説明

回転電機

【課題】回転電機において、固定子で生じる磁界に含まれる高調波成分である空間高調波を回転子のコイルに多く鎖交させて、トルクを有効に増大することである。
【解決手段】回転電機10は、回転磁界を生じさせるステータ12と、回転磁界に含まれる高調波成分によって誘導起電力が生じるようにロータ巻線42n、42sが巻線されるとともに、誘導起電力によって磁極が生じるように構成されたロータ14とを含む。ステータ12は、高調波成分を、ステータ12からロータ14に誘導する誘導部である補助極48を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転磁界を生じさせる固定子を備える回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に記載されているように、回転子であるロータにコイルであるロータ巻線を設けるとともに、固定子であるステータで発生した起磁力に生じる高調波成分である空間高調波を含む磁界によりロータ巻線に誘導電流を生じさせ、ロータにトルクを発生させる回転電機が知られている。特許文献1に記載された回転電機は、ステータと、ステータの径方向内側に配置されたロータとを備える。ステータは、ステータコアの周方向複数個所に設けられたティースを備える。ステータのティースに複数相のステータ巻線が集中巻きで巻装されている。複数相のステータ巻線に複数相の交流電流を流すことでステータに、周方向に回転する回転磁界を生成することができる。
【0003】
また、ロータは、ロータコアの周方向複数個所に設けられた突極を備える。各突極にロータ巻線が巻装されている。各ロータ巻線は、1つ置きに隣り合う突極に巻回されるロータ巻線同士で直列に接続されるが、ロータの周方向に隣り合うロータ巻線同士では電気的に分断されており、分断されたロータ巻線毎にダイオードが接続されている。ロータの周方向に隣り合うロータ巻線に接続されたダイオードは、互いに逆向きに対応するロータ巻線に接続され、隣り合うロータ巻線で流れる電流の向きが逆になる。これにより、各ロータ巻線にダイオードの整流方向に応じた直流電流が流れると、上記周方向に隣り合う突極同士で磁気方向が逆になり、ロータの周方向にN極とS極とが交互に並ぶように各突極に磁石が形成される。
【0004】
このような回転電機では、突極がステータの回転磁界と相互作用してロータにトルクが作用する。また、ステータにより形成される磁界の高調波成分を利用してロータに作用するトルクを効率よく増大させることができる。なお、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献1の他に特許文献2〜6がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−279165号公報
【特許文献2】特開2007−185082号公報
【特許文献3】特開2010−98908号公報
【特許文献4】特開2010−11079号公報
【特許文献5】特開2004−187488号公報
【特許文献6】特開2009−183060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、回転電機において、固定子で生じる磁界に含まれる高調波成分を回転子のコイルに多く鎖交させて、トルクを有効に増大できる回転電機を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転電機及び回転電機駆動システムは、上記の目的を達成するために以下の手段を採用する。
【0008】
本発明に係る回転電機は、回転磁界を生じさせる固定子と、前記回転磁界に含まれる高調波成分によって起電力が生じるようにコイルが巻線されるとともに、前記起電力によって磁極が生じるように構成された回転子とを備え、前記回転子は、前記高調波成分を、前記固定子から前記回転子に誘導する誘導部を有することを特徴とする回転電機である。
【0009】
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、前記回転子は、前記起電力によって磁極が生じるように形成された磁極部を備えている。
【0010】
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、前記誘導部は、前記固定子に近接するように設けられる。より好ましくは、前記誘導部は、前記回転子において、前記回転子の回転中心を中心として描かれる最大外接円に接するように設けられる。
【0011】
また、本発明に係る回転電機において、好ましくは、前記誘導部は、前記起電力の発生を大きくするように、前記高調波成分を誘導する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の回転電機駆動システムによれば、固定子で生じる磁界に含まれる高調波成分を回転子のコイルに多く鎖交させて、トルクを有効に増大できる回転電機を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る回転電機において、ロータ巻線に整流素子であるダイオードを結合している様子を示す略図である。
【図2】図1の回転電機において、ダイオードを省略して、ステータとロータとの対向する部分の周方向一部を示す概略断面図である。
【図3】図2のA部を拡大して詳しく示す図である。
【図4】本発明の実施の形態において、ロータ巻線に流れる誘導電流により生成される磁束がロータ中に流れる様子を示す模式図である。
【図5】図1の回転電機において、周方向に関するロータ巻線の幅θを変化させながらロータ巻線への鎖交磁束の振幅を計算した結果を示す図である。
【図6A】補助極を有しない比較例の回転電機でのシミュレーション結果において、ステータ電流を異ならせた回転数トルク特性を示す図である。
【図6B】比較例の回転電機でのシミュレーション結果において、ステータ電流を異ならせたロータ起磁力と回転数との関係を示す図である。
【図7A】本発明の実施の形態の回転電機でのシミュレーション結果において、ステータ電流を異ならせた回転数トルク特性を示す図である。
【図7B】本発明の実施の形態の回転電機でのシミュレーション結果において、ステータ電流を異ならせたロータ起磁力と回転数との関係を示す図である。
【図8A】補助極を有しない比較例と実施例1,2とを用いて行ったシミュレーション結果において、ロータ巻線での空間高調波鎖交磁束を示す図である。
【図8B】比較例と実施例1,2とを用いて行ったシミュレーション結果において、ロータ巻線の自己インダクタンスを示す図である。
【図8C】比較例と実施例1,2とを用いて行ったシミュレーション結果において、ロータ巻線でのロータ誘導電流を示す図である。
【図8D】比較例と実施例1,2とを用いて行ったシミュレーション結果において、回転電機のトルクを示す図である。
【図9A】補助極を有しない比較例を用いて行ったシミュレーション結果において、空間高調波の磁束線を示す略図である。
【図9B】本発明の実施の形態を用いて行ったシミュレーション結果において、空間高調波の磁束線を示す略図である。
【図10A】補助極を有しない比較例を用いて行ったシミュレーション結果において、ロータ誘導電流により生じた磁束線を示す略図である。
【図10B】本発明の実施の形態において補助極の根元部を磁性材製とした実施例1を用いて行ったシミュレーション結果において、ロータ誘導電流により生じた磁束線を示す略図である。
【図10C】本発明の実施の形態において補助極の根元部を非磁性材製とした実施例2を用いて行ったシミュレーション結果において、ロータ誘導電流により生じた磁束線を示す略図である。
【図11】本発明の実施形態に係る回転電機を含む回転電機駆動システムの1例の概略構成を示す図である。
【図12】図11の回転電機駆動システムにおいて、制御装置の構成を示すブロック図である。
【図13A】図11の回転電機駆動システムにおけるステータ電流の時間的変化の1例を、d軸電流指令値Id*と重畳後q軸電流指令値Iqsum*と各相電流とで示す図である。
【図13B】図13Aに対応するロータ起磁力の時間的変化を示す図である。
【図13C】図13Aに対応するモータトルクの時間的変化を示す図である。
【図14】図11の回転電機駆動システムにおいて、q軸電流を一定値とした場合(a)と、q軸電流に減少パルス電流を重畳させた場合の前期(b)と、q軸電流に減少パルス電流を重畳させた場合の後期(c)とで、ステータとロータとに磁束が通過する様子を示す模式図である。
【図15】ステータ電流に増加パルス電流を重畳させる場合の回転電機駆動システムにおいて、U相のステータ巻線に流す電流(ステータ電流)と、ロータ巻線に生じる誘導電流(ロータ誘導電流)との1例を示す図である。
【図16】本発明の別の実施の形態の回転電機において、q軸電流にパルス電流を重畳させた場合の変化を示すロータの模式図である。
【図17】図11の回転電機駆動システムにおいて、パルス電流の重畳状態を変化させる例を説明するための回転電機の回転数とトルクとの関係を示す図である。
【図18】本発明の実施の形態の別の回転電機のロータを示す略図である。
【図19】本発明の実施の形態の別の回転電機のロータを示す略図である。
【図20】本発明の実施の形態の別の回転電機のロータを示す略図である。
【図21】本発明の実施の形態の別の回転電機のロータを示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。図1〜3は、本発明の実施形態を示す図である。図1は、本発明の実施の形態に係る回転電機において、ロータ巻線に整流素子であるダイオードを結合した様子を示す略図である。図2は、図1の回転電機において、ダイオードを省略して、ステータとロータとの対向する部分の周方向一部を示す概略断面図である。図3は、図2のA部を拡大して詳しく示す図である。図1に示すように、電動機または発電機として機能する回転電機10は、図示しないケーシングに固定された固定子であるステータ12と、ステータ12と所定の空隙をあけて径方向内側に対向配置され、ステータ12に対し回転可能な回転子であるロータ14とを備える(なお、「径方向」とはロータの回転中心軸に対し直交する放射方向をいう。以下、特に断らない限り「径方向」の意味は同じである。)。
【0015】
