可能に支持されている。また、駆動軸105の外周には、スプライン形状の連結部121を介してフランジ部材123が一体回転可能にスプライン連結され、ナット125によってフランジ部材123の軸方向位置が固定されている。このフランジ部材123は、出力側の伝達機構(不図示)に一体回転可能に連結され、軸部材7側からの駆動力が方向変換ギヤ組107を介して出力側の伝達機構に出力される。
【0016】
方向変換ギヤ組107は、ピニオン127と、リングギヤであるギヤ部材5とからなるベベルギヤ組で構成されている。ピニオン127は、駆動軸105の軸方向端部に駆動軸105と連続する一部材として形成されている。このピニオン127は、ギヤ部材5と噛み合い、ピニオン127に伝達された駆動力は、駆動軸105からフランジ部材123を介して出力側の伝達機構に出力される。
【0017】
ギヤ部材5は、軸部材7の外周上に後述する溶接構造によって軸部材7と一体回転可能に固定されている。このギヤ部材5は、ギヤ部3でピニオン127と噛み合い、駆動力が軸部材7から駆動軸105側へ方向変換されて伝達される。
【0018】
なお、動力伝達装置101では、軸部材7に入力された駆動力を方向変換ギヤ組107を介して駆動軸105に出力しているが、駆動軸105に入力された駆動力を方向変換ギヤ組107を介して軸部材7に出力する構成としてもよい。
【0019】
このような動力伝達装置101に搭載されたギヤ部材5と軸部材7とは、溶接によって一体回転可能に固定されている。以下、図2,図3を用いて本発明の実施の形態に係る回転部材の溶接構造について説明する。
【0020】
本実施の形態に係る回転部材の溶接構造1は、ギヤ部3を有するギヤ部材5と、このギヤ部材5がその内周面6を受け面8によって互いの軸心を合わせて(いわゆるセンタリングされて)組み付けられる軸部材7と、ギヤ部材5と軸部材7との間に設けられギヤ部材5と軸部材7とを一体回転可能に固定する溶接部9とを備えている。
【0021】
また、溶接部9は、ギヤ部材5に設けられギヤ側溶接面11を有するギヤ側溶接部13と、軸部材7に設けられギヤ側溶接面11に軸側溶接面15を対向して位置する軸側溶接部17とからなる。
【0022】
そして、ギヤ部材5には、環状に広がる所定容積を有した空隙部18を径方向に挟んでギヤ側溶接面11よりも突出する保護面19を有する保護部21が設けられている。
【0023】
また、保護部21は、ギヤ部材5の周方向に亘って設けられている。
【0024】
図2,図3に示すように、溶接部9は、ギヤ側溶接部13と、軸側溶接部17とからなる。ギヤ側溶接部13は、ギヤ部材5のギヤ部3の背面側に軸方向に突出して環状にギヤ部材5と連続する一部材で設けられている。このギヤ側溶接部13の軸方向の端面は、ギヤ側溶接面11となっている。このギヤ側溶接面11には、軸側溶接部17の軸側溶接面15が溶接される。
【0025】
軸側溶接部17は、軸部材7の外周側にフランジ状に軸部材7と連続する一部材で設けられている。この軸側溶接部17のギヤ側溶接面11と軸方向に対向する対向面は、軸側溶接面15となっている。この軸側溶接面15には、ギヤ部材5を軸部材7に組み付けた状態で、外径側から周方向の複数箇所、もしくは全周に亘ってレーザービーム溶接や電子ビーム溶接などの溶接手段によってギヤ側溶接部13のギヤ側溶接面11が溶接されて一体化される。
【0026】
このような溶接部9では、ギヤ側溶接面11と軸側溶接面15とを溶接することにより、ギヤ部材5と軸部材7とが一体回転可能に固定される。この溶接部9のギヤ側溶接部13と軸部材7の外周側との径方向間には、保護部21が設けられている。
【0027】
保護部21は、ギヤ側溶接部13よりも内径側で環状にギヤ部材5と連続する一部材で設けられている。この保護部21の軸側溶接部17と対向する保護面19は、ギヤ側溶接面11よりも軸側溶接部17側に軸方向に突出して設けられ、ギヤ部材5を軸部材7に組み付けた状態で、軸側溶接部17の凹部23内に配置される。この保護面19は、ギヤ部材5を軸部材7に組み付けていない状態、すなわちギヤ部材5を単体で取り扱うときに、ギヤ部材5のギヤ部3の背面側を接地させると、ギヤ側溶接面11よりも先に接地される。また、保護面19が接地された状態では、ギヤ側溶接面11が接地することがない。このため、ギヤ側溶接面11が他の部材と干渉することがなく、ギヤ側溶接面11の損傷を防止することができる。また、保護部21は、ギヤ部材5の全周に亘って環状に設けられているので、ギヤ側溶接面11と軸側溶接面15との溶接時に、ビームなどが軸部材7の外周に届くことを防止でき、溶接時の軸部材7の保護を行うことができる。
