説明

固体状N−アシルアラニンまたはその塩

一般式(I):


(式中Rは、炭素原子数が8〜22の直鎖または分岐鎖状の飽和または不飽和のアシル基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、有機アミン類または塩基性アミノ酸を示す。)
で表される化合物より選ばれる1種、または、互いに異なる炭素原子数のアシル基を有する2種以上の化合物よりなる、固体状N−アシルアラニンまたはその塩及び該塩固体状N−アシルアラニンまたはその塩を含む洗浄剤組成物に関する。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、保存時に吸湿したり、または固結することがなく、しかも水に溶解する際、凝集したりすることがなく、溶解性に優れる。そして、該固体状N−アシルアラニンまたはその塩を主成分(主たる洗浄成分)として得られる粉末または顆粒状洗浄剤組成物は、保存時の固結、実使用時の凝集がなく、しかも、洗浄剤の基本性能(泡特性)に優れ、使用時のぬめり性やきしみ性もなく、刺激が少ない安全な、極めて性能の高い洗浄剤組成物を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、固体化が容易で製造性に優れ、保存時に吸湿したり、または固結することがなく、しかも水に溶解する際、凝集することがなく、溶解性に優れる固体状アシルアラニンまたはその塩、並びに、該固体状アシルアラニンまたはその塩を用いた、保存時に吸湿して固結することがなく、しかも実使用時においても粉末が凝集せず、さらには泡立ちが速く、泡量、泡保持という洗浄剤の基本性能に優れ、使用時のぬめり性やきしみ性もなく、また刺激が少なく安全である粉末または顆粒状洗浄剤組成物及びこれらを配合した皮膚及び毛髪用洗浄剤に関する。
【背景技術】
従来より、固形石鹸、洗顔フォーム、洗顔パウダーといった洗浄剤の主原料として、様々な固体状洗浄剤が使用されている。例えば、その泡量、洗浄力の高さから脂肪酸石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルリン酸塩、あるいはN−アシルイセチオン酸塩等の固体状物が使用されているが、これらは刺激性が誘発されたり、使用感に劣るといった欠点を有していた。
一方、N−アシルグルタミン酸塩は、刺激性が低いアニオン界面活性剤として知られているが、固体状のN−アシルグルタミン酸塩(N−アシルグルタミン酸塩の固体状物)は、起泡性に劣り、使用後にぬめり感が生じるといった問題があった。
N−アシルアラニン塩は、特開2000−265191号公報において、選択洗浄機能を有する安全性の高い洗浄剤として紹介され、また、特開平8−3585号公報、特開平8−60189号公報では、N−アシルアラニン塩が皮膚や毛髪に対して刺激が少なく、泡の保持、泡質、使用感に優れていることを紹介しており、その洗浄剤としての性能の高さが示されている。例えば、特開平8−3585号公報、特開平8−60189号公報等では、液状シャンプー、液状ボディシャンプー等の洗浄成分に使用されている。
しかしながら、固体状のN−アシルアラニン塩に関する報告はなく、唯一、特開2002−338994号公報において、N−ヤシ油脂肪酸アシルアラニンNaを用いた粉末または顆粒状洗浄剤が示されている。しかし、該公報記載の粉末または顆粒状洗浄剤は、N−ヤシ油脂肪酸アシルアラニンNaに少なくともカチオン化デキストランを配合した組成物を粉末化または顆粒状化したものであり、アシルアラニンまたはその塩類のみからなる粉末や顆粒(固体状物)の存在を示唆するものではない。更に、本発明者等の研究によれば、該組成物の粉末または顆粒は吸湿性が高く、水に対する溶解性も優れているとはいえず、また、N−ヤシ油脂肪酸アシルアラニンNaが有する洗浄剤としての基本性能(起泡性、泡量、泡保持等)が十分に引き出されているとは言い難く、固体状洗浄剤としては満足のいくものではなかった。
ところで、一般に、粉末または顆粒状洗浄剤は水分による吸湿や液状原料の配合によって固結を生じやすく、界面活性剤や他の成分等の配合に制限があり、優れた保存安定性と、優れた起泡性および使用性(使用感)とを両立させるのが特に困難である。しかし、粉末または顆粒状洗浄剤は実質的に水分を含まないので、防腐剤や殺菌剤を配合(含有)しない、安全性のより高い製品を調製できる利点があり、そのため、保存安定性に優れ、起泡性及び使用性(使用感)にも優れた粉末または顆粒状洗浄剤の開発が強く望まれている。
粉末または顆粒状洗浄剤において、優れた起泡性を得るために、アニオン界面活性剤を配合することが知られている。また、アニオン界面活性剤の中でもアルキル硫酸塩やアルキルリン酸塩等は特に優れた起泡力を有するものとして知られている。しかし、これらは刺激性を誘発するために、これらを配合した洗浄剤は使用感に劣る。また、起泡性改善のために脂肪酸塩を粉末または顆粒状洗浄剤に配合することも知られているが、脂肪酸塩は、優れた起泡力を有するが、脂肪酸塩それ自体はきしみ感や皮膚の乾燥等を誘発することが知られている。
一方、特開2002−338994号公報には、刺激性が低いアニオン界面活性剤を使用した粉末状洗浄剤組成物として、N−ラウロイルグルタミン酸塩を含有する粉末状洗浄剤組成物が提案されている。しかし、N−ラウロイルグルタミン酸塩を配合した洗浄剤は、泡立ちが悪く、また、使用後にぬめり感が生じやすい。また、特開2001−26524号公報には、N−アシルグルタミン酸塩とN−アシルイセチオン酸塩とを配合した粉末状洗浄剤組成物が提案されている。該文献には、低起泡性で使用時のぬめり性を有するN−アシルグルタミン酸塩にN−アシルイセチオン酸塩を併用することによって、起泡力とぬめり性を改善したと記載されているが、本発明者等の研究では、これらは極めて限定された使用量比(重量比)でしか、そのような効果が得られず、またその効果も十分とはいえないものであった。
上記事情に鑑み、本発明の目的は、保存時に吸湿して固結することがなく、しかも実使用時においても粉末が凝集せず、さらには泡立ちが早く、泡量、泡保持という洗浄剤の基本性能に優れ、さらには使用時のぬめり性やきしみ性もない、刺激が少なく安全な粉末または顆粒状洗浄剤組成物及びこれらを配合した皮膚及び毛髪用洗浄剤を提供することであり、また、このような優れた性能の粉末または顆粒状洗浄剤組成物を達成し得る、それ自体が、保存時に吸湿したり、固結することがなく、しかも水に溶解する際、凝集したりするとのない、溶解性に優れた固体状N−アシルアラニンまたはその塩を提供することである。
【発明の開示】
本発明者等は、上記の目的を達成すべく鋭意研究した結果、N−アシルアラニンまたはその塩の水溶液、有機溶媒溶液等から、塩の種別に応じてアシル基鎖長分布の標準偏差を特定値以下に制御することによりN−アシルアラニンにまたはその塩を固体状に採取できることを見出した。更に、それを配合した顆粒または粉末状洗浄剤は優れた保存安定性及び実使用時の水への溶解性を示すとともに、泡立ちの速さ、泡量等の洗浄剤の基本性能はもとより、使用時のぬめり性やきしみ性をも改善され得ることを見出した。また、N−アシルアラニン塩の中でも塩基性アミノ酸塩においては、他の塩に比べてアシル基鎖長分布のバラツキを許容でき、そのために粉体化をより容易に行えることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明は、
(1)一般式(I):