また、ステータ12は、ステータコア26と、ステータコア26の周方向箇所に配置されたティース30と、各ティース30に配設された、すなわち巻線された複数相(より具体的にはu相、v相、w相の3相)のステータ巻線28u,28v,28wとを含む。すなわち、ステータコア26の内周面には、径方向内側へ(ロータ14へ向けて)突出する複数のステータティースであるティース30がロータ14の回転中心軸まわりの周方向に沿って互いに間隔をおいて配列されており、各ティース30間にスロット31が形成されている(なお、「周方向」とはロータの回転中心軸を中心として描かれる円形に沿う方向をいう。以下、特に断らない限り「周方向」の意味は同じである。)。ステータコア26及び複数のティース30は磁性材により、一体に設けられている。
【0016】
各相のステータ巻線28u,28v,28wは、スロット31を通ってティース30に短節集中巻で巻装されている。このように、ティース30にステータ巻線28u,28v,28wが巻装されることで磁極が構成される。そして、複数相のステータ巻線28u,28v,28wに複数相の交流電流を流すことで、周方向に並べられたティース30が磁化し、周方向に回転する回転磁界をステータ12に生成することができる。なお、ステータ巻線は、このようにステータティースに巻線する構成に限定するものではなく、ステータティースから外れたステータコアに巻線することもできる。
【0017】
ティース30に形成された回転磁界は、その先端面からロータ14に作用する。図1に示す例では、3相(u相、v相、w相)のステータ巻線28u,28v,28wがそれぞれ巻装された3つのティース30により1つの極対が構成されている。
【0018】
また、ロータ14は、円筒状のロータコア16と、ロータコア16の外周面の周方向複数個所に、径方向外側に向けて(ステータ12に向けて)突出して設けられた突部であり、かつ主突極であり、かつ、磁極部、すなわちロータティースであるティース19と、複数のコイルであるロータ巻線42n、42sとを含む。ロータコア16及び複数のティース19は磁性材により、一体に設けられている。より詳しくは、ロータ14の周方向に関して1つおきのティース19に複数の第1ロータ巻線42nをそれぞれ集中巻きで巻線し、第1ロータ巻線42nを巻線したティース19と隣り合うティース19であって、周方向1つおきのティース19に、複数の第2ロータ巻線42sをそれぞれ集中巻きで巻線している。また、複数の第1ロータ巻線42nを含む第1ロータ巻線回路44と、複数の第2ロータ巻線42sを含む第2ロータ巻線回路46とに、それぞれ1ずつの磁気特性調整部であり整流素子であるダイオード21n、21sを接続している。すなわち、ロータコア16の周方向複数個所に第1ロータ巻線42n及び第2ロータ巻線42sを、それぞれ集中巻きで巻装している。また、ロータ14の周方向に1つおきに配置された複数の第1ロータ巻線42nは、電気的に直列に接続され、かつ無端状に接続されるとともに、その間の一部に整流素子であり第1ダイオードであるダイオード21nが各第1ロータ巻線42nと直列に接続されることで、第1ロータ巻線回路44が構成されている。各第1ロータ巻線42nは、同じ磁極(N極)として機能するティース19に巻装されている。
【0019】
また、複数の第2ロータ巻線42sは、電気的に直列に接続され、かつ無端状に接続されるとともに、その間の一部に整流素子である第2ダイオードであるダイオード21sが各第2ロータ巻線42sと直列に接続されることで、第2ロータ巻線回路46が構成されている。各第2ロータ巻線42sは、同じ磁極(S極)として機能するティース19に巻装されている。また、周方向に隣り合う(異なる磁極の磁石が形成される)ティース19に巻装されたロータ巻線42n、42sは、互いに電気的に分断されている。
【0020】
また、ロータ14の周方向に隣り合うティース19同士で、異なる磁極の磁石が形成されるように、各ダイオード21n、21sによるロータ巻線42n、42sの電流の整流方向を互いに逆方向にしている。すなわち、周方向において隣り合うように配置されたロータ巻線42nとロータ巻線42sとで流れる電流の向き(ダイオード21n、21sによる整流方向)、すなわち順方向が互いに逆になるように、ダイオード21n、21sがロータ巻線42n、42sに接続されている。また、各ロータ巻線42n、42sの巻回中心軸は径方向と一致している。そして各ダイオード21n、21sは、ステータ12で生成される高調波成分である空間高調波を含む回転磁界による誘導起電力の発生により、対応するロータ巻線42n、42sに流れる電流を整流することで、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線42n、42sに流れる電流の位相を、A相とB相とに交互に異ならせている。A相は、対応するティース19の先端側にN極を生成するものであり、B相は、対応するティース19の先端側にS極を生成するものである。すなわち、ロータ14に設けられる整流素子は、ロータ巻線42n、42sにそれぞれ接続される第1整流素子であるダイオード21nと第2整流素子であるダイオード21sとである。また、ダイオード21n、21sは、誘導起電力の発生により、対応するロータ巻線42n、42sに流れる電流を独立して整流し、各ロータ巻線42n、42sに流れる電流により生成される周方向複数個所のティース19の磁気特性を周方向に交互に異ならせている。このように、複数のダイオード21n、21sは、ロータ巻線42n、42sに発生する誘導起電力によって複数のティース19に生じる磁気特性を、周方向で交互に異ならせている。この構成では、後述する図18に示す別の実施の形態の場合と異なり、ダイオード21n、21sの数を2つに減らすことができ、ロータ14の巻線構造を簡略化することができる。また、ロータ14は、図示しないケーシングに回転可能に支持された回転軸22(図18,20等参照、図1では図示を省略する。)の径方向外側に同心に固定している。なお、各ロータ巻線42n、42sは、対応するティース19に、樹脂等により造られる電気絶縁性を有するインシュレータ等を介して巻装することもできる。
【0021】
また、ロータ14の周方向に関するロータ巻線42n、42sの幅θは、ロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、ロータ巻線42n、42sは、それぞれティース19に短節巻きで巻装されている。より好ましくは、ロータ14の周方向に関するロータ巻線42n、42sの幅θは、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく、あるいはほぼ等しくしている。ここでのロータ巻線42n,42sの幅θについては、ロータ巻線42n,42sの断面積を考慮して、ロータ巻線42n,42sの断面の中心幅で表すことができる。すなわち、ロータ巻線42n,42sの内周面の幅と外周面の幅との平均値でロータ巻線42n,42sの幅θを表すことができる。なお、ロータ14の電気角は、ロータ14の機械角にロータ14の極対数pを乗じた値で表される(電気角=機械角×p)。このため、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θは、ロータ14の回転中心軸からロータ巻線42n,42sまでの距離をrとすると、以下の(1)式を満たす。
【0022】
θ<π×r/p (1)
このように幅θを規制している理由は、後で詳しく説明する。
【0023】
特に、本実施の形態では、ロータコア16は、ロータ14の周方向に隣り合うティース19同士の間の周方向の中央位置等、隣り合うティース19同士の間にそれぞれ配置されている複数の誘導部である補助極48を含んでいる。このような各補助極48は、ステータ12で生じる回転磁界に含まれる高調波成分であり、後で詳しく説明する空間高調波を、ステータ12からロータ14に誘導する機能を有する。また、各補助極48は、ロータ14に、ステータ12に対して、ステータ12とロータ14との間の厚さの小さい隙間を介して近接するように設けられている。より好ましくは、補助極48は、ロータ14において、ロータ14の回転中心軸を中心として描かれる仮想の最大外接円にその先端が接するように設けられる。例えば、この最大外接円にティース19の先端が接する場合に、補助極48の先端も接するようにする。各補助極48は、少なくとも一部が磁性材により構成されることで、磁性を有している。例えば、図2、図3に示すように、ロータコア16の外周面で、周方向に隣り合うティース19同士の間に設けられた溝部であるスロット50の底面において、周方向中央部に補助極48が、それぞれステータ12側である、径方向外側に突出するように設けられている。各補助極48は、非磁性材料により構成される根元部52と、根元部52の先端側に連結され、磁性材料により構成される先端部54とを有する。根元部52は、ロータ14の径方向に関する内端である根元端をロータコア16の外周面に一体に結合固定している。このように複数の補助極48は、ロータコア16の外周面からステータ12へ向けて突出するように設けられるとともに、磁性を有する先端部54と、磁性を有しない根元部52とからそれぞれ構成されている。また、根元部52と先端部54とをそれぞれ周方向に切断した場合の断面形状を略矩形状としている。ただし、根元部52と先端部54との形状はこのような例に限定するものではない。
【0024】
また、図3に示すように、根元部52の周方向に関する厚さT1は先端部54の周方向に関する厚さT2よりも小さくする(T1<T2)ことで、先端部54と根元部52との連結部に段差部56が設けられている。段差部56は、ロータ14の径方向内側に向いている。根元部52は、先端部54の段差部56の径方向内側面の周方向中央部に結合されている。すなわち、先端部54と根元部52とは、段差部56を介して連結されている。なお、図3では、ロータ巻線42s、42nを断面矩形の角線または平角線として示しているが、これに限定するものではなく、例えばロータ巻線42s、42nを断面丸形の丸線により構成することもできる。また、先端部54は、例えばロータコア16を構成する材料と同じ、例えば磁性鋼板、鋼等の磁性材料により形成することができる。これに対して根元部52は、樹脂やステンレス鋼等の非磁性金属等の非磁性材料により形成されている。
【0025】
なお、各補助極48は、磁性材料製のロータコア16に一体で作成する際に、根元部52を非磁性化することで形成することもできる。例えば補助極48とティース19を含むロータコア16とを一体で作成した後、ニッケルを供給しつつ行うレーザ照射等により根元部52を非磁性化することもできる。また、補助極48を、先端側の磁性材料部分にステンレス鋼等の非磁性材料部分を結合した構成として、補助極48を他のロータコア16部分に溶接等で結合することもできる。また、樹脂等の非磁性材料製の根元部52をティース19及び先端部54とは別に作成しておき、根元部52を他のロータコア16部分及び先端部54に係合部等で機械的に結合させることもできる。例えば、補助極48の根元部52の根元端に断面積が急に大きくなる拡大部を設けるとともに、ロータコア16の外周面の根元部52を結合する部分に孔部を形成し、孔部の奥部に拡大部を係止できる係止部を形成しておき、上記の拡大部を弾性変形させつつ孔部に挿入し、係止部に拡大部を係止することで根元部52をロータコア16に結合することもできる。また、同様に、根元部52に形成した別の拡大部に先端部54を機械的に結合することもできる。