【0028】
このような回転部材の溶接構造1では、ギヤ部材5にギヤ側溶接面11よりも突出する保護面19を有する保護部21が設けられているので、ギヤ部材5を単体で取り扱うときに、ギヤ部材5の搬送時や保管時などでギヤ側溶接面11側を接地させることにより、ギヤ側溶接面11よりも先に保護部21の保護面19を接地させることができ、ギヤ側溶接面11の損傷を防止することができる。
【0029】
従って、このような回転部材の溶接構造1では、ギヤ部材5を容易に取り扱うことができ、作業性を向上することができると共に、溶接部9の保護を簡易化することができる。
【0030】
また、空隙部18は、各溶接部13,17の溶接時の部材のダレを許容・吸収し、溶接ガスの拡散も容易にしている。
【0031】
さらに、保護部21は、ギヤ部材5の周方向に亘って設けられているので、ギヤ側溶接面11と軸側溶接面15との溶接時に、保護部21によって軸部材7を保護することができる。
【0032】
具体的に、レーザービーム溶接や電子ビーム溶接などの溶接手段を例にとると、溶接部9として、ギヤ側溶接面11と軸側溶接面15を合わせて径方向外方から径方向軸心側に向けて溶接を行ったとする。
【0033】
このとき、レーザービーム又は電子ビームが溶接部9を貫通しても、保護部21がレーザービーム又は電子ビームを受けるので、軸部材7におけるギヤ部材5の受け面8や隅R部10を損傷させ、変形や強度低下を招くことを防止できると共に、この損傷を考慮して熱源の出力をシビアに管理することを要しないで済む。
【0034】
なお、本発明の実施の形態に係る回転部材の溶接構造では、溶接部が軸部材の外径側に設けられ溶接部と軸部材との径方向間に保護部が設けられているが、溶接部を軸部材とギヤ部材との軸方向の一側に設けて溶接部と軸部材又はギヤ部材との軸方向間に保護部を設ける構成としてもよい。
【0035】
また、保護部は、必ずしも環状に形成する必要はなく、相手面側に向けて突出するように周方向に複数箇所設けられた凸部であってもよい。この場合も、溶接面11(溶接部9)の保護を可能にし、環状でないので、軽量化にも貢献できる。
【符号の説明】
【0036】
1…回転部材の溶接構造
3…ギヤ部
5…ギヤ部材
7…軸部材
9…溶接部
11…ギヤ側溶接面
13…ギヤ側溶接部
15…軸側溶接面
17…軸側溶接部
19…保護面
21…保護部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤ部を有するギヤ部材と、このギヤ部材が組み付けられる軸部材と、前記ギヤ部材と前記軸部材との間に設けられ前記ギヤ部材と前記軸部材とを一体回転可能に固定する溶接部とを備えた回転部材の溶接構造であって、
前記溶接部は、前記ギヤ部材に設けられギヤ側溶接面を有するギヤ側溶接部と、前記軸部材に設けられ前記ギヤ側溶接面に軸側溶接面を対向して位置する軸側溶接部とからなり、
前記ギヤ部材には、前記ギヤ側溶接面よりも突出する保護面を有する保護部が設けられていることを特徴とする回転部材の溶接構造。
【請求項2】
請求項1記載の回転部材の溶接構造であって、
前記保護部は、前記ギヤ部材の周方向に亘って設けられていることを特徴とする回転部材の溶接構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−82910(P2012−82910A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230324(P2010−230324)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】