回転電機及びその製造方法
【課題】固定子鉄心の材料として特定の無方向性電磁鋼板に限定されず、鉄心構造として鉄心中や外枠との接触部に空隙を設けること無く、外枠装着に伴う固定子周方向に発生する圧縮応力の影響による鉄損の増加を抑制できる電動機を提供する。
【解決手段】この発明は、電磁鋼板からなる固定子鉄心片を積層して構成され円周方向に間隔をおいて形成された複数のティース部2及び各ティース部2を繋ぐ主磁束の経路となる円環状のヨーク部3を有する固定子鉄心を含む固定子1と、この固定子1の外周面に嵌着した外枠6とを備えた電動機であって、ヨーク部3は、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されている。
【解決手段】この発明は、電磁鋼板からなる固定子鉄心片を積層して構成され円周方向に間隔をおいて形成された複数のティース部2及び各ティース部2を繋ぐ主磁束の経路となる円環状のヨーク部3を有する固定子鉄心を含む固定子1と、この固定子1の外周面に嵌着した外枠6とを備えた電動機であって、ヨーク部3は、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁鋼板が積層されて構成され、円周方向に間隔をおいて形成された複数のティース部及び各ティース部を繋ぐ主磁束の経路となる円環状のヨーク部を有する固定子と、この固定子の外周面に嵌着した外枠とを備えた回転電機、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機である電動機においては、発生したトルクの伝達性を高めるため、さらには本願の一実施の形態例として挙げた複数に分割された固定子鉄心ブロックを円環状に配置して固定子を成形するものにおいては、その成形性(真円度)を高めるために、固定子の外周面に鉄やアルミニウム製の外枠が嵌着される。
この嵌着手段として、固定子の外径と外枠の内径との差を利用した方法、例えば焼嵌めや圧入といった方法が採用されている。
この場合、ヨーク部の周方向には大きな圧縮応力が作用し、ヨーク部の磁気特性(鉄損、磁化特性)が劣化、それに伴い電動機性能(ロストルク、効率)が悪化する。
この対策として、固定子にヨーク部での圧縮応力を分散させる空隙や切り欠きを設ける例(例えば、特許文献1参照)、あるいは圧縮応力条件下で磁気特性劣化が少ない鋼材を用いる例(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【0003】
上記特許文献1の図1に示された、円周方向に複数のティース部を有する固定子においては、そのティース部根元部と外枠とが接する固定子外周部との間に固定子外周部近傍の応力を緩和するための空隙部が設けられ、ティース部根元部が位置する固定子外周部を外枠に接触固定することで、固定子に加わる圧縮応力を低減し磁気特性の劣化を抑制している。
【0004】
また、上記特許文献2のものでは、焼嵌め固定された鉄心などの鋼板面内方向に圧縮応力が作用する用途において最適な電磁鋼板を選定する方法を提供するものである。
このものでは、上記用途の鉄心に、面内異方性指標Sを定義し、その値が0.06以下と、面内での磁気特性が等方性に近い無方向性電磁鋼板を使用することを特徴とする電動機鉄心用電磁鋼板の選定方法が示されている。
ここで、面内異方性指数Sは、鋼板の圧延方向から0°、45°、90°方向に周波数50Hz、磁化力5000A/mで励磁、測定した磁束密度B500、B5045、B5090と、それらの最大値Bmaxと最小値Bminを用いて、下式から求めている。
S=4×(Bmax-Bmin)/(B500+2B5045+B5090)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-354870号公報(第8頁、図1)
【特許文献2】特開2005-312155号公報(第2頁第49行〜第3頁第17行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、固定子に加わる応力を低減しかつ外枠との嵌合性も高めることができる反面、ティース部根元部でのコア幅が削減されるため電動機の負荷状態により磁束密度が上昇し鉄損が増加する、固定子の外枠への保持がティース部根元部のみとなる場合には、外枠からの応力によるティース部変形によりスロット部の間隔がティース部個々にばらつき易く、これに伴いティース部のロータ対向面の真円度が低下することで永久磁石電動機等ではコギングトルクが増加する、等の問題点があった。
【0007】
また、上記特許文献2のものでは、一般的にヒステリシス損の小さなハイグレード無方向性電磁鋼板ほど圧延方向を磁化容易方向に面内での異方性が大きくなる。
従って、上記特許文献2のものでの選別に従えば、通常のハイグレード材の使用ができないなど機器設計の自由度が狭められ、機器性能の低下や製品価格の上昇といった問題点があった。
【0008】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、固定子鉄心の材料として特定の無方向性電磁鋼板に限定されず、固定子鉄心構造として固定子鉄心中や外枠との接触部に空隙を設けること無く、外枠装着に伴う固定子鉄心の周方向に発生する圧縮応力の影響による鉄損の増加を抑制できる回転電機及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る回転電機は、電磁鋼板からなる固定子鉄心片を積層して構成され円周方向に間隔をおいて形成された複数のティース部及び各ティース部を繋ぐ主磁束の経路となる円環状のヨーク部を有する固定子鉄心を含む固定子と、この固定子の外周面に嵌着した外枠とを備えた回転電機であって、
前記ヨーク部は、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されている。
【0010】
この発明に係る回転電機の製造方法は、ヨーク部に付与される塑性歪みは、プレス成形工程により固定子鉄心片が成形される前、固定子鉄心片のプレス成形工程または固定子鉄心片が成形された後で冷間加工により付与される。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る回転電機によれば、ヨーク部は、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されているので、外枠装着に伴う固定子周方向に発生する圧縮応力の影響による鉄損の増加が抑制される。
【0012】
また、この発明に係る回転電機の製造方法によれば、ヨーク部に付与される塑性歪みは、プレス成形工程により固定子鉄心片が成形される前、固定子鉄心片のプレス成形工程または固定子鉄心片が成形された後で冷間加工により付与されるので、ヨーク部に塑性歪みを簡単に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1による電動機の固定子及びその外周面に嵌着された外枠を示す断面図である。
【図2】電磁鋼板試験材での応力と歪みとの関係を示す図である。
【図3】電磁鋼板試験材での塑性変形量と鉄損との関係を示す図である。
【図4】電磁鋼板試験材での弾性応力下における塑性変形量とヒステリシス損との関係を示す図である。
【図5】電磁鋼板試験材での弾性応力下における塑性変形量と渦電流損との関係を示す図である。
【図6】本願発明の実験結果を示す図である。
【図7】図1の固定子鉄心における製造工程の一工程を示す側断面図である。
【図8】図7の平面図である。
【図9】図1のティース片を成形する際に用いられるプレス金型のパンチの正面図である。
【図10】図1の固定子鉄心と異なるプレス加工工程を示す平面図である。
【図11】図10の次工程であってヨーク部に塑性歪みを付与する工程を示す平面図である。
【図12】図11のX-Y線に沿って切断したときの矢視断面図である。
【図13】図1の固定子鉄心と異なる固定子鉄心(ティース部とヨーク部とが一体である)でのヨーク部に塑性歪みを付与する工程を示す平面図である。
【図14】図13のX-Y線に沿って切断したときの矢視断面図である。
【図15】図14のX1-Y1線に沿って切断したときの矢視断面図である。
【図16】この発明の実施の形態2による電動機の固定子及びその外周面に嵌着された外枠を示す断面図である。