【0026】
また、ロータ14では、図4に模式図で示すように、ロータ14の周方向に隣り合うティース19に巻装されるロータ巻線42n、42s同士で別のダイオード21n、21sが接続されており、ステータ12(図1、図2)で生成された高調波を含む回転磁界が鎖交することで、各ロータ巻線42n、42sにダイオード21n、21sで方向を規制された誘導電流が誘導され、各ティース19が隣り合うティース19同士で異なる磁極部として磁化する。この場合、図4の矢印αで示す方向に誘導電流による磁束が、ティース19とロータコア16とに流れる。
【0027】
図1に戻って、本実施の形態の回転電機10は、上記のようなロータ14と、ロータ14の径方向外側に対向配置されたステータ12とにより構成されている。このような回転電機10によれば、ステータ12で発生した空間高調波を含む回転磁界によりロータ巻線42n、42sに誘導電流を生じさせ、ロータ14にトルクを発生させることができる。すなわち、ステータ12に回転磁界を発生させる起磁力の分布は、各相のステータ巻線28u,28v,28wの配置や、ティース30及びスロット31によるステータコア26の形状に起因して、(基本波のみの)正弦波分布にはならず、高調波成分を含むものとなる。特に、集中巻においては、各相のステータ巻線28u,28v,28wが互いに重なり合わないため、ステータ12の起磁力分布に生じる高調波成分の振幅レベルが増大する。例えばステータ巻線28u,28v,28wが3相集中巻の場合は、高調波成分として、入力電気周波数の(時間的)3次成分である空間的な2次成分の振幅レベルが増大する。このようにステータ巻線28u,28v,28wの配置やステータコア26の形状に起因して起磁力に生じる高調波成分は空間高調波と呼ばれている。すなわち、ステータ12は、磁界を発生させ、その磁界は、高調波成分である空間高調波を含んでいる。また、ロータ14は、空間高調波によって誘導起電力が生じるようにロータ巻線42n、42sが巻線されている。また、その誘導起電力によってロータ14に設けられたティース19に磁極が生じるように構成されている。また、ロータ14に設けられた各補助極48は、空間高調波を、ステータ12からロータ14に誘導する。また、各補助極48は、ステータ12に近接するように設けられ、かつ、ロータ巻線42n、42sに生じる誘導起電力の発生を大きくするように、空間高調波を誘導するように設けられている。
【0028】
また、3相のステータ巻線28u,28v,28wに3相の交流電流を流すことでティース30に形成された回転磁界(基本波成分)がロータ14に作用するのに応じて、ロータ14の磁気抵抗が小さくなるように、ティース19がティース30の回転磁界に吸引される。これによって、ロータ14にトルク(リラクタンストルク)が作用する。
【0029】
さらに、ティース30に形成された空間高調波を含む回転磁界がロータ14の各ロータ巻線42n,42sに鎖交すると、各ロータ巻線42n,42sには、空間高調波によりロータ14の回転周波数(回転磁界の基本波成分)と異なる周波数の磁束変動が生じる。この磁束変動によって、各ロータ巻線42n,42sに誘導起電力が発生する。この誘導起電力の発生に伴って各ロータ巻線42n,42sに流れる電流は、各ダイオード21n,21sにより整流されることで一方向(直流)となる。そして、各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が各ロータ巻線42n,42sに流れるのに応じてロータティースである各ティース19が磁化することで、磁極が(N極かS極のいずれか一方に)固定された磁石が各ティース19に生じる。前述のように、ダイオード21n,21sによるロータ巻線42n,42sの電流の整流方向が互いに逆方向であるため、各ティース19に生じる磁石は、周方向においてN極とS極が交互に配置されたものとなる。そして、各ティース19(磁極が固定された磁石)の磁界がステータ12により生成される回転磁界(基本波成分)と相互作用して、吸引及び反発作用が生じる。このステータ12により生成される回転磁界(基本波成分)とティース19(磁石)の磁界との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)によっても、ロータ14にトルク(磁石トルクに相当するトルク)を作用させることができ、ロータ14がステータ12で生成される回転磁界(基本波成分)に同期して回転駆動する。このように回転電機10は、ステータ巻線28u,28v,28wへの供給電力を利用してロータ14に動力(機械的動力)を発生させる電動機として機能させることができる。
【0030】
しかも、本実施の形態の回転電機10によれば、ステータ12で生じる磁界に含まれる空間高調波を、ステータ12からロータ14に誘導する誘導部である補助極48が設けられている。このため、空間高調波をロータ14のロータ巻線42n、42sに多く鎖交させて、その磁束の変化を大きくし、ロータ巻線42n、42sに誘導される誘導電流を大きくできる。このため、結果としてロータ磁力を増加させ、トルクを有効に増大できる回転電機10を実現することができる。
【0031】
特に、補助極48は、ロータ14のティース19間に一部が磁性材により構成されるように設けられている。このため、ステータ12で生成される磁界に含まれ、ロータ巻線42n、42sに鎖交する空間高調波、特に、空間2次高調波を、補助極48により増大させることができ、その磁束の変化を大きくし、ロータ巻線42n、42sに誘導される誘導電流を大きくできる。したがって、ロータ磁力を増加させ、運転領域のほぼ全域等、多くの領域でトルクを有効に増大させることができる。また、補助極48は、ステータ12に近接するように設けられ、かつ、ロータ巻線42n、42sに生じる誘導起電力の発生を大きくするように、空間高調波を誘導するように設けられている。このため、回転電機10のトルクをより有効に増大させることができる。
【0032】
また、各補助極48は、ロータコア16の外周面において、ロータ14の周方向に隣り合うティース19同士の間にステータ12へ向け突出するように結合されており、非磁性材により構成される根元部52と、磁性材により構成される先端部54とを有する。このため、ロータ14のS極となるティース19からN極となるティース19へ、ロータコア16を介して内部を通過する磁束が根元部52で短絡されるのを防止でき、本来、ロータ14とステータ12との間で磁気吸引力を発生させるためにティース19を通過する磁束が減少するのを有効に防止できる。このため、ロータ巻線42n、42sの自己インダクタンスが増大するのを抑制できるので、ロータ巻線42n、42sに生じる誘導電流をより増大でき、回転電機10のトルクをより増大できる。
【0033】
また、各補助極48は、根元部52と、根元部52に連結され、根元部52よりも周方向に関する厚さT2が大きくなっている先端部54とを有する。このため、根元部52の周方向の厚さT1を小さくすることで、根元部52を通過する磁束を飽和させることができる。このため、これによっても、本来、ロータ14とステータ12との間で磁気吸引力を発生させるためにティース19を通過する磁束が減少するのを有効に防止でき、ロータ巻線42n、42sの自己インダクタンスが増大するのを抑制できる。したがって、ロータ巻線42n、42sに生じる誘導電流を増大でき、回転電機10のトルクをより増大できる。
【0034】
これに対して、上記の特許文献1に記載された回転電機の場合、ロータの周方向に隣り合う、ロータ巻線が巻線されたロータティースに対応する突極の間に補助極が設けられていないため、トルクを有効に高くする面から改良の余地がある。すなわち、特許文献1に記載された回転電機の場合も、ステータで生成される回転磁界の高調波成分による磁場変動により、ロータ巻線に誘導電流を生じさせることで、トルクを生じさせる。ただし、空間高調波は、ロータに設けられた、隣り合う突極同士の間の磁気抵抗が高い空間を多く通過するので磁束を必ずしも多くできない可能性がある。このため、ロータのトルクを有効に高くする面から改良の余地がある。
【0035】
また、上記の特許文献2〜4には、パルス電流の重畳を利用する界磁巻線型同期機が記載されているが、回転磁界に含まれる空間高調波をロータ巻線に多く鎖交させて、トルクを有効に増大できる手段は開示されていない。
【0036】
また、上記の特許文献5には、ステータコアの内周に複数の主歯を設けるとともに、隣り合う主歯の間のスロット部に副歯を設けており、主歯にコイルを巻回したときにコイルの外周面を副歯と密接するようにしたステータを有する回転電機が記載されている。また、上記の特許文献6には、永久磁石付ロータを備える回転電機において、ステータの巻線ポールの周方向に関するピッチで、いずれかの巻線ポールのピッチと、他の巻線ポールのピッチとが異なるようにしている回転電機が記載されている。ただし、特許文献5,6のいずれに記載された構造も、回転磁界に含まれる空間高調波をロータ巻線に多く鎖交させて、トルクを有効に増大できるものではない。特許文献2〜6に記載された構成で、トルクを高くするために回転電機のコア厚さを大きくすると、回転電機が大型化したり、コスト上昇や重量増大を招く要因となる。また、トルクを高くするためにステータ電流を増加させると、銅損が増加して燃費が低下したり、インバータが大型化して、コスト上昇、重量増大、搭載性及び冷却性悪化を招く要因ともなる。本実施の形態の回転電機10によれば、上記の不都合をいずれも解消できる。
【0037】
また、本実施の形態では、各ロータ巻線42n、42sのロータ14の周方向に関する幅θを上記の(1)式で述べたように規制しているので、ロータ巻線42n、42sに発生する、回転磁界の空間高調波による誘導起電力を大きくすることができる。すなわち、空間高調波によるロータ巻線42n,42sへの鎖交磁束の振幅(変動幅)は、周方向に関するロータ巻線42n,42sの幅θにより影響を受ける。ここで、周方向に関するロータ巻線42n,42sの幅θを変化させながら、ロータ巻線42n,42sへの鎖交磁束の振幅(変動幅)を計算した結果を図5に示している。図5では、コイル幅θを電気角に換算して示している。図5に示すように、コイル幅θが180°から減少するにつれてロータ巻線42n,42sへの鎖交磁束の変動幅が増大しているため、コイル幅θを180°よりも小さくする、すなわちロータ巻線42n,42sを短節巻とすることで、全節巻と比較して、空間高調波による鎖交磁束の振幅を増大させることができる。