(式中Rは、炭素原子数が8〜22の直鎖または分岐鎖状の飽和または不飽和のアシル基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、有機アミン類または塩基性アミノ酸を示す。)
で表される化合物より選ばれる1種、または、互いに異なる炭素原子数のアシル基を有する2種以上の化合物よりなる、固体状N−アシルアラニンまたはその塩、(2)長鎖脂肪酸またはその塩を含む、上記(1)記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩、
(3)一般式(I):

(式中Rは、炭素原子数が8〜22の直鎖または分岐鎖状の飽和または不飽和のアシル基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは、有機アミン類を示す。)
で表される化合物より選ばれる1種、または、互いに異なる炭素原子数のアシル基を有する2種以上の化合物よりなり、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0以下であることを特徴とする、固体状N−アシルアラニンまたはその塩、
(4)式(I)中のMがアルカリ金属である、上記(3)記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩、
(5)アルカリ金属がカリウムである、上記(4)記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩、
(6)長鎖脂肪酸またはその塩を含む、上記(3)〜(5)のいずれか一つに記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩、
(7)一般式(I):

(式中Rは、炭素原子数が8〜22の直鎖または分岐鎖状の飽和または不飽和のアシル基を示し、Mは塩基性アミノ酸を示す。)
で表される化合物より選ばれる1種、または、互いに異なる炭素原子数のアシル基を有する2種以上の化合物よりなり、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が5.0以下であることを特徴とする、固体状N−アシルアラニンまたはその塩、
(8)長鎖脂肪酸またはその塩を含む、上記(7)記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩、
(9)式(I)中Mの塩基性アミノ酸がリジン、アルギニンである、上記(7)又は(8)記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩、
(10)粉末または顆粒状洗浄剤用である、上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩、
(11)(A)上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩を少なくとも含有する、粉末または顆粒状洗浄剤組成物、
(12)さらに(B)無機または有機粉体を含有する、上記(11)記載の粉末または顆粒状洗浄剤組成物、
(13)さらに(C)アシルイセチオン酸またはその塩及び/または(D)アシルアミノ酸またはその塩(但し、前記(A)のN−アシルアラニンまたはその塩を除く。)を含有する、上記(11)または(12)記載の粉末または顆粒状洗浄剤組成物、及び
(14)上記(11)〜(13)のいずれか一つに記載の粉末または顆粒状洗浄剤組成物を含有する皮膚または毛髪用洗浄剤、に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、一般式(I):

(式中Rは、炭素原子数が8〜22の直鎖または分岐鎖状の飽和または不飽和のアシル基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、有機アミン類または塩基性アミノ酸を示す。)
で表される化合物より選ばれる1種、または、互いに異なる炭素原子数のアシル基を有する2種以上の化合物よりなる固体状物であり、好ましくはそのアシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0以下の固体状物である。
ここで、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)とは、一般式(I)で表される化合物より選ばれるいずれか1種の化合物よりなるN−アシルアラニンまたはその塩(単一化合物)、または、2種以上の化合物よりなるN−アシルアラニンまたはその塩(混合物)における、アシル基鎖長の炭素原子数をX、重量%をFとするとき、下記式(II)によって計算される値である。