【図17】図16の固定子鉄心ブロックが展開された状態を示す図である。
【図18】図17の隣接した固定子鉄心ブロック同士の連結状態を示す図である。
【図19】図16の固定子鉄心における製造工程の一工程を示す側断面図である。
【図20】図19の平面図である。
【図21】図16のティース片を成形する際に用いられるプレス金型のストリッパーの正面図である。
【図22】図19に示した固定子鉄心の製造工程と異なる製造工程の一工程を示す側断面図である。
【図23】図22のX-Y線に沿って切断したときの矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の各実施の形態について、図に基づいて説明するが、各図において同一または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1の電動機の固定子1及び外枠6を示す断面図である。
この固定子1は、固定子鉄心と、この固定子鉄心にボビン5を介して導線が巻回して巻装された巻線4とを備えている。
固定子鉄心は、無方向性電磁鋼板をプレス成形したヨーク片を積層した円環状のヨーク部3と、同じく無方向性電磁鋼板をプレス成形したティース片を積層した複数のティース部2とから構成され、磁束の主通過経路となるヨーク部3の内周面に、各ティース部2の根元部が嵌着されている。
【0015】
この固定子1の外周面には、鉄またはアルミニウム製の円筒形状の外枠6が嵌着されている。
固定子1に外枠6を嵌着する手段としては、固定子1の外径と外枠6の内径との差を利用し、外枠6を加熱する焼嵌め方式、固定子1を冷却する冷やし嵌め方式がある。また、外枠6に固定子1を圧入する圧入方式もある。
ヨーク部3には、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されている。
このように、ヨーク部3のみに低塑性歪みを付与しているので、塑性歪みを付与していないヨーク部と比較し、ヒステリシス損は同等でしかも渦電流損は小さく、圧縮応力がヨーク部3内にて不均一に分布しても渦電流損は均一に分布する。
このため、ヒステリシス損と渦電流損の総和である鉄損は圧縮応力が作用しているにも拘わらず無歪みヨーク部と比較して減少させることができ、しかも応力集中部での渦電流損局部加熱も抑制できる。とりわけ、高速回転で運転される場合には鉄損の低減効果がより大きくなり、電動機の効率が向上する。
さらに、固定子1の内部あるいは外周部に外枠6からの圧縮応力を軽減する空隙等を形成する必要がないため、外枠6と固定子1との間での保持力向上、ヨーク部3の磁路断面が削減されないので、電動機の負荷状態による磁束密度の上昇とそれに伴う鉄損増加の抑制、固定子のティース部2の先端部での真円度確保が容易となる等の効果が得られる。
【0016】
以下、ヨーク部3に、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されたことによる、上記ヨーク部3の特性について、詳述する。
まず、固定子1の素材である無方向性電磁鋼板を対象に、塑性歪みの付与と鉄損影響の関係、さらには弾性応力が鋼板面内での磁路と平行に付加されている状態での鉄損影響との関係について検討した結果を説明する。
無方向性電磁鋼板への塑性歪みの付与は、平板を圧延方向と平行に所定の伸長率が得られるまで引張る方法により、歪み量が異なる複数の素板を作製した。測定に供した電磁鋼板はJISグレード35A230材で、JIS5号片による応力・歪み曲線を図2に示す。作製した素板の塑性歪み均一歪み部より幅30mm、長さ200mmの短冊状試料を長手が圧延方向となるようにワイヤー放電加工にて切り出し磁気測定に供した。
磁気測定は、応力付加機構付きシングルヨーク型単板磁気試験器により、磁気測定方向と平行に±150MPa範囲の弾性応力を試験片断面に付加しながら、磁束正弦波条件、励磁磁束密度1.5T、励磁周波数50Hz、70Hz、100Hzでの鉄損測定を行うと共に、それらの結果をもとに周波数分離を行い50Hz換算でのヒステリシス損、渦電流損を求めた。
【0017】
まず、塑性歪みの付与と鉄損影響の関係を図3に示す。
図3は無歪み試料のヒステリシス損と渦電流損の値を1とした時の各鉄損成分の変化率を示している。ヒステリシス損は塑性歪みの付与に伴い増加するのに対し、渦電流損の変化は僅かに減少傾向を見せているが、ヒステリシス損の変化に比べれば変化無しとみなせる。塑性歪みに対するヒステリシス損の急激な変化は、1%未満の低塑性歪み領域で起き、その歪み上限は、応力・歪み曲線での降伏点(≒0.2%耐力)の応力にて生ずる塑性歪みであることは両者のデータ比較より容易に推察可能である。
【0018】
次に、上記試料片に弾性応力を印加した場合の鉄損影響を図に示す。図4はヒステリシス損、図5は渦電流損の比較結果である。横軸弾性応力の±の記号は負が圧縮応力、正が引張り応力を示す。
まず、ヒステリシス損であるが、応力無付加の状態では、先にも述べたように歪み0%の無歪み試料が最もヒステリシス損が小さく、塑性歪みが増えるにつれヒステリシス損は増加する。圧縮応力が作用した場合も、無歪み試料、歪み付与試料とも圧縮応力の増加に伴いヒステリシス損は増加するが、とりわけ0〜-50MPa範囲でのヒステリシス増加量は無歪み試料で大きい。
一方、塑性歪みを与えた試料での増加量は無歪み試料より小さく、しかも歪み量に依存せずほぼ一定した変化である。このため、-50MPaを超える圧縮応力が作用すると、無歪み試料と0.1%歪みの値はほぼ同等となる。
一方、塑性歪みの付与により圧縮応力下での渦電流損変化量も大きく変化する。塑性歪みが付与された試料では圧縮応力に対する渦電流損の増加量は小さく、とりわけ0〜-50MPa範囲では無歪み試料のような大きな渦電流損増加の傾向が見られない。
【0019】
このように、本願発明者は、塑性歪みの付与は圧縮応力による渦電流損の劣化を抑制する効果があることを見出した。
このことから、塑性歪みの付与量により圧縮応力下でのヒステリシス損と渦電流損のバランスを制御すれば、固定子1を外枠6に嵌着した際のヨーク部3に生ずる圧縮応力による鉄損増加を低減可能であると思い至った。
図4のヒステリシス損と図5の渦電流損は50Hz換算しているが、一次線型近似による損失分離のため各損失成分値は損失係数の大小と読み替えることができる。
ヒステリシス損係数に大きな差異が無く、渦電流損係数が小さければ、励磁周波数が高くなるほど、即ち電動機においては高速回転での運転になるほど固定子鉄心で発生する鉄損を低く抑えることができる。
従って、付与可能な塑性歪みはどんなに多くとも図2に示した降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みを上限とする範囲に限定する必要がある。
【0020】
塑性歪みを0.1%付与した試料はこの発明の対象であり、その効果を図6に示す。
図6では、圧縮応力-50MPaにおける1.5T励磁での50Hz並びに100Hzの鉄損を比較した。塑性歪み0.1%試料では渦電流損の増加が抑制されたことにより、周波数が高いほど塑性歪み0%試料に比べ鉄損差が大きく低鉄損となっており、この発明の妥当性は明らかである。
【0021】
次に、上記固定子1を製造する手順について説明する。
図7及び図8は、円環状のヨーク片3aを電磁鋼板で構成された基材であるフープ材7から作製するプレス成形工程を示す図である。
このプレス成型工程の前工程では、フープ材7の上下一対の圧延ローラ8を用い、フープ材7の長手方向に伸長と板厚方向に圧縮させる伸長・圧縮工程がある。この伸長・圧縮工程では、フープ材7に所定の塑性歪みを予め付与する。
その後、プレル成形工程で塑性歪みを付与された塑性歪み付与部位9からプレス成形によりヨーク片3aを打ち抜き、電磁鋼板の基材であるフープ材7から分離する。
次に、ヨーク片3aを積層し、一体化して円環状のヨーク部3を製造する。
【0022】
上記手順にて塑性歪みを付与した円環状ヨーク部3が製造されるが、付与した歪み量の検査はX線回折等の方法により容易に行うことができる。
例えば、波長λのX線が多結晶体に照射され、これと傾きθ、間隔dの原子面によって散乱された時、ブラッグの条件を満たした場合に反射角θで反射が起こる。この時、回折線は入射方向に対し2θの角度で得られ、回折面となる原子面がΔdだけ変形したとすれば、それに伴う回折角の変動は以下の様に与えられる。