【0038】
したがって、回転電機10(図1)では、周方向に関する各ティース19の幅を電気角で180°に相当する幅よりも小さくし、ロータ巻線42n,42sを各ティース19に短節巻で巻装することで、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。この結果、ロータ14に作用するトルクを効率よく増大させることができる。
【0039】
さらに、図5に示すように、コイル幅θが90°の場合に、空間高調波による鎖交磁束の振幅が最大となる。したがって、空間高調波によるロータ巻線42n,42sへの鎖交磁束の振幅をより増大させるためには、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θがロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しい(あるいはほぼ等しい)ことが好ましい。このため、ロータ14の極対数をpとし、ロータ14の回転中心軸からロータ巻線42n,42sまでの距離をrとした場合に、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θは、以下の(2)式を満たす(あるいはほぼ満たす)ことが好ましい。
【0040】
θ=π×r/(2×p) (2)
【0041】
このようにすることで、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にすることができ、誘導電流により各ティース19に発生する磁束を最も効率よく増大させることができる。この結果、ロータ14に作用するトルクをより効率よく増大させることができる。すなわち、幅θが90°に相当する幅を大きく超えると、互いに打ち消し合う方向の起磁力がロータ巻線42n,42sに鎖交しやすくなるが、90°に相当する幅よりも小さくなるのにしたがって、その可能性が低くなる。ただし、幅θが90°に相当する幅よりも大きく減少すると、ロータ巻線42n,42sに鎖交する起磁力の大きさが大きく低下する。このため、幅θを約90°に相当する幅とすることでそのような不都合を防止できる。このため、周方向に関する各ロータ巻線42n,42sの幅θは、電気角で90°に相当する幅に略等しくすることが好ましい。
【0042】
また、回転電機10では、ステータ巻線28u,28v,28wに流す交流電流の位相である、ロータ位置に対する電流進角を制御することで、ロータ14のトルクを制御することもできる。さらに、ステータ巻線28u,28v,28wに流す交流電流の振幅を制御することによって、ロータ14のトルクを制御することもできる。また、ロータ14の回転数を変化させてもロータ14のトルクが変化するため、ロータ14の回転数を制御することによって、ロータ14のトルクを制御することもできる。
【0043】
なお、上記では、各補助極48のうち、根元部52が非磁性材料により構成され、先端部54が磁性材料により構成されるとともに、先端部54の周方向に関する厚さT2を根元部52の周方向に関する厚さT1よりも大きくしている。ただし、本実施の形態はこれに限定するものではなく、例えば、各補助極48の形状を図1〜3に示した形状と同じにしつつ、根元部52及び先端部54を含む補助極48全体を磁性材料により構成することもできる。
【0044】
一方、各補助極48の全体を磁性材料により構成しつつ、各補助極48の周方向に関する厚さを根元部52と先端部54とで互いに同じとし、段差部56(図3)のない形状とすることもできる。ただし、この場合には、本来、ロータ14とステータ12との間で磁気吸引力を発生させるためにティース19を通過する磁束が減少するのを有効に防止できず、ロータ巻線42n、42sの自己インダクタンスが増大するのを抑制できるという効果を得られない。このため、ロータ巻線42n、42sに誘導される誘導電流を大きくできるという効果は、上記の図1〜3に示した構成の場合よりは劣る。ただし、この場合でも、ロータ巻線42n、42sに鎖交する空間高調波、特に、空間2次高調波を、補助極48により増大させることができるという効果は得られ、回転電機10のトルクを大きくできる。
【0045】
したがって、各補助極48の全体を磁性材料により構成する場合には、上記の図1〜3の構成のように、先端部54の周方向に関する厚さT2を根元部52の周方向に関する厚さT1よりも大きくすることが好ましい。この場合には、本来、ロータ14とステータ12との間で磁気吸引力を発生させるためにティース19を通過する磁束が減少するのを有効に防止でき、ロータ巻線42n、42sの自己インダクタンスが増大するのを抑制でき、回転電機10のトルクをより向上できる。
【0046】
一方、各補助極48のうち、根元部52を非磁性材料により構成するのであれば、各補助極48の周方向に関する厚さを根元部52と先端部54とで互いに同じとした場合でも、各補助極48の全体を磁性材料により構成するとともに、先端部54の周方向に関する厚さT2を根元部52の周方向に関する厚さT1よりも大きくする場合とほぼ同様に、回転電機10のトルクを向上できる効果を得られる。すなわち、この構成でも、本来、ロータ14とステータ12との間で磁気吸引力を発生させるためにティース19を通過する磁束が減少するのを有効に防止でき、ロータ巻線42n、42sの自己インダクタンスが増大するのを抑制できる。
【0047】
以上から、本実施の形態において、好ましくは、各補助極48のうち、先端部54を磁性材料により構成し、根元部52を非磁性材料により構成するとともに、各補助極48の周方向に関する厚さT1,T2を根元部52と先端部54とで同じとする。または、各補助極48の全体を磁性材料により構成するとともに、先端部54の周方向に関する厚さT2を根元部52の周方向に関する厚さT1よりも大きくする。さらにより好ましくは、上記の図1〜3の構成のように、各補助極48のうち、先端部54を磁性材料により構成し、根元部52を非磁性材料により構成するとともに、先端部54の周方向に関する厚さT2を根元部52の周方向に関する厚さT1よりも大きくする。
【0048】
次に、補助極48を設けた本実施の形態の効果を確認するために行ったシミュレーション結果を、本発明から外れた比較例の回転電機のシミュレーション結果とともに説明する。なお、以下では、図1〜図4に示した要素と同等の要素には同一の符号を付して説明する。まず、図6A,図6Bで比較例の場合を説明する。図6Aは、補助極48を有しない比較例の回転電機でのシミュレーション結果において、ステータ電流を異ならせた回転数トルク特性を示す図である。ここで、比較例の回転電機として、上記の図1〜3に示した構成と同様の構成において、ロータ14の隣り合うティース19の間に補助極48を設けていない回転電機を使用した。そしてこの比較例の構成でトルクと回転数との関係を求めるシミュレーションを行った。図6Aは、その結果を示している。図6Aで示す「E1A,E2A・・・」の表示は、ステータ巻線28u、28v、28wに流す電流であるステータ電流を通電する場合の3相交流電流の実効値が異なることを表しており、E1,E2・・・の順に徐々にステータ電流の実効値が小さくなっている。
【0049】
図6Aで示すように、比較例の回転電機では、低回転域ではトルクが小さくなっているが、中回転域で最大トルクが大きくなり、中回転から高回転域でトルクが小さくなっている。
【0050】
また、図6Bは、比較例の回転電機でのシミュレーション結果において、ステータ電流を異ならせたロータ起磁力を回転数との関係で示す図である。図6Bで付したE1A、E2A・・・等の電流を表す表示の意味は、図6Aと同様であり、同じ記号では同じステータ電流の実効値を表している(後述する図7A,図7Bも同様である。)。図6Bにおいて、縦軸は、ロータ起磁力をアンペアターンで表しており、ロータ巻線42n、42sの巻回数が一定であるので、縦軸はロータ巻線42n、42sに誘導されるロータ誘導電流に対応する。図6Bの結果から明らかなように、ロータ起磁力は、回転数の上昇にしたがって、所定回転数までは徐々に上昇する。
【0051】
これに対して、図7A,図7Bは、図1〜図3の本実施の形態の回転電機10を用いたシミュレーション結果である。図7Aは、本発明の実施の形態の回転電機10でのシミュレーション結果において、ステータ電流を異ならせた回転数トルク特性を示す図である。図6Aと図7Aとの比較から明らかなように、本実施の形態では、比較例に比べて、最大トルクが同じステータ電流を通電する場合でも大きく増加し、E1Aでは、図6Aの比較例の最大トルクを1.0とした場合に、図7Aの本実施の形態の最大トルクで1.032となり、約3%増大した。またF1min-1の回転数では、図6AのE1Aのトルクを1.0とした場合に、図7AのE1Aのトルクが1.45となり、トルクが45%増大した。また、F2min-1の回転数では、図6AのE1Aのトルクを1.0とした場合に、図7AのE1Aのトルクが2.0となり、トルクが2倍に増大した。なお、図6A,図7Aで縦軸及び横軸の1目盛分はそれぞれで互いに同じ大きさを表している。このように本実施の形態では、比較例に比べてほぼ全域の回転数領域でトルクを増大できることを確認できた。
【0052】
また、図7Bは、本発明の実施の形態の回転電機でのシミュレーション結果において、ステータ電流を異ならせたロータ起磁力を回転数との関係で示す図である。図6Bと図7Bとを比較すると明らかなように、本実施の形態では、ロータ起磁力を比較例に比べてほぼ全部の回転数領域で大きくでき、ロータ巻線42n、42sに生じるロータ誘導電流も比較例に比べてほぼ全部の回転数領域で大きくできることを確認できた。なお、図6B,図7Bの縦軸及び横軸の1目盛分はそれぞれで互いに同じ大きさを表している。
【0053】
