説明

回転電機のケース

【課題】回転電機を収容するケースを構成するケース本体とケースカバーで挟んで支持される冷却液パイプの組み付け性を改善する。
【解決手段】ケースカバー26の、冷却液パイプ32の端が対向する部分に貫通孔40を設ける。貫通孔40には、冷却液パイプ32を押圧して、これをケース内で固定支持するためのねじプラグ42がねじ結合される。ケースカバー26を被せた状態でも、貫通孔40を通して冷却液パイプ32を目視することができ、その位置を確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機を収容するケースに関し、特にケースの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギを回転の運動エネルギに変換する電動機、回転の運動エネルギを電気エネルギに変換する発電機、さらに電動機と発電機どちらにも機能する電気機器が知られている。以下において、これらの電気機器を回転電機と記す。
【0003】
ケース内の閉じられた空間に収容された回転電機が知られている。下記特許文献には、二つの回転電機と、遊星歯車機構、減速機構、終減速機構等を共通のケース内に設けたハイブリッド車の駆動ユニットが示されている。このユニットにおいて、ケースに、回転電機のコイルエンドを冷却する冷却液を送る冷却液パイプが設けられている。より詳細には、回転電機は、ケース本体とカバーにより形成された内部空間内に配置される。また、冷却液パイプは、その両端が各々ケースとカバーに当接し、ケース本体とカバーにより挟まれるようにして保持されている。特に、冷却液パイプのカバー側の端は、カバーに設けられた窪みに収まるようにして支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−209160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記、特許文献1の駆動ユニットにおける冷却液パイプのケースへの組み付けは、まず、冷却液パイプの一端をケース本体の所定位置に設けられた受け部に挿入する。その状態でカバーを被せるようにしつつ、カバーで冷却液パイプの他端を押して、ケース本体とカバーで冷却液パイプを挟むようにして、これを固定保持する。カバーをケース本体に取り付ける過程において、カバー及びケース本体によって冷却液パイプが覆われてしまうために、冷却液パイプを直接目視できない。このため、冷却液パイプが正規の位置に組み付けられない場合が可能性がある。
【0006】
本発明は、冷却液パイプが正規の位置に組み付けられることを容易に達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転電機のケースは、回転電機が配置される内部空間をケース本体と共に形成するケースカバーに貫通孔を開け、ケースカバーをケース本体に被せた後も、前記の貫通孔からケース内部に位置する冷却液パイプの位置を確認できるようにしている。ケース本体には、冷却液パイプの一端が嵌る受け部が設けられ、ケースカバーの、冷却液パイプのもう一方の端に対向する位置に貫通孔が設けられている。貫通孔の設けられた位置には、冷却液パイプをケース本体に向けて押圧する押圧部材が設けられる。
【0008】
押圧部材は、前記貫通孔に固定されるものであってよい。
【0009】
押圧部材は、前記貫通孔とねじ結合して、この貫通孔を塞ぐねじプラグとすることができる。
【0010】
また、ねじプラグは、冷却液パイプに対向する部分に、冷却液パイプ内に挿入される突起を有するようにできる。
【0011】
さらに、冷却液パイプを樹脂製とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
ケースカバーをケース本体に被せたときにおいても、ケースカバーに開けられた貫通孔を通して内部の冷却液パイプの位置を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態のトランスアクスルの要部断面図である。
【図2】貫通孔およびその周囲の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、ハイブリッド車両等に搭載される回転電機10と一体となったトランスアクスル12の要部断面図である。トランスアクスルは、変速機と終減速機を一体とした装置であり、共通のトランスアクスルケースの中に変速機構と、差動装置を含む終減速機構が収められている。ハイブリッド車両では、さらに前記のトランスアクスルケースに一つ又は複数の回転電機が収められる例が知られている。トランスアクスル内に収められた回転電機は外気による冷却が期待できず、冷却は、変速機構など他の機構と同様に潤滑油および変速機構に属する液圧シリンダを動作させるための作動流体として機能する液体によって行われる。以下、この液体を冷却液と記す。
【0015】
回転電機10は、略円柱形状のロータ14と、ロータ14の周囲を囲むように配置された略円筒形状のステータ16を有する。ロータ14とステータ16は、同軸に配置される。この共通の中心軸線は、図1では、図示される範囲から更に左側において上下方向に延びている。したがって、回転電機10の図示されている範囲は、外周の一部である。ロータ14は、磁性鋼板を中心軸線方向に積層して形成されたロータコア18を有し、円柱形状の外周面、または外周面近傍の内部に永久磁石(不図示)が配置されている。ステータ16は、円環板形状の内周面に、周方向に沿って凹凸が形成され櫛状になった磁性鋼板を、前記の中心軸線方向に積層して形成されたステータコア20を有する。ステータコア20を形成する磁性鋼板は、その凹凸が揃えられて積層され、これにより、ステータコア20の内周面には、磁極となる凸部が周方向に沿って配列されている。磁極に導線を巻き付けるようにしてコイル22が形成される。導線は、磁極の間のスロットと呼ばれる空間から、ステータコア20の端面方向に出て、周方向に延び、別のスロットに入る。これを繰り返してコイル22が形成される。コイル22の、ステータコアの端面から出た部分はコイルエンドと呼ばれている。