【0023】
2Δθ=2tAnθ・Δd/d
【0024】
試料内の歪みΔd/dの測定は、検査対象となるヨーク部のプレス加工端から適度に離れたプレス加工歪みの影響が少ない試料面にX線を照射し、X線源に近い方向に反射される回折線の位置を調べる背面反射法を用いればよい。また、測定値の校正は、格子定数、ブラッグ角が既知である比較用試料を検査対象表面の近くに置き同時測定すればよい。
【0025】
一方、ティース部2の作製はヨーク部3の作製工程とは別の工程で行われる。
このティース部2の製造では、上記伸長・圧縮工程を経ることなく、即ち所定の塑性歪みが付与されていない電磁鋼板から構成されたフープ材からプレス成形によりティース片を打ち抜き、フープ材から分離する。
この後、ティース片を積層し、一体化してティース部2を製造する。
なお、ヨーク片3aとティース片とから固定子鉄心片を構成している。
次に、各ティース部2に導線を巻回し巻線4を巻装し、最後に巻線4が巻装された各ティース部2の根元部をヨーク部3の内周部に嵌着する。
【0026】
図9はティース片の全体をワンショットプレス成形で打ち抜くパンチ10を示す正面図であり、パンチ10の電磁鋼板接触面の内周部に溝部11が形成されている。この溝部11は、ティース片の周端面の内側の周面に沿って延びた部位に対応している。
従って、プレス加工の際にパンチ10とダイ(図示せず)とから受ける衝撃がティース片の内部にまで伝搬せず、打ち抜きによる磁気特性の劣化を打ち抜き端面近傍のみに限定することができ、ティース片が積層されたティース部2の内部における鉄損増加を抑制することができる。
【0027】
一方、ティース片の全体を一括プレス抜き落としせずに、プレス打抜きを行う場合においては、被加工物となる未成形鋼板の上下に位置するストリッパーとダイ (いずれも図示せず)の内、ストリッパーの電磁鋼板接触面側に図9と同じ配置の溝部を設けることで、一体打ち抜きと同様、打ち抜き時にパンチ10とダイから受けるティース部2の内部への衝撃の伝搬を抑制することができる。
【0028】
図10〜図12は、図1の固定子鉄心と異なる別の製造方法でのプレス加工工程を示す平面図、図11は図10の次工程であってヨーク部3に塑性歪みを付与する工程を示す平面図、図12は図11のX-Y線に沿って切断したときの矢視断面図である。
図7、図8に示したものは、ヨーク片3aのプレス加工前に電磁鋼板の基材であるフープ材7に前もって塑性歪みを付与し、またヨーク片3aとティース片との作製は別のプレス加工工程で行っていたが、この例では、プレス加工後にヨーク部3に塑性歪みを付与した点、及び一連のプレス加工工程で同一のフープ材7から、固定子鉄心片を構成する、ヨーク片3a及びティース片が作製される点で異なる。
【0029】
ヨーク部3に塑性歪みを鋼板面内に付与するには冷間加工の一手法である引き伸ばし加工により行うことができる。
先ず、ヨーク部3の内周部に径外側方向に加圧するためには、図11に示すようにコレット状の引き伸ばし治具29をティース部2の個数(図11では12個)だけ均等に配置する。
次に、この引き伸ばし治具29の上下より上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bをそれぞれ下降、上昇させる。この結果、ガイドレール31に沿って各引き伸ばし治具29は、ヨーク部3の径方向に均等に移動してヨーク部3の内壁面に密着し、その後ヨーク部3を径外側方向に引き伸ばす。この引き伸ばしに伴いヨーク部3には張力が発生する。
この張力の方向は、電動機稼働時にヨーク部3内を流れる磁束方向と同じ周方向であり、ヨーク部3の周方向に所定の塑性歪みを確実に与えることができる。
最後に、上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bをそれぞれ上昇、下降して上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bを解放すると、引き伸ばし治具29は、ガイドバネ32の弾性力により径内側方向に押し戻されヨーク部3と離間する。
【0030】
例えば、ヨーク部3は、外径を107mm、幅を8mm、ヨーク片3aの積み高さによるヨーク部3の高さを80mmとすると、ヨーク部3の周方向に400MPaの応力を発生させるにはヨーク部3の側面に最大160トンの力を加える必要があるが、この程度のプレス能力を有する機器は容易に入手可能である。
この例では、引き伸ばし治具29の個数をティース部2の個数と同じでかつ周方向に均等配置としたが、ヨーク部3の側面を均等に引き延ばすことができれば、ヨーク部3の内周に配置する引き伸ばし治具29の個数と周方向配置状態はこの限りではない。
なお、塑性歪みは最大でも0.2%未満であり、引き伸ばしに伴う固定子鉄心の伸びも同程度となる。このため、ヨーク部3を径方向に引き延ばすと回転子と固定子1との間のギャップも拡大することになるが、予めティース部2の径方向長さをその伸び分だけ長くすることで設計値通りのギャップに設定することができる。
【0031】
上述した固定子鉄心は、ティース部2とヨーク部3とが別体であったが、図13〜図15は、ヨーク部51とティース部52とが一体の固定子鉄心50について塑性歪み付与する例を示している。
この固定子鉄心50を構成する固定子鉄心片は、電磁鋼板で構成されたフープ材7からプレス加工工程で作製される。
固定子鉄心50に塑性歪みを付与するには冷間加工の一手法である引き伸ばし加工により行うことができる。
先ず、下部コレット治具34Bと一体となった引き伸ばし治具29を固定子鉄心50の各スロット部に挿入し、ヨーク部51の内周壁面に当接する。引き伸ばし治具29の上部には上部コレット治具34Aを嵌着させ、引き伸ばし治具29の下部には下部コレット治具34Bを嵌着させる。上部コレット治具34Aは、一個の円環状硬質ゴム板36上に一定の間隔で、接着されて連結されており、径方向、周方向に移動可能である。
次に、上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bをそれぞれ下降、上昇させると、各加圧棒30A,30Bの移動に連動して上部コレット治具34A、下部コレット治具34Bがヨーク部51の径外側方向に移動する。それに伴い引き伸ばし治具29も径外側方向に移動し、固定子鉄心50のヨーク部51を径外側方向に引き伸ばす。
この引き伸ばしに伴いヨーク部51には張力が発生する。
この張力の方向は、電動機稼働時にヨーク部51内を流れる磁束方向と同じ周方向であり、ヨーク部51の周方向に所定の塑性歪みを確実に与えることができる。
最後に、上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bをそれぞれ上昇、下降して上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bを解放すると、引き伸ばし治具29は、ガイドバネ32の弾性力により径内側方向に押し戻され固定子鉄心50のヨーク部51と離間する。
また、ヨーク部51を径方向に引き延ばすと回転子と固定子との間のギャップも拡大することになるが、ティース部52の径方向長さを予めその伸び分だけ長くすることで設計値通りのギャップに設定することができる。
【0032】
なお、図10〜図12のものは、ヨーク片3aを積層し、締結されたヨーク部3に塑性歪みを付与し、図13〜図15のものでは、固定子鉄心片を積層し、締結された固定子鉄心50に塑性歪みを付与する構成を示したが、締結前のヨーク片3a、固定子鉄心片単位で、あるいは複数枚のヨーク片3a、固定子鉄心片を積層したブロック毎に締結固定した鉄心ブロック単位で塑性歪みを与えるようにしてもよい。
【0033】
引き伸ばし加工の枚数が少なく、ヨーク片3a、固定子鉄心片、鉄心ブロックの径方向の引き伸ばし力に対し垂直方向に変形する懸念がある場合は、プレス加工でのストリッパーのような被加工物押さえを用意し、ヨーク片3a、固定子鉄心片、鉄心ブロックの平坦度を確保して加工を行えばよい。
このような方法によれば、固定子鉄心の積層締結状態の如何に関わらずヨーク部3,51の周方向に対し所定の塑性歪みを与えることができ、むしろ引き伸ばし加工時の加圧枚数が少なければ、加圧に必要な力が少なくてよく、加工が容易となることは言うまでもない。
【0034】
実施の形態2.