式中hは、となり合うアシル基鎖長の炭素原子数の差を示し、本発明においては2であり、UはU=(X−X)/h(式中、Xはアシル基鎖長の炭素原子数の代表値であり、ラウロイル基の炭素原子数12である。)を示し、NはFの総和を示す。
すなわち、本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、α−アラニン(D−アラニン、L−アラニン若しくはDL−アラニンか、または、これらから選ばれる2種以上の混合体。)のアミノ基を脂肪酸によりアシル化したN−アシルアラニンまたはその塩を固体化したものであり、好ましくはアシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0以下のN−アシルアラニンの塩基性アミノ酸塩を固体化したものである。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、例えば、N−アシルアラニンまたはその塩の水溶液、有機溶媒溶液または混合溶媒(水+有機溶媒)溶液から、加熱・減圧等の条件下での溶媒除去操作、或いは、冷却晶析操作等を行うことによって得ることができる。なお、N−アシルアラニンは、通常、脂肪酸クロライドをアラニンのアルカリ溶液に加えることにより合成するが、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0以下のN−アシルアラニンは、その際に使用する脂肪酸クロライドとして脂肪酸鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0以下の脂肪酸クロライドを使用することによって得ることができ、また、このようにして得られたアシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0以下のN−アシルアラニンを塩基で中和することによってアシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0以下のN−アシルアラニン塩が得られる。N−アシルアラニンまたはその塩のアシル基鎖長の分布は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定し、各鎖長のN−アシルアラニンのピーク面積比から計算することができる。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、シャンプー、コンディショニングシャンプー等の各種毛髪洗浄剤、洗顔料(洗顔フォーム、洗顔パウダー等)、メイク落とし、クレンジングクリーム、ボディシャンプー、ハンドソープ、固形石鹸、シェービングフォーム、ひげ剃り用クリーム等の各種皮膚洗浄剤、歯磨き等の洗浄成分として使用でき、洗浄成分濃度が高い、固形石鹸、洗顔フォーム、粉末または顆粒状洗浄剤(洗顔パウダー等)等の洗浄成分として特に好適であり、粉末または顆粒状洗浄剤の洗浄成分としてとりわけ好適である。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、式(I)中のMが水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは有機アミン類からなるN−アシルアラニンまたはN−アシルアラニン塩である場合、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0以下であることが重要である。アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0を超えると、その固体化は容易ではなく、また固体化できたとしても得られた固体状物は吸湿性が高く、保存時に固結したり、水への溶解性が低くなることがあり、さらに固体状物を粉末または顆粒状にした場合、その保存時に吸湿して粉末または顆粒状を維持できなくなったり、水に対する溶解速度が遅いものになってしまうおそれがある。また、このような固体状物を用いて調製される粉末または顆粒状の洗浄剤組成物は、凝集し、泡立ちが遅くなり、泡量、泡保持力も不十分なものになってしまう。よって、本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、式(I)中のMが水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは有機アミン類からなるものである場合、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)は1.7以下であるのがより好ましく、さらに一層好ましくは1.1以下、とりわけ好ましくは0.3以下である。
また、本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩が、式(I)中のMが塩基性アミノ酸からなる塩基性アミノ酸塩である場合、アルカリ金属塩等の他の塩と比較して、粉体の融点が高くなり、その固体化(乾燥)が容易となることから、粉末(顆粒)をより容易にかつ回収率良く取り上げることができる。このため、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が5.0以下であれば、固体化は可能であり、また、得られる固体状物(粉末又は顆粒)は吸湿しにくく、実使用時の水への溶解性を示し、泡立ち、泡量等の洗浄剤の基本性能等も良好なものとなる。このようなアシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が5.0以下のN−アシルアラニンの塩基性アミノ酸塩は、上記と同様に、脂肪酸クロライドとして脂肪酸鎖長分布の標準偏差(σ)が5.0以下の脂肪酸クロライドを使用してアランニンをアシル化し、こうして得られたアシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が5.0以下のN−アシルアラニンを塩基性アミノ酸で中和することによって得られる。
かかる固体状N−アシルアラニンの塩基性アミノ酸塩においては、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)は4.0以下がより好ましく、3.3以下がさらに好ましく、2.7以下がさらに一層好ましく、2.0以下がとりわけ好ましく、1.7以下が特にとりわけ好ましく、1.1以下が最も好ましい。
なお、本発明において、「アシル基鎖長分布」は、カウンターの塩(塩基成分)によりリファインしてより安定的に固体状のアシルアラニン塩が得られる領域を決定することができる。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩における「固体状」とは、N−アシルアラニンまたはその塩が明確な融点を示す物質状態にあることであり、本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、例えば、塩がアルカリ金属塩の場合は75〜95℃の範囲に融点を示し、塩が塩基性アミノ酸塩の場合は200℃以上の融点を示す。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩において、式(I)中のRの炭素原子数は8〜22であることが重要である。すなわち、アシル基鎖長が8未満のN−アシルアラニンまたはその塩を含む場合、起泡性や使用感が低下し、そのような固体状物を洗浄成分とする洗浄剤(特に、粉末または顆粒状洗浄剤)においては、起泡力が低下し、また、きしみ感を生じることから使用感も低下してしまう。一方、アシル基鎖長が22を超えるN−アシルアラニン(塩)を含む場合、起泡性や使用感が低下し、そのような固体状物を洗浄成分として調製される固形洗浄剤(特に、粉末または顆粒状洗浄剤)においては、起泡力が低下し、また、ぬるつき感を生じることから使用感も低下してしまう。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩において、式(I)中のRの炭素原子数は10〜18が好ましく、12〜16が特に好まLい。R(アシル基)の具体例としては、例えば、2−エチルヘキサノイル基、カプリロイル基、カプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、イソステアロイル基、オレオイル基、ベヘノイル基等が挙げられ、中でも、カプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基が好ましい。
また、本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、式(I)で表される化合物から選ばれる互いに異なる炭素原子数のアシル基を有する2種以上の化合物よりなる場合、全体の50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは80重量%以上が特定の一種のN−アシルアラニン(塩)より構成されるのが好ましい。
ここで「特定の一種のN−アシルアラニン(塩)」としては、式(I)中のRがカプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基またはパルミトイル基からなるものが好ましく、ラウロイル基からなるものが特に好ましい。
また、本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、未中和のN−アシルアラニンのみで構成されてもよいが、未中和のN−アシルアラニンと塩とで構成されるか、塩のみで構成されるのが好ましい。未中和のN−アシルアラニンと塩とで構成される場合、中和当量は0.80〜1.10が好ましく、より好ましくは0.85〜1.05、特に好ましくは0.90〜1.00である。また、D−体のみ、L−体のみ、DL−体のみ、またはこれらから選ばれる2種以上の混合物であってもよい。