【0016】
回転電機10は、ケース本体24とケースカバー26で形成される内部空間28内に配置される。ケース本体24は、トランスアクスルケースの一部であってよく、この場合、トランスアクスルケースに回転電機10が収まる窪みが形成され、この窪みを構成する部分がケース本体24となる。ケース本体24は、開口30を有し、この開口30を覆うのが前出のケースカバー26である。ケース本体24の開口30を覆うようにケースカバー26を配置することで、ケース本体24とケースカバー26が内部空間28を規定する。この内部空間28内に回転電機10が配置される。これらのケース本体24とケースカバー26により、回転電機を収めるケースが構成される。
【0017】
回転電機10は、冷却性の改善のために冷却液を予め定められた部位に送る液冷方式を採用している。冷却液を送るための流路がケースに設けられる。例えば、流路は、ケース本体24の構成部材に孔をあけて形成され、また必要に応じて、ケースの一部として後付けされたパイプやホース等の管状材によって形成される。
【0018】
内部空間28には、冷却液を送る、例えば樹脂製の冷却液パイプ32が配置されている。冷却液パイプ32の一端は、ケース本体24に設けられた受け穴34に挿入される。受け穴34は、ケース本体24に形成された冷却液流路36に繋がっている。受け穴34と冷却液流路36の境界には段差38が形成されており、この段差38に冷却液パイプ32の端が当接して冷却液パイプ32がこれ以上奧に挿入されることを防止される。冷却液流路36は、ポンプ(不図示)により送られる冷却液を冷却液パイプ32まで導いている。ポンプは、回転電機10の冷却専用のポンプであってよい。また、トランスアクスル12内の各機構に冷却液を送るポンプであってもよく、この場合、冷却液は、前述のように潤滑油または作動流体としても機能する液体である。
【0019】
冷却液パイプ32は、回転電機10に並列するように配置され、受け穴34からケースカバー26に向けて延びている。ケースカバー26の、冷却液パイプ32に対向する部分には、ケースカバー26を貫通する貫通孔40が形成されている。この貫通孔40によって、ケースカバー26を被せた状態であっても、ケース内部、特に冷却液パイプ32の端をケースの外から目視することができる。この貫通孔40は、ねじプラグ42により塞ぐことができる。ねじプラグ42は、頭部44と軸部46を有する。頭部44には、ねじプラグ42を回すための六角形の穴が、軸部46には、その周面に雄ねじが形成されている。
【0020】
貫通孔40の周面には雌ねじが切られており、これとねじプラグ42の雄ねじがねじ結合して、貫通孔40にねじプラグ42が固定される。ねじプラグ42の先端、つまり軸部46の、頭部44とは反対側の端には、突起48が形成されている。この突起48は、冷却液パイプ32の端の開口に挿入され、冷却液パイプ32のケースカバー26側の端の位置決めを行う。突起48により、冷却液パイプ32の開口を塞ぐようにしてよい。突起48は、その少なくとも一部をテーパ形状とすることができ、このテーパ形状によって、ねじプラグ42をねじ込むときに、冷却液パイプ32がケース本体24に向けて押圧される。また、図1に示す例よりも冷却液パイプ32を延ばし、冷却液パイプ32の端がねじプラグ42の軸部46の端面50に当接するようにして、この端面50により冷却液パイプ32を押圧するようにしてもよい。この場合、突起48は、冷却液パイプ32の端面50への当接を阻害しないような形状とされる。
【0021】
冷却液パイプ32の側面、特にコイル22のコイルエンドに対向する位置には、冷却液を吐出するための吐出孔52が設けられ、ポンプにより送られた冷却液がここから、コイルエンドに向けて吐出される。この実施形態のトランスアクスル12は、使用時には、図1中右方向が下となり、吐出孔52から吐出された冷却液は、コイルエンドに落下し、コイルの冷却を行う。
【0022】
回転電機10の組み付け工程について説明する。まず、ケース本体24内の定められた位置に回転電機10を固定する。次に、冷却液パイプ32を受け穴34内に挿入する。そして、ケース本体の開口30をケースカバー26で覆い、ボルト等の締結要素によりケース本体24に固定する。このとき、貫通孔40は開放した状態である。貫通孔40を通して冷却液パイプ32を目視し、冷却液パイプ32が定められた位置、例えば貫通孔40の中央に位置しているかを確認する。ずれていれば、貫通孔40から工具等を挿入して位置を調整する。確認または位置調整後、ねじプラグ42を貫通孔40にねじ込む。ねじプラグ42をねじ込むことにより、突起48が冷却液パイプ32の中空部に挿入され、また、冷却液パイプ32が受け穴34の方向に押圧される。これにより、冷却液パイプ32がケースに固定支持される。また、ねじプラグ42を固定するために回す際に、ねじプラグ先端の突起48が冷却液パイプ32に挿入されているため、冷却液パイプ32が、パイプ軸線方向に直交する方向にずれることがない。
【0023】