図16はこの発明の実施の形態2の電動機の固定子1及び外枠6を示す断面図である。
固定子1の固定子鉄心は、固定子鉄心ブロック1Aを円環状に配置、拘束した状態で隣接した固定子鉄心ブロック1A同士をスポット溶接等で溶着一体化して構成されている。
固定子鉄心ブロック1Aは、ティース部2Aとヨーク部3Aとが一体化されている。
概略T字形状の固定子鉄心ブロック1Aは、固定子鉄心ブロック片1aを複数枚厚み方向に積層して構成されている。この固定子鉄心ブロック片1aは、上記伸長・圧縮工程で所定の塑性歪みが所定の部位(ヨーク部3Aを構成する部位)に予め付与された無方向性電磁鋼板からプレス成形により概略T字形に形成されている。
他の構成は、実施の形態1と同じである。
【0035】
なお、上記固定子鉄心ブロック1Aは、ヨーク部3の分割面3cで完全に分割されているが、図17及び図18に示すように、各固定子鉄心ブロック片1aの隣接した連結部3d-1において回転の自由度を残しつつ整列連結させた状態で生産ラインに供給できれば生産性の点で非常に有利であることは言うまでもない。
図17の例では、固定子鉄心ブロック片1aの周方向の両端部の連結部3d-1は、薄肉連結されており、塑性変形で回転の自由度を与えている。
図18の例では、連結部3d-1で凹部3d-2、凸部3d-3が形成されており、各固定子鉄心ブロック片1aが連結部3d-1において各層ごとに交互に重合し、かつ凹部3d-2と凸部3d-3とが嵌合している。
【0036】
この実施の形態の固定子1でも、実施の形態1と同じように外枠6の嵌着に伴い発生する圧縮応力に対するヨーク部3での鉄損改善としては同じ効果が得られる。
また、直線的に整列配列した状態で、複数の固定子鉄心ブロック片1aを製造するようにすれば、固定子鉄心ブロック1Aのヨーク部3Aに対して所定の低塑性歪みを付与することが容易である。
また、固定子鉄心ブロック1A同士が突き当てて、あるいは交互重ねて接合された部位では、磁束歪みに伴う高調波鉄損の発生に対する抑制効果も得られる。
【0037】
次に、図16に示した固定子鉄心ブロック1Aの製造手順について説明する。
図19及び図20は固定子鉄心ブロック1Aを製造する一工程であり、フープ材7からプレス成形により固定子鉄心ブロック片1aを形成するプレス成形工程を示す図である。
このプレス成型工程の前工程では、フープ材7の上下一対の圧延ローラ8を用い、フープ材7の長手方向に伸長と板厚方向に圧縮させる伸長・圧縮工程がある。この伸長・圧縮工程では、フープ材7のうちティース片2Aaを避け、ヨーク片3Aaに相当する塑性歪み付与部位9に所定の塑性歪みを予め付与する。
この例では、二列の固定子鉄心ブロック片1aを製造する場合を示しており、フープ材7の幅方向対称位置に圧延ローラ8を二機並べ均等に塑性歪みを与えることで、フープ材7の長手方向での軸線が塑性歪み付与に伴い偏心することを防いでいる。
なお、圧延ローラ8がフープ材7の軸線偏心が起きないように配置すればよく、フープ材7の幅方向における塑性歪みを付与する塑性歪み付与部位9の数は2箇所に限定されるものではない。
さらに、ティース片aのプレス成形は、ヨーク片3Aaの成形と同一工程で行われるため、ティース片aの外周部を数段階に分けて打ち落とす工程をとることが多い。
この成形では、図21に示す、被加工物となる電磁鋼板の上部に位置するストリッパー12の電磁鋼板接触面内周部に、ティース片aの周端面の内側であって周面に沿って延びた溝部11を設けることで、打ち抜き時にパンチとダイから受けるティース片a内部への衝撃伝搬を溝部11で吸収抑制することができる。
なお、図21では溝部11は一筆書き状に形成されているが、個々の打ち抜きが行われる部位にのみ対応する溝部をストリッパー12に設けたとしても、得られる効果に変わりはない。
そして、上記のように製作された複数の固定子鉄心ブロック片1aを厚み方向に積層し、一体化して固定子鉄心ブロック1Aを製造する。
【0038】
また、上記実施の形態では、プレス成形前に冷間圧延により所定の塑性歪みを電磁鋼板に付与したが、固定子1のヨーク部3がヨーク部分割面3cで分割された固定子鉄心ブロック1Aで構成された場合には、図22及び図23に示すように、先の図11、図12で説明したと同じ引き伸ばしをヨーク部3の周方向に直接行う、即ち電磁鋼板に塑性歪みを付与する部位を面内方向の引張り応力を加え形成するような冷間加工の一手法である引張加工を用いた機構をプレス金型内に組み込むことができる。
【0039】
図22では、フープ7にヨーク部を含む塑性歪みを付与する部位13を分離するための外周スリット14〜18と、上記塑性歪みを付与する部位13の両端の穴19〜20とをプレス成形し、穴19〜20に上部金型21に組み込んだ左引張り用治具22と右引張り用治具23を挿入する。
左右の引張り用治具22〜23はバネ24〜25を介して各左右に移動する。
上部金型21を下降させると、左右の引張り用治具22〜23は、下部金型26に設けられた2箇所の引張り用治具移動ガイド穴27〜28に突き当たり左右へと移動する。
上記引張り用治具22〜23の移動に伴い、塑性歪みを付与する部位13には面内方向の引張り応力が加えられ、所定の塑性歪みを容易に与えることができる。
塑性歪みを付与した後、固定子鉄心ブロック片1aの外周部をプレス成形にて切り離し、その後固定子鉄心ブロック片1aを厚み方向に積層することで、固定子鉄心ブロック1Aが完成する。
【0040】
なお、固定子鉄心ブロック片1aのティース片aの外周部のプレス成型では、実施の形態1,2で説明した、溝部11を有するパンチ10あるいはストリッパー12を用いることで、ティース部内周部へのパンチとダイによる打ち抜き時の衝撃を低減し、ティース部内周部の磁気特性劣化を抑制できる。
【0041】
なお、上記各実施の形態では、回転電機として電動機について説明したが、この発明は、回転電機である発電機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 固定子、1A 固定子鉄心ブロック、1a 固定子鉄心ブロック片、2,2A,52 ティース部、2Aa ティース片、3,3A,51 ヨーク部、3a,3Aa ヨーク片、6 外枠、7 フープ材、29 引き延ばし治具、30A 上部加圧棒、30B 下部加圧棒、31 ガイドレール、32 ガイドバネ、34A 上部コレット治具、34B 下部コレット治具、50 固定子鉄心。
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁鋼板が積層されて構成され、円周方向に間隔をおいて形成された複数のティース部及び各ティース部を繋ぐ主磁束の経路となる円環状のヨーク部を有する固定子と、この固定子の外周面に嵌着した外枠とを備えた回転電機、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機である電動機においては、発生したトルクの伝達性を高めるため、さらには本願の一実施の形態例として挙げた複数に分割された固定子鉄心ブロックを円環状に配置して固定子を成形するものにおいては、その成形性(真円度)を高めるために、固定子の外周面に鉄やアルミニウム製の外枠が嵌着される。
この嵌着手段として、固定子の外径と外枠の内径との差を利用した方法、例えば焼嵌めや圧入といった方法が採用されている。
この場合、ヨーク部の周方向には大きな圧縮応力が作用し、ヨーク部の磁気特性(鉄損、磁化特性)が劣化、それに伴い電動機性能(ロストルク、効率)が悪化する。