次に、図8A〜図8Dを用いて補助極48による効果と、補助極48の根元部52を非磁性材により構成する場合の効果とを計算結果により確認する。図8Aは、ロータ巻線42n、42sでの空間高調波鎖交磁束を示す図であり、図8Bは、ロータ巻線42n、42sの自己インダクタンスを示す図である。また、図8Cは、ロータ巻線42n、42sでのロータ誘導電流を示す図であり、図8Dは、回転電機のトルクを示す図である。いずれの場合も、補助極48が設けられていない上記で説明した比較例の回転電機と、実施例1及び実施例2の回転電機とで比較した。ここで、実施例1は、上記の図1〜3に示した実施形態で補助極48が設けられており、かつ、その補助極48の全部が磁性材により構成されている回転電機である。また、実施例2は、上記の図1〜3に示した実施形態で補助極48が設けられており、かつ、その補助極48の先端部54が磁性材により構成されるが、根元部52が非磁性材により構成されている回転電機である。図8A〜図8Dの縦軸の目盛は、それぞれ鎖交磁束、自己インダクタンス、誘導電流、トルクについて比較例の場合を1とした相対値で表している。
【0054】
図8Aから明らかなように、ロータ巻線42n、42sでの空間高調波鎖交磁束は、比較例で小さくなり、実施例1,2でいずれも大きくなったが、実施例1は実施例2よりもわずかに大きくなった。また、図8Bから明らかなように、ロータ巻線42n、42sの自己インダクタンスは補助極48の全部を磁性材により構成した実施例1で最も大きくなり、比較例と実施例2とでほぼ同等に小さくなった。これは実施例1で補助極48の根元部52にティース19を通過する磁束が短絡することに起因する。また、図8Cから明らかなように、ロータ誘導電流は、比較例、実施例1、実施例2の順に徐々に大きくなっている。これは図8Bのように、実施例1で自己インダクタンスが増大したことに起因する。また、図8Dから明らかなように、ロータ誘導電流の違いに応じて、回転電機のトルクも、比較例、実施例1、実施例2の順に徐々に大きくなっている。このような結果からも、本実施の形態では回転電機10のトルクを高くできるが、さらに補助極48の根元部52が非磁性材により構成されることで、より高い効果を得られることが分かる。
【0055】
次に、図9A、図9Bを用いて回転電機の空間高調波の磁束線のシミュレーション結果を説明する。図9A、図9Bは、それぞれ空間高調波の磁束線を示す略図であり、図9Aは、上記で説明した比較例の場合を、図9Bは、上記の図1〜3に示した実施の形態の場合を、それぞれ示している。なお、図9Aでは、補助極48のような形状が示されているが、シミュレーション結果では補助極48がないとして計算している(後述する図10Aも同様である)。図9A,図9Bのいずれの場合も、ロータ14とステータ12との位相関係は同一としている。この場合、I部で示す補助極48に対応する位置に、ステータ12のティース30が対向している。
【0056】
このシミュレーション結果から、補助極48を設けている図9Bに示す本実施の形態では、補助極48がない図9Aの比較例に比べて、空間2次高調波の磁束線が補助極48を通過するようにロータ巻線42n、42sに多く鎖交することが分かる。なお、図9Bでは、補助極48がスロット50の底部から離れるように配置されているが、本実施の形態をこのように構成することもでき、その場合、例えば、補助極48をロータ14の軸方向両端に設けた金属板やエンドプレート等により軸方向端部で結合することにより構成する。
【0057】
次に、図10A〜図10Cを用いて回転電機のロータ誘導電流による磁束線のシミュレーション結果を説明する。図10A〜図10Cは、それぞれロータ誘導電流により生じた磁束線を示す略図であり、図10Aは、上記で説明した比較例の場合を、図10Bは図1〜3に示した実施の形態において、補助極48の根元部52を磁性材製とした実施例1の場合を、図10Cは、実施の形態において、補助極48の根元部52を非磁性材製とした実施例2の場合を、それぞれ示している。図10A〜図10Cのいずれの場合も、ロータ14とステータ12との位相関係は同一としている。この場合、図10AのM1、M2でそれぞれ示すステータ12のティース30と、ロータ14のティース19とが一部で径方向に対向している。このシミュレーション結果から、図10Bに示す実施例1では、補助極48の根元部52が磁性材により構成されているので、M3で示す根元部52に多くの磁束が通過している。このため、補助極48を短絡する磁束によりロータ巻線42n、42sのインダクタンスが増加していることが分かる。
【0058】
これに対して、図10Aに示す補助極48がない比較例、及び、図10Cに示す補助極48の根元部52を非磁性材により構成した実施例2では、実施例1のように補助極48を短絡する磁束がないので、ロータ巻線42n、42sのインダクタンスの増加を実施例1に比べて抑制できることが分かる。結果として、空間2次高調波のロータ巻線42n、42sに対する鎖交磁束を大きくできるとともに、ロータ巻線42n、42sのインダクタンスの増加を抑制できる図10Cに示す実施例2によれば、回転電機10のトルクをより大きくできることが分かる。
【0059】
次に図11〜14を用いて、本実施の形態の回転電機を含んで構成する回転電機駆動システム34の1例を説明する。なお、図11〜14の回転電機駆動システム34は、上記の回転電機10のq軸電流にパルス電流を重畳させることにより、上記のトルクの増大効果に加えて、さらに低回転領域でのトルクの増大を図ることを目的として考えられたものである。
【0060】
図11は、回転電機駆動システム34の概略構成を示す図である。回転電機駆動システム34は、回転電機10と、回転電機10を駆動する駆動部であるインバータ36と、インバータ36を制御する制御装置38と、電源部である蓄電装置40とを備え、回転電機10を駆動する。回転電機10の構成自体は、上記の図1〜3に示した回転電機10と同様である。なお、以下の説明では、図1〜3に示した要素と同一の要素には同一の符号を付して説明する。
【0061】
蓄電装置40は、直流電源として設けられ、充放電可能であり、例えば二次電池により構成する。インバータ36は、U相、V相、W相の3相のアームAu,Av,Awを備え、各相アームAu,Av,Awは、それぞれ2のスイッチング素子Swを直列に接続している。スイッチング素子Swは、トランジスタ、IGBT等である。また、各スイッチング素子Swに逆並列にダイオードDiを接続している。さらに、各アームAu,Av,Awの中点は、回転電機10を構成する対応する相のステータ巻線28u、28v、28wの一端側に接続されている。ステータ巻線28u、28v、28wにおいて、同じ相のステータ巻線同士は互いに直列に接続され、異なる相のステータ巻線28u、28v、28wが中性点で接続されている。
【0062】
また、蓄電装置40の正極側及び負極側は、インバータ36の正極側と負極側とにそれぞれ接続されており、蓄電装置40とインバータ36との間にコンデンサ68が、インバータ36に対し並列に接続されている。制御装置38は、例えば車両のアクセルペダルセンサ(図示せず)等から入力される加速指令信号に応じて回転電機10のトルク目標を算出し、トルク目標等に応じた電流指令値に応じて各スイッチング素子Swのスイッチング動作を制御する。制御装置38には、3相のうち、少なくとも2相のステータ巻線(例えば28u、28v)側に設けられた電流センサ70で検出された電流値を表す信号と、レゾルバ等の回転角度検出部82(図12)で検出された回転電機10のロータ14の回転角度を表す信号とがそれぞれ入力される。制御装置38は、CPU,メモリ等を有するマイクロコンピュータを含むもので、インバータ36のスイッチング素子Swのスイッチングを制御することにより、回転電機10のトルクを制御する。制御装置38は、機能ごとに分割された複数の制御装置により構成することもできる。
【0063】
このような制御装置38は、インバータ36を構成する各スイッチング素子Swのスイッチング動作により蓄電装置40からの直流電力を、u相、v相、w相の3相の交流電力に変換して、ステータ巻線28u、28v、28wの各相に対応する相の電力を供給することを可能とする。このような制御装置38によれば、ステータ巻線28u、28v、28wに流す交流電流の位相(電流進角)を制御することで、ロータ14(図1〜3)のトルクを制御できる。回転電機駆動システム34は、例えば、車両用走行動力発生装置として、エンジンと走行用モータとを駆動源として備えるハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車等に搭載して使用される。なお、蓄電装置40とインバータ36との間に電圧変換部であるDC/DCコンバータを接続して、蓄電装置40の電圧を昇圧してインバータ36に供給可能とすることもできる。
【0064】
図12は制御装置38のうち、インバータ制御部の構成を示す図である。制御装置38は、図示しない電流指令算出部と、減少パルス重畳手段72と、減算部74,75と、PI演算部76,77と、3相/2相変換部78と、2相/3相変換部80と、回転角度検出部82と、図示しないPWM信号生成部及びゲート回路とを含む。
【0065】
電流指令算出部は、予め作成されたテーブル等にしたがって、ユーザから入力される加速指示に応じて算出される回転電機10のトルク指令値に応じて、d軸、q軸に対応する電流指令値Id*,Iq*を算出する。ここで、d軸とは、回転電機10の周方向に関してロータ巻線42n、42sの巻回中心軸方向である磁極方向をいい、q軸とはd軸に対し電気角で90度進んだ方向をいう。例えば、上記の図1に示すようにロータ14の回転方向が規定される場合、d軸方向、q軸方向は、図1に矢印で示したような関係で規定される。また、電流指令値Id*,Iq*は、それぞれd軸電流成分の指令値であるd軸電流指令値、q軸電流成分の指令値であるq軸電流指令値である。このようなd軸、q軸を用いて、ステータ巻線28u、28v、28wに流す電流をベクトル制御により決定することが可能となる。
【0066】
3相/2相変換部78は、回転電機10に設けられた回転角度検出部82により検出された回転電機10の回転角度θと、電流センサ70により検出された2相の電流(例えばV相、W相の電流Iv、Iw)とから、2相の電流であるd軸電流値Id、q軸電流値Iqとを算出する。なお、電流センサ70により2相の電流しか検出していないのは、2相の電流の和が0となるため、1相の電流は算出で求めることができるからである。ただし、U相、V相、W相の電流を検出し、その電流値からd軸電流値Id、q軸電流値Iqを算出することもできる。
【0067】
減少パルス重畳手段72は、減少パルス電流を生成する減少パルス生成部84と、q軸電流指令値Iq*に一定周期で減少パルス電流Iqp*を重畳させる、すなわち加算して、加算後の重畳後q軸電流指令値Iqsum*を対応する減算部75に出力する加算部86とを有する。また、d軸に対応する減算部74は、d軸電流指令値Id*と3相/2相変換部78で変換されたd軸電流Idとの偏差δIdを求めて、d軸に対応するPI演算部76に偏差δIdを入力する。