受け穴34の態様として、テーパ形状に構成することもできる。始めに冷却液パイプ32を受け穴34に挿入したときには弱く支持し、冷却液パイプ32のケースカバー側の端の位置を動かしやすくする。冷却液パイプ32のカバー側の端の位置合わせ後、ねじプラグ42により冷却液パイプ32を受け穴34内に押し込み、受け穴34のテーパ形状によって、冷却液パイプ32がより強く支持されるようにする。
【0024】
また、ケース本体24側で冷却液パイプ32を受ける態様として、ケース本体24の底面54に立設された円形の壁を設け、この壁に囲まれた部分に冷却液パイプ32を挿入するようにしてもよい。
【0025】
ケースカバー26側で冷却液パイプ32を受ける態様として、突起48に替えて、ねじプラグの軸部46の端面に窪みを設け、この窪みに冷却液パイプ32が嵌るようにしてもよい。
【0026】
さらに、ケースカバー26側で冷却液パイプ32を受ける態様として、段付の貫通孔を形成し、貫通孔にて冷却液パイプ32を受けるようにしてもよい。具体的には、図2に示すように、ケースカバー26に大径部分と小径部分を有するの貫通孔56を形成し、大径部分に冷却液パイプ32が挿入されるようにする。ねじプラグ58は、前述の突起48等の冷却液パイプ32に係合する部分を有していない。
【0027】
図2の構成例においては、ケースカバー26をケース本体に固定するときに、ケースカバー26が冷却液パイプをケース本体の受け穴34に向けて押圧する。受け穴34に冷却液パイプ32を挿入した後、貫通孔56から冷却液パイプ32を目視しつつ、ケースカバー26を被せる。貫通孔56を介して冷却液パイプ32を目視することにより、冷却液パイプ32が所定の位置、つまり貫通孔56の大径部分に嵌ったかを確認することができる。ケースカバー26を被せたら、ボルト等でケースカバー26をケース本体24に締結する。このとき、貫通孔56の大径部分と小径部分の境界である段差端面60で冷却液パイプ32が押圧されて所定位置に固定される。
【0028】
段付きの貫通孔56に替えて、貫通孔の周囲を囲むように、かつ貫通孔より大きな内径の円形の壁を設け、この壁の内側で冷却液パイプ32の端を受けるようにしてもよい。
【0029】
上述の実施形態によれば、ケースカバーを被せた際に冷却液パイプ32を目視することができるので、位置がずれた状態で組み付けられることを防止できる。冷却液パイプが変形し難ければカバーを組み付けるとき抵抗があったり、組み付けられなかったりして、冷却液パイプの位置がずれていることが分かるが、冷却液パイプが樹脂製等であって変形しやすい場合、冷却液パイプが変形した状態で組み付けられてもこれを知ることができない場合がある。上述の実施形態によれば、ケースカバーを被せた後も、冷却液パイプを貫通孔を通して目視できるので、位置ずれした状態で、組み付けられることを避けられる。
【0030】
また、ねじプラグ先端の突起を冷却液パイプに係合することで、ねじプラグを回して装着している間に冷却液パイプが位置ずれを起こすことを防止できる。
【符号の説明】
【0031】
10 回転電機、14 ロータ、16 ステータ、22 コイル、24 ケース本体、26 ケースカバー、28 内部空間、32 冷却液パイプ、34 受け穴、42,58 ねじプラグ、48 突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機を収めるケースであって、
ケース本体と
回転電機が配置される内部空間をケース本体と共に形成するケースカバーと、
一端がケース本体に設けられた受け部に嵌り、他端がケースカバー近傍に位置する、冷却液を送る冷却液パイプと、
を有し、
ケースカバーの、冷却液パイプの前記他端に対向する位置に貫通孔が形成され、
さらに、前記貫通孔の位置において、冷却液パイプをケース本体に向けて押圧する押圧部材を有する、
回転電機のケース。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機のケースであって、前記押圧部材は、前記貫通孔に固定される、回転電機のケース。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機のケースであって、前記押圧部材は、前記貫通孔とねじ結合して、この貫通孔を塞ぐねじプラグである、回転電機のケース。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機のケースであって、前記ねじプラグは、冷却液パイプに対向する部分に、冷却液パイプ内に挿入される突起を有する、回転電機のケース。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転電機のケースであって、冷却液パイプが樹脂製である、回転電機のケース。
【請求項6】
回転電機を収めるケースであって、
ケース本体と
回転電機が配置される内部空間をケース本体と共に形成するケースカバーと、
を有し、
ケース本体には、冷却液を送る冷却液パイプの一端を受け入れるパイプ受け部が設けられ、
ケースカバーには、前記冷却液パイプの他端に対向する位置に貫通孔が設けられ、
さらに、前記貫通孔の位置において、前記冷却液パイプをケース本体に向けて押圧する押圧部材を有する、
回転電機のケース。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−99180(P2013−99180A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241833(P2011−241833)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】