この対策として、固定子にヨーク部での圧縮応力を分散させる空隙や切り欠きを設ける例(例えば、特許文献1参照)、あるいは圧縮応力条件下で磁気特性劣化が少ない鋼材を用いる例(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【0003】
上記特許文献1の図1に示された、円周方向に複数のティース部を有する固定子においては、そのティース部根元部と外枠とが接する固定子外周部との間に固定子外周部近傍の応力を緩和するための空隙部が設けられ、ティース部根元部が位置する固定子外周部を外枠に接触固定することで、固定子に加わる圧縮応力を低減し磁気特性の劣化を抑制している。
【0004】
また、上記特許文献2のものでは、焼嵌め固定された鉄心などの鋼板面内方向に圧縮応力が作用する用途において最適な電磁鋼板を選定する方法を提供するものである。
このものでは、上記用途の鉄心に、面内異方性指標Sを定義し、その値が0.06以下と、面内での磁気特性が等方性に近い無方向性電磁鋼板を使用することを特徴とする電動機鉄心用電磁鋼板の選定方法が示されている。
ここで、面内異方性指数Sは、鋼板の圧延方向から0°、45°、90°方向に周波数50Hz、磁化力5000A/mで励磁、測定した磁束密度B500、B5045、B5090と、それらの最大値Bmaxと最小値Bminを用いて、下式から求めている。
S=4×(Bmax-Bmin)/(B500+2B5045+B5090)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-354870号公報(第8頁、図1)
【特許文献2】特開2005-312155号公報(第2頁第49行〜第3頁第17行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、固定子に加わる応力を低減しかつ外枠との嵌合性も高めることができる反面、ティース部根元部でのコア幅が削減されるため電動機の負荷状態により磁束密度が上昇し鉄損が増加する、固定子の外枠への保持がティース部根元部のみとなる場合には、外枠からの応力によるティース部変形によりスロット部の間隔がティース部個々にばらつき易く、これに伴いティース部のロータ対向面の真円度が低下することで永久磁石電動機等ではコギングトルクが増加する、等の問題点があった。
【0007】
また、上記特許文献2のものでは、一般的にヒステリシス損の小さなハイグレード無方向性電磁鋼板ほど圧延方向を磁化容易方向に面内での異方性が大きくなる。
従って、上記特許文献2のものでの選別に従えば、通常のハイグレード材の使用ができないなど機器設計の自由度が狭められ、機器性能の低下や製品価格の上昇といった問題点があった。
【0008】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、固定子鉄心の材料として特定の無方向性電磁鋼板に限定されず、固定子鉄心構造として固定子鉄心中や外枠との接触部に空隙を設けること無く、外枠装着に伴う固定子鉄心の周方向に発生する圧縮応力の影響による鉄損の増加を抑制できる回転電機及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る回転電機は、電磁鋼板からなる固定子鉄心片を積層して構成され円周方向に間隔をおいて形成された複数のティース部及び各ティース部を繋ぐ主磁束の経路となる円環状のヨーク部を有する固定子鉄心を含む固定子と、この固定子の外周面に嵌着した外枠とを備えた回転電機であって、
前記ヨーク部は、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されている。
【0010】
この発明に係る回転電機の製造方法は、ヨーク部に付与される塑性歪みは、プレス成形工程により固定子鉄心片が成形される前、固定子鉄心片のプレス成形工程または固定子鉄心片が成形された後で冷間加工により付与される。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る回転電機によれば、ヨーク部は、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されているので、外枠装着に伴う固定子周方向に発生する圧縮応力の影響による鉄損の増加が抑制される。
【0012】
また、この発明に係る回転電機の製造方法によれば、ヨーク部に付与される塑性歪みは、プレス成形工程により固定子鉄心片が成形される前、固定子鉄心片のプレス成形工程または固定子鉄心片が成形された後で冷間加工により付与されるので、ヨーク部に塑性歪みを簡単に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1による電動機の固定子及びその外周面に嵌着された外枠を示す断面図である。
【図2】電磁鋼板試験材での応力と歪みとの関係を示す図である。
【図3】電磁鋼板試験材での塑性変形量と鉄損との関係を示す図である。
【図4】電磁鋼板試験材での弾性応力下における塑性変形量とヒステリシス損との関係を示す図である。
【図5】電磁鋼板試験材での弾性応力下における塑性変形量と渦電流損との関係を示す図である。
【図6】本願発明の実験結果を示す図である。
【図7】図1の固定子鉄心における製造工程の一工程を示す側断面図である。
【図8】図7の平面図である。
【図9】図1のティース片を成形する際に用いられるプレス金型のパンチの正面図である。
【図10】図1の固定子鉄心と異なるプレス加工工程を示す平面図である。
【図11】図10の次工程であってヨーク部に塑性歪みを付与する工程を示す平面図である。
【図12】図11のX-Y線に沿って切断したときの矢視断面図である。
【図13】図1の固定子鉄心と異なる固定子鉄心(ティース部とヨーク部とが一体である)でのヨーク部に塑性歪みを付与する工程を示す平面図である。
【図14】図13のX-Y線に沿って切断したときの矢視断面図である。
【図15】図14のX1-Y1線に沿って切断したときの矢視断面図である。
【図16】この発明の実施の形態2による電動機の固定子及びその外周面に嵌着された外枠を示す断面図である。
【図17】図16の固定子鉄心ブロックが展開された状態を示す図である。
【図18】図17の隣接した固定子鉄心ブロック同士の連結状態を示す図である。
【図19】図16の固定子鉄心における製造工程の一工程を示す側断面図である。
【図20】図19の平面図である。
【図21】図16のティース片を成形する際に用いられるプレス金型のストリッパーの正面図である。
【図22】図19に示した固定子鉄心の製造工程と異なる製造工程の一工程を示す側断面図である。
【図23】図22のX-Y線に沿って切断したときの矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の各実施の形態について、図に基づいて説明するが、各図において同一または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1の電動機の固定子1及び外枠6を示す断面図である。
この固定子1は、固定子鉄心と、この固定子鉄心にボビン5を介して導線が巻回して巻装された巻線4とを備えている。
固定子鉄心は、無方向性電磁鋼板をプレス成形したヨーク片を積層した円環状のヨーク部3と、同じく無方向性電磁鋼板をプレス成形したティース片を積層した複数のティース部2とから構成され、磁束の主通過経路となるヨーク部3の内周面に、各ティース部2の根元部が嵌着されている。
【0015】
この固定子1の外周面には、鉄またはアルミニウム製の円筒形状の外枠6が嵌着されている。