また、塩である場合の塩基成分(すなわち、式(I)中のM)としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、有機アミン類または塩基性アミノ酸が挙げられるが、アルカリ金属としてはカリウムが好ましく、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム等が好ましく、有機アミンとしてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール等が好ましく、塩基性アミノ酸としては、リジン、オルニチン、アルギニン等が好ましい。製造のしやすさ及び吸湿性の低さから、アルカリ金属塩、塩基性アミノ酸塩が好ましく、カリウム塩、アルギニン塩、リジン塩がより好ましい。また、固体状物の融点が高く、乾燥時に高い回収率が得られることから塩基性アミノ酸塩が好ましく、塩基性アミノ酸塩の中でも臭いが少なく洗顔料等に使用する観点からはアルギニン塩が好ましい。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、固体状であればその形態は特に限定されないが、具体的には、例えば、粉状、顆粒状、フレーク状等が挙げられる。また、本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、長鎖脂肪酸またはその塩を含む固体状N−アシルアラニンまたはその塩であるのが好ましい。ここで「長鎖脂肪酸またはその塩を含む固体状N−アシルアラニンまたはその塩」とは、N−アシルアラニン(塩)と長鎖脂肪酸(塩)とを一旦これらを含む溶液(例えば、水溶液等)に調製し、該溶液からの溶媒除去または晶析操作を経てN−アシルアラニン(塩)と長鎖脂肪酸(塩)との共晶として取り上げた固体状物、或いは、固体状のN−アシルアラニンまたはその塩に固体状の長鎖脂肪酸またはその塩を機械的に混合した固体状の混合物を意味する。本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩はこのような長鎖脂肪酸またはその塩を含む固体状物の形態とすることで、水に対する溶解性がより向上し、また、その固体化の際の作業性、収率が向上する。本発明において、かかる長鎖脂肪酸またはその塩を含む固体状N−アシルアラニンまたはその塩は、N−アシルアラニン(塩)と長鎖脂肪酸(塩)との共晶よりなる固体状物であるのが好ましい。
上記の長鎖脂肪酸またはその塩は、直鎖若しくは分岐鎖状の飽和若しくは不飽和脂肪酸の塩であって、炭素原子数が同一の単一化合物であっても、炭素原子数が異なる化合物の混合物であってもよい。なお、炭素原子数が同一の単一化合物である場合の炭素原子数、炭素原子数が異なる化合物の混合物である場合の平均炭素原子数はいずれも8〜22であり、好ましくは8〜18である。また、塩の塩基成分としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールなどの有機アミン、アンモニア等の無機アミン、リジン、オルニチン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸等を挙げることができ、好ましくはアルカリ金属または塩基性アミノ酸である。
当該長鎖脂肪酸またはその塩の具体例としては、例えば、カプリル酸塩、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ヤシ油脂肪酸、硬化牛脂脂肪酸、パーム油脂肪酸、硬化パーム油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、牛脂脂肪酸、ベヘニン酸、オレイン酸、イソステアリン酸またはこれらの塩が挙げられ、なかでもカプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩が好ましい。
当該長鎖脂肪酸またはその塩は1種を用いても2種以上を併用してもよく、その配合量は特に限定されないが、固体状N−アシルアラニンまたはその塩のその固体化の際の乾燥後の剥離性と該固体状物の水への溶解性の点から、N−アシルアラニンまたはその塩に対して1〜20重量%が好ましく、より好ましくは2〜12重量%、さらに好ましくは3〜10重量%、特に好ましくは5〜10重量%である。長鎖脂肪酸またはその塩の含量が1%より少ない場合、溶解性が低下し、泡立ちを阻害してしまう。また、長鎖脂肪酸またはその塩の含量が20%より多い場合、粉体の吸湿性が高くなり、固結するなどの点で好ましくない。
本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩の水分含量は、特に制限はないが、保存時の固結性や、水に対する溶解性の観点で、8重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは2重量%以下である。
本発明の粉末または顆粒状洗浄剤組成物は、上記本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩(=(A))を少なくとも含有することが特徴であり、それによって、保存時の安定性が良好で、しかも、溶解性及び使用性(感)も良好な粉末または顆粒状洗浄剤組成物を達成し得る。通常、粉末状洗浄剤組成物は洗浄剤(洗浄成分)の他にビルダーとなる無機粉体や有機粉体を少なくとも混合し粉砕することによって調製され、また、顆粒状洗浄剤組成物は、前記の混合粉砕の後に至的適条件で造粒することで調製される。
本発明の粉末または顆粒状洗浄剤組成物においては、実使用時の耐凝集性等の観点から、上記本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩(=(A))に(B)無機または有機粉体をさらに配合した組成物とするのが好ましい。該無機または有機粉体は、水に不溶なものや吸湿性の低いものであれば特に制限されず、例えば、ナイロン粉末、ポリエチレン粉末、ポリメタクリル酸メチル粉末、ポリスチレン粉末、スチレン・アクリル酸の共重合体樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、ポリ4フッ化エチレン粉末、セルロース粉末、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸、ラウロイルリジンなどの有機粉末、トリメチルシルセスキオキサン粉末、シリコーン樹脂粉末、タルク、カオリン、雲母、セリサイト、白雲母、金雲母、合成雲母、紅雲母、リチア雲母、バーミキュライト、硫酸バリウム、シリカ、ゼオライト、焼成硫酸カルシウム、フッ酸アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、窒化ホウ素、二酸化チタン、酸化亜鉛、ベンガラ、チタン酸鉄、微粒子酸化チタン、針状酸化チタン、紡錘状酸化チタン、棒状酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、薄片状酸化亜鉛等の無機粉末等が挙げられる。これらの中でも、ナイロン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、セルロース粉末、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸、ラウロイルリジン、シリコーン樹脂粉末、タルク、シリカ、二酸化チタン、微粒子酸化チタンが好ましい。
該成分(B)の無機または有機粉体は、1種を用いても2種以上を併用してもよい。また、その配合量は特に限定はされないが、組成物全体当たり10〜70重量%が好ましく、より好ましくは20〜50重量%である。B成分の配合量が10重量%より少ない場合は、実使用時の耐凝集性の改善効果が得られ難い。また、B成分の配合量が70重量%より多い場合は、洗浄成分が少なくなり、十分な起泡力が得られず、使用感が低下してしまう。感触や泡量などの使用感を損なわず、耐凝集性等の観点から10〜70重量%が好ましい。
また、本発明の粉末または顆粒状洗浄剤組成物においては、泡保持力等の泡性能の観点から、上記本発明の固体状N−アシルアラニンまたはその塩(=(A))に(C)アシルイセチオン酸またはその塩及び/または(D)アシルアミノ酸またはその塩(但し、前記(A)のN−アシルアラニンまたはその塩を除く。)をさらに配合した組成物とするのが好ましい。
成分(C)アシルイセチオン酸またはその塩は、その全てが塩であっても良いし、全てを未中和の酸の形態で用いてもよく、任意の中和当量に調整したものを用いても良い。アシル基としては、例えば、2−エチルヘキサノイル基、カプリロイル基、カプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、イソステアロイル基、オレオイル基、ベヘノイル基、ココイル基(ヤシ油脂肪酸アシル基)、牛脂脂肪酸アシル基、硬化牛脂脂肪酸アシル基、パーム油脂肪酸アシル基等を挙げることができる。塩としては、ナトリウム、カリウム等の金属塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩等が挙げられる。起泡性の観点から、好適なアシルイセチオン酸またはその塩としては、ヤシ油脂肪酸エチルエステルスルホン酸ナトリウム、ラウリン酸エチルエステルスルホン酸ナトリウム等またはこれらの塩が挙げられる。
該成分(C)のアシルイセチオン酸またはその塩は、1種を用いても2種以上を併用してもよい。また、その配合量は、特に限定されないが、成分(A)に対する重量比(C/A)が1/99〜99/1が好ましく、より好ましくは10/90〜90/10である。かかる重量比を離れて成分(C)が少ない場合、泡保持力が十分に改善されず、また、成分(C)が多い場合、成分(A)による優れた感触(使用感)が十分に発現しにくくなり、好ましくない。すなわち、成分(A)による優れた感触(使用感)を維持しながら、泡保持力等の泡性能を更に改善する観点から、C/Aは1/99〜99/1が好ましい。