【0068】
また、q軸に対応する減算部75は、重畳後q軸電流指令値Iqsum*と3相/2相変換部78で変換されたq軸電流Iqとの偏差δIqを求めて、q軸に対応するPI演算部77に偏差δIqを入力する。PI演算部76,77は、それぞれに入力された偏差δId,δIqについて、所定ゲインによるPI演算を行って制御偏差を求め、制御偏差に応じたd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。
【0069】
2相/3相変換部80は、PI演算部76,77から入力された各電圧指令値Vd*,Vq*に基づいて、回転電機10の回転角度θから得られた、1.5制御周期後に位置すると予測される予測角から、u相、v相、w相の3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換する。電圧指令値Vu、Vv、Vwは、図示しないPWM信号生成部でPWM信号に変換され、PWM信号は、図示しないゲート回路に出力される。ゲート回路は、制御信号を印加するスイッチング素子Swを選択することにより、スイッチング素子Swのオンオフを制御する。このように、制御装置38は、ステータ巻線28u、28v、28wに流れるステータ電流をdq軸座標系に変換してd軸電流成分及びq軸電流成分とし、フィードバック制御を含むベクトル制御により、目標トルクに対応する各相のステータ電流が得られるようにインバータ36を制御する。
【0070】
図13Aは、図11の回転電機駆動システムにおけるステータ電流の時間的変化の1例を、d軸電流指令値Id*と重畳後q軸電流指令値Iqsum*と各相電流とで示す図であり、図13Bは、図13Aに対応するロータ起磁力の時間的変化を示す図であり、図13Cは、図13Aに対応するモータトルクの時間的変化を示す図である。なお、図13A,図13B,図13Cでは、シミュレーション結果を示しており、かつ、極短い時間を時間的に拡大、すなわち各図の横方向に拡大して示している。したがって、実際には、U相、V相、W相電流は、それぞれ回転電機の駆動時に正弦波となるが、図13Aでは、パルス電流を重畳させる前後で直線状として表している。
【0071】
図13Aに示すように、図12に示した減少パルス重畳手段72は、q軸電流指令値Iq*のみに減少パルス電流を重畳させる。d軸電流指令値Id*は、トルク指令に対応して算出される一定値である。このようにq軸電流指令値Iq*には、減少パルス重畳手段72により、一定周期で、パルス状に減少してから増大する電流指令が重畳される。なお、パルス電流は、図13Aのように矩形波状として指令した場合でも、実際には応答性の遅れにより破線βで示すように曲線を組み合わせたパルス状となる場合がある。また、減少パルス電流のパルス状波形は、矩形波でも、三角波でも、複数の曲線や直線から突起状に形成された波形でも、いずれでもよい。
【0072】
このように減少パルス電流を重畳させる場合、例えば、1相のステータ巻線に最大の電流が流れる場合であり、残りの2相に均等に電流が流れてその和が1相に流れる場合でも、電流の絶対値が減少するようになる。例えば、図13Aでは、W相のステータ巻線28wに最大の電流が流れる場合であり、残りのU相、V相の2相のステータ巻線28u、28vに均等に電流が流れてその和がW相に流れる場合を示している。この場合、矢印γは、電流制限範囲を示しており、破線P,Qは設計上要求される電流の許容限界である。すなわち、インバータ36の容量等の各部品の関係から、破線P、Qの間に電流値が収まることが要求されている。これに対して、W相のステータ巻線28wに流れる電流値は許容限界付近に位置する。この場合、減少パルス電流の重畳で、各相電流値の絶対値が小さくなるが、電流変化に応じてステータ12で生じる回転磁界に含まれる空間高調波成分の磁束変化が大きくなる。このため、図13Bに示すようにロータ起磁力が大きくなり、図13Cに示すようにモータトルクが大きくなる。また、正側のU相、V相のパルス電流のピークは低下し、負側のW相のパルス電流のピークは上昇するため、各相電流を電流制限範囲(図13Aの矢印γ範囲)に収めることができる。
【0073】
これについて、図14を用いてさらに詳しく説明する。図14は、図11の回転電機駆動システムにおいて、q軸電流を一定値とした場合(a)と、q軸電流に減少パルス電流を重畳させた場合の前期(b)と、q軸電流に減少パルス電流を重畳させた場合の後期(c)とで、ステータとロータとに磁束が通過する様子を示す模式図である。図14では、いずれも各相のステータ巻線28u、28v、28wを巻装したティース30がロータ巻線42n、42sを巻装したティース19に径方向に対向していないで、1のティース30がロータ14の周方向に関して隣り合う2のティース19の間の中央位置に対向する。この状態で、図14の実線矢印R1、破線矢印R2で示すように、ステータ12とロータ14とに流れる磁束はq軸磁束である。
【0074】
図14(a)は、図13Aの重畳後q軸電流指令値Iqsum*が一定値であるA1の状態に対応し、図14(b)は、図13Aの重畳後q軸電流指令値Iqsum*に減少パルス電流が発生している前期、すなわち、Iqsum*が急激に減少するA2の状態に対応するものである。また、図14(c)は、図13Aの重畳後q軸電流指令値Iqsum*に減少パルス電流が発生している後期、すなわち、Iqsum*が急激に増大するA3の状態に対応するものである。
【0075】
まず、図14(a)に示すように、減少パルス電流が発生する以前の重畳後q軸電流指令値Iqsum*が一定値である状態では、実線矢印R1で示すように、W相のティース30からA,Bのティース19の間の空間を介してA、Bのティース19を通過し、U相、V相のティース30に磁束が流れる。この場合、U相、V相のステータ巻線28u、28v、28wに正の電流が流れ、W相のステータ巻線28wに負の大きな電流が流れている。ただし、この場合には各ティース30を通過する基本波による磁束の変化は生じない。
【0076】
これに対して、図14(b)に示すように、減少パルス電流が発生している前期、すなわちq軸電流が急激に減少する状態では、ステータ巻線28u、28v、28wを流れる電流の絶対値が減少する方向に変化して、見かけ上は、破線矢印R2で示すように、図14(a)からの変化で磁束が逆方向に流れるようになる。なお、この磁束の変化は、実際に図14(a)とは逆方向に磁束が流れるようにステータ電流値の正負が逆転してもよい。いずれにしても、Aのティース19でN極がS極になろうとする方向に磁束が流れ、それを妨げる方向にロータ巻線42nに誘導電流が流れようとし、その図14(b)の矢印T方向の流れはダイオード21nでブロックされることがない。これに対して、Bのティース19でS極を強める方向に磁束が流れ、それを妨げる方向、すなわちBのティース19をN極にしようとする方向にロータ巻線42sに誘導電流が流れようとするが、その向きの流れはダイオード21sでブロックされるため、Bでは電流は流れない。
【0077】
続いて、図14(c)に示すように、減少パルス電流が発生している後期、すなわちq軸電流が急激に増大する状態では、ステータ巻線28u、28v、28wを流れる電流の大きさが増大する方向に変化して、実線矢印R1で示すように、図14(b)から磁束が逆方向に流れるようになる。この場合、Aのティース19でN極を強める方向に磁束が流れ、それを妨げる方向、すなわちAのティース19をS極にしようとする方向(ダイオード21nと逆方向のX方向)にロータ巻線42nに誘導電流が流れようとするが、図14(b)ですでに電流が流れているので、その電流は少なくともある時間の間で徐々に減少する。また、Bのティース19でS極がN極になろうとする方向に磁束が流れ、それを妨げる方向にロータ巻線42sに誘導電流が流れようとし、その図14(c)の矢印Y方向の流れはダイオード21sでブロックされることがない。この結果、図13B、図13CのB2部に示すようにq軸電流の減少パルス重畳によりロータ起磁力が増大し、モータトルクが増大する。
【0078】
また、減少パルス電流が0になり再び図14(a)の状態に戻ると、ロータ巻線42n、42sに流れる電流は徐々に低下するが、減少パルス電流を周期的に重畳させることでトルクの増大効果を得られることとなる。なお、上記の説明では、W相のステータ巻線28wに流れる電流が最大となるときに減少パルス電流を重畳させる場合を説明したが、U相、V相の場合も同様である。
【0079】
このような回転電機駆動システム34によれば、ステータ巻線28u、28v、28wに過大な電流が流れることを防止しつつ、全域のトルクを増大でき、さらに低回転領域のトルクをより増大できる回転電機10を実現できる。例えば、複数相のステータ巻線28u、28v、28wが3相のステータ巻線である場合に、1相(例えばW相)のステータ巻線に対するパルス電流重畳前に、1相(例えばW相)に流れる電流の絶対値が他の相(例えばU相、V相)のステータ巻線を流れる電流の絶対値よりも高い場合でも、減少パルス電流の重畳で、全部の相に流れる電流の絶対値をパルス状に下げつつロータ巻線42n、42sに生じる誘導電流を大きくすることができる。このため、すべてのステータ巻線28u、28v、28wに流す電流であるステータ電流のピークを抑えつつ、低回転領域でも回転電機10のトルクを大きくすることができる。しかも、補助極48(図1〜3)により、ステータ12で生成される磁界に含まれ、ロータ巻線42n、42sに鎖交する空間高調波、特に、空間2次高調波をステータ12からロータ14に誘導することができ、その磁束の変化を大きくし、ロータ巻線42n、42sに誘導される誘導電流をより大きくして、低回転領域でのトルクをより増大できる。また、ロータ14側に磁石を設ける必要がないため、磁石レス化と高トルク化とを図れる。
【0080】
また、図13Aに示すように、q軸電流指令に減少パルス電流を重畳させることにより、1相、例えばW相のステータ巻線28wを流れる電流の絶対値が大きくパルス状に減少するようにしているが、このようにパルス状に変化する電流のピーク先端は0付近に位置するようにする場合に限定しない。例えば、W相のステータ巻線28wを流れる負の電流が、0付近まで上昇した後、正側に大きくなるように重畳後q軸電流指令Iqsum*の減少パルス電流の減少幅E(図13A)を大きくすることもできる。この場合でもステータ電流を過度に大きくすることなく、空間高調波によるq軸磁束の変化量を大きくすることができ、トルクの増大を図れる。
【0081】