固定子1に外枠6を嵌着する手段としては、固定子1の外径と外枠6の内径との差を利用し、外枠6を加熱する焼嵌め方式、固定子1を冷却する冷やし嵌め方式がある。また、外枠6に固定子1を圧入する圧入方式もある。
ヨーク部3には、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されている。
このように、ヨーク部3のみに低塑性歪みを付与しているので、塑性歪みを付与していないヨーク部と比較し、ヒステリシス損は同等でしかも渦電流損は小さく、圧縮応力がヨーク部3内にて不均一に分布しても渦電流損は均一に分布する。
このため、ヒステリシス損と渦電流損の総和である鉄損は圧縮応力が作用しているにも拘わらず無歪みヨーク部と比較して減少させることができ、しかも応力集中部での渦電流損局部加熱も抑制できる。とりわけ、高速回転で運転される場合には鉄損の低減効果がより大きくなり、電動機の効率が向上する。
さらに、固定子1の内部あるいは外周部に外枠6からの圧縮応力を軽減する空隙等を形成する必要がないため、外枠6と固定子1との間での保持力向上、ヨーク部3の磁路断面が削減されないので、電動機の負荷状態による磁束密度の上昇とそれに伴う鉄損増加の抑制、固定子のティース部2の先端部での真円度確保が容易となる等の効果が得られる。
【0016】
以下、ヨーク部3に、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されたことによる、上記ヨーク部3の特性について、詳述する。
まず、固定子1の素材である無方向性電磁鋼板を対象に、塑性歪みの付与と鉄損影響の関係、さらには弾性応力が鋼板面内での磁路と平行に付加されている状態での鉄損影響との関係について検討した結果を説明する。
無方向性電磁鋼板への塑性歪みの付与は、平板を圧延方向と平行に所定の伸長率が得られるまで引張る方法により、歪み量が異なる複数の素板を作製した。測定に供した電磁鋼板はJISグレード35A230材で、JIS5号片による応力・歪み曲線を図2に示す。作製した素板の塑性歪み均一歪み部より幅30mm、長さ200mmの短冊状試料を長手が圧延方向となるようにワイヤー放電加工にて切り出し磁気測定に供した。
磁気測定は、応力付加機構付きシングルヨーク型単板磁気試験器により、磁気測定方向と平行に±150MPa範囲の弾性応力を試験片断面に付加しながら、磁束正弦波条件、励磁磁束密度1.5T、励磁周波数50Hz、70Hz、100Hzでの鉄損測定を行うと共に、それらの結果をもとに周波数分離を行い50Hz換算でのヒステリシス損、渦電流損を求めた。
【0017】
まず、塑性歪みの付与と鉄損影響の関係を図3に示す。
図3は無歪み試料のヒステリシス損と渦電流損の値を1とした時の各鉄損成分の変化率を示している。ヒステリシス損は塑性歪みの付与に伴い増加するのに対し、渦電流損の変化は僅かに減少傾向を見せているが、ヒステリシス損の変化に比べれば変化無しとみなせる。塑性歪みに対するヒステリシス損の急激な変化は、1%未満の低塑性歪み領域で起き、その歪み上限は、応力・歪み曲線での降伏点(≒0.2%耐力)の応力にて生ずる塑性歪みであることは両者のデータ比較より容易に推察可能である。
【0018】
次に、上記試料片に弾性応力を印加した場合の鉄損影響を図に示す。図4はヒステリシス損、図5は渦電流損の比較結果である。横軸弾性応力の±の記号は負が圧縮応力、正が引張り応力を示す。
まず、ヒステリシス損であるが、応力無付加の状態では、先にも述べたように歪み0%の無歪み試料が最もヒステリシス損が小さく、塑性歪みが増えるにつれヒステリシス損は増加する。圧縮応力が作用した場合も、無歪み試料、歪み付与試料とも圧縮応力の増加に伴いヒステリシス損は増加するが、とりわけ0〜-50MPa範囲でのヒステリシス増加量は無歪み試料で大きい。
一方、塑性歪みを与えた試料での増加量は無歪み試料より小さく、しかも歪み量に依存せずほぼ一定した変化である。このため、-50MPaを超える圧縮応力が作用すると、無歪み試料と0.1%歪みの値はほぼ同等となる。
一方、塑性歪みの付与により圧縮応力下での渦電流損変化量も大きく変化する。塑性歪みが付与された試料では圧縮応力に対する渦電流損の増加量は小さく、とりわけ0〜-50MPa範囲では無歪み試料のような大きな渦電流損増加の傾向が見られない。
【0019】
このように、本願発明者は、塑性歪みの付与は圧縮応力による渦電流損の劣化を抑制する効果があることを見出した。
このことから、塑性歪みの付与量により圧縮応力下でのヒステリシス損と渦電流損のバランスを制御すれば、固定子1を外枠6に嵌着した際のヨーク部3に生ずる圧縮応力による鉄損増加を低減可能であると思い至った。
図4のヒステリシス損と図5の渦電流損は50Hz換算しているが、一次線型近似による損失分離のため各損失成分値は損失係数の大小と読み替えることができる。
ヒステリシス損係数に大きな差異が無く、渦電流損係数が小さければ、励磁周波数が高くなるほど、即ち電動機においては高速回転での運転になるほど固定子鉄心で発生する鉄損を低く抑えることができる。
従って、付与可能な塑性歪みはどんなに多くとも図2に示した降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みを上限とする範囲に限定する必要がある。
【0020】
塑性歪みを0.1%付与した試料はこの発明の対象であり、その効果を図6に示す。
図6では、圧縮応力-50MPaにおける1.5T励磁での50Hz並びに100Hzの鉄損を比較した。塑性歪み0.1%試料では渦電流損の増加が抑制されたことにより、周波数が高いほど塑性歪み0%試料に比べ鉄損差が大きく低鉄損となっており、この発明の妥当性は明らかである。
【0021】
次に、上記固定子1を製造する手順について説明する。
図7及び図8は、円環状のヨーク片3aを電磁鋼板で構成された基材であるフープ材7から作製するプレス成形工程を示す図である。
このプレス成型工程の前工程では、フープ材7の上下一対の圧延ローラ8を用い、フープ材7の長手方向に伸長と板厚方向に圧縮させる伸長・圧縮工程がある。この伸長・圧縮工程では、フープ材7に所定の塑性歪みを予め付与する。
その後、プレル成形工程で塑性歪みを付与された塑性歪み付与部位9からプレス成形によりヨーク片3aを打ち抜き、電磁鋼板の基材であるフープ材7から分離する。
次に、ヨーク片3aを積層し、一体化して円環状のヨーク部3を製造する。
【0022】
上記手順にて塑性歪みを付与した円環状ヨーク部3が製造されるが、付与した歪み量の検査はX線回折等の方法により容易に行うことができる。
例えば、波長λのX線が多結晶体に照射され、これと傾きθ、間隔dの原子面によって散乱された時、ブラッグの条件を満たした場合に反射角θで反射が起こる。この時、回折線は入射方向に対し2θの角度で得られ、回折面となる原子面がΔdだけ変形したとすれば、それに伴う回折角の変動は以下の様に与えられる。
【0023】
2Δθ=2tAnθ・Δd/d
【0024】
試料内の歪みΔd/dの測定は、検査対象となるヨーク部のプレス加工端から適度に離れたプレス加工歪みの影響が少ない試料面にX線を照射し、X線源に近い方向に反射される回折線の位置を調べる背面反射法を用いればよい。また、測定値の校正は、格子定数、ブラッグ角が既知である比較用試料を検査対象表面の近くに置き同時測定すればよい。
【0025】
一方、ティース部2の作製はヨーク部3の作製工程とは別の工程で行われる。
このティース部2の製造では、上記伸長・圧縮工程を経ることなく、即ち所定の塑性歪みが付与されていない電磁鋼板から構成されたフープ材からプレス成形によりティース片を打ち抜き、フープ材から分離する。