また、成分(D)のN−アシルアミノ酸またはその塩(但し、前記(A)のN−アシルアラニンまたはその塩を除く。)は、アシル基が同一の単一化合物よりなるアシルアミノ酸の塩であっても、アシル基が異なる化合物の混合物よりなるアシルアミノ酸の塩であってもよい。また、アミノ酸は特に限定されないが、グルタミン酸、グリシン、スレオニン、ザルコシン、N−メチル−β−アラニン等が好ましい(すなわち、N−アシルグルタミン酸またはその塩、N−アシルグリシンまたはその塩、N−アシルスレオニンまたはその塩、N−アシルザルコシンまたはその塩、N−メチル−β−アラニンまたはその塩等が好ましい)。これらは光学活性体、光学対掌体の任意の混合物またはラセミ体を用いてもよい。また、アシル基は直鎖または分岐鎖状の飽和または不飽和のアシル基であり、例えば、2−エチルヘキサノイル基、カプリロイル基、カプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、イソステアロイル基、オレオイル基、ベヘノイル基、ココイル基(ヤシ油脂肪酸アシル基)、牛脂脂肪酸アシル基、硬化牛脂脂肪酸アシル基、パーム油脂肪酸アシル基等を挙げることができる。当該N−アシルアミノ酸またはその塩が単一化合物である場合のアシル基の炭素原子数は8〜22が好ましく、特に好ましくは10〜18、最も好ましくは12〜16である。また、当該N−アシルアミノ酸またはその塩が混合物である場合の平均炭素原子数は8〜22が好ましく、特に好ましくは10〜18、最も好ましくは12〜16である。アシル基鎖長(アシル基の炭素原子数(平均炭素原子数))が8よりも小さい場合、泡性能の向上効果が得られ難く、また、きしみ感を生じることから使用性(感)も良くない。また、アシル基鎖長(アシル基の炭素原子数(平均炭素原子数))が22よりも大きい場合は、起泡力が低下し、ぬるつき感を生じることから使用性(感)も良くない。
N−アシルアミノ酸塩である場合、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールなどの有機アミン、アンモニア等の無機アミン、リジン、オルニチン、アルギニン等の塩基性アミノ酸等を塩基成分とする塩が挙げられる。泡の伸びや泡保持といった観点からアルカリ金属塩が好ましい。
成分(D)のN−アシルアミノ酸またはその塩(但し、前記(A)のN−アシルアラニンまたはその塩を除く。)は、1種を用いても2種以上を併用してもよい。また、その配合量は、特に制限されないが、成分(A)に対する重量比(D/A)が1/99〜99/1が好ましく、より好ましくは10/90〜90/10である。かかる重量比を離れて成分(D)が少ない場合、泡保持力が十分に改善されず、また、成分(D)が多い場合、十分な起泡力が得られなかったり、ぬめり感やきしみ感等の問題が起りやすくなり、好ましくない。すなわち、成分(A)による優れた感触(使用感)維持しながら、泡保持力等の泡性能を更に改善する観点から、D/Aは1/99〜99/1の範囲が好ましい。
本発明の粉末または顆粒状洗浄剤組成物は、通常皮膚または毛髪用洗浄剤に使用され、かつ粉末状で供給できるものであれば、他の粉末成分を任意に配合することもできる。他の成分とは、例えば、洗浄基材、保湿剤、賦形剤、抗炎症剤、油剤、着色剤、香料などである。
本発明の粉末または顆粒状洗浄剤組成物は、上記各種原料成分を公知の粉末(顆粒)化方法によって粉末または顆粒状とすることによって得ることができる。具体的には、例えば、各種原料成分を混合粉砕し、流動造粒法により造粒・乾燥後、篩い分けをして目的の粉末または顆粒状洗浄剤組成物とする。
本発明の粉末または顆粒状洗浄剤組成物は、シャンプー、コンディショニングシャンプー等の各種毛髪用洗浄剤及び洗顔料、メイク落とし、クレンジングクリーム、ボディシャンプー、ハンドソープ、固形石鹸、シェービングフォーム、ひげ剃り用クリーム等の各種皮膚用洗浄剤の洗浄成分として使用でき、また、歯磨き等にも使用できる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実験1]
【実施例1】
DL−アラニン166.15gに水929.25gを加え、pH10.98〜11.02、反応温度33〜37℃を保持しながら、ラウリン酸クロライド408gと27重量%−NaOH水溶液を攪拌しながら1.5時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、50℃まで昇温し、3時間熟成後、さらに85℃まで昇温し、75重量%硫酸を添加してpHを2.0に調整した。約10分間攪拌したのち、10分間静置したところ有機層と水層とに分層したので、水層約1492gを容器の下部より除去した。残った有機層に熱水1000gを加え、再び85℃とした後、10分攪拌し、10分間静置し、分層した水層904gを除去して有機層を得た。得られた有機層を減圧にて水分を除去し、それをメタノールで再結晶し、N−ラウロイル−DL−アラニンを得た。次に、該N−ラウロイル−DL−アラニンに48%水酸化カリウム水溶液および水を加えて中和し(中和当量0.9)、25重量%N−ラウロイル−DL−アラニンカリウム塩水溶液となるように調整した。得られた25重量%N−ラウロイル−DL−アラニンカリウム塩水溶液を105℃、1時間で乾燥して、得られたものを乳鉢で細かく粉砕し、ラウロイル−DL−アラニンカリウム塩を得た。また、得られたラウロイル−DL−アラニンカリウム塩の鎖長分布を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定し、ピーク面積比からアシル基鎖長分布を得た。
【実施例2】
実施例1で得た、25重量%N−アシルアラニン塩水溶液にラウリン酸カリウムを必要量添加して、その後、105℃、1時間乾燥して、得られたものを乳鉢で細かく粉砕し、ラウリン酸カリウムを含むラウロイル−DL−アラニンカリウム塩を得た。
実施例3〜8、比較例1、2
実施例3〜4、7、8は、実施例1と同様に単一鎖長の酸クロライドを使用して、表1に示すそれぞれのN−アシル−DL−アラニン塩を合成した。また、実施例5はNAA−312クロライド(日本油脂製、商品名)を、実施例6はNAAA−415クロライド(日本油脂製、商品名)を、比較例1は日本油脂製の椰子油脂肪酸の酸クロライドを、比較例2はAkzo製のヤシ油脂肪酸の酸クロライドを使用し、その他は実施例1と同様にして、N−アシル−DL−アラニン塩を合成した。また、実施例4〜8では、実施例2と同様に、N−アシル−DL−アラニン塩水溶液に表1記載の長鎖脂肪酸塩を規定の配合量添加してから、該水溶液の乾燥を行った。
以上調製した実施例1〜8の固体状N−アシル−DL−アラニンカリウム塩のうち、実施例1〜4、7で製造した固体状N−アシル−DL−アラニンカリウム塩につき、融点を測定したところ、それぞれ、90℃、88℃、90℃、83℃、78℃であった。
なお、融点測定は、示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツルメンツ社製 DSC6200)を用いて行った。測定は、25℃から200℃までの範囲を5℃/分の条件で昇温し、吸熱ピークのピークトップ値を融点とした。また200℃までに主たるピークが得られなかった場合は、200℃以上を融点とした。。
次に、以上調製した実施例1〜8及び比較例1、2の固体状N−アシル−DL−アラニンカリウム塩に対し、以下の評価を行った。結果は下記表1に示すとおりである。
1.製造適性の評価(剥離性評価)
25重量%N−アシルアラニン塩水溶液をアルミ製容器に入れ、105℃、1時間乾燥後、室温まで冷却した後の固体状N−アシルアラニン塩の性状について、下記採点表に基づき評価した。
◎:ベタツキ感がなく、容易にかきとれる固体
○:ややベタツキ感があるが、容易にかきとれる固体
△:ベタツキ感があり、ややかきとりに困難を要する固体
×:松脂様の強いベタツキがあり、かきとりが困難を要する固体
2.保存時の吸湿性の評価
日本ベル株式会社製、自動蒸気吸着量測定装置「BELSORP18」を用いて、以下の測定条件で吸湿性を測定した。
[測定条件]
・空気恒温漕温度:50℃
・測定温度:25℃
・MAX吸気圧力:0.9×Ps(※Ps:測定温度時の飽和蒸気圧)
・MIN脱気圧力:0.1×Ps(※Ps:測定温度時の飽和蒸気圧)
・平衡時間:5分
[評価]
湿度70%RHにおける平衡水分量が5%未満の場合を◎、5%以上〜10%未満の場合を○、10%以上〜15%未満の場合を△、15%以上の場合を×とした。
3.保存時の固結性の評価
固結性の評価は、内径40mmの円柱に試料粉末25gを入れ、770gの錘を乗せた後、装置一式をチャック式のビニールに入れて恒温槽(50℃)で24時間保存した。24時間後の粉の状態を目視により観察し、下記採点表に基づき評価した。
×:全体的に固結が認められた
△:粉体の半分以上に固結が認められた
○:ほとんど固結が認められなかった
◎:固結が認められなかった
4.水溶解時の溶解性の評価
溶解性の評価は、評価サンプル0.2gを手のひらにとり、水道水2.0gを加え、指で20回混合した後の状態を目視により評価した。専門パネラー6名により、下記の評価基準により観察を行い、6名の評価点の平均値を算出した。評価基準は、1点以上2点未満を×、2.0点以上2.5点未満を△、2.5点以上3.0点未満を○、3点を◎とした。
1点:大きな凝集物が残る
2点:やや溶け残る
3点:均一に溶解する
5.スプレードライヤーによる粉体回収率評価
実施例1〜8、18〜25及び比較例1〜2記載のN−アシルアラニン塩の30重量%水溶液を調整し、スプレードライヤー(大川原工業製、LT−8型)によって乾燥し、粉体の回収率を求めた。実施例1〜8及び比較例1〜2(カリウム塩)については、入熱温度65℃、実施例18〜25(アルギニン塩及びリジン塩)については、入熱温度140℃の条件で行った。粉体回収率は、乾燥前の水溶液中に存在するN−アシルアラニン塩量を100%として、得られた粉体との重量比から計算して求めた。さらに、得られた回収率を下記採点表に基づき評価した。
◎:70%以上
○:60%以上〜70%未満
△:50%以上〜60%未満
×:50%未満