これに対して、上記の特許文献2に記載された同期機の場合、パルス電流によってロータで電磁石を形成しているが、ロータの外周部に径方向にまたがるようにロータ巻線を設けており、ロータ巻線に1の整流素子を接続することでロータの径方向反対側に異なる2の磁極を形成している。このため、q軸電流にパルスを重畳させても2の磁極を形成するための誘導電流が互いに打ち消しあいロータ巻線に誘導電流を発生させることができない。すなわち、この構成では、q軸電流にパルス電流を重畳させて、トルクを発生させることはできない。
【0082】
また、上記の特許文献3に記載された同期機の場合、d軸電流とq軸電流とにパルス状に増大してから減少する増加パルス電流を重畳させているので、ステータ巻線に流れる電流のピークが過度に上昇する可能性がある。また、上記の特許文献4に記載された同期機の場合、ステータ巻線に過大な電流が流れることを防止しつつ、低い回転領域でもトルクの増大を図れる回転電機を実現することを目的として、q軸電流に減少パルス電流を重畳させる手段は開示されていない。
【0083】
例えば、図15は、図11〜14の構成とは異なる例であって、ステータ電流に増加パルス電流を重畳させる場合の回転電機駆動システムにおいて、U相のステータ巻線に流す電流(ステータ電流)と、ロータ巻線に生じる誘導電流(ロータ誘導電流)との1例を示す図である。この例では、減少パルス電流の代わりに増加パルス電流を重畳させる以外は、上記の図11〜14の構成と同様とする。図15に示すように、この例では、正弦波のステータ電流にパルス状に増大してから減少する増加パルス電流を重畳させている。この場合、矢印C1で示すようにステータ電流が急上昇することで、矢印D1で示すように、ロータ誘導電流が電磁誘導の原理にしたがって急激に減少している。その後、矢印C2で示すように、ステータ電流が急低下することで、ロータ誘導電流が増大している。この原理により、3相のステータ巻線のうち、いずれかの相に流れる電流は増大する。このため、所望のトルクを発生させるために大きな電流パルスを重畳させることが必要になる場合がある。この場合、d軸電流に増加パルス電流を重畳させている。このため、電流のピーク値が過大となり、設計上要求されるインバータ電流制限を越える可能性がないとはいえない。
【0084】
これに対して、上記の図11〜14の構成によれば、ステータ電流が過大となることを防止できる、すなわち、電流のピーク値が過大となることを防止できるので、上記の不都合をいずれも解消できる。なお、上記の図15に誘導電流を示した例でも上記の図1〜3に示した実施形態の回転電機10を使用することもできる。例えば、ステータ電流の電流ピーク値が上昇した場合でもインバータの電流制限を超えないようにすることもできる。
【0085】
また、上記の図1〜図3の本実施の形態によれば、各ロータ巻線42n、42sは、ロータ14の周方向に隣り合うロータ巻線42n、42s同士で順方向が逆になる整流素子である、ダイオード21n、21sに接続し、各ダイオード21n、21sは、該誘導起電力の発生によりロータ巻線42n、42sに流れる電流を整流することで、該周方向に隣り合うロータ巻線42n、42sに流れる電流の位相を、A相とB相とに交互に異ならせている。これに対して、図16に示すように本実施の形態とは異なる別の実施形態も考えられる。図16は、別の実施形態において、q軸電流にパルス電流を重畳させた場合の変化を示すロータの模式図である。
【0086】
図16の別の実施形態では、ロータ14の周方向複数個所に設けたティース19にロータ巻線88n、88sを巻装するとともに、隣り合うロータ巻線88n、88s同士をダイオード90を介して接続し、各ロータ巻線88n、88sに流れる電流により生成される磁極部である、ティース19の磁気特性を交互に異ならせている。また、図16の例でもロータ14に上記の図1〜3の実施形態と同様に補助極を設けているが、この補助極の図示は省略している。この別の実施形態では、図16の破線矢印で示すようにq軸電流にパルス電流を重畳させることによる空間高調波のq軸磁束が流れる場合に、(a)でN極とS極との両方がS極になろうとして電流が流れようとするが、その電流がN極側とS極側とで互いに打ち消し合ってしまう。また、(a)とは逆方向にq軸磁束が流れる場合でも、(b)でN極とS極との両方がN極になろうとして電流が流れようとするが、その電流がN極側とS極側とで互いに打ち消し合ってしまう。このため、図16の別の実施形態では、q軸電流にパルス電流を重畳させても、ロータ巻線88n、88sに電流を誘導することができない。これに対して、上記の図1〜3に示した実施の形態では、上記のようにq軸電流にパルス電流を重畳させることによりトルクの増大効果を得られる。ただし、上記の図16に示した実施形態でも、ステータ巻線に電流を流すためのd軸電流指令に、パルス状に増加させる増加パルス電流を重畳させる等により、ロータ14にトルクを発生させることはできる。
【0087】
なお、図11〜14に示した本実施の形態では、制御装置38がq軸電流に減少パルス電流を重畳させる減少パルス重畳手段72を有し、d軸電流にはパルス電流を重畳しない場合を説明した。ただし、制御装置38は、減少パルス重畳手段72を有するとともに、q軸電流指令Iq*に減少パルス電流を重畳させるのと同時に、d軸電流指令Id*に増加パルス電流、すなわちパルス状に急激に増大してから急激に減少するパルス電流を重畳させる増加パルス重畳手段を有するようにすることもできる。すなわち、回転電機駆動システムとして、制御部は、q軸電流指令Iq*に減少パルス電流を重畳させるとともに、d軸電流指令Id*にパルス状に増加させる増加パルス電流を重畳させる減少増加パルス重畳手段を有する構成とすることもできる。
【0088】
この構成によれば、各相のステータ電流を電流制限範囲に収めつつ、d軸電流により生成されるd軸磁路を通過する磁束の変動量を大きくできるので、ロータ14での誘導電流をより大きくして回転電機10のトルクをより有効に増大できる。すなわち、ステータ巻線28u、28v、28wに過大な電流が流れることを防止しつつ、全域のトルクを増大でき、さらに低回転領域のトルクをより増大できる回転電機10を実現できる。より詳しくは、q軸電流指令Iq*に対する減少パルス電流及びd軸電流指令Id*に対する増加パルス電流の重畳で、すべての相の電流を、要求される電流制限範囲内に収めつつ、ロータ巻線42n、42sに生じる誘導電流を大きくできる。しかも、d軸電流指令Id*に増加パルス電流を重畳させるので、d軸電流指令Id*により生成されるd軸磁路を通過する磁束の変動量を大きくできる。d軸磁路は、q軸電流指令Iq*に対応するq軸磁路よりも空隙を通過するのを少なくできるので磁気抵抗が低くなり、d軸磁束の変動量を大きくすることは、トルクの増大に有効である。したがって、すべての相のステータ電流のピークを抑えつつ、低回転領域でもロータ巻線42n、42sに誘導される誘導電流を大きくでき、回転電機10のトルクを大きくすることができる。しかも、補助極48により、ステータ12で生成される回転磁界に含まれ、ロータ巻線42n、42sに鎖交する空間高調波、特に、空間2次高調波を増大させることができ、その磁束の変化を大きくし、ロータ巻線42n、42sに誘導される誘導電流をより大きくして、低回転領域での回転電機10のトルクをより増大できる。
【0089】
また、図11〜14に示した実施の形態では、減少パルス重畳手段72は、回転電機10のトルク及び回転数により規定される予め定められる所定領域にある場合にのみ、q軸電流指令Iq*に減少パルス電流を重畳させるようにすることもできる。例えば、回転電機10のトルクが予め設定された所定トルク以上である場合にのみ、減少パルス重畳手段72は、q軸電流指令Iq*に減少パルス電流を重畳させるようにすることもできる。
【0090】
また、図17は、図11〜14に示した回転電機駆動システムにおいて、パルス電流の重畳状態を変化させる例を説明するための回転電機の回転数とトルクとの関係を示す図である。すなわち、図17に示す例では、回転電機10の回転数及びトルクの範囲、またはトルクの範囲に応じて、パルス電流の重畳方式を3段階で変化させることもできる。図17では、パルス電流を重畳させない回転電機駆動システムを用いた場合の回転電機10の回転数とトルクとの関係を示している。このため、矢印Zで示す回転数の低い範囲では、回転電機10のトルクが低下しており、図17の斜線部でトルクを増大することが望まれることが分かる。これに対して、上記のように制御部が減少増加パルス重畳手段を有する構成において、パルス電流の重畳方式を3段階で変化させる実施の形態によりこの不都合を解消することもできる。この実施形態では、図17のH1領域、H2領域及びH3領域において、トルクと回転数との関係が規定される場合に、それぞれの領域に対応して異なる方式でパルス電流をd軸電流及びq軸電流の少なくとも一方に重畳させる。
【0091】
まず、H1領域にある場合、すなわち、予め定めたロータ14の所定回転数(Jmin-1)以下において、回転電機10の出力トルクが閾値(K1Nm)以下では、減少増加パルス重畳手段は、d軸電流指令Id*に増加パルス電流Idp*を重畳させるが、q軸電流指令Iq*には減少パルス電流を重畳させない増加パルス方式を実行する。このように電流制限から余裕がある場合に、d軸磁束の変化のみを使用する増加パルス方式で効率よくロータ電流を誘導できる。
【0092】
これに対して、H2領域にある場合、すなわち、ロータ14の所定回転数(Jmin-1)以下において、回転電機10の出力トルクが閾値(K1Nm)を超えて第2閾値(K2Nm)以下である場合、減少増加パルス重畳手段は、d軸電流指令Id*に増加パルス電流Idp*を重畳させるとともに、q軸電流指令Iq*に減少パルス電流Iq*を重畳させる減少増加パルス方式を実行する。このように電流制限からの余裕が小さくなる場合には、d軸磁束の変化とともにq軸磁束の変化を使用する増加減少パルス方式で、電流制限の範囲内でロータ電流を誘導できる。
【0093】
また、H3領域にある場合、すなわち、ロータ14の所定回転数(Jmin-1)以下において、回転電機10の出力トルクが閾値(K2Nm)を超える場合、減少増加パルス重畳手段は、q軸電流指令Iq*に減少パルス電流Iqp*を重畳させるが、d軸電流指令Id*には増加パルス電流を重畳させない減少パルス方式を実行する。このように電流制限により近くなる場合には、q軸磁束の変化のみを使用する減少パルス方式を用いるので、各相ステータ電流をいずれも電流制限範囲の中央側に変化させて、電流増加を防止しつつトルクの増大を図れる。
【0094】