この後、ティース片を積層し、一体化してティース部2を製造する。
なお、ヨーク片3aとティース片とから固定子鉄心片を構成している。
次に、各ティース部2に導線を巻回し巻線4を巻装し、最後に巻線4が巻装された各ティース部2の根元部をヨーク部3の内周部に嵌着する。
【0026】
図9はティース片の全体をワンショットプレス成形で打ち抜くパンチ10を示す正面図であり、パンチ10の電磁鋼板接触面の内周部に溝部11が形成されている。この溝部11は、ティース片の周端面の内側の周面に沿って延びた部位に対応している。
従って、プレス加工の際にパンチ10とダイ(図示せず)とから受ける衝撃がティース片の内部にまで伝搬せず、打ち抜きによる磁気特性の劣化を打ち抜き端面近傍のみに限定することができ、ティース片が積層されたティース部2の内部における鉄損増加を抑制することができる。
【0027】
一方、ティース片の全体を一括プレス抜き落としせずに、プレス打抜きを行う場合においては、被加工物となる未成形鋼板の上下に位置するストリッパーとダイ (いずれも図示せず)の内、ストリッパーの電磁鋼板接触面側に図9と同じ配置の溝部を設けることで、一体打ち抜きと同様、打ち抜き時にパンチ10とダイから受けるティース部2の内部への衝撃の伝搬を抑制することができる。
【0028】
図10〜図12は、図1の固定子鉄心と異なる別の製造方法でのプレス加工工程を示す平面図、図11は図10の次工程であってヨーク部3に塑性歪みを付与する工程を示す平面図、図12は図11のX-Y線に沿って切断したときの矢視断面図である。
図7、図8に示したものは、ヨーク片3aのプレス加工前に電磁鋼板の基材であるフープ材7に前もって塑性歪みを付与し、またヨーク片3aとティース片との作製は別のプレス加工工程で行っていたが、この例では、プレス加工後にヨーク部3に塑性歪みを付与した点、及び一連のプレス加工工程で同一のフープ材7から、固定子鉄心片を構成する、ヨーク片3a及びティース片が作製される点で異なる。
【0029】
ヨーク部3に塑性歪みを鋼板面内に付与するには冷間加工の一手法である引き伸ばし加工により行うことができる。
先ず、ヨーク部3の内周部に径外側方向に加圧するためには、図11に示すようにコレット状の引き伸ばし治具29をティース部2の個数(図11では12個)だけ均等に配置する。
次に、この引き伸ばし治具29の上下より上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bをそれぞれ下降、上昇させる。この結果、ガイドレール31に沿って各引き伸ばし治具29は、ヨーク部3の径方向に均等に移動してヨーク部3の内壁面に密着し、その後ヨーク部3を径外側方向に引き伸ばす。この引き伸ばしに伴いヨーク部3には張力が発生する。
この張力の方向は、電動機稼働時にヨーク部3内を流れる磁束方向と同じ周方向であり、ヨーク部3の周方向に所定の塑性歪みを確実に与えることができる。
最後に、上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bをそれぞれ上昇、下降して上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bを解放すると、引き伸ばし治具29は、ガイドバネ32の弾性力により径内側方向に押し戻されヨーク部3と離間する。
【0030】
例えば、ヨーク部3は、外径を107mm、幅を8mm、ヨーク片3aの積み高さによるヨーク部3の高さを80mmとすると、ヨーク部3の周方向に400MPaの応力を発生させるにはヨーク部3の側面に最大160トンの力を加える必要があるが、この程度のプレス能力を有する機器は容易に入手可能である。
この例では、引き伸ばし治具29の個数をティース部2の個数と同じでかつ周方向に均等配置としたが、ヨーク部3の側面を均等に引き延ばすことができれば、ヨーク部3の内周に配置する引き伸ばし治具29の個数と周方向配置状態はこの限りではない。
なお、塑性歪みは最大でも0.2%未満であり、引き伸ばしに伴う固定子鉄心の伸びも同程度となる。このため、ヨーク部3を径方向に引き延ばすと回転子と固定子1との間のギャップも拡大することになるが、予めティース部2の径方向長さをその伸び分だけ長くすることで設計値通りのギャップに設定することができる。
【0031】
上述した固定子鉄心は、ティース部2とヨーク部3とが別体であったが、図13〜図15は、ヨーク部51とティース部52とが一体の固定子鉄心50について塑性歪み付与する例を示している。
この固定子鉄心50を構成する固定子鉄心片は、電磁鋼板で構成されたフープ材7からプレス加工工程で作製される。
固定子鉄心50に塑性歪みを付与するには冷間加工の一手法である引き伸ばし加工により行うことができる。
先ず、下部コレット治具34Bと一体となった引き伸ばし治具29を固定子鉄心50の各スロット部に挿入し、ヨーク部51の内周壁面に当接する。引き伸ばし治具29の上部には上部コレット治具34Aを嵌着させ、引き伸ばし治具29の下部には下部コレット治具34Bを嵌着させる。上部コレット治具34Aは、一個の円環状硬質ゴム板36上に一定の間隔で、接着されて連結されており、径方向、周方向に移動可能である。
次に、上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bをそれぞれ下降、上昇させると、各加圧棒30A,30Bの移動に連動して上部コレット治具34A、下部コレット治具34Bがヨーク部51の径外側方向に移動する。それに伴い引き伸ばし治具29も径外側方向に移動し、固定子鉄心50のヨーク部51を径外側方向に引き伸ばす。
この引き伸ばしに伴いヨーク部51には張力が発生する。
この張力の方向は、電動機稼働時にヨーク部51内を流れる磁束方向と同じ周方向であり、ヨーク部51の周方向に所定の塑性歪みを確実に与えることができる。
最後に、上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bをそれぞれ上昇、下降して上部加圧棒30A、下部加圧棒30Bを解放すると、引き伸ばし治具29は、ガイドバネ32の弾性力により径内側方向に押し戻され固定子鉄心50のヨーク部51と離間する。
また、ヨーク部51を径方向に引き延ばすと回転子と固定子との間のギャップも拡大することになるが、ティース部52の径方向長さを予めその伸び分だけ長くすることで設計値通りのギャップに設定することができる。
【0032】
なお、図10〜図12のものは、ヨーク片3aを積層し、締結されたヨーク部3に塑性歪みを付与し、図13〜図15のものでは、固定子鉄心片を積層し、締結された固定子鉄心50に塑性歪みを付与する構成を示したが、締結前のヨーク片3a、固定子鉄心片単位で、あるいは複数枚のヨーク片3a、固定子鉄心片を積層したブロック毎に締結固定した鉄心ブロック単位で塑性歪みを与えるようにしてもよい。
【0033】
引き伸ばし加工の枚数が少なく、ヨーク片3a、固定子鉄心片、鉄心ブロックの径方向の引き伸ばし力に対し垂直方向に変形する懸念がある場合は、プレス加工でのストリッパーのような被加工物押さえを用意し、ヨーク片3a、固定子鉄心片、鉄心ブロックの平坦度を確保して加工を行えばよい。
このような方法によれば、固定子鉄心の積層締結状態の如何に関わらずヨーク部3,51の周方向に対し所定の塑性歪みを与えることができ、むしろ引き伸ばし加工時の加圧枚数が少なければ、加圧に必要な力が少なくてよく、加工が容易となることは言うまでもない。
【0034】
実施の形態2.