表1から、N−アシルアラニンカリウム塩は、アシル基鎖長分布の標準偏差が2.0以下において、溶解性、耐固結性に優れた粉体となることが分かる。
【実施例18〜25】
鎖長の異なる酸クロライドを混合して使用した以外は実施例1と同様にしてN−アシルアラニンを得た。さらに、実施例18〜24では、L−アルギニンを用いて表2記載の中和当量になるように中和を行った。また、実施例25ではL−リジンを用いて表2記載の中和当量になるように中和を行った。
実施例18では上記で得られた水溶液を実施例19〜25では表2に記載量の脂肪酸を添加し、それぞれ乾燥を行った。
以上調製した実施例18〜25の固体状N−アシル−DL−アラニンアルギニン塩およびリジン塩のうち、実施例18〜24のものの融点を測定したところ、いずれも200℃以上の融点が認められた。
実施例18〜25の固体状N−アシル−DL−アラニンアルギニン塩およびリジン塩に対し、前記実施例1〜7及び比較例1、2と同様の評価を行った。結果は下記表2に示すとおりである。

表2より、N−アシルアラニンの塩基性アミノ酸塩は、カリウム塩と比較して、粉体の回収率が高く、また、アシル基鎖長分布の標準偏差がカリウム塩のそれよりも広い範囲で粉体化が可能であることが分かる。さらに、塩基性アミノ酸塩の場合は、何れの鎖長分布においても溶解性に優れていることが分かる。
[実験2]
実施例9〜17、26〜27及び比較例3〜6
下記表3に示す処方の各成分(材料)を混合粉砕して粉末状洗浄剤組成物を得、下記の評価試験を行った。
6.保存時の固結性の評価
測定装置、測定条件は前記3.と同じである。
7.溶解性の評価
評価サンプル0.2gを手のひらにとり、水道水2.0gを加え、指で20回混合した後の状態を目視により評価した。専門パネラー6名により、下記の評価基準により観察を行い、6名の評価点の平均値を算出した。評価基準は、1点以上2点未満を×、2.0点以上2.5点未満を△、2.5点以上3.0点未満を○、3点を◎とした。
1点:大きな凝集物が残る
2点:やや溶け残る
3点:均一に溶解する
8.泡立ちの速さ、泡量、泡保持力及び使用後のぬめり感ときしみ感の評価
評価サンプルを用いて洗顔による官能評価を行った。専門パネラー6名により、下記の評価基準により官能評価を行い、6名の評価点の平均値を算出した。評価基準は、1点以上2点未満を×、2点以上3点未満を△、3点以上4点未満を○、4点を◎とした。
・泡立ちの速さ
1点:遅い
2点:やや遅い
3点:やや速い
4点:速い
・泡量
1点:少ない
2点:やや少ない
3点:やや多い
4点:多い
・泡保持力
1点:弱い
2点:やや弱い
3点:やや強い
4点:強い
・使用後のぬめり感
1点:ぬめり感を感じる
2点:ややぬめり感を感じる
3点:ほとんどぬめり感を感じない
4点:ぬめり感を感じない
・使用後のきしみ感
1点:きしみを感じる
2点:ややきしみを感じる
3点:ほとんどきしみを感じない
4点:きしみを感じない