なお、H1領域、H2領域及びH3領域の3段階で、パルス電流の重畳方式を変化させる場合を説明したが、H1領域及びH2領域の2段階で、パルス電流の重畳方式を変化させることもできる。この場合、減少増加パルス重畳手段は、予め定めたロータ14の所定回転数以下において、出力トルクが閾値以下でd軸電流指令に増加パルス電流を重畳させるが、q軸電流指令には減少パルス電流を重畳させない増加パルス方式を実行し、出力トルクが閾値を超えると、d軸電流指令に増加パルス電流を重畳させるとともに、q軸電流指令に減少パルス電流を重畳させる減少増加パルス方式を実行する。
【0095】
なお、上記では、回転電機駆動システム34を構成する制御装置38が、q軸電流やd軸電流にパルス電流を重畳させる場合を説明した。ただし、上記の図1〜3に示した実施形態の回転電機10を含む回転電機駆動システムでは、このような減少パルス重畳手段や減少増加パルス重畳手段を設けないで、単にインバータを駆動する機能を有する構成も採用できる。
【0096】
次に、上記の実施形態の回転電機の他の構成例について説明する。以下に示すように、本発明では、種々の回転電機の構成例に適用できる。
【0097】
例えば上記の図1〜3に示した実施形態では、ロータ14が、周方向に隣り合うロータ巻線42n,42sを互いに電気的に分断し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線42n同士を電気的に直列接続し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線42s同士を電気的に直列接続した構成を説明した。ただし、図18に示すように、それぞれロータティースであり、磁極部である各ティース19に巻装されたロータ巻線42n,42sのそれぞれにダイオード21n、21sを1ずつ接続し、各ロータ巻線42n,42sが互いに電気的に分断されているロータ14を含む回転電機でも、各ティース19間に補助極48を設けることもできる。すなわち、ロータコア16において、ロータ14の周方向に隣り合うティース19同士の間のスロット50底部の周方向中央部にそれぞれ、少なくとも一部が磁性材により構成される複数の補助極48が設けられている。その他の構成は、上記の図1〜3に示した実施形態と同様である。
【0098】
また、図19に示すように、ロータ巻線42n,42sをトロイダル巻きにすることもできる。図19に示す構成例では、ロータコア16は環状コア部92を含み、それぞれロータティースである各ティース19は、環状コア部92から径方向外側へ(ステータ12へ向けて)突出している。また、ロータコア16において、ロータ14の周方向に隣り合うティース19同士の間のスロット50底部の周方向中央部にそれぞれ、少なくとも一部が磁性材により構成される複数の補助極48が設けられている。
【0099】
また、ロータ巻線42n,42sは、環状コア部92における各ティース19付近の位置にトロイダル巻きで巻装されている。図19に示す構成例でも、ステータ12で形成された空間高調波を含む回転磁界が各ロータ巻線42n,42sに鎖交することで、各ロータ巻線42n,42sに各ダイオード21n,21sで整流された直流電流が流れ、各ティース19が磁化する。その結果、ロータ巻線42n付近に位置するティース19がN極として機能し、ロータ巻線42s付近に位置するティース19がS極として機能する。その際には、周方向に関する各ティース19の幅θをロータ14の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定することで、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を効率よく増大させることができる。さらに、ロータ巻線42n,42sに発生する空間高調波による誘導起電力を最大にするためには、周方向に関する各ティース19の幅θを、ロータ14の電気角で90°に相当する幅に等しく(あるいはほぼ等しく)することが好ましい。なお、図19では、図1に示す構成例と同様に、周方向に隣接するロータ巻線42n,42sを互いに電気的に分断し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線42n同士を電気的に直列接続し、周方向において1つおきに配置されたロータ巻線42s同士を電気的に直列接続した例を示している。ただし、ロータ巻線42n,42sをトロイダル巻にした例においても、図18に示す構成例と同様に、各ティース19付近に巻装されたロータ巻線42n,42sを互いに電気的に分断することもできる。その他の構成は上記の実施形態と同様である。
【0100】
また、上記の実施形態では、例えば図20に示すように、各ティース19に共通のロータ巻線42を巻装することもできる。図20に示す構成例では、ロータ巻線42がダイオード21を介して短絡されていることで、ロータ巻線42に流れる電流の方向がダイオード21により一方向(直流)に整流される。各ティース19に巻装されたロータ巻線42は、周方向に隣接するティース19同士で磁化方向が互いに逆方向となるように、周方向に隣接するティース19に巻装された部分の巻き方向が互いに逆方向である。また、ロータコア16において、ロータ14の周方向に隣り合うティース19同士の間のスロット50底部の周方向中央部にそれぞれ、少なくとも一部が磁性材により構成される複数の補助極48が設けられている。
【0101】
図20に示す構成例では、ステータ12で形成された回転磁界で例えばステータ電流のd軸指令にパルス電流を重畳させる等により、ロータ巻線42に変動磁束が鎖交し、それによりロータ巻線42にダイオード21で整流された直流電流が流れて各ティース19が磁化する結果、各ティース19が磁極の固定された磁石として機能する。その際には、周方向に隣接するティース19同士で異なる磁極の磁石が形成される。図20に示す構成例によれば、ダイオード21の数を1つに減らすことができる。その他の構成は、上記の図1〜3の実施形態と同様である。
【0102】
また、別の実施形態として、図21に示すように、ロータコア16の外周面の複数個所に固定した永久磁石94にロータ巻線42n、42sを巻装することもできる。本構成例の回転電機を構成するロータ14では、ロータコア16に磁気的突極特性を持たせず、ロータコア16の外周面の周方向複数個所に永久磁石94を固定している。また、各永久磁石94の周囲にロータ巻線42n,42sを巻装している。本構成例では、ロータ14の周方向複数個所の、各ロータ巻線42n,42sの内側と周方向に一致する部分を磁極部としている。永久磁石94は、ロータ14の径方向に着磁させるとともに、その着磁方向を、ロータ14の周方向に隣り合う永久磁石94同士で異ならせている。図21において、永久磁石94の上に配置された実線矢印は、永久磁石94の磁化方向を表している。また、ロータコア16において、ロータ14の周方向に隣り合うティース19同士の間の周方向中央部にそれぞれ、少なくとも一部が磁性材により構成される複数の補助極48が設けられている。
【0103】
また、各永久磁石94に巻装されたロータ巻線42n、42sは、互いに電気的に接続されておらず分断(絶縁)されている。そして、電気的に分断された各ロータ巻線42n、42sを、隣り合うロータ巻線42n,42s同士で異なる極性を有するダイオード21n、21sで短絡している。その他の構成は上記の図1〜3に示した実施形態と同様である。
【0104】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。例えば、上記では、ステータの径方向内側にロータが対向配置された場合を説明したが、ステータの径方向外側にロータが対向配置された構成でも本発明を実施できる。また、ステータ巻線はステータに集中巻きで巻線する場合を説明したが、例えばステータで空間高調波を含む回転磁界を生成できるのであればステータにステータ巻線を分布巻きで巻線する構成でも本発明を実施できる。また、上記の各実施形態では、磁気特性調整部をダイオードとした場合を説明したが、ロータ巻線に発生する誘導起電力によって前記複数のロータティースまたはロータ巻線の内側に生じる磁気特性を周方向で異ならせる機能を有するものであれば、他の構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0105】
10 回転電機、12 ステータ、14 ロータ、16 ロータコア、19 ティース、21,21n,21s ダイオード、22 回転軸、26 ステータコア、28u,28v,28w ステータ巻線、30 ティース、31 スロット、34 回転電機駆動システム、36 インバータ、38 制御装置、40 蓄電装置、42 ロータ巻線、42n 第1ロータ巻線、42s 第2ロータ巻線、44 第1ロータ巻線回路、46 第2ロータ巻線回路、48 補助極、50 スロット、52 根元部、54 先端部、56 段差部、68 コンデンサ、70 電流センサ、72 減少パルス重畳手段、74,75 減算部、76,77 PI演算部、78 3相/2相変換部、80 2相/3相変換部、82 回転角度検出部、84 減少パルス生成部、86,87 加算部、88n,88s ロータ巻線、90 ダイオード、92 環状コア部、94 永久磁石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転磁界を生じさせる固定子と、
前記回転磁界に含まれる高調波成分によって起電力が生じるようにコイルが巻線されるとともに、前記起電力によって磁極が生じるように構成された回転子とを備え、
前記回転子は、前記高調波成分を、前記固定子から前記回転子に誘導する誘導部を有することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記回転子は、
前記起電力によって磁極が生じるように形成された磁極部を備えていることを特徴する回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機において、
前記誘導部は、前記固定子に近接するように設けられることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機において、
前記誘導部は、前記起電力の発生を大きくするように、前記高調波成分を誘導することを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−222941(P2012−222941A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85641(P2011−85641)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】