図16はこの発明の実施の形態2の電動機の固定子1及び外枠6を示す断面図である。
固定子1の固定子鉄心は、固定子鉄心ブロック1Aを円環状に配置、拘束した状態で隣接した固定子鉄心ブロック1A同士をスポット溶接等で溶着一体化して構成されている。
固定子鉄心ブロック1Aは、ティース部2Aとヨーク部3Aとが一体化されている。
概略T字形状の固定子鉄心ブロック1Aは、固定子鉄心ブロック片1aを複数枚厚み方向に積層して構成されている。この固定子鉄心ブロック片1aは、上記伸長・圧縮工程で所定の塑性歪みが所定の部位(ヨーク部3Aを構成する部位)に予め付与された無方向性電磁鋼板からプレス成形により概略T字形に形成されている。
他の構成は、実施の形態1と同じである。
【0035】
なお、上記固定子鉄心ブロック1Aは、ヨーク部3の分割面3cで完全に分割されているが、図17及び図18に示すように、各固定子鉄心ブロック片1aの隣接した連結部3d-1において回転の自由度を残しつつ整列連結させた状態で生産ラインに供給できれば生産性の点で非常に有利であることは言うまでもない。
図17の例では、固定子鉄心ブロック片1aの周方向の両端部の連結部3d-1は、薄肉連結されており、塑性変形で回転の自由度を与えている。
図18の例では、連結部3d-1で凹部3d-2、凸部3d-3が形成されており、各固定子鉄心ブロック片1aが連結部3d-1において各層ごとに交互に重合し、かつ凹部3d-2と凸部3d-3とが嵌合している。
【0036】
この実施の形態の固定子1でも、実施の形態1と同じように外枠6の嵌着に伴い発生する圧縮応力に対するヨーク部3での鉄損改善としては同じ効果が得られる。
また、直線的に整列配列した状態で、複数の固定子鉄心ブロック片1aを製造するようにすれば、固定子鉄心ブロック1Aのヨーク部3Aに対して所定の低塑性歪みを付与することが容易である。
また、固定子鉄心ブロック1A同士が突き当てて、あるいは交互重ねて接合された部位では、磁束歪みに伴う高調波鉄損の発生に対する抑制効果も得られる。
【0037】
次に、図16に示した固定子鉄心ブロック1Aの製造手順について説明する。
図19及び図20は固定子鉄心ブロック1Aを製造する一工程であり、フープ材7からプレス成形により固定子鉄心ブロック片1aを形成するプレス成形工程を示す図である。
このプレス成型工程の前工程では、フープ材7の上下一対の圧延ローラ8を用い、フープ材7の長手方向に伸長と板厚方向に圧縮させる伸長・圧縮工程がある。この伸長・圧縮工程では、フープ材7のうちティース片2Aaを避け、ヨーク片3Aaに相当する塑性歪み付与部位9に所定の塑性歪みを予め付与する。
この例では、二列の固定子鉄心ブロック片1aを製造する場合を示しており、フープ材7の幅方向対称位置に圧延ローラ8を二機並べ均等に塑性歪みを与えることで、フープ材7の長手方向での軸線が塑性歪み付与に伴い偏心することを防いでいる。
なお、圧延ローラ8がフープ材7の軸線偏心が起きないように配置すればよく、フープ材7の幅方向における塑性歪みを付与する塑性歪み付与部位9の数は2箇所に限定されるものではない。
さらに、ティース片aのプレス成形は、ヨーク片3Aaの成形と同一工程で行われるため、ティース片aの外周部を数段階に分けて打ち落とす工程をとることが多い。
この成形では、図21に示す、被加工物となる電磁鋼板の上部に位置するストリッパー12の電磁鋼板接触面内周部に、ティース片aの周端面の内側であって周面に沿って延びた溝部11を設けることで、打ち抜き時にパンチとダイから受けるティース片a内部への衝撃伝搬を溝部11で吸収抑制することができる。
なお、図21では溝部11は一筆書き状に形成されているが、個々の打ち抜きが行われる部位にのみ対応する溝部をストリッパー12に設けたとしても、得られる効果に変わりはない。
そして、上記のように製作された複数の固定子鉄心ブロック片1aを厚み方向に積層し、一体化して固定子鉄心ブロック1Aを製造する。
【0038】
また、上記実施の形態では、プレス成形前に冷間圧延により所定の塑性歪みを電磁鋼板に付与したが、固定子1のヨーク部3がヨーク部分割面3cで分割された固定子鉄心ブロック1Aで構成された場合には、図22及び図23に示すように、先の図11、図12で説明したと同じ引き伸ばしをヨーク部3の周方向に直接行う、即ち電磁鋼板に塑性歪みを付与する部位を面内方向の引張り応力を加え形成するような冷間加工の一手法である引張加工を用いた機構をプレス金型内に組み込むことができる。
【0039】
図22では、フープ7にヨーク部を含む塑性歪みを付与する部位13を分離するための外周スリット14〜18と、上記塑性歪みを付与する部位13の両端の穴19〜20とをプレス成形し、穴19〜20に上部金型21に組み込んだ左引張り用治具22と右引張り用治具23を挿入する。
左右の引張り用治具22〜23はバネ24〜25を介して各左右に移動する。
上部金型21を下降させると、左右の引張り用治具22〜23は、下部金型26に設けられた2箇所の引張り用治具移動ガイド穴27〜28に突き当たり左右へと移動する。
上記引張り用治具22〜23の移動に伴い、塑性歪みを付与する部位13には面内方向の引張り応力が加えられ、所定の塑性歪みを容易に与えることができる。
塑性歪みを付与した後、固定子鉄心ブロック片1aの外周部をプレス成形にて切り離し、その後固定子鉄心ブロック片1aを厚み方向に積層することで、固定子鉄心ブロック1Aが完成する。
【0040】
なお、固定子鉄心ブロック片1aのティース片aの外周部のプレス成型では、実施の形態1,2で説明した、溝部11を有するパンチ10あるいはストリッパー12を用いることで、ティース部内周部へのパンチとダイによる打ち抜き時の衝撃を低減し、ティース部内周部の磁気特性劣化を抑制できる。
【0041】
なお、上記各実施の形態では、回転電機として電動機について説明したが、この発明は、回転電機である発電機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 固定子、1A 固定子鉄心ブロック、1a 固定子鉄心ブロック片、2,2A,52 ティース部、2Aa ティース片、3,3A,51 ヨーク部、3a,3Aa ヨーク片、6 外枠、7 フープ材、29 引き延ばし治具、30A 上部加圧棒、30B 下部加圧棒、31 ガイドレール、32 ガイドバネ、34A 上部コレット治具、34B 下部コレット治具、50 固定子鉄心。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板からなる固定子鉄心片を積層して構成され円周方向に間隔をおいて形成された複数のティース部及び各ティース部を繋ぐ主磁束の経路となる円環状のヨーク部を有する固定子鉄心を含む固定子と、
この固定子の外周面に嵌着した外枠とを備えた回転電機であって、
前記ヨーク部は、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記ヨーク部と前記ティース部とはそれぞれ分割されて構成され、ヨーク部の内周面にティース部が嵌着されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記固定子鉄心は、隣接した前記ティース部間で前記ヨーク部を分割して構成された複数個のT字形の固定子鉄心ブロックを互いに連結して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
前記回転電機は、電動機である請求項1〜3の何れか1項に記載の回転電機。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記塑性歪みは、プレス成形工程により前記固定子鉄心片が成形される前に冷間加工により付与されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記塑性歪みは、プレス成形工程により前記固定子鉄心片が成形される工程で冷間加工により付与されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記塑性歪みは、プレス成形工程により前記固定子鉄心片が成形された後で冷間加工により付与されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7の何れか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記プレス成形工程では、被加工物である未成形鋼板に接触し前記ティース部の周面の内側であって周面に沿って延びた部位に対応した位置に溝部が形成されたパンチまたはストリッパを備えたプレス金型を用いて、前記ティース部はプレス抜き落としにより成形されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項1】
電磁鋼板からなる固定子鉄心片を積層して構成され円周方向に間隔をおいて形成された複数のティース部及び各ティース部を繋ぐ主磁束の経路となる円環状のヨーク部を有する固定子鉄心を含む固定子と、
この固定子の外周面に嵌着した外枠とを備えた回転電機であって、
前記ヨーク部は、弾性限界を超え降伏点未満の外部応力に伴う塑性歪みが付与されていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記ヨーク部と前記ティース部とはそれぞれ分割されて構成され、ヨーク部の内周面にティース部が嵌着されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記固定子鉄心は、隣接した前記ティース部間で前記ヨーク部を分割して構成された複数個のT字形の固定子鉄心ブロックを互いに連結して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
前記回転電機は、電動機である請求項1〜3の何れか1項に記載の回転電機。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記塑性歪みは、プレス成形工程により前記固定子鉄心片が成形される前に冷間加工により付与されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記塑性歪みは、プレス成形工程により前記固定子鉄心片が成形される工程で冷間加工により付与されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記塑性歪みは、プレス成形工程により前記固定子鉄心片が成形された後で冷間加工により付与されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7の何れか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記プレス成形工程では、被加工物である未成形鋼板に接触し前記ティース部の周面の内側であって周面に沿って延びた部位に対応した位置に溝部が形成されたパンチまたはストリッパを備えたプレス金型を用いて、前記ティース部はプレス抜き落としにより成形されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2010−279243(P2010−279243A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98197(P2010−98197)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発 要素技術開発 次世代自動車用高性能モータ蓄電パワエレシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発 要素技術開発 次世代自動車用高性能モータ蓄電パワエレシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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