処方例1〜8
下記表4〜表11に示す処方の粉末状洗浄剤組成物を常法に従って作製したところ、いずれも保存時に吸湿して固結することがなく、しかも実使用時においても粉末が凝集せず、さらには泡立ちが早く、泡量、泡保持という洗浄剤の基本性能に優れ、使用時のぬめり性やきしみ性もなく、刺激が少なく安全なものであった。








表4〜11において、表中*1)〜*6)は以下の化合物である。
*1) 「アミソフト」LS−11(味の素(株)製)
*2) 「アミライト」GCS−11(味の素(株)製)
*3) Jordapon CI−P(BASF製)
*4) 「アミホープ」LL(味の素(株)製)
*5) 「アミソフト」MS−11(味の素(株)製)
*6) 「アミソフト」GS−11P(味の素(株)製)
【産業上の利用の可能性】
以上の説明により明らかなように、本発明によれば、固体化が容易で、しかも、低吸湿性及び水に対する溶解性に優れる固体状N−アシルアラニン及び/またはその塩を得ることができ、該固体状N−アシルアラニン及び/またはその塩は種々の形態の洗浄料の洗浄成分として好適に使用することができる。特に該固体状N−アシルアラニン及び/またはその塩を含む粉末または顆粒状洗浄剤組成物においては、吸湿して固結することがなく、実使用時においても粉末が凝集せず、泡立ちが速く、泡量、泡保持という洗浄剤の基本性能に優れ、使用時のぬめり性やきしみ性もなく、さらには刺激が少なく安全であることから、極めて性能の高い皮膚または毛髪用洗浄剤を実現することができる。
本出願は日本で出願された特願2003−129626を基礎としており、それらの内容は本明細書に全て包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):

(式中Rは、炭素原子数が8〜22の直鎖または分岐鎖状の飽和または不飽和のアシル基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、有機アミン類または塩基性アミノ酸を示す。)
で表される化合物より選ばれる1種、または、互いに異なる炭素原子数のアシル基を有する2種以上の化合物よりなる、固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項2】
長鎖脂肪酸またはその塩を含む、請求の範囲第1項記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項3】
一般式(I):

(式中Rは、炭素原子数が8〜22の直鎖または分岐鎖状の飽和または不飽和のアシル基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは、有機アミン類を示す。)
で表される化合物より選ばれる1種、または、互いに異なる炭素原子数のアシル基を有する2種以上の化合物よりなり、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が2.0以下であることを特徴とする、固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項4】
式(I)中のMがアルカリ金属である、請求の範囲第3項記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項5】
アルカリ金属がカリウムである、請求の範囲第4項記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項6】
長鎖脂肪酸またはその塩を含む、請求の範囲第3〜第5項のいずれか一項記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項7】
一般式(I):

(式中Rは、炭素原子数が8〜22の直鎖または分岐鎖状の飽和または不飽和のアシル基を示し、Mは塩基性アミノ酸を示す。)
で表される化合物より選ばれる1種、または、互いに異なる炭素原子数のアシル基を有する2種以上の化合物よりなり、アシル基鎖長分布の標準偏差(σ)が5.0以下であることを特徴とする、固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項8】
長鎖脂肪酸またはその塩を含む、請求の範囲第7項記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項9】
式(I)中Mの塩基性アミノ酸がリジン、アルギニンである、請求の範囲第7項又は第8項記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項10】
粉末または顆粒状洗浄剤用である、請求の範囲第1〜第9項のいずれか一項記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩。
【請求項11】
(A)請求の範囲第1項〜第9項のいずれか一項記載の固体状N−アシルアラニンまたはその塩を少なくとも含有する、粉末または顆粒状洗浄剤組成物。
【請求項12】
さらに(B)無機または有機粉体を含有する、請求の範囲第11項記載の粉末または顆粒状洗浄剤組成物。
【請求項13】
さらに(C)アシルイセチオン酸またはその塩及び/または(D)アシルアミノ酸またはその塩(但し、前記(A)のN−アシルアラニンまたはその塩を除く。)を含有する、請求の範囲第11項または第12項記載の粉末または顆粒状洗浄剤組成物。
【請求項14】
請求の範囲第11〜第13項のいずれか一項記載の粉末または顆粒状洗浄剤組成物を含有する皮膚または毛髪用洗浄剤。

【国際公開番号】WO2004/099121
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505994(P2005−505994)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006114
【国際出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】